( ^ω^)ブーンが宇宙艦隊を指揮するようです

  
2: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:18:07.95 ID:eWKdpoFC0
  

第一話「故郷」

「本船はまもなく通常空間へ離脱します。
少々揺れる場合が御座いますので乗客の皆様はシートベルトをご着用ください」

そんなアナウンスがあってから1分ほど経ったろうか、僅かな揺れの後に
ブーンこと内藤ホライズンの乗るGSW1129便は、所謂超空間とかワープフィールドとか呼ばれるソレを抜けた。

今までの正しく何も無い漆黒の空間から幾万の星の海の中へ。
舷窓に近づき少し外を見渡せば、幾つもの燐光を放ちつつ動く星のようなものが視認できる。
船の速度と対象までの距離から考えて、星々が動いて見える事はありえない。
宙を翔ける船、人類にとって最も身近な乗り物、航宙船である。

その光景は恐らく多くの人間が幻想的であると感じるだろう。

( ´ω`)「太陽星系、8年ぶりだお…」

彼は舷側一杯に広がる青い惑星を見やって感慨深げにそう呟いた。

航宙法第2項:
一部の例外を除き星系へ出入りする航宙船が跳躍を行う場合は
その星系の再外縁の惑星公転軌道よりも『外』側で行わなければならない

今や大抵の人間なら知っているこの文言に基づき、
丁度海王星の至近に出現した流線型の白い船体は、他の船に紛れてバイパスを進む。



  
3: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:18:30.53 ID:eWKdpoFC0
  

( ´ω`)(ドクオは元気にしてるかお? 乗組員はどんな人達なのかお…)

( ^ω^)(ドクオの配属先も太陽系駐留艦隊…もしかしたら同じ戦隊になるかも知れないお)

生まれた星も同じ、通った教育施設も同じ。
その後の行き着く先も同じ軍であったが過程の違いにより一時的に離れざるを得なくなった親友と、
これからある程度の期間生死を共にする事となる人々に思いを馳せる。

彼が思考を飛ばしている間にも船は確実に目的地に向けて歩みを進めている。
目指すは星系首星・地球。

これだけ見ると非常に簡潔で宜しいが正式に言えば結構長い。
その名も『第1超銀河団外縁局部銀河群銀河系太陽星系首星地球』である。
公式の場では毎度毎度これを言っているのだからさぞかし苦労する事だろう。

太陽星系は言っちゃなんだが首星からの位置的に考えれば結構辺境に当たるだろう。
だがそんな事は跳躍によって距離的制約がほぼゼロの現在では、些細な問題だった。
星系総人口は280億を数え、銀河系全体から見ればヴォストーク星系・バスコットン星系に続き第三位だ。
無論人類社会全体から比べてしまえば、それ以上の人口を誇る惑星等掃いて捨てるほど存在するが。

ちなみにこの地球に観光目的で訪れるものは数多い。
西暦6998年の現在踏破宇宙には約180億の銀河系が存在するが、
それだけの領域の探査を終えてもなお人類以外の知性体は発見されなかった。
結局過去の人々が夢見た未知との遭遇は実現しなかったのだ。

それはつまり、今に至っても地球が唯一無二の自然発生的に知性体が生まれた星である、と言う事で…。
まともな教育を受けた人間ならば人類発祥の地、地球の名を知らないものは居ないという訳だ。



  
4: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:18:45.71 ID:eWKdpoFC0
  

「圧倒的じゃないか、我が星の知名度は!!」
とか
「観光は立地だけではないのだよ。
考えても見ろ…我々が生まれてから刷り込まれた人類発祥の地の情報を…地球は、あと1000年は食っていける!!」

そう言った人間が居たかどうかは定かではないが、
これ幸いとばかりに太陽星系は盛んに観光絡みの宣伝を繰り返していた。

「本船は間も無く地球、第8軌道宇宙港に入港致します。
この度はゼネラルスターウェイズ社をご利用いただき、ありがとう御座いました」

そのアナウンスを聞いて舷窓から外を覗くと、丁度船が軌道港に入ろうとする所だ。
軌道宇宙港とはありふれた軌道エレベータと、その両端にある施設から成り立つ設備の名称である。

―――言うまでも無く軌道エレベータは観光用だ。
到着した観光客は軌道エレベータで降下しつつガイドの説明を聞く。
「本惑星は人類最初の多惑星連合組織である太陽系連邦の首星となった星であり…」
といった具合に―――



  
5: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:19:00.57 ID:eWKdpoFC0
  

この位置からでは何をやっているかはわからないが、見慣れた者にとって今更興味を抱くような事ではないだろう。
やがて船体は完全に埠頭内部に収容され、後方の門が閉じられる。

照明が付くと同時に白い霧のような物が吹き付けられ、与圧された事を確認しておいてから
シートベルトを外し、荷物を持って個室を出て船体前方の昇降口へ向かう。
どうせ与圧後暫くの間は出られないのだ。

この便には余り多くの人間は乗っておらず、見た所ブーンを除いては10人ほどしか見当たらなかった。

接続された昇降筒の内部を暫く進んだ所には円形の一段高い段があり、彼もそこに上がる。

全員乗ったのを確認すると向かって右側にあるコンソールに一番近い位置に居た男性が、
その中から一つボタンを押すと次の瞬間には周りに喧騒が溢れ、
今までとは比べ物にならないほど多くの人々が歩いていた。

( ^ω^)「一先ずロビーに着いたお。それにしても…」

そう呟いて周りを見渡せば目に入るのは、予想通り相変わらずの観光目的と思われる人々の群れ。
彼は内心彼らに嫉妬を禁じえなかった。

(; ^ω^)(羨ましいお。折角8年ぶりの帰郷なんだし、僕も色々行ってみたいお)

思った所で今は時間がそれを許さない。
後ろ髪を引かれつつも今度は別の意図を持って周りを見渡す。

( ^ω^)(案内板は…あったお。軍事区画はあっちかお)

板と言うか仮想窓と言うか。
要するに空間投影式のディスプレイなのだが、ともかくもブーンは進む方向を把握した。



  
6: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:19:14.84 ID:eWKdpoFC0
  

<<バーラト星系惑星ハイネセン行きNTS177便は18番埠頭より13時50分出航予定です>>
自分とは関係の無いアナウンスを聞きながら、人の波を上手く交わしつつロビーを出て専用の固定転送装置に乗る。

先程と同じような操作をし、一瞬の後さっきとはまるで違う雰囲気の部屋に現れた。
ちなみに建築物自体も違っていたりする。

部屋の大きさはそれなりに大きく円筒状、壁は白色でなかなか明るい感じだ。
だが、ここには一般客の姿が全く見当たらなかった。

装置を降りて正面には軍事施設などでよく見る特殊合金製と思われるドアがあり、
その両脇には男性と女性二人の歩哨が控えている。
ドアの部分が少し歪んでいるのは一種のディフレクターシールドだろう。

今となっては少々古い技術であり、余裕のあるところから順次改装が進んでいるが、
やはりまだまだコストが高く既に改装を済ませた施設は総そう多くはない。
ここもその一つだった。

そのままドアの前まで進むとさっきの二人のうち右側の男性が

「認証をお願いします」

とブーンのほうに近寄り声を掛けた。



  
7: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:21:01.20 ID:eWKdpoFC0
  

( ^ω^)「わかったお」

そう返答してブーンは自分の右手を差し出す。
男性はブーンの手の甲に埋め込まれている、ぱっと見では宝石のようにも見える結晶に丸い認証機をかざした。

この結晶、こと第12世代型機能結晶は言うなれば身分証明証のようなものであり、
他にも簡易通信等様々な機能が組み込まれているため埋め込まない人間は居ないといっても過言ではない。
と言うよりも大抵の親は子供が生まれてから、直ぐに埋め込みを行う為に
小さい頃からあることが当たり前であるため、あえてそれに疑問を抱くものはまず居ないだけなのだが。

(余談ではあるが見た目が宝石なのは開発者の趣味である。
この開発者は西暦4700年代後半にメルクリウス星系で生まれた…幼女…赤軍…(ry)

直ぐに認証終了を示すブザーが鳴り、ドアがすべるように両端に引っ込むと
先程の歩哨は結構です、お通り下さいと言って元々立っていた位置に向かう。
ブーンはその様子を横目でちらりと伺うと、開いた扉の先へ進み始めた。

ぶー(今まではなんとなくそんな感じがしなかったけど、僕はもう軍人なんだお)

そんな事を考えながら。

距離にして大体10メートル位だろうか。
暫く廊下を進むと、ついさっきの第8軌道宇宙港のロビーと同じくらいの大きさの開けた空間に出る。
とは言ってもあちらの様な喧騒に溢れた空間ではなく、
軍人であると思われる人々が歩いている以外は非常に静かで落ち着いたような所だ。
往々にして近頃の軍事施設はこのような感じの場合が多い。
所謂清潔感とやらに配慮しているんだとか何とか。
あれ、第一印象だったかな。
…マァいいや、サァ行くか。



  
8: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:21:17.27 ID:eWKdpoFC0
  

( ^ω^)(中々綺麗な所だお。ところで駐留艦隊の司令官ってのはどこにいるお?)

設計者の目論見が見事に当たった所でブーンは当初の、
着任の挨拶の為に艦隊司令に面会を行うと言う目的を思い出す。
当然初めての地で何処に何があるか等わからないがその為の情報板だ。
馴れた手つきで面会の予約を行っておいて施設案内図を確認し、
円筒状のフロアの入り口と丁度反対側にある昇降筒に乗り込む。

階数を指定し暫く待てば目的地へ辿り着く。
彼が乗っている間他の昇降筒利用者は一人も居なかった。

昇降筒を降りると其処には半円形の余り広くはないフロア。
その半円の弧の方に施設の入り口と同じようなデザインのドアがあり、
その脇に例の情報板とインターフォンのようなものが設置されている。

( ^ω^)「内藤ホライズン中尉ですお。着任の挨拶に参りましたお」

インターフォンを押しながらそう告げると直ぐに返答が帰ってきた。

「わかった。今開けるから入ってくれ」

直ぐにドアが開き、執務机に座る声の主と思われる第2種軍装を着用した男性の姿が見える。
見た目から判断すれば年は40歳前後だが実年齢はわからない。
外見で相手の年齢を判定する事が不可能になって久しく、今時そんな無意味な事をするものは少ない。
左胸には銀色の星が一つ付いている。
ブーンはそのまま部屋の中へ入り、立ち上がった相手と机を挟んだ形で向き合う。



  
9: 愛のVIP戦士 :2007/02/07(水) 19:21:36.58 ID:eWKdpoFC0
  

( ^ω^)ゝ「失礼しますお。内藤ホライズン航空宇宙軍中尉、本日付けで太陽星系駐留艦隊に配属されましたお」

互いに敬礼を交わした後、再び椅子に腰を下ろした相手が口を開く。

(`・ω・´)ゝ「内藤中尉。私は駐留艦隊司令官兼太陽系中央基地司令官のシャキン=ジェリコー少佐だ。
       本艦隊への配属を心より歓迎する。既に略歴等はこちらで参照させてもらった。
       君には第817戦隊司令官をやってもらう。
       今、君の戦隊の副長兼作戦参謀を務める人物に呼んだから少し待ってくれ」

( ^ω^)「了解しましたお。その参謀とはどのような人物なんですお?」

(`・ω・´)「士官学校も出ていない奴だが技術は確かだ。軍歴もそこそこ長い。
      君は軍大学出とは言えど経験は無いに等しいからな、あいつから色々と指導して貰うと良い」

シャキンがそこまで言い切った時机の上の装置が音を鳴らした。
彼が装置に顔を近づけ、何か喋るのとほぼ同時に部屋の入り口の扉が開き、
長らくブーンが運命を共にする事となる人物の一人が現れた。

第一話 終



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