( ^ω^)は殺人者のようです
- 78:◆irDDQfcPYE :02/18(日) 07:07 0NXL5INuO
2月10日、夕方。
目が覚めると真っ白い天井と壁が見えた。
耳元に規則正しく電子音が聞こえる。
窓から差し込む西日に目をしかめて、ブーンは院内着に身を包んだ上半身を起こした。
( ^ω^)「お…?」
周囲の様子からここは病室という事はわかる。
自分は確かあの時、モララーにナイフで…
(;^ω^)「そうだお…胸を…」
ボタンを開けるのももどかしく、上半身を露にするとそこには生々しく縫合の跡が蚓のように走っていた。
(;^ω^)「治ってる…」
そんなバカな。
確かにナイフは心臓には刺さらなかった。
それは断言できる。
VIPの医療部ならあそこからでも蘇生出来たのだろう。
不思議はない。
だが縫合跡が完全に癒着するにはかなりの時間が…
そこでハッと気がついた。慌てて枕元のデジタル時計を引っ掴む。
(;^ω^)「今日は2月の…10日…?」
あの日から丸々5日経っている。
いや、ちょっと待て。
あの傷が5日で治るのか?
ツンは?
VIPはどうなった?
今自分に欠乏しているのは情報であり、ここではなんの情報も手に入らない。
決断は素早かった。
(;^ω^)「こうしちゃいられんお!」
一声叫ぶとブーンはベッドから颯爽と飛び降りた!
ベチャリ。
当然だが、長期間動かしていなかった体は簡単には言うことを聞かず、顔から床にダイブしてしまう。
更にさブーンの体に引っ張られ、背中に付けられていた心拍を感知するコードが千切れる。
その結果、静かな病室にブーンの死亡を告げる電子音だけが鳴り響いた。
(;^ω^)「やっぱ漫画のようにはいかないかお…」
惨めな気分に浸り、今度こそ立ち上がったブーンの目の前にいつの間に病室に入ったのか、見知らぬ女が立っていた。
川゚‐゚)「やっと目覚めたのか」
見知らぬ女?
いや。
自分はこの女の人を知っている。
確かあの日、会議室でドクオの隣に座っていたのは彼女ではなかったか。
川゚‐゚)「互いに話すのは初めてだな。自己紹介しておこうか。私はクーだ」
(;^ω^)「初めまし
川゚‐゚)「現在、対外警備課長を拝命している」
また話を聞かない女だ。
いくら課長とは言えちょっと失礼ではな…
え?課長?
(;^ω^)「いやあのボクはギコ課長の部下なん
川゚‐゚)「ギコ前課長は作戦中に失踪した。今は私が課長を務めている」
(;^ω^)「訳がわかりませんお。ドクオはどこにい
川゚‐゚)「ドクオも同じく失踪。後日ラウンジ本社にてモララーといる所を目撃されている」
頭の中の何か最後の大事な線が切れる音が聞こえた。
今度こそブーンの理解と我慢の限度を越えてしまったようだ。
(#^ω^)「訳のわからない冗談はやめてくれお!何がどうなってるのかさっさと説明しろお!」
突然声を張り上げたブーンに驚く事もなく、クーはあくまでクールに淡々と答えた。
川゚‐゚)「3年も寝ていたくせに元気な事だな」
3年?
クーの言葉の意味を理解した時、ブーンは目覚めたばかりだというのに足元が音を立てて崩れ落ちる感覚と共に世界が暗くなっていくのを感じた―――
- 89:投下したつもりでした。すいませんorz◆irDDQfcPYE 02/20(火) 17:20 rXveDFMKO
2月11日、昼。
VIP本社ビル13階、対外警備課会議室。
朝方に無事退院したブーンは、その足で本社を訪れていた。
軽くノックして会議室のドアを開けると、窓際で下界を無表情に見下して立っているクーの横顔が見える。
( ^ω^)「対外警備課所属内藤、出社しましたお」
入り口で一声かけて部屋に入る。
川゚‐゚)「あぁ、おはよう」
ノックには気付かなかったのか、そこで初めてクーが振り返る。
肩口で切り揃えられた、長い黒髪が頭の動きに合わせてさらりと流れる。
底の見えない彼女の知性を表すような深く、黒い目が自分を見つめる。
綺麗な人だ。
素直にブーンは思った。
ツンも綺麗だがそれとは違う、陶器で出来た人形のような綺麗さ。
彼女自身、対外警備課として勤務していたはずなのだが、その顔には傷一つ見当たらない。
川゚‐゚)「間もなく他の社員も来るだろう。座って待っているがいい」
やはり淡々とブーンに椅子を勧めて、クーは再び下界に視線を落とした。
だがブーンは席に着かずに、クーの背中を黙って見つめていた。
( ^ω^)「…課長」
川゚‐゚)「なんだ」
意を決して話し掛けたブーンに対して、振り向かずにクーは答えた。
( ^ω^)「…昨日は失礼しましたお」
昨日の病院での事。
再び気が付いたブーンは、まだ病室にいたクーに説明を求めたが情緒不安定を理由に却下され、病室で大暴れしてしまったのだ。
慌てて飛び込んできた医者に鎮静剤を打たれ、身動きができなくなったブーンにクーは退院したら会いに来いとだけ伝え病室を後にした。
川゚‐゚)「別に気にはしていない」
(#^ω^)「だったら!ドクオがどうなったか、ギコ課長は!どうして教えてくれないんですかお?」
瞬時に頭に血が上る。
3年前よりもかなり細くなってしまった腕を震わせながらクーに詰め寄るが、彼女はまるで意に介していないようだ。
川゚‐゚)「話さないとは言っていない。少し待て」
その時、開いたままだった扉から数人の足音が響いてきた。
振り返るとそこには見知った顔が二つあった。
从'ー'从「おはようございま〜す」
ξ゚听)ξ「おはようございます」
( ゚ω゚)「…」
昨日と今日で何度目になるかわからない暗闇にブーンは落ちていった…
- 97:◆irDDQfcPYE :02/21(水) 07:58 lMG6ZZYKO
(;^ω^)「ツ…ツン!?」
目の前にツンがいる。
ブーンの記憶で3年前、正確には今から6年前から原因不明の精神退行に陥って入院したはずのツンが。
慌てて駆け寄ろうとするが足はうまく回らずに不様に転んでしまう。
ツンはこちらにチラリと目をやると言葉を発することなくブーンの脇を抜け、席に着いた。
从'ー'从「ブーン君、だいじょぶ?」
代わりに寄ってきてくれた渡辺さんの手を振り払ってツンへと歩み寄る。
(;^ω^)「ツン!どうして何も言ってくれないんだお!ボクだお!」
ブーンの声にツンの背中がビクッと震えるがやはり振り返りはせずに、前を向いたまま声を出した。
ξ゚听)ξ「私は、アナタを知らない」
アナタを知らない?
その言葉の意味がわからない。
いや、意味はわかるが脳が理解しようとしていない。
(;^ω^)「え…?」
たっぷり時間を掛けて、口から出たのはそれだけだった。
川゚‐゚)「彼女は」
それまで状況を黙視していたクーが横から口を開く。
川゚‐゚)「彼女は、モララーから受け取った薬のおかげで病気は完治した。ただし…」
自分の喉が大きな音を立てるのが聞こえる。
一呼吸置いて、クーが続ける。
川゚‐゚)「記憶と引き替えに、だ」
記憶と引き替えに完治?
ドラマや漫画じゃあるまいし、そんな都合のいい話がある訳ないだろ?
(;^ω^)「どうして!VIPでも退行に対する薬は開発できたはずですお!」
川゚‐゚)「君の死後、彼女の容体は激変した。君が姿を見せられなくなったからだ。
結果的にラウンジの薬に頼らないと、今頃彼女は生きてはいなかった」
ボクのせい?
ボクがナイフを避けられなかったから?
ブーンの脳は瞬時にして、あの時の記憶を甦らせていた。
自分の胸に深々と刺さる軍用ナイフを。
それを確認すると、窓を蹴り破って脱出したモララーを。
まるで初めからそれが目的だったみたいに。
(;^ω^)「ボクの死後ってどういう意味ですかお?」
川゚‐゚)「社長室で血に塗れた君を発見したのは私だった。
VIPの直営病院に運んだが、君は手術後に脳死と診断された」
(;^ω^)「だったらどうして今、ボクは動けるんですかお?」
聞かなくとも予測は付いている。
だがそれでも、外れている可能性を信じて聞かない訳にはいかなかった。
結果、その答えが自分を失意に落とそうとも。
川゚‐゚)「つい先日の事だが、事件後から姿を消していたドクオが薬を持ってきた。
…モララーの代わりにな」
( ^ω^)「ドクオが裏切ったんですかお?」
川゚‐゚)「少なくとも首脳陣はそう判断している。事実、彼はその後VIP所有の研究所を襲っている」
ドクオが。
ドクオとはたった一度、仕事でペアを組んだだけの仲だ。
特別深い話をした訳ではないし、なぜドクオがこの仕事をしていたのかも知らない。
だが、彼とは言葉にしなくても深い部分で繋がっている気はしていた。
そのドクオが裏切った。
そして、もう一人。
( ^ω^)「ギコ課長は?」
川゚‐゚)「ギコ前課長は事件後に失踪した。現在は単独でラウンジの研究所を破壊してまわっている」
クーの話が続く程に、ブーンは少しづつ笑いたくなるのを堪えていた。
VIPは彼女を助けるために入社した会社だった。
だが自分の不注意で自分は死にかけた。
そして自分が死にかけた事が原因で更にツンが死にかけた。
だが最終的にツンは完治した。
自分と過ごした記憶と引き替えに。
少し自分は壊れかけているのかも知れない。
泣きたいのに涙が出ない。そんな感覚。
( ^ω^)「次の作戦は?」
呼ばれたという事はそういう事だろう。
川゚‐゚)「モララーから連絡が来た。ツンの記憶を戻す技術があると」
記憶。
何よりも大切なツンの記憶が戻る?
川゚‐゚)「奴の目的はわからんが私と渡辺でラウンジの研究所を虱潰しに破壊する。
そのうちモララーの居場所もわかるだろう」
( ^ω^)「…ボクの仕事は?」
川゚‐゚)「一年で以前までの体に鍛え直せ。ミルナ課長には話を通してある」
今のツンと話しても自分は何もできないだろう。
それを理解していたブーンは今度こそ、涙を流しながら部屋を後にした。
- 103:◆irDDQfcPYE :02/21(水) 22:37 lMG6ZZYKO
ブーンはそのままVIP本社を出て自分の車に乗り込んだ。
1年かけてこんなにも衰えた自分を再び磨き上げる事に意味はあるのか?
記憶が戻ったとしてツンは再び自分を愛してくれるのか?
1年後、以前の自分と同じレベルまで鍛練をしたとしてモララーに勝てるのか?
そしてドクオと対峙した時、果たして自分は戦えるのか?
どれだけ車を走らせようとも変わらない疑問は、車のタイヤの様に延々と頭の中をループしていた。
どれくらい走らせたのか、周囲が暗くなる頃ブーンはある場所に着いていた。
( ^ω^)「…」
着いたのは市内にある巨大な病院。
自分が入院していた所ではなく、幾度となく訪れたツンの入院していた病院だった。
ブーンは座席に座りながら思わず苦笑していた。
いつもVIP本社からの帰り道に来ていた為、体が覚えていたらしい。
何の気なしに車を降り、受付に向かい記帳する。
そのまま通い慣れた階段を上がり、一番奥の個室のドアを軽くノックしてから開く。
わかっていた事だがツンのいた頃とは違い、綺麗に整えられた病室はブーンの心のように空虚だった。
部屋には誰もいなかった。
ベッドに動かずに座っているクマのヌイグルミを除いては。
( ^ω^)「…」
黙ってそれを抱き上げる。
恐らくツンが一生懸命に縫ったのだろう。取れかかっていた腕は歪ではあるが縫い付けられていた。
不器用なツンが必死に縫う姿を想像すると思わず笑みが零れる。
その時、抱き上げたクマから何かが落ちた。
( ^ω^)(…手紙?)
綺麗な便箋を拾い上げると表面には更に綺麗な字で「ブーンへ」とだけ書いてあった。
忘れたくても忘れられない愛しい少し右肩上がりな彼女の文字。
慌てて封を破くと、中から出てきた真っ白い紙に細かい字でブーンへと宛てた文字が並んでいた。
ブーンはベッドに座り、夜が更けるまでたっぷり時間を掛けて何度も何度も繰り返し読んだ。
やがて面会時間が終了する頃、ブーンは病室を立ち去った。
その目にもう迷いはなかった。
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