( ^ω^)ブーンが述懐するようです

  
4:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 01:36:52.18 ID:iat94orpO
  
第十一話 新世界の塵【ゴミ】


内藤ホライゾン。満18歳。男。
学歴。
県立ラウンジ高等学校入学。
翌々年、県立ラウンジ高等学校より、ニュー速学園高等学校へ転入学。

――これで、何枚目だろう?
ブーンは履歴書を書き終えると同時にペンを投げ捨て、吸っていたタバコを灰皿代わりのコーラの空き缶に放り込んだ。

(;^ω^)
「初めて履歴書を書いた頃と比べると、だいぶ字がうまくなったお。
このまま『履歴書ライター』として一生を終えるのも悪くはないかもしれんねwwww」



  
10 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 01:42:37.75 ID:iat94orpO
  
自虐的な冗談。独り言なのだから、笑う者は誰もいない。
自分でも全く面白いとは思えない。
彼はだらしなく刎ねた寝癖をいじりながら、テレビのリモコンに手を伸ばした。

既に、季節は冬となっていた。
少しだけ不安だった中間テストの結果は上々、ペニサスとの付き合いも順調だった。



  
13 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 01:48:30.54 ID:iat94orpO
  
反面、アルバイトの方は決まる気配すらなかった。
何しろ、面接の時間の殆どが、ラウンジ高校へ行かなくなった経緯とニュー速学園の学習システムの説明で終わってしまうのだ。
本題であるはずの仕事の内容やシフトについての話は、面接が終わる直前に担当者から幾つか事務的な説明を受ける程度。
当然、結果は不採用。
最初の頃こそ毎度落ち込んでいたブーンだったが、何度も同じことを繰り返すうちに感情が麻痺してきた。



  
14 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 01:56:32.48 ID:iat94orpO
  
(*^ω^)
「面接を受け続けてればカーチャンには怒られないお。
ペニサスにも言い訳が出来るお。
うはwwwwやっぱり僕は天才だおwwww」

…テレビ画面には、センター試験会場から出てくる、彼と同年代の若者たちが映っていた。
レポーターが試験の手応えなどについて質問し、それに対して受験生たちが一言ずつ答えを返す。
夕暮れ時のニュースの時間。
どのチャンネルを観ても同じような映像ばかりが彼の目に飛び込んでくる。

( ^ω^)
「そういえばもうそんな時期かお。
…このクソ寒い中、乙」



  
17:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:02:52.51 ID:iat94orpO
  
自身が決別した道を選んでいる、哀れな凡人たちへの皮肉のつもりで言った台詞が、図らずも二度目の自虐的冗談へと繋がる。

( ^ω^)
「コタツうめぇwwww
家から出ない人生って、最高だお!」

…今度は、少しだけ笑えた。その後すぐに黙り込んだが。
ブーンはテーブルの上の履歴書を片付け、コタツに下半身を突っ込んだまま寝そべった。
「最高の人生」とやらを体現するには、うってつけの体勢であろう。
寝転がったまま背伸びをすると、床に散らばっていた友人からの年賀状が目に入った。



  
19:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:08:35.98 ID:iat94orpO
  
ドクオは、年明け前に就職を決めていた。
東京にある、家電メーカーの営業だそうだ。
彼は就職試験の数日前、「小論文の書き方がわからない」とブーンに助けを求めてきた。
彼は「小学生並みの文章力だ」とドクオを馬鹿にしながらも、必死に手直しをした。
年賀状には、
('A`)
「内定がもらえたのはお前のお陰だ! ありがとう!
次は運転免許の試験勉強手伝ってくれwwww」
と書いてあった。



  
21 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:13:01.93 ID:iat94orpO
  
ギコは、早々に地元の工場への就職が内定していた。
ドクオが苦戦している運転免許の方も既に取得しており、年賀状には、新しく出来た彼女とドライブばかりしているというノロケ報告が記されていた。

どちらの年賀状にも、隅に小さく「ジョルジュと仲直りしてほしい」とあったが、ブーンは黙殺した。



  
22:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:18:29.50 ID:iat94orpO
  
どうやらジョルジュは昨年のうちにドクオに謝罪したようで、ドクオも彼のことを快く許したらしい。
その後、普通に以前と同じく友人関係を続けているそうだ。
トラブルに巻き込んだということでギコやブーンにも謝罪したがっていたようだが、即座に彼を受け入れたのはギコだけだった。
ブーンには、ドクオやギコのような寛大な心が無かった。
むしろ二人の心変わりに呆れ、彼らとも距離を置き始めた。
当然、年賀状の返事も書かなかった。



  
25:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:22:15.02 ID:iat94orpO
  
――嫌なことを思い出した。
ブーンは年賀状を手に取ると、部屋の隅に向かって手裏剣の要領でそれらを投げた。
二枚の年賀状は綺麗に回転しながら飛んでいき、壁にぶつかってストンと床に落ちた。
その音が、ブーンにはやけに可笑しく感じられた。



  
26:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:26:30.40 ID:iat94orpO
  
常識を持った保護者ならば、このような乱れた生活を送っている息子に突っ込みの一つも入れたくなる。
その点においては、ブーンの母親も例外ではなかった。

J('‐`)し
「おい」
( ^ω^)
「はい」
J('‐`)し
「仕事は?」
( ^ω^)
「無問題だお。今日も履歴書いっぱい書いたおwwww」
J('‐`)し
「……」



  
28:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:29:31.30 ID:iat94orpO
  
( ^ω^)
「ん? どうかしたかお?」
J('‐`)し
「…もし」
(;^ω^)
「……?」
J('‐`)し
「もし、カーチャンが仕事辞めたいって言ったら、どうする?」
(;^ω^)
「ちょwwwwwwww
予想GUYです」



  
29 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:33:50.33 ID:iat94orpO
  
J('‐`)し
「まあ、職場で色々あってね」
(*^ω^)
「(絶対、この性格のせいで喧嘩になったんだお)」
J('兪)し
「…何か?」
(;^ω^)
「何も」
J('兪)し
「まあいいや。聞けよ」
(;^ω^)
「(なんでこんなに偉そうなんだお?)」



  
32 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:48:11.59 ID:iat94orpO
  
J('‐`)し
「当面の生活費は、退職金と失業保険でなんとかするつもり。
…でも、それもいつかは尽きるでしょう」
( ^ω^)
「再就職すればいいと思うお」
J('‐`)し
「まあね。でも、しばらくはゆっくりするつもり」
(;^ω^)
「しばらくって、いつまでだお」
J('兪)し
「…お前がバイト始めるまでだよ」

そう、例外ではなかった。
…その手段を除いては。



  
30:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:42:35.89 ID:iat94orpO
  
(;^ω^)
「ちょwwwwwwwwwwww
予想外DEATH」
J('兪)し
「ごめんね。カーチャン強硬派だからごめんね」
( ^ω^)
「何この母親wwwwもうだめぽwwww」
J('兪)し
「わかったらさっさとバイト決めるんだね。
もうこっちは退職届を出しちゃったんだから。
来月から普通の主婦に戻ります」
( ^ω^)
「バカスwwwwwwww
息子を働かせるために退職届まで出すかwwww」



  
34:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 02:54:11.71 ID:iat94orpO
  
J('兪)し
「別にお前の将来を案じて、とかじゃないよ。
あたしは、ニートの息子のために汗水流して働くのが馬鹿馬鹿しくなっただけ。
何を勘違いしてるんだか、糞ニートが」
(#^ω^)
「ニートニートうるさいんだお!!11!!
辞めたらお前もニートじゃねーかwwww」
J('兪)し
「職歴も資格も無い、本格派ニートに言われたかないね。
ほら、今すぐ求人広告漁ってこい」
(#^ω^)
「クッ…後で吠え面かくなお!!」

⊂二二二(#^ω^)二二⊃バルバルバルーン



  
36:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:00:40.51 ID:iat94orpO
  
威勢よく自分の部屋に戻ったブーンであったが、何度求人広告を見直しても、面接に受かるようには思えなかった。
しかし立ち止まっているわけにもいかない。
何しろ、今までとは全く状況が違うのだ。
自分のみならず母親まで無職とあっては、近所や親戚のいい笑い者である。
何処の世界に、自ら進んで世間の笑い者になりたがる自称「天才」がいるだろうか。

(#^ω^)
「カーチャンめ…。あいつと和田勉だけは必ずヌッコロスお。
…それはひとまず置いといて、面接をパスするいい方法を探さないといけないお。
まずは完璧な履歴書を作り上げるかお」



  
37:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:07:25.27 ID:iat94orpO
  
最初に思いついたのは、学歴の改竄。
つまり「ニュー速学園へ転入学」の一文を削りさえすれば、普通の高校生バイトとして扱ってもらえるのではないか、というわけだ。
中退でないとはいえ、やはり県下有数の進学校から県外の通信制高校への転入学というのは、他者には何らかの事情を感じさせる記述である。
結果、どうしても面接担当者の興味はアルバイトの志望動機よりそちらの方に向かってしまう。
ならば、最初からニュー速に在籍していたことにした方が、担当者の態度も幾らか和らいでくるのでは?
彼はまずそう考えた。



  
39:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:12:34.33 ID:iat94orpO
  
(;^ω^)
「でも、嘘はいつかバレるものだお。
バレたら何を言われるかわからないし、改竄は危険かもわからんね」

次に思いついたのは、志望動機欄への追加記入。
ペニサスの勧め通り、彼はファミレスのキッチン勤務を中心に面接を受けていた。
志望の動機は、大まかに言えば「料理が好きだから」。
この「料理好き」のところに「将来は調理師免許取得を希望」とでも付け加えておけば、少しだけ有利になるかもしれない。



  
42:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:18:07.09 ID:iat94orpO
  
(*^ω^)
「タモさんも『将来は大学院に行くつもりです』と面接で言って、早稲田に受かったらしいお。
これは名案wwww」

彼はさらに労働条件に関する妥協、働くことに対する熱意を事細かに書き加え、証明写真も近所の写真館まで撮り直しに行った。
…こうして、彼自身の言う「完璧な履歴書」は出来上がった。

( ^ω^)
「フヒヒ。次の面接は明日だお。
僕の本気を、カーチャンに見せ付けてやるお」



  
47 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:34:31.98 ID:iat94orpO
  
翌日、夕方――。
学校帰りの高校生や、仕事を終えたサラリーマンで埋め尽くされた電車の中に、真剣な表情をしたブーンの姿があった。
今回の応募先に行くためには、電車を使わなければならない。
近場のファミレスは殆ど不採用だったため、仕方なく少し遠方まで応募範囲を広げたのだ。
とはいうものの、乗車時間は僅か5分に満たない。
自転車で行こうと思えば充分に行ける距離である。
この辺りにも彼の努力嫌いな性格が表れているのだが、あえて細かく分析する必要もなかろう。



  
48 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:40:11.89 ID:iat94orpO
  
駅から徒歩10分。
今回の応募先である和食ファミレスは、車の往来こそ多いが、特に栄えているわけでもない中途半端な場所にあった。

(@ー@)
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
(;^ω^)
「失礼しますお。
アルバイトの面接に来た、内藤ですお」
(@ー@)
「ああ、面接の。少々お待ちを。
今、お茶をお持ちしますのでどうぞこちらの席に」
( ^ω^)
「ご親切にどうもだお」



  
49:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:44:06.21 ID:iat94orpO
  
時間のせいもあるだろうが、店内に客の姿はなく、奥にあるキッチンからはバイト同士の雑談が聞こえてきた。
( ^ω^)
「あまり人気のない店なのかもしれんね」

先程の男性店員に出された茶をすすりながら、鞄から履歴書を取り出すブーン。
机の脇に置いてあるメニューを眺めていると、キッチンの方から細身の男性が出てきた。



  
50:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:49:41.47 ID:iat94orpO
  
(-_-)
「…店長のヒッキーです」
( ^ω^)
「内藤ですお。
よろしくお願いしますお」
(-_-)
「…では、履歴書を拝見」
(;^ω^)
「どうぞ」

ヒッキーは細い目をさらに細くして、ブーンの差し出した履歴書の内容を一つ一つ確認している。
自信満々に書き上げたものの、ブーンは内心不安だった。
――これでダメだったら、もう本当に学歴の改竄しか手段は無い。
が、再び顔を上げて彼の方を見たヒッキーは、今までの面接担当者とは全く違う質問を返してきた。



  
51:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:53:59.26 ID:iat94orpO
  
(-_-)
「…通信制高校、ですか。
ランチ帯には入れますか?」
(;^ω^)
「ランチ?」
(-_-)
「…失礼。開店から15時までの時間帯のことです」
( ^ω^)
「あ、そういうことですかお。
スクーリング――登校日は第三日曜だけですから、基本的には大丈夫ですお」
(-_-)
「そうですか。…では、よろしくお願いします」



  
53:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 03:59:53.61 ID:iat94orpO
  
(;゚ω゚)
「お? え? フヒッ?
採用かお?」
(-_-)
「ええ。
正直な話、明日からでもお願いしたいところですが」
(;^ω^)
「うはwwww
mjskwwwwww」
(-_-)
「…諸事情ありまして、ランチ帯の人員が不足しているんです。
内藤君は高校生ということでしたので、今回の採用に関してはだいぶ悩んでいたのですが…。
通信制高校でよかった」
(*^ω^)
「そんなこと言われたのは初めてですお。
一生懸命働きますお!」



  
54:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:04:27.23 ID:iat94orpO
  
(-_-)
「…色々と準備も必要なので、出勤日についてはまた後日連絡します。
とりあえず印鑑、それに住民票と通帳のコピーを用意しておいて下さい」
(*^ω^)
「頑張りますお!
履歴書に書いてある通り、僕は料理が大好きで、いずれは調理s」
(-_-)
「…本日は寒い中お疲れさまでした。
失礼します」
(;^ω^)
「あ、はいだお」



  
55:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:10:33.83 ID:iat94orpO
  
事務的に必要事項だけを伝えると、ヒッキーは再びキッチンの方へと消えていった。
ブーンは唖然とした表情でその後ろ姿を見送っていたが、すぐに我に返り席を立った。
案内してくれた店員に会釈をし、店を出る。

( ;ω;)
「…もっと志望動機に食い付いてくれお。
なんのために履歴書をいじったと思ってるんだお」

駅に着くまで、彼はずっと愚痴を言い続けた。
しかし、これで母親や周りの人間から収入の件で色々と言われることが無くなるであろうことに気が付いたのか、家に帰る頃には既に笑顔を取り戻していた。



  
56:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:14:45.32 ID:iat94orpO
  
( ^ω^)
「ただいまビームだお!」
J('兪)し
「なによその変な挨拶は。ふざけてるの?」
(#^ω^)
「なんだと…いや、ケンカしてる場合じゃないお。
採用されたお」
J('‐`)し
「へえ。半ニートから半フリーターに格上げか」
( ^ω^)
「そうだお」
J('‐`)し
「まあ、続けばいいけどね。
お前みたいな根性無しじゃ、一ヵ月も保たないんじゃない?」



  
57:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:19:04.14 ID:iat94orpO
  
(#^ω^)
「ニートに説教されたくないお。続けてみせるお」
J('兪)し
「ピンポーン。ピンポーン」
( ^ω^)
「何の音だお?」
J('兪)し
「お祝いに寿司でも取ってやろうかと思ったけど、今の発言で取り消しになりました」
(;^ω^)
「mjd?」
J('兪)し
「これでも食ってろピザ」
(;^ω^)
「アッー!! また丸ごとバナナwwww
どんだけ好きなんだおwwww」



  
58:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:26:14.81 ID:iat94orpO
  
ともあれ、内藤家の「一家総ニート」状態という危機は早々に回避された。
手段こそ乱暴ではあったものの、ブーンの母親の策略は、息子の自立を少しだけ後押しする結果に繋がったわけである。
また、これは後に判明することだが、彼女は決して後先を考えずに退職を決めたわけではない。
事実、彼女は既に再就職の目処をつけており、退職の本当の理由は資格取得の勉強のためであった。
…タイミングが良かったとはいえ、息子の更生のために自身の退職すら利用する母親。
身近な策士の存在に気付かぬまま、天才を自称する男は上機嫌で踊り続けた。



  
60:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:30:37.02 ID:iat94orpO
  
店から連絡が来たのは、翌日の夜だった。
何故か電話の相手はヒッキーとは違う男で、ブーンがまだ指示された通りの物を準備していない旨を伝えても、
「後でいいから、明日の朝からよろしくお願いします」
としか言わなかった。
彼は相手のその態度を不審に思ったが、せっかく決まった採用を取り消されることを恐れ、特に何も指摘せずに電話を切った。



  
61 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:35:41.13 ID:iat94orpO
  
そして迎えた初出勤の日。
ブーンは日課である朝の勉強を終えると、約束の時間よりもかなり早めに家を出た。
電車で5分、下車後徒歩10分。
一度通った道なので、迷うことは無い。想像以上に早く着くことが出来た。
店の裏口のドアを前にして、ブーンは精一杯の笑顔を作った。
が、ドアを開けた先には早くも予想外の出来事が待ち構えていた。



  
63:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:41:01.84 ID:iat94orpO
  
( ^ω^)
「おはすー。今日からお世話になりますお」
( ^Д^)
「おはよう。
店長のプギャーです。よろしく」
(;^ω^)
「…ん? え?」

自分に対して笑顔を向ける小太りの若い男に、ブーンは怪訝な表情を返す。
当然の反応だ。
自分を採用した人物とは明らかに別の人間が、目の前で「店長」を名乗っているのだから。
凍り付いた笑顔のまま、ブーンは目の前の男に質問を返した。



  
65:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:45:31.33 ID:iat94orpO
  
(;^ω^)
「あうあう…ヒッキーさんは…?」
( ^Д^)
「ああ、あの人は辞めたよ。昨日から俺が店長だ」
(;^ω^)
「ちょwwww
う…あ、改めてよろしくお願いしますお」
( ^Д^)
「ああ。更衣室はそこのドアの先だ。
制服が置いてあるから、まずはそれに着替えるように」
( ^ω^)
「はいだお」



  
66:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:51:40.49 ID:iat94orpO
  
ブーンはプギャーに対して軽く頭を下げ、指示通りに更衣室へと足を向けた。
プギャーの言葉の通り、更衣室のロッカーの隅には、男物の制服が一式と「内藤」と書いてある名札、同じく名前の記されたタイムカードが置いてあった。
手早く制服に着替え、再び更衣室のドアを開ける。

( ^ω^)
「着替えましたお」
( ^Д^)
「おう、見りゃわかる。
じゃ…少し早いが、仕事を始めようか。
他の人たちもじきに来るだろう。
内藤君の紹介はその時に」
( ^ω^)
「把握したお」



  
68:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 04:57:49.59 ID:iat94orpO
  
プギャーの後に付いていき、言われた通りにタイムカードの打刻と手洗いを済ませる。
キッチンに足を踏み入れると、若干外よりも空気が冷たいように感じられた。
緊張のためだろうかと思い、ブーンは深呼吸をした。

プギャーはまず、開店までにブーンがやるべき仕事を簡単に説明し始めた。
茶碗蒸しの作り方、野菜の仕込み、天ぷらダネの準備などを早口で説明し続けるプギャーに、ブーンはただ圧倒されていた。



  
69:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:02:47.87 ID:iat94orpO
  
多少料理の経験があるとはいえ、彼は素人である。
ある程度のことは自己流でなんとかなっても、初日からファミレスのマニュアル通りに動ける素人など、そうはいない。
説明された通りに仕事に取り掛かったものの、緊張のせいもあり、彼は何度もプギャーの注意を受けた。
最初の方こそ笑顔を保っていたプギャーだったが、あまりにブーンの手際が悪いために、次第に表情や態度から余裕が消えていった。



  
70:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:09:58.73 ID:iat94orpO
  
( ^Д^)
「おーい…さっき説明したばかりだろうよ」
(;´ω`)
「おっおっ…すいません」
( ^Д^)
「まあいい、続けて。
…だっ、そうじゃないって言ってるだろバカ」
(;´ω`)
「すいません…」
(;^Д^)
「…せめて言われた通りにやってくれよ。
5歳6歳のガキじゃないんだからさ」
(;´ω`)
「……」
(#^Д^)
「返事くらいしろって。
…俺も他にやること一杯あるわけよ。
でも君が仕事を覚えるまで、他の仕事に取り掛かれないわけ。
わかってる? ていうか、聞こえてんの? 耳悪い?」
(;´ω`)
「はいだお(いちいち言い方がキツイんだお)」



  
71:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:14:16.56 ID:iat94orpO
  
プギャーの口から舌打ちや溜め息が発されるたびに、ブーンの表情は固くなり、手は震え…そしてまた失敗をする。
何度かその悪循環を繰り返していると、キッチンの入り口から何人かの話し声が聞こえてきた。
途端にプギャーの顔色が変わる。

(;^Д^)
「おはようございます、皆さん!」



  
72:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:20:48.76 ID:iat94orpO
  
先程まで不機嫌そうにブーンのことを睨み付けていた男。
初対面の時の笑顔は偽物だったのではないかと思えるくらい、陰湿かつ冷淡な態度で彼を責め続けていた男。
その男が、不自然ながらも満面の笑顔で従業員たちを出迎えている。
彼のこの豹変ぶりには、さすがのブーンも驚いた。

プギャーに促され、ブーンは全員に向かって簡単な自己紹介をした。
だが、先程まで暗い表情をしていたのに、急に元気な挨拶など出来るはずがない。
誰とも目を合わさず、小声で自己紹介をするブーン。



  
74:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:29:52.86 ID:iat94orpO
  
そんな彼が笑顔と拍手で迎え入れられるはずもなく、全従業員が「よろしく」としか言葉を返さぬまま、すぐに各々の持ち場についてしまった。
…以前、ブーンは母親に向かって「職場に馴れ合いなど必要ない」と啖呵を切った。
しかし従業員たちの態度を見たことで、彼も自分の言葉を真剣に後悔したのだろう、ただ俯いて仕事をすることしか出来なかった。

(;^Д^)
「俺はホールに出なくちゃならないんで、後は他の人の指示に従ってくれ。
上がる時間になったら、俺から声を掛けるから」
( ´ω`)
「把握したお」



  
75:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:35:36.73 ID:iat94orpO
  
プギャーが去った後も、ブーンは黙々と地味な作業を繰り返した。
ただ、先程までとは違い、誰にも注意はされなかった。
もちろん、失敗をしなくなったからではない。
誰も彼の仕事ぶりになど興味を持っていないのだ。
ブーンを除くキッチンの従業員は、全てパートの主婦。
彼女らは仲間内だけで様々な話をしては、何度も楽しそうな笑い声を上げていた。
雑談の合間に仕事、その合間に少しだけブーンに新しい仕事を任せる。
ずっと、その調子である。



  
76:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:45:09.95 ID:iat94orpO
  
たまに彼が任された仕事について何か質問すると、彼女らはわざとらしい溜め息をつき、面倒そうにその質問に答えた。
馴れ合いの無い世界…あくまでそれは、ブーンの周囲だけに限った話であった。

それでも、彼女らの雑談に聞き耳を立てているうちに、多少の収穫はあった。
まず、二ヵ月ほど前にランチ帯のパート主婦のうち数人が、前店長のヒッキーと揉め事を起こし、店を去ったということ。
それに伴い、店に本社の査察が入り、ヒッキーが精神的にも肉体的にも追い詰められて自主退職したということ。
そして、ヒッキーの二の舞にならぬよう、新店長プギャーが残ったパートたちのご機嫌取りをし、彼女らが辞めぬよう必死に引き止め続けているということ。



  
77:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:50:52.82 ID:iat94orpO
  
(;^ω^)
「なるほど。そういう背景があったのかお。
でも…じゃあ、新人の僕は店長のストレスの捌け口になってしまったってことかお?」

冗談じゃない、とブーンは怒りに震えた。
このまま仕事を投げ出して帰ってしまおうかとも考えた。
しかし、先程言われた台詞を思い出し、すんでのところで踏みとどまる。

( ^Д^)
「――そうじゃないって言ってるだろバカ」
( ^Д^)
「――5歳6歳のガキじゃないんだからさ」
( ^Д^)
「――ていうか、聞こえてんの? 耳悪い?」



  
78:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 05:56:46.45 ID:iat94orpO
  
思い出したのは、プギャーの言葉。
店の最高責任者にも関わらず、たかがパート程度に怯えてヘコヘコしている男に言われた、プライドを傷つけられる言葉。
…不思議なものである。
一つ思い出すたびに次々と、過去に浴びせられた気分を害する台詞がブーンの頭の中に甦ってきた。

「内藤君テラバカスwwww」
「こんな問題もわからないのか。
チッ、半年ROMってろ童貞」
「なんとでも言ってろ、口だけ野郎」



  
80 :◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 06:04:03.23 ID:iat94orpO
  
(#^ω^)
「…ここでキレて投げ出すのは、人間として間違っている希ガス。
あのクソ店長に馬鹿にされなくなるまでは、絶対に辞めないおwwww」

内藤ホライゾン。満18歳。男。
学歴。
県立ラウンジ高等学校入学。
翌々年、県立ラウンジ高等学校より、ニュー速学園高等学校へ転入学。
職業。
学生兼ニート改め、新人アルバイト。

初日のバイトを終え、家路に着く彼の瞳には、悲しいほどに暗い色をした炎が宿っていた。



  
81:◆TigerQqrbI:2006/12/23(土) 06:06:59.49 ID:iat94orpO
  
今回は次回予告を考えられるほど脳が元気じゃありません(´・ω・`)
代わりにこれを

DEC 22, 2006
今日、続きを書こうとした作者が一人、休日出きんした、て はなしだ。
俺、いちにち中 ねむいだるい。
あいもな 使てたら またVIPだけ読めなくなりやがた。
いったいこれ どうな て

DEC 23, 2006
やと いえ ついた も とてもねむい
さっき 運営いったが、よく わから い


わから んちん でんわーきたまたあしたも しご
なきそ です。

4
やすみ
くれ



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