( ^ω^)ブーンは侍になるようです

  
13: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:00:14.20 ID:4G7yNiVv0
  
 2.

(#´・ω・`)「何ボーっとしてやがる!!!タマ落としやがったか!?」

 周囲に響く銃声と、耳元で響いた怒号に、俺の意識が現実に引き戻される。
 反射的に声のした方へ振り向くと、そこには見慣れた顔があった。
 名前はショボ。変わった名前なので、親交が始まったばかりの頃からやけに印象に残ってる奴だ。
 軍用ヘルメットの下から、下がり眉毛の、ガキみたいな顔立ちが覗いている。
 身長もこれまたガキみたいに低いが、そのことを指摘したヤツは全員鼻っ柱を殴り折られ、
 顔を平坦に整地されて病院送りにされている。

(#´・ω・`)「弾ならそこらへんにいくらでも転がってんだ!さっさと拾いやがれ!!これ以上腑抜けたツラしやがったら脳みそ抉り出してクソ詰めるぞ!!」

 ショボは顔に全く似合わない罵詈雑言をまくしたてる。声も高めなので耳に障る。
 俺は多少戸惑いながらも、ああ、と適当に返事を返す。
 何故だか先ほどまで、街中に居たような気がするが、
 なんだか酷く曖昧な記憶でしかなく、妙な気分になる。
 どうやら記憶に混乱が生じているようだ。
 気持ちが落ち着かずに空を見上げると、
 制空権確保のために自軍、敵軍の戦闘機が空中戦を繰り広げている。
 おまけに周囲からは敵軍の分隊支援火気の掃射音が響く。
 上も下も回りも糞うるさい。死ね。みんな死んじまえ。畜生。
 混濁している記憶に不快感を覚え、試しに自分が何者なのか思い出してみる。



  
14: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:02:05.85 ID:4G7yNiVv0
  
 俺の名前は内藤ホライゾン。大晃龍国軍第六歩兵師団、抜刀機兵中隊、通称『抜刀隊』所属の第二小隊長。階級は技術軍曹。
 ちなみに俺の隣にいるショボは一等軍曹で第三小隊の小隊長。
 現在は適当な遮蔽物に隠れて、敵の銃弾を逃れている真っ最中。

( ^ω^)「よし、大丈夫。俺は正常だ」
(#´・ω・`)「正常じゃねえよ」

 自分なりに納得し、思わず漏れた呟きに帰ってきたのはショボの持つ小銃の銃床による頬への打撃だった。
 痛い。
 が、殴られてよろめいた俺の、先ほどまで顔があった位置を、
 音速など遥かに凌駕した毎秒1000mのライフル弾が通り過ぎていくのを見て、俺の口からでかかった文句が引っ込む。
 ショボが何事かを喚きたてているが、俺の意識はそこにはもうない。
 俺は今更ながらにこの世界のルールを思い出していた。
 そうだった。この世界では、この戦場ではどんな英雄だろうと、
 どんな事情のある奴だろうと―――

(#´・ω・`)「おい聞いてんのか馬糞野郎!俺たちゃピクニックに来てんじゃねーんだぞ!!」

 運の悪い奴は何の関係も意味も無く死んでいくのだ。



  
17: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:08:58.87 ID:4G7yNiVv0
  

 俺、こと内藤ホライゾンやショボは龍機兵、
 それも甲種系列の龍機兵の最終ロットの一人だ。
 龍機兵というのは「千年戦争」が始まって以来作られてきた人体機械化技術のと、
 生体強化技術の結晶にして、我等が大晃龍国の栄誉ある「龍」の字を与えられたサイボーグ兵のようなものだ。
 遺伝子強化や薬物等による生体強化、
 それに体内の器官の機械部品や生体部品との交換によって生み出された超兵士。
 体だけでなく脳にまで戦場への適化処理を施し、
 頭蓋骨の内側にメモライザーや思考加速装置等の機械を仕込まれた初期型の甲種。
 人道的な見地から脳への適化処理を施さず、体だけを改造した後継機の乙種。
 そしてさらに、最低限の脳への改造を施してある最新機の丙種。俺たちは初期型の甲種だった。
 その中でも頭蓋骨の内側にメモライザーや思考加速装置等の機械をぶち込まれ、
 脳に戦場や作戦行動への適化処理を施された甲種龍機兵は、技術が確立される以前から、
 「個人の人格を改造し、個性を破壊する」等、
 人権的な観点から問題にされ続けてきた。
 なんでも、甲種龍機兵の中には極稀に適化処理の影響でこれまでの記憶を一部、
 または一切合切無くしてしまう奴なんかも居るらしい。
 647年ほど前にその最終ロット数百名が龍機兵化手術を施されて以来、
 甲種龍機兵は事実上廃止となった。
 龍国歴7150年。現在ユーラシア大陸の東側で行われているこの戦争は、
 名前こそ「千年戦争」と呼ばれてはいるものの、実際は三千年近くも続いている。
 これは俺の祖国、龍の形をした晃龍列島を中心として、
 ユーラシア大陸極東に勢力圏を持つ大晃龍国と、
 大陸の西側を勢力圏としているリゲイア聖域連邦が、
 大陸の東側の土地を巡って起こした戦争だ。



  
19: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:11:15.31 ID:4G7yNiVv0
  

 そもそも、何故土地を奪い合う事になったのかを説明するには、
 時を相当遡らねばならない。
 遥か昔にあったという核戦争によって、殆どの大陸の国家、文明は消失した。
 戦争後の”灰色の一年間”は舞い上がった粉塵が太陽光を遮り、
 海も土も数百年にわたって汚染され、
 人々が地上に住む事は無くなった。
 奇跡的に核戦争での被害の少なかった、
 いくつかの国々が建設したエクメーネの中を除いては。
 エクメーネとは、街をすっぽり覆う外壁とドームに包まれた都市群のことだ。
 核戦争の影響が少ない、いくつかの狭い土地の中で暮らすため、
 自然とそれらの都市群は高く、高く、天に伸びる様に造られていった。
 核戦争以前に力を誇っていたといういくつかの国々の生存者達が建国した七大列強と、
 あちこちに点在する小国。それらの中に建てられた大小のエクメーネ。
 それだけが世界だ。
 国々が統治していないそれ以外の土地は、
 放射能の影響が無くなった今も開発される事無く、
 放っておかれた未開拓地になっていたが
 、近年になって国々はその土地での新たなエクメーネの建設に着手し始めた。
 そのために、ユーラシア大陸東側の土地の覇権をかけて大晃龍国と、
 リゲイア聖域連邦の間には幾度と無く戦争が勃発してきた、
 という事になってはいるが、実際のところは両者に戦争勃発当初のような憎悪や
 「新しいエクメーネ」の建設などという開拓心はとうに失われている。
 俺たちも敵も、「俺達はなんで戦っているのだろう」なんて、
 漠然とした疑問を抱きながら戦い続けているのだ。



  
20: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:15:50.52 ID:4G7yNiVv0
  
 新たな土地など手に入れなくても、既存のエクメーネ内で十分国内の人口を養っていけるし、
 なによりも彼等の社会や生活自体が”止まって”しまっている。
 どんな技術の革新や発見も、結局のところは
 「自分が死ぬまでに夢を実現させたい」
 というような感情から生まれるところが大きい。
 技術の発展と共に人々の平均寿命が延びるに連れて、人々の心には余裕が生まれ、
 技術や社会の発展速度は緩やかになっていた。
 殆ど寿命というものが無くなったといって良い今、
 世界は完全に止まってしまった。
 小国には多少の「発展してやる」という意気込みはあるが、
 人々から「死」というものが遠く離れてしまった現在、
 その発展速度は亀の歩みよりも遅いといっても過言ではない。
 「どうせ時間はあるのだから、何時かやればいいや。今やる必要は無い」
 という思いがエクメーネ内の人間たちの間に蔓延しているのだ。
 世界は完全に停滞の時期を迎えた。
 死から離れた事によって人類の未来性や発展性は失われてしまったのだ。
 死を克服する事が未来を失う事に繋がるとは随分皮肉な話だ。
 大晃龍国とリゲイア聖域連邦間に勃発した七度目の戦争、
 千年戦争とて例外ではない。
 いまや、戦争が続いている理由は「特にやめる理由もないから」という程度のものだった。
 この戦争は最早、過去の感情の惰性でしかなく、人々が昔持っていた発展性の残滓に何時までもしがみ続けているだけのものでしかない。
 結局のところ、三千年近く続いているこの千年戦争とは、「終ってしまった戦争」でしか無いのだ。



  
23: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:18:04.45 ID:4G7yNiVv0
  
 だが、そんな戦争も一部の人間達にとっては、重大な意味のある戦争となる。
 戦争中毒の頭のイカれたウォージャンキー達だ。
 「ただ生きているだけ」で何不自由なく生きていけるエクメーネの住人が何故戦場などという危険な場所に赴くのか。
 答えは簡単だ。生きている事を実感したいから。それに尽きる。
 こんな風に言ってしまえば、安っぽく聞こえてしまうかもしれない。
 しかし、「生きている事を実感する」ということが、
 この世界の中でどれだけ珍しい事か、どれだけ難しい事か。
 そういったウォージャンキー達がどういった人間かを説明するには、
 「運が悪い人間」、ただこの一言で事足りる。
 大晃龍国の徴兵制度では毎年一度、50歳を迎えた人間の十分の一が徴兵されていく。
 自分自身の不死で、子孫を残すという事の意味を失った今、エクメーネ内の出生率は下がり、
 とんでもない規模の少子化が起きているが、技術の進歩と出撃回数の低下等の様々な要因によって、
 今のところ兵員の不足は見られない。
 むしろ、余剰人口や余剰労働力を解消するために、
 政府が意図的に戦争を続けているような節さえ見られる。
 兎も角、そういった理由で徴兵され、戦場を目の当たりにした人間はまず絶句し、驚き、
 そして引き込まれる。
 戦場というものが持つ魔力に。
 自分のすぐ側に死の女神の抱擁が迫っている、その緊張感に。
 圧倒的なまでの、周囲の発する「生き残ろう」という意思の流れに。
 戦場の持つありとあらゆる魅力に引きずり込まれ、取り込まれる。
 エクメーネの中で、「生きている」というより、
 「死んでいない」だけでしかない生活を送っていた連中が戦場で初めて出会ったそれらは、
 彼等の脳に鮮烈に叩きつけられ、焼きつけられる。
 そうなれば、もう抜け出せない。



  
38: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:26:34.06 ID:4G7yNiVv0
  
 彼等が今まで生きてきて、初めて見つけた「生きている」場所、戦場。
 彼らの今までの人生が、「今まで生きてきて」などと表現できるものではないことを教えた場所、戦場。
 徴兵期間を終えても、職業軍人として軍に籍を置き続ける人間は、徴兵されてきた人間の約九割。
 残りの一割は筋金入りの無気力人間。何の救いも無い、終わってしまった人間。
 幸いにも俺は九割の方の人間だったようだ。
 生きるという事を知ってしまった俺に、
 もはやあの抜け殻のようなエクメーネでの生活に耐えることなどできそうになかった。
 自然、俺は軍に残る事となった。
 戦場で感じる充足感、それを得るためならば多少の辛苦程度耐えてみせる。
 そして今日も俺は、生きている事を実感できる―――

 
 などと少し気取って見たところで状況は変わらない。
 俺と、第二小隊、そしてショボの率いる第三小隊は現在、
 敵の急襲を受けて中隊本隊から分断、廃楼閣群の廃屋の一つに身を隠している。
 かつてこの地に存在したという国の高層ビル群。
 その残骸でできた廃楼閣群、通称R.S.Fの元はビルが建っていたであろう、
 現在は壁の一部のみが残る遮蔽物の群れに屈んで隠れながら、俺は周囲を見渡す。
 コンクリートジャングル。核戦争以前の旧世紀では無常な都会の事を、
 居並ぶビルを木に見立ててそう呼んだらしいが、
 今俺が潜んでいるこの瓦礫の森こそ、かつてのビル街よりも数倍そう呼ぶにふさわしいのではないだろうか。



  
45: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:29:44.60 ID:4G7yNiVv0
  
 考古学のロマンに思いをはせて見ても、それでもやはり状況は一向に、全く、これっぽちも、
 いっそ清清しいまでに好転しない。畜生。
 遮蔽物にしゃがんだ頭上を断続的に軽機関銃やら突撃銃やらの弾丸が通り過ぎていく。
 少しでも顔を覗かせようものならあっという間に集中砲火を浴びて蜂の巣にされそうな勢いだ。
 中隊本隊から分断されて丸一日。
 あとはここの敵部隊を抜ければ本隊と合流できるはずなのだが、
 敵の猛攻に足止めを食っているのが現状だ。
 見れば、小隊のメンバーの中には半分恐慌状態に陥っている奴も居る。
 初年兵の野田や向井などは震え上がっている。
 俺たちのような一兵卒では無い、師団司令部や連体司令部に置かれたモニターに表示される、
 地図の上でだけでしか戦争を知らない将軍達は、例に漏れずやる気の無い無気力人間となっている。
 そのせいか、年間の出撃回数は数える程に減ってしまい、小規模の小競り合いならともかく、
 今回のような大規模な戦闘は八十年ぶり近い。
 平均寿命二百年といわれる戦場で、俺やショボのように七百年以上戦場で戦い続けている戦場の古強者や、
 ベテランならともかく、徴兵されてきたばかりの新兵には初めての経験だ。
 恐れるのも無理は無いだろう。

(#^ω^)「おいこら、ショボ。誰か銃もってねーのかよ」

 俺は八つ当たり気味に隣のショボに話しかける。

(´・ω・`)「あ?んなもんとっくにどっか捨ててきちまったよ」



  
54: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:33:57.63 ID:4G7yNiVv0
  
 俺を含めてその手に握っているのは、俺たちが抜刀隊と呼ばれる由縁であるナノ合金製の日本刀のみ。
 それも刃は潰れ、刃こぼれすらしている酷いものだ。
 余談だが、これは別に長年研がずに使い続けているからではない。
 刃物による切断は、つきつめればどれだけのスピードで一点に集中して摩擦を起こせるかが全てだ。
 となると、血や油に塗れた刀ではとてもではないが、
 必要なだけの摩擦を起こす事はできない。
 そのため俺たち抜刀隊の任務はまず、
 支給された刀の刃をを岩や壁にぶつけて潰すことから始まる。
 そうする事で摩擦を増やし、血に塗れようと油がこびり付こうと一定の摩擦を生み出し続ける刃を作り出す。
 言い方を変えれば、日本刀というものは戦いの中で刃が潰れ、
 使い古されて初めて真の切れ味が生まれるものなのかもしれない。
 閑話休題。

(#^ω^)「なんで捨ててんだよアホ。てめえの持ってたのが最後の一丁だっただろうが」

 全員が龍機兵で構成され、夜襲や奇襲等の近接戦闘に特化した俺たちは、
 少しでも戦闘中に邪魔になるものは躊躇無く手放せと教え込まれているため、
 中隊本部や師団本部からの補給を経たれた今、
 俺たちの手元に分隊支援火器、小銃は一切残されていなかった。
 分隊支援火器は、遮蔽物から身を乗り出せないようにして、
 敵の頭上に弾幕を張り、味方の突入を援護するための銃であり、
 近代戦の突撃時には不可欠と言っても差し支えないだろう。
 一般的に、俺たち抜刀隊は日本刀の一本のみで戦い続けているように思われているが、
 それは偏見だ。実際には如何に龍機兵といえど歩兵が、
 軽機関銃や突撃銃の援護無しに敵陣に乗り込むことなど不可能なのだ。



  
60: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:37:07.78 ID:4G7yNiVv0
  

(´・ω・`)「うるせーカス。あんな接近戦続きで、てめえの童貞みてえに後生大事に抱えてられるか」 
(#^ω^)「な………っ、ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
(´・ω・`)「動揺し過ぎ」
(#^ω^)「そもそも童貞は関係ねえだろ!」

 俺が叫ぶと同時に、周囲からは押し殺した笑い声が漏れる。
 どうやら俺とショボのやりとりが余程おかしかったらしい。
 クスクス、という感じではなく、ゲラゲラ、ニヤニヤという感じ。
 緊張がとれたのなら丁度いいのだが、連中のニヤニヤした顔を見ていると、
 なんだか憮然としたものが胸中に残る。
 そんな思いを払拭するためにも、再び口を開く。

( ^ω^)「おい、木賀沢、ちょっと来い」

 背の高い、ひょろりとした印象の男が、屈んで遮蔽物に隠れたままの姿勢で目の前にやってくる。
 男の名前は木賀沢啓祐。俺の第二小隊の第一分隊長を務めている。
 コンクリートだらけのR.S.Fに溶け込むため、灰色や乳褐色を基調とした野戦服をだらしなく着こなし、
 短く刈った髪を明るい金色に染めている。

「なんスか、内藤サン」
(´・ω・`)「木賀沢、おまえ確か中隊本部の補給段列から中距離用の対戦車ミサイルやら手榴弾やらちょろまかしてただろ」



  
69: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:40:51.34 ID:4G7yNiVv0
  

 木賀沢は根っからの武器マニアで、刀剣やら兵器やらを収集している。
 実家が良家だか実業家だかで、休暇申請をしては家に帰っているが、
 その度に新しい刀剣を買ってきたり、流行物の小説や服なんかを持ってくる。
 二百年近く分隊長を務めるベテランであるためか、
 流石に新兵のように緊張に萎縮しきっては居ないようだ。

「対戦車ミサイルの方は流石に持ってきてねえっスけど、手榴弾の方はありますよ」
( ^ω^)「おk。それ寄越せ」 

 木賀沢の示したそれを、俺は有無を言わさずにもぎ取る。
 珍しく、陶器製の手榴弾だ。

「あー……、人間国宝の作った陶器製破片手榴弾だったのに………」

 多少嫌がるようなそぶりを見せたが、武器収集も糞も、命が無くては何もならない。
 この陶器製の手榴弾は、旧世紀の世界大戦時に、鉄不足を解消するために作られたものらしいが、



  
77: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:44:53.84 ID:4G7yNiVv0
  
 過去を愛する擬古主義者達の手によってアレンジを加えて、
 鉄製ピンなどのの機構に外装だけを陶器製にした手榴弾が作られ、
 一時期流行した。
 中でも、著名な陶器職人の手によって作られたものは今ではプレミアがついているらしい。
 なんで軍の倉庫なんかにそんなものがあったのかは知らないが、
 使えるものは使えるときに躊躇なく使わなければ、
 ここでは生き残れない。

「あーあ………俺のコレクション………
 サムライならこんな局面でも刀一本で切り抜けられるんだろうなぁ………」
( ^ω^)「命がなくなるよりはマシだろ。つーかなんだ?そのサムライってのは」
「知らないんスか?サムライってのは旧世紀の中世に活躍したっていう戦士のことッスよ」

 すると、別の小隊メンバーも会話に参加してきた。

「ああ、そういや最近エクメーネの中で流行ってますよね。
 なんか、旧世紀の中世代のカッコとかしてる奴よく見かけますし」
「サムライはマジカッコいいんスよ。刀一本で敵をばっさばっさと斬り斃して―――」
( ^ω^)「あー、その、なんだ。もうサムライはわかったから、ここを切り抜けることに集中しろ」

 雑談に入り始めた木賀沢を制して、俺は言葉を続けた。



  
82: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:46:56.06 ID:4G7yNiVv0
  

(;^ω^)「マジかよ………」

 これは俺自身の声。
 手榴弾の陶器製の外殻は友軍機の外装に衝突してヒビが入り、丁度爆発時間が訪れて爆発。
 飛び散った陶器の破片と火の粉が友軍機に残っていた燃料に引火。さらなる大爆発を引き起こす。
 俺たちや敵兵をの頭上に爆風で吹き飛ばされた破片と炎が降り注いだ。
 それを視認した瞬間、俺は頭部に強い衝撃を受けてよろめいた。

(;^ω^)「げが………………ッ」

 自分の口から空気と一緒に意味不明の呻きが漏れる。
 どうやら、大きめの破片に頭部を強打されたらしい。
 軽く衝撃のあった辺りを触れてみるが、血は出ていない。
 が、血が出ていないからこそ怖い。頭に強い衝撃を受けて、
 内出血に後から気づいて死んだ奴の話は腐るほど聞いている。
 心なしか、なんとなく意識も朦朧としてきた気がする。
 周囲を見渡せば、皆が皆一様に大口をおっぴろげて呆然として空を見上げている。
 この光景をなんと言い表せばいいのだろうか。
 火の雨、いや、嵐とでも言えばいいのか、ともかく火を纏った鉄片が雨あられと降り注いでいる。
 そんな中、誰かがぼそり、と呟いた。

「なあ、これってチャンスなんじゃね?」

 全員がハッとして、まるで止まっていた時間が動き出すかのごとく、敵陣に向けて走り出した。
 敵兵も全員呆然としている。



  
85: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:47:58.50 ID:4G7yNiVv0
  
 『鳩が豆鉄砲を食らった』どころか、
 『鳩が腹をRPGで吹き飛ばされて、飛び出た小腸の端をオナホール代わりに使われた上に、そのまま小腸から直接腹の中に中出しされた』
 ような顔だ。
 言ってて自分でもよくわからないが、粘膜さえあれば気持ちいいという話を聞いたことがあるので、
 小腸でも大丈夫なんじゃなかろうか。
 どうなんだろう。誰か試したことある奴は居ないのだろうか。
 ………………………………………。
 どうやら、先ほど頭に受けた衝撃で、頭の調子があまりよろしくないようだ。
どうでもいい考えばかりが頭に浮かんでは消えていく。
 兎にも角にも、頭部に激痛を感じながらも遅れまいと走り出す。
 敵兵の突撃銃手、機関銃手がこちらの突撃に気づいて銃を構えるが、もう遅い。
 あっという間に距離を詰めた俺たちは手に手に日本刀を振り回し、
 通り抜けざまに的確に敵を切りつけていく。

(#´・ω・`)「無理に殺さなくてもいい!通り抜けることを最優先にしろ!」

 ショボが仲間に激を飛ばしている。
 それを聞きつつも、俺の頭の痛みは増していく。
 思わず眉をしかめた瞬間、敵の銃剣が横なぎに振るわれた。



  
90: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:50:19.19 ID:4G7yNiVv0
  

 ショボが仲間に激を飛ばしている。
 それを聞きつつも、俺の頭の痛みは増していく。
 思わず眉をしかめた瞬間、敵の銃剣が横なぎに振るわれた。
 普通なら、狭い屋内や塹壕での集団戦闘で小銃に着剣して振り回すような馬鹿は居ない。
 殺すか殺されるかの接近戦で、がむしゃらに振り回した銃剣の刃は、
 敵と同じように友軍にも分け隔てなく平等に襲い掛かるからだ。
 いや、むしろ屋内や塹壕での戦闘では、味方を刺してしまうケースの方が多いだろう。
 にも関わらず、この敵兵が銃剣を振り回しているのは、
 単純にブーツキャンプを出てきたばかりのド新参だからだろう。
 刃を避けそこなった俺の額から血が出るが、意識が朦朧としているため痛みは余り感じない。
 だが、中途半端に避けようと体勢を崩してしまった上、意識も怪しいために膝から力が抜けて、倒れかける。
 よろめく俺に気づいたのだろう、先を行く木賀沢や他の隊員達の視線が俺に集中する。

「隊長!!」

 木賀沢が叫んだ。他の連中も足を止めて俺の方を眺めて、やがて口を開こうとする。
 敵兵の視線がよろめく俺を捕らえ、唇の端が吊りあがったように思えた。
 第一小隊の面々が口々になにかを叫んでいるが、
 もう何を言っているのか判断できない。
 相手に切りかかろうとするが、もう腕にまともな力も入らない。畜生。



  
91: ◆VIPKING98o :2007/03/04(日) 17:51:33.58 ID:4G7yNiVv0
  

「刀を振ってくれよ!隊長!」

 刀を振れ。
 何故かそのフレーズだけがハッキリと耳に届いてきた。
 誰が言っているのはわからない。
 もしかしたら、
 数人が同じ台詞を言っていたがために明瞭に聞こえたのかもしれない。
 なんとかその声の通り、刀を振り上げようとするが、間に合わない。
 そもそも、もうそんな力も残っていない。
 俺は無我夢中で相手に突進し、刀を水平に構える。
 相手の目が見開かれた。  
 相手が大振りに銃剣を振り回して胴ががら空きになったところに、
 もたれかかる様に刀の切っ先を突き刺した。
 腕には殆ど力は入っていなかったが、
 自分の胸骨に刀の柄の端をあてて勢いのままに刃を押し込む。
 相手の口から「げぇ」だの「ぎゃッ」だのと悲鳴が漏れる。
 容赦なくそのまま体重をかけて突き倒し、刀を地面に突き刺して敵を縫いとめる。
 痛みに相手が呻くが、俺は止めを刺そうとはせず、
 そのまま柄から手を離して駆け続ける。
 が、どうも頭の調子がおかしい。やはり内出血しているのだろうか。
 だんだんと、考えがまとまらなくなってくる。
 ああ、もうだめだ。そう思った瞬間、さらに意識が遠のいていく。 
 視界すら暗転し始め、しかしそれでも足だけは休む事無く走り続け、
 そしてそこで目が覚めた。



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