( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 22:54:41.86 ID:XsGMcNNr0


     第8章 絶望の獅子


ミセ*゚ー゚)リ『今晩は高熱が出るかもしれません。でも命に別状はないでしょう』

寝台に横たわり目を閉じているヒートの額に濡らした布を乗せながら言う。

両腕の粉砕骨折。
肋骨数本骨折。
脳震盪。
その他全身打撲。
それがヒートの負った怪我の全てだった。

すっかり夕闇に包まれたバーボン城内ではこれでもかと松明が焚かれ、
医療知識を持つ者持たない者関係無しに市民が負傷兵の治療に走り回っている。
そんな状況下では、ただ一人とて医者を独り占めするわけにはいかなかったから
ミセリが王都で医学も学んだと聞いて一同は手を叩いて喜んだものだ。

(´・ω・`)『うん、助かったよ。兵士もヒートも一人の人間、一つの命に差はない。
      僕の給士ってだけで優先するのも気が引けてね』

( ^ω^)『ミセリ凄いお。でも、医学 も って事は他にも…?』

ミセ*゚ー゚)リ『はい。ボクはお嬢さm…じゃなくて、姫の付き人になるべく教育を受けましたから。
     医学、栄養学、地理学、歴史学等は一通り熟知しているつもりですよ』



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 22:57:21.69 ID:XsGMcNNr0
(;゚∀゚)『お前の事なんか別にどーでもいい!! ヒートはマジで大丈夫なんだろうな!!』

熊を思わせる巨体を震わせて声を荒げるのは【急先鋒】ジョルジュだ。

ミセ;゚ー゚)リ『…どーでもいい、って…ちょっと傷つきました…』

(;゚∀゚)『頼む、頼むぜ…俺様の可愛い妹分なんだ!!俺様に出来る事なら何でもするからよ…』

自尊心の塊のような男が背を丸めて、幾度も頭を下げるのを一同は呆然と眺めている。

( ;^ω^)『…将軍、何であんなに必死なんですかお?』

(´・ω・`)『うん? まぁ、僕からすれば予想できた展開だけどね』

コソコソと囁きかけるナイトウに、その白眉を撫でつけながらショボンが答えた。

(´・ω・`)『ヒートは【薔薇の騎士団】で武術の修行を積んだんだよ。以来【薔薇】の連中はヒートには甘いんだ』

从 ゚∀从『ま、客人扱いって事で戦場に出た事はないみたいだけどな』

(´・ω・`)b『【薔薇】で修行したのに【百合】とはこれ如何に? ぷっ』

从#゚∀从『……ご主人テメェ…』

落ち着きなく室内を歩き回る【急先鋒】。
会心の小ネタを披露して得意気な【天智星】と、どこからともなく飛刀を抜いた【天翔ける給士】。

( ;^ω^)。oO(このままじゃラチあかないお)

そう考えたナイトウは、一人部屋を後にした。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:00:15.32 ID:XsGMcNNr0
ξ )ξ『…ヒートさんの具合は?』

静かに閉めた扉の影に少女はいた。
両膝を立てて揃えた、所謂体育座り。その膝に顔を埋めるようにしている。
治療はしてあるものの、血で真っ赤に染まった左袖が痛々しかった。

( ^ω^)『おっ、おっ。命に障りはないそうだお。ミセリって意外と凄いお。
       正直、只の付き人キャラかと思ってたお』

ξ゚听)ξ『…ナイトウは大丈夫なの?』

顔を上げる。
普通に歩き回っているように見えるが、ナイトウの負傷はヒートに次いで重いものであった。
左腹部裂傷。
肋骨骨折。
背中は到る所で打撲傷を負い、
動脈こそ傷ついていないもののドクオに刺された足の傷からは、
何度包帯を交換しても血が滲み出してくる。

( ^ω^)『ダイジョウブイだおwww僕は怪我に慣れてるから…。
       美味しいご飯食べて寝ちゃえば明日には治ってるお』

それでもナイトウは少女に負担をかけまいと、最高の笑顔を作ってみせる。
が、ツンは笑わない。
再び揃えた両膝に顔を埋めてしまった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:03:55.31 ID:XsGMcNNr0
( ;^ω^)『…そ、それよりツンの怪我は大丈夫なのかお?』

ξ )ξ『うん』

( ;^ω^)『……ドクオが…僕の友達が本当にゴメンクサイだお。
       でも、アイツは本当は凄くいいヤツで…ちょっと真面目すぎるって言うか…』

ξ )ξ『うん』

( ;^ω^)『………鮫の話しないかお?』

ξ )ξ『うん』

ナイトウがどんなに話しかけても、返ってくる返事は『うん』のみ。
並んで腰を下ろしたまでは良かったが、銀髪の青年はほとほと困り果ててしまった。
不自然な沈黙が二人の周囲に流れる。

( ;^ω^)。oO(【天智星】様の空気読めなさが羨ましいお…)

そんな事を考えながら、必死に少女が興味を惹きそうな会話を探す。
本来であれば、一人にしておいてこの場を立ち去ればよいだけなのだが
それが出来ないのがこの青年の良い所でもあり悪い所でもあった。

そして、ついに天恵とばかりに最良と思えるネタが彼の脳裏に閃く。

( ;^ω^)『…………ツンはこれからどうするつもりなんだお?』



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:06:24.23 ID:XsGMcNNr0
ξ゚听)ξ『…これから?』

ナイトウの問い掛けに、ツンはようやくゆっくりと頭を上げた。
その顔は幽鬼の様に青ざめている。

( ;^ω^)『そうだお。ヒッキー将軍やリーマン正規軍。
       メンヘルや、もしかしたら…本当にドクオもツンを狙ってくる筈だお。
       ショボンさんも考えてくれてると思うけど…ツン自身はどうしたいんだお?』

ξ゚听)ξ『そうか…。そうだよね』

呟くや、少女はまたしても膝の間に顔を隠してしまった。

ξ )ξ『わかんない…わかんないよ。
     アタシは友達が…自由が欲しかっただけなのに…なんでこんな事になっちゃったんだろ…。
     これからとか…アタシはどうすればいいのよ…?』

( ;^ω^)『……』

その肩が。見るも鮮やかな金色の髪が小刻みに震え出す。
最高の考えどころか、触れてはいけない部分に。
完璧な地雷をナイトウは踏んでしまったのだ。
無理に押さえ込むような嗚咽に、今度こそ彼は為す術もなく黙り込む。

どれ程時間が経過しただろうか。
やがて、それが止み少女が袖で頬を拭った時。
静かに扉が開けられた。

(メ´・ω・)『こんな時に済まない。今後の我々の行動について相談したい。
       2人とも中に入ってもらえるかな?』



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:09:24.86 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『…この城を捨てる』

何時にも無い真剣な顔つきで車座になる一同。
ヒートまでが背中にクッションを入れて寝台に身を起こしている。
そんな中、最初に口を開いたショボンが発したのがこの一言だった。

( ゚∀゚)『本気か? バーボン城は天下に知られた要害だぜ。
     確かに引き篭もり野郎には痛めつけられたが、
     ありゃ【黄天弓兵団】と【鉄柱騎士団】の相性の問題であって…。
     今後戦う為にココほど利を得たトコはねー気がするんだがよ』

床に直接腰を下ろし、意外なほど理に適った意見を述べるジョルジュ。
しかし、ショボンは静かに首を横に振った。

(´・ω・`)『確かにバーボンは要害だよ。
      ここを本拠地とすれば、住人の支援も得られるだろうね。
      でも、よく考えてほしい』

手にした碗を背後に控えるハインの持つ盆に戻し、立ち上がる。

(´・ω・`)『我らの勢力は決して大きくない。
       戦い、生き残る為にはあまりにも力不足だ。僕達は強くならなくてはいけない。
       にも関わらず。東にリーマン。西にメンヘル。南にはこの城に熟知した我が父。
       これらに囲まれたバーボンに居残ればどうなるか?』

从 ゚∀从『…フルボッコでお陀仏だろうな』

主に代わり、漆黒の給士服でなく平民が着る作務衣に身を包んだ【給士】が続けた。

ノハ*゚听)。oO(理知的な御姉様も素敵…)



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:11:48.14 ID:XsGMcNNr0
(;゚∀゚)『おいおい!! それじゃ残るは北だけか!? そりゃ無茶だろうが!!』

ミセ*゚ー゚)リ『このまま北に行けば…ギムレット山地ですよね?
      確か【統一王】挙兵の地だったと記憶していますが』

(;゚∀゚)『昔はな!! でも今は状況が違うんだよ!!』

【急先鋒】はダメだコリャとでも言いたげに、床に大の字に倒れこんでしまった。

ミセ*゚ー゚)リ『? ?? ???』

頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべるミセリ。
彼女の疑問に答えるべく、ハインが口を開く。

从 ゚∀从『ま、ギムレットは元々貧乏貴族の封土になる位だからよ。
     昔から作物の生産に向かないって言われてるんだわ。
     尚且つ、【統一王】の死後は遺髪を継ぐと宣言した義賊…
     つか、単なる山賊だわな。散々好き勝手に暴れまわってやがるのよ』

言い終えると、許可も得ずに主の碗から茶をすすり口を湿らせた。

( ゚∀゚)『分かっただろ? 飯が無けりゃ兵は養えねぇ!!
     しかも、山賊どものせいで住民も疲れ果ててる。
     そんなトコでどうやって力を蓄えろって言うんだ!!』

正に八方ふさがり。
ジョルジュはわざとらしく大きな溜息をついてみせる。
しかし、天才と呼ばれた男は片唇を持ち上げて笑うと自身ありげに立ち上がった。
全ての目が彼に集まる。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:18:01.43 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『うん。普通ならみんなそう思うだろうね。
      でも僕の考えは違う。』

視線を全身に浴び、白眉を撫でつけながらショボンは静かに歩き出した。
この場にいる全員がくまなく理解できるよう。
言葉を選びながら話すその姿は、賢人と言うに相応しい。

(´・ω・`)『まず一つ。ギムレットは攻めるに辛く守りに易い天然の要塞だ。
      しかも相手は戦略戦術の初歩も知らない烏合の衆とくれば、これは正しく天からの贈り物。
      少数をもって立ち上がる我らにとって、これ以上の存在は無い。
      更に、領土を侵略する訳じゃないからね。
      リーマンやメンヘルを刺激する事も無いだろう』

言い終えて、ハインが手にする盆から碗を持ち上げた。

(´・ω・`)『次に。ギムレットの民は解放者を待っている。
      我等が賊を駆逐し、彼らの希望を取り返す。
      そうすれば必ずや協力を得られるだろう』

そこまで話すと、ショボンは手の中にある碗に視線を落とした。
給士ハインが口をつけた跡だろう。
縁の一部分が鮮やかな紅(べに)に染まっている。
そこから茶をすすろうとして、彼は後頭部を思いっきり殴られた。

( ゚∀゚)『革命の旗再び…ってか。
     よぉ、だが兵糧の問題はどうするつもりだ?』

(´・ω・`)『うん。それについては僕も色々と調べてあるから安心してほしい。
      ギムレットの貧困問題はバーボン北部にまで影響を及ぼしているからね。
      僕も日々ハインをからかって過ごしてたワケじゃない事を証明してみせるよ』



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:20:17.49 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『そして最後に』

言うやショボンは周囲を賛同を求めるかのように見渡してみせる。

(´・ω・`)『この様な辺境の地に逃げ込んだ我らを、リーマンやメンヘルはどう思うかな?
      自暴自棄になったかと思って、自滅するのを待つのではないか?
      その隙を突いて力を蓄えるしか、我らに生き残る道は無い』

( ゚∀゚)『ついでに言えば、元帥は南の反乱制圧に手が離せない。
     噂どおり、南の反乱をメンヘルが裏で支援しているとなれば…両陣営が北に構ってる暇ないって訳か』

勢い良く上半身を跳ね起こしてジョルジュが言った。

从 ゚∀从『その分追っ手の数も減るだろうな』

ハインも2人の意見に付随する。
そうなれば残る問題は…。

(´・ω・`)『ツン。後は君の意見を聞きたい。
      ただ、聞いて貰えていれば分かるとおり僕らが生きる為には…
      戦う為にはこれしかないと僕は思っている』

ξ゚听)ξ『……』

皆の視線が彼女に注がれた。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:23:32.29 ID:XsGMcNNr0
ξ )ξ『また…戦いになるの?』

アルキュ島最高の権威を持つはずの少女は俯き、声を絞り出す。

( ゚∀゚)『なる。それは間違いない』

( ^ω^)b『でも、ツンには僕がついてるお。僕が守って見せるから安心しt』

(´・ω・`)『僕だって好き好んで戦争なんかしたくないさ。
      でも僕には戦う理由がある。喧嘩を売られて黙っているほどお人よしでもない
      君がどうするかに関わらず、僕は戦うつもりだ』

( ^ω^)b『僕が守r』

从 ゚∀从『心配するなって。このハインちゃんは一部の生物を除いて無敵だぜ』

( ;^ω^)b『僕g』

ノパ听)『大丈夫だ!! あたしも二度と不覚は取らんっ!!!!!!!!!!!!』

( ;ω;)b『僕……』

ξ )ξ『そう…』

ツンは静かに踵を返す。
そして。

ξ )ξ『少し…考えさせて』

それだけ言い残すと、一人部屋を出た。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:27:00.56 ID:XsGMcNNr0
ミセ*゚ー゚)リ『姫様……』

(´・ω・`)『待つんだ、ミセリ』

後を追おうとするミセリをショボンが制止する。

( ゚∀゚)『一人で考えたい時もあるだろうさ。そっとしておいてやれ』

ミセ*゚ー゚)リ『でもっ!!』

噛み付かんばかりにミセリが口を開いた。

( ゚∀゚)『例え陛下が戦いを拒んだとしても…運命はそう簡単に逃がしちゃくれねぇんだ。
     俺達は陛下自身が助けを求めてくれば、力の限り戦ってみせる。
     だが、決断するのは陛下だ。
     陛下自身が考え、決めねぇといけないんだ』

从 ゚∀从『ハインちゃんもその意見に賛成だな。
     人の上に立つ立たないは別にして、ここぞと言う時周囲に流される奴はろくな奴じゃねぇ。
     助言ならいくらでもしてやる。
     けど、結局最後に物を言うのは本人の意思でしかねぇんだ』

そう言ってハインは手元の碗から冷め切った茶を一口すする。
何かを警戒するかのように、丁寧に縁に着いた紅を拭い取った。

ミセ*゚ー゚)リ『……』



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:28:52.58 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『まぁ、そこまで言う事もないだろう。
      僕だってミセリがツンを心配する気持ちは分からないわけじゃない。
      でも、この場には君以上に適任者が一人いるんだ。…そうだろ、ハイン』

从;゚∀从『ほぇ?』

いきなり話を振られたハインは間抜けな声を上げて、目を白黒させる。
それに構わず【天智星】は続けた。

(´・ω・`)『君には…ツンの悩みが。苦しみが分かるはずだよ』

从 ゚∀从『……』

彼女は脳裏に思い浮かべる。
罪無き者の血を浴びて育った幼き日の自分。
完全に無くした筈の心が蘇り、自責の念から狂気に囚われたあの頃の自分。
十重二十重に鎖に縛られ、ろくな食事も糞便の自由すらも与えられず暗い塔に幽閉された過去の自分。
そして。
今なお一人の人間としてここにいる現在の自分。

過去に縛られ。自由を奪われ。それでも笑顔を取り戻した自分なら彼女の力になれるはずだ。

从 ゚∀从『あぁ…そうだな』

呟き歩を進めようとするハインの肩を、ポンとショボンが叩いた。

(´・ω・`)『頼む。力になってやってくれ。僕の予想では…多分ツンは血が足りないんだと思う』

从;゚∀从『は?』



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:33:20.73 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『は? じゃないよ。
      あの顔の青白さ。鬱全開の表情。彼女は間違いなく生理が来てるんだ。
      毎月、お腹痛いとか…気持ち悪いとか言ってる君ならツンの苦しみは分かる筈だよ』

从;゚∀从『……』

(´・ω・`)b

从 ゚∀从『……』

\(´・ω・`)/

从#゚∀从『……』

v(´・ω・`)v

( ;^ω^)ハ;゚听);゚∀゚)『……』

悪鬼が如く表情の【天翔ける給士】…いや。今のハインにその異名はあまりに不釣合いと言えた。
【闇に輝く射手】の背後に黒い炎が踊り、両手には何本もの飛刀が怪しく煌めく。

     ひ ゃ く は ち れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ん っ ! ! ! ! !

怒声。
悲鳴。
何かが床に落ちて割れる音。

ミセ*゚ー゚)リ『…はぁ』

少女は溜息を一つつくと、一人扉を出て部屋を後にしたのだった。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:35:44.62 ID:XsGMcNNr0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アルキュは気候差が大きい島である。
北海道ほどの小さな島にもかかわらず、
北部と南部では最高1000メートル以上もの高度差があり当然人々の生活にも大きな違いが出てくる。

寒く貧しい北部は、弾圧された者達が逃げ込むように日々を怯えて暮らし
バーボンやローハイドに代表される草原地帯が
人々の暮らしの中心となっていた。

そのローハイド草原の更に西。
広大なステップと砂漠の境目に、メンヘル族の中心たる【神都】モスコーはある。

赤道に近く、直射日光も強いモスコーでは
その日差しを防ぐ為か住居は全て熱い石を積み重ねて作られていた。

正門から街の中心にそびえる宮殿に繋がる大通りは様々な店が建ち並び、
その盛況ぶりは【王都】デメララに勝るとも劣らない。

今、その大通りを人々の羨望の眼差しを全身に浴びながら凱旋する騎士達がいた。
先頭を行くは、白髪長髭の老将。
頭上に翻る、黒地に十字星を模した将旗。
手にするはメンヘルに伝わる神器の片割れ【天星十字槍】。

その名も高き【天使の塵】【砂漠の涙】の二つ名を持つ男。

ミ,,゚Д゚彡『皆はここで待て。私はモナー様に戦勝の報告をしてくる』

そう言って白馬の背を降りた。
ローハイド草原の勝者、フッサールである。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:40:02.35 ID:XsGMcNNr0
石造りの宮殿にひかれた赤い絨毯の上を歩き、その深部に向かう。
火照った体にひんやりした空気が心地よいのだが、それを楽しむ気にはなれない。

女神像を背にした豪奢な椅子に座り、
肌を顕わにした侍女達に左右から巨大な葉で身を扇がれながら、彼の主はそこにいた。

( ´∀`)『うむ。ご苦労だったモナ。まずは楽にするといいモナよ』

メンヘル族最高指導者。
神の声を聞く者。【預言者】モナー。

言いながら指を鳴らすと、宦官達が2人がかりで巨大な座を持って登場する。
それを片手を上げて制し、艶やかな次女を視界に入れぬようにしながら
フッサールは口を開いた。

ミ,,゚Д゚彡『それには及びませぬ。職務が溜まっています故』

( ´∀`)『相変わらず堅物モナね』

侍女に笑いかけると、それに追従するかのように彼女らもクスクスと笑う。
それを無視して、老将は続けた。

ミ,,゚Д゚彡『敵軍【薔薇の騎士団】及び【鉄柱騎士団】は共に敗走。
      我が軍の被害は極めて少ない物にて御座います』

( ´∀`)『うむ。これも神のご加護による物モナね』

満足げに一人頷くモナーに対し、フッサールは内心苦々しげに眉をしかめる。
何を馬鹿な事を。
本当に神が加護を与えてくださったのであれば、戦など最初から起こるものか…と。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:42:24.68 ID:XsGMcNNr0
そもそも、互いの信仰の方向性からしてこの二人は違っていたのである。
個人を高める為の手段として信仰を選んだフッサール。
民衆を導く為の手段として信仰を選んだモナー。
所謂、小乗信仰と大乗信仰の違いがそこにあった。

しかし、だからと言ってフッサールがモナーに反旗を翻すような事はありえない。
自己を押し殺す程の心は厳しい修行によって作りあげていたし、
彼には彼を慕ってくる護るべき民がいるからだ。

だからと言って心に湧いた疑念まで押し潰すほど彼は愚かではない。
ニコニコ顔のモナーに対して口を開く。

ミ,,゚Д゚彡『しかしながら。この度の戦、腑に落ちぬ点が幾つか御座います』

( ´∀`)『モナ?』

モナーの表情が固まる。

ミ,,゚Д゚彡『まず、リーマン侵攻の理由。
      過去と違いリーマンは戦の大義を明確にしておらず、何故侵攻を受けたのか、合点が行きませぬ。
      南部では我が軍が支援する【海の民】の叛乱に【常勝将】が苦戦しており、
      軍を向けるはまずそこからの筈です』

( ´∀`)『……』

ミ,,゚Д゚彡『更に、敵軍が最初【急先鋒】一人であった事。
      援軍が【急先鋒】と犬猿の仲である【鉄壁】だというのにも疑念が残ります。
      我が軍も敵が【急先鋒】のみであれば苦戦を免れず、
      この度の勝利も両軍の仲間割れに乗じたものにて御座います。
      リーマン内部で何かしらあったとしか思えませぬ』



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:44:18.32 ID:XsGMcNNr0
( ´∀`)。oO(相変わらず頭の回る爺モナね…)

モナーは考える。
フッサールが自身に対して弓引く事はまず無いと言って良い。
だが、王女拉致と言う暴挙に出た自身に対し、他の十二神将はどう動くであろうか?

フッサールが黙っていても、その娘である【不敗の魔術師】は大人しくしてはいまい。
北部との国境を守る【羅王】と、自身を警護する【神の巨人】は…その行動すら予知できない部分がある。

【金剛阿吽】の兄弟からは連絡が途絶えていた。
彼らが王女ツン=デレを連れ帰りさえすれば問題はないのだが、連絡がない以上任務失敗を覚悟するべきであろう。

( ´∀`)。oO(さて、どうするモナね〜?)

モナーには神の名の下にアルキュを統一するという野望がある。
唯一神マタヨシが天に召されたこの聖地こそ、信仰厚いメンヘルが支配するに相応しいのだ。

目の前では鬱陶しい老人が、

ミ,,゚Д゚彡『【翼持つ蛇】と呼ばれる狡猾なニダーがこの様な失敗をするとも思えませぬ!!
      必ずや裏があるでしょう!!』

などと騒ぎ立てている。
このような時、出すべき答えは一つしかない。

( ´∀`)『全ては神の思し召し。我等は神を信じ、身を委ねるしか出来ないモナ。
      下がれ、フッサール。そして身を休めると良いモナ』

そう言って【預言者】は座を立つ。
それはこの会談の打ち切りを意味する物であった。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:45:50.73 ID:XsGMcNNr0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ん……ぅん…あ…っはぁ…。

室内に女性の弱々しい声が響く。
寝台では、うつ伏せになった女性の上に白眉の青年が跨っていた。
その体が動くたび、子犬が鼻を鳴らすような声が漏れる。

(´・ω・`)『ん…うん…ここかい? …ここが気持ちいいのかい、ハイン?』

从* ∀从『あっ…ちょっ…と痛いかも…でも大丈夫…気持ちいい…』

(´・ω・`)『良かった…じゃあ…ここはどうかな?』

ショボンが内腿に手を伸ばすと、給士の体はピクリと痙攣した。
耐える様に長めの八重歯で唇を噛み、シーツの端を握り締める。

从* ∀从『やだ…そこは…弱いの…ダメ……でも止めないで……』

(´・ω・`)『そうかい。じゃ、僕も頑張っちゃおうかな』

青年の動きが激しさを増した。
ハインは押し寄せる快楽に流されるのを拒むように歯を喰いしばっている。
それでも、時折漏れる甘い声が室内に流れるのだった。




( ;^ω^)『で、何してるんだお?』



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:48:30.05 ID:XsGMcNNr0
(´・ω・`)『ん? あぁ、マッサージだよ』

全てを終えたショボンが寝台を降りる。
彼の給士は、額に汗を浮かべてグッタリと横たわっていた。

从 ゚∀从『瞬歩法を使うと、全身が筋肉痛になるからよ。そん時はご主人がマッサージしてくれるってワケだ』

微妙に頬を赤らめながらハインが続けた。
常人では不可能な移動速度を可能にする瞬歩法。それが全身に与える反動は並みの物ではない。

( ;^ω^)『いや…でもその喘ぎ声はちょっと…』

(;゚∀゚)『反則だぜ…』

何故か腰を引き前屈みな2人。
ハインは寝台の淵に座り込み、緩んだ帯を締めなおす。

バン!!!!
その時、勢い良く扉が開き飛び込んできた影があった。
片を激しく上下させ、呼吸も荒い。

( ;^ω^)『お? ミセリどうしたんだお?』

( ゚∀゚)『おいおい。そんなにおっぱい揺らして走ったら形崩れちまうぜwww』

从 ゚∀从パ听)『死ね』

まったりムード全開の一同に伝えられたのは、驚くべき事実だった。

ミセ;゚ー゚)リ『ひ…姫が…毒酒を飲んで自害を!!!!!』



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:52:33.96 ID:XsGMcNNr0
一同がツンの部屋に駆け込んだ時。
床には毒酒の瓶が転がり、その側で顔面蒼白のツンが倒れこんでいた。

(;´・ω・)『なんでこんな物がこんな所に!!』

ミセ;゚ー゚)リ『王族たる高貴な身が危険に晒された時…穢される前に命を絶つ。その為の物です』

从 ゚∀从『ってぇ事は、これは1人分の致死量しか入っていない? それでいいんだな!?』

ハインが小振りな酒瓶を拾い上げ、問いかける。

ミセ*゚ー゚)リ『はい…それは間違いありません』

ハインは手にした瓶の大きさと、床の小さな水溜りからツンが飲み干した毒の量を計算する。
そして、指先についた毒酒をペロリと一舐めした。

(;´・ω・)『なっ!! ハイン!!!!!』

从 ゚∀从『安心しろ…。毒に対する耐性は…あの頃つけられてる。大丈夫だ』

こんな所で役に立つとは思わなかったけどよ…。
そう言って、記憶の中から王女が口にした毒の種類を探り出す。
横たわるツンの額に手をあて、その症状を確認した。

从 ゚∀从『大体10分ってトコか…ご主人!! ジョルジュ!! 
     大量に水持って来い!! 今ならまだ間に合う!!!!!』



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:54:56.97 ID:XsGMcNNr0
横たわる身を起こし、無理矢理口に水を流し込む。
溢れるほど水を飲ませてから胃を圧迫して、吐かせる。
それが何度となく繰り返された。

ミセ*;ー;)リ『本当にこれで大丈夫なんでしょうか?』

从 ゚∀从『さぁな…』

しゃっくりあげるミセリに、水瓶を手にしたハインが答える。

从 ゚∀从『ハインちゃんの見た感じ、毒は致死量に行ってねぇ。
     弱った体に毒が入ったショックで昏倒したってのが予想だ。
     吐き出させるだけじゃなく、大量に水を飲ませて毒の血中濃度を下げるだけでも効果はある』

そこにナイトウが飛び込んできた。
傷口が開いたのか、足に巻いた包帯からは血が滲み出しているが
本人はそれを気にする様子もない。

( ;^ω^)『ハインさん!! ご注文のらきすた草だお!! 
       言ってた通り、町外れの長老さんが持ってましたお!!』

从 ゚∀从『随分早かったじゃねーか!! 瞬歩でも使ったのか!?』

言いながらハインはツンの左胸に耳を当てる。

从 ゚∀从『これなら大丈夫か…?』

薬草を己の口に放り込み、噛んで潰すと水と共にツンの口に流し込んだ。

从 ゚∀从『あとは…姫さんの体力次第だな』



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/13(金) 23:56:31.18 ID:XsGMcNNr0
そして朝が来る。
グッタリと寝台の周りで座り込む一堂の中心で、ツンの土気色だった顔は僅かに赤みを取り戻していた。
時折苦しげな呻き声を漏らすものの、呼吸のリズムに乱れはなく胸も規則正しく上下している。

( ゚∀゚)『なんとか…峠は越えたか?』

从 ゚∀从『あぁ。もう大丈夫だ』

その言葉に、ジョルジュは大の字に床に倒れこんだ。
3秒後には豪快な鼾をかき始める。

ミセ*;ー;)リ『うっ…ひっく…ボクがついていながら姫が…姫が…』

ノハ;凵G)『えぐっ…ひくっ…』

(´・ω・`)『2人とも泣くのはお止め。もう、心配はないから』

両手に持った碗を2人の前に置きながらショボンが言った。

ノハ;凵G)『だって…だって…御姉様がアタシ以外の女と口づけを…』

从;゚∀从『そっちかよ!! あれは口づけとかって言うのとは違うだろうが…』

微妙に肩すかしを喰らった感のハインが、主の碗に茶を注ぎながらぼやく。

(´・ω・`)『とりあえず、ツンの容態を診ながら交代で少し休もうか。
      最初は…僕とそこで寝てる熊の二人が引き受けるから、各自部屋に戻るように』

ミセリやナイトウは最初は自分が残ると主張したが、ショボンにやんわりと受け流され
与えられた部屋に戻っていった。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:00:23.01 ID:KymXlK7t0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

???『……ゾン。ホライゾン。早く起きてよ…』

例えるならばそよ風に揺れる風鈴。
そんな優しい声と共に体を揺すられナイトウは目を覚ます。

そこは何もない空間。
上も下も。
前も後も。
右も左も。
天も地も無い。

眠気眼をこすりながら体を起こした彼は、その真っ白い空間に一人で浮かんでいた。

( ;^ω^)『ここ…どこだお?』

呟いた瞬間。
ナイトウの体は地平線まで延びる広大な草原の中にいた。
青空に浮かぶ雲は静かに流れ、時折吹く強い風に煽られた草が『ざざざざざざ……』と音を奏でる。
日差しは強いが、その背にある大樹の影が彼を守ってくれていた。

( ;^ω^)『ここ…どこだお?』

自然と再び声が漏れる。

???『何言ってるのよ。ここはお家の裏じゃない』

突如背後からかけられた声に、ナイトウは思わず振り返る。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:02:51.88 ID:KymXlK7t0
そこにいたのは膝丈の白いワンピースを着た一人の少女だった。
地面に届かんばかりに長い艶やかな黒髪。
大きな瞳はやはり黒く。首を軽くかしげて、どことなくいたずらげな笑みを浮かべている。

( ;^ω^)『お家…?』

ナイトウは少女の両肩を掴み問いかけた。

( ;^ω^)『お家ってどこだお!? ホライゾンって誰だお!? 君は誰だお!?』

ガクガクと少女を揺らし叫ぶ。
少女はなすがままになっていたが、やがて小さな溜息を一つ吐き出して

少女『痛い』

とだけ答えた。

( ;^ω^)『あ…ごめんなさいだお』

慌てて手を離すと、少女は頬をむぅと膨らませて、己の両肩をポンポンと叩く。

少女『お家はお家。ホライゾンはホライゾン。私は私。
   あんなに早く走れたから思い出してくれたのかと思ったけど…違ったかぁ』

そう言って少女はナイトウの頬に手をそっと添える。

少女『可哀相なホライゾン。まだお馬鹿なままなのね。でも早く私を思い出して』

少女が悲しそうに言った瞬間、景色が闇に変わった。上も下も無い空間を彼は落ちていく。
最後に少女が首から下げた銀色の鈴がちりんと鳴った。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:04:58.11 ID:KymXlK7t0
( ゚ω゚)『ちょ…待ってっ!!!!』

ナイトウは叫び跳ね起きる。
周囲を見渡せばそこは夕焼けに染まるバーボン城の自室。
そこでようやく彼は先程の光景が夢であると気付いた。

( ;^ω^)『なんか…喉がカラカラだお』

粘りつくような額の汗を袖で拭き取り、寝台を出る。
軽く動かすだけで全身に伝わる痛みが、此処が現実世界だと教えてくれた。

( ;^ω^)『それにしても…リアルな夢だったお』

あの黒髪の少女が彼の夢の中に登場したのは、今日が初めてではない。
が、話しかけてきた事は今まで一度も無かった。

そして。

( ^ω^)『思い出してくれたのかと思ったけど…って、あの子は僕を知っているのかお?』

少女は彼をホライゾンと呼んだ。
ナイトウはその呼び名に覚えは無い。
もしかしたら、本当の自分はそう呼ばれていたのかもしれない。
しかし。
胸を掻き毟りたくなるほど熱い何かが、記憶を遡ろうとするのを拒否するのだ。

( ^ω^)『ワケわかんねーお』

枕元に置かれた水差しは空っぽだった。
ナイトウは、厨房まで水を貰いに行こうと思い立ち部屋を出る。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:06:51.75 ID:KymXlK7t0
( ^ω^)『…おぉ…』

扉を開けた彼の目に飛び込んできた物。
それは地平線の向こうに沈もうとする、広大な夕焼けだった。

外壁に沿う様に設計され開放された渡り廊下。
空。
雲。
山。
草原。
街。
そこから見る全てが鮮明なオレンジに染まっている。
城外に積み上げられ、焼かれるのを待っている死体の山さえなければ
此処が戦場だったなどとは信じられなくなるほどの光景だった。

そして、その景色に心を奪われているナイトウから少し離れて
同じ様に夕陽を見つめている者があった。

右手にうさぎを擬人化した枕を抱え
桃色の薄絹を纏った人物は、ナイトウの姿に気付くと
こちらへ歩み寄ってくる。

( ;^ω^)『な…何をしているんですかお?』

( ゚∀゚)『見て分からねえか? 夕焼けを見てたんだよ』

……【急先鋒】ジョルジュ。その人であった。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:09:04.24 ID:KymXlK7t0
夕焼けを見ていた。

( ;^ω^)。oO(そんな事は見れば分かるお)

問題はジョルジュの服装である。
肌が透けるほどに薄い絹の寝巻きとナイトキャップは、間違いなく特注品だろう。
小柄な大人ほどの大きさの枕を大事そうに抱える姿は
戦場において敵軍から死神と恐れられた人物とは到底思えなかった。

( ;^ω^)『いや、そうじゃなくて将軍』

( ゚∀゚)『ナイトウ。今の俺は将軍でもなんでもない。
     己自身の為に評議会を裏切った只の馬鹿野郎さ』

( ;^ω^)『そ、そうですかお…』

なんでそんな頭が悪そうな格好してるんですかお?
なんかの罰ゲームですかお?

そう続けようとしたナイトウだったが、
遠い目で夕陽を見つめるジョルジュの姿に、切り出すタイミングを失う。

そのまま、ナイトウが最も苦手とする沈黙の時が暫し流れた。

( ^ω^)『……』

( ゚∀゚)『……』

夕陽が地平線の彼方に一本の赤い線を残して消える頃、官女が城中の松明に火をつけて回る。
そして、ようやくジョルジュが口を開いた。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:12:06.46 ID:KymXlK7t0
( ゚∀゚)『ナイトウ。悪かったな。巻き込んじまってよ』

( ^ω^)『あ…。いえ。何の問題もありませんお、将ぐn』

続けようとした青年をジョルジュは制止する。

( ゚∀゚)『言っただろ。今の俺は将軍でも何でもねぇ。ジョルジュでいいよ』

( ;^ω^)『あうあう…分かりましたお。
       ところで、ジョルジュ……将軍。一つ質問がありますお』

昨日までの上役にいきなり『呼び捨てでおk』と言われて、
すぐ様首を縦に振れる者などいるだろうか?
しかも相手は『リーマンにその人有り』とまで言われた【急先鋒】ジョルジュである。
ジョルジュもそんなナイトウの心境を察したのか、あえてそこは聞き流した。

( ^ω^)『将軍は…なんで自分の地位を捨ててまでツンを助けたんですかお?』

( ゚∀゚)『あ? そんなに変か?』

( ^ω^)『変じゃありませんお。ただ…ただ……』

言いづらそうに口をモゴモゴとさせていたナイトウであったが、
やがて丁寧に言葉を選ぶように続け始める。

( ^ω^)『僕はこの何日かで、凄く嫌なものを沢山見ましたお』

( ゚∀゚)『……』



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:14:01.59 ID:KymXlK7t0
( ^ω^)『王室とか…評議会とか。僕にはずっと無縁なものでしたお。
       僕は…違う。僕だけじゃないですお。
       下級市民だから。それだけの理由で、僕らは生きる為に死と隣りあわせの世界で生きてきましたお
       いや、それだけじゃないですお』

彼の脳裏に彼自身を裏切った親友の姿が思い浮かんだ。
点々と血を流しながら森の深遠へ消えていく、親友との最後の景色。

( ^ω^)『民族。鉄。塩。王室。評議会。
       …大事な物だって言うのは何となく分かりますお。
       でも、どんなに大事だからって誰かの命とか心を壊してまでも必要なものなのか…。
       もし、何かを壊さないと手に入らない物なら…僕には必要ありませんお』

( ゚∀゚)『あぁ。そうだな…』

ジョルジュは困ったように、枕を抱えていない左手で後頭部をボリボリと掻く。

( ^ω^)『将軍。無礼を承知で質問しますお。
       将軍がツンを助けたのは、将軍が【王権派】だからなんですかお?』

( ゚∀゚)『もし…そうだとしたらどうする?』

( ^ω^)『分かりませんお。でもきっと、逃げるか戦うか選ぶと思いますお』

固い決意を込めながらも困惑した表情。
その両反したギャップが面白くて、【急先鋒】は小さくニヤリと笑った。
足元に置かれた竹筒を拾い上げ、碗を使わず直に口に水を流し込む。

( ゚∀゚)『安心しろ。そんなんじゃねーからよ』



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:16:18.22 ID:KymXlK7t0
( ^ω^)『そう…ですかお』

どっと力が抜けたのかのように、ナイトウは大きく息を吐き出した。
それを見たジョルジュは彼に手にした竹筒を手渡す。

( ゚∀゚)『確かに、陛下にお会いするまでは【王権派】重鎮たる義務感がどこかにあったのは否定しねーよ。
     でも、初めて陛下の目を見た時。そんなもんはどっかに吹き飛んじまった。
     あんな…………が小さな女の子に権威とか色々押し付けて…自分が情けなくなったよ』

そう言葉を紡ぐジョルジュの瞳には、普段どおりの漂々さの中に真剣な輝きが浮かんでいた。

( ゚∀゚)『陛下が誰かの思惑に左右される事無く、自分の意思で生き方を選べるよう。
     そのお力になりたいと心から思った。
     生きる事ってのは苦難と苦心の連続だ。時には逃げ出したくなる夜もあるだろうぜ。
     だけど…逃げる為に逃げるのではなく、戦う為に逃げる人になってもらいてぇ。
     そうすりゃ、いつか朝日を拝める日もやってくる。
     この【急先鋒】ジョルジュ。その為なら死も厭わない覚悟だ』

( ^ω^)『…将軍』

そこでナイトウは初めて、自分が水を求めて部屋を出た事を思い出した。
ジョルジュから手渡された竹筒の栓を抜き、口に当てる。

( ゚∀゚)『だから、今の俺は【王権派】でも【評議会派】でもねぇ。
     全く新しい思想を持つ者…【貧乳派】ってトコかな』

( ^ω^)『ぶふぉっ!?』


噴いた。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:18:12.84 ID:KymXlK7t0
( ;^ω^)『ひ、ひんぬー?』

咽返りつつナイトウがようやく口を開く。
対するジョルジュは自信満々に胸を反らせていた。

( ゚∀゚)『あぁ。【貧乳派】だ。
     あんなおっぱいが小さな女の子に苦労を押し付けるべきではない。
     我が人生はその為に費やすべきだと俺は気付いたんだ』

( ;^ω^)『そ、そうですかお』

顔の下半分を濡らした水を袖で拭き取る。
元上役の表情は真剣そのものだが、ナイトウは何となく真面目に話を聞いていた自分が
まぬけの様に思えてきた。

ジョルジュの言葉に悪意は感じられない。
利権や金銭を一切排除した原初的なフェミニズム。
いや、騎士道の本道たる物であっただろう。

だがしかし。
【貧乳派】と言う響きが良くない。
この男なりの照れ隠しもあったのだろう。
ナイトウは2人に近づく影の存在を察知しながらも問わずにいられなかった。

( ;^ω^)『でも…ひんぬー派って言われると…ただ将軍がひんぬー好きってだけにしか聞こえませんお』

( ゚∀゚)『あ? それでいいんだよ。おっぱいは貧乳に限る』

( ;^ω^)『え? あ? はぁ…。そうですかお』



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:21:16.74 ID:KymXlK7t0
ノハ( ゚∀゚)『いいか。全てのおっぱいは貧乳に始まり貧乳に終わる。
      これはアルキュ…いや、世界…いや、宇宙の真理と言っても過言ではないんだ。
      正確に言えばおっぱいとはその大きさだけで評価できる物ではない。
      @大きさ。A柔らかさ。B感度。C肌触り。D乳首とのバランス。
      これらを客観的にグラフ化した時、美しい五角形を描き出す。
      それこそがいいおっぱい。素晴らしいおっぱい。
      マイ・スィート・おっぱいと言える。
      そして残念な事に@とDは両立が難しいといわざるを得ない。
      俺様の長年の研究によればな、ナイトウよ。
      おっぱいが大きい女はどうしても乳輪が大きくなりがちなんだ。
      うはwwwおっぱいでかいwww…で、脱がしたら乳輪どーん。
      これじゃ萎えるだろ?
      確かに乳輪がでかい=色素が薄い、ってメリットはあるが
      乳輪は500銅貨サイズが俺様的ベストサイズ!!
      あ? なんだかよく分からないって顔してやがるな。
      分かりやすく説明してやる。
      例えば、ヒート。
      おっぱいの大きさだけなら最高サイズ。例えるなら西瓜ってトコだろ。
      ABCに関しても俺様の調査の結果高レベルである事が確認できている。
      だが、問題はこのDだ。
      未だ最終的な確認は取れていないが、過去の調査例から憶測するに
      このDについては他の項目と比較して格段に点数が落ちると見ていいだろう。
      このバランスの悪さ。
      天が許しても俺様には許す事は出来ねぇな』

( ;^ω^)『……』



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:23:03.24 ID:KymXlK7t0
从( ゚∀゚)『まだ分からねぇみたいだな。
      ついでに言うと、だ。
      ハインのおっぱいは分かるよな? あ? 何がって?
      詰め物で誤魔化しちゃいるが、ありゃまがいもんだ。
      ハインの場合、BCに関してはヒート以上の高得点を叩き出している。
      Dについても悪くねぇ。
      だが、@Aが良くない。全くの零評価だ。
      おっぱいがおっぱいである以上、そこには安らぎを与える柔らかさがあってしかるべき。
      お前もそう思うだろ?
      ハインのおっぱいにはそれがねぇ。
      つまり、あれはおっぱいじゃねぇ。胸…いや、板だ。
      板を相手にどうやってハァハァしろって言うんだ?
      無茶な話だろ?
      何気なく浴室の扉を開けたら、そこには朝の沐浴を終えたおっぱ…いや、レディが。
      そんなシチュエーション考えた事あるだろ?
      おっと、言わなくても俺様には分かるから安心しろって。
      だがそこにいたのはおっぱいでなく一枚の板。
      これでどうやってエロスを湧きたてろって言うんだ?
      健康的ですね…としか言えないだろ?
      ここまで言えばお前にもおっぱいの本質が分かってきた筈だ。
      そう!!!!!
      いいおっぱいとは、何か一つだけ秀でているだけでは無い!!
      各項目をバランスよく得点を稼いだおっぱいこそがグッドおっぱい!!!!
      見て良し・揉んで良し・吸って良し。
      この3拍子が揃って初めて天の贈り物と言える代物になるんだ!!
      ところで、さっきから背後に物凄く冷たい殺気を感じるんだが、振り向いても良いかな? かな!?』

( ;^ω^)『……将軍のご判断にお任せしますお』



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:26:44.34 ID:KymXlK7t0
(;゚∀゚)『のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!』

赤と黒。
2人の給士に耳を掴まれて退場していく偉大なる【急先鋒】ジョルジュ。
ナイトウはその姿を黙って見送った。
廊下の曲がり角に姿が消えた数秒後。思わず耳を塞ぎたくなるような破壊音が場内に響きわたる。

( ;^ω^)『ヒートさん…何でもう復活してるんだお』

ナイトウは呟きつつ、ジョルジュが宝物のように抱えていた枕とナイトキャップを拾い上げた。

( ^ω^)。oO(ミセリに怪我人が一人増えたって伝えた方が良さそうだお)

そう思い立ち、ポンポンと枕を叩きながら歩き出す。
ミセリは必ずツンの部屋にいるであろうし、何よりツンの容態も心配だった。
【便りが無いのは良い知らせ】と言うが、それでも自分の目で見て安心したいと考えるのが人間と言うものであろう。

壁に備え付けられた松明の灯りに照らされながら廊下を進んだ。
先程まで赤く染まっていた空。今では闇にぽっかり穴を開けたような満月が浮かんでいる。
柄にも無く、それを見上げながら角を曲がろうとして

( ;^ω^)『あうっ!?』

ナイトウは何かに突き飛ばされて尻餅をついた。
拍子に壁に後頭部を強打し、目から火花が散る。
線香花火が弾ける様な視界の向こう。やはり尻餅をついているのは裾の短い官女服と、飾り立てた髪飾りが印象的な少女。

ミセ*゚ー゚)リ『あっ!! ナイトウさん!! ちょうど今姫がお目を…』

ミセリだった。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:28:42.64 ID:KymXlK7t0
再び集った一同の中央。
寝台の背もたれにクッションを挟む形でツンは身を起こしていた。
力強さを失った眉。
ほつれた金色の髪。
若干気だるそうにしているものの、命に支障が無いであろう事は一目瞭然であった。

誰もが口を開くのを躊躇う中で、ツンが恐々と呟く。

ξ )ξ『……生きてる』

(´・ω・`)『うん、生きてるね。発見が早かったし、処置も良かった。
      明日には床を出られるはずだよ』

優しくそう言って、ショボンは薬湯の入った碗をツンの目の前に差し出した。

ξ )ξ『……何で…どうして?』

( ;^ω^)『何で、って…みんな頑張ったからだお。
       ハインさんなんかぺろっ…これは毒!!…だし、僕だって薬草貰いにブーンって…』

それを聞いたツンの眉がピクリと動いた。
噛み千切らんばかりに唇を噛みしめる。

ξ )ξ『……何で…そんなバカな真似したのよ?』

从#゚∀从『あ? そりゃどういう意味だ?』

こめかみに青筋を浮かべたハインが足を踏み出した。
それには全く構わずにツンは続ける。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:30:32.86 ID:KymXlK7t0
ξ )ξ『アタシは…【アルキュの至宝】…統一王唯一の忘れ形見ツン=デレ…』

( ;^ω^)『それが…どうしたんだお…?』

ξ )ξ『アタシのせいで…ナイトウは友達を失くした…。
     アタシが逃げたから…ジョルジュ将軍とショボンさんは逆心の汚名を背負う事になった…
     アタシが自由が欲しいなんて考えたから…沢山の人が死んだ…』

俯き、何かを耐えるように固く拳を握り締めるツン。
その両の手の間にぽとりと雫が落ち、服に染みを作った。

ξ;凵G)ξ『アタシのせいで!! アタシがココにいるせいで!!
      何百人…何千人の人達が不幸になった!!
      アタシなんか…【アルキュの至宝】なんか存在しちゃいけないのよ!!』

从#゚∀从『言いてぇ事はそれだけかぁっ!!』

平服に身を包んだ給士が王女に掴みかかる。
髪を掴んで顔を無理矢理持ち上げ、平手を振り上げた。

(;゚∀゚)『ハイン!! てめぇ何やってやがるんだ!!!!』

それをジョルジュが巨大な体格を活かして背後から羽交い絞め、間にショボンが割って入る。
駄々っ子のように暴れるハインを背後に、ショボンは溜息を一つ吐き出してから口を開いた。

(´・ω・`)『…話は分かったよ。つまり、自分が存在していると多くの人間が不幸になる。
      だから、負の連鎖を断ち切る為にも自分は生きていてはいけない。
      君の考えはこれでいいのかな?』



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:33:02.72 ID:KymXlK7t0
ξ;凵G)ξ『そうよ!! アタシ一人の為に何百人何千人が犠牲になる!!
      これからも!! みんな死地に赴こうとしている!!
      アタシに流れる血が!! アタシと言う存在が!! 全てを狂わせていくのよ!!』

从#゚∀从『甘ったれんじゃねぇ!!!!!!』

抱えあげられ、足をバタバタと動かしながら吼えるのはハインだ。

从#゚∀从『だからって姫さんが死んでどうなる!? 何が変わる!?
     黙って待ってりゃ、空から希望が降ってくるとでも言うのかっ!!
     姫さんの言葉は…泥濘の中でもがき苦しみ、それでも戦い続けた者に対する冒涜だ!!!!』

(´・ω・`)『ハイン、ちょっと落ち着いて…』

从#゚∀从『これが落ち着いていられるか!! コイツは…コイツは…』

(´・ω・`)『ハイン』

从;゚∀从『…あ』

ショボンの静かな一喝にハインはピタリと動きを止める。
それを確認してから、ショボンは静かに…優しく諭すように口を開いた。

(´・ω・`)『ツン。君の言いたい事も分かるよ。
      今の君にピッタリの言葉を古の賢人が残している。それを君に贈ろう』

皆の視線を全身に浴びながらゆっくりと部屋の中を歩き回り、ツンの前で足を止める。
しゃっくりあげる少女の眼前にずいと顔を突き出し、こう言った。

(´・ω・`)『思い上がるな、馬鹿女。ぶち殺すぞ』



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:36:26.70 ID:KymXlK7t0
ミセ*゚ー゚)リ『…なっ!?』

思いもよらないショボンの言葉に固まる一同。
髪飾りの侍女が漏らした一言だけが室内に響いた。
なおもショボンは続ける。

(´・ω・`)『君のせいで沢山死んだって? それがどうしたって言うのさ。
      何かを求める為には…人は戦わなくてはならない。
      運良く生き残ったものだけがそれを手に出来る。それだけの事さ』

ξ;凵G)ξ『でも…でも…アタシが生きていたら…アタシに流れる血を求めてまた戦いが起こる!!
      沢山の罪も無い人が死ぬ!!!』

(´・ω・`)『それが思い上がってるって言うんだよ。
      【アルキュの至宝】? そんな物は単なる大義名分に過ぎない。
      君が死んだら、また別の大義名分を見つけ出す。そして戦いは続くのさ』

( ;^ω^)『ちょ、ちょっと待って下さいお』

ようやく硬直状態から抜け出したナイトウが口を挟んだ。

( ;^ω^)『でも、ショボンさん達はツンの為に北で挙兵しようって…言ってたんじゃないんですかお?』

         王女の為? そんな事は…

\(´・ω・`)/『知らんがな』

ショボンはナイトウの疑問を一刀に切り捨てる。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:39:29.08 ID:KymXlK7t0
(´・ω・`)『王女の為なんて…誰がそんな事を言ったんだい?』

( ;^ω^)『あう…違うんですかお?』

(´・ω・`)『僕が戦うのはあくまでも僕自身の為。 僕の犯した罪の贖罪の為。
      王女がいようといまいと僕は最初から戦うつもりだった。
      ツンに意見を求めたのは、戦略的な部分に関わるから…ってのもあるけど
      地位とか民族とか関係無しに、戦う意思を持つ仲間だと感じたからさ』

从 ゚∀从『右に同じ…ってヤツだな』

身を翻すようにジョルジュの腕から逃げ、続いたのはハインだ。

从 ゚∀从『俺の…ハインちゃんの手は血で汚れている。
     この骨まで腐り落とすような血の熱さが染み付いている以上…ハインちゃんは戦わなくちゃならねぇんだ』

ノパ听)『愛の為!!!!!! 他に説明はいるか!!!!!!!?』

更にヒートも続く。

ξ;凵G)ξ『……』

鍛え上げた鉄の如き強い意志。
それを目の当たりにしてツンは言葉を失った。

(´・ω・`)『だから、君が安易に死に逃げようとしたのは凄く残念に思う。
      兵奴。平民。貴族。王族。咎人。無職。
      全て関係なく、人は生きる為に戦わなくてはならない。
      自分の置かれた立場で戦わなくてはならないんだ』



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:43:23.70 ID:KymXlK7t0
ξ#゚听)ξ『だからって!!!!!』

零れ落ちそうになる涙を乱暴に袖で拭き取り、ツンは頭を上げた。

ξ#゚听)ξ『アタシは誰も殺したくない!! 戦争なんかしたくない!!
     なんで…どうして人が人を殺さなくちゃいけないのよ!!』

从 ゚∀从『人が人を殺さずにすむ世界…それを求めるなら、何故立ち上がらねぇ!?
     求める物があるなら、何故戦わねぇ!?』

ξ#゚听)ξ『何言ってるのよ!!! 平和な世界を築く為に剣を抜く、って…完全に矛盾してるじゃない!!
     それじゃ…それじゃあ…』

自らの心の内を吐き出す王女の脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。
『修羅となってこの島を導く』 そう言って彼女に刃を向けた、モテナイ族の青年兵士。

ξ#゚听)ξ『あのバカとまるっきり同じじゃないの!!! アンタもバカよ!!!!
      どうすれば人は恨みを忘れられるの?
      どうすれば人は互いに血を流し合わなくなるの?
      どうすれば……どうすれば人と人は手を取り合って生きられるのよ!!!?』

从 ゚∀从『んな事ハインちゃんに聞かれても分からねぇよ!!! バカって言った方がバカだ!!!!!
     でも、答えが分からないからって歩みを止めるのか!?
     答えが分からなくても戦う事で救われる命もあるんじゃねーか!?』

2人の言い争いが泥沼化しかけた時。

『もう止めるお』

王女を見守っていた、一人の兵奴が重々しく口を開いた。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:48:20.08 ID:KymXlK7t0
( ^ω^)『……』

ξ゚听)ξ『…ナイトウ』

从 ゚∀从『…ナイトウ』

擦れる様に小さな制止の声に、2人は声を失くした。

( ^ω^)『もう…止めるお』

もう一度、声に出してからナイトウはゆっくりと足を踏み出し
寝台に腰を下ろす。

(´・ω・`)『もう止めろ…って。どういう意味だい?』

( ^ω^)『言葉どおりの意味ですお』

銀髪の頭をやれやれと左右に振って見せる。

( ^ω^)『僕はバカだから良く分からないけど…このまま続けても結論は出ないと思いますお』

(´・ω・`)『まぁ、確かにね。個人的には良い見世物だったからもっと見ていたかったんだけど…』

そう言ってショボンは2人の少女に両手に持った碗を差し出した。
すでに冷め切っているそれをハインは一息に。ツンはチビチビと口に流し込む。

( ^ω^)『それと、もう一つ。…ツン』

ξ゚听)ξ『え?』



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 00:50:51.75 ID:KymXlK7t0
思いがけず声をかけられて、王女は唇の端から茶をこぼす。
赤面しながら、それをゴシゴシと拭き取った。

( ^ω^)『考えても考えても答えが見つからない時。とりあえず行動してみるのも一つの方法かもしれないお。
       ご飯が何も無くて、歩き回ってるうちに美味しそうな野草を見つけて…なんてのは良くある話だお』

从;゚∀从『美味そうな野草って…いや、何でもねぇ』

戦う意味。
そんな重大な問題を個人的な夕食レベルにまで格下げされ、それでも反論の言葉が見つからずハインは唇をとがらせる。

( ^ω^)『約束した筈だお。僕はツンの味方だって。
       戦うとしても、逃げるとしても…生きてさえいれば僕はずっとツンの味方だお。
       だから今はあまり深い事は考えないで、みんなで一緒に北に行くお。
       そこで色々な物を見て。色々な人達の話を聞いて。色々な体験をして。
       それから答えが出そうなら…出せばいいと思うお』

そう言ってナイトウは、スッとツンに右手を差し出す。
アルキュ最高の権力を持つ少女は、しばらく黙ってそれを見つめていたが
やがておずおずと自身の右手を差し出し、その手を握った。

(´・ω・`)『やれやれ。愛する人の一言は百の言葉より重い…か。勉強になったよ』

ショボンが是にて閉幕とばかりにぼやく。

ξ;゚听)ξ『あぁぁぁあああああああああいぃ!? にゃにゃにゃにゃに言ってんのよっ!!』

ツンの投げつけた枕が顔面を直撃し、ショボンは大袈裟にひっくり返る。
彼らの次なる目的地が定まった瞬間でもあった。
最果ての地ギムレット。この地で彼らを待つ者とはーーーーー。



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