弟とスープのようです

891: 弟とスープのようです :2008/09/22(月) 20:38:40.37 ID:jjsXrJam0
では、自分の中3の冬のことをば。




 うちは元々5人兄弟の7人家族だった。

 …でまあ色々あって、(詳細は話に関係ないので省かせて頂く)当時兄弟の関係としてしっかり認識で

きたのは、四つ下の弟だけだった。

 元々兄弟の人数が多かったせいか、はたまた色々と家庭の問題があったせいか、周りの知人とか

の兄弟に比べると自分たち二人は断然仲が良かった。

 それは自分が中三の冬、高校受験間近になっても変わることがなかった。



 ゴンゴン、と部屋のドアを叩く音がして、

(゚、゚トソン「どした」
( ゚д゚ )「スープいる?」



892: 弟とスープのようです :2008/09/22(月) 20:40:38.23 ID:jjsXrJam0

 ドアから顔を覗かせた弟はそう言った。


(゚、゚トソン「スープ…?スープの素なんてあったっけ?」
( ゚д゚ )「ない。でも作った」
(゚、゚トソン「はぁ?あんたが?」

 自分が問うと、弟はうんと頷いた。なんのこっちゃと思った。
 スープの素もなしにスープを作るなんてのは、当時の自分にしてもめちゃくちゃめんどくさいことで、ぶ

っちゃけて言うとしたことがなかった。だから、まともな料理を作ったはずがない小5の男の子がそうい

うことを言うのが信じられない。

 ―――だけど、ヤツはやった。


( ゚д゚ )「はい」


 そう言って差し出されたのは丼。お椀ではなく、丼。



893: 弟とスープのようです :2008/09/22(月) 20:43:29.89 ID:jjsXrJam0

(゚、゚;トソン「マジで作ったんか…」


 それなりに料理はできると自負してた自分は、些かショックを受けた。
 目の前のその液体はちゃんと透き通っているし、無害そうに見える。ねぎと思しき緑の細かいのも、

彩りがあっていいんじゃないかと思った。ストーブも付けない自分の部屋にそれのもうもうと湯気が上

がっていたのは、忘れがたい光景だった。

 まさかコンロ水浸しにしてないだろうな、とか、へんなもんつっこんでないだろうな、とかそういうことば

かりが頭を過ぎったけど、取りあえず自分はその丼を受け取った。

 それでも弟はまだドアのところに突っ立って、

( ゚д゚ )

こんな感じでこちらを見ている。自作の料理を他人に食わせるんだから、どうも食すところを見届けよう

としているらしい。自分はほんの少し警戒しながら、蓮華で救った液体を口に含んだ。


(゚、゚;トソン「…辛っ 辛いぞ」


 すっかり忘れていた。弟は大の胡椒好きなのだった。インスタントラーメンにGABANのあらびき黒胡

椒をどばどばかけるようなヤツの作る料理が、薄味なはずがなかった。



894: 弟とスープのようです :2008/09/22(月) 20:46:57.64 ID:jjsXrJam0
(゚、゚;トソン「ハフッハフッ辛…」

( ゚д゚ )

(゚、゚;トソン「辛…いけど、いや、いける!」
( ゚д゚ )「そう?」
d(゚、゚;トソン「そう、いける」


 別に、全てお世辞というわけでもなかった。…確かにスープは辛かった。部屋の寒さも気にならないくらい辛かった。
 だけどそのほかの味はしょっぱすぎもしなかったし、薄すぎもしなかった。浮かんでるねぎもいい火加減だった。


(゚、゚トソン「…おいしい、これ」


 何故か、昔父親の作ったポトフや、上の兄が作ってくれたぶっこみシチューの味が思い出された。
 この家の男は料理が得意なのかもしれない。特に煮込み系統。



897: 弟とスープのようです :2008/09/22(月) 20:55:07.07 ID:jjsXrJam0

( ゚д゚ )「おかわりいる?」
(゚、゚トソン「んー…うん、ありがと」


 丼を渡すと、すぐに軽やかに階段を下りる音が聞こえた。ご機嫌そうな足音に、なんだか自分も嬉しくなったような気がした。



 あの時目がひりひりしたのは、弟の成長をいたく感じたせいか、はたまた古きよき日を思い出したせ

いか―――――――十中八九、多すぎる胡椒のせいだったと思ってる。



以上で終わります。



戻る