( ^ω^)は殺人者のようです

41:◆irDDQfcPYE :02/15(木) 19:50 CAIc5QStO

2月5日、朝。

暫くは自分には作戦がないのはわかっていたが、ブーンはVIP本社ビルを訪れていた。

モララーに斬られた腕の傷はモララーの腕が良かったからか、一週間程で完治するらしい。

医務室を抜けたブーンはその足で地下3階、練武場脇にある射撃訓練室に向かった。

( ^ω^)「おっ渡辺さん、おはようだお」

そこには保安部警備課の渡辺さんがいた。

从'ー'从「あ、ブーン君。おはよ〜」

相変わらず気の抜けるような声で挨拶をしてくるが、戦場においては「嗤うディアブロ」の名で呼ばれる程に、変貌を遂げるらしいからわからない。

警備課と対外警備課。
似たような肩書きだが仕事の内容はまるで違う。

警備課はその名の通り、VIP所有の社屋や研究所等を外敵から防衛する組織。
対する対外警備課は前述の通り他企業に対する強襲、暗殺等をこなす組織。
言わば「護るプロ」と「攻めるプロ」の違いだ。

噂によると警備課は各自が担当する建物の配管から電話の位置、スプリンクラーに至るまで設計図がまるごと頭に入っているらしいが本当かどうかは聞いたことがない。

その中で渡辺さんは本社警備を任せられる、言わばトップクラスの警備員だった。

从'ー'从「射撃訓練なんて珍しいね〜」

ゴーグルを外しながら渡辺が話し掛けてくる。

( ^ω^)「少し気晴らししたかったんだお」

ブーンも軽快に答える。

ブーン達の対外警備課は基本的に社員同士顔を合わせる事が少ない。
自然と本社に常駐している渡辺さん達、警備課とは顔見知りになっていた。

从'ー'从「そっか〜いっぱい撃ったらいいよ〜」

あまり深く突っ込んでこない。
天然なのか弁えているのかわからないが、そこが渡辺さんのいいところだった。

その後お互い暫く無言で弾を撃ち続けてはカートリッジの交換をする。

一通り訓練を積んだブーンの射撃の腕は決して悪くはない。
が、やはり銃を専門的に使う警備課の渡辺さんには敵わないようだ。

ターゲットシートに開く穴がそれを如実に表していた。

( ^ω^)「おー。やっぱり渡辺さんは凄いお」

ヘッドホンを外しながら今度はブーンが話し掛ける。
从'ー'从「私達はいつでもこれを使えるからね〜」

手に持った巨大な銃を振りながら答える。

銃。

威力は強力無比。射程も長大。
個人が携帯できる武器としては間違いなく問答無用な最強の殺傷兵器だろう。

しかし対外警備課で銃を使う者は少ない。
作戦の内容によっては多数の敵を殺す必要があるためだ。

弾数制限。銃の持つ唯一の弱点がそこにあった。

( ^ω^)「それでもやっぱり―」

そこまで言い掛けた時だった。
ブーンの足元を激しい揺れが襲った。

(;^ω^)「おっおっ!じ、地震かお?」

揺れは数秒続いた後に収まった。

(;^ω^)「渡辺さん、大丈夫かお?」

ハッと思い出して慌てて渡辺さんの方を見る。
きっと彼女の事だから転んでいるはず―

だったが彼女は冷静な顔で壁に備え付けられた電話を手に握っていた。

( ^ω^)「渡辺さ―」

从'ー'从「ダメね。通じない」

叩きつけるように電話を置くと、舌打ちを一つして銃に次々と弾を込めだした。

(;^ω^)「渡辺さん?何がどうなっ―」

从'ー'从「この本社ビルは震度8の地震でもあれだけは揺れない。敵襲よ」

渡辺さんの言葉を裏付けるように訓練室の電気が一斉に消えた―



44:◆irDDQfcPYE :02/15(木) 21:20 CAIc5QStO

銃を握った渡辺さんが訓練室のドアを開け、そっと練武場へと滑り込みブーンが続く。
だだっ広い空間の為、敵が既に入り込んでいた場合そこを狙い撃たれると即ゲームオーバーだ。

注意深く左右に銃を振り、更衣室の扉を探る。
―あった。

暗闇の中、更衣室に入ると二人はそのまま躊躇いなく服を脱ぐ。

从'ー'从「ブーン君、武器は?」

ロッカーの一つを開けながら渡辺さんが聞く。

( ^ω^)「ここには刃を落としたナイフしかないお。ちゃんとしたのは13階の自分のロッカーの中だお」

ブーンが戦闘服を着込むのと渡辺さんがロッカーを閉めるのはほぼ同時だった。

从'ー'从「どっちにしても一度はオフィスに行かないと」

ロッカーを漁りながら淡々と渡辺さんが話す。

(;^ω^)(キャラ変わりすぎじゃね?)

从'ー'从「はい、これ」

渡辺さんがロッカーから取り出したのはゴーグルだった。

( ^ω^)「これは?」

从'ー'从「着ければわかる」

(;^ω^)「お…」

逆らわない方がよさそうだ、と判断したブーンは今度こそ黙ってゴーグルを着ける。

( ゚ω゚)「ふぉっ!!!!!!!!」

目に飛び込んだのは全裸の渡辺さんだった。
思わず鼻を押さえる。

( ゚ω゚)(いかん!ボクにはツンが!でも渡辺さんの胸は!)

从'ー'从「では警備課として作戦を伝える」

てきぱきと戦闘服を身に着けながら今や別人へと変わった渡辺さんが告げる。

( ゚ω゚)(胸…胸…渡辺さんの…ツン…柔かい…)

从'ー'从「現在、敵戦力及び勢力は不明。
渡辺、内藤両名は遭遇する敵に対処しながら本社ビル13階、警備課作戦室にて本隊と合流。
以下、課長の指示を仰ぐ」

(;^ω^)「は…把握」

从'ー'从「ブーン君」

(;^ω^)「は…はい」

从'ー'从「これ本当は警備課の仕事だけど…協力してね?」

( ^ω^)「把握したお!」
殺傷能力のほとんどないナイフを手に力強くブーンが応え、ドアを開ける。

ブーンにとって初めての日中の作戦が幕を開けた。



47:◆irDDQfcPYE :02/15(木) 23:14 CAIc5QStO

13階への道は難しい物ではない。
地下から非常階段を駆け上がり、一階に出る。
そのまま更に別の階段を上っていくだけだ。

だがブーンは自分の考えが甘かったのを1階まで上がった時に思い知らされる事になった。

1階ホールに充満するむせ返るような匂い。そして、血溜まり。

正面玄関の警備員からフロントまで、全ての社員は物を言わない塊として転がっていた。

(;^ω^)「これは…」

从'ー'从「…行こう」

残念だが立ち止まっている暇はない。
今は生きている社員を救うのが先決だ。

二人は感情を排し、再び階段を目指して光の消えたフロントを駆け抜けた。

( ^ω^)「あったお」

目に金属製の扉が目に入る。
後はこの階段を上れば―

从;'ー'从「ダメっ!」

渡辺さんが叫ぶのと、扉を開けた手に微妙な抵抗を感じたのは同時だった。

何かが弾けるような音にブーンの本能がガンガンと警鐘を鳴らす。

コンマ1秒以下の世界で本能に従ったブーンが真後ろに飛び込むのと、低い炸裂音を伴った爆炎がブーンの体を包むのはやはり同時だった。

从'ー'从「ブーン君!」

黒煙に包まれたブーンがむくりと体を起こす。

(;^ω^)「おー。死ぬかと思ったお…」

从'ー'从「大丈夫?」

駆け寄ってくる渡辺さんを手で制して立ち上がる。

(;^ω^)「それよりも階段は…」

聞くまでもなかった。
密閉された空間での爆発は上へと続く階段を無残に破壊し尽くしていた。

(;^ω^)「これじゃ…」

从'ー'从「こっち」

立ち尽くすブーンを尻目に渡辺さんは正面玄関の方に向かう。

(;^ω^)(最後まで言わせて欲しいお…)

ブーンの心の声は届くはずも無く、黙って渡辺さんの後に続く。

着いたのはエレベーターホールだった。

( ^ω^)「渡辺さんエレベーターは」

从'ー'从「3号機だけは非常時に外部電源で再起動できる」

(;^ω^)(もう何も言いませんお)

扉を協力してこじ開ける。先に乗り込んだのはやはり渡辺さんだった。

从'ー'从「ブーン君は天井を開けて」

何故かと疑問を感じたがもう何も言うまい。
ブーンは黙って蛍光灯に設置されたハッチを開き、先によじ登った。

渡辺さんが目視できない程の速度でコンソールを操作すると蛍光灯に明かりが戻った。どうやらエレベーターの電源が復活したようだ。
その後13を押してからゴーグルを外し、渡辺さんも続いて上ってくる。

軽い振動と一緒にゆっくりエレベーターが動きだす。
…3階

…5階

…9階

停止。

扉が開くと同時に尋常ではない量の銃弾がエレベーターの中を蹂躙する。

(;^ω^)(これはひどい…)

ふとブーンが横を見ると渡辺さんは冷静に、握っていた銃をドアに向かって構えている。

エレベーターの中で跳ね回った銃弾が顔を掠めるが全く気にした様子もない。

(;^ω^)(さすがは警備課だお)

たっぷり数秒間エレベーターの扉が閉まるまで弾幕は続き、再びエレベーターは動き始めた。

今度は邪魔される事もなく13階に到着する。
だが渡辺さんは下りない。
( ^ω^)「どうしたん」

从'ー'从「保安部警備課、渡辺!下ります!」

1拍置いてから下りる。
二人を出迎えたのは全身を黒に包み、こちらに銃を向けた集団だった。



49:◆irDDQfcPYE :02/16(金) 06:29 y1fUESPRO

「無事だったか、渡辺」

黒い集団を掻き分けて、他の人間より明らかに頭一つは背の高い男が前に出てくる。

从'ー'从「ミルナ課長!お戻りになられたのですか?」

( ゚д゚ )「今朝戻った」

大男が無愛想に答える。

( ^ω^)(この人がミルナ警備課長…)

その伝説的な名前だけはブーンも聞いた事があった。

かつてVIPがそれほど大きな会社でなかった頃、本社で開発された新素材を狙って他社の強襲部隊が10人程襲撃して来た。

それらを一人で撃退したのが当時、日雇いの警備員だったミルナらしい。

その事件を切っ掛けに重役達は警備課、そして対外警備課の設立を決定。
初代警備課長に就いたのがミルナだった。

ブーンが入社してからは本社の警備を信用できる部下達に任せ、自身は海外にある支社の警備をしているとは噂に聞いていた。

( ゚д゚ )「お前は?」

その伝説の男がこっちを見ている。
ブーンは喉まで出かかった暴言を苦労して飲み干すとなんとか返事をする。

( ^ω^)「保安部対外警備課所属の内藤ですお」

ミルナはふむ、と呟いてこちらを値踏みするようにジロジロと見つめてくる。

( ゚д゚ )「奥の会議室にギコがいる。行って指示を仰ぐといい」

ブーンは了解、と返事をして会議室を向いて走りだした。
もう我慢できそうにない。

( ^ω^)「こっち見んな」
小さく呟いてから、会議室の扉を開くと中にいた全員が一斉にこちらを向いた。
ギコを含めて4名いたがドクオ以外の二人は初対面だった。

どうやら作戦会議中だったらしくギコがマーカーを片手に固まっている。

(;^ω^)「お…お疲れさまですお」

(,,゚Д゚)「お前…何をやってるんだ?」

ギコが呆けた顔をして聞いてくる。
それもそのはず、ブーンは本来今日は非番だったからだ。

(,,゚Д゚)「まぁいい。今は戦力が少しでも欲しいからな。座れ」

ブーンが静かに開いている席に座ると、ギコの説明が始まった。

概略はこうだった。

・現在本社ビルはこの13階を除いて完全に敵の手に落ちている。

・幸い今日は社長以下一般社員はフロントと一部の部署を除いて休日を取っており、社内には自分達か6階の社員、敵しかいない。

・敵戦力及び狙いは不明。だが数名ひどく腕の立つ奴らがいるらしく、そいつらは13階から最上階の17階までにいるらしい。

・警備課のミルナ課長と話し合った結果、連携に慣れていない自分達では混乱を起こす可能性がある。
そのためここから上は対外警備課が、下は警備課が担当する。

(,,゚Д゚)「ここまでで質問はあるか?」

( 'A`)「各員1フロアを担当するって事か?」

腕組みをしたままドクオが尋ねる。

(,,゚Д゚)「そうだ」

( 'A`)「とすると、一人余る計算になる」

(,,゚Д゚)「最上階には俺とブーンが行く。後はクジ引きでもして決まり次第、作戦開始してくれ」

その後は質問がないようなのでギコはブーンを伴って先に会議室を出た。

まず最初は自分達のロッカーだ。
足元に転がる敵兵の死体を踏まないように気を付けながら歩く。

(;^ω^)(こんな化け物の巣窟に入っちゃって可哀相だお…)

心の中で冥福を祈っておくが、明日は我が身。
あまりバカにする事もできない。

ロッカーを開けると雑然と物が詰められた中から軍用ナイフ「グラム」と投げナイフを納める肩掛けのベルトを取り出す。

本来ならば特殊ガラス製のナイフや投げナイフの数ももっと多いが、今ブーンが着ている戦闘服は汎用の物であり、それらを納めるスペースがないので今回は使用できない。

隣のギコはと言うと、刃渡り80センチはありそうな巨大な屶をロッカーに立て掛け、両腕の前腕部分に金属製のプロテクターを装着している。

その代わりかどうかはわからないが、戦闘服自体はブーンの物より若干軽装に見えた。

(,,゚Д゚)「行くぞ」

一声かけてから非常階段を上り始める。
恐らく最上階にいるのはモララー。
ギコもそれを感じているのかブーンを伴った。
この判断が成功なのか失敗なのかはまだ誰にもわからなかった――



53:◆irDDQfcPYE :02/16(金) 17:18 y1fUESPRO

VIP本社ビル17階。
―社長室。

重厚な木目のドアが放つ威圧感にブーンは圧倒されていた。

14階以上は役員専用のフロアであるため、最低でも課長クラスにはならないと訪れる機会もない。

(,,゚Д゚)「何をしている。行くぞ」

警戒を怠らずにギコが扉を開く。
開いた扉の隙間から眩しい日光が洩れてくる。
敵はこのフロアの防犯シャッターをわざわざ開けたようだ。
久々の日の光が眼球を刺激する。

「久しぶりだな」

中から誰かの声が聞こえてくる。

( ^ω^)(この声は…)

目が慣れてきたところで一気に踏み込む。

(,,゚Д゚)「モララーはどこだ?」

屶を眼前に構えつつギコが問う。

中にいたのは…本来こちら側で共に戦う仲間のはずの男。

ジョルジュ長岡だった。

(;^ω^)「ジョルジュ…先輩」

声がうまく出ない。
出来れば違っていて欲しかった考えが目の前に現実として突き付けられた。

( ゚∀゚)「隊長はこのフロアには居ないぜ。下のどっかじゃねーの?」

(,,゚Д゚)「ブーン、行け」

頭が混乱している。
目の前に敵としてジョルジュがいる。
彼はモララーを隊長と呼んだ。

(,,゚Д゚)「何をしている!早く行け!」

(;^ω^)「は、はいですお!」

反射という物は恐ろしい。
3年間ギコに扱かれた記憶を体が覚えていたらしい。
ブーンは飛び出すように部屋を出ると階段を駆け下りた。

だが、ふと途中で立ち止まる。

( ^ω^)(モララーが最上階にいない?)

そんな事があるだろうか?
先程ジョルジュを見た時に感じた微かな違和感。
それは実態のない靄のようなもので、何かははっきりとわからない。

だが今回もブーンは自分の本能に従って、再び最上階を目指して走りだした。

一歩一歩進むのがもどかしい。
気付けばブーンは、今まで達した事のない速度で走り始めていた。

重厚な扉を今度は躊躇いなく開く。

中にいたのは…互いの得物を互いに突き付け合ったギコとモララーだった。



58:ややこしい漢字ですいません◆irDDQfcPYE 02/16(金) 21:41 y1fUESPRO

( ・∀・)「ほう!よく気付いたね」

ギコと斬り結んでいるにしては余裕の笑みを浮かべながらモララーはこちらを振り向いた。

( ^ω^)「いくらラウンジとは言え、ジョルジュ先輩の肩はそんな簡単に治らないお」

右手にナイフを掴み、左手に4本投げナイフを握りながらブーンはゆっくり距離を詰める。

自分よりも腕が上の二人が戦う場には独特の緊張感が漂っている。

自分が入る隙など全く見えないし、ともするとギコの邪魔になってしまう。

だが、敢えてブーンはタイミングを待っていた。

ギコが自分を連れてきた理由がそこにはあるからだ。

重い屶を押し込むギコに対して、軍用とは言えナイフで応じるモララー。

いま迂闊にナイフを投げてしまっては離れ際の一撃でギコが斬られる可能性もある。

全てが動きだしたのは一瞬だった。

モララーは腕の力を抜くとギコが押し込む力に合わせて後ろに跳ぶ。

着地際を狙ってブーンが全てのナイフを飛ばす。

モララーはそれらをナイフの一閃で撃ち落とすと、いつの間にか手にしていた投げナイフをギコに投げる。

ギコは腕に着けたプロテクターで弾くと瞬時に距離を詰めて力任せに屶を振るう。

(,,゚Д゚)「ゴルァ!!」

上半身を切断するような袈裟斬り。

決まった。
素直にブーンは思った。

だがモララーはストンとその場に腰を落として躱す。そしてそのまま手にしたナイフをギコの足に突き立てた。

社長室の広い空間に高い音が響く。

( ・∀・)「おや?」

モララーは不思議そうな声をあげると、下半身のバネだけでギコの屶を蹴り上げ素早く立ち上がり距離を取る。

この間僅かに5秒。

( ・∀・)「戦闘服の基本装備を変えたのかね?」

場違いな程にこやかにモララーが尋ねる。

(,,゚Д゚)「アンタのように手癖の悪いのがいるんでな。鉄板は入れた」

対外警備課の初代課長と現課長。
予想はしていたがここまでとは思わなかったというのが本音だった。

息も吐けないとはよく言うが自分が遭遇しているのは、瞬きもできない状況だった。

(;^ω^)(寿命が縮まるお…)

新たに投げナイフを手にして、モララーを中心にしてギコと向かい合う。

(,,゚Д゚)「アンタの目的はなんだ?」

屶を手に眼光鋭くギコが問い詰める。

( ・∀・)「ギコ君らしくもない。私の口癖は知っているだろう?」

こちらは飄々とモララーが答える。

(,,゚Д゚)「力で現状を打破しろ、か。確かにな。行くぞ」

会話の隙を突き、空気と化していたブーンがモララーの背にナイフを投げる。

( ・∀・)「不躾な」

死角である背後からの攻撃。
だが振り返りもせずにナイフを避けるとモララーは手に持っていたグラムをこちらに投げ付けてきた。

その全身を弓として、その指先から矢と化したグラムを放つ。

避けられない。

まだ飛んできてもいないのにブーンは感じていた。

時間の停止した思考の世界で打つ手を探す。

グラムで受ける?
強度が足りない。間違いなく砕かれる。

投げナイフは?
もっとダメだ。

戦闘服で受けるか?
絶対に耐えられない。

どう考えても自分の胸にグラムが刺さる映像しか浮かばない。

絶望の中で胸に掛けたベルトに手が当たる。
いつもとは違う感触。

(;^ω^)(これは…)

躊躇わずに引き抜く。
それはいつもの投げナイフよりも二回り程大きい。

先日の作戦で警備員の死体から回収したモララーの投げナイフだった。

(;^ω^)(これしかないお!)

咄嗟の判断で手の中でグラムと重ね合わせる。

モララーのナイフを前にして飛来するグラムに合わせ、叩きつける。

手のなかに金属が砕ける感触が伝わってきた。



63:◆irDDQfcPYE :02/17(土) 03:47 4VL3jBCfO

視界が大きく揺らいで真っ赤に染まる。

口の中が血の味で満たされる。

ボクの胸から…ナイフが生えている。

改めて見ると大きなグリップ。

刃は全て体内に潜り込んでいる為、全く見えない。
徐々に意識が遠退いて行き、何も見えなくなって行く。
あぁ…ボクは今、死に向かって一直線に走っている。
どこかでガラスが砕ける音が聞こえ、誰かの怒声が聞こえる。

頭に浮かぶのはツンの顔だった。

笑った顔、泣いた顔、怒った顔。

順に浮かんでは消え、最後に見えたのは瞳を閉じて眠るツンの顔だった。

それすらも霞んでいき、ボクはゆっくりと暗闇に沈んで行った。



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