( ^ω^)の内藤小説 1998年
- 64: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:14:59
―――――第四話――――
(;^ω^)「…ガチですかお?」
春「ガチです」
(;^ω^)「……」
テーブルの上には何本かのビールの空缶と僅かなつまみが載せられたお皿。
あまりアルコールに強くない二人の頬は既に紅潮していた。
春「…出て行けって言うのなら今すぐにでも出て行くわ」
(;^ω^)「そんな事言わないお!…多分」
とは言えど、不安は確かに胸のうちに存在する。
それはあまりにも内藤の知識外のものであり、同時に手に負えるものではなさそうだからだ。
春「……」
- 65: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:16:35
(;^ω^)「………」
とにかく混乱している頭をもう一度整理する。
彼女、春の話はこうだ。
春は、主に経済誌などに自分の書いた記事を持ちこみ買い取ってもらうフリーライターだった。
現在では、年々進みつつある男女の均等な雇用に関する法案の為、女性でも男たちのなかに交じってバリバリ仕事をするそうだ。
もちろん春も激しい業界の中で逞しく仕事をこなしていた。
そのため、ここのところは出版会社から依頼されて仕事を行うことも多くなった。
最近主に彼女が担当していたのは、不良債権に関すること。
これは社会問題にもなっており、経済誌のライターとしては避けられない仕事であった。
それに彼女が良く持ち込む会社が発行している経済誌は、中々過激なものとして世間でも業界でも有名だ。
一概に不良債権といってもその種は様々で、経営の問題によるものや、暴力団絡みのものまである。
そしてそこには粉飾決済をはじめとする数多くの不正が存在する。
当然、法に接触するものだ。
そのため、企業にとって彼女のようなライターは何よりも恐れるものであり、疎ましいものである。
- 66: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:18:01
(;^ω^)「……」
この二時間ほど、ずっと春の話に耳を傾けていたが、内藤が理解出来たのはせいぜいここまでだ。
とにかく、春は取材を行っているうちに、何か重大な秘密を知ってしまった。
そのことによって不利益を被る「何者か」が春を危機的状況に追い込んでる、ということだ。
しかし、その原因となっている「重大な秘密」は春自身にも分からないらしい。
他にも春の口からは、関連企業部やら連結決算、権力闘争、貸借対照表…などの言葉が出てきたが内藤にはさっぱり分からなかった。
(;^ω^)「と、とにかく、春は誰から狙われているのか知らないのかお?」
春「…心当たりがありすぎて…」
俯く。
- 67: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:19:13
(;^ω^)「…今までよく無事だったお」
春「…多分、私が集めた資料とかに何かヤバめな情報があるんだと思うけど…」
妙な話だ、と内藤は思う。
何が妙なのかは分からないが。
( ^ω^)「…あと、狙われてるって言ってたけど具体的に何かされたのかお?」
春「仕事が終わって家に帰ると中が荒らされてたり、誰かに尾行されたり…無言電話や脅迫文まがいのものまで…」
どこか一点を見つめて思い出すように言う。
少し震えていた。
( ^ω^)「それはもう事件だお。警察には言ったかお?」
そこでようやく視点を内藤に合わせ、首を横に振った。
春「…警察に言ったところで、あの人たちは大したことはしてくれないわ。殺されでもしない限り」
内藤も自分で言ってみたはいいものの、その点に関しては同意した。
- 68: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:20:17
(;^ω^)「…それで、何で僕のところに来たのかお?」
春「あなたの事は知っていたし…それにあなたには発言力があると思って…」
( ^ω^)「…?どういうことだお?」
春は手をビールの缶にて手を伸ばす。
そして何か勢いでもつけるように、喉を鳴らして豪快に飲み干した。
春「…ごめんなさい」
( ^ω^)「お?何がかお?」
春「私はあなたを危険に巻き込もうとしている上に、利用しようとしているから…」
( ^ω^)「おっ!危険なことなんて何度も経験してるから、気にするなお」
その言葉を聞いて、春は苦笑した。
春「噂通りの人ととなりね。…悪いって思ってるけど…でもどうしようもなくて」
( ^ω^)「イインダオ!」
- 69: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:21:57
春「…あなたの発言力を利用させてもらって…いい?」
確かにネット上での自分の発言力の大きさ内藤も自負している。
しかし、それを恣意的な理由で行使することは禁じられていた。これはどちらかというと決まりというよりも自戒というべきものだ。
特に利害が関わるとなれば尚更だ。ドクオやショボンも同じく。
春「…駄目かしら?」
大きな目で内藤の目を見る。
( ^ω^)「…春が狙われてるってことをネット上に公表するということだお?それを抑止力として…」
春「違う」
内藤の言葉を春が強く遮る。
( ^ω^)「お?」
春「別にそんな事をしようとは思ってないわ」
- 70: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:22:55
( ^ω^)「…どういうことだお?」
春「あなたにはこれから起きる事実を言って欲しいだけ。私の身は自分で守るわ」
( ^ω^)「何を…」
再び春が遮る。
春「私が狙われてるってことはそれだけ隠したい情報があるってこと。同時に大きなスクープを掴めるチャンスなのよ」
(;^ω^)「はっ?」
耳を疑った。何を言ってるんだこの人は。
春「でも大きなスクープを掴んでも、それを公表できないと意味がないわ」
(;^ω^)「ちょっと待ってくれお。それは自分の所の雑誌で書けばいいだろうお」
春「出来ればそうしたいわ。でもね、あんな有名で過激な雑誌にでもやっぱりしがらみはあるのよ」
(;^ω^)「…スクープを掴んでも、圧力が掛けられるってことかお?」
春「そこまであからさまなものではないけど。でもどちらにしろネットで、しかもあなたの発言の方がよっぽど力になるわ」
心なしか春の顔つきが険しく見える。
- 71: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:23:59
(;^ω^)「………」
確かに事実を伝え、社会悪を正すというのも自分達の一つの使命ではある。
しかし、
春「…お願い」
そこでようやく内藤は気付いた。
この春という女性は、かなりしたたかな人間だということを。
内藤でなくても、彼女の美貌で、こんなお願い顔をされては返答に困るだろう。
(;^ω^)「言いたいことは分かったお。でもよく考えてみろお?あまり深く首を突っ込んだら命の保障はないお?」
春「分かってる。でもこれは私の信念に関わるのよ」
それも分かる。実際、春がやろうとしていることは正義であるし、それが彼女の信念なのだろう。
だが、と内藤は思う。
自分の信念は自分一人で貫き通すものだと。
- 72: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:25:20
( ^ω^)「……」
これがもっと小さな問題だったら、内藤も突き放すだろう。
しかし、春の身に危険が差し迫っていることもまた事実だ。
結局、内藤は折れた。
困っている人を助けるというのもまた、自分の信念だから。
( ^ω^)「…分かったお。協力するお」
春「ありがとう。あなたに迷惑はかけないようにするわ」
もう既に迷惑を被っているのだが。
( ^ω^)「具体的には何をすればいいんだお?」
春「私が得た情報を公表して欲しい」
- 73: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:26:13
( ^ω^)「でも不確定の情報だったら流石に流せないお」
春「分かってる。だから私が得た情報は全てあなたに回すわ。その上であなたが判断すればいい」
( ^ω^)「……」
判断する能力があるのかは自分でも疑問だ。
( ^ω^)「何回も言うけどお。春は死ぬかもしれないんだお?死んだら意味ないお」
これが最後の説得だ。ある種の望みを託しての。
春「意味がないことなんてないわ。私が死んだら、そのことも含めて公表してくれればいい」
(;^ω^)「……」
もう彼女に言うべき言葉を内藤は持ち合わせていなかった。
おそらく彼女はどこかのネジがぶっ飛んでるのだろう。
これが、現代の女性か、と内藤は思った。
春の言葉には答えず、内藤は新たな缶を開けた。
いつの間にか醒めた酔いは、ビールでは戻ってこなかった。
- 74: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:29:08
(´・ω・`)「…まだ落ち込んでいるのかい?」
ショボンは寒さに身体をうち震わせながら問い掛けた。
しかし、相手はそれに答えるつもりもないのか、その場に体育座りをして顔を臥せたままだ。
そして手にはコンパクトな双眼鏡。
(´・ω・`)「はぁ…」
吐き出した息が夜空に白く四散する。
ここはとあるビルの屋上。気温もそうだが、何せ風が強く、それは身体からこれでもかと体温を掠め取っていく。
(´・ω・`)「…置いて帰るよ?」
ショボンの視線の先の男は相も変わらずうなだれており、何やらブツブツと独り言を言っているようだ。
- 75: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:30:14
(´・ω・`)「全く…」
またもため息を吐き出し、ショボンは視線を先程まで見ていた場所に向ける。
ちょうど道路を挟んで向かいの高層マンションの、明かりがついている部屋。
(´・ω・`)「……」
所謂、覗きというやつだ。
そして覗きによってダメージを受けたのが、横で体育座りをしてうなだれているドクオだ。
('A`)「マサカ…マサカ…ソンナハズガ………ウツダシノウ」
そう小さく呟いて、立ち上がり、目の前のフェンスに手を掛ける。
( ;´・ω・`)「ちょwwwww」
慌ててショボンがドクオの背中を掴み、フェンスから引きはがす。
('A`)「ジョウダンダヨ、ジョウダン。ハハハハハハハハハハ…」
- 76: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:31:14
(´・ω・`)「あのねぇ…君が思っているような関係じゃないと思うよ、あの二人は」
宥めるように優しく、それでいて呆れた感じで言う。
(#'A`)「たりめーだろ!そんな関係なわけねーよ!
だがなぁ、違うんだよ!
俺が悲観しているのは何で俺にはあんなイベントが起こらないのかってことだ!!」
(´・ω・`)「必死過ぎ乙」
(#'A`)「ハァハァ…」
もういい、とドクオが舌打ちをする。
どうやら割りと本気でいらついているらしい。
(´・ω・`)「しかし誰だろう、あの女性は」
('A`)「……」
- 77: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:32:14
ショボンの言う女性とは、他でもない荻野春である。
そして覗いた部屋の主は内藤ホライゾン。
ショボンとドクオの二人は、そそくさとシャキーンの店を出た内藤を不審に思い、すぐに後を追ったのである。
しかし二人の予想に反して内藤は道草もせず真っ直ぐ自宅に向かった。
そして念のためこうして内藤の部屋の向かいにあるこのビルの屋上に足を運び、聞こえは悪いが覗きをした。
双眼鏡は変態で名高いドクオが携帯しており、十分に内藤の部屋を覗くことが出来た。
('A`)「…刺客とかじゃないだろうな…」
(´・ω・`)「どうかな。有り得ない話じゃないけど」
ごうっと音を立てて風が通り過ぎてゆく。
その風はすっかり冬のそれになっていた。
- 78: ◆P.U/.TojTc :2007/01/29(月) 22:35:30
(´・ω・`)「…寒い。あの女性のことは明日にでも彼に聞くとして今日は帰ろう」
('A`)「……だな。身も心も寒いとはまさにこの事だぜ」
ドクオが凍えだした手を荒々しくポケットに突っ込む。
未だ明かりが灯っている内藤の部屋を遠い目で一瞥し、ビルの内部に戻る。
その後にショボンも続く。
屋上への出入り口となっているドアが重々しく閉まる音が響くと、そこには誰も居なくなった。
あるのはただ激しさを増す風の音。
それはまるで彼らの行く末を暗示するかのように。
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