( ^ω^)は殺人者のようです

35:◆irDDQfcPYE :02/14(水) 02:01 nYp88QupO

2月4日、午前。

ブーンとドクオはギコの執務室に呼ばれていた。
昨日の作戦の報告をするためだ。

一課長の執務室としてはかなりの広さを誇る部屋。

壁に沿って膨大な資料を収めた本棚が並び、部屋の中央にはマホガニー製の机が構えられている。

大きな窓には淡い色のカーテンが架けられ、観賞用植物が静かに佇んでいる。

誰が見ても警備課の課長の部屋だとは信じないくらいに、その部屋は持ち主の趣味の良さを反映していた。

ブーンとドクオは並んで部屋の入り口近くにある応接セットの椅子に並んで座っていた。

向かいに座るギコは険しい顔をしながら二人がそれぞれに作成した報告書を読んでいる。

(,,゚Д゚)「ブーン、敵は間違いなくモララーと名乗ったんだな?」

( ^ω^)「間違いありませんお」

(,,゚Д゚)「そうか…」

ギコはその後も暫くじっと床を見つめて考え込んでいた。

その沈黙に耐えかねて口を開いたのはやはりブーンだった。

( ^ω^)「ご存じなんですかお?」

( 'A`)「なんでお前は知らないんだ?」

何故か返事をしたのはドクオだった。
しかし意味がわからない。

ボクが知っている?
あの男を?

今度はブーンが黙る番だった。

( 'A`)「初代保安部警備課課長、つまり前任の課長だよ。モララーは」



36:◆irDDQfcPYE :02/14(水) 18:10 nYp88QupO

一時間後、VIP本社ビル地下3階。

ワンフロアを丸々使用した広大な練武場にギコとブーンは向かい合っていた。

二人とも戦闘服に身を包んでおり(もっともブーンの戦闘服は開発課で修繕しているため特殊装備のない汎用の戦闘服であったが)
手にはそれぞれ得物を手に持っていた。

ブーンはナイフを。
ギコは巨大な屶を。

当然の事だが両方共、刃は落としてある。

(,,゚Д゚)「怪我もまだ縫ったばかりだろう?辞めておいた方がいいんじゃないのか?」

( ^ω^)「もし次に会った時、今のままなら確実に殺されますお」

そして今はまだ死ねない。
それだけを告げると一礼をして、構える。

ブーンは両手にそれぞれナイフを逆手に握り、左半身を前にだしたオーソドックスなスタイルに。

対して右手に屶をぶら下げたギコは軽く右半身を突き出しただけで、特に構えらしい構えは取らなかった。

だが対峙した瞬間にギコの体が放つ威圧感に、余裕などは微塵も感じられなかった。

向かい合っているだけで体力を奪われるような錯覚に襲われる。

ミリ単位で僅かに隙を作りこちらの攻め気を誘ってくる。

一瞬仕掛ける素振りを見せたかと思うと次の瞬間にはカウンターを狙う。

まだ一歩も動いていないのに数時間は斬り合ったような倦怠感が重く、ブーンの全身を包んでいた。

(,,゚Д゚)「どうした?そのまま睨み合っているだけなのか?」

ギコの軽い挑発にブーンは飛び込んでいた。
ギコの武器は重い屶。
こちらは手数で翻弄するのがセオリーだ。

飛び込みざま顔を狙い左のナイフを一閃。
それはあっけなく首の動きだけで躱される。
飛び込んだ勢いでそのまま回転。
ギコの方へと向き直りながら、右手のナイフで腹を狙う。

先日の研究所でブーンが最初に使った、「円舞」と呼ばれる得意技であった。

それもあっさりとブーンの腕の死角へと退いて躱すと、ギコは右手にぶら下げていた屶の背を乱暴に蹴り上げた。

伸び切った右腕を刃の無い屶が痛打する。
衝撃が走ってナイフを落とすが、戦えない事はない。

急いで体勢を整えると再度ギコに斬り掛かった。
だが

(,,゚Д゚)「そこまでだ」

ピタリ、と制止される。

(;^ω^)「まだやれますお!」

(,,゚Д゚)「片腕だけで、か?」

(;^ω^)「!!」

そう。これが実戦なら間違いなくブーンの右腕は飛んでいた。
訓練だから、という言い訳は通用しない。
訓練で出来ない事が実戦で出来るはずがないのは事実だった。

(,,゚Д゚)「お前が強くなりたい気持ちはわかる。だが焦りは隙を生む」

ぶら下げていた屶で首筋をトントン、と叩きながらギコが言う。

(,,゚Д゚)「それについては俺に考えがある。追って連絡するから今は傷を治せ」

レクチャーは終わりとばかりに壁の棚に屶を置くと、更衣室を向いて歩きだしたギコの腕をブーンが掴んだ。

(,,゚Д゚)「!…なんだ?」

( ^ω^)「課長にお聞きしたい事がありますお」

(,,゚Д゚)「だからなんだと聞いている」

( ^ω^)「ジョルジュ先輩はどこで作戦に就いているんですかお?」

(,,゚Д゚)「他の社員の情報は…」

( ^ω^)「規則は知っていますお」

課に所属する社員の動向は課長しか把握してはいけない。
これは敵に捕まった際に情報の漏れを防ぐ目的でもあったし、寝返りがあった際の被害を最低限に防ぐ意味もあった。

( ω)「でも研究所でドクオが戦っていたのはジョルジュ先輩ですお」

ぽつり、とブーンは繋げた。それに対してギコは簡単に口を開く事が出来なかった。

(,,゚Д゚)「…現在内偵を進めている。今は傷を癒せ。これは命令だ」

今度こそ腕を振り払い、ギコは練武場を後にした。



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