( ^ω^)ブーンがゲイバーのスタッフになるようです
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:29:47.40 ID:kchGNE8h0
- ・・・しとしと、と。
中途半端な勢いの雨の降る日のことだった。時刻は20時。すでにあたりは真っ暗で、時折チラつくネオンが目に沁みる。
雨のせいかいつもより人通りの少ない道を、一人の青年がとぼとぼと歩いていた。
―――彼の名は、内藤。やや幼さの残る顔立ちに、りりしい眉がよく目立つ。色黒だが、体育会独特の男臭い空気を感じないのは、彼が未だ学生であるからか。
( ^ω^)「ふう・・・」
何故かため息を落とす彼の表情は、どこか焦っているようにも見えた。ときたま、チラチラと視線を落とす。その先に、右手に握ったフライヤー。
『二丁目攻略ガイド!』と大きくゴシック体で書かれた其れに、細かな文字がビッシリとつまっていた。地図のようだが、その文字の密度ゆえに見づらく、地図としての役割は十分に果たせていない。
―――多分に、彼は焦っていた。それは、以下の二つの事柄から。
一つ、雨の中左手に傘、右手に地図を持ってうろつくのは目立つ上に意外と疲れるということ。
そして二つ、ゲイタウンでうろつくという行為自体が、ゲイに目覚めたばかりの彼にとってはこの上ない恥辱にしか感じられない、ということ。
ときおりすれ違う男性達の好機の視線が耐えられず、ついにはとあるビルの真下で雨宿りを始めてしまう内藤。傘をたたむと、ガックシと肩をおろした。
- 4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:30:29.34 ID:kchGNE8h0
- (;^ω^)「は、はやくどこかの店に入ってしまいたいお・・・」
思わず呟いてみるものの、二丁目初心者の彼にとっては、まずどの店に入ったらいいものか判らない。攻略ガイドによれば、店によって異なる傾向を把握して、自分の好みに合った店を探すのが大切、らしいのだが・・・。
若専、ガタイ専、フケ専などの文字を並べられたところで、まだ男の好みもはっきりしていない彼にとっては馬の耳に念仏である。まあデブ専とフケ専意外なら正直どこでもいいんだけどな、というのが本音ではあるのだが。
そんなとき、彼の目に小さな、だが判りやすく太字で書かれた文字が目に入る。
VIP・・・。どうやら、今内藤が立っている地点のすぐ傍にあるらしい。隣のページのゲイバー紹介を見る・・・あった。
『gaybar:VIP・・・初心者の方にオススメ!カクテルの種類も豊富な、バー寄りの店。明るいスタッフとマスターのショボンさんに癒されてください!住所・・・×××ビル地下一階』
( ^ω^)「・・・・・・」
思わず辺りを見回す。向かいに在るビルの鏡面張りの壁に、間抜け面な自分の顔と、頭上に見える、ライトアップされた看板が目に留まった。
『×××ビル』
思わず後ろを振り向く。そこに、地下へと続く階段が見えた。
- 5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:30:56.88 ID:kchGNE8h0
VIP、と大きく書かれた革張りの看板。
ズシリと重いドアを開けながら、内藤は震える喉から乾いた息を吐いた。温かみのある光が、地面に細長く伸びる。
・・・いらっしゃい、そう声が聞こえた。そして腹を括る。
―――ここから、僕のゲイライフは始まるんだお。
- 6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:31:19.80 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「やあ(´・ω・`)ようこそVIPへ。このチャームはサービス・・・っと」
内藤を迎えたのは、良く通る男の声だった。緊張のあまりガクガクと震える膝を抑え、相手の顔を見る。30歳くらいだろうか・・・よく手入れされた髭と、末広がりな眉毛が特徴的な男性だ。タレ目で人懐っこそうな笑顔は、例の攻略ガイドに書かれている通りに優しげに見える。
( ^ω^)「あ、あの・・・お・・・」
細々と声を絞り出す内藤。それをさえぎるように、
(´・ω・`)「えっと、始めましてかな?」
とマスターのショボンが口を開いた。
( ^ω^)「・・・え、ええと・・・そ、そうですお!なな、なないとうほらいzあwせdrfttgtyふじこlp;@」
(´・ω・`;)「ちょ、ちょっと落ち着いて!ドクオ水!」
- 7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:32:08.83 ID:kchGNE8h0
( ^ω^)「・・・っぷはー、助かりましたお。」
(´・ω・`)「いえいえ。」
用意されたチェイサーを一気飲みして一息つくと、緊張も和らいだのか内藤の頭は大分スッキリとしてきた。
とりあえず傘を傘たてに立てると、適当な席に座る。数人の客が彼に視線を向けていたが(あれだけ目立つ入店をしたのだから仕方がないか)、それもドクオと呼ばれたミセコによって引き剥がされた。
(´・ω・`)「しかしその様子だと、どうもゲイバーに、っていうか二丁目に来ること自体が初めてのようだね」
( ^ω^)「そうなんですお。あ、そうだ、僕の名前は内藤ホライゾン、友達からはブーンと呼ばれていますお」
(´・ω・`)「あははは、本名を名乗らなくてもいいよ。僕はショボン。本名は秘密。で、あそこにいるのが・・・」
そこで、他の客と談笑していた青年がくるりと振り向いた。
つんつんと尖った髪に、伸ばされた襟足。ベリーショートのウルフスタイルと呼べばいいのだろうか、どこかDQNじみた髪型に、ゴツいシルバーのネックレスが胸元から覗く。細身でパンクバンドのTシャツをそつなく着こなしている。顔立ちは丹精で、どうみてもゲイには見えn
('A`)「あらやっと私の出番なのね!いらっしゃい新人クン!」
・・・前言撤回。どう見てもゲイ、というかオカマです。本当にありがとうございました。
- 8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:33:07.57 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「ちょっとドクオ、アンタいきなりその喋り方じゃ初心者さんがびっくりするでしょ」
('A`)「仕方ないじゃなーい、アタシはいつもこの喋り方なんだから!」
そうだそうだ、ドクオは黙ってりゃ可愛いんだから、と他の客が茶化す。お黙り!とそれを一喝し、再び青年は内藤・・・ブーンを振り返った。
('A`)「ま、そんなわけだからよろしく。ドクオよ。」
そして、チラリとウインク。初めのインパクトが強いせいか気おされがちだが、どうも悪い人ではなさそうだ。
こちらこそですお、とブーンが頭を下げたとき、スイ、と何かが差し出された。
『VIPメニュー表』と書かれたプレート。
('A`)「とりあえず、ご注文はいかがなさいましょ?」
- 9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:34:02.64 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「あ・・・うーん、そうだなぁ・・・」
頭を捻る。どうも、ブーンはこの手の飲み屋のメニューというのには慣れない。ビールやリキュール、ウイスキーなどが並ぶそのメニュー表と十秒ほどにらみ合っていると、
(´・ω・`)「ノンアルコールの飲み物やカクテルもあるから、わからなかったら相談してね」
ショボンが助け舟を出した。
そうなんですかお、と相槌を打つが、どうもピンとこない。
そのとき、コトリという音と共に、一つのグラスが目の前に置かれた。
ジンジャーエール・・・のように見えるが、底の方に赤い液体がたまっている。
('A`)「シャーリー・テンプル。炭酸は飲めるわよね?」
コクリとうなずくと、ブーンは恐る恐るグラスを手にした。ショボンがにこにこと笑っている。
そっとストローを口にし・・・ゴクリ。
- 10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:35:01.93 ID:kchGNE8h0
- (*^ω^)「・・・・とても・・・美味しいです・・。」
('A`)「あら、良かったわー。」
(´・ω・`)「この子はカクテルについては一応勉強してるからね。馬鹿に見えるけど」
('A`)「ちょっとママ、けなすならけなしてよ!オカマとしてなんかイライラするわ!」
( ^ω^)「あははは・・・」
そして、大分気持ちがほぐれたブーンは、二人と会話を交わし始めた。
自分は今年から東京に出てきた新大学生で、高校まで九州にいたのだということ。二丁目というか、ゲイの世界に足を踏み込むこと自体初めてなのだということ。自分がゲイだということはわかっているが、どういう人がタイプなのかとかは良くわからないということ。
- 11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:35:27.76 ID:kchGNE8h0
- ξ゚听)ξ「ふーん、本当に初心者なのね。可愛いじゃない」
( ^ω^)「そうなんですお・・・って、あれ?女の人・・・」
そう声をかけてきたのは、ブーンの左隣に座っていた女性だった。入ったときは緊張のために気がつかなかったが、たしかこの店、女性は入店禁止じゃ・・・?
(´・ω・`)「マンコは黙ってなさい」
ξ゚听)ξ「なによー、私こういう子が好みなんだから!」
(´・ω・`)「じゃあチンポをもう一度はやしてから言うんだね。この子はゲイなんだから」
(;^ω^)「お?お?」
状況が飲み込めないブーン。女性はにこやかに微笑むと、おもむろに自分の豊満な胸に手を突っ込んだ。
- 14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:36:51.11 ID:kchGNE8h0
- (;^ω^)「ちょ、ちょま!」
ズリ、という音に、あわてて両目を閉じる内藤。
・・・・・・ズリ?
ξ ゚听)ξ「はい、パッド。」
( ^ω^)「・・・・・・ぱっど?」
笑顔の女性の両手には、大きな乳パッドが握られていた。のこった胸は・・・ぺったんこ。
(´・ω・`)「この子はね、ニューハーフなのよ」
( ^ω^)「えええええええええ!?!?!?」
ξ ゚听)ξ「はーい、オカマのツン子です。よろしくーww」
- 15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:37:16.37 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「ほ、本当に男なのかお・・・」
ξ ゚听)ξ「本当よ。チンポ見る?」
( ^ω^)「だ が 断 る」
(´・ω・`)「まあ残ってるのはマンコなんだけどね」
ξ ゚听)ξ「ま、残念ながらもう棒はきっちゃったんですけどねw」
('A`)「もう・・・汚い話は他所でやってよね」
( ^ω^)「あ、あはは・・・は・・・お・・・」
意外とドクオは汚い話は苦手なようで、露骨に眉をひそめていた。
- 16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:37:58.85 ID:kchGNE8h0
- ブーンが大分店の雰囲気に慣れてきた頃。
( ゚∀゚)「おはようございまーっす」
ドアが開く風圧と共に、大柄な男性が姿を現した。振り向いたブーンは、その風貌に一瞬キョトンとする。
まるでプロレスラーのような、よく日に焼けた筋肉質の体。シャツの上からでも、その筋肉の輪郭がクッキリと浮かんで見える。顔立ちも格闘家のように険しく、その凛とした風貌はまるで空手家か何かのように見えた。ゲイによく受けそうな、男臭い感じ。
ブーンは、心のどこかがドキンと高鳴るのを感じた。
威圧感丸出しのその男性は、目を丸くしていたブーンに向かってニヤリと笑いかけると、始めまして、とその右手を差し出した。ああ、どうも・・・と赤面しつつ右手を差し出すブーン。がっちりと握手を交わし、手を離すと・・・ブーンの右手に、何か違和感が。
- 18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:39:34.50 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「ん・・・?メアドかお・・・?」
( ゚∀゚)「あ、ちょっ」
握らされた紙片を見て呟くブーン。そこには、羅列された複雑な英数字と、@マーク。そしてdocomo.ne.jpという文字。
首を捻る。どうしてメアド?あ、良く見ると文字が・・・えっと、よかったらメールしてくれ・・・よ・・・・?
文字を読んでいると、不意に影が差した。ブーンは振り向き、背筋を凍らせる。
(´・ω・`)「・・・・・・ジョルジュ・・・」
(;゚∀゚)「は、はい」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
(;゚∀゚)「す、すみません!」
(;^ω^)「お?お?お?」
- 19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:39:53.17 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「・・・この子ね、イケる相手がいるとすぐにイロこきはじめるの」
(;゚∀゚)「す、すみません」
( ^ω^)「イロ?」
ああ、と肩をすくめると、色恋沙汰にもってく、って事よ、とショボンは訂正した。
( ゚∀゚)「いやあ、可愛かったからつい」
(´・ω・`)「次そういうことをお客さんにやったら問答無用で ぶ ち 殺 し だからね」
(;゚∀゚)「あ、だ、大丈夫ですよ!もうお客さんには手を出しません!」
(///^ω^)「(でも、こんなにかっこいい人にそういう事されるのも悪くはないお・・・)」
- 20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:40:15.90 ID:kchGNE8h0
- ( ゚∀゚)「と、いう訳で。改めて・・・ジョルジュだ。本名は長岡。身長は185センチ、体重は84キロ。チ(ピーー)の長さは(ピー)センチだ。趣味はジムと釣り。今は彼氏はいないぜ」
( ^ω^)「あ、え、えっと、僕はブーンで・・・・え、えっと身長は」
カウンター内に回ったジョルジュの前でブーンは自分のプロフィールを事細かに説明しようとして、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。下半身のプロフィールまでなんて、あまりにも大胆。
('A`)「ちょっとジョルジュ、アンタまたくだらないこと言ったの?」
その様子を見て、ドクオが口を挟んだ。
( ゚∀゚)「いや、半分冗談だけど・・・」
('A`)「残りの半分は?」
( ゚∀゚)「優しさです」
('A`)「死ね」
(///^ω^)「え、えっと、チ(ピー)の長さは・・・(ピー)くらい・・・かな・・・彼氏はいません//////」
- 21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:40:47.46 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「そういえば、他にはどんなスタッフさんがいるんですかお?」
不意に、周囲を見渡しながらブーンは疑問を口に出した。そこまで広い店ではないが、ショボンとジョルジュ、ドクオの3人だけで回転させるには難しいくらいの広さはある。
聞かれたジョルジュは顎に手を添えると、
( ゚∀゚)「ああ、他には・・・そうだな、今日は来てないけど、チーママの新巻さんとかいよぅ先輩、あとはモララー君とかかな・・・レギュラーはその辺りで、たまにOBがヘルプで入ったりな。」
新巻さんに、いよぅさん、モララーさん、か・・・。
現在目の前にいる3人以外にどんな人がいるのか、ブーンは次第に興味がわいてきていた。もしも常連になれたら、その人たちとも仲良くなれるかな。そんな淡い期待を胸に抱く。
- 22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:41:07.56 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「へえー・・・あ、ところでチーママって要するにどういう立場の人なんですお?」
その単語を耳にしたことはあるものの、イマイチよくつかめないブーン。
( ゚∀゚)「そうだなぁ・・・ママのショボンを助けたり、下のミセコを上手く教育したりする感じだな、中間管理職みたいな。」
( ^ω^)「ふむふむ」
( ゚∀゚)「普段ショボンさんは他の店との関係もあって忙しいことが多いし、大抵はチーママの新巻さんが雑用をこなしてくれてるんだ。いろいろ忙しい身分なのさ。」
( ^ω^)「三行でまとめて欲しいですお」
( ゚∀゚)「1.細かい作業の指示をする人 2.部下思い 3.しょっちゅう寝てる」
(;^ω^)「ちょw三つ目www」
- 24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:41:29.13 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「さて・・・もう5時か・・・」
チラリと腕時計を見たショボンがそう呟いた。ブーンも携帯で時刻を確認する。
( ^ω^)「もうすぐ始発が動き始める時間ですおね・・・」
('A`)「あらほんと・・・あ、チェックしとく?」
( ^ω^)「チェック?」
('A`)「支払いのことよ」
(´・ω・`)「本当にバー初心者なんだね」
(///^ω^)「えへへへ」
コリコリと頭をかくと、ブーンは差し出された伝票の通りに代金を支払う。長時間居座っていたにもかかわらずかなり安く上がったことに、ブーンは心中で驚いた。
- 25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:42:05.29 ID:kchGNE8h0
- ( ゚∀゚)「ここ飲み代安いだろ」
( ^ω^)「あ、そうですおね」
考えを当てられたことに、ブーンは驚いた。ショボンも苦笑している。ドクオは淡々と店じまいの準備をしていた。
( ゚∀゚)「若い客や初心者さんが入りやすいように、値段設定を安くしてるんだ。だから次も気兼ねなく遊びに来てよ」
(´・ω・`)「本当はこういうことはあまり言うべきじゃないんだけど、まあ他にお客さんもいないしいっか・・・」
隣でショボンが呟いた。そういえば、もう店内に残っていた客はブーン一人になってしまっていたようだ。ここは気を利かせないと・・・
( ^ω^)「っと、僕がいたら何かお邪魔みたいですし、そろそろおいとましますお」
(´・ω・`)「あ、ちょっと待って」
- 26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:42:24.45 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「?どうしたんですお?」
傘を手に取ろうとしていたブーンは、くるりとショボンを振り向く。ショボンは笑顔で、だけどどこか観察するようにブーンを見ていた。
(´・ω・`)「よかったら、店の片付けが終わるまでそこでのんびりしていかないかい?
雨がやみ終わるのはもう少し経ってからのようだし」
その言葉で、ジョルジュとドクオの二人がピクリと片付けの手を止めた。その際、ジョルジュの持っていたウォッカのボトルがたぷんと揺れる。カラオケマイクを拭いていたドクオは、そろりとショボンの顔色を伺うように顔を上げた。
( ^ω^)「あ、本当ですかお?それじゃ、」
(´・ω・`)「そうだね、ボックス席のソファでくつろいでて。さ、みんな、さっさと仕事を終わらす!」
('A`)( ゚∀゚)『・・・・』
- 28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:42:47.16 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「実はね、ブーン君に話があるんだ」
店じまいの準備を終えてブーンの前に座ると、唐突にショボンは話を切り出した。サービスで出されたコーラを飲んでタダ飲み気分に浸っていたブーンは、ご満悦の面持ちでショボンを見る。
( ^ω^)「何ですかお?」
(´・ω・`)「うん。いきなりで悪いが、この店で一緒に働くつもりはないかい?」
( ^ω^)「ブーッ(;^ω^)<.∴;:゙;`」
勢い良く噴出されたコーラを、隣で構えていたドクオが見事におしぼりでガードした。残りがジョルジュの顔面を濡らすが、それは当人以外誰も意に介さない。
( ^ω^)「ど、どうして・・・」
ブーンは驚いていた・・・が、心のどこかではそれを望んでいたのかもしれない。思ったよりも、頭は落ち着いていた。
- 29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:43:09.85 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「いや、単純に君が可愛いと思うからさ」
(;^ω^)「え?新手のksmsフラグ?」
('A`)「あ、訂正させてもらうけど・・・マスターが可愛いと思うってことは、結構ミセコとして、スタッフとしても通用する外見だって事よ?」
( ゚∀゚)「俺は初めから可愛いと思ってたけどな」
(´・ω・`)「顔だけじゃないよ。喋り方や物腰も落ち着いてるし、観察力もありそうだ。それになにより、この店に興味を持ってくれてただろ?」
( ^ω^)「う・・・ま、まあそうですけど」
(´・ω・`)「どうだい?仕事は全て一から教えるよ?給料は時給×××円から」
( ^ω^)「少し考えさせてください・・・」
(´・ω・`)「彼氏もできるかも」
( ^ω^)「是非お願いします」
- 30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:43:33.32 ID:kchGNE8h0
- (´・ω・`)「それじゃ、さっそく明日からよろしく!」
('A`)「店が始まる1時間前には店に来るようにね」
各々行って手を振る二人。帰る方向が同じブーンとジョルジュは、二人に手を振ると駅の方へと歩き始めた。同じ方角に向かう人々の姿に、チラホラゲイ臭い人の姿が混じるのはゲイタウンの早朝の通例か。
( ゚∀゚)「いやー、ゲイバーデビューにしていきなり引き抜きくらうとは、流石だなあ」
( ^ω^)「引き抜きだなんて・・・やっぱり無謀でしょうかお?」
夜の世界に突然飛び込むなんて、無謀極まりない。まだ社会に出たばかりのブーンには荷が重い。遠まわしにでもそう返されると思っていたブーンだったが、ジョルジュの返答は意外なものだった。
( ゚∀゚)「いや、別に大丈夫じゃね?」
- 32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:43:54.80 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「・・・でしょうかお?」
( ゚∀゚)「俺だって15歳からこの世界に入ったけど、別になんとも無かったぜ?」
( ^ω^)「・・・じ、じゅうご!?」
思わずあとじさるブーン。ジョルジュは苦笑交じりに、
( ゚∀゚)「ちゃんと学校も行ってたよ。ま、Fランクの高校だったがな」
( ^ω^)「すごいですお・・・大学は行ったんですかお?」
( ゚∀゚)「まあ現在進行形でね」
えーっ、とブーンは叫ぶとジョルジュの顔を見た。シッカリと顎鬚と生やし、短髪に日焼けがコレだけ似合ってるのに・・・。まさか大学生だったとは・・・。
- 33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:44:29.24 ID:kchGNE8h0
- ( ゚∀゚)「あははは、まあよく30台に間違われるけどね」
( ^ω^)「アッー!・・・い、いやまだ29歳くらいに見えますですお」
(;゚∀゚)「フォローできてねえよ・・・ま、まあなんだ、今は大学3年だ。」
額を拭いながら、ジョルジュは笑った。
( ^ω^)「へー・・・大学はどこに?」
( ゚∀゚)「○○芸術大学」
( ^ω^)「・・・・・・お?」
( ゚∀゚)「・・・・・・?」
- 35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:45:42.06 ID:kchGNE8h0
(;^ω^)「・・・ぼ、僕が通ってるところと同じですお」
( ゚∀゚)「あ、そうなの?」
(;^ω^)「そうなの?って・・・」
いや、同じ大学にゲイがいたなんて。これまでのブーンの常識からすると考えられない事だった。
そもそも、この世にゲイなんてほんの一握りしかいないんだ、と思い込んでたブーンにとって、それは紛れも無く奇跡にしか思えず。だが、当のジョルジュは驚くブーンを尻目に淡々と、
( ゚∀゚)「驚くことじゃねえよ。芸大にゲイが多いのは世の常だ」
( ^ω^)「そうなんですかお?」
( ゚∀゚)「ああ。ゲイ大って言うくらいだからな」
そう言って笑った。
- 36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:46:01.90 ID:kchGNE8h0
- ( ^ω^)「そんなもんなんですかお・・・」
( ゚∀゚)「おうよ。今度大学内のゲイサークルにお前を紹介しちゃろうか?」
( ^ω^)「そんなものまであるんですおね・・・・」
( ゚∀゚)「ま、水面下で細々と、ってな感じのサークルだけどな」
喋りながら、地下鉄の改札へと向かう。話を聞くと、ブーンとは住んでいる場所すらも近所のようで、最寄り駅までもが同じようだ。
偶然って怖いお・・・そうブーンが考えながらポケットに手を突っ込むと、ジョルジュにもらった紙片が手に当たった。
( ^ω^)「あ、これ・・・」
- 37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:46:28.07 ID:kchGNE8h0
- ( ゚∀゚)「・・・ああ、ソレか」
どこか忌々しげな目つきでそれを見て、ジョルジュはため息をつき、ブーンの顔を見た。しげしげと眺めた後、再度ため息。
( ゚∀゚)「・・・・・・お前、本当に可愛いよな」
(;^ω^)「ほがっ!?」
まさか地下鉄のホームでそんなことを言われるとは思わず、ブーンは思わず赤面する。
(///^ω^)「いいいいきなり何を!?」
( ゚∀゚)「いや、何だ・・・もしお前がずっと客でいてくれたなら、モーションの一つでもかけようかなと思ってたんだけど」
(///^ω^)「ええっ!?」
- 39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:47:23.50 ID:kchGNE8h0
- ( ゚∀゚)「けど、まあ気持ちは心の中に収めておくよ・・・」
寂しそうに呟くジョルジュ。男らしいその表情が、切なさと悲しみでくすんでいる。
まさか、とブーンは己が耳を疑った。僕みたいに地味で目立たない奴が、こんなに男前な人に、と。
ぶっちゃけジョルジュはブーンのタイプだった。だから、驚きはなおさら。
(///^ω^)「え、あ、いや、でも僕もジョルジュさんの・・・」
( ゚∀゚)「・・・ダメなんだ」
( ^ω^)「お?」
( ゚∀゚)「―――ウチの店、店内恋愛ご法度なんだ」
- 41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:49:31.24 ID:kchGNE8h0
- ガァアア、と轟音を立てて、地下鉄の車両がホームに滑り込んできた。巻き起こる風を身に受けながら、ブーンは固まっていた。ジョルジュも同じように、黙ってリュックを背負いなおした。
自動ドアが開く。
まばらに降りる乗客たちを縫うように乗車し、ふたりは席に着いた。
終始、無言・・・かと思われたが、ジョルジュがそこで口火を切った。
沈黙が辛いのは、ブーンだけではなかった。
- 42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 19:49:50.67 ID:kchGNE8h0
- 電車の中で、ジョルジュは悔しそうに笑って話した。
ブーンを一目見た瞬間に、理想の男だ、と直感したと。会話を交わし、その初々しさになおさらハートを貫かれた、と。
そして、ショボンが店に残らないか、と口にしたときにもしかして、と悟って、その後はしばらく震えが止まらなかったとも。
( ゚∀゚)「・・・ブーンがスタッフになるって聞いて、正直驚いたし、悲しかったよ。」
( ゚∀゚)「だけど、ブーンとはこれでお別れじゃないし」
( ゚∀゚)「ま、仲間として一緒に仕事がんばろうな!」
家から程近い場所でジョルジュと別れる際、ブーンはジョルジュの顔を見ることが出来なかった。
散るには、あまりにも早い初恋だった。
- 75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 21:56:38.24 ID:kchGNE8h0
- 帰宅すると、ブーンは一目散にベッドへと向かった。まとっていた服を全て脱ぎ捨て、ベッドへとダイブする。
今日は、明けて土曜日。学校は休みだ。
( ^ω^)「・・・・いろいろありすぎて疲れたお・・・」
心から、そう思う。枕に顔面をうずめ、ぐりぐりとしてみた。若干汗臭い。
そしてジョルジュの顔を思い出す。アニキ系と称せばいいか。格闘家のようにいかつく、かっこよくて、でも笑うとかわいらしいところもあって、体格もがっしりしていて・・・
( ^ω^)「・・・・・・」
(///^ω^)「・・・・おっきしたお」
ジョルジュのことを思い出し、ブーンは思わず興奮していた。我慢できなかった。
- 77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/09(火) 21:59:48.32 ID:kchGNE8h0
- ( ´ω`)「・・・」
一連の『事』を行った後、ブーンはえもいわれぬ罪悪感に包み込まれた。
あわてて思考を切り替え、とりあえず、これからどうするかを考える。
今日は今から寝て・・・ええと、店は20時オープンだから17時には起きれば間に合うか。
( ^ω^)「とりあえず眠るお・・・」
今日から僕はミセコなんだから、と呟く。
はやく一人前のミセコになって、ジョルジュさんみたいになりたい。そうやって恋心を尊敬に変えれば楽になれるか。そうは思うものの、やはり複雑な思いは胸中を蹂躙し、気づかぬうちにため息は重なるのであった。
(第一話 邂逅の一夜 終)
( ^ω^)次は実際に働いてみるお!
第二話:働くおじさん達(仮名) ゆっくりのスピードで投下していくので適当にお待ちください(´・ω・`)
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