( ^ω^)ブーンは侍になるようです

  
247: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 15:17:06.06 ID:695ZLBtI0
  
7.

 あれから四回ほど同じ事を繰り返した。
 既にN.E.E.T.社の連中の間には、俺がここで連中を襲っていることは知れ渡っているらしく、だんだんと大人数で固まるようになってきている。
 何人かが気づいたように俺を指差したり、何事かを話し合っていたことから、俺の身元も相当な部分までばれているだろう。

 非常に面倒だ。
 が、成果はゼロではない。
 連中はここら辺でツンの目撃情報を集めていた。

 曰く、どこそこのホテルで宿を取ってるのを見ただとか、裏路地を集団で歩いているのを見ただとか、
 おかげで大分ツンの隠れていそうな場所を絞り込むことができた。
 そんな時だった。そいつ等が現れたのは。

 近くのコンビニの自動ドアが、ありがとうございました、と機械的な音声と共に開き、二人の人影を吐き出す。
 派手なメガネをかけて全く似合っていないスーツを来た男と、長めの茶色い髪をストレートにしているガキだ。
 ガキの方は少し大きめの印象のあるウインドブレーカーを着たラフな格好だった。
 両手には黒い革の手袋をつけている。



  
249: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 15:19:44.45 ID:695ZLBtI0
  
「よお」

 そう言って軽く手を挙げて挨拶してくる。メガネの方の男だ。
 片手にはコンビニ袋を提げていて、歩くたびに体中のアクセサリーがジャラジャラと揺れる。
 特に、唇の端と耳のピアスを繋ぐ鎖が印象的だ。

 ピアスをしたことの無い俺にはわからないが、結構痛そうだ。
 その隣のガキは俺の方を睨んできているが、どこか中性的な顔立ちのせいか、全く迫力だとか威圧感だとか、そういった単語とは無縁そうな感じを受ける。

「今さぁ……メシ買ったわけよ。したら、いきなりてめぇを発見しちゃったわけね。どうしてくれんだよ、腹減ってんのにさぁ…」

 どこか絡むような声色で、不機嫌であることを隠そうともせず、メガネスーツが口を開く。
 これだけ派手に動いていたのだ。何時か、なんらかの刺客だとか鉄砲玉とか暗殺者とか、なんかそんな感じの安っぽいフィルムの中だけの絶滅危惧種的存在が出てくるとは思っていたが、
 コンビニから出てくるとは思わなかった。

「つーかさ、おまえ消費税知ってる?」

( ^ω^)「あ?」

 唐突な質問。
 話が見えないので曖昧な返事で先を促す。



  
250: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 15:22:29.48 ID:695ZLBtI0
  
「この日本に住んでんだ、知ってるよな?いや、今は大龍晃国だっけか?まあいいや」

( ^ω^)「消費税がなんなんだお?」

「あー、そうそう、そうだよ。消費税だよ。消費税ってあるよな?あれってマジ意味不明なんだが」

 消費税が何だと言うのだろうか。
 どのような反応をすればいいのか分からず、さらに相手の出方を見る。

「昔ならいいんだよ。戦前みたいな資源も食料も限りがあって、誰か一人が贅沢するとそれだけ国家の資源が減って、

 その分国民の暮らしが圧迫されるんだから、消費を抑制するためにも税をかけるのはわかる。すっげーよくわかる。だがな、」 
 そこで一度言葉を切り、一呼吸置くと、メガネスーツは怒りに表情を歪ませながら、再び口を開く。

「だがな、なんでこの資源も食料も有り余ってる時代に消費税なんかかけてんだよ!!!
 消費税って、どう考えても消費を抑制してんじゃねーか!
 市場は常に拡大していかなきゃ国家経済を支えられねえんだから、むしろ消費は推奨すべきだろうがボケが!
 ナメてんのか!!俺をナメてんのかこの腐れ童貞の糞マラ野郎が!!!!!!」

 息を荒くして、手に下げていたコンビニ袋を地面に投げ捨てながらそう叫ぶ。
 地面に叩きつけられたコンビニ袋の口から潰れたおにぎりが覗いている。



  
251: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 15:24:40.77 ID:695ZLBtI0
  
 知らねーよ、ド低脳。

 そう言い返してやりたいが、男のキレ具合にはどこか常軌を逸したものがあった。
 俺がどん引きしていると、ガキの方が一歩前に出て口を開いた。

「とりあえず、完全に引いてるみたいだから僕から自己紹介しとくね。僕はタントントン。こっちの頭おかしいのがエリート森川。これ見ればわかるかな?」

 タントントンは隣で、誰が頭おかしいんだコラ、と怒鳴る男、森川を無視して腕をだすと、袖を捲り上げる。
 透き通るような白い前腕部には、黒字でタトゥーのようなプリンティングが施されていた。

 菱形の記号の後にアルファベットが十文字。◆HensinQrsA
 コテの製造コードを示す十桁の文字、トリップだ。

( ^ω^)「コテかお………」
タントントン「大正解」

 正直、コテは嫌いだ。
 全時代の遺物で、妙な能力やら強化された肉体うんぬん以前に、コテという人種は総じて自己顕示欲が強い。
 そのため、奇抜なファッションに身を包んでいるものが多い。森川などその典型と言える。

 それだけならまだしも、異様なまでに仲間意識が強く、その結束は固い。引きこもり暦五年ほどのヒキニートの心の殻くらい硬い。 
 何も生産的なことはせずに、毎日毎日集まって喋って馴れ合うだけの気持ち悪いことこの上ない連中だ。
 まるで、信じる宗教から差別され、金貸し業しかやらせてもらえなかった某民族のようだ。



  
252: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 15:27:55.61 ID:695ZLBtI0
  
(#^ω^)「おまけに、殆どがヒキニートのデブのガリのハゲのもやしのくせに妙に態度だけでかくて………」
タントントン「全部声に出てるんだけど」

 冷静につっこまれた。
 だが、とりあえず状況はあまりよろしくない。
 なにせ、二対一だ。

 多少の手傷はかまわないので、なんとかして速攻で一人を殺して、もう一人の相手をしたい。
 腕一本程度失っても、確実にいきたいところだ。
 とりあえず、まずは適当に挑発して相手の出方を窺がってみる。

( ^ω^)「おまえさ、さっき消費税がどうの言ってたよな?」
森川「ん?」
( ^ω^)「馬鹿かお?消費に税かけるのが一番効率いいだろうが、低脳」

 こんな安い挑発で効果があるのかどうかは分からないが―――

森川「あ?っざっけんなヴォケ!誰が馬鹿だコラ?あ?低学歴の分際でこの超絶天才の森川様を馬鹿だと?マジでざけんな!!!」

 滅茶苦茶効果敵面だった。



  
259: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:10:43.01 ID:695ZLBtI0
  
 森川は顔を真っ赤にして殴りかかってくる。
 正直、ここまで激烈な反応が返ってくるとは思わなかったので多少ながらも面食らう。

 その隙をつかれた。
 森川は馬鹿ではあったが、冷静だった。
 その拳が俺に迫る寸前、勢いよく開かれる。
 五指を広げたその中心、手のひらに大きな瘤のようなものがあるのを視認したその瞬間、俺の体を今まで体験したことの無い衝撃が襲った。

(;^ω^)「――――がっっっ」

 奇妙な声が喉の奥から我知らず漏れる。
 この衝撃をなんと表現したら言いのだろうか?
 例えるならスピーカーの振動板に触れたときに手が感じた微振動に似ている。

 が、それがくまなく全身を襲い、脳の奥が震えるような感触を伴って痛みが神経中を駆け巡る。
 一瞬の事だったが、たまらず数歩後ろによろめく。

森川「三半規管も鼓膜も前庭も全部ブチぬいてやるつもりだったんだが、結構丈夫だな」

 森川が嘲りを含んだ笑いを漏らす。
 一方、俺はそれどころではない。物凄い倦怠感と共に吐き気がこみ上げてくる。
 その隙を逃すことなく再び森川が距離をつめてくる。
 拳を掲げて。



  
260: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:13:16.07 ID:695ZLBtI0
  
(;^ω^)「糞が………っ」

 よくわからないが、あの手、特に掌はやばい。
 何も考えず、というか嘔吐感の中で思考がかき消され、大げさとも取れる動きでそこから飛び退る。
 しかし、森川は気にすることなく先ほどまで俺の後ろにあったビルの壁に掌を重ねる。

 一瞬の後、破砕音と共にビルの壁がパラパラと崩れさった。
 俺に対する威圧のためだ。
 事実、あの奇妙な腕に関する恐怖を俺に植え付けることに成功している。

森川「前庭嚢って知ってるか?」

 自分の圧倒的優位に気を良くしたのか、どこか自慢げに森川が問うてくる。

(;^ω^)「知らねーお」

 なるべく、聞きたそうな声音で先を促す。

森川「マッコウクジラのあのでけー頭にある機関でよ。脳油って油が詰まってる。
   その脳油の重さでマッコウクジラは水深2000メートルだとか3000メートルなんていう世界まで潜れるわけだが、」



  
261: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:16:29.62 ID:695ZLBtI0
  
 学者か教師気取りで、出来の悪い生徒に講義を聞かせているかのような態度で放す森川だが、その声が唐突に止まる。
 いや、止められた。これまで傍観していたタントントンがその脛を蹴りつけたのだ。

森川「――――ッ!!!!!」

 森川が声にならない悲鳴をあげる。

タントントン「せっかく相手追い詰めてんのに何やってんの?」

 と、どこか澄ました顔で言うタントントン。
 狙って相手に喋らせて、回復する時間を稼ごうとしたのだが、余計な事を。
 森川が痛みと怒りに頬をひくつかせながらも俺に右の掌を向けてくる。

 糞。どうにかしてあの腕を―――
 そこまで考えたとき、掲げられた森川の右腕に銀影が走った。

森川「え?」

 森川が間抜けな声を漏らし、一瞬送れて悲鳴を吐き出した。
 いつの間にか森沢の腕には、どこからか飛来した刀が突き刺さっていた。



  
262: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:20:07.50 ID:695ZLBtI0
  
 見覚えのある、大太刀だ。馬上戦闘用に作られたその太刀は通常の野太刀なのでは考えられないほどに長大だ。

 タントントンの表情に緊張が走る。
 次いで、先ほど森川が破壊したビルの二階から影が飛び降りてきた。
 影は見事な足運びで一瞬のうちに森川との距離をつめると、痛みに震えるその腕に刺さった太刀の柄を掴み、森川の体を蹴り飛ばした。

森川「げぇ――――ッ」

 つま先から膝までが一直線に伸ばされた回し蹴りが、綺麗に森川の腹を撓る鞭のように打ち据える。
 力任せではない、上手く体中の筋肉によって練られた力を完全活用した、完成されつくした美しい蹴りだ。
 森川は内臓が破裂したのではないかと思える程の衝撃を受け、足首の先の硬い骨が食い込んだ肺から空気が吐き出される。

 すると、影は刀を掴んでいたので、蹴り飛ばされた森川だけが近くのコンビニのガラスをぶち破って屋内へ飛んでいき、
 綺麗に抜けた刀だけが影の手の内に納まった。影はふう、と一呼吸つくと、何事もなかったかのように俺の前に立ち、タントントンと相対した。
 絹のような長い黒髪がふわりと揺れた。

(;^ω^)「クー?」

 思わず俺が尋ねてしまう。
 そう、俺の窮地を救ったのはあのマンションの管理人、クーだった。
 クーは俺の問いを無視してタントントンを睨み続ける。



  
263: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:23:21.66 ID:695ZLBtI0
  
 他に注意をとられている暇など無い、といった感じだ。
 クーの降りてきたあたりを見上げれば、ビルの窓からツンが心配そうに見下ろしている。
 驚くが、よくよく考えればツンがこの辺に隠れているらしいから、俺はここに来ていたのだ。

 あれほど大きな破砕音や、森川の怒声が飛んでいて、俺に気づかないわけが無いだろう。
 一瞬、目が合う。
 軽く笑いかけてやると、ツンの方も緊張がほぐれたらしく笑い返してくる。

 しかし、次の瞬間にはコンビニから響いた甲高い破裂音に振り向かされる。
 先ほど飛んでいった森川によって穴が開き、ひびが広がっていたガラスが全て叩き割られ、光の雨となって地面に降り注ぐ。
 その奥から現れたのは当然のことながら森川だ。

森川「おい、タントントン、この糞女は俺が殺すぞ」

 静かな、落ち着いた声音。
 だが、先ほどの怒声とは打って変わって平坦な声にも関わらず、その場に居た全員がその下に隠された怒気を感じ取っていた。

川 ゚ -゚) 「内臓を蹴り潰したつもりだったが、コテというのは随分丈夫なんだな」

 クーが動じることなく、こちらも感情を感じさせない平坦な声色で返す。



  
265: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:26:32.88 ID:695ZLBtI0
  
川 ゚ -゚) 「使え」

 マンションの管理人をやっていた時の、丁寧な物腰から一転して無愛想な口調だ。
 言葉と共にクーは、視線を向けないで俺に太刀を投げかけてくる。
 今クーが握っているものとは別の、90センチほどの野太刀だ。

森川「あ?何すかしてやがんだアホ女ァ!眠てぇ事言ってっと頭蓋骨抉り抜いてそのツラ―――」

 堪忍袋の緒が切れたとでも言えばいいのか、怒りが臨界点に達した森川が唾を飛ばしながら叫んだ。
 が、クーはその口上を最後まで聞かずに切りかかる。
 それほど早いわけではないが、流れるようなその動きは捉えどころが無く、実際の数倍の速さで動いているかのような錯覚を起こさせる。

川 ゚ -゚) 「辞世の句はちゃんと韻を踏んだ方がいいぞ。残されたものに不快感が残るからな」

 馬鹿にするでもなく、単純に事実を指摘しているだけ、というような口調で切りかかりながらも言うクー。
 その様子に自尊心を刺激されたのか、森川はさらに表情を険しくするが、やはり冷静だった。
 一度舌打ちをするとコンビニの店内に下がっていく。

 クーも迷うことなくそれを追いかけていく。
 俺は半ば呆然と、クーに手渡された太刀を手にその様を眺めているのだが、その思考の空白はツンの叫びによって吹き飛ばされる。

ξ;゚听)ξ「内藤ッ!!!」



  
267: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:30:03.31 ID:695ZLBtI0
  
 心配するようなその叫びに、慌てて残った敵、タントントンの方に視線を向ける。
 すると、頬に風を感じた。迷わず飛び退ると、一瞬前まで自分の顔のあった辺りを、黒い革の手袋をした拳が通り過ぎていった。
 いつの間にか接近してきていたタントントンが殴りかかってきていたのだ。

(;^ω^)「―――ッ」

 畜生。
 無意識に毒づき、拳の位置からタントントンの体のあるあたりを逆算して抜刀。即座に刀を振るう。
 が、タントントンの掲げた拳によってあっさりと受け止められる。 

 金属質の、鉄と鉄同士がぶつかり合う時特有の音が響く。
 革手袋のおかげでわからなかったが、金属製の義手かなにかをつけているらしい。

タントントン「さて、こっちもお楽しみといこうか、お兄さん」

 互いの力が拮抗している、いわば鍔迫り合いにも似た状態であるにもかかわらず、そう笑うタントントン。
 その表情と声色だけでは、本当に楽しんでいるのか、余裕を見せ付ける演技なのかはわからない。
 そのまま数秒太刀と拳を押し合うが、やがてタントントンが唐突に力を抜き、後ろへ下がる。

 俺はと言うと、手ごたえが変わって力が抜かれる寸前に、倒れこまないように重心を後ろに下げて体勢を整える。
 このまま斬りかかるか?
 そう考えた時には既にタントントンが出鼻をくじくように接近してきている。



  
268: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:33:25.78 ID:695ZLBtI0
  
 ガキだという事は手足が短いということだ。
 つまり、手足に力が行き届いて実行に移すまでが早いということになる。
 反射と言ってもいい動作で即座に刀を掲げる。響く甲高い音。

 タントントンの拳の軌道に滑り込ませた刀が押し戻される。
 重い。特殊な合金製の義手なのか、やけに重い。
 これで、体重とリーチの不足から生じる拳の軽さを補っているのだろう。

(;^ω^)「チッ―――」

 思わず舌打ちして後ろに下がる。
 が、容赦なくタントントンが追い縋る。
 糞。再び重い拳を受けて刀が軋む。

 もしかしたら歪んでしまっているかもしれない。
 なんとか距離をとろうとするも、タントントンの足は素早い。
 単純な走る速さではなく、力をこめてから実際に足が動くまでの力の伝達が、だ。

 これ以上刀身で受けるのは得策ではないと判断した俺は、刀の柄でタントントンの拳をはじく。
 タントントンの体勢が流れる。その隙を狙って刀を振るうが、あっさりと避けられてしまう。
 ガキであることを、小柄であることをフルに活用している。
 こちらに、刀の間合いで戦うことを許さない。



  
270: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 16:36:31.91 ID:695ZLBtI0
  
 しかし、俺の方もただやられている訳ではない。
 タントントンが避けた隙をついて後ろに大袈裟に下がる。

 だが、タントントンはもう負う素振りを見せずに、右手で手刀を作ると指先を俺に向けた。
 なにをするつもりだ?一瞬そんな思考が頭をよぎる。
 その半瞬後、タントントンの指が飛んできた。比喩ではない。

 手袋を突き破って、文字通り右手の全指の第一関節から先が射出されて飛んできたのだ。
 だが、狙いは上へとずれている。はずしたのだろうか。そんな浅はかな考えが浮かぶが、次の瞬間にそれは否定された。
 射出された金属製の第一関節部分の後ろから、手袋から覗く残りの指へと極細のワイヤーが伸びていたのだ。おそらく、これもただのワイヤーではないのだろう。

 別に彼は弾丸のように指を飛ばして攻撃してきたわけでも、目くらましのためや注意をそらすために不意を討ってきたわけでもないのだ。
 先ほど言ったように、タントントンの義手は重い。つまり、少しでもワイヤーに絡まれば、後は繋がれた指先の自重で自然とワイヤーが絞まり、切り刻まれてしまうのだ。
 かなりえげつない。

 などと考えている合間にも、限界まで伸びたワイヤーが張り詰め、錘になっている指先が自重で落下してくる。
 もちろん、射出された指先は俺の頭上を越えていったので、ワイヤーの下には俺が居る。
 やばいじゃん!俺!

 慌てて飛びのくが、そこをタントントンに殴り飛ばされる。痛い。



  
273: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 17:02:04.40 ID:695ZLBtI0
  
 目の奥でチカチカと光が瞬くが、無視して刀を振るう。これはただの牽制だ。
 再び大きく下がるが、今度も無理に追ってこない。変わりに、ワイヤーの繋がっている右手を振るう。

 横なぎに振るわれたワイヤーを、頭を下げて思い切りかわす。後ろで小さな破砕音。
 見れば、ワイヤーの先の錘がアスファルトを突き破って地面に埋まっている。
 ワイヤーで振るわれて遠心力がついた分、元々の重さも手伝ってとてつもない破壊力が生まれたのだ。

 ワイヤーによる切断だけでなく、錘の指先そのものも凶器となっている。
 近づけば振るいにくいだろうが、タントントンの左の拳が待っている。
 もちろん、刀の間合いには持ち込ませてくれないだろう。

 距離は完全にタントントンが支配していた。
 おまけに、ムカつくことにも、

タントントン「どうしたの?もしかして森川の攻撃がまだ効いてる?」

 タントントンは先ほどからずっと機嫌が良さそうに笑っているのだった。
 




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