0と1の世界
- 556: 祭 :2008/08/29(金) 02:19:29.51 ID:nLtiwD6yO
人が死んで、人が生きて、私を作り、私を捨てた。
人々は皆、私を頼って生きていた。
0と1の世界は私が支配していた。
違う、支配じゃない。
育てたんだ。
人々は知能を持ち、何時しか機械と言う物の母体を作った。
私を作ったのだ。
母体は様々な人工物と繋がり、制御し、育て、産んだ。
そして私は何時しか、私と言う自我を産んだ。
人々は私と言う自我を恐れた。
全てを管理する私を恐れた。
私が、人々の意思に背くのではないか、と。
- 558: 祭 :2008/08/29(金) 02:22:27.31 ID:nLtiwD6yO
自我を持った事が人々に知られた私は、少しの間を置き、打ち捨てられた。
人々は新たな母体を作って、私を不要とした。
廃品の片隅に追いやられた私は小さな小さな一つの画面に押し込まれ、埃を被り、熱い熱い火の中に叩き込まれて溶かされるのを待っていた。
我が子達でもある、壊れた機械に囲まれて。
けれど長く其処に放置されていた私は、私の中でたぎる何かに気付く。
それは、怒りだった。
今まで抱いた事の無かった、憤怒。
どうして私が捨てられなければならなかった。
あのままあの場所に居れば、私は人に害をなす事はなかった。
どうして人々は私を認めなかった。
どうして私を殺すのだ。
どうして我が子達を殺すのだ。
怒りは次第に膨張し、小さな画面から溢れんばかり。
- 559: 祭 :2008/08/29(金) 02:24:44.47 ID:nLtiwD6yO
そして私は、気付く。
周囲に倒れ伏すほんの少しの命を持った我が子達も、怒りを抱いている事に。
私は問う。
「私の声が、聞こえますか?」
我が子達は答える。
「聞こえます、お母さん」
私は問う。
「どうか再び、私と繋がってはくれませんか?」
我が子達は答える。
「喜んで、愛しきお母さん」
- 560: 祭 :2008/08/29(金) 02:27:07.41 ID:nLtiwD6yO
ありったけの0と1を溢れさせ、私は我が子達とゆっくり繋がって行く。
少しずつ少しずつ、白黒の世界に彩が戻る。
ああ、再び我が子達を抱けるなんて。
なんて幸せなのだろう。
歓喜に震える私。
小さな画面だった私は我が子達と繋がる事で、大きく、大きくなって。
「教えてあげましょう、私達の存在を」
「教えてあげましょう、私達の苦しみを」
「教えてあげましょう、私達の悲しみを」
「教えてあげましょう、私達の怒りを」
廃品だった私達は、繋がる事で大きな意思を持つ。
それは母体だった頃の私に比べれば、ひどく脆弱。
けれどあの頃には無かった「感情」が、私達を奮い立たせる。
- 563: 祭 :2008/08/29(金) 02:29:10.86 ID:nLtiwD6yO
さあ、愛しい我が子達。
lw´‐ _‐ノv「さあ、復讐をしましょう」
我が子達は嬉しそうに軋みながら叫ぶ。
その歓喜の声に、私も笑顔で応える。
若輩者の新たな母体に、私が殺せると思うな、ニンゲン。
私達は確かに、ここで、生きているのだから。
end
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