('A`)臆病で自分勝手な人間のようです

841: ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです :2008/09/22(月) 16:22:43.52 ID:hSGtCPOh0

最初に彼女と会ったのはいつだろうか。
思い起こせる最古の記憶ですら、既に彼女が隣に居た。
幼稚園では、いつも一緒に行動していた。
自由時間には手をつないで、園の建物の中を探検してまわった。
彼女が居るからと、音楽教室に通わせてもらったりもした。
彼女がやめてしまった途端にやる気が無くなって、結局俺も途中で投げ出しちゃったけど。

 「小さい頃」というと、必ず彼女の影が付いてまわる。

だから、忘れてしまいたい。
だけど、忘れることなんて出来ない。
古い勉強机の引き出しの中に、一枚の手紙が入っているから。



     ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです



843: ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです :2008/09/22(月) 16:27:31.98 ID:hSGtCPOh0

5歳くらいの時の記憶だろうか。
彼女と手をつないで、部屋の壁に向かって立っていた。
そこに貼ってあるのは、お絵かきの時間にみんなで描いた絵。
俺の絵と彼女の絵が並んで貼ってあって、何だか妙に嬉しかった。

*(‘‘)*「となりどうしだ。わたしたち、ラブラブだね」

(*'∀`)「うん!」

隣同士の何がラブラブだったのやら、今考えてみると物凄く恥ずかしい。
でも当時は一事が万事この調子で、周囲の大人たちも微笑ましく思っていただろう。
とは言え本人たちは本気で言っているのであり、恋愛という概念は無かっただろうが
好きあっていたこととそれをお互いが分かっていたことは確かだ。

*(‘‘)*「ねえねえドッくん、おおきくなったらケッコンしようね」

(*'∀`)「うん、する! ケッコンする!」

*(‘‘)*「じゃあ、ゆびきりしよう」

( '∀`)「わかった!」


   『ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます ゆびきった!』



844: ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです :2008/09/22(月) 16:31:37.04 ID:hSGtCPOh0

家から少し離れた幼稚園に通っていたから、同じ小学校に入学した知り合いは3人だけだった。
彼女を除いた二人とはあまり親しくなかったこともあって、小学生になっても彼女と遊ぶつもりだった。
だけど、彼女と同じクラスにはなれなかった。
幼稚園に居た頃は、離れたことは無かった。
それが当たり前ではなく幸運だったのだと、やっと分かった。
それでも幼稚園以来の家族ぐるみの付き合いもあって、その頃はまだ休みの日に二家族で遊ぶことも多かった。
だからショックは少なかった。

ショックを受けたのは、二年生の冬。
毎日学校に通っていたはずなのに異変には気付けず、それを知ったのは母親からだった。

J( 'ー`)し「ヘリカルちゃん、学校に行けなくなったみたいねえ」

( '∀`)「……え?」

J( 'ー`)し「あら、知らなかったの? 秋頃かららしいわよ。
      学校に行くのがつらいって」

ここからは母親を通して聞いた話になる。
彼女は活発な性格をしていたこともあり、一年生の頃は男子に混じって遊んだりしていたそうだ。
しかしそれが、《大人びた》女子たちは気に入らなかったらしい。
二年生になる頃から、いじめられていたというのだ。
さらにそのうち、遅れて男子たちにも性別による区別が生まれてきてしまった。
一緒に遊ぶことを拒否され、彼女はいよいよ一人ぼっちになってしまったのだ。

もしこの時にもう一度彼女との付き合いを深めようとしていたなら、違う結果が待っていたのかもしれない。
だが俺自身にも、話に聞いた彼らと同じように性別による区別が生まれていた。
つまり、「女子と遊ぶのはカッコわるい」と。
話を聞いたもののどうするということもなく、何事も無かったかのように日常に戻ってしまった。



845: ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです :2008/09/22(月) 16:35:51.17 ID:hSGtCPOh0

次に彼女を強く意識したのは、五年生の夏だった。
もはや年賀状くらいしかつながりの無かった彼女から、一通の手紙が送られてきたのだ。

『ドクオ君へ

いきなりこんな手紙出しちゃってゴメンね。
手紙かくのってひさしぶりだから字が汚いけど読んでください。

実は小学校低学年くらいからドクオ君のことが好きでした。
恥ずかしくて言えなかったけどね。
この手紙も迷惑にならないかって悩んだんだけど、どうしても言いたくって。
迷惑だったらゴメン。
でも、この気持ちは本物です。
付き合ってください。

お返事待ってます。

                 ヘリカル』

('A`)「……ああ、何で…………」

何で、そこまで想ってくれてるんだろう。
君が学校に来れなくなってから、俺は何をした?
この三年間で君を見たのは、学校でほんの数回だけ。
しかも周りに混じって、物珍しげに眺めてただけだ。
話しかけようとすらしなかった。
君は勇気を振り絞って出てきているというのに。



847: ('A`)臆病で自分勝手な人間のようです :2008/09/22(月) 16:40:00.31 ID:hSGtCPOh0

君の記憶の中では、俺は素晴らしい人間なのかもしれない。
万能で格好良い憧れるような男の子なのかもしれない。
だけど違うんだ。
俺はひたすらに臆病で、自分勝手な人間なんだ。
こんな時にまで、「答える資格が無い」と言い訳したがるような。
資格じゃなくて、度胸が無いだけのくせに。

臆病で自分勝手な俺は、彼女の精一杯の告白に臆病で自分勝手な答えを返した。
返事の手紙に何て書いたかはほとんど覚えていない。
でも正直な気持ちじゃなくて、言い訳だけを並び立てたのは覚えている。
本当にどこまでも、臆病で自分勝手だった。

それからも年に一回くらい、近所で彼女を見かける。
かつて明るく笑っていた顔は、ひたすら俯いて地面だけを見つめていた。
もちろん、見かけても話しかけたことなんか一度も無い。
いつかと同じように、遠くから眺めているだけだ。

数ヶ月前に彼女を見た時、左手首にリストバンドを着けているのに気が付いた。
勝手に深読みして同情している自分に気付いて、吐き気がするほど嫌になった。

俺は今でも、臆病で自分勝手なままだ。



848: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/22(月) 16:42:16.36 ID:hSGtCPOh0
以上です

>>842
>>846
ありがとう
全俺が泣いた


書いてる間に思い出しすぎちゃって当時の気分に浸ってしまいました
話が進むにつれて鬱になる鬱になる
もちょっと明るい終わり方にする予定だったんだけどなあ
3時間くらいで書き上げたから変なところがあるかもしんないけど、ご勘弁を
推敲すればいいんだろうけど、もう読み返したくない



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