( ^ω^)は殺人者のようです

13:◆irDDQfcPYE :02/10(土) 03:50 ByRSM+V4O

2月3日。夜明け前。
研究所正門側。

ブーンとドクオはそれぞれの配置についていた。

飛び道具のあるブーンが正門、同時に複数を相手にできるドクオが裏口。
事前にコイントスで決めた結果通りだ。

どちらに警備員が多いのかは突入してみないとわからない。

腕時計が甲高い音で時間を知らせる。

( ^ω^)「ミッションスタート」

耳に装着した小型通信機に小声で呟いて研究所へと続く下り坂を駈け下りる。

その距離150メートル、100メートル、50メートル。
そこまで近づいた時、左手で軍用ナイフ「グラム」を掴み、右手は戦闘服に袈裟掛けにしたベルトから投げナイフを4本掴む。

目前には高さ1メートル程度の柵と閉じられたゲートがある。
それを下半身の跳躍だけで飛び越えると音を消して着地。同時に素早く視線を左右に振る。

右に2人、左に1人。
距離は共に20メートル程。
全員が肩にライフルのストラップを掛けている。
どちらにも気付かれていないが、同時には相手にできない。
瞬時に判断を迫られる。

ブーンは躊躇わずにその場で半回転して遠心力を使い、左の警備員に全てのナイフを投げる。

当たったかどうだかわからないが今まで外した事はない。
その経験だけを頼りに投げ終わった直後から右側にいる2人に向かって走る。

警備員まで後5メートルとなった時に1人に気付かれるが時は既に遅い。

相手が何かを叫びこちらに銃を向けるよりも早く警備員達の間に滑り込み、その勢いのままに喉をナイフで一突き。
そのまま力任せに刃を横に滑らせ円周運動でもう一人の首を裂く。
二人が喉から漫画のように血を噴きながら絶命するのを確認し、視線を先程ナイフを投げた警備員に向けると4本のナイフは全て首から上に突き刺さっていた。

周囲に注意を払いながらゆっくり近寄り、投げナイフを回収すると相手の服で血を拭った後再びベルトに差し込む。

ここまでジャスト1分。
今夜も体は良く動く。

機械のような心とは別に体は次なる獲物を求めて研究所の入り口を目指して走り始めていた。



14:◆irDDQfcPYE :02/10(土) 03:51 ByRSM+V4O

2月3日。夜明け前。
裏口側。

作戦開始までドクオは体を解してした。
間もなく腕時計が甲高いアラームを鳴らす。
ほぼ同時に耳に装着した小型通信機から「ミッションスタート」と通信が入る。

今回の作戦はペアで遂行する。
いかんせん初体験なので勝手はわからないが相棒のブーンという男は相当能力が高そうだった。

( 'A`)「んじゃまぁ行きますかね」

誰にともなく呟いて、研究所までの下り坂を歩き始める。
走らないのは当然敵に見つかる可能性を押さえる為で、離れた位置から射撃された場合自分には反撃の手段がないからだ。

距離をゆっくりと詰めると研究所と外界を隔てる柵の向こうから小さな声で話す声が聞こえてきた。

「…の移…が…ってる…ら」
「…ると、…つ頃…?」

何を話しているかはわからないがどうやら2人の男らしい。

向こうからこちらは見えていないが当然こちらからも大体の場所しかわからない。

ドクオあくまでゆったりと左手の甲を自分と相手の延長線、つまり研究所に向けると右手で左手首に付いているボタンを押した。

プシュッと音がして左手の甲に付いていたいくつかの突起物が飛び出した。
その突起は研究所までの数メートルを飛び、微かな音を立てて研究所の外壁に突き刺さる。が、警備員はお喋りに夢中になっているのか気付かない。

( 'A`)「俺が工作課なら生きてられたのにな…」

小さな声で呟き、一気に柵を飛び越える。

「誰だっ!」

警備員の1人が慌てて銃を構えもう1人がそれに倣うが、ドクオはもうそこにはいない。

( 'A`)「ごめんな」

やはり小さな彼の声が警備員達に届いたかはわからない。
何故ならその時にはもう彼ら2人は仲良く全身をバラバラにされていたからだ。

ドクオ。
様々な形の殺人者達が集まる警備課の中でも暗殺という分野に突出する。
彼らをまとめるギコ課長をもってして「無音殺人の天才」と言わしめる男の底は知れない。

( 'A`)「?」

どこかで銃声が聞こえる気がする。

( 'A`)「ま、あいつならなんとかすんだろ」

壁に埋め込んだ左手の「キティ」を手首のスナップだけで回収し元の位置に戻すと、彼はまたもやゆっくりと研究所の中へと侵入して行った。



17:◆irDDQfcPYE :02/10(土) 22:13 ByRSM+V4O

外にいた警備員を全て片付けるとブーンは研究所の正面玄関を避け、トイレの窓から侵入を開始した。

柔らかな靴の底が接地音を吸収してくれる。

( ゚ω゚)

目の前で大柄な髭面の黒人の男が小便をしている。

相手も驚きのあまり口をパクパクしている。

(;^ω^)「動くなお」

相手の両手が塞がっているのをいいことに、素早く背後に回ると首にガラスナイフを押しあてた。

「お前っ誰…?」

本人は気楽な警備のつもりだったのだろう。
敵が来る可能性なんて考えもしなかったに違いない。

( ^ω^)「質問するのはこっちだお」

「わかった。何でも答えるから殺さないでくれ」

局部を押さえていた両手を宙に上げ、降参の意を示す。
ひどく物分かりがいい。
結局は命を掛けてまで会社に尽くす気はないという事だろう。
こちらにとっては好都合だが。

( ^ω^)「この研究所の警備の状況は?」

「外に9人、中に13人だな」

( ^ω^)「研究中の薬剤はどこにあるんだお?」

「北西の端の研究室だ」

( ^ω^)「わかった。もういいお」

鈍い音を立てて男の首が自発的には曲がらない角度まで捻られる。

口から吹き出してくる血の泡に触れないように個室に放り込むと、そっと通信機を握り、得た情報をドクオに伝えようと口を開いた時だった。

視界の隅を何かが過る。
次の瞬間、耳元で爆竹を鳴らしたような音が聞こえたかと思うと胸に激しい衝撃と痛みを感じた。

――撃たれた?

視線を落とすと弾は戦闘服で受けとめられていた。

( ^ω^)「開発課もいい仕事してるお」

呟きながら自分を銃撃した男の眉間からナイフを引き抜く。
長い間この仕事をしているうちに反射で人を殺せるようになってしまった。

「殺す機械」になってしまった自分を再確認して悲しんだのも束の間、改めてドクオに連絡を入れる。

今の銃声で敵の警戒は間違いなく最高潮に達してしまっただろう。
証拠にフッと廊下の電気が全て消える。

( ^ω^)「やれやれだお」
自分の責任であるが思わず愚痴が口を突く。
軽く頭を振ると北西を向いて歩き始める。

長い通路はブーンを誘うように暗闇の腕を伸ばしていた。



22:◆irDDQfcPYE :02/11(日) 04:50 WeCKYTZMO

( 'A`)「あらよっと」

手応えもほとんど残さず敵の胴体を繊維が通過する。
ここまで一度も敵に先制を許してはいない。
いくら無音暗殺が得意と言っても工作課とは違い、戦う事が本業の警備課の社員にしてはその能力は傑出していた。

事実、今までギコにすら話した事はないが幾度となく工作課から異動の誘いを受けている。

恐らくブーンは自分のようには潜入に成功してはいない。
会ってからまだ半日程度だがブーンを見る限り、彼は戦闘に突出した人間だろうと分析していた。

つまり研究室に入り薬を手に入れるのは自分。
敵を処分させるのはブーンの役目。

ギコ課長が自分達を組ませた理由が手に取るように読めた。

改めて中央を目指して歩きだした時、ブーンから通信が入った。

「警備員は外に9人、中に13人だお。ボクは外を6人、中で2人仕留めたお。」

幾分か誇らしげだが、

( 'A`)「さっきの銃声は?」

「おー。敵に見つかってしまったお…」

一瞬でトーンが落ちる。

やっぱり。

思ったがこれは胸の内に仕舞っておく。

更に薬を保管している研究室は北西である事を聞いてから通信を切り、細い廊下を歩きだす。
銃声を聞き付けて敵はブーンの方を警戒するだろう。
そしてブーンは今南東におり、自分は北東にいる。

これはさすがに偶然だろうが全てがギコの掌の上にあるようだ。

これだから優秀な上司の下で働くのは辞められない。

彼はニヤリと笑うと電気の消えた廊下を再び歩きだした。

全ての条件は自分に味方している。

暗闇はドクオを歓迎するように彼の体を包み込んでいった。



24:◆irDDQfcPYE :02/11(日) 21:34 WeCKYTZMO

暗闇の中を足音を消して歩く。
ただそれだけの事なのにブーンは始めてから数分で体に疲労が蓄積するのを感じていた。

(;^ω^)「慣れない事はやるもんじゃないお…」

小さな独り言さえ静かな屋内では壁が反響させる。

ドクオとの賭けがなかったら今頃は目的の研究室へと走っているだろう。

その結果、全ての警備員を相手に回しても先程のように気を抜いていなければ勝てる自信がブーンにはあった。

それは裏を返せばここの警備員は数だけが多く、練度は低い事を表している。

( ^ω^)「訳がわからんお」

そう。仮にも大企業であるVIPの唯一の対外戦闘課である自分達がわざわざ盗みに来なければならない程の物。

そして相手はVIPに優るとも劣らない大企業ラウンジだ。
それにしては警備が弱すぎる。
慣れない潜入任務とは言え、これなら自分一人でも遂行できたのではないか?

考え事をしながら、曲がり角を曲がってきた敵兵に無造作にナイフを投げ命を奪う。

( ^ω^)「まぁ仕事をきっちりやるだけだお」

沸き上がる疑問を押さえ込むように、自分に言い聞かせると音を立てないように倒れた警備員に走り寄りナイフを抜く。

圧迫していた物がなくなり血管から赤い血がナイフを濡らし、窓から差し込む月明かりがナイフの表面に反射する。
その瞬間だった。

( ^ω^)「!」

飢えた獣に睨まれたかのような殺気。
咄嗟に死んでいる警備員を盾にしつつ、抜いたばかりのナイフを右奥に繋がる廊下目がけて放つ。
同時に警備員越しに重い衝撃が伝わってくる。

刺さっていたのはブーンの物より一回り大きい投げナイフだった。

( ^ω^)「お?」

適当に放ったとは言え間違いなく敵に突き刺さるタイミングで投げたナイフは意外にも、半身になった相手の右手に受けとめられていた。

「ふむ。いいナイフだ」

自分のナイフを弄びながら月光の中に姿を表したのは、ひどく動きにくそうなコートに身を包んだ長身痩躯の男だった。
顔の部分は月が雲に隠れてしまいよく見えない。
声から推定するにきっと年上だろうが十は離れてはいまい。
とはいえ課長のギコでも自分より6つ上の29才。
侮る事は決して出来そうにない。

なにより、自分の投げたナイフを空中で掴み取った。これは完璧に飛来するナイフが見えていた、という事だ。
同じ事を明るい部屋でやれと言われても成功するかは自信がない。
恐らくは自分より格上。

( ^ω^)「あんた…誰だお?」

聞いたところで相手が答えるはずもない。
次に打つ手を考えるまでの単なる時間稼ぎだった…が。

「私かい?私はね…」

意外にも話に乗ってきた。
雲間から漏れだした月光が彼の顔を白く染める。

( ・∀・)「ラウンジ武力渉外課課長のモララーだ。よろしく」



25:◆irDDQfcPYE :02/11(日) 21:36 WeCKYTZMO

その顔はどこかで見たことがある。
それより…

( ^ω^)「ラウンジの戦闘課…?」

初耳だ。
ギコですら掴んでいない情報なのか?

( ・∀・)「今回がお披露目会という奴でね。私の他に部下が二人、ここの警備に当たっている」

どうする?
どうする?
この敵と正面からやりきって勝てる保証はない。
逃げるか?
しかし作戦は途中だ。

( ・∀・)「考えても結論は出ないよ。君自身の力で現状を打破したまえ」

こちらの頭の中を透かしたような相手の言葉に、逆に腹が決まる。

腰の後ろに左手を回し、軍用ナイフを握り締める。
こんな状況だが足音を気にしなくてよくなったのが少し嬉しい。

自身の全速力で以てブーンは駆け出した。

相手の手には自分の投げた投擲用の細いナイフ一本のみ。
軍用ナイフ「グラム」の一撃には耐えられない。
自分のナイフだからこそその耐久力もわかる。

だが、モララーはあっさりと唯一の武器であるナイフをあっさりと放り投げた。

ブーンを狙って、凄まじい速度で。

前方に向いていたベクトルを真後ろに向け急制動をかけると、下半身の筋肉が主人の無茶な行動に抗議の絶叫を上げた。

衝撃に手が痺れる。
飛来したナイフをグラムでなんとか弾くと、正面を向き直る。

が、モララーの姿はそこにはない。
目が捉えた情報より本能の警告を信じ、上半身を大きく後ろに逸らす。

同時に銀色の閃きが顎の先端を軽く掠めて上空に奔った。
自分と同じ、軍用ナイフ「グラム」が見えた。

( ・∀・)「奇遇な事に私の得物もグラムでね」

一瞬の停滞。

先に動いたのはモララーだった。

逆手に握ったナイフから下半身まで、全身を伸ばした状態から今度はナイフをブーンの腹に向けて一気に下ろす。

ブーンは身を捻ってそれを躱すとお返しとばかりにモララーの胴を横薙ぎにする、がそれはコートを切り裂くに終わる。



26:◆irDDQfcPYE :02/11(日) 21:38 WeCKYTZMO

( ・∀・)「折角の一張羅が台無しだよ」

まるで気にしていない口調で恨み言を言い放ち、再び斬撃。

躱して反撃。
躱されて斬撃。
躱して反撃。
躱されて斬撃。

互いの実力がわからない為、安全マージンを取った戦いでは決着は難しい。
だが、モララーは間違いなく遊んでいる。
幸か不幸かそれが理解できる程度にブーンも腕が立った。

(;^ω^)(このままじゃ埒が開かないお…)

どこかで踏み込まなければならないのは分かっているが、先程の投げナイフの事が頭を過り、躊躇してしまう。

( ・∀・)「先程言ったとは思うが…私は部下を二人連れてきている」

手を休めないままモララーが話を始める。

( ・∀・)「今頃は君と一緒に入った彼に会ってる頃かな?」

ドクオ。
心臓がドクンと高鳴るのを感じた。

( ・∀・)「隙あり、だよ」

しまっ――

突然に飛び込んできたモララーに飛び退くのが一瞬遅れ、耐刃繊維を織り込んだ戦闘服の左腕をざっくりと切り裂かれる。

(;^ω^)「くっ…」

慌てて後ろ向きに飛びすさり10メートル程距離を取る。

( ・∀・)「おや。その腕ではナイフは扱えないね」

腕から伝った血が点々とタイルの床を濡らす。
軽く掌を握ったり開いたりを繰り返すが反応はやはり鈍っている。

やはり無謀だったか?
こちらが取り得る手段はもうあまりない。

(;^ω^)(これを外したら間違いなく負けるお…)

負け、即ち死。
自分の死はツンの死に直結する。
それだけは、
それだけは、

(;^ω^)(何がなんでも生き延びてやるお)

( ・∀・)「交戦中に考え事をするのは君の悪い癖だね」

まるで体術課の教官のような口を聞く。

そう。自分とモララーは訓練生とその教官程も実力に開きがある。

油断している今だけが唯一のチャンスだと言える。

問題は…

(;^ω^)(どっちを使うか…だお)

恐らくモララーの予想の斜め上を突ける手段は2つある。

一つは特殊ガラス製のナイフでの攻撃。
モララー相手には一度も使っておらず、またその特殊さ故に見切られる可能性は著しく低い。

もう一つは…

( ^ω^)(2つだけ難関を越えたら意表は確実に突けるけど…間違いなく敵が全員集まってくるお)

さっきまでとは違い、今は片手がほとんど動かせない状態。
一人で大人数を相手にして乗り切れる可能性は高くない。
だがどの道今を乗り切らないと自分に先はない。



27:◆irDDQfcPYE :02/11(日) 21:39 WeCKYTZMO

( ^ω^)「お待たせしましたお」

意を決しておもむろに立ち上がる。

( ・∀・)「決まったかね?」

少し退屈した様子のモララーだったが、目に決意を宿したブーンを見て頬が弛む。

( ^ω^)「行きますお」

何故だか自分でもわからないが敵にわざわざ宣言してから走りだす。

今度もモララーがナイフを放ってくるが予測の範疇だったため冷静に右手に持ち替えたグラムで弾く。

距離が5メートルまで近寄ったところで左手で胸のベルトから投げナイフを全ての指に掴み、放つ。

それらは全てモララーのグラムによって弾かれる。
いくら怪我の影響があるとは言え人間技ではない。

( ^ω^)(それは織り込み済。次だお)

残り2メートルになった時、地を蹴ってモララーに飛び掛かる。

( ・∀・)「ほう、特攻かね」

極度の接近戦には不確定要素が多い。
実力の違いすぎる二人の勝敗が逆転する可能性があるならそれは混戦に持ち込む事。
予想外の切り札がないならそれは唯一にして絶対的に残された手段だった。

だが。

( ^ω^)「生憎とまだ死ぬ気はないお」

言い放ち怪我をしていない方の右手を振る。

ついさっきまでグラムを握っていたその手に握られているのは、4本の投げナイフ。

( ・∀・)「ほう!」

間違いなく意表を突かれたモララーが取った行動は、更にブーンの度胆を抜いた。

風を切り裂いて迫り来るナイフを物ともせず、迎撃するように手にしたグラムを突き出したのだ。

空中で態勢は変える事は出来ない。
重力に引かれるままブーンはモララーのグラムに吸い込まれるように落下した。
( ・∀・)「おや?」

手に伝わるのは異質な手応え。

グラムは確実に戦闘服を貫通し、ブーンの心臓を破るはずだったが僅かに皮膚に数ミリ刺さるだけで止まっていた。

その一合を終え、ブーンは再びそこを飛び退いた。

様々な幸運が自分の味方をして自分はまだ生きていられる。

自分の投げナイフがモララーの肩に刺さった事。
モララーのグラムが自分の胸の投げナイフによって阻まれた事。
そしてモララーが追撃して来なかった事。

だが、だとしてもだ。

( ^ω^)「ボクの勝ちですお」

左手首についたボタンを全て押す。

パンッと軽い音がして最後に投げたナイフの柄から視界を埋め尽くさんばかりの光が溢れだす。

ナイフの柄に仕込んだ小型の閃光弾。
VIPの兵器開発課が総力をあげて作ったブーンの切り札だった。
現場で使うのはこれが初めてである。

( ・∀・)「おぉっ!これは!」

何故だか嬉しそうなモララーの声が聞こえる。
開発課の話では地面に伏せてのた打ち回るはずだったのだが…

( ^ω^)「それじゃあ失礼しますお」

無造作に近寄って改めて右手に持ったグラムを一閃。
カキン!

( ^ω^)「あれ?」

ブーンのグラムはモララーのグラムに弾き飛ばされていた。

( ・∀・)「目が見えないからには手加減できないよ?」

嘘だ。
ありえない。
目が見えない人間が戦えるはずがない。

理性はそう告げてくる。
しかし本能はさっきよりも鋭く自分に刺さる殺気に逃げろと叫んでいた。

こういった仕事に何よりも望まれる物、それは危険察知能力。

ブーンは今までそれに逆らった事はない。
そうやって今まで生き延びてきた。

自分にこの男はまだ殺せない。
そしてドクオはピンチに陥っているかも知れない。

口惜しそうに先程盾に使った警備員に刺さったままのモララーの投げナイフを引き抜く。
そして自分の感情を理性で殺し、ドクオのいるはずの北西の研究室を向いて走りだした。



32:◆irDDQfcPYE :02/14(水) 01:12 nYp88QupO

「ドクオ!聞こえるかお!」

耳元で相棒の喧しい声が響く。
だがドクオは答えない。
いや、答えたくても答えられないというのが実情だ。

( 'A`)「どーしろってんだよ」

北西の研究室に辿り着いたドクオを出迎えたのは今までの警備員とは違い、恐ろしく腕の立つ体術使いだった。

至ってシンプルだが強烈な打撃。
目で捉える事すら困難な体捌き。
ドクオ自身は体術を得手とはしていなかったが、それを差し引いても明らかに敵の速さ、強さは異常だった。

頑強な筋肉。
短く刈り上げた髪の毛。
笑みを浮かべた口元。
全身から伝わってくるその余裕。
敵の全てが気に入らなかった。

左手の特殊繊維「キティ」でなんとか安全な空間を作り出しそこに逃げ込み、一息。

だが次の瞬間にはそれを悠々と掻い潜った敵の打撃が来る。

瞬時に前に出て打点をずらしてなんとか肩で受けるが反動で大きく後ろに吹き飛ばされる。

だが黙ってやられている訳ではなく吹き飛ばされながらも、不安定な態勢の敵を包み込むようにキティを操る。

が、刻み込む直前にその不安定なままの態勢で跳び上がり、キティは空を抱く。

この敵と遭遇してから既に数十分は同じ事を繰り返していた。

しかし打開策が無い訳ではなかった。

右手に仕込まれた3本の繊維達。
左手のキティの様に全てが斬撃用ではなく、1本ずつそれぞれが異なる目的で使用される。

一番左が「スタン」
これは相手に刺さった後、電撃を放ち動きを封じる為の物。

中央が「ラトル」
これは先端から神経毒が流れる仕組みになっており相手が耐電装備の場合、つまりスタンが効果がない場合に用いられる。

そして一番右にあるのが「カイト」
右手に仕込んだ繊維の中で唯一の殺傷用。
キティよりも細く鋭い為、目視はほとんど出来ないがその軽さ故に屋内でないと風に流され使用は難しい。

ドクオは幾度も吹き飛ばされながらカイトを張り巡らせていた。

机に、蛍光灯に、椅子の足に、ドアノブに。

それはさながら蜘蛛の巣のように広がり、敵を待ち構えている。

( 'A`)(あと少し…)

あと少しでこのムカつく奴をチーズのようにバラバラに出来ると思うと、ドクオの顔には自然と昏い笑みが浮かんでいた。

その時だった。

(;^ω^)「ドクオっ!」

ドアを開いてブーンが飛び込んできた。

(;'A`)「バカ!入ってくるんじゃねえ!」



33:◆irDDQfcPYE :02/14(水) 01:14 nYp88QupO

咄嗟に右腕を全力で引く。
その瞬間、部屋中にあったありとあらゆる物がその形を変えた。

机は足を無くし、蛍光灯は真ん中で両断され、椅子の足は一本だけ高さが変わり、ドアノブはドアに別れを告げる。

そして男は…
右腕が肩からすっぱりと切断されていた。

尋常ではない量の血液が溢れだす。

だが敵は呻き声一つ上げずに落ちた腕を拾い上げるとこちらを忌々しげに睨み、やはり尋常ではない速度で窓を破って脱出した。

( ^ω^)(今のは…?)

( 'A`)「逃がしちまったか」

淡々とドクオが呟く。
その口調はたった今死線を潜り抜けたばかりだとは思えない程冷静だった。

( 'A`)「その腕は?」

ブーンの腕から滴る血に気付いたドクオが静かに声をかける。

( ^ω^)「詳しい話は戻ってからにするお。今はそれより…」

( 'A`)「そうだな。薬剤の確保と爆破の準備は俺がする。お前は止血しとけ」

言うや否や瓦礫と化した部屋の備品を掻き分け、一つの机に向かう。

他の物は何一つ原型を留めていない研究室の中でその机だけは無事だった。

(;^ω^)(抜け目の無さはさすがだお…)

見惚れているとドクオから叱責を受け、慌てて止血作業に移る。

ドクオは確保した薬剤を腰のポケットに入れると、持参していた起爆装置を慎重にセットしていく。

それが終わったのとブーンが止血をするのはほぼ同時だった。

( 'A`)「よし、後は脱出して一仕事終えたら帰れるぞ」

二人が並んで歩いて脱出してから10分後。

その研究所は跡形もなく地球の上から姿を消した。

2月3日
夜明けの光がこの地を照らす頃、ブーンとドクオを乗せた飛行機は猛スピードで地上を離れていた。



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