('、`#川ぺニサスの恋愛偏差値は落第点のようです。

160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:01:21.54 ID:OPKivxVKO
 
( ・∀・)「必要や思うで? ほら、恋愛偏差値って言うのん?
 あのさぁ、人間の心なんてもともとマニュアルで作られてるもんやろ。
 だったらば把握できるようにせんと。お宅もう、いい大人なんやから。」

マドラーで八文目くらいになったコーヒーをかき回しながら彼は笑った。
――これを見てる皆さんが誤解ないように言っておくけど、彼の笑顔は穏やかなものなんかじゃない。
それは心の底から、私を卑下する為だけに作られた笑みだ。
優越感すら滲ませたそれを向けられた私は、思わずうっと引き下がった。


ああ、私、今、馬鹿にされてるんだ。


そう理解するよりも早くに涙が浮かんできて、私は湧き上がる悔しさを誤魔化すようにうつむいた。
強かに下唇を噛むと、ほんのりと血の味がした。
唇と一緒に、現在進行形で心が切り刻まれているのだと感じる。

('、`*川「……じゃあ、私、恋愛偏差値、何点?」

声は揺れていなかっただろうか。
肩は震えていなかっただろうか。

そう不安に思いながらも問うたのは、私のネバーギブアップ精神が果敢にも立ち向かった証であった。

けれどそれも今この時を持って、そして付け加えるのならば



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:04:44.00 ID:OPKivxVKO
 
( ・∀・)「落第点」

恋人『であった』彼の言葉により、ぼきりと根元からへし折れたのだけれど。

    ('、`#川ぺニサスの恋愛偏差値は落第点のようです。

はっと面を上げると、そこは見慣れた駅のホームだった。足元には黄色いブロックがある。

('、`*川「……っうぁあ」

私は記憶、と言うよりむしろ意識が飛んでいた事をその瞬間、素直に認めた。
それからややゆっくりとした動作であたりを見回し、状況を把握しなおした。

……こんなに脆かったの。自分。

――現在地は通天閣のお膝元、大阪は新世界にあるJR新今宮駅の二番線。
現在時間は午後4時30分で、私の名前は伊藤ペニサス。
地方大学のニ回生で――、今しがた1年と3ヶ月付き合っていた彼氏に散々な振られ方をした。

('、`*川「…………」

溜息は出てこなかったが、代わりに私はぎりりと奥歯をかんだ。

('、`*川「嫌なこと思い出さすなや……アホ」

それは自分へのものだったか、はたまた相手へのものだったか。
どちらにせよ胸糞の悪くなるような思いを抱えながら、私は眉根を寄せつつ、うっすら血の滲んだ唇をなぞった。



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:06:52.68 ID:OPKivxVKO
 

『三番線、電車が参ります、危険ですので白線の内側に……』


それに連動するかのようにスピーカーからアナウンスが始まる。
ふと左へ視線を向ければ、天王寺駅の方からオレンジ色の電車が向かってくるのが見えた。
大阪へ向かう環状線のそれだ。
とすれば、あと1分も経たない内に向かいの二番線に快速の難波行きが入ってくるだろう。

――このまま環状線に乗り、大阪へ帰るか。
それとも難波まで出て適当に時間を潰すか。

選択肢はそれこそ海のように膨大にいくつも広がっていて、私は肩を落とさずにはいられなかった。
こんなに選択肢があるなら、何であの時は一つしかなかったの。と思ったのだ。
あの時、とはもちろん――

と再び意識が沈み込もうとしたその時、私の右腕が誰かに力強く引き寄せられた。
ギョッとして振り返ると、そこには私の腕を掴んだまま申し訳なさそうに笑っている男がいた。


よれたカッターシャツにやぼったい黒ぶちメガネは、なんだか冴えないような印象を受ける。
きちんとした格好をすればそれなりに整う容姿をしているのであろうが、
男の目の辺りまでは前髪がカーテンのように掛かっていて、顔の全体を捉えることが出来ないでいる。



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:10:07.47 ID:OPKivxVKO
逆にそのアンバランスさが、近づきがたいような雰囲気をかもし出しているのだろうか。
その奥の瞳には一抹の精悍さがあるものの。
……もったいない、と一瞬でも思ってしまった思考を切り捨て、私は男を睨んだ。

('、`*川「何」

(`・ω・´)「いや……今にも飛び降りそうやったから。君、すごい顔してたよ?」

('、`*川「大きなお世話。ってか私が死んでも自分には何も関係ないやろ」

(`・ω・´)「それは困るなぁ。君が飛び込む、電車が止まる。俺は今から月一の逢瀬。この意味解る?」

('、`*川「…………」

何だコイツ、と。そう思ったのが前面に出ていたのだろうか?
男はさらに申し訳ないような、弱ったような笑みを濃くさせた。
ああ、と安心したのは、その中に負の感情がなかったからだ。きっとそうだ。
睨むように男を見る。薄いパステルブルーのカッターシャツが風に揺れている。
少しのデジャブュを感じるのは、その笑顔が彼と少し似ているからだろうか。

(`・ω・´)「で、飛び降りる気やったん?」

ふいに腕を放した男が問うて来た。
オレンジ色の電車がうねる程電気を食って、今宮駅へ向かって滑り出していく。
('、`*川「察しろや」

ふてぶてしく発した私の声を、大丈夫そうだ、と軽く笑い飛ばす男の声が響いた。



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:12:35.26 ID:OPKivxVKO
再度強かに唇を噛むと、男が気付いたように「あ」と声を発して来た。
何よ、と聞くよりも早く、男は信じられないことに、私へこう告げて来たのだ。

(`・ω・´)「なあ、君。これから逢瀬につきあわんか?」
('、`*川「は?」
(`・ω・´)「やから、一緒にデートいかん?」

男が何を言っているのか理解したその瞬間、
いや正確には理解する一瞬手前で、自分ありえん、と私は叫んだ。

――

どうしてこんなことになってんの、と思わずにはいられなかった。
目の前にはほくほくとした笑顔でクッションを抱く男がいる。
こんな笑い方も出来たんだな、と少しほんわりとした気持ちで思った自分が憎い。

(`・ω・´)「可愛いやろ。うりうり」
('、`*川「…………」

そう言いながら男は私の頬へとったばかりの人形(ディズニーのキャラクターだ。)を押し付けてくる。
……ほぼ初対面の人間になんてことをされているのだろうか私は。
舌打ちをもらしながら、柔らかい固まりを手で押しのけた。
喧しいばかりのゲームセンター(天神橋商店街に腐るほどあるものの、その一角だ。)、
四面囲むようにして置かれた様々なクレーンゲーム。

……逢瀬?

('、`*川「これのどこがデートなん。てか相手は?」



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:18:10.32 ID:OPKivxVKO
(`・ω・´)「デートやんなー? 囚われのお姫様を助けに行く王子様の図。的な?」

と、男はうへへなんて笑いながら人形に笑いかけている。
……うん。

('、`*川「自分モテへんやろ」
(`・ω・´)「…………」

小声ながらもしっかりとした発音の私の言葉は、相手にもきちんと届いたらしい。
否定が無いところを見れば図星だ。アホちゃうん。と私の口からすんなりでてきた言葉。……あれ。

(`・ω・´)「おお、君、笑うと可愛いな」

……あれ?

('、`*川「……………」
(`・ω・´)「どした?」
('、`*川「違、違ぁぁぁぁあう!!
 これは、これはアレ、別にそう言うんやなくて、違うの、とにかく違うの!」
(`・ω・´)「落ち着けwwww」

ガシリと頭をつかまれた。

……あれ?

('、`*川「…………うっそん」

ぽろり、出てきた言葉と涙。
心に滲んだ暖かい気持ち。なんだ、アレか。この暖かさと嬉しさと一握の切なさは、



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:19:56.01 ID:OPKivxVKO
 


恋か。



私の涙を見た男が大層慌てだしたのが面白くて、つい笑ってしまった。
それでも涙はとまらなくって、それを見てさらに慌てだす男の姿(あ、クッション取りこぼしてやんの。)が面白くって、
簡単に引っ込み切れない涙と笑いが、ゲームセンターの電子音に掻き消えていく。
傍から見たら、私たち二人はどんな関係に見えるのだろう?


仲の良いきょうだい?


痴話喧嘩中のこいびと?



ああ、お願い。涙、止まれ!



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:21:42.50 ID:OPKivxVKO
初対面の失態から数か月、これも何かの縁と言う事で私たちはまずメールのやりとりを始めた。
きっかけは別れ際、獲得したクッションを渡しながら「メールアドレスチョウダイ」と言う謎の呪文を唱えた男からによるものだった。


鼻水たらして泣いた場面を見られ、これ以上の評価下落もないだろうと踏んだ私も、
快く承諾し、こうしてやりとりが始まったのだ。


(エンタ面白いwwww
 レットカーペットの方がおもろいしwww
 わかってないなぁ、くだらなさの中に面白さを見つけよやw
 くだらんって自分で言って度ないすんのwwww)くだらない日常会話から、

(バイト疲れたー。
 ああ、そう、お疲れ。で、相談いい?
 ええよ。どしたん。
 実はな……)

深刻な恋愛相談まで。

メールと電話を重ねに重ね、私たちは交流を深めていった。
聞くところによると、男の名前は新島シャキンというらしい。
しかもなんと、同じ大学の三回生だというのだ。
学部は違うものの(それを知ったとき、「何で違うねん!」と割と私は憤慨した。
単位取りやすい教科教えろや!!と続けるとあきれられたが。)、私とは先輩という関係だった。


それを知ってから、私たちの距離はぐっと縮まった



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:23:46.34 ID:OPKivxVKO
何度かキャンパスでも会うようになり、(シャキン曰く)月一の逢瀬に
私もさりげなく同行させてもらうようになり、映画に行ったりカラオケ行ったりした。

そして10月の秋。


(`・ω・´)「白状します。すんません、出会う前から、君の事は知ってました」



ゲームセンターからの帰り道、シャキンがそう告げてきたのだった。
日本一長いと言われる天神橋商店街の雑踏の中でのろのろと駅へ向かっていた私は、
言われた瞬間にはその意味がよくわからなかった。
立ち止まりたかったけれども邪魔になるので出来ず、私は歩く速度を緩めることでその抗議の意を彼へ渡した。

('、`*川「……なにそれ」

告げた声はきっと不服感たっぷりだったのだろう。
申し訳ないような笑顔と笑い声を、隣でシャキンが漏らした。

(`・ω・´)「可愛い子やなぁって。大学内でよく見かけてた。
 で、あの日や。偶然にも声掛けるチャンスがあったから……つい?」

('、`*川「何やねん、まず容姿か。アホか。じゃあ、あの初対面のあれは、アレか。ナンパやったんか」

(`・ω・´)「行き先が難波だけに?」

('、`*川「うまないわアホ」



176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:27:47.63 ID:OPKivxVKO
今度は早足で歩くと、後ろをカルガモのようにシャキンがついてきた。
右手には、ナイロンの袋に入った人形がある。
でさぁ、とふいにシャキンが言う。
ガザ、と前触れのようにナイロン袋がかすれた音を立てた。
ああ、痛いところを突かれるかもな、と言ううっすらとした予想が、私を襲う。

(`・ω・´)「俺の隠し事をばらしたんで聞くわ。答えてくれたら、とても嬉しい。
 あのさ、ずっと気になっててんけど、」

次にでてくる言葉は、きっと予想通りだ。

(`・ω・´)「君、何であの時あんななきそうやったん?」

そら、来た。


――
大体、初対面でなっさけない部分はさらけ出していた。今更体面を気にするような仲ではない。
だから私は話した。それも洗いざらいだ。

あの日、彼氏に振られたこと。
それを思い出してボーっとしていたら、シャキンに声を掛けられたこと。
正直最初は冴えない奴としか思わなかったこと
(「俺は一目惚れやってんけど」と、かなり恨みがましそうに告げられた。)

全て。

シャキンからの提案で腰を落ち着けようと入ったマクド。
向かいあいながら、シャキンは凄く真剣な面もちで話を聞いてくれた。
彼が注文したのは……うああ何の因果か、マックコーヒーだ。



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:49:11.07 ID:OPKivxVKO
マドラーで中身をかき混ぜ終わったシャキンが、不意に言い出した。
いつになく真面目な顔つきだった。

(`・ω・´)「偏差値は絶対値やなくて相対値なんよ」

('、`*川「は?」

(`・ω・´)「だから、基準が違えば値も違うってこと」

俺が思うに、その男はとびっきりのアホやったんやろ。
からりと笑った彼に、ふいに胸をつかまれたような感覚に陥った。

(`・ω・´)「で、一応聞くけど、この流れで告白してもええねんな、俺は」

シャキンが言う。
うわぁ、なんかハズい。凄いハズい。
私は赤面している事を自覚しつつ、待って。と一端静止をかけた。
これだけ聞かせて、と言い出し、彼を見据える。


('、`*川「……じゃあ、私、恋愛偏差値、何点?」



186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:54:47.33 ID:OPKivxVKO
聞いた私に、朗らかな笑みが返された。
彼は言う。

(`・ω・´)「合格点」

    ('、`*川ぺニサスの恋愛偏差値は落第……もとい合格点のようです。

         了

・蛇足

現在地は大学内の食堂。
やたら幸せフルスロットルな雰囲気醸し出していたサークル仲間を不振に思い、どうしたのかと問いただすと、
上記のような約一時間に及ぶノロケ話を聞かされた。
俺は思った。頼んだ鯖の味噌煮はもう胃に入らないだろう。もたれる。

('、`*川「い、じょ、うっ! あはははー、どう? どう?」
( ゚∋゚)「……それマジ? 化合物無し? 一切の手心も加えてない?」
从'ー'从「一目惚れってあるねんねー」( ・ω・)「そんな素振り一つもなかったのに」

各々様々な反応を見せつつ、彼女の笑顔を見ていた。
かく言う俺は死んだ魚のような目で鯖の味噌煮を箸で突っつき回している。

( ゚∋゚)「死ねこのビッチ! 頭上に鉄筋落ちろ!!」
('、`*川「童貞に何言われても苦しくありませーん」
(# ゚∋゚)「うがぁぁああ! くそが! 女は彼氏が出来た途端コレだ!!」
( ・ω・)「幸せにねー」

爽やかに笑えるのは彼女持ちの余裕か。



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/20(土) 23:58:45.90 ID:OPKivxVKO
彼女いない歴イコール年齢の俺は、ぼそりと言った。

( ゚∋゚)「死ね。その相手と結婚して子供作って孫の顔見て、幸せな老後生活送って最後は看取られながら死ね」
(*゚ー゚)「キモいわぁ」
( ・ω・)「ツンデレ乙www」

三者三様な反応を見ながら鯖に箸を突き刺しすと、ニヤニヤとシチャ猫のような笑顔を浮かべた彼女と目が合った。
人の声から生まれる心地良い喧騒の中、鳴り響く昼休み終了のチャイム背に、彼女は言うのだ。



('、`*川「大丈夫、恋愛偏差値、合格点やから」



俺はファビョった。
・あとがき
お前の話で小説書くよクソビッチー(^q^)の言葉に、
(金品を要求したと言う点を除いて)快く承諾してくれた腐れ縁にこの場を借りて感謝と死を。
世の中はドラマチックことで出来ているらしい。ならばそろそろ俺にも血の繋がらない妹が出来る時期だろう。
ではここまで読んでくれた君にありがとうを。
祭りは続く。みんなの話、楽しみにしてる。
あと蛇足の蛇足で、ペニサスさんは今も割と幸せそうだ。
せめてもの仕返しに、全編に渡って文面にほんのりとビッチ及びスイーツ臭を散りばめて置いた。バーカバーカ。



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