( ^ω^)は殺人者のようです

175:◆irDDQfcPYE 03/22(木) 14:07 4s1a+IjYO

12月24日。深夜。
ブーン編

緩やかに下降するエレベーター。
ギコと共に乗り込んだそれには独特の緊張感が漂っている。

奥に入ったブーンに背中を向け、ギコは扉を睨み付けていた。

(,,゚Д゚)「もう体はいいのか?」

延々と続く無言に堪え難くなった頃、こちらには顔を向けずギコは口を開いた。

( ^ω^)「あの頃の半分の力も出ませんお」

こちらはギコの背から視線を外さずに返す。

そうか。
一言呟いてギコは視線をエレベーターの階数表示板に向けた。

今は地下10階を越えて15階に届こうとしている。

(,,゚Д゚)「出るとすぐにモララーがいるかもな」

気のせいか屶を握り締めた手が白くなっている。

エレベーターの下降する速度が徐々に緩やかになってきた。
どうやら終着点は近いようだ。

ブーンは左手でそっと軍用ナイフ・グラムを抜くと、静かに構えた。

到着を告げる軽い音がして扉が開くと同時に屶をぶら下げたギコが飛び出した。

ブーンもその後を追い、視線を左右に這わせる。

そこはVIPの練武場そっくりの部屋だった。

ただし誰もいない。

(,,゚Д゚)「裏切り者の望念か…」

ギコが呟くのが聞こえる。
だがブーンはそれには答えず、空気の流れのようにギコの背後に回り首にそっとグラムを這わせた。

( ^ω^)「裏切り者はアンタもですお。ギコ課長」



197:◆irDDQfcPYE :04/16(月) 09:13 IugD341JO

(,,゚Д゚)「どういうつもりだ?」

首元に自分の命を簡単に奪える刃物を押しつけられながらも眉一つ動かさずに、視線だけでギコはこちらを睨んだ。

( ^ω^)「つまらない問答をする気はないですお」

力も込めずに左手を軽く引く。
たったそれだけの動作で全てが終わる。
ギコは頸部から血を吹き出して絶命する。

…はずだった。

目前のギコの体が一瞬沈んだかと思うと、次の瞬間に激しい衝撃に頭を揺らされ宙を舞ったのは自分。

それに気付いたのは数メートルは吹き飛び、肩から地に叩きつけられた時だった。

即座に全身の状態を確認する。

頭が多少ふらふらする以外は特に問題は無いようだった。
グラムもしっかり左手に握り、手放してはいない。

予想外の出来事が起きた時、人が取る行動は理に適わない事が多い。
この時のブーンもまた、そうだった。

何かを忘れているような違和感を感じ、顔を上げる。
と、そこには右肩に屶を振りかぶった人の皮を被った鬼がいた。

(;゚ω゚)「…!」

辛うじて左に倒れこんだ直後、今まで自分の居た地面を屶が砕くのが見えた。

更にギコが右足を一歩こちらに踏み込んでくるのが視界を写る。

咄嗟にブーンは更に左に体を転がすのと、ギコの左足が屶の背を蹴り上げるのは同時だった。

頭皮を刃物が掠める感覚を味わいながら壁際まで転がり、なんとか立ち上がる。

(,,゚Д゚)「ショボンの死体を見られたか」

先程の位置から動かずにギコが平然を口を開く。

( ^ω^)「クー課長も気付いていましたお」

こちらはこっそり息を整えながら返事をする。

(,,゚Д゚)「さっきまでショボンが紛れているのに気付かなかったのも我ながら間抜けな話だがな」

一歩一歩、緩やかに間合いを詰めながら。

( ^ω^)「木を隠すなら森の中、ですかお?」

(,,゚Д゚)「どの道モララーは全部殺す気だった」

互いに隙を探り合う。

ブーンは自分の集中力が最高に達しているのを感じていた。

ギコの呼吸する音まではっきり聞こえる。

距離は3メートル。

知らず知らず本社の練武場の開始線と同じ距離を取っている事に苦笑いをする。

向き合っているのは自分が過去に数百は挑み、一度たりとも負かせた事のない相手。

だが。

それでも今夜は負けられない。

ツンのために。

そして自分のために。

ギコが息を吐くタイミングに合わせて飛び込んだ。



207:◆irDDQfcPYE :04/24(火) 16:11 jQgLM+bEO

―重量のある武器には手数で。

これは古来より伝わる戦闘術のセオリーであるし、正しいと思う。

だがブーンは自分の目前に立つ、元課長の実力をまざまざと見せられていた。

こちらは一拍でナイフを振るえる。

だがギコは重量があるが故に屶を振る前に「構える」という動作を入れざるを得ないはずだった。
が、

(,,゚Д゚)「どうした?その程度か?」

ギコは止まらない。
一つの攻撃を起点とし、その攻撃の勢いを更に次撃に繋げてくる。

それでも重量武器である以上、振り終わりから次撃の間に隙は出来る。

先程からその隙を縫うように投げナイフを撒いてはいるのだが、それらは全て反動を利用したギコ独特のステップに躱されている。

自身の安全を確保した上で絶対の一撃を入れる。
これが生き残る為の必須条件だ。

だが今回に限りそれは出来そうにもない。

直撃さえ避ければなんとか戦闘服の対刃繊維が弾いてくれると信じて飛び込むしかない。

一度決断すれば行動は早かった。

屶の振り終わりを狙ってナイフを投擲する。

これはギコに避けられる。

それを折り込んだ上で投げたナイフを追い、グラムを掲げ突進する。

そこに合わせるように、轟音を伴って横薙ぎの屶が来る。

それをほとんど地に伏せるように作った前傾の姿勢で避けると、逆手に握ったグラムを打ち上げるように上半身を目一杯伸ばす。

喉を縦に裂いてやるつもりの一撃は、頭を後ろに下げたギコによって顎の先端を掠めるだけに終わる。

次の反撃は脳を一直線に断ち割る振り下ろし。

( ^ω^)(殺った!)

それを読み切っていたブーンは、素早く体を左に入れると腰の回転を使って喉元を一文字に切り裂く。

(;^ω^)「!!」

堅い手応え。

見るとグラムはギコの左手に巻き付けられた手甲によって受けとめられていた。

何やら鈍い音がしたかと思うとまたもやブーンは空を飛んでいた。



265: ◆irDDQfcPYE :08/30(木) 12:26 HeDc3M2fO

ブーンはひたすらに「何か」を探していた。
現状を打破しうる「何か」を。

一撃で絶命し得る屶での直撃こそ食らわない。
しかしその屶での攻撃と攻撃を繋ぐ打撃や、鋭い蹴りは的確にブーンの体を捉えていた。

対して投げたナイフは避けられ、なんとか隙を突いて繰り出す斬撃は弾かれる。

お互いに決め手に欠いている。

だが膠着した状況が十分は続いていた頃、決め手では無かった部分が顕著に表された。

それはもう幾度目かわからない位に地面を転がされた時だった。

(;^ω^)(足が…)

立たない。

今まで体験した事のない長時間の戦闘が、緊張が、ブーンの体力を尋常ではなく奪っていた。

対するギコは息一つ乱していない。
両者の間に横たわるのは圧倒的な戦闘経験の差、だった。

(;^ω^)(まともに動けるのは精々あと2回程度だお…)

その間にギコを仕留めなければ。

焦れば焦る程、思考は袋小路を彷徨う。

力の差は歴然。

ギコの屶と自分のグラムでは射程その自体が違う。

ギコにグラムを突き立てるには、彼の嵐のような斬撃の中に飛び込んで行かなければならない。

当然、ギコもそれに気付いているので自然と中に入らせないように屶を振るう。

よしんば中に入ったとしても完璧なタイミングでなければ鉄甲で軌道を逸らされて終わる。

(;^ω^)(あーもう!ナイフなんて選ぶんじゃなかったお!)

内心毒づいたところで状況に変化は無い。
自分自身の持つ引き出しを探るしかないのだ。

( ^ω^)(お?…ナイフ?)

その時、ブーンの脳裏に何かが引っ掛かった。

かつて彼の目前で、ナイフを用いてギコを圧倒した人間がいた。

(;^ω^)(やってみるかお)

成功率は恐らく高くはない。
が、手持ちの技では死を待つしかない状況だ。

ブーンは覚悟を決めると、息を整え言い放った。

( ^ω^)「今から現状を力で打破しますお。その後、知ってる事を全部吐いてもらいますお」

(,,゚Д゚)「いいだろう、来い」

短いやり取り。

ブーンは走りだした。



268: ◆irDDQfcPYE :08/30(木) 16:22 HeDc3M2fO

初動は今までと同じ。

ナイフを胸元から数本引き抜き、投げる。

その影に潜むように態勢を低くして走る。

投げたナイフ達は屶を盾のようにしたギコにあっさり防がれる。

もう何度繰り返したかもわからない遣り取り。

(,,゚Д゚)「少しは期待したんだがな」

先までと同じようにギコが屶を振りかぶる。

今までと違うのはここからだった。

グラムを片手に素早くブーンがギコの元に到達する。

それは時間にすると僅かコンマ数秒かも知れない。

だがその刹那が状況を激変させていた。

(,,゚Д゚)「どういう…つもりだ?」

( ^ω^)「言った通りですお」

一瞬の差によってもたらされた物。
それは互いの刃越しに睨み合う、鍔迫り合いの状況だった。

無論、力任せでは何れギコに押し切られるのが時間の問題である事は両方がわかっている。

だからこそのギコの先程の問いだった。

(,,゚Д゚)「お前には心底失望したぞ!」

叫びながら一気に押し切ろうとするギコ。

(;^ω^)(ここだお!)

瞬間的に腕の力を抜き、屶の圧力に身を任せる。
更には床に腰を落とす。

落ちる速度そのままに、ずっしりと重量のあるグラムを翻す。

狙いは戦闘服の、継ぎ目。

(,,゚Д゚)「!」

ぞぶり、という鈍い手応えをグラムは伝えた。



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