('A`)ドクオが一歩踏み出したようです
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/13(月) 21:21:31.85 ID:UOcx81Fu0
- ('A`)「あーあ、マンドクセ。飯買いに行かなきゃ…」
アパートの中、薄暗闇の廊下のドアが開いた。
ドクオは今年で29歳。
高校2年の頃不登校、中退。それからずっと引き篭もり生活を続けている。
「ありがとうございました」
今日もアパートの真向かいのコンビニで食料を仕入れ、部屋に真っ直ぐ戻る。店員の冷たい目にももう何も感じない。
('A`)「ふぅ、風が暖かくなってきたな…。冬も終わりか・・・。」
春、ドクオが不登校になったきっかけを作った季節である。
ドクオはそれを思い出さないように、いや、もはや記憶から消去していたのかもしれない。
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/13(月) 21:22:02.66 ID:UOcx81Fu0
- ドクオはパソコンの電源を付け、エミュレータを起動させた。
カチカチ…カチッカチチ…
通販で買ったコントローラーのボタンを叩く音だけが響いている。
電気代節約の為に、蛍光灯はつけない。パソコンからの青白い光のなかで、ドクオは無感情にゲームを攻略していた。
━━━そろそろ、金がなくなるな。
ドクオの父は8年前に心筋梗塞で倒れ、そのまま無くなった。
ドクオが更正するまでと、定年を過ぎても職を探し、金策に走っていた無理は生来悪かった心臓には重かったのだろう。
保険金と遺産の分け前、それのみでドクオは暮らしていた。
無計画に食いつぶした金を補うため、ゲーム、漫画といった類は既に売りつくし、パソコンと布団とテレビ、冷蔵庫だけの生活。
ドクオにとって、464.jpの閉鎖は痛手だった。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/13(月) 21:22:22.32 ID:UOcx81Fu0
- ('A`)「ふぅ、寝るか」
ラスボスの手前でのセーブ。
ドクオは今日もまた垢まみれの小汚い寝床に横になった。
…つ、馬…ねーの?
……気…い…
身の…教え…う… ドクオ、お前あ…い気…よ
翌朝、ドクオは憂鬱な目覚めだった。いつものように時計の針は夕方4時を指している。ドクオは太陽というものを、ここ数年目にしていない。
('A`)「…なんの夢…だったかな…」
デジャビュ
どこかで聞いたことのある声だった。しかし思い出せない。思い出せない。
今日もドクオの一日は何事もなく過ぎていった。
- 9 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:25:02.39 ID:UOcx81Fu0
- ('A`)「あ…金が…」
ドクオはついに全ての金を使い果たした。
借金がないとはいえ、定職も、人脈も、人と会話する力すらもないドクオにはそれは死刑宣告と似ていた。
('A`)「…年貢の…納め時…ってやつか…」
ドクオには最早何も無かった。年老いた母親とは、父の死後連絡が取れない。否、取らなかった。
自分の住所すらも教えず、ドクオはただ孤独に、気ままに過ごしてきた。生きるでもなく、死ぬでもなく。
紐…紐を買おう。縄は高い。
小銭を握り締め、コンビニに向かうが、コンビニには首を吊れそうなモノは無かった。
風呂に水をはり、溺死を試みる。ボロボロのはさみで、手首を切ろうとしてみた。
('A`)「いざとなると…死ねねぇもんだな…」
やっぱり首吊りしかないと、ドクオは勇気を振り絞って夕方の街へ歩いていった。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/13(月) 21:22:47.95 ID:UOcx81Fu0
- ホームセンターが見えた。
('A`)「…ハァ、フゥ…、なんでこんな遠いんだよ…」
ドクオのアパートから僅か400mほどの距離だか、ドクオには激務であった。
('A`)「縄…紐…なんでもいい、とにかく、買えて、死ねれば…。」
まごまごしながら大きな店内をうろつく。すれ違う人が全員自分を白い目で見ているような気がしてやりきれない。
('A`;)「う…うぅ…。だから…人がいるところは嫌なんだ…」
まず定番の縄を見つけた…。
('A`;)「え?こ…こんなにすんのかよ…。」(すみませんが、縄や紐って幾らくらいか分からないのでごまかしますw)
ドクオは持ってきた小銭と値札を見比べ、肩を落とした。
('A`)「紐・・・紐は…」
再び店内をうろつきだした、ドクオの目の端にあるものが映った。
('A`)「あ、ドラえもん…」
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/13(月) 21:23:10.04 ID:UOcx81Fu0
- ドラえもんがのび太とタイムマシンに乗っているパッケージのDVD
('A`)「…たいむ…ましん…」
『過去に戻れたら、俺はやり直せるのだろうか、未来の俺は、何をしているのだろうか・・・』
ドクオは無意味な妄想を繰り広げ、そそくさと紐探しに戻った。が、頭の中から「タイムマシン」がこびりついたように離れなかった。
何か、大切な忘れ物のように。ずっと、ずっと昔に置き忘れた、大切なものがそこにあるような気がした。
- 7 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:23:25.20 ID:UOcx81Fu0
- 1時間後、ドクオは部屋に戻っていた。その手には紐、どこで首を吊ればいいかと、くもの巣だらけの天井を見上げる。
ふと目を柱にやったとき、ドクオは何かを思い出した。
タイムマシン……、柱…、
もう一歩、あと一歩、何かが思い出せそうだった。
いつ死んでもいいのだ、いつでも死ねるのだ。このモヤモヤをかき消してからにしたい。
ドクオは木石かのように柱を見たまま、ずっと動かなかった。
- 8 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:23:44.99 ID:UOcx81Fu0
いつの間にかドクオは眠っていた。
('A`)「ン…ンン… タイムマシン…なんだっけ…むぐむぐ…」
夢の中でまで、遠い、砂にうずもれ、錆付いてしまったかのような記憶を探る。
「ド…は…ここ…」
「ハハ…だっ…ら…ヘコ…なぁ…」
まどろみの中で、ドクオはゴミ山のような記憶のなかから、光を見つけた気がした。
- 11 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:25:22.56 ID:UOcx81Fu0
- チュン…
チュン…
珍しく、ドクオは朝に目を覚ました。
('A`)「…ま、まぶしいな…。俺、何をしてたんだっけ…。」
辺りを見渡し、紐、柱…そしてタイムマシン
('A`)「あぁ、死のうとしてたんだ、そんで、柱見てて…」
('A`)「…・・・・思い出した。」
- 12 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:25:40.95 ID:UOcx81Fu0
- あれはドクオが8歳の時だった
(父)「ドクオは…ここかぁ。…で、俺はここっと…」
家の大黒柱、ドクオと自分の身長に合わせ、マッキーで印をつける父の姿があった
(父)「いつかドクオもこれくらいでっかくなるのかなぁ。」
J( 'ー`)し「すぐに追い抜いちゃうわよ、ドクオ、最近ぐんぐんおっきくなってるもの。」
('∀`)「そうだよ!僕、パパなんてすぐに追い抜いちゃうよ!」
(父)「ハハッ、そっかそっか、ドクオが俺より大きくなるんだったら、ちょっとヘコんじゃうなぁ。でも、パパだって負けないくらいでっかくなってやるぞー」
('∀`)「そんなことないよ!僕はパパよりおっきくなって、偉い学者さんになるんだ!
そしたら、タイムマシン作って、パパに会いにきてあげるよ!背比べするんだ!」
(父)「ハハハ、そりゃあいいや!ドクオ、頑張って偉い学者さんになるんだぞ」
J( 'ー`)し「おかーさんも楽しみだわ〜」
('∀`)「任せてよ!僕頑張ってお勉強するんだから!」
- 13 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:25:57.75 ID:UOcx81Fu0
- 暖かい家族のひと時がそこには確かにあった。
('A`)「いつからだったかな…、学者さん、諦めたの。」
その場の流れだったのかもしれない。幼子にありがちな漠然とした夢だったのかもしれない。
でも、ドクオには確かに「学者」という夢があったのだ。
('A`)「俺、やり直せるのかな。タイムマシンがあったら。」
あの日、自分が作ると誓ったタイムマシン。今のドクオには妄想の域を出なかった。
ドクオはまたごろんと横になる。
('A`)「所詮はガキの夢だよ…。俺だって、タイムマシンがあるなら欲しいけどな…。」
ため息をついて、ドクオは紐を見つめていた。
- 14 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:26:20.40 ID:UOcx81Fu0
- ドクオは平均的な核家族の一人息子として育った。
幼いころから成績は中。運動は苦手、やや内向的な性格でクラスでは目立たない存在だった。
そんなドクオの夢は、科学者。ファンタジーゲームや小説が好きだったドクオにとって、夢を実現する現実的な手段だったのであろう。
ドクオが中学の頃、こんなことがあった。
国語の時間、ある小説を読んだ。
戦時中凄惨なる世の中に耐え切れず自分の殻に閉じこもり、その中で平和を手にしたまま死んでいく幼い女の子の話。
ドクオには痛いほど女の子の気持ちが分かった。もともと消極的で、他人との積極的なコミュニケーションを嫌うドクオはクラスを常に傍観する立場にいた。
いじめ、陰口、非行。たかだか中学生のドクオに人間の「汚らしさ」を思い知らせるのには十分だった。
そんなクラスに馴染むこともせず、ただひたすら嫌気がさしていたドクオにとっては自分を取り巻く小さな現実世界などより、
自分自身の夢について考えたり、ものを書くほうがよほど平和的で、よほど興味深いものだったのだ。
教師は小説文を読み終えたあと、感想文の提出、発表を求めた。
ドクオは思うまま、自分が正しいと確信して正直な感想を書いた。
普段は人との摩擦を避け、どんなときも本音よりも建前を優先していたドクオが珍しく本音を書いたのだ。
他にも少なからず同じ考えをもつ人間がいるだろうという前提がドクオの中にはあった。
- 15 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:26:35.12 ID:UOcx81Fu0
- 発表の日
クラスの大半の意見はドクオと違っていた。
-----現実から目を背けて、逃げているだけで何も解決していない
---------------ただの馬鹿
---そんなことしている間に、戦って少しでも戦況を良くしようと思わないのか
戦わなきゃ、なにも変わらない。
ドクオの発表は最後だった。ドクオは震える手で原稿用紙を手にし、おどおどしながら感想文の朗読を始めた。
女の子は現状に嫌気がさしていた。
僕は女の子の気持ちが分かる。 人間の汚さが見えたんだ。
戦って何になるんだ
それなら、僕は女の子のように一人で幸せに死にたい。
クラスの視線が痛い。そこまでドクオを知らないクラスメイトは、明らかに異端な意見を発するドクオを怪訝な目で見ていた。
大は正義、小は悪。
それが、ドクオを取り巻く中学生の考えだった。
- 16 :1 ◆kcxtiIaUlc :2006/03/13(月) 21:27:02.20 ID:UOcx81Fu0
- 物語自体は、女の子の同情を誘うと言うよりは、現実を一切見つめずに気が触れたように、
世間から冷たい目を浴びながら死んでいった少女を用いた「現実に立ち向かうことの大切さ」を比喩する話だった。
中学生の読者達は、作者の狙った印象を受けている。そんな中で、ドクオをまったく逆の視点から物語をとらえたのだ。
「優しいのね。」
教師はなんとも言えない目で、読み終えたドクオに声をかけた。
ドクオは周りからの不思議そうな視線、教師からの同情とも皮肉とも取れる視線、その2つに僅かに恐怖すら感じながら席についた
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