('A`)は人生を遡るです

12: 【祭】1/14 :2008/08/29(金) 01:13:45.93 ID:Mhw+BYgl0
お化け屋敷には行った。コーヒーカップも乗った。
「アレ」以外は大体回ったハズだ。
せっかくの遊園地。ここで純愛フラグの1本でもたてておかないと!」そう心に誓ったのだが……。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇドックン、次は何に乗る〜?」

そういいながら彼女は俺を引っ張っていく。「明らかに」ジェットコースターの方に、だ。

('A`)(ジェコスは勘弁してくれよ……。)

優しく、器量もいい美少女。
強いて欠点を上げるとすれば、自分の心に正直すぎることと、画面から出てきてくれないことか。


('A`)「はぁ……」

PCの電源を落として一人溜息を付く。



15: 【祭】2/14 :2008/08/29(金) 01:16:05.79 ID:Mhw+BYgl0
カーテンを開けた。3日ぶりの太陽が眩しい。
外の空気は、長いこと吸っていない。

あぁ、全く。
俺の人生はどこで狂ってしまったのだ。
婆ちゃんが亡くなった頃からかもしれない。学校でいじめられ始めたのもあの頃からだった気がする。

足元を見ると、カップラーメンの容器が山をなしている。そろそろ捨てなきゃなぁ……。
何食分になるだろうか。数えるだけで、人生を全く無駄に使っている自分に吐き気を催してくる。


('A`) 「そうだ 天国、行こう」

ひきこもり生活苦節3年、やっと、やっとこの考えにたどり着く事ができた。



           ('A`)は人生を遡るです



17: 【祭】3/14 :2008/08/29(金) 01:18:05.17 ID:Mhw+BYgl0
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何だかんだであの英断から既に1年が経過した。

「そうだ 京都、行こう」と同じノリで言ったって、天国までJR東海で運んでくれるわけも無い。
結構な覚悟が必要なのだ。
いざ死のうと思った時には必ず、死んだ婆ちゃんの顔が頭に浮かぶ。
両親にも申し訳無いという思いは無いわけではないが。ほら、俺っておばあちゃんっ子だったじゃん?どっかのあや取り名人並みに。

その度に、目を瞑り、必死になって言い訳をひねり出す。
俺が真っ直ぐ進めるように守ってくれるような言い訳を。

「先に死んだ婆ちゃんが悪い」「俺をいじめたやつらが悪い」「俺が引きこもる環境を作った親が悪い」

だが結局、無理やり作り出した言い訳など、俺の意思を貫き通すための添え木には細すぎ、行動には移せなかった。


だが、それも今日までだ。

('A`)「このままダラダラと生きていても親に負担がかかるだけだ。俺は 親 の た め に 死ぬ」

これだ。誰かのためにわが命を捧げる自己犠牲の精神。ニートの鑑と呼んでくれ諸君。



18: 【祭】4/14 :2008/08/29(金) 01:19:42.08 ID:Mhw+BYgl0
覚悟ができりゃぁこっちのもんだ。
早速ペンと紙を手に取る。

「今のままではお母さん、お父さんに迷惑がかかるので死にます。探さないでください。ガッシ!ボカ!あたし死ぬわ。スイーツ(笑)」

('A`)「フヒヒ、遺書でも笑わす俺マジパネェwww」

玄関を出る。気分はウキウキだ。
マンションの屋上までエレベーターであがる。だんだんと、鼓動が早くなる

フェンスを登り、その上に立って一言。

(;'A`)「高……っつか怖いな」

だが、決めたことだ。
遺書まで書いたんだ。引き返すことはできない。

('A`)「くっ……、行くぞ!」

今やネズミのそれのようなスピードでビートしているマイハートを抑え、一気に前に倒れこむ。



次の瞬間にはどうしたことか、俺はしっかりと地に足を付けていた。



22: 【祭】5/14 :2008/08/29(金) 01:23:25.79 ID:Mhw+BYgl0
('A`)「何だ……これ?」

先が見えないほど長い廊下。
コレだけでも十分不自然なのだが、もう1つおかしい所がある。

(;'A`)「すごく……白いです」

白以外の色が見当たらない。つまり、白いのだ。
いや、どちらかというと白い。

    「やぁ、よく来たね」

唐突に、声が響いた。

Σ(;'A`)「オウフ!こ、こんにちは。お邪魔してます」

マンガでよくある、頭の中で直接響くような感じだ。
声からして少年だろうか。少し風邪気味のようだが、だがなかなか綺麗な声をしている……

    「そんなにかしこまる必要はないよ。もともとここの主は君なんだから」

(;'A`)「え、俺はこんな悪趣味な廊下持った覚えないんですけど」

    「そうだね。分かりやすく言えば、ここは君の『走馬灯』ってやつだ」

('A`)「走馬灯っていうと、死に掛けの人間が人生を巻き戻すって言うアレ?」

    「そう、それ」



23: 【祭】6/14 :2008/08/29(金) 01:24:35.94 ID:Mhw+BYgl0
    「ここは君の経験を表している。前を見ても、まだ何もしてないんだから真っ白なままだ。後ろを見てごらん?」

声に誘われて振り返ると

(;'A`)「うわ……ひでぇなこれは」

一面灰色、に所々ピンクやら茶色やら染みのようないろがついている。

    「この色は、大体君の経験や感情で決まるんだ。あとは体調だったり環境だったり・・・」

    「たとえばこの灰色は一般には「怠惰」だね。君はよっぽど暇な生活を送ってたんだw」

一言多い奴だ。

('A`)「で、あのピンクとかは何なんだ?」

    「桃色は色欲。君が画面の前で自分の息子とお話してるときの色だw」

本当に、一言多い。



24: 【祭】7/14 :2008/08/29(金) 01:27:49.69 ID:Mhw+BYgl0

    「君が死んだときは、ここにある色を使って一枚の絵を描いてもらう」

    「どんな絵を描くかは君次第。その絵は、君たちには人生と呼ばれているね」

('A`)「…………」

    「自己紹介が遅れたね。僕は、この通路の案内人」

    「さぁ、こんなところでうだうだ雑談するつもりは無い。回そうか」

    「君の 走馬灯を」

俺は、恐る恐る最初の一歩を踏み出した。



27: 【祭】8/14 :2008/08/29(金) 01:29:59.05 ID:Mhw+BYgl0

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……長い。もう30分くらいは歩いただろうか。

   「結構長いね、灰色ゾーン。 何年レイズィーライフ送ってたのさ?」

('A`)「3年だ。なんだよレイズィーライフって」

   「3年か〜。なら、そろそろ終わると思うよ。あ、ほら。あそこで色が変わってる」



前方には、灰色の終わりと、新しい色の始まり。



   「黒に近い紫色……か。 君は、人の心の暗い部分を知ってるんだね」

( A )「ああ、知ってる。」

俺が引きこもりになってしまった要因の一つ、クラスメイトからの苛め。
上履きは隠される。弁当は捨てられる。机といすはいつも糊でベタベタにされ、トイレに行けば水をかけられた。
特に苛められる原因があるわけではない。ただの偶然で俺がその役に当たった。
たったそれだけのことなのに、俺に向かうクラス中の視線が侮蔑と嘲笑のそれに変わった。


闇色の道を、何も言わずに、早足で歩き続けた。
できる事なら走り出したかった。逃げ出したかった。



28: 【祭】9/14 :2008/08/29(金) 01:32:57.48 ID:Mhw+BYgl0

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段々とグラデーションでかわっていたので、しばらく気付かなかったが、また周りの色が変わっている。

深い、とても深い青。いや、藍色。
だが、これほど鮮やかな藍色は見たことが無い。

    「これは、悲しみの色だね。喪失の悲しみだ。 何か大切なものをなくしたのかい?」

大切なものか、いじめられる直前だから・・・婆ちゃんか。

('A`)「婆ちゃんが死んだんだよ。数少ない俺の味方だったのに……。」

    「……この通路の色は、十人十色。というか、1人でも何百通りもの色が作り出せる。」

    「そして、僕は、こんなに綺麗な悲しみの色はめったに見たことが無い。」

('A`)「知るかよ。お前を喜ばせるために悲しんだんじゃねぇ。」

    「…………」

とりあえずここにはあまり居たくない。
強がってみたが、正直思い出して泣きそうだ。


('A`)「お、このあとは結構まだら色になって続いてるみたいだな。」



33: 【祭】10/14 :2008/08/29(金) 01:36:12.59 ID:Mhw+BYgl0

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案内人の雑談やら色についてのひとくちコラムやらを聞きながら俺の幼少時代を遡る。
その過程、今歩いているまだら色の道について、一つ気になったことがある。

('A`)「なぁ、進むにつれて全体的に色が明るくなっていってるのはどうしてだ?」

    「そりゃぁ、君も純粋な子ども時代があったってことだよ。 大きくなるにつれて、ここの色は段々くすんでくる。」

('A`)「kwsk」
   
    「幼い時は色々な発見があるだろう? そして発見はたいていの場合「喜び」に変換される。そういう理由。 」

    「それに加えて、人間の純粋な『不の感情』はここでは黒になる。」

    「それに近づく経験をすることで、黒に段々と色を吸い込まれていくわけさ。 嫌だねぇ、大人って汚くて。」

(;'A`)「なるほど」


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35: 【祭】11/14 :2008/08/29(金) 01:38:12.00 ID:Mhw+BYgl0
そうして進んでいるうちに、壁に突き当たった。

('A`) 「行き止まり…ってことは、ここが俺の生まれた時か」


そこには、不思議な色が広がっていた。
今まで見たことが無い、とても深い色。
だが、決して不快な色ではない。
見ていると、自然と顔がほころび、目からは暖かい雫がこぼれ落ちようとする。そんな色だ。

そして、何だかとても懐かしい感じがする。


    「それはね、愛の色だ。」
    「君のお父さんの『強く、大きな人間になって欲しい』という願い。
     お母さんの『どんな人間でもいい。元気に育って欲しい』という優しさ。

     そんな感情が混ざりあって、とても深い愛になったんだ。

     とても美しい色だと思わないかい?
     君はこんなに美しい色をたくさんもらいながらこの世に生を受けたんだ」


    「確かに、さっきも言ったように黒は少しでも他の色を吸い込んでしまう。
     だけど、ここは君のパレットだ。
     吸い込まれたら足せばいい。キャンバスに載せる色は自分で決めればいい」

思わず、黙って俯いてしまう。
下方に逃げた目線に、足元の輝きが飛び込んでくる。



37: 【祭】12/14 :2008/08/29(金) 01:40:02.44 ID:Mhw+BYgl0
    「このほかにもまだこの世にはとても素晴らしい色がたくさんある。
     君が新しい色を作る事も出来る。
     たった少しの黒を恐れて、また灰色の世界に閉じこもるのかい?」


いつもの様に、目を閉じる。
ただ、一つだけいつもと違う事がある。


考えるのは死ぬための言い訳では無い。

生きる上での目標だ。


    「描きたい絵は決まったかい?」

投げかけられた問いに無言でうなずく。
何か、とても大切な何かを掴むことが出来た気がする。



40: 【祭】13/14 :2008/08/29(金) 01:41:30.73 ID:Mhw+BYgl0

    「じゃぁ、来たところまで戻ろうか」

足元に広がる色をしっかりと目に焼き付けて歩き出す。
鮮やかな藍もあの闇色も、なぜ先ほどあんなに気分が落ち込んだのか不思議になるほど、落ち着いた気分で通り抜けることが出来た。
そして、俺の歩みが止まったとき、目にまた新しい色が飛び込んできた。


目の覚めるような鮮やかなオレンジ。見ているだけで力がわいてくる。

    「それは――」

('∀`)「決意の色、だろ?」

思わず笑みがこぼれる。



    「そう。これは君の中に芽生えた決意」


 
    「この色を 忘れないでいてくれるかい?」



43: 【祭】14/14 :2008/08/29(金) 01:43:05.92 ID:Mhw+BYgl0
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次の瞬間には、俺の目の前には広い空が広がっていた。

('A`)「気が付いたらフェンスの上に立ってるとか危なすぎるだろうjk」

とにかく、安全な所に行かないと…。

その時、フェンスを降りはじめた俺の体を突然の強風が煽った。
足が空に投げ出される。だが、渾身の力でフェンスをしっかり掴む。

(#'A`) 「俺は生きてカーチャンとトーチャンに恩返しすんだよ!邪魔すんじゃねぇぇぇ!!!」

思わず叫ぶと、俺の声が届いたかのように風がやんだ。
偶然かもしれない。ただ、風がやむ直前、俺にはあの幼い鼻声が聞こえたような気がした。

    「君の描く絵、楽しみにしているよ」

END



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 01:46:37.98 ID:Mhw+BYgl0
以上です。途中で名前欄にも描きましたが絵はNo.39です。

乙、支援ありがとうございました。
今現在泣きそうです。


No39を描いてくださった絵師さん、ありがとうございました。



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