( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3:第5章じゃねーか…死にたい ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 22:49:20.56 ID:n9OyJJBx0

     第5章 赤い血と銀の鈴


ノパ听)『走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

御者台に仁王立ち、馬に鞭を入れながらヒートが吼える。
風に給士服のスカートが翻り、目の置き場に困ったドクオは顔を赤くしてそっぽを向いていた。
2頭だての馬車は街道を一直線に駆け、簡素ながらも揺れを感じさせない室内でショボンの説明が終わろうとしている。

( ;^ω^)『…本当に【鉄壁】将軍が攻めてくるのかお』

王都から消えた【至宝】。
どうやら、【至宝】に深い関係を持つらしいツン。
【至宝】回収を目論むメンヘル族によって引き起こされた戦争。
そして、【至宝】に纏わるリーマン内部の権力闘争。

ショボンの話は学の無いナイトウでも理解できるほど優しい物であった。
それでも彼には何故皆が【至宝】を巡って争うのかは理解できない。
貧しくても戦争などしないで暮らしていけないものかと思う。

(´・ω・`)『…確かにそれが理想なんだけどね。権力とは…贅沢とは麻薬のようなものさ。
      一度その魅力を知ったら二度と抜け出せなくなるんだ』

(A` )『…理解できねぇな』

ξ゚听)ξ『…【至宝】なんか最初から無ければよかったのよ。
     【至宝】を欲しがっているのは限られた一部の人間だけ。
     普通に暮らしている人達には全く無縁な物でしかない…ううん。それどころか百害あって一利なしだわ』



5: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 22:54:55.46 ID:n9OyJJBx0
(´・ω・`)『【至宝】なんか無ければいい…か。済まないけど、僕はそうは思わない』

ショボンがきっぱりと言い切った。
邸宅を出る際にハインが持たせてくれた竹筒から茶を椀に注ぐ。

(´・ω・`)『確かに【至宝】はその強大な力ゆえに人の心を狂わせるし、
      ローハイド草原の戦いも【至宝】が無ければ起こらなかったかもしれない』

そう言って甘露を一口。

(´・ω・`)『でも、すでに起きてしまった事を悔いてどうなるのさ?
      【至宝】が 正 し く 使われていれば争いは起こらなかっただろうし、
      この争いを収める事が出来るのも【至宝】無くしては出来ない。僕はそう思うよ』

その言葉を最後に車中は重苦しい沈黙に包まれた。
ナイトウが何とか空気を変えようと会話になるネタを探し出す。

( ;^ω^)『…本当にヒッキー将軍が攻めてくるのかお? なんかの間違いって事は…?』

(´・ω・`)『間違い? それはないね』

沈黙。

( ;^ω^)『ドクオは何で正面見ようとしないんだお?』

(A` )『…うるせぇよ』

沈黙。

( ;^ω^)『……』



8: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 22:59:47.14 ID:n9OyJJBx0
別段、無理に会話を探す必要は無いのだ。
バーボン城に到着すれば、ヒッキーを迎え撃つ準備に追われる事になるだろう。
それまで体を休めるなり、精神を統一するなりするべきなのだが
この銀髪の青年は沈黙を何よりも苦手にしていた。

( ;^ω^)『そ、そうだ!! ツンはその【至宝】を持っているんだおね?
       ちょっとでいいから見せて欲しいお?』

ξ )ξ『…ダメ』

( ;^ω^)『そ、そんな事言わずに!! 僕だって興味があるお!!
       見せるのがダメなら【至宝】がどんな物かだけでも教えてほs…』

無理に笑顔を作り食い下がるナイトウ。
あくまでも笑顔を崩さずに問いかける事で、少しでも少女の心を楽にしてやりたい。
ツンが【至宝】に関わる厄介事に係わっているのは間違いないが、
短い旅の間にナイトウは少しづつこの少女に引かれ始めていたし
高貴な出で立ちにもかかわらず少女も自分の事を嫌ってはいない。
そんな自負もあった。

しかし。




ξ#゚听)ξ『しつこいわね!! 駄目って言ってるでしょ!!』

( ;^ω^)『…お?』

返って来たのは圧倒的な拒絶だった。



9: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:04:10.43 ID:n9OyJJBx0
( ;^ω^)『……』

ξ#゚听)ξ『……』

( ^ω^)『……』

ξ#゚听)ξ『……』

( ゚ω゚)クワッ!!

ξ#゚听)ξ『……』













( ;ω;)ブワッ

ξ;゚听)ξ ビクッ!!



12: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:09:53.95 ID:n9OyJJBx0
突然大粒の涙を流し始めたナイトウにツンは驚き固まってしまう。
男の人でも泣くんだぁ…などと考えながら釈明じみた言葉を口から漏らし始めた。

ξ;゚听)ξ『…ちょ、ちょっと泣く事無いじゃない!!』

( ;ω;)『だって…だって…』

(A` )『…今のはお前が悪い。
    お前も色々面倒事抱えてるみてぇだけどな、そう見えてナイトウは意外と繊細なんだ。
    それに俺達だって今ここにいる以上【至宝】とやらと無関係じゃねーんだ。
    正体を知る権利くらいあると思うぜ』

歯に衣着せぬ所見を述べるのはドクオだ。彼は決して理不尽な要求をしているわけではない。
報酬を約束されているとは言え、ワケも分からず戦場に向かえと言われて疑念を抱かない者はいないだろう。

ξ )ξ『…ごめんなさい…言えないの…』

それでもツンが意志を曲げる事は無かった。
ショボンは何も言わずにただ茶をすすっている。

ξ )ξ『アタシは…あんた達がどう思ってくれてるか知らないけど…
     アタシはあんた達が嫌いじゃなくて…だから嫌われたくなくて…。
     だから…言えないの。ごめんなさい』

(A` )『…抱え込みやがって。だからお偉いさんは嫌いなんだよ』

ドクオの言葉を最後に車内は再び沈黙に包まれる。
そんな嫌な空気を引き飛ばしたのは、御者台からの叫び声だった。

ノハ*゚听)『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 御姉様好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



14: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:16:38.87 ID:n9OyJJBx0
ミセ*゚ー゚)リ『え?』

その叫びにいち早く反応したのはミセリだ。
御姉様こと、ハインは馬車の人数制限の問題で屋敷に残留した。
後から馬で追いかけるにしても、自分達より前にいるなどと言う事はありえない。
途中荒地を迂回したとは言え、そこも馬で越えられるような生易しい土地ではなかった筈だ。

車内の一同はやはり自分と同じ様に窓から顔を出して進行方向を注視している。
いつの間にかバーボン城が門の前に立つ衛兵の姿をはっきりと確認できるまで近づいており、
城に伸びる街道沿いの岩に腰掛けているのは…黒い給士服を着た一人の女性。

( ;^ω^)『ハ、ハインさん!? なんでこんな所にいるお!?』

やがて馬車は彼女の前で速度を落とす。

从 ゚∀从『あれ? もう追いつかれちまったか? 思ったより早かったな』

言いながら丸齧りにしようとしていた檸檬を、腰の袋に戻した。

(´・ω・`)『うん、ヒートが馬を飛ばしてくれたからね。
      僕もてっきり君ならとっくに場内にいると思ってたよ』

ショボンが窓から顔を出しながら言う。

(;'A`)『…バカな…抜かれた形跡は無かったし…馬も無く追いつける筈が無いだろ』

从 ゚∀从『と・こ・ろ・が。このハインちゃんならそれが出来ちゃうんだなぁ』

人差し指を左右に振りながら答えた。



16: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:23:21.54 ID:n9OyJJBx0
(´・ω・`)『ハインはね。【天翔ける給士】を自称する優秀な隠密だよ。
       島内の出来事で彼女の耳に入らない情報は無い。
       この【天智星】の側近が特技・お茶汲み…なワケが無いだろう?』

ノパ听)『更に!!!!!!!!!
     なんと!!!!!!!!
    【神出鬼没な御姉様】の異名も持っているんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 』

从 ゚∀从『あるあr…ねーよwww』

( ;^ω^);'A`)。oO(神出鬼没…)

風呂場。寝室。書斎。
そう言われれば思い当たる節は多い。
異名が示すとおり、人智を越えた移動速度が彼女の持ち味の一つであった。

(´・ω・`)『ちなみに、君達がバーボンに向かっているって情報や【鉄壁】将軍が攻め込んできたって情報も
      全てハインが教えてくれたんだよ。
      ギャグセンスはないし、怒りっぽいダメ給士だけど…この点だけは僕は評価してるんだ』

从#゚∀从『…ご主人…てめぇ後で殺す』

( ^ω^)『なるほどだお…。それにしても…』

やたらヒラヒラした給士服や長い髪はどう見ても隠密向けではないように思える。

从 ゚∀从『何言ってやがる。服は黒だし、元々赤い髪も黒に染めてるんだぜ。
     どう見ても隠密って感じだろうが』



19: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:31:09.44 ID:n9OyJJBx0
( ;^ω^)『ねーよwww』


(;'A`)『…ねーよ』


(;´・ω・)『前から思ってたんだけど…それは無いと思う』


ノパ听)『ちょっとお馬鹿な所も好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


ξ;゚听)ξ『あの…その…ちょっとイメージと違うかな…って』


ミセ;゚ー゚)リ『ごめんなさい…答えなきゃ駄目ですか?』


从#゚∀从『……』


ハインの合流は車内の嫌な空気を洗い流してくれた。

馬車はそのままバーボン城門をくぐる。



22: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:38:24.74 ID:n9OyJJBx0
場内へ入った一行は市場を抜け、宮殿前で馬車を降りた。
宮殿は領主【常勝将】の趣味によるものなのか派手さは無く、使い勝手の良さを追求したこじんまりとした物だった。

ショボンはそのままヒートを供に自身の私兵である【黄天弓兵団】が控える兵舎に。
ナイトウ達はハインに連れられて宮内に向かう。
手渡された真新しい甲冑を身に着けながらナイトウが口を開いた。

( ^ω^)『【鉄壁】将軍との戦いは後どれ位で起こりそうなんだお?』

从 ゚∀从『ハインちゃんが邸宅を出た時にはバーボン河を越えたって知らせが入ってたからな。夕刻にはこの城に着くだろうよ』

碗を載せた盆をテーブルに載せながら答えるハイン。
空を見ればすでに日は西に傾き始めていた。
昨夜はジョボンの邸宅で夢のような一時を過ごしていたと言うのに、
今は血で血を争う戦いに備えているとは…。人生とは本当に分からないものだと彼は思う。

('A`)『…で、俺達は本当にこのクソ女どもの護衛だけでいいのか?
    別に楽だからいいけどよ。報酬の未払いはこれ以上ゴメンだぜ』

ξ#゚听)ξ『誰がクソ女よ!! 失礼ね!!』

ドクオが言っているのは、【急先鋒】ジョルジュが約束した【バーボン領までの護衛費】と
ツンが約束した【ジョルジュ陣営までの護衛費】の事である。
実際にはジョルジュは護衛費を前払いしているし、ツンの依頼はミセリが作った粥の礼という事になっている。
更に、昨夜の食事は彼が一生働いても食べる事は出来ないであろうだけの材料費がかかっているのだが…。

从 ゚∀从『安心しろって。なんならまた風呂でサービスしてやってもいいんだぜwww』

その言葉にミセリは冷たい視線をドクオに送り、彼は少年のように顔を赤らめた



24: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:43:46.90 ID:n9OyJJBx0
(´・ω・`)『うん、支度は出来たかい?』

ノパ听)『【鉄壁】の軍の姿を街道の向こうに確認したぞ、御姉様!!!!!!』

言いながらやってきたのは【天智星】ショボンとヒートの2人だ。

从 ゚∀从『おうよ。こっちも準備万全だぜ』

ハインは答えながら主に茶を差し出す。

( ;^ω^)『……』

(´・ω・`)『ん? どうかしたかい?』

ナイトウは絶句していた。
片肌脱ぎの外套に肩から矢の入った筒を提げたショボンは別として。
長い髪を大きなリボンでポニーに纏め、給士服に竹箒を持っただけのハイン。
同じく給士服にふわふわの毛皮で覆われた簡素な胸当て・手甲・具足、
何故か猫耳のついたカチューシャを装着しているヒートはとてもこれから戦場に行く格好には見えなかったからだ。

从 ゚∀从『あ? ハインちゃんは隠密だからよ。動きやすさが命なんだよwww』

ノパ听)『何を言うかぁぁぁぁぁ!! このカチューシャは鉄製だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

自らの装備に何の疑問も持たない二人。

(;'A`)『…まぁ、いい。いざとなったら俺が逃げ道確保してやる。別料金でな』

ドクオが溜息混じりに言った。



26: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:50:39.71 ID:n9OyJJBx0
それからは、皆思い思いにヒッキー軍の到着を待った。
売られた喧嘩。
それも買う気もないのに押し付けられた喧嘩である。
それでもこの場を去ろうと言い出す者はいなかった。

ショボンはテーブルに片肘をついてなにやら難しそうな書物をめくっている。

ハインはそんな主の為に茶を沸かしている。

ヒートはそれをウットリと見つめている。

ドクオは壁に背を預けて目を閉じて考え事をしている。

ツンは軽鎧を身に纏い窓辺に立つ。ゆっくりと迫ってくる【鉄壁】の軍隊を眺めているのだろう。

ミセリまでが慣れない槍を持ち、今更ながらに『えい!! やぁ!!』などと言って振り回している。

そしてナイトウはツンの足元に腰を下ろし、
普段は服の中に隠している銀色の鈴がついたペンダントを取り出して眺めていた。

おそらくは高価な物なのだろう。
記憶を遡り、それが途切れる寸前までこの鈴は彼と共にあった。
幾度も狙われたが、その度に守り通してきたナイトウの宝物である。

それを目線まで持ち上げ、小さく揺らす。

ーーーーーちりん。

控えめな音色が静かな部屋に響きわたった。



28: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:54:04.35 ID:n9OyJJBx0
ξ゚听)ξ『……な音』

( ^ω^)『おっ? なんか言ったかお?』

すっかり自分の世界に入り込んでいたナイトウは、突然頭上から降りかけられた言葉にハッとする。
さっきは怒ってゴメン。こっちこそゴメンと言う他愛もない会話をしてから、ツンはナイトウと並んで腰を下ろした。

ξ゚听)ξ『綺麗な音って言ったのよ。可愛い鈴ね』

( ^ω^)『おっ、おっ、おっ、僕の宝物だお』

自分の大切な物を褒められて嫌な思いをする人間はいない。
彼はもう一度小さく鈴を揺らした。
再び澄んだ音色が部屋に響きわたる。

ξ゚听)ξ『…何かしら。どこか懐かしいような…落ち着く感じがするわ。
     これから戦が起こるかもしれないなんて嘘みたい』

ツンは瞳を閉じ、うっとりとした表情で言った。
『戦が起こるかもしれない』ではなく、『戦が起こる』のはショボンから聞いた話からすれば間違いないのだが
ナイトウは敢えてそこを聞き流す。

( ^ω^)『そうなんだお。この鈴の音を聴くと落ち着くんだお』

嘘でも社交辞令でもない。
戦を前にした兵士は、それぞれがそれぞれなりの精神集中法を持つ。
例えば、ショボンの読書。
例えば、ドクオの瞑想。
ナイトウの場合は鈴の音を聞くと言う儀式がそれに当たった。



29: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/01(金) 23:57:17.17 ID:n9OyJJBx0
だがしかし。
儀式の最中、彼は『失われた記憶の様な物』に唐突に襲われる事がしばしばあった。

髪の長い少女の背中。

背後に流れていく草原の景色。

甲冑を着込んだ男達。

燃える家。

激流。

それらが一斉に。弾けるように何度も脳裏をよぎるのだ。
『どこにでもある風景』と言ってしまえばその通りであったし
何かを思い出そうとしても何も思い出せないので、
ナイトウはそのフラッシュバックを元に記憶を取り戻そうとする事をすでに放棄してしまっていた。

それでも。如何に彼が能天気な性格とは言え、自らの出生や失われた記憶が気にならない訳ではない。
その鍵となるのが手にした鈴以外に無い以上、事ある毎に放棄した可能性を再び拾い上げ
自分の世界に篭るのであった。

『…ナイトウってば…? 聞いてるの?』

今も彼は、その風景をなんとか思い出そうとしている自分に気付き苦笑いを浮かべる。
額に浮かんだ冷や汗を拭い、自分の名を呼んだ金髪の少女に向き直り…口を開いた。

( ^ω^)『ツン…僕は記憶が無いんだお』



33: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:03:41.19 ID:rxMNG6Gi0
ξ;゚听)ξ『…は? あ? え?』

突然『僕は記憶が無い』と言われて対処に困らない人間がいるだろうか?
ツンもやはり、ナイトウの突然の告白にガッチリ固まってしまう。

( ^ω^)『記憶って言うか…。自分の名前も、出生も何も覚えていないんだお』

ξ;゚听)ξ『名前って…でも…じゃあ、ナイトウって名前は…?』

戸惑うツンにナイトウはすっと首から外した鈴を手渡す。
そこには擦れていたが、確かに何か文字が掘り込まれていた。

ξ゚听)ξ『…N……ITO…って書いてあるみたいだけど…?』

ナイトウは優しく頷く。

( ^ω^)『そうだお。子供の頃の僕は気がついたらこの鈴だけを持ってどこかの森に一人でいたんだお。
       ナイトウって名前は…この鈴に書いてあった文字から自分で決めたんだお』

突然衝撃的な過去を語り出したナイトウにツンはどうして良いか分からず、ただその顔を見つめるのみ。

ξ;゚听)ξ『ど…どどどどうしてアタシに突然そんにゃ話を?』

ナイトウはしばらく天井を見上げ、何やら考えてからようやく口を開いた。

( ^ω^)『なんでだろう…多分…好きだからだお』



36: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:08:56.96 ID:rxMNG6Gi0
ちなみに、この『好き』には特別な意味は一切無い。
あくまで『好き』or『嫌い』で判断すれば…の話である。

彼にとって『自分が好き=友達』なのであり、
更に言えば…味がしない粥を食べながら空腹を満たせたことを喜び
財布を落としても食事を奢ってくれた友達との友情を再確認できたことを喜ぶような。
物事の悪い面を見ようとしない、故に嫌いな物など存在しない…それがこの青年だった。

尚且つ、彼は人見知りもしなければ
臆面も無く『好き』とか『僕達は友達だ』とか言ってしまう様な男なのである。
考えようによっては女性にとってこれ以上厄介な性格はないといえるだろう。

しかし、この時ツンがそれを知っているはずも無く。
ただただ顔を破裂しそうなまでに赤面させていた。

ξ;////)ξ『にゃにゃにゃにゃにゃに言ってんのよっ!!
      きゃらかうのは止めてよねっ!!』

そして。
この青年が何故少女が赤面しているのか気付くはずも無く。
言葉を続ける。

( ^ω^)『からかってなんかいないお。
       僕はツンが好きだお。
       ツンは【至宝】の事で色々大変みたいだし、
       【至宝】の事もツンが言いたくなければ僕はもう聞かないお。
       でも…君は僕が守るから安心して欲しいお』



38: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:13:06.35 ID:rxMNG6Gi0
そう。彼は

( ^ω^)『色々あるみたいだけどツンは友達だし、護衛はちゃんとするから安心して欲しいお』

…と伝えたつもりだったのだ。
しかし、彼の意思とは違った受け捉えをしてしまった彼女を誰が責められよう?

ツンは幼い時から閉鎖された世界で日々を送ってきた。
唯一の話し相手といえば侍女のミセリのみ。
ただ、ツンがどんなにミセリを友達だと思っていても
ミセリからすればツンは仕えるべき主人であり、そこにどうしても壁が出来る。

つまり、どんなに切望してもツンには心を許しあえる『親友』は存在しなかったし
『恋人』ともなれば書物の中のお話としか思えなかった。

そして今、『親友』と『恋人(?)』を同時に手に入れようとしている(と思い込んでいる)
ツンがパニックになるのも当然と言えよう。

ξ;////)ξ。oO(考えろ。考えるんだアタシ)

素数を数えて落ち着こうとしたかどうかは定かではないが、
ツンは必死に頭を回転させて今この場にもっとも相応しい回答を導き出そうとする。

ξ*゚听)ξ『き、気持ちはううううう嬉しいんだけぢょ、ももももっと考える時間が欲しいっちぇ言うか』

( ^ω^)『? 何言ってるお? のんびり考える時間なんてないし…やる事は一つだお』



41: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:18:28.51 ID:rxMNG6Gi0
ξ )ξ『……』

なんて強引な男だろう。考える時間すらくれないなんて…いや。コレ位の勢いが男には必要なのかもしれない。
ただ…やる??
やるって何を!?
もももももももしかして口づけとか!?
そ、そんなこっちにも心の準備ってもんが…

( ;^ω^)『何を手足バタバタさせてるんだお?』

恋人(?)の一言でツンは我に返った。
乱れてもいない髪を手櫛で整え、こほんとわざとらしい咳をする。

ξ////)ξ。oO(ナ…ナイトウがこんなにまで話したくない筈の事を話してくれたのに、
       アタシがナイトウに隠し事をするのは良くないわよね)

恋人とは楽しい事も辛い事も分かち合いたい。
この人ならアタシの全てを受け入れてくれるはずだ。
そんな乙女な考えが、彼女にある決意をさせる。

ξ゚听)ξ『ナイトウ…あなたに聞いて欲しいことがあるの』

( ^ω^)『お?』

もしかしたら、2人の関係(?)に罅を入れる事になるかもしれない。
怖い。
それでも言わなければいけない。
ツンは膝を抱え込み、視線を床に落としながら言葉を紡ぐ。

ξ゚听)ξ『【至宝】は…ううん。アタシ実は…』



45: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:22:19.27 ID:rxMNG6Gi0
兵士『申し上げます!!』

ξ;゚听)ξ『は?』

そこに、甲冑を着込んだ兵士が飛び込んできた。
それを合図にショボンは書物を閉じ、ドクオは目を見開き、ナイトウは立ち上がる。

('A`)『…来たか?』

从 ゚∀从『へへへっ。腕が鳴るぜ』

黄色い腕章を左腕に巻きつけた兵士は、その場に片膝をつき両手を胸の前で組む。

兵士『【鉄壁】ヒッキー率いる兵500!! 城の前に陣を構えております!!』

(´・ω・`)『うん、分かった。みんな行こうか』

ξ;゚听)ξ『え? え? ふぇ?』

外套を翻し、歩き出すショボンにハインとヒートが続く。

( ^ω^)『ツン、僕らも行くお。話の続きはまた後でだお』

言いながら、まだ座り込んでいるツンに手を指し伸ばすナイトウ。

ξ )ξ『…うん』

ツンは素直にその手を握り、腰を上げる。
すれ違いざま、膝をつく兵士の後頭部を睨みつける事だけは忘れなかった。



47: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:26:09.98 ID:rxMNG6Gi0
(´・ω・`)『こりゃ壮観だね』

一同は市場を囲むようにそびえ立つ城壁の上にいた。
こんな時にもかかわらず、夕暮れの風は心地よかった。

彼らの足元には、歩兵を中心としたヒッキー軍が陣を構えている。
どこから調達したのか。城門を打ち破る為の丸太や
城壁を登る為の長梯子まで最前列に持ち出して、見るからに『やる気満々』と言った風情だ。

と、そこで陣の前から一人歩を進めてくる男がいる。
一段と豪奢な重鎧に身を包んだ男。【鉄壁】ヒッキーである。

(-_-) 『逆臣ショボン!!』

一喝。

(-_-) 『【急先鋒】ジョルジュと手を組み、【至宝】を独占せんとの謀略真に許しがたい!!
    今すぐ城門を開き降伏せよ!! そなたの父【常勝将】の功績により命だけは助けてやろう!!』

(;´・ω・)『やれやれ。頭っから逆臣扱いとはね』

ショボンは『参ったな』とばかりに一同に向けて肩をすくめると、城壁を見上げるヒッキーに向き直る。

(´・ω・`)『黙れ。この【天智星】が何も知らないとでも思っているのかい?
      我欲の為に権力を横暴し、挙句の果てに我が父の領地に兵を勧める暴挙こそ許しがたい。
      君こそ今すぐ下馬して膝をつきたまえ。今なら八つ裂きで許してやろうじゃないか』

ショボンは【天智星】の異名を持つ者としてアルキュにその名を知らぬ者なしと言われるほどの男だが
あくまで在野の一浪人であり、階級的にはそこらの農民と大差ない。
そのショボンの堂々とした立ち振る舞いが、ヒッキーの怒りに火をつける。



49: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:30:09.51 ID:rxMNG6Gi0
(#-_-)『言いおったな!! 後悔しても知らんぞ!!』

(´・ω・`)『ドジで鈍間な亀に攻城戦が出来るとは初耳だね』

(#-_-)『フン!! 親の七光りのお坊ちゃんの分際で偉そうに!!』

(´・ω・`)『ぶち…いや。轢き殺すぞ』

城壁の上と下で低レベルな罵り合いを始める2人。
ショボンの『ヒッキー』と『轢き』を掛け合わせた渾身の駄洒落は当然の如く流される。
思いついた駄洒落を口にせずにはいられない性格は最早おっさんである。

そんなショボンだが、実は戦いに先じて必勝の策を完成させていた。
彼らは時間を稼ぎさえすればいい。
そうすれば自ずと勝てるようになっているのだ。
あとは、ヒッキーの注意を引く為に挑発してやれば完璧だった。

ショボンの計略どおり、ヒッキーは怒りに燃え本来不得手な【攻撃】を開始しようとする。
振り返り、背後に控える兵に向けて叫んだ。

それはこの戦いを前にして、ショボンが『露呈する可能性』を考慮しつつも対策を練れなかった言葉。
【至宝】を持つ少女が…いや、皆が受け入れなければ無かった現実。

(-_-) 『貴様ら!! 【天智星】ショボンは【アルキュの至宝】…
    【この世でただ1人、統一王の血を引く王女】ツン=デレを拉致した大逆人だ!!
    首を取った者には一生遊んで暮らせるだけの褒美をくれてやるぞ!!』



51: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:33:16.28 ID:rxMNG6Gi0
;^ω^)『…え?』

その言葉にナイトウは思わず振り返り、背後に立つツンの顔を見つめる。
少女は硬く唇を噛み…顔は心なしか青ざめていた。

ショボンとその給士2人は、その事実を知っていたのだろう。
動じる素振りこそ見せないものの、ただただ無言を貫き通している。

ナイトウはようやくツンが【至宝】の正体を言いたがらない理由を知った。
彼らの間に建つ【互いの立場】という名の壁。
それを怖れたのだろう。

そして、今までに幾度と無く自らの体を流れる【統一王の血】によって悲しい思いをしてきたのだろう。

( ^ω^)『…僕らは似ている…僕らは一緒なんだお』

ナイトウは思う。
立場の違いこそあれ。
彼らは2人とも、自らが望んだわけでもない…それでも決して逃げられない環境下で周囲からの圧に苦しめられてきたのだ。
ナイトウには嫌というほど、ツンの悲しみや苦しみが分かる気がした。

だから…静かに。安心させるようにツンを抱きしめる。

( ^ω^)『大丈夫。大丈夫だお。一人で色々抱え込んで大変だったんだおね。
       でも大丈夫だお。僕はここにいるお。ツンは…一人じゃないお』

ξ )ξ『……うん』

ツンは子供が母親にするようにナイトウにしがみつく。
ナイトウもまた、少女の金色の髪を優しく撫でつけた。



53: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/02(土) 00:34:27.61 ID:rxMNG6Gi0

























                   ーーーーーそして。
                   この場にいる誰もが。
                   もう一人王女を見つめる…暗い目をした男がいる事に気付かなかった。



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