( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:01:16.68 ID:f9ePKG050


                 第一部 永遠の平和の為に死を。

     第一章 雨の出会い


…カーン。カーン。

太陽が季節を間違えたような日差しを降り注いでいる青空の下、
ローハイド草原に木槌の音が響き渡る。
近隣の農民は【彼ら】に作物を奪われる事を怖れ、
例年より何日も早い収穫を終え粗末な住居に息を潜め閉じこもっていた。

そう。【彼ら】は軍隊。

どんなに統率の取れた軍隊であっても。例え自国の軍隊であっても。
国境付近に居を定める農民達が蹂躙の記憶を忘れる事は無い。
ただ、ただ災いが立ち去る事だけを静かに願っていた。

一口に軍隊と言っても、個々の表情は様々である。
初めての戦場に緊張し、布製の兵舎を建てる事すらままならない新兵達を横目に
古参の兵士達は早くも火を熾して食事の準備を始めていた。

ここにも傷だらけの兜を椅子代わりにして
湯気の立ち上る鍋をかき混ぜている男がいる。

周囲のどの兵士より早く食事の準備にかかった彼は最古参の兵に違いないのだろうが、
銀色の頭髪と首から下げられた同じく銀色の鈴。
あどけなさを残す笑顔が【歴戦の勇士】たるイメージを打ち消していた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:04:10.71 ID:f9ePKG050
( ^ω^)『今日のご飯は豆豆豆豆お豆さ〜ん♪』

自作の鼻歌を歌いながら鍋の中身を掬い取り、ふーふーと冷ましてから一口味見する。
真剣な面持ちで味を確かめていた彼は手元に置かれた塩袋に手を伸ばし口紐を解いたが
なにやら少し考え込んでから、それを元に戻した。

('A`)『…ナイトウよぉ。そのワケわからねぇ鼻歌止めろよな』

そう言いながらナイトウと呼ばれた青年の前に腰を下ろしたのは、
いかにも陰気な雰囲気の男である。
細すぎる程に細い体は武人よりも文人を思わせるが、
その身に着けた傷だらけの鎧が彼の戦場経験を如実に物語っていた。

( ^ω^)『そんなの僕の勝手だお、ドクオ』

('A`)『…ふん』

ドクオと呼ばれた青年は面白くなさそうに鼻を鳴らし、許可も得ずに鍋の中身を椀に移した。

('A`)『…なんだコレ!? 全然味がしねぇじゃねーか!!』

( ^ω^)『文句言うなお。塩は貴重品だお』

そう言って彼は自分の椀に盛った豆スープを嬉しそうに啜りこむ。

('A`)『…ちぇっ』

反面彼は自分のそれを一息に口に流し込み、そのまま大の字に寝転んだ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:06:47.51 ID:f9ePKG050
('A`)『…あ〜ぁ。メンヘルの連中は塩がたっぷり入った飯喰ってんだろうなぁ…』

空を見上げながら不満を口にする。

( ^ω^)『おっ、おっ。メンヘルは神聖ピンク帝国の支援を受けているから仕方ないお。
       その代わり、僕らはラウンジ帝国のおかげで武器や鎧には苦労しないし…。
       "隣の客はよく柿喰う客だ"って奴だお』

('A`)『…"隣の芝生は青い"だろ。"隣"しか合ってねーじゃねーか』

【北の大国】ラウンジと【南の大国】神聖ピンクは、【鉄と塩の中継点】アルキュ島を巡って何十年もの間争ってきた。
戦乱が起こる度、双方の大国では生活必需物資が枯渇する為
両国が不可侵条約を締結したのが約200年前。

以来彼らはアルキュ島に彼らに都合のいい傀儡政権を樹立しようと画策する。
ラウンジ支援下にある東のリーマン族と、神聖ピンク支援下にある西のメンヘル族を中心に
アルキュ島の戦乱は続いた。

戦費徴収を目的とする度重なる増税に民衆の不満は高まり、それに比例して官による取り締まりも厳しくなった。
増税。
徴兵。
悪法の乱立。
それに加え【義賊】を名乗る無法者集団が更に民衆を苦しめた。

…人々は希望と笑顔を忘れ、血と涙は雨となり島中に降り注ぐ。
誰もが産まれた意味すら知らず、ただ…ただ無意味に死んでいった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:10:16.43 ID:f9ePKG050
そして、30年前。
奇跡が起こる。

北の貧しい土地に住む一人の下級貴族が興した革命の旗に各地の民衆が応え、立ち上がったのだ。
彼は同じく弾圧されていたニイト族と手を組むと、
リーマン族上級貴族の先兵として立ちはだかるモテナイ族を討伐。
宗教保護の盟約の下、信仰豊かなメンヘルとの同盟を締結。
そしてリーマン族との電撃的和解の後
上級貴族の支持の下、王座についた。

世に言うアルキュ王朝創立者、【統一王】ヒロユキである。

南北の大国に対し完全中立を声明した王の下、戦乱は終結するかと思われた。

ーーーーーしかし、早すぎる王の死が再びこの島に暗雲を呼ぶ。

【統一王】の死後。
まだ幼すぎる世継ぎの後見には、遺言により【評議会】と呼ばれる組織が当たる事になった。
ニイト族、メンヘル族、リーマン族の貴族による合同政治である。

だが、三者の歴史的争いの溝は深く簡単には埋まらなかった。
時を同じくしてラウンジ・神聖ピンクの両国は影に日向に干渉を再開。

両大国の支持を得たメンヘル・リーマン族はニイト族代表・王の妹婿であり【七英雄】の一人
モララー公爵を【評議会】から追放し、挙兵した公爵を撃破。
ニイト族を辺境の自治区に追いやる事に成功する。

そして、ここに再び両民族を中心とする戦乱の世が始まったのであった。

なお後世の歴史家の間で、この遺言そのものが捏造であると言われているのは周知の通りである。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:13:21.25 ID:f9ePKG050
( ^ω^)『で、今回のメンヘル侵攻はいきなり何でなんだお?
       最近はこんなに大きな侵攻作戦はなかったお』

頬に豆粥の雑穀をつけたナイトウが相方に問いかける。
ドクオはすでに味気ない食事への興味を失っているのか、草を銜えながら答えた。

('A`)『…さぁな。俺は殺して殺して殺しまくって金をもらう事しか興味がねーよ』

そんな彼の枕元に一人の男が立ち、その顔に影が差す。

???『それはな、メンヘルの連中が我が民族の至宝を盗み出しやがったから…らしいぜ』

不満気にその加害者の顔を確認しようとしたドクオは、
それが誰なのか知ると面倒臭そうに体を起こした。

筋肉隆々とした長身に纏う、磨き上げられて陽光に輝く銀色の鎧。
背後の従者が持つ大鎌と【無敵・急先鋒】と書き込まれた戦旗。
白地に桃色の乳首を模った傾いた旗印を持つ男。

( ゚∀゚)『ま、真偽はどーだか知らねーけどな』

今回の侵攻作戦の総大将。
リーマン族が誇る勇猛果敢な将軍であり、【薔薇の騎士団】団長。

【急先鋒】の異名を持つ男、千騎将ジョルジュがそこに立っていた。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:16:11.68 ID:f9ePKG050
畏まる2人をよそにジョルジュは地べたに腰を下ろす。
ドクオの椀に豆粥を盛りつけ、口に含んだ。

( ゚∀゚)『なんだコリャ? 全然味がねーじゃねーか』

( ^ω^)『僕ら兵奴は、この御時世に贅沢は出来ませんですお』

それを聞いたジョルジュは己の腰につけた袋から塩を一掴み、鍋に放り込む。

( ^ω^)『おぉ!! なんて豪勢な!!』

ナイトウが喜びの奇声をあげた。
いそいそと自らの椀に豆粥を注ぎ込む。

('A`)『…ところで将軍。さっきのメンヘルが宝物をパクりやがったってのはマジなんですか?』

正反対に粥に興味を持たないのはドクオだ。

( ゚∀゚)『だから知らねーって。喧嘩売るのに理由なんて重要じゃねーんだよ。
     大事なのはこっちが奴らに喧嘩売りたいと思っている。その事実だけだ』

…こんな意味のない喧嘩なんぞ【統一王】ならしたくねーだろうけどな。

やる気なさげにそう言うとジョルジュは立ち上がり、
すぐ側で火を熾すのに悪戦苦闘している新兵達の方へ歩き去っていった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:19:41.04 ID:f9ePKG050
( *^ω^)『ジョルジュ将軍…最高だお』

豆粥を冷ましながら言ったのはナイトウである。

('A`)『…そうかぁ? 俺はあまり好きじゃねーけどな』

いちいち否定するドクオ。

( ^ω^)『最高だお。僕らみたいな兵奴に気軽に声をかけてくれる将軍なんて
       あの人ぐらいなもんだお』

('A`)『…単なるポーズじゃねーか。第一、あの人は【王室派】だろ?
    俺達モテナイの民にとって王室は先祖の仇だし、
    100歩譲ってもリーマンなんぞクソ以下の侵略者としか俺は思っt』

( ^ω^)『ドクオ』

熱く語り出したドクオに対し口を挟む。
その言葉に強い悲しみを感じ取ったドクオはハッとして顔を上げた。

( ^ω^)『…その話はやめてくれお』

('A`)『…ワリィ』



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:22:25.75 ID:f9ePKG050
民族紛争下の地において、民族間の差別意識は切り離せない問題である。
それは中世においても現代においても変わりなく、時を経てもその意識は尾を引く事になる。

さらに自民族の誇りに固執するあまり、彼らは混血児・他国民を見下す傾向が強い。
その様な被差別民に対して人間以下の扱いをする事も多いのだ。
現代においても【インド建国の父】マハトマ・ガンジーは差別に苦しむ最下級カースト層を
【天使の子】と呼び解放しようとしたが、今なお差別の根は強く残っている。

この地においても滅亡寸前にあり、各地を放浪する民であるモテナイ族のドクオ。
そして、幼い時より孤児として己が属する民族も知らず一人生きてきたナイトウは
最下層被差別民だったのである。

いや。
それでもモテナイ族の誇りと言うアイデンテティを持つ分、ドクオの方が若干恵まれていると言えた。

( ^ω^)『………』

('A`)『………』

黙って己の手の中の椀を見つめるナイトウと、それを見つめるだけしか出来ないドクオ。
2人の間に気まずい空気が流れる。
それを打ち破ったのは、高らかに鳴り響く警鐘と物見台にいる見張り番の叫び声であった。

見張り兵『ーーー敵襲!! 敵襲!!!!!』

( ^ω^)『…っ!! 来たみたいだお。行くお、相棒』

('A`)『…おう。豆粥は祝杯代わりにとっておくとするか』

目で合図を交わした2人は無造作に地に置かれた獲物を手にすると、陣門に向けて駆け出した。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:25:46.84 ID:f9ePKG050
( ^ω^)『おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』

('A`)『………』

右手に短刀。左手の篭手に戦爪をつけたナイトウが雄叫びをあげ走る。
一歩遅れ、無言で短槍を手に駆けるのはドクオだ。

階級と所属を示す腕章をつけた正規兵と違い、
腕章を持たない最下級兵【兵奴】である彼等は常に捨て駒同然の最前線に配属される。
新兵達が木の葉の様に死んでいく中、メンヘル兵の恐怖の的となったのはこの2人であった。

ナイトウが【兵奴】として戦場に立つ理由。
それは悲しいかな、彼のような身分の者が生きていくには軍隊か犯罪者しか道は無く
ただ軍隊を選んだ…と言うだけである。
対して、ドクオが戦場に立つのは金の為。
リーマン貴族によって牛耳られた【評議会】がモテナイ族に対して提示した
金銭による土地分譲の盟約の為である。

幾度と無く戦場を共にした2人の連携は完璧と言えた。
先行するナイトウが両手の武器で敵兵の動きを止め、ドクオがその命を奪う。
その単純作業の繰り返しは、彼らの駆ける跡に血の道を作り上げた。

('A`)『…おい、ナイトウ。あれ見ろよ』

( ^ω^)『あの腕章…百人長だお。あれを倒せばドクオの好きなお金が沢山貰えるお』

('A`)『…分かってるじゃねーか。行くぜ、相棒!!』

言うや2人は戦場の更に奥深く駆け込んでいく。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:28:09.58 ID:f9ePKG050
('A`)『…結局コレかよ』

( ;ω;)『僕の…僕の豆粥…お塩たっぷりの豆粥…』

その後、自軍兵士を蹴散らしながら迫る2人を見てメンヘル百人長は逃げ出してしまった。
それを追って敵陣深く切り込んだ2人は自軍と離れ離れになってしまう。

運が悪かったのは、戦場に充満する血と汗と涙と…糞便や吐瀉物などの様々な汚物が蒸発して天に届いたのか
先程までの青空が嘘の様に暗くなり、滝のような大雨が降りだした事である。
それを合図にする様に両軍は兵を引いた。

そうして。右も左も。
自らの目の前すら確認できない雨の中、2人は自陣を探して走り回っていたのであった。

('A`)『…諦めろ。今頃水浸しだ』

( ;ω;)『ああああああ…あんな御馳走二度と食べられないお』

そんな事を言い合いながら、戦場で拾った外套を頭から被って走る。
濡れた外套は重く、鉄の鎧は氷の様に冷え切っていた。
と、そこで。

('A`)『…お。ナイトウ、あれ見えるか? 民家か…? 灯りが見える』

( ;ω;)『…見えないお。豆粥が…豆粥の妖精さんが見えてきたお』

('A`)『…こんなに冷えたら死んじまうな。ここはまだリーマン領のはずだ。
    雨が止むまであそこで休ませて貰おうぜ』

言って、2人はドクオが指差す方向に向け残る気力を振り絞って走り出した。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:30:05.48 ID:f9ePKG050
数分後。
彼らは灯りのともる民家の前にいた。
粗末な木造小屋だが、2人が暮らしてきた住居に比べればはるかに立派なものであったし
隙間風は入っても雨さえ凌げれば十分であった。

( ^ω^)『おっ、おっ。ホントに家があったお。ドクオ凄いお』

('A`)『…当たり前だ。モテナイは騎馬民族だからな。目はいいんだよ』

そんな事を言いながら扉を叩く。

( ^ω^)『もしも〜し。誰かいませんかお』

…。返事は無い。

( ^ω^)『留守かお?』

('A`)『…戦を避けて逃げ出したか?いや。それなら灯りがともってるのは不自然だな』

( ^ω^)『? なんでだお?』

('A`)『…戦が始まった時は明るかっただろ?
    って事は、このクソっ垂れた雨が降り出した時に人がいたって考えるのが自然だ』

そうすると、可能性は幾つかに絞り込まれる。
2人の表情に緊張が走った。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:32:55.65 ID:f9ePKG050
( ^ω^)『…雨で僕らの声が聞こえなかった。もしくは、僕らの姿を見て怖くて閉じ篭っている』

('A`)『…それならいいんだがなぁ。【先客】がお邪魔してる可能性が高いぜ』

( ^ω^)『…一家住人皆殺して、僕らが入ってくるのを待ち伏せしてるかもだお』

常に迫害の中生きてきた2人の危機感知能力は高い。
そもそも、彼らは夕食のメニューを決めるような気楽さで話しているものの
今まさに生死を分けるやもしれない状況下にあるのだ。

我々の過ごす日常と彼らの過ごす日常はあまりにもかけ離れすぎていた。

ナイトウは短剣を鞘抜き、ドクオは短槍を構える。

( ^ω^)『さて。どうするかお』

('A`)『…やるしかねーだろ。せっかく生き延びたってのに、
    このまま雨にうたれたら肺病になっちまうぜ』

( ^ω^)『…友軍だったらいいんだけど』

('A`)『…物事は最悪の可能性に対応できるようにしておくもんだ…ぜっ!!』

言うや否や合図もなしにドクオが引き戸を蹴破る。
同時にナイトウが両手の武器を構え、室内に飛び込んだ。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:35:13.99 ID:f9ePKG050
( ゚ω゚)『…っ!?』

踊りこむナイトウの顔に蛇が襲い掛かった。
緊張状態の脳はアドレナリンを大量分泌し、景色がコマ送りのようにスローになる。
瞬間的に彼は己の顔面に噛み付こうと飛び掛ってきたそれの正体を知った。

ボロ木を寄せ集めて作ったような、何も無い室内の中央で囲炉裏が燃えている。
その奥に立つのはやはりボロボロの、何年も使い続けてきたような毛布を体に巻きつけた金髪の少女。
囲炉裏の炎でその顔は赤く染まり、手にした【それ】は踊るように自分に向かってくる…。

( ゚ω゚)『うおっ!! あぶねーお!!』

ナイトウは慌てて【それ】を左手の戦爪で叩き落とす。
確認するまでも無い。
少女が自分目掛けて振るったのは、恐るべき殺傷力を持った鉄鞭。

('A`)『…!! 女かっ!!』

一歩遅れて室内に侵入したドクオが獣のように囲炉裏を飛び越え、少女を押し倒した。
その勢いで少女が巻きつけていた毛布が宙に舞う。
ドクオは片手でその首を押さえつけ、手にした短槍を振りかぶった。

???『きゃあっ!?』

( ^ω^)『殺すなおっ!!』

('A`)『…分かっtっおぎょっ!!』

答える間も無くドクオの体から力が抜ける。
股間を押さえ悶絶する彼の下から、少女が抜け出してきた。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:37:46.19 ID:f9ePKG050
ξ゚听)ξ『…ただの旅人よ』

囲炉裏を前に、再び体に毛布を巻きつけて仁王立つ少女はツンと名乗った。
突然の雨で連れとはぐれ、迷ううちに運良く空き家を発見。
濡れた服を乾かしている時にナイトウらがやってきたと話す。

ミセ*゚ー゚)リ『でも、いきなり兵隊さんが来たから驚きました』

ツンの従者を自称する短髪に鮮やかな髪飾りをつけた少女が言う。
彼女はナイトウらが小屋に飛び込んだ際、隅で丸くなっていたのだ。

( ^ω^)『…女の子2人で無用心すぎるお』

言いながら彼は自分達が壊した引き戸をはめ込んでいる。

('A`)『…全くだ。戦場には女と見たら見境ないような連中や、
    ドサクサ紛れに略奪を働くクズもいるんだからな
    灯りなんか点けてたら、そんなのを呼び寄せるだけだぜ』

そう口にしながら小さな窓に木片を打ち付けているのはドクオだ。
彼らとて、冷え切った体に囲炉裏の炎は恋しい。
外に灯りが漏れないようにする、虐げられてきた者なりの生活の知恵であった。

ξ゚听)ξ『大丈夫よ。あんただってアタシに何も出来なかったじゃない』

( ^ω^)『…それは僕らだからだお』

どこの軍隊も『表面上は』民衆の為の組織であり、戦場での略奪や強姦行為を禁止している。
特に【急先鋒】ジョルジュは誇り高く、その様な行為を一切許さなかった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:40:10.12 ID:f9ePKG050
('A`)『…この雨は今晩はやまねーな』

灰色の空は何時しか真っ暗になり、それでも雨は降り続いていた。

( ^ω^)『仕方ないお。濡れないだけ良かったと思うしかないお』

囲炉裏を囲み、乾いた服を身に着けた4人はそれぞれの時間を過ごす。
ナイトウとドクオは錆びつかない様、武器や鎧についた水分を丁寧に拭き取り
あちこちがほつれた絹の服を纏ったツンは炎を眺めながら何やら物思いに耽っている。
ミセリと名乗った少女は部屋の隅に置かれたズタ袋から材料を取り出し、囲炉裏で鍋を煮込んでいた。

ミセ*゚ー゚)リ『こんな状況ですから大した物は作れませんが…』

言いながら椀に盛り分けた粥を配る。

(;'A`)『…すげぇ。大御馳走だ』

椀の中には雑穀ではなく精米されピカピカの白米で作られた粥が注がれている。
普段彼らが食べているような食材を限界まで水で引き伸ばした様な代物ではない、
口の中で米の味と食感が楽しめるようになっている。
更に程よい量の塩と複数の調味料で味がつけられ、御丁寧に兎の乾し肉まで入っていた。

( ;ω;)『美味しい…美味しいお…この御礼は何でもしますですお』

ミセ*゚ー゚)リ『ふふ。お代わりは沢山ありますから。遠慮しないで下さいね』

ξ゚听)ξ『……泣く事無いでしょ。大袈裟な』

たっぷり作られた粥の鍋が空になった時。
冷え切っていた筈の体は芯から温まり、汗を掻くまでになっていた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:42:39.59 ID:f9ePKG050
暖かい食事と満腹感は、人を幸せにしてくれる。
食事を終えた4人は、先程殺しあおうとしていたのが嘘のように打ち解けていた。

( ^ω^)『で、ツンはどこまで行くんだお?』

更にこの青年の生まれついての性格なのか、人見知りというものをしない。

ξ゚听)ξ『…当てのない旅よ。』

ツンは一言でその会話を打ち切る。

ミセ*゚ー゚)リ『と、ところでお二人はどちらに所属する兵隊様で?
     見た所我らと同じリーマンのお方のようですが…?』

ツンに付随するかのようにミセリが質問した。

( ^ω^)『僕らは【急先鋒】将軍の兵だお』

ξ゚听)ξ『【急先鋒】…?』

その単語を聞いた彼女らの顔色が変わった。
転がるように部屋の隅に固まると、小声で何やら相談を始める。

…ひm…急先……王…派重鎮…必ずや…になって…
分か…てる。…彼ならきっと…。

( ^ω^)『?』

やがて、相談がまとまったのか2人は囲炉裏の前に戻ってきた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:44:54.02 ID:f9ePKG050
ξ゚听)ξ『…アンタ、さっき食事のお礼はなんでもするって言ってたわよね?』

( ^ω^)『お?』

そんな事言ったかな?と言った風のナイトウにツンが畳み掛ける。

ξ゚听)ξ『じゃ、明日アタシ達を将軍の所に案内しなさい。お礼は弾むわ』

その言葉にブーンは両手を振って拒否反応を示した。

( ;^ω^)『無理無理無理だお!! いくら将軍が気さくな人でも僕らみたいな兵奴が
       自分達から将軍に近づくなんて出来ないお!!』

ξ゚听)ξ『大丈夫よ。アタシが保障してあげるわ』

( ;^ω^)『そんな根拠の無い保証されても困りますお!!』

ミセ*゚ー゚)リ『ホ、ホントに大丈夫です!!
     え〜と、ひ…お嬢様は将軍とは遠縁に当たりまして…』

( ;^ω^)『で、でも…』

それだけは、と必死に拒否するナイトウ。
そこに口を挟んできたのは沈黙を守ってきたドクオだった。

('A`)『…いいんじゃねーか。どーせ帰り道だしよ。それより、明日は早く出発だ。
    遅くなったらまた戦が始まるかも知れねーからな。
    分かったら、ホレ。早く寝ようぜ』



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:46:59.62 ID:f9ePKG050
ドクオの言葉にようやくナイトウは渋々首を縦に振った。

種火を残して灯りを消し、男女別れて床に丸くなる。
やがて、女性二人が小さな寝息を立て始めた頃。
囁くような声で何やら話す声が聞こえだした。

…起きてるか?

起きてるお。で、観察した結果はどう思うお。

…ありゃ、かなりのワケアリだな。
旅の途中とは思えねぇ絹の服と豪華な食事。
お嬢様に侍女。
終いにゃ、【急先鋒】は王室派の重鎮。必ずや力になってくれる…と来たもんだ。

ドクオは…どうするお?

…面倒事は嫌いなんだがな。でもどうせお前は最後まで面倒見るつもりなんだろ?

すまないお。

…気にするな。駄目って言っても着いて来る勢いだし…それに、儲け話に繋がるかも知れねーしな。

その言葉を最後に2人の会話は途切れる。
そして、女性陣に遅れる事数分後。
彼ら2人は豪快な鼾を立てはじめた。



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