( ^ω^)ブーンが転校して来たようです

  
131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:22:30.43 ID:FGIZM5UQ0
  


ブーンはまず陸上部に入部した。面倒くさがり屋のブーンにとって部活、それも
運動系の部活などと言うものは本来最も敬遠すべきモノの一つであったのだが、
今の自分にはどうしても必要な事だと思った。
自分の得意な陸上競技で良い成績を上げる事が出来れば、きっと自分の『魅力』が増す。
彼は真剣に部活動に打ち込んだ。勿論今までようなふざけた走り方はしない、教えられた
通りの正しいフォームで走った。

それと同時にダイエットも始めた。部活で習った運動生理学に基づく高タンパク低脂肪の
食事メニューを作ってもらうよう母親に頼んで、夜の楽しみだったお菓子は一切禁止にした。

今まで自堕落に過してきたブーンにとって、新しい生活は厳し過ぎる程厳しかった。
しかし彼は挫けなかった。
転校する以前の幸せな日々への渇望と、クラスメイト達の僅かな評価を勝ち取った時の
あのなんとも言えない達成感が、どこまでも彼を突き動かした。



  
133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:25:25.71 ID:FGIZM5UQ0
  

二ヶ月もすると彼の体型は大分スポーツマンらしいものになっていた。
激しい部活動と厳密な食事制限により、典型的なキモピザだった身体は適度に
筋肉のついたスリムな肉体に変わりつつあった。

また競技においても彼の成長は目覚ましかった。もともと豊かな才能を秘めていた
ブーンの脚力は、彼の一心不乱な努力によって急速に成長して行った。
顧問の教師も、もしかするとインターハイを狙えるかも知れない、と密かに
期待をよせる程だった。



  
135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:28:14.51 ID:FGIZM5UQ0
  

部活動を続けていると、自然と他の部員と話す機会にも恵まれた。
しかしブーンはそこではなるべく寡黙でいるよう務めた。転校当初のような
間違いがあってはいけない。不用意に喋りまくってまた周りからキモいと言う
評価を受ける事だけはなんとしても避けたかった。
何か喋る事があっても今までのように思った事をすぐ口にするのでは無く、
一度考えてから慎重に言葉を選んで話した。なるべく人と同じように、なるべく
おかしな事は言わないように。彼は自然と他人の喋り方や話の内容を分析するようになっていた。



  
137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:30:58.57 ID:FGIZM5UQ0
  

ブーンにとって嬉しい誤算だったのは陸上部にクラスメイトの大野が所属していた
と言う事だった。

ブーンのクラスには相変わらず彼を無視するような空気が流れていたが、陸上部では
ブーンは期待の新人。雑用も進んでこなし命令や指導も素直に受ける彼に対する上級生の評判も
悪くない。部活動中は大野もブーンを邪険にする事は無く、他の部員と同じように接していた。

( ^ω^)(大野君は僕とクラスとの架け橋になってくれるかもしれない…)

ブーンは部活でもクラスでも常に大野に注目した。
彼の性格や好み、どうすれば彼にとって『魅力』のある人間になれるのかを
常に思索し続けた。



  
138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:33:23.16 ID:FGIZM5UQ0
  

部活と自主トレのハードスケジュールにも慣れ始めると、ブーンは自分の
ルックスと言うものにも注目し始めた。
今まで服は全てユニクロの安売り、散髪は近所の床屋。
転校する以前から、さすがにマズいだろうとは思っていた。
しかしこれはブーンにとってはかなりの鬼門だった。

(;^ω^)「???」

まず手始めにファッション誌を数冊買ってみたのだが、これが全く意味不明だった。
まずページを開くと様々な服装をしたモデルの写真が目に飛び込んでくる。
彼等は、かっこいい。
それは分かる、みんなイケメンなのだから。
だが彼らの着ている服を見ても一体なにがどうかっこいいのか、ブーンには
全く理解不能だった。

(;^ω^)「よく分からないけどこの緑色のジャンパーなら似たようなヤツ持ってるし」
ブーンにとって上半身に羽織るシャツより厚手の服は全てジャンパーだった。

(;^ω^)「黒いズボンを穿いてる写真が多いけどコレなら一個買っとけば着まわせるよね」
デニムであってもチノパンであってもスラックスであってもカーゴパンツであっても
彼にとっては皆ズポンだった。勿論シルエットなどと言う概念は全くない。



  
140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:36:44.03 ID:FGIZM5UQ0
  

さらにその服の値段を見ると、彼にはもうタチの悪い冗談にしか見えなかった。

(;^ω^)「なんでジーパンが4万もすんの?てかこれユニクロの2900円のヤツと何が違うの??
    どこのヒルズ族が買うんだよこんなもん」


(^ω^)「ワーク気分のブルゾンとブラックデニムをモノトーン風にまとめた統一感が
    シックなユニホームスタイルを演出」

着こなしの解説などは最早母国語として認識する事すら不可能だった。



  
142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:40:13.84 ID:FGIZM5UQ0
  

ファッション誌はとりあえずスルーして、ブーンはとにかくユニクロでないもっとお洒落な、
いわゆるショップという店に行ってみた。

店内に入るだけでもかなり抵抗があったし、やっと入っても初めて体感するオサレな雰囲気に
完全に萎縮してしまった。
店員もブーンを一瞥するとすぐに眉をひそめて彼の視界から姿を消してしまう。
ブーンはいたたまれなくなってすぐに店を出てしまった。

(;^ω^)「なんだあの異空間は…」

やはり自分にとってお洒落と言うものはあまりに遠い、手の届かない世界なのだろうか…。

(;^ω^)「いや、諦めるな。せめてお洒落とは言えなくてもクラスメイトに見られても
    恥ずかしくない程度の格好はしないと…」

自分は絶対に元の楽しい学校生活を取り戻すんだ。
一度憶えた密の味は二度と忘れられない。彼の決意は固かった。



  
144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:43:31.01 ID:FGIZM5UQ0
  

ブーンはとにかく近場のショップを片っ端からハシゴした。
中には親しげに接客してくる店員もいたが、ブーンには彼が話す内容の一割も理解出来なかったし、
薦めて来る服の値段はやはり彼にとってはまるで非常識なものばかりだった。

そうして彼が最後に訪れたのは駅前のパルコの中にあるセレクトショップだった。
その店の商品は、今までショップの値段より大分安めだった。勿論ユニクロの価格破壊的値段設定よりは
まだ高額ではあったが、ブーンが断腸の思いで決断すればなんとか手が出そうな価格帯ではあった。
またブーン以外の客も、今までのショップにいた客よりルックス的になんとなく劣って見えて、
それが逆に彼を安心させた。

(^ω^)(ここなら…)

やっと服を買えるかもしれない。過酷なショップ巡りの旅で心が折れる寸前だったブーンは
安堵の笑みを浮かべて店内を物色し始めた。

(^ω^)(確かに他より安いけど…)

頑張れば手が出ない事もない。他の店と違って雰囲気に萎縮する事もない。
しかしだからといってブーンが自分に似合う服をチョイス出来る訳では無かった。

(;^ω^)(ワカンネ…)

結局彼の目に留ったのは、いつもユニクロで買うのと大差がないようなチェックのシャツだった。

(;^ω^)(これじゃいつもと一緒じゃん…)



  
147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:47:24.56 ID:FGIZM5UQ0
  

「そのシャツ気になってます?」

ラックの前で腕を組むブーンにちょっと小柄なメガネの店員が話しかけた。

(;^ω^)(…またこのパターンか)

服の前にしばらく留まっているとすかさず店員が声を掛けて来る、そして訳の分からない言葉を
使ってまくし立てる。何を言っているのかは分からないが、要約すれば恐らく皆同じ事を
言っているのだ。『この服は良いから買え』と。
ここに来るまでイヤという程体験したお決まりのパターンだった。

いい加減ヤケになってきた。

(#^ω^)「てか僕今までユニクロでしか服買った事ないし、どれがいいとか言われても
    正直訳分かんないですよ。お洒落してみたいとは思ってるけど雑誌とか読んでも
    何がなんだか分からないし、大体みんな高すぎるし」

もうどうにでもなれだった。



  
149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:51:10.46 ID:FGIZM5UQ0
  

店員 「……。今日は何か探してるものとかあるの?」

店員は突然のブーンの独白に一瞬驚いた顔をしたが、またすぐに朗らかな表情を浮かべて接客を続けた。

(#^ω^)「……特には」

店員 「そう。普段はいつもそうゆう感じのが好み?」

店員はブーンの服装を指して言った。
本日のブーンのファッションはユニクロのワンウォッシュのジーンズに同じくユニクロのチェックシャツ、
シャツの前は開けて下は丸首の白いTシャツ(と言うか下着)、靴はアディダスだった。

(^ω^)「これは…、他に着る服が無いから着てるだけで。流石にコレは無いでしょ…」

いくらブーンでもそれ位は分かっていた。何がどう‘無い’のかはよく分からないが。

店員 「なるほどね…。例えばさぁ」

店員はそう言っていそいそと向かいのラックの方に早足で歩いていった。

店員 「コレなんかどう?」



  
150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:53:05.09 ID:FGIZM5UQ0
  

店員が持って来たのは黒いジーンズだった。所々控えめにダメージ加工がしてある。

(^ω^)「……」

どうと言われても答えようが無い。分からないのだから、何も。

店員 「黒のパンツは持ってて損ないと思うよ、着回しがきくから」

口をつぐむブーンに対して店員は尚も続ける。

店員 「ワードローブの基本はやっぱりパンツだから、始めの一本としては悪くない選択だと思うよ。
   シルエットもタイトでもルーズでもない感じだから色々合わせやすいし」

(^ω^)「……」

ブーンに理解出来たのはパンツと言うのは下着ではなくてどうやらズボンの事らしい、と言う事だけだった。

店員 「とりあえず一回試着してみます?」

やっぱりお決まりのパターンか。
ブーンはうんざりしていたが、もう断る気力もなくしていたので店員に言われるままに試着してみた。



  
152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:55:26.90 ID:FGIZM5UQ0
  

店員 「どうですかー?」

(^ω^)「はい、オッケーです」

ブーンは試着室のカーテンを開けた。

店員 「うーん、やっぱシルエットきれいですねー」

(^ω^)「うーん…」

やはりよく分からない。ユニクロと何が違うのだろう?
渋い顔を浮かべるブーンの前に、店員がまた新しい服を持って来る。
今度はやや薄手のグレーのパーカーだった。

(;^ω^)(やばい…無限地獄だ)

店員 「例えばこれなんかと合わせると…」

店員は鏡の前に佇むブーンの上半身にパーカーを重ねた。

(^ω^)「んっ?」



  
155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:57:09.22 ID:FGIZM5UQ0
  

何か感じるものがあった。
ブーンは鏡に映る自分の姿から目が放せなくなった。

(;^ω^)(アレ…?これちょっと…)

かっこいい。
今日初めてショップを見てまわって、はじめてそう思った。

そんなブーンに店員がすかさず声を掛ける。

店員 「よかったらコレも試着してみます?」

(;^ω^)「あ…ハイ」



  
161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 08:59:25.05 ID:FGIZM5UQ0
  

試着を終えたブーンは、鏡を見て鳥肌が立った。
よくは分からないけどなんかカッコイイ。なんとなくオシャレっぽい。

店員 「あー、似合ってますね。パンツがいいから結構何着ても似合っちゃうんですよw」

店員が薦めたコーディネートは実はそれ程大した事はない、オシャレと言うには少し気が引けるような
難易度の低い着こなしだった。しかしブーンのような少年には、敷居の低いファッションの方が
理解しやすい事を彼は知っていた。あまり高等過ぎる着こなしは、知識やセンスの無い人間には
手に余ってしまう。購入はまず期待出来ない。
まずは簡単な着こなしから基本的な事を抑えてもらって、後は客のレベルアップに応じて
それなりのモノを薦めて行けはいい。
ショップと量販店のちょうど中間のようなこの店に勤める彼は、ブーンのようなファッションについて
右も左も分からないような客の対応には慣れていた。
最も、ブーンのように初対面でイキナリ「自分はダサイ人間だ」などとぶっちゃける客はいなかったが。
しかしだからこそ彼はブーンのレベルや要求を即座に把握する事が出来たとも言えた。



  
163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 09:01:58.42 ID:FGIZM5UQ0
  

(;^ω^)「これ…幾らですか?」

店員 「えーと、パンツの方が16800円で、パーカーは5800円かな」

(;^ω^)(両方で2万3千…。ニンテンドーDS買ってもお釣りが来るな……。いっそジーンズだけ……いや
    このパーカーがカッコイイんだし…)

店員 「このパンツ立体裁断なんだよね、最近は安くなったよホント。あとこのパーカーは
   ジップアップだから前を開れば重ね着にもかなり使えるし」

(;^ω^)(……)

立体裁断も重ね着もよく分からないが、とにかくこれはカッコイイ。
決して買えない金額でもない。ならば何を迷う事があろうか、自分は変わるんだ、
『キモい』を消して『魅力』を増やすんだ!

(;^ω^)「コレ…両方下さい!」



  
166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 09:04:49.72 ID:FGIZM5UQ0
  

ブーンはそれからも熱心にパルコの中のセレクトショップに通った。
始めにブーンを接客してくれた店員は竹内と言う名前だった。
ブーンはいつも、初めて訪れた時と同じように分からない事は見栄を張らずに
素直に分からないと伝え、竹内のアドバイスを少しでも理解しようと真剣に話し込んだ。
そしてその話の流れの中で、竹内がさりげなくブーンに商品を薦める。
ブーンは竹内の店でしか服を買わないので立派なお得意様になる。

(^ω^)(僕にとって竹内さんの『魅力』は知識。竹内さんにとって僕の『魅力』はお金か)

自分と竹内の間に築かれたギブアンドテイクの関係を、ブーンは冷静に把握していた。



  
168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 09:07:08.96 ID:FGIZM5UQ0
  

努力の甲斐もあり、ブーンはファッションについて『何が分からないのか分からない』
という状態を抜け出し、自分が知るべき事、身につけるべきセンスと言うものが
非常におぼろげながらではあるが段々とわかるようになってきた。

また、自分に似合う服装というものが分かり始めると、その感覚はそのままヘアスタイルの
チョイスにも応用出来た。

スタイルの良いモデルがどんな服を着ても似合ってしまうように、頭の形の良い人間は
髪型を選ばない。
逆に頭の形の悪い人間は自分の頭には似合わない髪形を選択肢から除外し、
逆に形の悪い部分をカバーしてくれる髪型を選ばなければならない。

美容院は服屋のようにハシゴして選ぶ訳にはいかなかったが、ブーンは服を選ぶ時と
同じように自分の頭の形やファッションなどの情報をなるべく細かく理容師に伝え、
自分の気の済むまでとことん話し合って髪形を模索していった。

理容師によっては熱心に相談をしてくるブーンを嫌がったりバカにした態度を取る人間もいたが、
彼は一切気にしなかった。



  
169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/04(金) 09:10:00.62 ID:FGIZM5UQ0
  


陸上とファッション、そしてコミニュケーション能力。

これらを向上させるためにブーンは尋常ではない集中力と根気を発揮した。

それ程までに彼は以前の仲間達に囲まれた生活を渇望していたし、
転校後の苦しい生活の中で、自分の居場所は与えられるものではなく
自ら勝ち取らなければいけないものだと言う事を強烈に思い知らされたのだ。

それは様々な失敗や試行錯誤などを物ともしない程固い意志だった。


ブーンは自分という存在を急速に変貌させていった。






( ^ω^)ブーンが転校して来たようです  中編  終わり



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