('A`)素直になれないようです
- 222: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 00:51:41.55 ID:mPUA3av/0
- 小学1年生のころ、しぃとは出会った。
普通の見た目で、とても複雑な事情を持った女の子だった。
彼女は、ひたすらに頭が悪かった。
なぜだかは、今でも本当のところはよくわからない。
ただ、推測としてしぃの家庭環境の悪さが、この年になると思い当たる。
一度だけ、しぃの家に遊びに行ったことがあった。
それなりに広いが、酷く汚いアパート。
洗濯物が散らばり、汚れた食器が積み重なった台所。
そこら中にあるゴミ。そして、下着姿で寝転がっている彼女の母が居た。
当時は、何も分からない子供だった。
だから、「家が汚いんだなあ」と思ったし、それをしぃにもそのまま伝えた。
「そうなんだよね」と言って、俯いて少し哀しい表情をしていたことは、覚えている。
少し時が経って、普通の小学生が掛け算を覚えるころ。
絶望的に頭が悪いしぃは、まだ足し算すら出来なかった。
- 224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/21(日) 00:52:54.17 ID:DKBAdC+QO
- たしか小学のころ、スポーツカーに乗った男に
「ぼうや、いるか」
って赤い箱を渡されそうになった作家がいたな。
結局いらねぇって断ったらしいが、受け取っていたら別の物語が始まってたのかもな。
お前の場合は、もしあの道に行かなかったら、か。
どちらにしてもイフの話でしかないが、楽しめた。
- 225: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 00:53:57.28 ID:mPUA3av/0
('A`)素直になれないようです
- 227: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 00:54:59.66 ID:mPUA3av/0
- ('A`)「5+3は?」
(;*゚ー゚)「えーっと…えーっと…」
('A`)「…1+1はわかるよな?」
(*゚ー゚)「2でしょ!? 覚えたもんね!」
('A`;)「覚えたとかじゃダメだろ…やり方を分かろうよ…」
(*゚ー゚)「うー…」
('A`)「…今日遊べるんだったら、家に来ない?算数、教えてやるよ」
(*゚ー゚)「本当?」
('A`)「うん。算数なんて、カンタンだぜ」
(*゚ー゚)「ありがとう!」
('A`*)(フヒヒ…)
- 228: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 00:57:31.63 ID:mPUA3av/0
- 少し、説明を入れる。
当時、某少年誌に脱衣麻雀をする描写の入った漫画があった。
それにより、俺は、エロに目覚めた。
('A`*)(脱がせよう。なんとかして脱がせよう)
今考えると、とんでもないエロガキである。
まあ、そんなことを考えながら、家に着いた。
俺の部屋は内側から鍵を閉めることができた。
なんとなくだったが、「スケベなことは悪いこと」と思っていたので、
カギを閉め、さてどうやって脱がせるべきか、と悩んだ。
しかして、脱衣麻雀の知識しかなかった俺には、
('A`)「何か勝負を仕掛けて勝てばいいんだ!」
という思考しかできなかった。
('A`)「ね、ねえ」
(*゚ー゚)「?」
('A`)「じゃんけん、しよう」
(*゚ー゚)「? うん」
負けた。
脱ぐべきなのか?とも思ったが、まだ何も言っていない。セーフだ。
- 230: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:00:22.31 ID:mPUA3av/0
- ('A`)「…もう1回!」
(*゚ー゚)「いいよー」
2回目にして、ようやく勝つことができた。
('A`)「勝った。はい、脱いで」
(*゚ー゚)「え?」
('A`*)「脱衣ジャンケン、でしょ」
(;*゚ー゚)「え…」
('A`;)「…」
そのとき、世界が5秒くらい止まった。
ああ、なんだろう、なんなんだろう俺は何を言っているんだろうと、
すごく混乱していたのはよく覚えている。
何とか取り繕おうと頭をフル回転していると、しぃが喋った。
- 231: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:03:16.22 ID:mPUA3av/0
(*゚ー゚)「…いいよ」
('A`)「…え?」
(*゚ー゚)「ドクオくんなら、いい」
しぃは、着ていたTシャツを脱いだ。
- 233: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:08:10.40 ID:mPUA3av/0
- 今だったら、落ち着き払っていることを装ったり、
あるいは気の利いた言葉も言ったりすることができるだろう。
しかし、小学校低学年のチキン野郎である。
なので、脱げと言った張本人は、何もできずただ慌てた。
('A`;)「わー! バカ! バカ! やめろ!」
(*゚ー゚)「いいってば。ね?」
('A`;)「見たくない! お前の裸とか見たくないから! な!?」
(*゚ー゚)「…わかった」
少ししょげた顔をして、しぃは服を着た。
しぃが傷ついたことは、なんとなくわかった。
それ以来しぃとは少し気まずくなった。
- 235: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:12:40.77 ID:mPUA3av/0
- また時は流れる。
家庭の事情で、俺は小学3年の1年間を別の学校で過ごした。
4年生になって、元々通っていた小学校に戻って来たころ、
しぃは、いじめられっ子になっていた。
相変わらず、足し算すら出来ない彼女は、
いじめの格好の的だったのだろう。
俺も、しぃとは疎遠になった。
仲良くしていじめられるのが、怖かったのだ。
- 239: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:14:38.87 ID:mPUA3av/0
- その日、俺は掃除当番だった。
放課後、手洗い場を亀の子タワシでゴシゴシと洗っていると、後ろからしぃが話しかけてきた。
(*゚ー゚)「久しぶり」
('A`)「…おう」
しぃのことを見れなかった。
罪悪感もあったが、それと同じくらい、友達に見られることが怖かった。
彼女は、たくさんたくさん話をしてきた。
最近あったこと。本のこと。算数のこと。
俺はそれに、素っ気無い相槌を打つだけしかしなかった。
(*゚ー゚)「――ねえ、私のこと、好きかな?」
('A`)「…さあ」
(*゚ー゚)「…」
('A`)「…」
(*゚ー゚)「私は、ドクオくんのことが好きだよ」
- 241: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:17:53.72 ID:mPUA3av/0
- 聞きたくなかった。
聞いて、返事をするのが怖かった。
でも、嫌いだとも言いたくなかった。
('A`)「……何か、言った?」
だから――聞こえていなかったフリをした。
(*゚ー゚)「なんでも、ないよ」
そう言うと、しぃはどこかに歩いていった。
俺は、とっくに綺麗になっていた手洗い場を離れることができなかった。
- 242: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:22:55.72 ID:mPUA3av/0
- 小学校4年の9月。
この頃になると、しぃのイジメも沈静化していた。
嫌うというよりは、事実頭の悪いしぃと話が合う者はいなかったので、
結果的にシカトのような形となった。
俺は手洗い場の一件以来、しぃと話すことができなかった。
そんな中で、急な情報が入ってきた。
来年の3月に、クラスから2人の女の子が転校するのだ、と。
そのうちの1人は、しぃだった。
簡単に時は過ぎて、あと1か月ほどでしぃが転校する時季となった。
誰が提案したのかは分からないが、
最後に写真を撮ろう、ということになった。
- 244: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:26:33.14 ID:mPUA3av/0
- ξ゚听)ξ「写真なんていいわよ。どうせ先生が撮るんだろうし」
(,,゚Д゚) 「そうそう! だからさ、好きな男子と撮ればいいじゃん!」
ξ゚听)ξ「は、はあ!?」
(,,゚Д゚) 「ツンは内藤だろ!? さあ撮れ! やれ撮れ!」
ξ///)ξ「べ、別にそんなんじゃ…」
( ^ω^)「ツン。撮ろうお」
ξ///)ξ「…うん」
そうして、ツンと内藤が撮ったあと。
しぃの番になった。
- 246: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:27:57.01 ID:mPUA3av/0
- ( ・∀・) 「しぃはドクオだよな」
('A`)(あの野郎…余計なことを)
(,,゚Д゚) 「おう! そうだな! さあ撮れ!」
('A`;)「いいよ!」
( ・∀・)「撮ればいいじゃん!」
('A`;)「嫌だっつの! 嫌だ! 絶対嫌だ!」
俺は走って教室から逃げだした。
その時のしぃの表情は覚えていない。
その日は一日中、上手く言えない後ろめたさがあった。
結局、しぃと写真を撮ることはなく、そのまましぃが転校するまで話すことはなかった。
その後、俺は私立中学に進学した。
地理的に中学の近辺に塾が無かったので、
小学校から継続して、同じ塾に進んだ。
そこには、小学校は違ったけど、俺の学区域の中学に進んだ友達がいた。
- 248: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:32:56.67 ID:mPUA3av/0
- 从 ゚∀从「ドクオ、お疲れ」
('A`)「おうよ。中学英語っつーのは簡単だねえ」
从 ゚∀从「流石私立中学生は違いますね」
('A`;)「偏差値50切るバカ私立だっつの」
从 ゚∀从「私立は私立だろ…っつーかお前の小学校で転校した女子いたろ?」
('A`)「…ああ、うん。いたね」
从 ゚∀从「ソレがさー、今戻って来てるんだよね」
('A`)「…え? しぃが、戻って来てるの?」
从 ゚∀从「しぃ…ああ、うん。そいつ。宮下な」
('A`)「…宮下?」
- 249: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:38:03.88 ID:mPUA3av/0
俺の記憶しているしぃの苗字とは、違っていた。
離婚したのか再婚したのか、それは知らない。
ただ、友達に聞くと、しぃはやっぱり頭が悪くて、
周りと話が合わないことから友達がいないそうだ。
俺は何の気無しに話す友達に、へえ、と適当に相槌を打った。
いつの日か、しばらく経って。
コンビニに行く途中で、制服姿のしぃを見かけた。
- 250: ('A`)素直になれないようです :2008/09/21(日) 01:43:27.51 ID:mPUA3av/0
- 俯いて、とぼとぼと歩いていた。
何度か見たことのある、少し落ち込んだ表情だった。
('A`)「……」
話しかけなければいけない。
そうしなかったら、きっと後悔する
これがラストチャンス。
いくらそう思っても、俺はそれに声をかけることできず、
ただしぃの姿を眺めていた。
しぃの姿が見えなくなったあと、そのままコンビニに行った。
噂によると、しぃは高校に行くことができなかったらしい。
それ以降の消息は誰も知らなかった。
でも、それさえもただの噂であり、
何でしぃの頭が悪かったのかとか、
しぃの家の事情が本当はどうだったのかとかは、わからない。
子供の頃の記憶に今の知識を当て嵌めているだけだから。
ただ、今でもしぃの家だった辺りを通るとき、
真剣に足し算を考えるしぃの顔が思い浮かんで、少し胸が痛む。
それだけの、話である。
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