( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:01:38.95 ID:fzgtJ7rF0


     登場人物一覧 ・逃亡軍 

( ^ω^) 名=ナイトウ 異名=無し 民=??? 
       武器=短剣・戦爪 階級=兵奴
現在地=ギムレット 状況=ツンのボディガードを務めつつ、自分には何が出来るか悩み中
       特徴=銀髪の青年。記憶を無くしている。記憶の手掛かりは首から下げた鈴?

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=アルキュの至宝 民=リーマン
      武器=鉄鞭 階級=王女
      現在地=ギムレット 状況=徐々に王族としての自覚を持ち始めている?
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=付き人
      現在地=ギムレット 状況=付き人としてツンを支える
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=元・千騎将。薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=逃亡軍一の猛将として活躍
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れない。



6: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:04:01.39 ID:fzgtJ7rF0
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=バーボン領の馬鹿息子。黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=キュラソー解放に向けて何やら悪企み中
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=給士長
     現在地=ギムレット 状況=ショボンの命を受け走り回っている
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=副給士長
     現在地=ギムレット 状況=愛すべき姉のストーキング
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=キュラソー解放戦線主将
     現在地=ギムレット 状況=逃亡軍と同盟を結びキュラソー解放を願う
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=キュラソー解放戦線副将
      現在地=ギムレット 状況=若い戦士達の訓練に付き合う事も。面倒見は良い様だ。
      特徴=隻腕の几帳面な老将。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。



7: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:07:57.41 ID:fzgtJ7rF0
            ・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン
      武器=??? 階級=評議長
      現在地=デメララ 状況=???
      特徴=黒髪を後頭部で束ねた痩せた男。評議会を牛耳る。

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形使い(七英雄) 民=???
      武器=??? 階級=評議会情報部
      現在地=??? 状況=???
      特徴=派手派手しい外套に身を包んだ隠密。阿片の常習者。

(-_-)  名=ヒッキー 異名=鉄壁 民=リーマン
     武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長
     現在地=デメララ 状況=バーボン領の領主代理に任命される。
     特徴=重厚な鎧に身を包んだ将。ジョルジュとは犬猿の仲。

??? 名=??? 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

??? 名=??? 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査


??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン
    武器=鉄鞭 階級=先王



8: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:11:15.17 ID:fzgtJ7rF0
            ・リーマン族(ネグローニ城)

/ ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 民=???
      武器=??? 階級=ネグローニ領主
      現在地=ネグローニ 状況=飲めや唄えや
      特徴=仮面とフードに身を包んだ男。政治には疎い。

(=゚ω゚)ノ 名=イヨゥ 異名=繚乱 民=???
     武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長
     現在地=ネグローニ 状況=バーボンから逃げてきた男を解放する。
     特徴=頬に傷を持つ小柄な戦士。少年と間違えられても不思議は無い。

( ´ー`) 名=シラネーヨ 異名=??? 民=???
     武器=??? 階級=領主補佐
     現在地=ネグローニ 状況=ゴマすりゴマすり
     特徴=弛んだ二重顎の文官。自称知識人。

??? 名=??? 異名=??? 民=???
    特徴=イヨゥの妹



9: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:12:16.24 ID:fzgtJ7rF0
            ・メンヘル族

(´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル
     武器=??? 階級=指導者
     現在地=モスコー 状況=???
     特徴=唯一神マタヨシの声を聞くとされる人物で、アルキュにおけるマタヨシ教団の頂点に立つ男。

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵・砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル
      武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将)
      現在地=モスコー 状況=???
      特徴=長髪長髭の老将。

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル
       武器=手斧・兄者玉 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=クンカクンカ
       特徴=変態。武器である兄者玉は108式まであるが、大半は夢と浪漫が詰まっている。

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル
       武器=手斧・弟者砲 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=??? 
       特徴=外見こそ兄者とそっくりだが、常識人。腕は一歩劣るか?



10: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:13:56.66 ID:fzgtJ7rF0
            ・その他

('A`) 名=ドクオ 異名=無し 民=モテナイ
    武器=短槍 階級=元・兵奴
    現在地=??? 状況=ナイトウを裏切り行方不明。どうやらネグローニにいるようだ。
    特徴=陰気寡黙な男。口は非常に悪い。

??? 名=モララー 異名=勝利の剣(七英雄) 民=ニイト
    武器=??? 階級=元・ニイト最高指導者

??? 名=クー 異名=無限陣(三華仙) 民=???
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査代理
    現在地=ニイト 状況=???
    特徴=苦しむ同胞を救う為、人道を外れる。闇市の支配者とされる人物。

??? 名=??? 異名=九紋竜(三華仙) 民=???
    武器=漆黒の長剣 階級=浪士
    現在地=??? 状況=???
    特徴=左半身に九匹の龍を彫りこんだ【最強剣士】

??? 名=??? 異名=??? 民=???
    特徴=ナイトウの夢に現れる黒髪の少女



11: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:15:38.79 ID:fzgtJ7rF0
〜超手抜き地形説明・パトラッシュ…僕疲れたよ…パンが無いならケーキを食べればいいじゃない…編〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただしAは厳しい気候の為か半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



13: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:17:20.81 ID:fzgtJ7rF0


     第12章 誰が為に鐘は鳴るやと(後編)


・一同が幕舎を出ると、複数の兵士が何やら騒ぎ立てていた。
天を見上げると、灰色の空からちらほらと白い物が舞い落ちて来ている。
本格的な冬の訪れを感じさせる使者、雪。
それを見て兵士達は今まで以上に『負けられない』思いを強くした。
只一度の敗戦が何よりも大切な家族や友を路頭に迷わせる事になるからだ。

( ゚∀゚)『冷えは指先の感覚を奪うぞ!! よく火で暖めておけ!!
     油を塗ってから手袋をするんだ!! 分かったな!!』

陣門に向かうヒートを見送る際。
【急先鋒】ジョルジュがすれ違う兵に指示を出す。
熊のような巨体にもかかわらず、細かいところにまで気がつく男だった。

ノパ听)『じゃ、行って来る』

陣門に辿り着いた彼女は、兵卒に引かせていた愛馬の手綱を受け取った。
炎を思わせるたてがみを持ち、血の様に赤い汗をかく名馬。
このギムレットに入ってから彼女が山賊から奪った一頭である。

彼女は戦いに行くのではない。
戦前の儀礼として、自軍の正当性を説く使者として一人出向くのだ。
が、それは殺される可能性も高い危険な任務。
師の存在以外怖い物などない筈の表情が強張っていた。



16: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:19:56.82 ID:fzgtJ7rF0
ノパ听)『男ども全員うしろ向け!!』

その一言で見送りの男達は全員一斉に回れ右をした。
裾の短い給士服にもかかわらず、馬に飛び乗る彼女に対する配慮である。
この赤毛の給士には

( ^ω^)『スカートの下に何か穿けばいいんじゃないですかお?』

などと言う言葉は通用しない。
あくまでも我が道を行く。
邪魔する物は殴り倒し、力づくで自らに従わせる。
それが彼女の生き方だからだ。
まぁ、それも師と最愛の姉を除いての話だが。

从 ゚∀从『ヒート。固くなる事はねぇ。いつものお前でいいんだ。ただ、無茶だけはすんじゃねぇぞ』

(´・ω・`)『うん、そうだね。万事上手く行ったらハインが一緒にお風呂入ってくれるってさ』

从;゚∀从『ちょwww待てwww誰がそんな事言った!?』

が、ハインの必死の訴えはヒートの耳には入らなかったようである。
例え、それが故意によるものであったとしても、だ。

主の首を掴んで前後に揺するハインの姿を背にヒートは陣門を出る。
その体からは完全に気負いは消え去っていた。
代わって彼女の身を包み込むは、静かに燃え上がる熱い想い。
天から降り注ぐ白い花が身に触れる前に蒸発するほど、今の彼女は充実していた。

一人目指すはキュラソー城門前である。



19: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:21:46.93 ID:fzgtJ7rF0
(G`ハ´)『エクスト!! 使者が来たアル!!』

静かに降り出した雪を肴に酒をあおっていたエクストは、見張りのその一言で城壁に駆け上がる。
城門前に佇む使者を見下ろして

プー゚)フ『おほっ』

エクストは思わず感嘆の声を漏らした。
癖のある赤い髪から、使者が配下の者が噂する【赤髪鬼】である事は一目で分かった。
問題は彼女の容姿である。
多少気が強そうだがまるで絵画の世界から抜け出たかのような美しさ。
遠目からでもその肌が雪よりも白く、絹よりも滑らかな事が見て取れた。

ノパ听)『王位正統後継者ツン=デレ王女が使者、ヒートと申す!! エクスト殿は居られるか!?』

プー゚)フ。oO(こりゃ、バカどもにくれてやるのはもったいねぇな。俺専用の便器にするか!?)

気性の荒さを感じさせる声を聞きながら思う。
この男は気が強い女…もとい、気が強い女を力づくで屈服させるのが何よりも好きだった。
気位が高い表情が徐々に絶望に染まっていくのを見るだけで、思わず射精しそうになる。
とりあえず挨拶とばかりに自身がエクストである事を告げた。

ノパー゚)『そうか。貴方がエクスト殿か。しかも配下の方々もいらっしゃるようだな。ならば話は早い』

薄っすらと微笑むその姿からは『悪鬼羅刹』とも風される威圧感は感じ取れない。
が。
彼女はすぅと息を吸い込むと。



21: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:23:54.75 ID:fzgtJ7rF0














ノハ#゚听)『よく聞け粗チンどもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!』













吼えた。



24: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:26:36.32 ID:fzgtJ7rF0
フ ー )フ『……!!』

一瞬。
何が起きたのか、彼には理解できなかった。
当然である。
女とは彼にとって性欲解消の道具に過ぎず、決して彼を罵って良い存在ではない。
が、城門前の女は天も割れよと言う大声で彼を罵倒している。

ノパ听)『いいかっ!! 籠城すれば勝てるなどと考えているようだが、それは大きな勘違いだっ!!
     その浅墓な考え、産まれたての猿にも劣るっ!!
     我々から見れば今の貴様らなど、チン皮の裏にこびり付いたチンカス程度にしか見えん!!
     精々殺し尽くされる前に、その臭い首を洗っておけ!!
     分かったか!! チンカスどもぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!』

言いたい事を言い終えると、礼儀正しくエクストに頭を下げる。
そのまま満足そうな笑みを浮かべて立ち去ろうとする姿を見て、ようやくエクストは我に返った。

フ ー )フ『……ろせ…』

(Z`ハ´)『…は?』

フ#゚ー゚)フ『あの女を殺せ!! 生かして帰すんじゃねぇぇぇぇっ!!!!!!!』

役者気取りの格好つけたがり。
姿絵師にまで細やかな注文をつける男が周囲の目も気にせずに吼える。

城壁上の賊将達は慌てて手元の弓を引き絞るが、既に後の祭。
赤毛の給士を乗せた名馬は既に矢の届かない位置まで駆け去っていた。



29: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:28:40.87 ID:fzgtJ7rF0
ノパ听)『ヒート、使者の命を終え帰還いたしましたっ!!』

叫び声とともに陣に戻った彼女を出迎えたのは、兵士達の大歓声だった。
特に、長年に渡ってエクストと戦ってきた【キュラソー解放戦線】所属兵士の士気は高まる。

ノパ听)。oO(完璧!! 完璧だぁっ!!)

主であるショボンの注文は一つ。
宣戦布告と共に、徹底的に敵軍を怒らせる事。
その意味では正に彼女は適役であり、完璧に任務を果たした。
灰色の空すら吹き飛ばすような彼女の怒声は多くの敵軍の耳に入ったであろうし、
今頃は城内に巣食う賊どもの全てが知る所となっているだろう。

作戦本部となっている幕舎へ続く陣内の一本道。
左右に控える兵達の騒ぎ立てる声の中、悠々と彼女は幕舎へ向かう。
その表情は任務を終えた達成感からか晴れ晴れとしており、それがまた兵達の士気を高めた。
が。
その彼女が心の中で

ノハ*゚听)。oO(御姉様とお風呂…御姉様とお風呂…御姉様とお風呂…)

などと考えていると知ったら、彼らはどの様な顔をしただろうか。
やがて彼女は目的地に辿り着く。
側にいた兵士に手綱を預け、器用にスカートの前後を押さえて飛び降りると意気揚々と幕舎を潜った。

ノパ听)『只今帰りましたっ!!』

瞬間、彼女を包み込む仲間達の声。
……は、意に反して起こらなかった。



35: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:32:01.08 ID:fzgtJ7rF0
从* ∀从『…なぁ。あれはちょっとないわ』

冷ややかな視線の中。まず最初に口を開いたのは、主の背後で顔を赤らめるハインだった。
ヒートの想像では、御姉様は彼女に飛びつき頭を撫でまわしてくれる筈だった。
それなのに何故ハインは自分から逃げるようにショボンの背後にいるのか?
照れているのか? 全くワケがわからない。

ミセ;゚ー゚)リ『あのですね…王家の使者なのですからもう少し表現を選んでいただきたかったなぁ…なんて』

(*゚ー゚)『下品』

ξ;゚听)ξ『ね、ねぇ!! 粗チンって何? チンカスって何?』

(;^ω^)『…黙秘させていただきますお』

そこでようやく、ヒートは一同の冷たい視線の意味を知った。

ノハ;゚听)『い、いや!! 待て!! 違うんだぁっ!! これは全部ご主人の命令d』

(´・ω・`)『知らんがな』

ノハ#゚听)『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!』

必死に弁解しようとする赤毛の給士。
そんな彼女の肩に、背後からポンと置かれる手があった。

(#‘_L) 『…ヒート。少しお話があります』

ノハ )『…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』



41: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:34:32.82 ID:fzgtJ7rF0
(#‘_L) 『よいですか、ヒート。
      人間に最も大切な事。それは学習能力、そして言語によるコミュニケーションです。
      先程私は「慎みを持ちなさい」と忠告いたしました。
      それを何故貴女は守れないのでしょう?
      遺憾ながら、私を馬鹿にしているのではないでしょうか?
      そもそも、何故女性に慎みが必要なのか? 考えた事はおありですか?
      それは、貴女だけの問題でなくですね…例えば、貴女の姿を見て性欲を駆り立てられた無法者が
      貴女以外の女性に手を出す…そのような可能性も無きにしも非ずである。
      そう考えた事はございませんか?
      もし、その考えた事があるのならばですね……』

ノハ )『…あはは……はい…そうです…申し訳ありません…はは…』

完全に小姑モードに入ったフィレンクトの前で、
ヒートはしっかり魂が抜けたような状態になっている。

(´・ω・`)『うん、それじゃ。冗談はこの辺にしておいて』

ぐい、と茶を飲み干すとしれっとした顔で言う。
冗談で一人の人間を廃人同様に追い込む…この男、本当にロクデナシである。
が、今もなおアルキュ北部に住む信心深い老人達は、彼をギムレットの繁栄に尽力した英霊として
崇め奉っているのだから、本当に人生とは分からないものだ。

(´・ω・`)『面倒な事はとっとと終わらせてしまおう。
      義兄さん、アレの準備は出来てるよね?』

まるで夏休みの宿題を前にした優等生のような発言。
その表情は、自身の敗北など微塵も考えていないようであった。



45: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:36:40.91 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城内〜

プー゚)フ『クソッ!! 忌々しい!!』

手にした碗を壁に叩きつける。渇いた音とともにそれは砕け散り、あたりに破片を撒き散らした。

『宣戦布告』を終えたヒートが戦線を離脱してから。
まず、この男が行なったのは命に従わず矢を放たなかった兵を斬殺する事だった。
彼が命を発したのは、とうにヒートが矢の射程距離を脱した後の事であり
その意味では殺された兵達の判断は正しい。
しかし、この城ではどのような愚かしい命令であっても、エクストの言葉は全てに優先されるのだ。
多少頭が回る故に殺された兵達は、運が悪かったと言うしかあるまい。

続いて彼は自室に戻り、酒を運んできた少女を犯した。
最初は抵抗していた少女も、力任せに顔面を何度か殴りつけるとやがて観念したのか大人しくなった。
髪を掴んで引き倒し、平民服の裾を捲り上げて背後から挿入する。
まだ何の準備も出来ていなかった少女は必死に痛みを訴え、その秘所は狭く渇いていたが、それがまた彼を興奮させた。
精を放ち冷静になると目に入るのは顔中を鼻血と涙と涎でグシャグシャにした少女の姿。
エクストは何の躊躇いも無くその首を刎ね飛ばした。

(H`ハ´)『え、エクスト!! 来たアル!! 攻め込んできたアルヨ!!』

賊将の一人が彼の部屋に飛び込んできたのは、ちょうどそんな折である。
血は良い。まだ生暖かい鮮血は、彼の心を駆り立ててくれる。

プー゚)フ『来やがったか。いいか、【紅飛燕】のチビと【赤髪鬼】のクソだけは殺すなよ!!
     この二人だけは俺が直々に切り刻んでやる!!』

ヒートは勿論の事。しぃにはかつて一騎打ちの際、彼女の細身剣で右肩を貫かれた恨みがある。
当時の事を思い出すだけで…誰かを殺したくなるのだ。エクストは新たな血を求め、戦場に歩を進める。



50: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:38:30.13 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城壁上〜

プー゚)フ『なんだありゃ!?』

彼が城壁上に戻った時。
戦いは既に始まっていた。
城門を守護する石像兵のように湖に浮かぶ軍船に矢を浴びせているのは、【キュラソー解放戦線】の騎兵隊であろう。
問題は城門正面にを白銀色の鎧を煌かせる【薔薇の騎士団】の背後である。
50頭ほどの馬に引かれた攻城櫓がゆっくりと城門に向かっていた。

攻城櫓とは、この時代ポピュラーな攻城兵器の一つである。
城壁と同等の高さを持つ櫓を城壁に取り付け、城内に侵入して一気に制圧を計るのだ。
その巨大さゆえに移動は多くの馬を使っても遅々としたものであるが、
もし複数の攻城櫓が城壁に並ぼう物なら、その城の運命は長くはない。

キュラソーは城門前以外の城壁を湖に囲まれる特殊な城構えの為、複数の攻城櫓に隣接される心配は無い。
が、連合軍はこの移動要塞とも言える兵器を戦場に投入してきたのだ。

\(´・ω・`)/『わはははははははははは!!
         風よ吹け!! 嵐よ吹け!!
         これぞ我がバーボン領が誇る超移動要塞【バーボンハウス】だ!!
         愚か者達よ!! 泣け!! 喚け!! 膝まづいて命乞いをするが良い!!』

攻城櫓の上では白眉の中年男が嬉々として叫んでいる。
実際、ショボンはエクストより10も若いのだが…その様な事を彼が知るはずも無かった。



54: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:41:07.87 ID:fzgtJ7rF0
プー゚)フ『オイオイ!! あんなの持ち込んでるなんて聞いてねぇぞ!!』

(O`ハ´)『ち、朕も初耳アル!!』

その将の言葉はおそらく真実だろう。
このような重大な報告を隠す意味は無いのであるし、
バーボンから逃れてきた一行が攻城戦を行なったとの知らせも無い。
いや。
そもそも、あのような建築物に気付かなかった事がすでにおかしいのである。
城壁ほどの高さを持つ巨大な櫓。
その存在は遠めに見ても分かる筈であった。

プー゚)フ。oO(いや、待てよ)

櫓の上で呵呵大笑している白眉の男は確かに『バーボン領の秘密兵器』と言った。
そうなると、彼が噂に聞く【天智星】ショボンに違いない。
戦略の天才。
恐るべき頭脳の政治家。
そして、常勝の誉れ高い戦車隊を率いる禁軍元帥シャキンの子。
もし、元帥から直々に教えを受けているとすれば、一日にして巨大な攻城櫓を組む事も可能かもしれないし、
それにどのような仕掛けが隠されているかも分からない。
どうする?

プー゚)フ『……?』

そこまで考えて彼の思考は停止した。

ξ゚听)ξ『……』

白眉の男の隣に、金髪の少女の姿を見つけたからである。



59: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:44:09.11 ID:fzgtJ7rF0
(K`ハ´)『エクスト…あれは…』

プー゚)フ『分かってる。言うんじゃねぇよ』

彼は思った。
なるほど。
確かに僅か一日で攻城櫓を組んだ実績は認めよう。
が、戦略家は所詮戦略家。
どれ程天才の呼び名が高くとも、日々戦いの中で戦術を磨いてきた自分には劣ると言う事だ。

何故か?
攻城櫓の本質は城壁に取り付き、城内に兵を送り込む事にある。
城内からの反撃に備えて表面を鉄で覆ったり、弓兵を配置したりする事も多いが
行き着く先は一つに絞られるのである。
最前線に配置される櫓の上。
そこに総大将の姿があれば、成る程確かに兵の士気は上がるだろう。
しかし、本来の使い道を外れ攻城櫓など、彼の目から見れば単なる神輿に過ぎなかった。

プー゚)フ。oO(さてと。どうすっかねぇ)

この戦いにエクストが勝利する条件は二つ。
城を守りきるか。
連合軍総大将である王女を捕らえるか、である。
そして、彼にとって魅力的な勝利は当然後者であった。
ここに来てエクストの策は決まる。

プー゚)フ『軍船組に連絡。鬱陶しい解放戦線どもに矢の雨を降らせろ。
     全ての矢を使い果たしてもいい。で、何時でも上陸できるように準備はしておけ。
     城内でも弓を使える連中を城壁に集めろ。ただし、合図があるまで攻撃は無しだ。
     それと…腕に自信がある連中は俺と城門前に集合。討って出るそ』



64: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:46:03.24 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー解放戦線〜

(‘_L’) 『む』

(*゚ー゚)『あ』

突如強くなった軍船からの攻撃に二人は思わず感嘆の声を漏らした。

     (´・ω・`)『攻城櫓が近づいたら間違いなく攻撃が強くなるからね。
            そうしたら無理をせず一旦兵を下げて欲しい』

陣を出る前に白眉の男はそう予言した。
更に、彼らの兵に矢から身を守る為の盾まで揃えていたのだ。

(‘_L’) 。oO(なんと…人はここまで人を操れる物なのか)

フィレンクトは驚嘆した。
エクストは強い。
それは長年に渡って彼と戦ってきたフィレンクトが一番良く分かっている。
が、そのエクストの行動を完璧にショボンは言い当てて見せた。

バーボンの奇人【天智星】ショボン。
騎士の中の騎士と呼ばれたフィレンクトからすれば今回のショボンの策は好みの作戦ではない。
むしろ忌み嫌うペテンの類であったし、その空気を読まない行動も決して好ましく思ってはいなかった。
が、間違いなくショボンは天才である。ここに来てフィレンクトはショボンに対する意識を改めた。

(‘_L’) 『退却するぞ!! 陣を乱すな!!』

右翼ではしぃ率いる解放戦線本隊が退却を始めている。
それを見ながらフィレンクトは【天智星】の次なる予言について考えを巡らせていた。



69: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:49:31.54 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城内〜

(I`ハ´)『エ、エ、エ、エ、エクスト!! 櫓が近づいてるアルヨ〜!!』

プー゚)フ『ウルセェ!! 黙れ!! それより解放戦線のクソどもはどうなった!?』

(I`ハ´)『い、一旦兵を引いたアル!!』

プー゚)フ『それでいい!! 城壁の連中には何もせず命を待てと伝えろ!!』

エクストは一人ほくそえんだ。
ここまでは完璧。
櫓の上で喧しく騒いでいる【天智星】は櫓さえ城壁に付けてしまえば突破口は開けると思っているだろう。
そして、反撃が止んだ事を不気味に思いながらも『接近したところで反撃する機会を窺っている』と信じ込み、前進するしかない。

が、この場において攻城櫓がその本領を発揮するには、櫓の上にいるのはショボンやツンではなく兵士でなければならないのである。
そこに付け入る隙があった。
櫓が限界まで近づいたところで総攻撃を仕掛け王女を捕らえる。
それは自身の栄光に繋がる第一歩になる筈だった。

(R`ハ´)『エ、エクスト!! もう限界アル!! 【天智星】の目鼻立ちが確認できるまで近づいてるアル!!』

報告では攻城櫓はすぐ背後に【薔薇の騎士団】を率いて接近していると言う。
急襲部隊に城門を開かせ、切り込ませる算段であろう。
エクストは更にゆっくり10数えると、声の限りに叫んだ。

プー゚)フ『軍船組に報告!! 弓兵隊は左右からあらん限りの矢を放て!!
     陸戦部隊は奴らの背後に上陸して退路を立て!!
     城壁組!! 我慢は終わりだ!! 殺して殺して殺しまくれ!!
     分かったか!? よし、開門しろ!! 王女をひっ捕らえるぞ!!!!!』



73: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:51:10.73 ID:fzgtJ7rF0
     〜攻城櫓周辺〜

(;゚∀゚)『ぉおぅっ!?』

突如降り注ぎ始めた矢の雨に、【急先鋒】ジョルジュは声を漏らした。
これしきのへなちょこ矢では彼の鎧を貫けはしないし、
幾度の戦場を共にした愛馬も微動だにしない。

が、攻城櫓を引く為に徴集された馬はそうはいかない。
嘶き、暴れ、周囲を巻き込んで倒れる。
阿鼻叫喚の世界が展開された。

そこへ城門を開き切り込んできた一軍がある。
先頭に立ち、長剣を振り回すキザ男が敵将エクストだろう。
当然の様に大鎌を振りかざして迎え撃とうとした。
ところが。

薔薇の騎士A『将軍!! 軍船より敵襲!! 背後を完全に断たれました!!』

(;゚∀゚)『うえっ!! マジかよ…っとおおおおっ!?』

配下の騎士からの報告に気を奪われた一瞬。
エクストの長剣に胸を撃たれたジョルジュはバランスを崩し、もんどりうって落馬した。

プー゚)フ『急先鋒討ち取ったり!! 野郎ども!! 一気に王女を捕らえるぞ!!』

号令と共にエクスト率いる一軍は攻城櫓に殺到する。
しかし…この時敵将の背を見送りながらジョルジュが考えていた事は王女の安否についてではない。
ただただ。
己の義弟の恐るべき智謀について考えていた。



76: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:52:59.93 ID:fzgtJ7rF0
プー゚)フ『な、なんだこりゃぁ?』

攻城櫓に侵入せんと背後に回ったエクストが見た物。
それは、巨大な板の三方に高い壁を張り巡らせただけのハリボテだった。
馬に引かせる際、重厚感を出す為か床部分には土嚢が敷き詰められ、
その中央に立つ二本の梯子の上に白眉の男と金髪の少女が立っている…と言った風だ。

\(´・ω・`)/『ありゃ? もうばれちゃったか』

いたずらがばれた子供のような顔をしている男に興味はない。
エクストの目は…ひたすら今まさに梯子を降り終えようとしている少女に注がれていた。
いや、少女と聞いていたが…その美しさは妙齢の女性をすら思わせる。
これが王族の気品と言う物かと彼は心中で舌を捲くった。

プー゚)フ。oO(なるほどな)

確かにこのようなハリボテならば一夜にして作りあげられる。
敵軍兵士の動揺を誘うには持って来いだ。
更にその上に総大将の姿があれば、味方の士気も高められるだろう。
が、その後がいけなかった。ハリボテはあくまでハリボテ。前に出て来るべきではなかった。
エクストは勝利を確信する。

プー゚)フ『王女!! 捕らえたりっ!!』

立ち尽くす少女の美しい黄金の髪を鷲掴みにして思い切り地に引き倒した。
いや、引き倒そうとして彼は。



81: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:54:51.98 ID:fzgtJ7rF0













ξ#゚听)ξ『どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』
















86: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:56:12.85 ID:fzgtJ7rF0
宙を舞った。
雄叫びと少し遅れて走る腹部への衝撃。
ワケも分からず櫓から叩き出され、雪でぬかるみ始めた大地を転がる。

そして、その手の中に残っているのは……胴体を離れた王女の首。

否。違う。

フ;゚ー゚)フつξ  ξ『……? ??』

すでに言葉も出なかった。
手に握られている物は金色の髪の束。

そして攻城櫓の土嚢の上。
王族らしき高貴な服を纏い、構えを取っているのは……少し癖がある赤い髪の。

ノハ#゚听)『覚悟しろ租チン野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

【赤髪鬼】ヒートの姿であった。

フ;゚ー゚)フ『? ?? ??? ???? ????? ??????』

何だこれは?
意味が分からない。
自分は王女を捕らえた筈だ。
それが何故地べたに這いつくばっている。
それが何故目の前に【赤髪鬼】の姿がある。
考える事を拒否した頭を無理にでも回転させようとした所で、突如頭の上から液体が降りかけられた。
犯人は…ハリボテの梯子の上で嬉しそうに。心底嬉しそうにしている白眉の男。
そして彼は。ショボンはもう我慢できないとばかりに、『あの言葉』を言うのだ。



89: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 17:57:49.54 ID:fzgtJ7rF0














\(´・ω・`)/『やぁ。ようこそ超移動要塞【バーボンハウス】へ。
        まず、この白酒はサービスだから呑んで落ち着いて欲しい』














127: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:14:17.74 ID:fzgtJ7rF0
フ#゚ー゚)フ『ダラズがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!』

それでようやくエクストは理解した。
完全に嵌められた。
全ては城門を開かせる為の策略。
手配書を巧みに利用し、欲を駆り立てさせた狡猾な罠。

すでに隊列を立て直した【薔薇の騎士団】は城内に雪崩れ込もうとエクスト軍に斬りかかっている。
おそらくは、同時に陸につけた軍船も【キュラソー解放戦線】の攻撃にあっているだろう。

いや。
彼は知らないのだ。
諸兄らが知っている事実。
手配書の件も全てショボンの手による物だと言う事を。

そして。
罵詈雑言の限りを尽くした『宣戦布告』でノパ听)=赤毛と言う事実を彼らの頭に叩き込んだ。
それ即ち、ξ゚听)ξ≠赤毛と言う前知識を彼らの中に強める事になる。
キュラソーに立て篭もる賊の中には当然ヒートの顔を知っている者もいるだろう。
かと言ってツンを最前線で囮にするわけにもいかぬ。
だから、ショボンはこのような回りくどい策を選んだのだ。

その結果、『宣戦布告』と『金銭欲』によって冷静さを失った賊どもは
王女たるツンが最前線に出ると言う行為に不審感を覚える事もなく、
自らの手で城門を開くと言う愚行に出た。

もしも彼らが勝ちたいのならば。
どのような侮辱を受けようとも、どのような餌をぶら下げられようとも、門を開くべきではなかったのだ。



130: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:23:02.67 ID:fzgtJ7rF0
だが。
既に遅すぎた。
アルキュ全土にその勇名を響かせた【薔薇の騎士団】が乳首を模った戦旗を翻し、
賊どもに襲いかかる。
百戦錬磨の騎士達と山賊とではその実力に差がありすぎた。
宙を舞うは蛮人どもの首と穢れた血。
全ての騎士が返り血に全身を赤く染め、思うがままに暴れまわっている。

フ#゚ー゚)フ『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! 道を空けろぉ!!!!!!』

そんな中、この男はキュラソー軍で唯一と言って良い程の活躍を見せた。
落とした首の数は10を下らないだろう。
が、彼は【薔薇の騎士団】相手に剣技を披露するような愚かな真似はしない。
ひたすらに邪魔な自軍の兵士達を叩き切り、己の為の道を開いた。
そして、ほうほうの体で城内に転がり込む。

フ#゚ー゚)フ『城門を閉じろ!! 軍船組にも桟橋を上げ陸から離れるよう連絡するんだ!!』

『しかし、まだ戦場には友軍が…』などと言う兵を斬り捨て、手ずから開閉を操作する鎖に飛びつく。

(K`ハ´)『ま、待つヨロシ!! まだ朕が残っているアルヨ!!』

(E`ハ´)『ひ、ひぃっ!! 後生アル!! 朕も中に…!!』

上半身だけを城内に飛び込ませた形で、城門に挟まれた賊将を無視して鎖を巻いた。
ゴリゴリと嫌な音を立て、臓物を撒き散らしてその男の上半身がボトリと地に落ちたところで完全に城門は閉じる。
腹を圧迫された影響による物か。眼球が零れ出した上半身はしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。
見たところ、周囲に侵入した敵兵の姿は無い。
そこでようやくエクストは崩れるように座り込み、
半ばヤケクソ気味に城門に閂を掛け土嚢を積み上げるように指示を出した。



134: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:26:54.99 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城内〜

プー゚)フ『……500もの兵を失っただと…!!』

(Q`ハ´)『それだけじゃないアル…矢の残量も心元ないアルヨ』

フ ー )フ『……』

すでにその賊将の声は耳に入っていなかった。
それぞれの軍船で100ずつ。
城内の兵300を失った。
そしてそれはあくまで戦死者に限った話であり、戦闘可能な者といえば併せて2000程度だろう。
対して連合軍側が大きな被害を受けたとは思えない。
報告によれば【解放戦線】も【薔薇の騎士団】も全てが盾を装備していたとの事。
それはおそらく…いや、間違いなく弓矢による攻撃に対する備えだ。
つまり、エクスト軍は『来るかな、来るかな』と準備万全のところに矢を撃ちこんでいた事になる。
それでは大きな成果が期待出来る筈も無い。

プー゚)フ『……クソが』

苛立ちを隠さずに側にいた兵を蹴り飛ばすが、それで戦況が変わる筈があろうか。
少なくとも数の上では随分と不利な状況になってしまった。

プー゚)フ。oO(こうなれば…)

兵の数で優位に立つ連合軍は力攻めに来るだろう。
いや、来なくてはおかしい。
その為の。本格的な冬が来る前に短期決着をつける為の奇策であった筈だ。
ならば、こちらは徹底的に籠城するだけ。三民族連合軍ですら陥とせなかったこの城の実力を見せてやるだけだ。
何時しか大粒になった雪が、しんしんと火照った体に降り積もっていく……。



137: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:30:55.50 ID:fzgtJ7rF0
ミセ*゚ー゚)リ『ショボン様!! お見事でした!!』

静まり返るキュラソー城内に反して、連合軍陣地はかつて無い程の大騒ぎとなっていた。
特に過去最高の戦果を挙げた解放戦線兵士のボルテージは高く、
副将フィレンクト自らが窘めに行かねばならなかったほどである。

が、その彼の言葉も説得力に乏しい。
『勝って兜の緒を締めよ』と言う格言がある。
最終的にキュラソーを陥さねば、今日の大勝も無駄になる。
それでも、彼をして目尻が下がるのを止められなかったのだ。

(´・ω・`)『うん、ありがとう。ミセリも留守番ご苦労様』

当然と言った風に答える口調に嫌味は無い。
それほどに彼の策は見事だった。
将官用の幕舎の中。
赤々と燃える炭を放り込んだ火鉢の前で彼らは暖を取っていた。
ショボンは普段酒を飲まない。
来客の席で嗜む程度である。
それでも、冷え切った体に火を入れた酒はありがたかった。
五臓六腑に染み渡り、カーッと体の芯から熱くなる。

気候差の大きいこの島では、酒一つ取っても地域によって種類が分かれる。
原料は主に麦であるが、南部では子供でも飲めるようなアルコール度数の低い物が好まれた。
水分補給と言う理由もあるのだろう。
そして、北部ではそれを更に蒸留したアルコール度数の高い酒が飲まれている。
それを生のまま。もしくは湯で割って飲む事により体を暖めるのだ。
ビールとウィスキーの違い、と言えば分かりやすいかもしれない。



139: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:36:19.98 ID:fzgtJ7rF0
(*゚ー゚)『ただいま』

そこにひょっこり入って来たのは【紅飛燕】しぃである。
少しでも暖を取ろうと考えたのか。
泥にまみれた外套を羽織っているのだが、それは小柄な彼女には少々サイズが合わなかったようだ。
ぬかるんだ地面を引きずった裾が見事に泥に染まっていた。

(‘_L’) 『しぃ!! こ、このような汚い外套を身に着けてはいけません!!』

慌ててしぃに飛び掛ったフィレンクトがそれを脱がし、火鉢の前に座り込ませる。
暖めた牛乳で割った酒を渡すと、彼女はそれを一口飲んでほぅと嬉しそうな溜息を吐き出した。

(´・ω・`)『おや』

その外套を拾い上げたジョルジュが首を傾げる。
それは戦場でエクストに敗れ、この場に姿の無い義兄の物であったからだ。

(*゚ー゚)『拾った』

彼女はただ一言だけそう口にするが、ただの偶然でこの外套を拾い上げる事などあろうか?
つまりはそういう事であり、彼女はそう言う人間なのだ。

感謝の言葉を述べつつそれを赤毛の給士に手渡してから、ショボンは次なる指示を出す。

(´・ω・`)『じゃ、次の作戦だ。明日から何日か波状攻撃を仕掛ける。
      ただし、二刻(4時間)攻めて二刻休む。これを繰り返すんだ。
      退却の半刻前には鐘を5回鳴らすから、合図だと思って欲しい。違反は一切許さないからね?』

最後に『これで我が軍の勝利は決まりだ』と〆てから、彼は酒の入った碗を口元に運ぶ。
あまり好みでない酒を飲みながら、彼は『ハインのお茶が飲みたいな』と考えていた。



141: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:40:57.50 ID:fzgtJ7rF0
    〜キュラソー城内〜

プー゚)フ『弓兵!! しっかり狙え!! 一本の矢も無駄にするんじゃねぇぞ!!』

翌日からの連合軍の攻撃は熾烈を極めた。
巨大な丸太の先を鉄で覆った破門鎚を引いた馬車を中心に、城門に押し寄せてくる。
唸りを上げて破門鎚が叩きつけられる度に閂は悲鳴をあげ、
城内から門を押さえ込む兵卒が吹き飛び土嚢が崩れ落ちた。

迎え撃つ守り手側の主力武器は弓矢だが、圧倒的に数が足りない。
煮えた油をかけたりもするが、それも量に限りがあるのだ。
城内では民を集めて急ピッチで矢を作らせている。
しかし、間に合わせで作った矢など精度にも貫通力にも乏しかった。
それでも無いよりはマシである。

更に悲惨なのが、湖に影を映す軍船組の方だった。
矢を生産する者も無く、物資も少ない。
かと言って何もせずに傍観していては戦の後、領主代理に何をされるか知れた物ではないのだ。
やむなく放たれる矢はぽつりぽつりと小雨に等しく、中には自棄気味に石や茶碗を投げる者達もいた。

やがて、連合軍陣地から鐘が五回鳴り響き、徐々に攻撃の手が緩み始める。

プー゚)フ。oO(なんとか防ぎきったか)

総攻撃が始まって早三日。
いや、まだ三日である。
あと何回凌げばいいのだろうか。
エクストは心中でガックリと肩を落した。



145: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:47:13.10 ID:fzgtJ7rF0
それから更に四日が過ぎた。
兵の数。装備。錬度。
その全てに劣る籠城戦は、予想以上に精神を疲労させる。
昼夜問わずに攻撃が繰り返されれば尚更だ。
日を追う毎に強くなる北風と雪だけが彼らの頼りだった。

攻め手側も苦しいのは確かである。
撤退は死を意味する攻城戦。
易々と退く事はあるまい。
それでも、立て篭もる者達は二刻に渡る攻撃を凌ぐ度、攻め手の撤退を天に願った。

更に連合軍側の弓兵【黄天弓兵団】の持つ大弓や【赤髪鬼】ヒートの鉄弓は
城壁や軍船との高低差など無いかのように彼らの命を奪っていく。
攻撃が終わると城内の片隅に使者の体は山積みにされた。
この寒さでは、死体が腐る心配はあるまい。
腐乱死体から病が広がる事も無い筈だ。
そのような理由から彼らが火葬される事は無かった。
が、凍りついた死体を荷車に載せて運ぶ者達は、いったいどのような心境であっただろう。

民の間では早くも解放を祝う声が。
兵の間では早くも絶望を呪う声が囁き始められている。
本来であれば、それが例え冤罪であろうともエクストは彼らを粛清していた筈だ。
しかし、彼はそうしなかった。

フ ー )フ。oO(冬が来れば…冬が来れば…)

ひたすらにそれだけを考えていたのである。



147: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:50:08.78 ID:fzgtJ7rF0
その日も連合軍側の攻撃は続けられていた。
圧倒的不利な状況。
自分のすぐ横にいた者が、胸を。腹を。額を討ち抜かれて絶命する。
いつもどおりの風景。
生き残れたのは運が良かっただけに過ぎない。
が、この状況下で生き残る事が『幸運』と言えるのだろうか。

それでも。ようやく敵陣から撤退半刻前を告げる鐘の音がカーン、カーンと六回響きわたる。
正確に繰り返される二刻ごとの攻撃。
最初それに気付いた時、エクストはまたもやショボンの策かと疑念を覚えた。
休む事無く攻撃を仕掛けられた方が守り手としては辛いからだ。

その理由も間も無く判明する。
何の事は無い。
二刻も外気に晒されていれば、身体が限界なのである。
そう考えれば、兵の戦闘意欲を下げずに攻撃を続けるにも二刻毎の攻撃というのは理想的だ、
とエクストは理解した。

鐘の音と共に連合軍の攻撃は徐々に鎮静化していく。

(W`ハ´)『何とか…生き延びたアル』

エクストの側にいた賊将が、大きく肩を落とした。
見れば周囲の兵も、皆が皆同じ表情をしている。
が、注意深い者が見れば寄せ手の兵も僅かずつであるが減りつつあるのが分かっただろう。
児戯の如く攻撃でも、続ければ効果はあるのだ。苦しいのは双方同じ筈だった。

プー゚)フ。oO(終わったか)

体が冷え切っている事に気付いたエクストは、近くにいた兵に酒を持ってくるよう命じる



151: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:54:47.49 ID:fzgtJ7rF0
自称領主代理であるエクストに酒を持ってくるのは、女の役目と決められていた。
いや。
別に男でも構わないのだが、男が酒など運んできたらエクストは即座に不愉快になり首を刎ねるだろう。
例外は女性と間違わんばかりの美少年の場合で、菊座を犯した後で首を跳ね飛ばした。

この時彼に酒を運んで来たのは一人の町娘である。
垢抜けない田舎娘といった感じではあったが、それなりに見るべき所はある。
そこでエクストは娘を捕らえると、空き家へと引き込んだ。

別に女が欲しかった訳ではない。
序戦の大敗以来、エクストは食事も喉を通らないでいたし、
身体を暖めると言う理由が無ければ酒すら飲みたいと思っていなかった。
この時の彼の行動は、単に周囲の兵に対する顕示欲に過ぎない。

しかし、ここまで来て無傷で帰すわけにもいかなかった。
寒さで縮こまった己の一物を娘の口に捻じ込み、暖まって元気を取り戻したところで押し倒す。
こうなればどれほど気丈な女であっても、その顔が絶望に染まるのが常である。
が、この時は違った。
町娘は殺意を込めた目でエクストを睨みつけ、こう言い放ったのだ。

町#゚ー゚)『犯しなさい。そして殺しなさい。私は死して悪鬼となり、冥土の入口で貴方を待ちましょう』

と。
瞬間、エクストは知った。
このような町娘ですら自分の敗北は揺るがないと思っている。
……全ては終わった。

一人の賊将がこの空き家に飛び込んで来たのは、正にこの時である。



154: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 22:56:56.11 ID:fzgtJ7rF0
急速に萎えた一物を衣服の中に押し込んでから城壁に向かう。
そこでエクストが見た物は。

プー゚)フ『ぎゃっ!!』

炎上する軍船の姿だった。
甲板上では複数の人間が斬り合いを演じている。
錆び付いた甲冑を着込んだ兵士が一人。
袈裟懸けに斬られ湖に転落していった。

プー゚)フ『遠見眼鏡をよこせっ!!』

すぐ側に呆然と立ち尽くす賊将の手からそれを奪い取り覗き込む。
小さな円の中。
拡大された視界の向こうでは。

         (#^ω^)『うおおおおおおおおおっ!!!!!』

          从 ゚∀从『おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

プー゚)フ『……!!』

右翼の軍船上では銀髪の青年が。
左翼の軍船上では黒衣の給士が。
少数の兵を率いて剣戟を繰り広げていた……。



162: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:04:49.50 ID:fzgtJ7rF0
フ ー )フ『……』

不思議と動揺は少なかった。
ただ、来るべき時が来ただけ。
思ったより数日早く終わりが来ただけなのだから。

そう。
あの序戦で【天智星】が張った罠は一つではなかった。
当然、あの日もショボンはこの城を陥とすつもりで攻め込んでいただろう。
が、もしもそれが成功しなかった時に備えて、少数の兵をキュラソー軍に偽装させ潜入させた。
そして、一定間隔での攻撃を繰り返し…それに慣れきった所で策を発動させたのだ。
五回しか鳴らぬ筈の鐘が六回鳴らされた事がその合図。

今、彼が立つ城壁の真下には300程の兵が城門に攻めかかろうとしている。
だが、連合軍の全ての兵は今の今まで戦場にあり身も心も凍えきっている筈だ。
先頭にあるはこの日全く姿を見せなかった【赤髪鬼】ヒート。彼女が率いる戦意に溢れた兵士はどこから湧いてきた? 
前回の攻撃で300もの兵を休ませていた形跡など無かったのだ。

そして何よりも。
【天智星】の策は左右の軍船においてのみなのか。
このキュラソー城自体には何の策も取られていないのか。

【無敵】の旗を背にしながらも序戦で自身に敗れ、以来行方の知れない【急先鋒】ジョルジュはどこにいる?

そこからのエクストの行動は素早かった。

(U`ハ´)『エ、エクスト!! 城門が……!!!!!!』

その一人の賊将が城壁上に姿を見せた時。
エクストの姿は既にそこから消え去っていた。



167: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:08:16.21 ID:fzgtJ7rF0
    〜連合軍陣地〜

(‘_L’) 『…ショボン殿……これは…?』

すでに日課となりつつある無駄な城攻めを終えたフィレンクトらが目にした物。
それは、ヒートを先頭に隊列を揃えた300の兵と
真っ白い湯気をあげる大釜を前に悠然と立つショボンの姿だった。
正直な話、フィレンクトはここ数日の戦闘に不満があった。
何の工夫も無い力押し。進展も無く繰り返される攻撃で兵の中には厭戦ムードを漂わせている者すらいる。
【解放戦線】に所属する者はまだいいだろう。
が、王女を始めとする逃亡軍の者はどうなるのか?
初戦で皆をあっと言わせた天才の姿は何処へ行った?
どうやら渇の一つも入れねばなるまい。
そう考え帰陣した所に、この出迎えであるから彼の驚愕も当然かもしれなかった。

(´・ω・`)『ようこそ バーボンハウスへ。まずこの白酒h』

嬉しそうに口を開いたところで

ノパ听)つ)´・ω・)『ご主人はちょっと黙ってろ!! 話が先に進まん!!!!』

と、押し退けられてしまった。
これから何が起こるのか? 全く理解できずに固まる一同を前にヒートは大きく息を吸い込み叫ぶ。

ノパ听)『これより!! キュラソー城解放の最終作戦を開始する!!!!!!!』

……返ってきた反応は静寂。
突然の発表に誰一人身じろぎできない。
が。一人の兵士が小さく感嘆の声を漏らしたのをきっかけに。
地鳴りのような大歓声がまきおこった。                               (´・ω・`)ショボーン



173: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:12:53.24 ID:fzgtJ7rF0
ミセ*゚ー゚)リ『お疲れでしょうけど…頑張ってくださいね』

兵『ありがとうございます。必ず勝利を掴んでみせます』

大釜から汲み上げられた酒が次々と兵士に配られていく。
それは冷え切った心身を再び燃え上がらせ、戦意を高揚させた。

(‘_L’) 『…まさかこのような策まで…』

老将はすでに驚きを通り越して呆れている、と言った表情だ。
この戦いにおいて、手配書の件を第一の策。
宣戦布告、ハリボテの攻城櫓、ナイトウやハインの軍船潜入を第二、第三、第四の策とするならば。
ヒート率いる300の兵こそ第五の策と言える物である。

連日の攻撃において、総攻撃と見せつつもショボンは少しずつ兵を減らしていった。
それはほんの僅か。守り手の目には見えない程の数。
しかし、例え10人ほどの少数であってもそれを30回繰り返せば300の小隊が完成する。
そのようにして作りあげた精鋭部隊こそ、真の最終兵器と言えよう。そして今。

ノパ听)『それじゃ、ご主人!! 先生!! 一足先に行ってるからなっ!!!!!』

汗血馬に跨ったヒートが声をかける。無言で頷く二人ににこりと微笑み返し。

ノハ#゚听)『行くぞ野郎どもぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!! チンカスどもの首を残らず叩き落せぇぇぇぇぇっ!!』

鉄弓を掲げて号令一発。意気揚々とキュラソー城に向けて駆け出した。

(#‘_L) 『……』

(´・ω・`)『……彼女はあとで沢山ゴメンナサイしないといけないよね』



176: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:15:26.36 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城門内〜

(V`ハ´)『アイヤー!!』

銀光一閃。
腹を一文字に切り裂かれた賊将がよろめいた。
咄嗟に押さえ込むが、腹圧によって腸が溢れ出る。
それを無視して、男は別の兵士に襲い掛かった。

その背に【無敵】の旗印も無い。
絢爛たる鎧も纏っていない。
死神の代名詞たる大鎌も持っていない。
が、熊を思わせるその巨体があれば例え何十人の賊に囲まれても十分と言えよう。

( ゚∀゚)『りゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

ろくに手入もされていないであろう錆びだらけの鉄剣。
城門裏にてそれを振り回しているのは、初戦において義弟の命を受け偽りの敗北を喫した男。
【急先鋒】ジョルジュである。

城門死守はキュラソーに巣食う賊どもにとっての生命線だ。
なんとかこの凶暴な熊を仕留めようとするが、次々と返り討ちにあい地に伏せていく。
更に、この光景を見た住民までが蜂起したからたまらない。
棒切れや農作業用の鎌などを手にした住民に襲われ、賊どもは抵抗する間も無く散っていった。
そしてついに城門を操作する鎖まで彼らは辿り着く。

( ゚∀゚)『開門だ!!!!!!』

その言葉が終わるか終わらないかのうちに。
蝶番(ちょうつがい)に張り付いた氷を砕きながら……とうとう悲しみの地キュラソーの城門は開きはじめた。



180: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:18:20.37 ID:fzgtJ7rF0
(;゚∀゚)『うおっ!! 気をつけろ、バカ!!』

ようやく人一人通れるか程の隙間が開いた時。
一頭の汗血馬が城内に突入してきた。
跳ね飛ばされそうになったジョルジュは思わず尻餅をつく。

ノパ听)『!! ジョルジュ!! 無事か!!』

(;゚∀゚)『無事じゃねぇよ!! 無茶苦茶寒ぃし!! 今だって殺されかけたところだ!!』

ぼやきつつ立ち上がった。
泥濘の上に倒れ込んだからか、尻が湿っていて気持ち悪い。
そんなジョルジュにヒートは自身が羽織っていた外套を脱いで投げ渡す。
あの日、しぃが拾ってきた外套だ。
受け取ったジョルジュはいそいそとそれを身に纏う。

( ゚∀゚)『おほっ。暖けぇ。それにいい匂いがするぞ。クンカクンカ』

ノパ听)『黙れ!!!!!!!!!』

そんなやり取りをしているうちにも城門はどんどんと開いていき、完全に外界と繋がった。

ノパ听)『ジョルジュは少し休んでろ!!
     いいか!! 民には手をかけるな!! 抵抗しない者も放っておけ!!
     目指すはチンカスの親玉の首一つだ!!』

雪崩れ込む兵に指示を出す。
こうして呆気なく。
あまりにも呆気なくキュラソー城は陥落した。
戦いが始まって十日と過ぎていなかった。



184: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:21:34.15 ID:fzgtJ7rF0
     〜連合軍陣地〜

(´・ω・`)『……終わったね』

ξ゚听)ξ『……はい』

彼らとミセリは、護衛の兵10人ほどと陣にとどまり戦いの行く末を見守っていた。
いや、すでにそれは戦いと呼べるほどの物であったか。
全て自業自得とは言え、一方的な殺戮に等しい風景がそこにある。
ショボンは釜の底に僅かに残った酒を汲み取ると二人に手渡した。

(´・ω・`)『冷えるよ。……これを飲んだら幕舎に戻ろう』

慈しみすら感じさせるその声に、いつものおちゃらけた気配は無い。

ξ゚听)ξ『はい。でも…もう少しだけ…もう少しだけ』

眼前に繰り広げられるは殺しの景色。
城門から逃げ出そうとする者も、桟橋を降ろした軍船から脱出を試みる者も、
踵を返した連合軍総攻撃の前に儚く散っていった。
悲しみの地と呼ばれるこの城は、本来はこの季節一点の汚れも無い白に包まれるのだろう。
が、今は軍靴に踏み固められ、血と泥と死者と慟哭に穢されている。
『開城成功』『ヒート軍城門突破』『【急先鋒】将軍の無事を確認』
次々と伝令の兵が飛び込んできた。
そしてついに『敵将エクストの遺体発見』の報が入った時、王女はポツリと呟く。

ξ゚听)ξ『アタシは…この光景を一生忘れないわ』

その言葉にショボンは優しく頷く。
そして、この場を動かないであろう彼女の肩にそっと自身の外套を掛けてやるのだった。



188: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:24:32.61 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城内部〜

エクストは思ったよりも簡単に発見された。
兵達の案内でヒートがその空き家に入った時、床には首の無い彼の遺体が転がっていた。

(V`ハ´)『この服は…確かにエクストの物に間違いないアル』

検分用に連れて来た賊将が頷き、ヒートは側にいた兵士に本陣に報告するよう指示を出した。

ノパ听)『終わったな…』

彼女らしからぬ小声で呟き、空き家の窓から天を見る。
灰色の空から降る白い雪。
噎せ返るような血の匂い。
勝利を祝う声と敗北を呪う声。

やがて一刻程してから、城外の残党処理戦の指揮をフィレンクトに任せたしぃが現れた。
敵将エクストの遺体を確認する為にやって来たのだろう。

ノパ听)『おぉ!!!!! 早かったじゃないかぁっ!!!!!! でも残念ながら首は無いぞぉっ!!!!!!
     このチンカスに恨みがある住人が持ち去ったんだろうがなっ!!!!!!!』

その言葉にぼそりと『下品』と返してから、しぃは自らの剣を鞘抜く。
何をするつもりなのかと見守るヒートの前で遺体の服を切り裂くと、肌広げた。
そして。

(*゚ー゚)『違う』

青ざめた顔で言う。
その肩口には。過去に彼女がつけた筈の傷跡が無かった。



191: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:28:00.73 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城外〜

(#^ω^)『ふんっ!!』

从 ゚∀从『らぁっ!!』

完全に沈んだ軍船を降りてからも、二人が手を休める事は無かった。
軍船から逃げ出した残党狩り。
それが今の二人の任務である。
ただ、ナイトウは勿論の事、小柄なハインは明らかに疲弊していた。
前述したが、彼女の本質は隠密である。
その高い能力によって戦士としても活躍できるが、本来は闇夜に踊り月下に舞う存在なのである。
だからこそ、この戦場においてもハインは動きを鈍くする鎧の類は身に着けていなかったし、
だからこそ、その身は細かい傷で覆われていた。
更に彼女を囲むのは生に縋り付こうと目をギラつかせる賊の群れである。
死から逃れようと形振り構わぬ彼らは、一斉に彼女に襲いかかる。

从 ゚∀从『ちっ』

城内から伝令の兵が本陣に駆けていくのが見えた。
その兵に襲い掛かろうとした賊に飛刀を放ち、首の後ろに一撃を受けた男は糸が切れたように倒れ込む。
これであの伝令は無事本陣に辿り着くだろう。そう考えたハインの視界の片隅に城壁に立つヒートの姿が映った。

ノパ听)『ご主人ーーーーっ!! エクストはまだ生きてるぞぉぉぉぉぉっ!! 気をつけろぉぉぉぉっ!!!!!』

从;゚∀从『なっ!?』

今本陣には数少ない護衛の者しかいない。
最悪の事態が一瞬頭の中に展開される。
その瞬間生まれた僅かな隙に。彼女は背を大きく袈裟に斬られ、よろめいた。



196: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:32:11.74 ID:fzgtJ7rF0
     〜連合軍陣地〜

(´・ω・`)。oO(また伝令か)

王女と並び戦場を眺めていたショボンは、その男が駆けて来るのを見て、ただそう思った。
が、なんだろう。嫌な感じが全身を覆う。

(´・ω・`)『その男、止まれ!!』

その言葉にも伝令の男は止まらない。目は血走り、口から泡を吐き出しながら一目散に駆けてくる。

(´・ω・`)『止まれと言っている』

言いながら手にした愛弓を構え、背中の矢筒から矢を引き抜いた。

伝令『緊急!!!!! 緊急!!!!!! 一大事にてございます!!!!!!!』

『緊急』の言葉にショボンが気を緩めた瞬間。城壁に赤毛の給士が姿を見せる。

ノパ听)『ご主人ーーーーっ!! エクストはまだ生きてるぞぉぉぉぉぉっ!! 気をつけろぉぉぉぉっ!!!!!』

(;´・ω・)『なっ!?』

男はニヤと笑うと、手にした【伝令】の旗のついた棒でショボンの顔面を横殴りに叩きつけた。
その一撃でショボンは倒れ込み、伝令の男ーーーーーに扮したエクストは無防備な金髪の少女に襲い掛かる。
自らの身に迫った恐怖を感じた瞬間。ツンは無意識に叫んでいた。

ξ;><)ξ『!!!!! ナイトーーーーーーーウッ!!!!!』

己を護ると言った、銀髪の青年の名前を。



200: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:36:57.13 ID:fzgtJ7rF0
     〜キュラソー城外〜

よろめく視界の先に。
伝令の男に殴り飛ばされた主の姿をハインは見た。
更に男は王女の美しい金色の髪を鷲掴みにして連れ去ろうとしている。
ツンを人質にし、馬車で逃走するつもりなのだろう。

そこまで考えてハインの意識は急激に戻ってきた。

(J`ハ´)『とどめアル!!!!!!』

背後から再び剣を振り下ろそうとする賊将に、上半身を捻って振り返り

从#゚∀从『乱舞!!!!!』

手元に残った全ての飛刀を顔面に浴びせかける。
顔を剣山のようにした賊はもんどりうって倒れ動かなくなった。

从#゚∀从『ご主人ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!』

身体は疲労しきっている。
だが、そんな事に何の関係があろうか?
白眉の青年に手を出す物はーーーーー全てを賭して排除する。

【天駆ける給士】は地を蹴った。
異名が示すとおり、彼女は一陣の風となる。

从#゚−从。oO(コロス)

駆けながら彼女は手にした小太刀の逆刃を返す……。



203: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:39:05.96 ID:fzgtJ7rF0
黒衣の給士が封印したはずの【ハインリッヒ】としての顔に戻ったのと。
自らを呼ぶ声に銀髪の青年が本陣を振り返ったのと。
その青年の頭に賊の鉄棍が叩きつけられたのは全て同時だった。

( ゚ω゚)『ツンッ!!!!!』

ちょうど、外角高めのボールを打つかのような渾身の一撃。
青年の頭を守っていた兜はいとも簡単に砕け散り、赤い血と銀色の髪が宙に踊る。

( ゚ω゚)……

ツンを助けないと。
         でも、どうして。

ツンを助けないと。
         でも、どうやって。

僕は何をすればいい。

僕は何の為に生きて何の為に死ぬ。

僕には何が出来る。

あの日。
【白鷲】フィレンクトとの訓練の後に老将が言った言葉が脳裏に浮かんだ。
賊の一撃でふわりと浮いた身体が重力で大地に引き寄せられていく。

……。
そうして、ナイトウの意識は闇に落ちた。



208: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:43:52.27 ID:fzgtJ7rF0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

???『ホライゾン起きなさい』

呼ばれて彼は目を開いた。
ナイトウの前には、あの黒髪の少女が立っている。
が、その場所はいつもの草原ではない。

全身が熱い。
呼吸が苦しい。
真っ黒い煙で目が痛い。
蛋白質が焦げる嫌な匂いがする。

そこは燃えさかる家の中だった。
何もかもが炎に包まれ、メキメキと音を立てる天井は今にも崩れそうになっている。
熱風に煽られて宙を踊る火の粉が、とても綺麗に思えた。

???『起きた?』

(;^ω^)『ここは…』

その様な惨状の中でも少女は微笑みを絶やさない。
純白のワンピースに炎が燃え移っているのに、である。

少女『ここは…大切な思い出の場所なの』

そう言って彼女は悲しげに。首を少しだけ傾げて笑った。
炎に包まれた寝台に腰を下ろす。

少女『私と…ホライゾンが最後に会った場所』



212: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:46:38.74 ID:fzgtJ7rF0
(;^ω^)『僕と…君が…』

そこでナイトウは気がついた。
炎に包まれた床から跳ね起きる。

( ゚ω゚)『そ、そうだお!! 僕はこんな事をしてる場合じゃないんだお!! ツンが!! ツンを助けないとっ!!!!!!』

それを見て少女は意地悪くクスクスと笑った。

(#゚ω゚)『何が可笑しいんだおっ!!?』

思わず少女の胸倉に掴みかかった手をするりとかわして少女は言う。

少女『どうして? どうして助けるの?』

( ゚ω゚)『……!! それは……』

更に言葉は続けられた。

少女『どうやって助けるの? ねぇ、どうしてホライゾンは戦うの?』

( ゚ω゚)『……』

少女『分からないでしょ? だから、ここに呼んだの』

地獄のような景色の中。立ち上がると、少女は本当に楽しそうに…。
新しい服をお披露目する子供の様に顔中で笑い、両手を大きく広げくるりと回ってみせた。

少女『まだ何も感じない? ここは私とホライゾンが最後に会った場所。
   ここで……ホライゾンは私を助けられなかった』



215: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:49:23.03 ID:fzgtJ7rF0
( ゚ω゚)『僕が…君を……助けられなかった…場所?』

呆然となりながらも、何とかそれだけ言葉を漏らしたナイトウに少女は頷く。

少女『でも仕方ないの。あの時はまだ子供だったから』

炎が強くなり、思わずナイトウはたじろいだ。
少女が赤い恐怖に包まれる。

( ゚ω゚)『仕方ないとか…そんな簡単に諦めてもいいのかお!!!! それより早く…早く逃げないと…死んじゃうお!!!!!』

その言葉に少女は悲しげに首を振った。

少女『それは出来ないの。だって…ここが私の場所だから。それにね。私はちっとも熱くなんかないんだよ』

熱いのは貴方の心。燃えているのは貴方の想い。
閉じ込めている貴方の気持ちが炎となって私の身を焼いているの。

少女『ホライゾン。多分…会えるのはこれでもう最後』

上下左右前後。全てを満たしていた炎は竜巻となり、更に荒れ狂う。
瞬間、彼の体はどこかへ弾き飛ばされた。

少女『でも、今のホライゾンなら大丈夫。きっと彼女を助けられる。思い出して。閉じ込めた気持ちを解放してあげて。
   それとね。私は今でも貴方を待っている。人ならぬ者が歩む道で貴方を探している。
   今度は…きっと私も助けてあげてね』

言い終わると同時に視界で白が爆発する。少女を助けようと手を伸ばすも届かない。
風と炎が狂ったように踊る中、最後まで少女は微笑んでいた。
銀髪の青年と黒髪の少女。二人の首から下げられた鈴がちりんと鳴った。



219: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:54:17.59 ID:fzgtJ7rF0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

( ゚ω゚)『ツンッ!!!!!』

灰色の大地に口づけする瞬間、ナイトウは踏み止まった。
自らの頭部にとどめを叩き込まんとする賊を手にした短剣で文字通り【粉砕】し、
護るべき人に向けて地を蹴る。

どうしてツンを護るのか?
何故自分はそんな馬鹿な考えに囚われていたのだろう。

         ( ゚ω゚)『僕が護るって決めたんだおっ!!!!!』

それが全ての答え。最も単純で難しい答えだ。

涙を流す少女を見て思わず抱きしめた。
二度と彼女の涙を見たくないと思った。
その為に全てを賭けてもいいと思った。

         ( ゚ω゚)『だから…だから僕は君を護るんだおっ!!!!』

きっと。
きっと、あの日。炎に包まれた家で。夢の少女を助けられなかった時から。
何の為に生き、何の為に死ぬのか。
全ては決まっていたのだ。

         ( ゚ω゚)『僕は…もう二度と大切な誰かを失わないっ!!!!!』

それがナイトウの選んだ決意。掲げる理想。人生を照らす道標。



222: ◆COOK.INu.. :2007/12/25(火) 23:57:17.43 ID:fzgtJ7rF0
駆けながらナイトウはすぐ側に黒髪の少女を感じていた。
いつか見た幻のように、両手を大きく広げ草原を駆ける少女。手にした竹とんぼ。
無意識のうちにナイトウの両手は少女と同じように。
大空を飛ぶ鳥のように大きく広げられる。

そして。
嬉しそうに口をすぼめた少女が漏らす、トンボの羽音を真似た声が自然とナイトウの口からも漏れ出した。

⊂( ゚ω゚)⊃『……………ゥン』

赤く燃えさかる家。

緑の草原。

黒髪の少女。

銀色の鈴。

今、彼の頭の中をフラッシュバックしていた全てが捩れる様にして混ざり合い、閃光の如く爆ぜる。

⊂( ゚ω゚)⊃『…ゥゥゥゥゥゥン』

全細胞が燃え上がる感覚。
身体が炎に包まれたかのような錯覚。
流れる血が煮えたぎるように熱い。
張り巡らされた神経に稲光が走る。
限界を伝える筋肉からの悲鳴は、全て遮断された。



229: ◆COOK.INu.. :2007/12/26(水) 00:02:14.77 ID:eu6o/eET0
ナイトウは思う。
自分には。
【急先鋒】ジョルジュほどの力は無い。【天智星】ショボンほどの知識も無い。
【天駆ける射手】ハインほどの技量も無い。【燃え叫ぶ猫耳給士】ヒートほどの腕力も無い。
【紅飛燕】しぃほどの指揮能力もない。【白鷲】フィレンクトほどの経験もない。
【アルキュの至宝】ツンほどの権威もない。親友ドクオほどの覚悟も。ミセリほどの学術もない。

         何時如何なる時も。

ならば。大切な人を護る為に。大切な人を失わない為に自分は何が出来る?

         何時如何なる時も。誰よりも速く。

彼に許された事は一つだけ。
ただ、ただ駆ける事。
それだけが彼に許された…理想を実現させる為のたった一つのちっぽけな力。

         何時如何なる時も。誰よりも速く。何処までも遠くへ。

黒髪の少女が叫ぶ。

o川*゚ー゚)o『行け!! ホライゾン!! どこまでも……どこまでも駆けて行け!!!!!』

風を受けた竹とんぼが大空に飛び舞った。
それが最後のスイッチ。

⊂( ゚ω゚)⊃『ゥゥゥゥゥゥ……ブゥゥゥゥゥーーーーーン!!!!!!!!!!』

その瞬間。
━━━━━咆哮と共にナイトウの全てが解放される。



233: ◆COOK.INu.. :2007/12/26(水) 00:05:26.18 ID:eu6o/eET0
後世において。
【天翔ける給士】ハインは鎌鼬(かまいたち)に形容される事が多い。
姿絵に見られる彼女の愛くるしい顔付きや、洗練された戦闘技術。
『天翔ける』と呼ばれる程の卓越した瞬歩法によるものだろう。

では、この時の銀髪の青年。ナイトウは正史においてどう表現されているのか。
そこには

『その進路を阻む者は敵味方関係なく跳ね飛ばされた。ある者は全身の骨を砕かれ。ある者は引き裂かれ。ある者は四肢を失った』

とあるから、さながら刃を伴う暴風。
彼の心に吹き荒れる炎の竜巻を顕現化させたような荒々しい力だったのだろう。

ナイトウより先に地を蹴ったハインは、後方から迫る殺気を咄嗟に飛び避けた。

从 ゚−从『!?』

それでも全身を襲う風に巻き込まれ、肌を切られる痛みに彼女は正気を取り戻す。

从;゚∀从『ナイトウ…? そんな…嘘だろ?』

思わず声を漏らし、足を止めた給士を誰が責められようか。
何故ならナイトウは。

『彼より早く』瞬歩を発動し。
『彼より前を』駆けていた。
『最高の隠密』と呼ばれた【闇に輝く射手】ハインリッヒを。

一瞬にして抜き去っていたのである。



237: ◆COOK.INu.. :2007/12/26(水) 00:08:21.75 ID:eu6o/eET0
ξ#><)ξ『この……離しなさいよっ!!』

自身の髪を掴み連れ去ろうとする無礼者に、ツンは必死で抵抗する。
この金色の髪は彼女の宝とも言えるものだ。
【沈黙の塔】に幽閉されていた時も手入を欠かさなかったし、
この旅の途中でも暇さえあれば付き人であるミセリに櫛を通させながら心地よさ気にしていた。
その宝物がブチブチと音を立てて引きちぎられている。
目を血走らせ、鍛え上げられた男の腕力に恐怖を感じないと言えば嘘になる。
しかし、怒りが。王族の誇りがそれを上回った。
無駄と知りつつも男を引き剥がそうと手首を掴んだ両手に力を込める。
爪が肉を破る感触が分かった。

フメー゚)フ『…認めてやるよ。俺の負けだ。キュラソーはくれてやる。
     だが…俺はまだ終わらん!! 貴様の身と引き換えに栄光を掴む!!
     俺は死なん!! 俺は滅びん!! 何度でも甦るさっ!!!!』

そう。
この男は手配書がショボンの偽装だと言う事に気付いていない。
ツンを評議会に引き渡し、中央に返り咲く心づもりなのだ。
彼の副官であった男は今や禁軍師範の座にあり、【国士無双】とも【千刃】とも呼ばれている。
確か名前は…ロマンスだったかロマンチックだったか。
このまま追い抜かれたままでいるのは矜持が許さない。
この機会にその男の所まで一息に追いついてやろう…そうエクストは考えた。
しかし。

ξ#゚听)ξ『アンタね!! 本気でアタシを王都に連れ戻せば報奨金とか考えてるんじゃないでしょうね!?』

その言葉に足が止まった。

フメー゚)フ『……何だと?』



245: ◆COOK.INu.. :2007/12/26(水) 00:12:24.39 ID:eu6o/eET0
髪を掴んでいた手の力が抜ける。
その隙にツンは彼の手を振り払い、一歩飛び退いた。

ξ#゚听)ξ『言っても無駄でしょうけどね!! アンタは物事を自分の良い様に解釈しすぎなのよ!!
      例えアタシを王都に連れ戻しても…その事実を【評議会】が認めると本気で思ってるの!?
      精々口封じに殺されるのがオチだわ!!』

フメー )フ『…………!!!』

なおも、チンカス!! とか、粗チン!! とか騒いでいる王女を前に全てエクストは理解する。
功名心を煽り、冷静さを失わせる。そこから既に自分は底なし沼に嵌っていた訳だ。

フメー )フ『フフフ…そういう事か。面白い…面白いじゃねぇか』

ξ;゚听)ξ『!!』

呟きつつエクストは腰に下げた長剣を引き抜く。

フメー )フ『俺にはもう何も無い…何も無い訳だな』

ゆっくりと振り上げ。

フメー )フ『ならば…一つだけ…貴様の命だけ貰っていく。【王を殺した者】の名を歴史に刻ませてもらおう!!!』

振り下ろす。
エクストの剣にはドクオから感じ取れた殺気が感じ取れない。
それは込められた思いが強い決意ではなく、自暴自棄の諦めだからであろうか。
故に彼女は動けない。迫る死をまるで他人事のように見つめているしか出来なかった。
その凶刃が彼女の髪に触れた瞬間。
ツンは……ツンの体は暖かくも力強い風に掬われふわりと宙に浮いた。



249: ◆COOK.INu.. :2007/12/26(水) 00:14:44.89 ID:eu6o/eET0
ξ゚听)ξ『……え?』

一瞬のまばたきの間に景色が吹き飛ぶ。
何が起きたのか全く理解できないが、彼女の細すぎる腰に手がまわされている事だけは分かった。
高速の移動はただの一瞬で終わり、ツンはその腕の持ち主の顔を見上げる。

( ゚ω゚)『……』

ξ;゚听)ξ『ナ…ナイトウ……なの?』

今、彼女の身を護る様にして抱きかかえているのは銀髪の青年である。
彼方戦場で剣を振るっていた筈の…首から下げた鈴が揺れている。
その姿が夢想ではなく現実の物だと彼女の脳が理解した時。
上空から錐揉み状に落下してきたモノがあった。

地面に衝突した衝撃で二度三度バウンドしてから動きを止める。
それは━━━━━ナイトウの凄まじい剣圧で吹き飛ばされた、エクストの『上半身』。
大きく見開かれた目は今だカッと見開かれていて、おそらくは自身の死に気付かぬまま逝ったのだろう。
無法を尽くした者の最期としてはあまりにも恵まれた。あまりにも呆気なさ過ぎる最期。
と、同時に彼女の背後で何か……上半身を失い、噴水のような血飛沫をあげていた賊の下半身がゆっくりと。
まるで思い出したかのように地に倒れる音が聞こえた。

姫様っ!!!

彼女の付き人が呼ぶ声がする。
それが妙に遠くから聞こえてくる気がして。

ツンは再び、自分が夢想の中にいるのか。
現実の中にあるのかが分からなくなってしまった。



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