( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

6: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:10:27.23 ID:3i0iG5sC0
アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長



9: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:13:57.10 ID:3i0iG5sC0
白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長

ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)



10: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:16:26.23 ID:3i0iG5sC0
その他

( `貴´) 名=ジャック 民=リーマン 階級=テネシー公

( ・貴・) 名=ダニエル 民=リーマン 階級=テネシー公

??? 名=エドワード ※ ジャック、ダニエルと同じくヴィップ内乱の首謀者。

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=??? 武器=黒い長刀 階級=???

( ><) 名=ワカンナイデス ※ 鬼籍

プー゚)フ 名=エクスト ※ かつてのギムレットの暴君。鬼籍

??? 名=モララー 異名=勝利の剣 夢幻剣塵(七英雄) 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=元・ニイト最高指導者。鬼籍

??? 名=ペニサス 民=リーマン ※ 統一王と母を異にする妹。モララーの妻。鬼籍

o川*゚ー゚)o 名=??? ※ ナイトウの夢に現れた黒髪の少女



12: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:19:04.95 ID:3i0iG5sC0
MAP 〜まさか本当に今年から本気出すとは誰も思ってなかっただろ。俺も思わなかったよ編〜

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_095639.jpg

@キール山脈 未開の地。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 現在、テネシー公らが起こした反乱の鎮圧中

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 メンヘルと画策し、ヴィップの内乱に乗じる筈であったが今も尚沈黙を守っている

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:24:10.94 ID:3i0iG5sC0


     第20章 内乱の終わり


ノパ听)『お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉっ!! ……せーのっ!!』

兵士『『『『『よいしょーーーーーーーっ!!』』』』』

ギコの目論見通り、王軍は合戦開始と共に前線を斜陣に展開させた。
率いるは【赤髪鬼】【赤い悪魔】の異名を持つ猫耳給士ヒート。

ここ一番という大事に弱く、後世の歴史家からは『騒がし屋』『重時の前の露払い』
と言った扱いをされる事の多いヒートであったが、ここ数年の調査でその認識は覆されつつある。
確かに、ここ一番というタイミングで敗れる事の多い彼女だが、その欠点を補って余りある長所を備えていた。
錬兵。つまり、兵の士気を高めるのが異常に上手いのである。

平時においての彼女は建築や灌漑工事の全責任者もこなしていた、と記録にはある。
本来彼女の役職は司書門下、つまり領内の警備や軍部活動にまつわる全般であるからこれは全くの管轄外なのだが、
何より彼女に率いられた人夫達は平均を超えてよく働いた。
アルキュ1の美貌を持つと言われながらも、雑夫に混ざって土くれに胡坐をかいて飯をかき込む。
そんな飾りのない性格が男達の心を掴んだのだろう。

ノハ#゚听)『列を乱すなぁっ!! 気合入れろーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!』

兵士『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』』』』』

防衛線において指揮官が最も神経を注ぐべきは、一方的に攻められ続ける事による士気の低下だ。
が、赤い給士に率いられた最前線は容易に崩れはしない。
個の武を頼りにしてバラバラに突っ込んでくる自由騎士達は、その大盾を前に死骸の山を築くのみであった。



14: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:28:03.82 ID:3i0iG5sC0
騎馬隊の突進を大盾と長槍で牽制し、勢いの衰えた所を後方からの射撃で仕留める。
一見して地味だが堅実な王軍の戦術は、波が岩を削るようにじわじわと公軍の数を減らしていく。
このまま行けば王軍が『第二作戦』に入る前に自由騎士達は撤退の憂き目を見ずにいられなかったであろう。
しかし、世の中には常に例外が存在する物なのだ。

ノハ#゚听)『くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! またアイツらかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

王軍最前線、重装歩兵隊を指揮するヒートは『アイツら』の出現に思わず声を漏らした。
初戦において、公軍で唯一規律ある用兵を披露して見せた自由騎士団。
ジョルジュを斬ったのは【九紋竜】ギコであるが、その間王軍全体を翻弄する役目をこなした男達。
元より沸騰しやすい彼女が瞬時に爆発したとしても、不思議ではない。

ノパー゚)『あたしはな。ヴィップじゃ気が優しくて有名なわけだが』

それを耳にした兵士達が一斉に『それはねーよ』と溢す。

ノハ#゚听)『だがっ!! しかしっ!! アイツらだけは別だっ!!
      とっ捕まえて鼻の穴拡張の刑にしてやるっ!!!!!!!!!!!!!!!』

威勢の良い大声に、王軍兵士の士気は更に高まった。
が、それでも彼の自由騎士達は崩れず、王軍の前線に正確な一点集中攻撃を加え続ける。
その攻撃は根気強く、休む間も無く継続され。
遂には後方で弓騎兵を指揮していたショボンが救援に駆けつけねばならなくなるほどだった。



15: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:31:02.71 ID:3i0iG5sC0
(´・ω・`)『うん、随分と厄介な攻撃をされたね』

後方で支援攻撃を行なっていた200の弓騎兵。
その全勢力を注ぎ込んでの一斉射撃で、自由騎士達は一時下がっていった。
かと言って『それでお終い』というタマでもあるまい。
陣形を整えたら再び攻撃に転じてくるのは目に見えていた。

ノハ#゚皿゚)『御主人!! あたし、アイツ嫌いだっ!! ネチネチネチネチいやらしいっ!!
      絶対アイツ、寝台の中でも嫌がってるのに脇腹突いてくるタイプだっ!!』

がるるるる、と喉を鳴らしながら給士は主に喰ってかかる。
件の自由騎士達は、隊を3つに分けての波状攻撃を仕掛けてきた。
と同時に投網を用いて大盾を引きずり倒す戦法を取ってきたのである。

直接大盾に迫る部隊は機動力を生かした突進を。
大盾から離れる部隊は投網を使った支援を。
最後方で次なる突進に控える舞台は弓による牽制を。
各隊を三角形のように布陣し、常に稼動させる事で機動力は殺さず、そのクセ変則型車掛の陣形は崩さない。
しかも、我の強い自由騎士達を率いて、である。

(´・ω・`)『驚嘆に値する、と言っておこうか』

ショボンの言葉に偽りはない。
派手さは無いが、戦況を読み確実に勝ちに近づこうとするスタイルは【紅飛燕】しぃに通じる所がある、と思う。
そして、戦場では地味な仕事を正確に成し遂げられる者こそ真に恐ろしいものなのだ。
おそらく、彼の者は【薔薇】や【黄天】【青雲】など、ヴィップが誇る三騎士団。
それどころかメンヘルの【砂亀】やリーマンの戦車隊、モテナイの【黒色槍騎兵】【赤枝の騎士団】。
そして、ショボンの懐刀ともいうべき【白衣白面】と対峙しても善く戦うのではないか、と感じた。
と、そこへ。



17: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:33:44.38 ID:3i0iG5sC0
ノハ#゚皿゚)『あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!! 御主人!! 
      アイツっ!! あそこにアイツがいたっ!! あのデカ頭っ!!!!!』

給士の声にショボンは知らぬうちに下げていた視線を上げた。
成る程。
指さす先に、規格外とも言える巨大な頭を持つ自由騎士の姿があった。
実用性を重視した飾り気の無い直槍を持ち、ひょろりとした身体に纏う外套も簡素な枯草色。
目立たぬように気を使った外装に反し、鏡のように磨き上げられた禿頭と
背に差す旗に書かれた【第六天魔王】の文字が異様な存在感を示している。

(´・ω・`)。oO(ふむ)

【第六天魔王】の五文字が彼の異名なのであろうが、その名を耳にした事も無い。
どことなく愛らしいギョロリとした眼が落ち着きなく戦場を見渡している。
規格外の頭を支える為か、やはり人並み外れて太い首が何故だか沼亀を思い出させた。
日に焼けた顔を見れば、すでに中年期後半に差し掛かっている様でもあるし、
おそらく旗の代わりに掲げているのであろう古ぼけた鉄鍋にも覚えが無い。

(´・ω・`)。oO(有能な人物というのは在野にもまだまだ多いのかもしれないな)

ならば、ツンの推し進めようとしている科挙制度にも明るい未来があろうというものだ。
その白眉を撫でつけながらショボンは、数秒間何か考えたところで

(´・ω・`)『ハイン。ヒート。ちょっと来てくれないかな?』

从#゚∀从『あ? どーした、御主人?』

ノハ#゚皿゚)『また下らない事言い出すんじゃないだろうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

(´・ω・`)。oO(……なんで僕は怒られてるんだろう)



18: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:36:49.19 ID:3i0iG5sC0
从 ゚∀从『……たまには面白い事考えるじゃねーか。どーせ【作戦その2】が前倒しになるってだけで問題ないんだろ?』

ノパ听)『全く御姉様の言うとおりだなっ!! 悪企みの天才ここにありってトコかっ!!』

眉間に皺を寄せていた二人であるが、ショボンのある提案を耳にした瞬間、一息に機嫌をなおしてしまった。
歯をむき出しにしてニシシと笑う様は、悪戯好きの子供や自らの主と何ら変わらない。
これはショボンに言わせれば『教育の成果』であろうし、二人の給士に言わせれば『毒に犯された』と言う事であろうが。

从 ゚∀从『よし、行けヒート!! ハインちゃんが許す!!』

ノパ听)『っしゃらーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!』

陣の後方から自身の汗血馬を引き出させると、ひらりと飛び乗った。
ちなみに、ハインが怒りを覚えていたのは、ままに為らない戦況に苛立ったからではない。
もし、彼女がその気になれば━━━━━主が命じるのであれば、最強の隠密は一人で戦況を引っ繰り返せるだけの自信がある。
そして、それは確かな実力と経験に裏打ちされた物だ。
そのような理由から、ハインは膠着しかけている状況に気を害したりはしない。むしろ、興味すらない。
彼女が不機嫌を顕わにしていたのは、茶を好む主の為に竹筒に入れておいた茶が思ったよりも冷めてしまっており、
苦味が出てきてしまっていたからだ。

【闇に輝く射手】ハインリッヒ。永遠に紅く濡れる月。
それが彼女の過去だ。
事実として、幼き頃の彼女は統一王の死後、評議会派の懐刀として多くの王室派重鎮を暗殺してきた。
だからこそ、一年に満たぬ短い時間で評議会は権力の全てを掌握できたと言っても過言ではない。
今でこそ『不殺』を貫いている彼女だが、ショボンが一度命じれば再び狂気に身を任せるだろう。

かつての【心無き暗殺人形】は今でも彼女の奥底に眠っている。
笑い、怒り、涙を流すハインを支えるのは、【天智星】のショボンという存在だけ。
天に輝く智の星に依存する事で。危ういバランスの上でハインは人の心を保っていられるのだろう。



20: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:39:13.56 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

大盾で作られた壁を開き、赤い給士はひとり陣を離れた。
一騎討ちを挑む格好になった彼女は、馬上で両腕を組み敵陣を睨みつける。

ノパー゚)『……』

が、その表情には今までのような怒りは浮かんでいなかった。むしろ自然な笑みすら浮かべている。
ショボンから彼女に下された命令はただ一つだ。
すなわち━━━━━

     (´・ω・`)『全力で喧嘩売っておいで』

そうなれば、かつて【鉄壁】ヒッキーを『童貞』と。【暴君】エクストを『粗チン』を呼びつけた彼女の事だ。
罵詈雑言には自信があった。
更に、彼女自身は意識していなかったが、美しい顔から吐き出される言葉の針は破門鎚級の破壊力を秘めている。

ノハ#゚ー゚)『……』

心地よいざわめきに全身を包まれながら、彼女の頭にあるのは『どうすれば敵将を効率良く挑発できるか?』と言う問題だけであった。
頭は氷。心は炎。風が如く戦場を駆け。振るう拳は岩をも砕く。
師と崇める老将の教えだが、どうしてもあの巨大な禿頭。首を持ち上げた亀を連想させるそれを見ていると、
全身の血が煮えくり返るような気持ちになるのだ。
そして。

ノハ#゚ー゚)。oO(あぁ、そうか)

ヒートはここでようやくその理由に気付く。
と、同時に敵自由騎士にぶつける言葉の凶器も思いついた。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:40:59.89 ID:3i0iG5sC0
自軍が作りあげる大盾の壁を背に【赤い悪魔】は一人立つ。
静かな風に髪は揺れ、彼女の汗血馬もまた鬣(たてがみ)を靡かせた。

対する公軍、自由騎士団達は巨大な頭を持つ団長を先頭に陣形を整えつつあった。
これが正式な騎士であれば『騎士の名誉のために』と一騎討ちを受けたであろう。
しかし、傭兵同然の彼らにそのような有名無実の名誉など必要ない。
彼らにとって必要な物はただ『勝利』のみ。
例え卑怯と罵られようと、たかが女一人。包囲してしまえば済む話である。
むしろ、そのある種『何でもあり』なスタイルが戦場で重宝される事もあり、
この時も彼らは一斉にヒートに襲い掛かろうと身構えた。

それを見て赤い給士はニヤと唇を持ち上げると、肺が破けんばかりに大きく息を吸い込み……















ノハ#゚Д゚)『ビビってんじゃねーぞ、ち○こ頭やろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

吼えた。



23: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:43:19.39 ID:3i0iG5sC0
ざわっ。

【赤い悪魔】が吼えた瞬間、自由騎士達の中に小さな乱れが起こった。
彼らは『騎士の名誉』など持ちえない。
一銭の足しにもならない名誉など犬にでも喰わせてしまえと考えている。
長きに渡る戦場での毎日で『この島の未来』など考えた事はなかったし、
例え考えたとしてもすぐに頭の中から放り出してしまうのが常だった。

しかし、そんな彼らでも。いや、そんな彼らだからこそと言うべきか、譲れぬ物がある。
それが長年に渡って彼らを支えてきた『一人の男としての矜持』、
そして否応無しに認めざるを得ない『仲間との友情』。

頭上には旗印代わりの巨大な鍋が揺れている。
友と夕餉を囲ったそれは、元々巨大すぎる頭を持った彼らの団長がまだ一介の兵奴にすぎなかった時
サイズの合う兜が無かったと言う理由で被らされていたのを由来とする物。
『生きる為』と言う一つ目的の為にだけ集まった彼らにとって、蛇足ではあっても捨てられぬ想いの象徴。

煌びやかな旗印が『騎士の名誉』の象徴なれば、これは『傭兵の誇り』とも言える物。
夕餉時には彼らの中央で囲まれていたそれのボロさこそが、【戦鍋団】の名の下に集う者達の絆の深さともいえる物であって。
仲間を侮辱されて黙っていられるには、揃いも揃って少々血の気が多すぎた。

自由騎士A『おい、オヤジ!! あんな事言われてるぜ!!』

自由騎士B『アンタならあんな女の一人や二人、軽く討てるだろ!! アンタが行かないなら俺が行く!!』

自由騎士C『待てお前ら!! 勝手な真似は許さんぞ!! お前らはまだ何も知らんからそんな事が言えるのだ!!』

まだ比較的経験の浅い自由騎士達が隊列を離れ、口々に抗議を始める。
それを見た経験豊富な者達も止む無く列を動き、ほんの一時的ではあるが隊は混乱した。



25: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:46:27.34 ID:3i0iG5sC0
自由騎士副官『で、どうしましょうか? ダディ』

    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
  . |(●),   、(●)、.:| 『…個人的にはこのままでも全く構わないのですがね』
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/
   /`ー‐--‐‐―´\

答えたのは件の自由騎士だ。
キョロキョロと落ち着き無く戦場を見渡していた双眼も、今は【赤い悪魔】一人に注がれている。

|*(●),  、(●)、*|『……むしろ続けていただきたいくらいなのですが。
            こう……背筋がゾクゾクしてしまいます』

仄かな桃色に染まった頬が、何とも不気味であった。
このダディと呼ばれた騎士もまた、ギコと同じく肌で兵法を学んだ男である。
王軍右翼に控える赤い燕の騎士団が彼らの切り札である事は本能的に悟っていた。
ならば、今は共に大きく動くべき時ではない筈である。

( ̄‥ ̄)『随分と理解しがたいタイミングでけしかけてきましたな』

|(●),  、(●)、|『貴方もそう思いますか、フンボルト』

声をかけてきたのは先程の副官。
顔の中央に開いた立派な鼻腔が特徴的な男だ。



26: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:49:41.87 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『王軍が燕を動かすとしたら、我らが崩れた時でしょう。
      で、あれば今中央に変化を起こす必要を感じません』

|(●),  、(●)、|『正直のままではジリ貧でしたからね。
          守勢にあそこまで士気を保たれると攻める側の体力がもちません』

そう言いあって互いに首を傾げた。
公軍側としては【九紋竜】を単独で使えない限り、まずは王軍の前線を切り崩したいところだ。
その勢いで後詰のツン率いる部隊に襲い掛かり、混乱に乗じてギコとテネシー公らが右翼を叩く。
引くも攻めるも出来ず孤立した燕の軍を打ち負かすのに手間はかからぬだろう。

( ̄‥ ̄)『であれば、【赤髪鬼】の暴走と見るべきでしょうか……?』

|(●),  、(●)、|『それも考えづらいですね』

両軍共に動くのは中央を打ち崩してから。
ダディはそう思っていたし、王軍も中央を厚く構えてきた。
考えれば考えるほど、何故今の機に一騎討ちなのか理解に苦しむ。

( ̄‥ ̄)『均衡を崩す為……でしょうか』

|(●),  、(●)、|『違うでしょうね。テネシー公の評価は兎も角、あの【天智星】がそのような判断をするとも思えません』

何せ、対騎馬隊としては完璧と言ってもいいほど堅固な陣を構えてきたのだ。
わざわざ将を失う危険のある冒険を選ぶ必要性が無い。
少しの間、吼え散らかすヒートを睨みつけていたダディは、

|(●),  、(●)、|『構いません。勿体ありませんが…ここは数で押し潰しましょう』

そう結論を出した。



27: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:52:03.00 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『宜しいのですか?』

|(●),  、(●)、|『はい。何もわざわざあちらに付き合う必要はありませんからね。
          為すべき事が分からぬならば、為せる事に取り組めば良い。
          昔の人は本当に良い事を言った物です』

面倒な規律を嫌う自由騎士達の中にあって、互いに堅苦しい態度を崩さない二人の態度は異質である。
自由騎士達にとって上下関係とは己の父や兄に対して抱く感情に近いからだ。
かと言ってこの二人が不仲というわけでもなく、これは単に性格的な物に過ぎない。
【戦鍋団】設立当時からの団員であり、誰よりも気心の知れた相手だと思っている。
何よりも、虫も殺さぬような顔をして【第六天魔王】などというふざけた異名をつけたのは、この副官なのだ。

|(●),  、(●)、|『最も怖れるべきは乱戦に持ち込まれる事です。
          ならば我らは規を乱すべきではない、と私は考えますね』

( ̄‥ ̄)『成る程。その旨、すぐ全軍に伝えましょう。その後攻撃を再開いたします』

言って副官フンボルトはダディの側を離れた。
やがて波が引くように隊列を整えていく自隊を観察しながら、彼はちらと未だ大声をあげる赤い給士に視線を送り、

|(●),  、(●)、|。oO(やはり不自然ですね)

そう考える。
ヒートから見てもダディ隊が戦陣を整えつつあるのは明らかに見て取れる筈だ。
それすなわち、ダディが一騎討ちを受ける意思が無いと言う事。
そして、彼女が陣に戻らねば、僅かの時を置いて怒涛の如く包囲されるであろう事。
分かっている筈だ。

にもかかわらず、【赤い悪魔】は彼を挑発する事を心底楽しんでいるように見える。
いや、間違いない。その表情には余裕すら感じ取れる。



29: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:54:41.51 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『……』

腰に下げた竹筒を外し、栓を抜くと水を口に流し込んだ。
喉が渇いたわけではない。思考をリセットする為だ。

考えを整理する。
戦が始まるや否や考え無しに大盾に突っ込んでいった他の自由騎士隊は現在壊滅状態にあるといって良い。
ダディ達【戦鍋団】のやや後方に下がった彼らは、撤退か、隙を見て漁夫の利を狙うか見極めようとしているのだろう。
つまりは均衡を崩す戦力としては当てになら無いという事だ。

今のままではジリ貧とは言え、ダディも遊びで戦場に足を踏み入れている訳ではない。
出来る事なら勝って恩賞に与りたいと思うし、だからと言って部隊の今後に影響するほど深入りするつもりはない。
引くべきか攻めるべきか? その判断が大切なのは十分過ぎるほどに承知している。

ならば、その判断の基準はどこか?
怖れるべきは乱戦である。
もし、王軍が右翼のしぃを動かすとすれば、それは中央のダディ隊が弱りきった時。
そして、そうなれば【天智星】は大盾を捨て一斉攻撃に転じるだろう。
規律を無くし、機動力も奪われたとあれば勝機は無く、例え逃げ切ったとしても隊の再建には莫大な時間と費用がかかる。
つまり、そうなる前に王軍の前線を崩すか、戦場を離脱するかせねばならない。

( ̄‥ ̄)『ダディ。隊は整いました。いつでも行けます』

そこまで考えたところで彼の副官が声をかけてきた。
ダディは考えを中断させると、すぐ側の騎士に攻撃の合図を示す銅鑼を構えさせる。
どのような小細工があろうとも、結局最後は己の為せる全力を尽くすしかないのだから。

|(●),  、(●)、|『分かりました。続きなさい!! 我が兄弟達よ!!』

高らかにあげた声に重なるようにして、銅鑼の音が鳴り響き━━━━━



31: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:59:40.38 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『な、何事ですかっ!?』

ダディ隊の中に湧き上がったのは威勢の良い合いの手ではない。
ただ、ただ混乱の声だった。
何故なら。

|(●),  、(●)、|『落ち着きなさい!! 状況を報告!!』

叫ぶダディの声もまた完全に落ち着きを欠いている。
何故なら。
何故なら、"彼らはまだ"銅鑼を鳴らしていないから。

思いもよらぬ方向から鳴り響いた銅鑼の音に、自由騎士達は浮き足立つ。
王軍に向け愛馬に鞭をいれた者、駆け出す者、必死に馬首を押さえる者、
何が起きたのか分からずに整えられた隊列は再び大きく乱れた。

自由騎士A『報告!! 南西の方角より奇襲!! その数およそ騎兵100!!』

(; ̄‥ ̄)『なっ!?』

自由騎士D『南西だと!? そんな馬鹿な!!』

南西からの攻撃と言えば、ちょうど彼らの脇腹を抉る様な形になる。
その方向に王軍は兵を割いていなかった筈。
正面切っての対決で雌雄を決しようと言うこのタイミングでの奇襲。
完全に不意を突かれた。

そして、南西に位置するは七英雄フィレンクトを擁くアマレット砦。
多くの者達が【白鷲】の異名を持つ隻腕の老将の姿を思い浮かべる。



32: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:02:53.11 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『フンボルト!! 貴方は100を率いて奇襲に当たりなさい!!
          一撃を加えた後離脱!! 生き延びる事だけを考えるように!!
          私は正面に当たります!!』

と、同時に正面に陣取った王軍中央の中から銅鑼の音が鳴り渡り、ダディの希望とは正反対の形で大盾の壁が開かれる。
赤い給士は早くもダディ隊に肉薄し、大混乱の最中にある態勢で王軍の総攻撃を受けきる事など出来まい。
ダディは頭を完全に撤退に切り替えた。矢継ぎ早に指示を飛ばしていくと、

自由騎士B『オヤジ!! あれを!!』

指差すその先、王軍奇襲隊の方を見る。

|(●),  、(●)、|『……やられましたね。時間稼ぎというわけでしたか』

思わず、青い柿を齧ったような顔になった。

常に戦場全体を見渡していたつもりだった。
が、その実は赤い悪魔の挑発に眼を奪われていた。
その隙を突いて王軍は大盾の影で大きく隊を動かしていたのである。

奇襲隊が掲げるは、この世に一つしか存在しない旗。
黒地に黄金獅子の描かれたる大旗。
その先頭で栃栗毛の駿馬に跨る者の目鼻立ちまでくっきりと見る事が出来た。
黄金の甲冑を身にまとい、翻すは真紅の外套。手にするは支配の象徴、禁鞭。
そう、すなわち━━━━━

ξ#゚听)ξ『アルキュの戦士達よ!! 汝らの命、我と共にあり!! 怖れる事無く突き進め!!
      反逆者達に王に逆らう愚かさを教えてあげなさい!!』

━━━━━アルキュの至宝。【金獅子王】ツン=デレ。



37: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:05:59.83 ID:3i0iG5sC0
自由騎士B『そんな!! 王自らが敵陣に乗り込んでくるだと!?』

ξ#゚听)ξ『獅子は流血を厭わない!! アルキュの王は常に戦士達の前にあるっ!!』

自身に向けて突き出された槍を掻い潜ると、その手に禁鞭を叩きつけた。
本来であればツンでは到底太刀打ちできぬ実力差の持ち主であっても、浮き足立って腰の入らぬ様では当てる事も敵わない。
風切る鉄鞭の一撃に獲物を落とした男は、続いて襲い掛かった王軍騎士の槍で馬上から叩き落された。

( ̄‥ ̄)『くそっ……【戦鍋団】が副官フンボルト!! 参る!!』

その光景を見たフンボルトは、黄金の王に向けて愛馬に鞭を入れた。
落ち着き払った王軍に対し、自隊は混乱の極みにある。
ならば、ツン=デレに一撃でも加え、掻き乱した隙に隊を離脱させるしかない。
最悪、王軍の眼を惹きつけて囮になるという選択肢もある。しかし。

从 ゚∀从『残念。させねーよ』

ひょいと彼の前に躍り出た黒衣の給士の竹箒が一閃されたかと思うと、手にした槍は宙に跳ね上げられていた。
次の瞬間、こめかみをツンの鉄鞭で打たれ、たまらず馬から転げ落ちる。
衝撃で意識を手放しかけた彼は、わっと襲い掛かった兵達に抵抗する間も無く取り押さえられた。
数人の自由騎士達が駆け寄ろうとするが、全てハインの小太刀によって防ぎ止められる。

从 ゚∀从『姫さん』

ツンは軽く頷くと、手にした鉄鞭を振り上げ叫んだ。

ξ゚听)ξ『【戦鍋団】副官フンボルチョ!! 【金獅子王】ツン=デレが召し捕った!!』

その声は戦場に響きわたり、王軍兵士の中から盛大な歓声が響きわたる。
若干噛んだ事に関しては、すでに誰も突っ込まなくなっていた。



40: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:08:49.56 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『フンボルトッ!?』

その声は中央で王軍の総攻撃を受け止めていたダディの耳にも届いた。
元々フンボルト個人の戦闘技術は高い物ではないが、副官が囚われたとなると他自由騎士達の戦意にも影響する。
いや、すでに包囲され獲物を捨てて降伏する者たちの姿がチラホラと見て取れた。

ノハ#゚听)『よそ見してる暇があるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

|(●),  、(●)、|『ちっ』

大声に向けて直槍を振り回す。
すでに汗血馬を降り、地上でダディと向かい合っていた猫耳給士は、身を低くしてそれを掻い潜った。
続けて繰り出した突きも回避されたが、その間にダディは距離を広げる。

ノパ听)『舌打ちしたいのはこっちだ、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』

それもつかの間。
怒号一閃、ヒートが這うような低い姿勢で距離を詰めた。
牽制の槍を殴りつけるようにして払い、懐に飛び込もうとする。

|(●),  、(●)、|『貴女に罵倒していただける覚えはないのですが』

ノハ#゚听)『五月蝿いっ!! お前を見てるとトラウマの蓋が開くんだよ!!!!!!!!!!
     ち○こ頭ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!』

|(●),  、(●)、|『その品が無い呼び名は止めなさい。…………嬉しいではないですかっ!!』

遊びはお終い、とばかりに裂帛の気合と共に直槍を突き出した。
まともに喰らえば岩すら砕く一撃を、ヒートは脇腹をかすめる様にして避わした。
そして、そのまま抱え込む。



43: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:11:33.97 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『む?』

ノハ#゚ー゚)『……やっと捕まえたぞ』

とっさに引き抜こうとするが、渾身の力で抱え込まれた直槍はビクともしない。
いや、引き抜く事に固執しすぎれば、最悪ダディ自身の力を利用して飛び込まれるかもしれない。
格闘に自信が無い訳ではないが、わざわざ相手の土俵に上がってやりたいとも思わなかった。

|(●),  、(●)、|『……ならば、力比べといきましょうか』

腹を括った。
両の太股で愛馬の腹をガッシと挟み、上半身を沈めるようにして給士の体ごと槍を持ち上げようとする。
対するヒートもまた、その思惑を悟ったのか腰をグイと沈め渾身の力でダディに対抗した。

|#(●),  、(●)、|『グ……ググググググ……』

ノハ#゚听)『ぅぉらあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ……』

互いに、まるで巨大魚でも釣り上げようとするかのような体勢。
全身の血を集めたかのようにヒートの顔は赤く染まり、強く噛みしめたダディの奥歯が軋む。
両者を繋いだ鉄の直槍が竹のように撓り、悲鳴をあげた。

互いに譲らず、全くの五分。永遠に続くのかと思われた力比べも、息を吸う事も吐く事も出来ぬのだから長くは続かない。
その癖、頭だけはやけに冷静で相手の姿をよく見て取れた。
ダディは限界を超えたヒートの膝が震えだすのがよく分かったし、
ヒートはダディの亀を思わせる禿頭に血管が浮き出るのをはっきりと確認した。

ノハ# )『だから……だから……っ!!』

|#(●),  、(●)、|『ぬ?』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:13:59.39 ID:3i0iG5sC0




ノハ#゚Д゚)『それを止めろって言ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!
      ちん○頭ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!』


赤い給士が吼えたのと、ダディの体が重力から解放されたのは全くの同時だった。
視界がグルリと一回転し、すぐさま闇に包まれる。

|(○),  、(○)、|『……』

ダディが自身の敗北を知ったのは、背に強烈な痛みを覚えてからだ。
真っ暗だった視界に白い火花が飛び散っている。
あれほど懐に入られる事を警戒していたというのに、ヒートの顔はすぐ間近にあって。
その赤い髪の向こうに青空がくっきりと見えた。

ゼェゼェと肩で息をしていたヒートの喉がゴクンと動く。
この時になって初めて、咳き込んでいるのが自分だと気付いた。
それ程の痛み。時と場所を変えればこれ以上無い程の至福であったのだろうが、そう思う余裕も無い。

そして。

ノパД゚)『敵将ち○こ頭、アルキュ王が臣ヒートが捕らえたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

ダディの身体に馬乗りになったヒートが勝ち名乗りを上げる。
と、同時にツンの時に劣らぬほどの大歓声が沸き起こり。

それは彼らが中央の戦いを征した事もまた意味していた。



47: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:16:39.48 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

(´・ω・`)『やぁ、ようこそ。随分と梃子摺らせてくれたね』

|(●),  、(●)、|『……』

後ろ手に縛り上げられたダディが連れて行かれたのは、竹冠を頭に乗せた男の前だった。
垂れ下がった太い白眉から、この男が天才と名高い【天智星】だと判断する。
周囲に【戦鍋団】の者の姿は一人しか見当たらず、降伏した者は他の場所に連れて行かれたのだろう。
王軍もまた20人前後の兵士が側にいるだけで、多くの者達は追撃に出ているらしかった。

( ̄‥ ̄)『……ダディ。申し訳ありません』

|(●),  、(●)、|『いえ……貴方は今までよくやってくれました』

縄を解かれ、この場にいる唯一の仲間、フンボルトの横に並んで背もたれの無い座に腰を下ろす。
本来であれば地べたに座らされる屈辱を受ける所だ。
王軍の者達にとってこれも一つの礼のつもりなのだろうが、生涯で一度しか味わえぬ屈辱を奪われたのは少々残念でもある。
戦場に生きてきた者として、敗軍の将が辿る道は心得ているから、
口から漏れる言葉に諦めが混ざっていたとしても今更恥とは思わなかった。

|(●),  、(●)、|『一つだけ教えてください』

(´・ω・`)『うん?』

|(●),  、(●)、|『あのまま戦闘を継続していても、あなた方は勝てたのではないですか?
          ならば、何故王の身を危険に晒してでも奇襲に転じたのでしょう?』

それは彼の心に引っかかっていた疑念である。
普段であれば問い掛けを無視して流されるのも決して嫌いではないのだが、どうせ死ぬのであればすっきりした気持ちで死にたかった。



50: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:19:36.06 ID:3i0iG5sC0
(´・ω・`)『大盾の壁は騎兵の機動力を殺すためだけに構えたんじゃない』

言いながらショボンは立ち上がった。
いつもそうするように、両手を腰に当てて組み、老いた学士のように語り始める。

(´・ω・`)『中軍の切り札はあくまで陛下が率いる部隊であって、動きを悟られない目隠しでもあったんだ。
      今後、同じ様な愚行に走る者を防ぐ為にも、この戦いは陛下自身に決めていただく必要があった。
      本当は勢いを駆って公軍本陣まで攻め込んでいただきたかったけど、思いの外君達が手強かった物でね。
      それに、あのまま我が軍が勝利したとして。君達はそれを悟れば一息に戦場を離脱してしまうだろう?』

从 ゚∀从『御主人』

ショボンは音も無く近づいてきた黒衣の給士が手にする盆から碗を受け取った。
二度二度息を吹きかけてから、ゆっくりと口に運ぶ。

从 ゚∀从『ほら』

ハインはそのまま捕虜となった二人にも碗を手渡した。
ダディもフンボルトも茶に詳しい訳ではない。
が、鼻腔をくすぐる仄かな甘い香りに、たとえこれが末期の水になったとしても良いとすら思った。

(´・ω・`)『僕はそれを防ぎたかった。それ故の奇襲さ』

|(●),  、(●)、|『……それでは答えになっていません』

(´・ω・`)『ほう? どうして?』

|(●),  、(●)、|『問われなければ分からない……とも思えませんが』

そう前置きしてからダディは言葉を紡ぐ。



51: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:22:04.92 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『我らの力を正確に計っていたのなら、それこそ持久戦に持ち込むべきではないのでしょうか?
          王の威光を示すのであれば、完全に我らが引いてからの出陣でも遅くはない筈です。
          最終的に、この戦いの首謀者を王が破ればよいのですから』

(´・ω・`)『……』

|(●),  、(●)、|『晒す必要の無い危険に身を晒すのは、巨象の前で鎌を振り上げる蟷螂の勇にすぎません。
          貴方達はいずれそのやり方を民にまで押し付ける事になる。理想の名の下に守るべき民を地獄の釜に放り込む。全く滑稽な話です』

首を刎ねられる事を覚悟した者だけが吐ける暴言に、王軍兵士達の顔色が変わった。
このまま続けようものなら断首を告げられるより前に細切れにされそうな勢いだ。

|(●),  、(●)、|。oO(まぁ、構いませんけどね)

もし、彼の言をショボンが訂正しなかったら、彼は人生の最後において最大の屈辱を受ける事になる。
愚者に破れ、友と作りあげてきた【戦鍋団】を失うと言う屈辱。それは、この巨大な頭を持つ男が求める屈辱ではない。
死は怖れずとも、歩んできた人生を否定させぬ為、ダディは言葉を止める事が出来なかった。

|(●),  、(●)、|『更に言わせていただくとすれb……?』

敗れてもあくまで腰を折らない彼に業を煮やしたのか、一人の兵士が腰に下がった剣の柄に手を伸ばす。
が、それも一瞬。慌てたように姿勢を正した。

(´・ω・`)『うん、もう大丈夫なのかい? もう少し休んでいても良いのに』

ダディの演説を悠然と聴いていたショボンが、彼らの背後に向けて声をかけた。
馬蹄に踏み荒らされた大地を、確かめるような速度で歩く音。
長時間馬上にある事に慣れていない者は、時として平衡感覚を失う事がある。
イメージとしては車酔い……というより立ち眩みに近い物で、
気血失調。つまり、貧血気味の者や若い婦人がなるのが多い事をダディは聞き及んでいた。



53: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:26:33.06 ID:3i0iG5sC0
???『どうしても戦場の匂いには慣れないわね。ダメだわ』

自嘲するような声は、【天智星】に向けられた物だ。
柔らかくとも芯の通った響きが、それだけでどのような人物か教えてくれる。

元々、ただの新鮮な血肉であれば無臭に近い。
が、それが空気に触れて酸化し、汗と吐瀉物と糞便とを馬蹄や軍靴で捏ね回せば想像を絶する臭気を放つ事になる。
この中で飯を掻きこむ事が出来るようになれば、立派な戦廃人の出来上がりと言う訳だ。

???『フンボルトさん……でしたね。確かに貴方の言う事は間違っていないと思うわ』

やがて、ようやっと彼らの前に辿り着いた彼女は、その身を支えるようにしていた侍女の手を離した。
片膝を地について座ると、二人の瞳を覗き込みように見あげる。
その姿勢になる事で、至高の者だけが纏う事を許された真紅の外套が土に汚れても、気にならない様だった。

ξ゚听)ξ『でも、理想を実現させるには力がいるわ。
     アタシにはまだまだ民を守りきれるだけの力はないの。
     それが今日、素晴らしき力を持った戦士達に出会えた。
     貴方達を得る為ならば、アタシは幾らでも死地に飛び込んでみせるわ』

|;(●),  、(●)、|『……』

(; ̄‥ ̄)『……』




ξ゚ー゚)ξ『これじゃ、答えにならないかしら?』



57: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:28:39.99 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『……我らはどうやら敗れるべくして敗れたようです』

嘆息して空を見上げる。

美しい王だと思った。
いや、ただ美しいと言うだけならば口の悪い赤毛の給士に軍杯が上がるだろう。
彼にそう呟かせたのはツンの持つ瞳の輝き。その中にダディは純粋な、混じりっ気のない覚悟を見た。
その覚悟が何なのかは分からずとも、見せ掛けの権威に囚われず前に進もうとする想いの深さに敗れたのだ。

二人の自由騎士は頷きあうと、座を外し黄金の獅子の前に膝をつく。
運命が、彼女が望むのであれば彼らがするべき事は一つだった。
深く考える必要はない。為すべき事を為せば良いのだ。

|*(●),  、(●)、*|『【戦鍋団】団長ダディ。見ての通りの風体ゆえ【第六天魔王】と呼ばれております。
            この日、今の時から女王様と呼ばせていただきたい。
            そして出来る事なら私の事は、薄汚い豚野郎とお呼b』

(; ̄‥ ̄)『っ!! 同じく副官フンボルト!! これより我ら【戦鍋団】、全て我が王に命を捧げましょう!!』

ダディが言葉を終えるより早く、彼の副官が慌てたように口を挟んだ。
倍も歳の離れた男達に低頭され、どうして良いのか分からずツンが間誤付いている。
どれほどの覚悟を持とうとも、至高の王と呼ばれようとも、どうにも慣れないのだ。
そんな景色を視界の片隅に置きながら、ショボンは北に眼を送った。
彼の場所は公軍。いや反乱軍本陣が構えられていた場所。
テネシー公ジャック、ダニエル、そして【九紋竜】ギコが率いる部隊が待ち構えている筈で。
砂埃は収まっておらず、未だ交戦中である事が見て取れる。

(´・ω・`)。oO(まぁ、彼がいれば今度は間違いないだろうけどね)

白眉を撫でつけながら、ショボンはそんな事を考えていた。



60: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:32:15.49 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

王軍本隊が自由騎士団の中に切り込んだのと時を同じくして。
もう一つの切り札・右翼後方隊もまた、公軍本陣にて剣を交えていた。

(*゚ー゚)『丑に50。縄にて射。円にて離。後、切り込む』

百騎長A『北北東に50騎だ!! 列陣を組んで射撃の後に円陣を成して離脱、本隊後方に合流する!!』

百騎長B『怯んだら一気に突っ込むぞ!! 楔に構えろ!!』

【紅飛燕】しぃの出す指示を、左右に控える百騎長達が正確に読み取り周囲に伝える。。
極端に簡略化された言葉から、彼女が想定する用兵を判断し兵を動かすのは容易ではあるまい。
しかし、その困難さが逆に将兵を強くした。
自身で戦況を判断し行動に移れるのも、それが生き残る事に繋がるからだ。
そうやって鍛えられた者達にとって、しぃの声は最終的な確認に過ぎない。
もっとも彼女が【キュラソー解放戦線】として戦っていた頃は、
一言も言葉を発する事無く指差すだけで指示を出していたのだから、今では随分とやり易くなった方なのだ。

これが【急先鋒】ジョルジュであれば、自ら先頭に立ち将兵を引っぱっていくのだろう。
多少敵陣が厚くとも、多少遊兵を作っても、爆発的な攻撃力で戦況を支配するのだろう。

が、それは彼女の戦い方ではない。
最前線から数歩下がった位置で戦況を見極め、より的確な場所に最高のタイミングで最少数の兵力をもって最大限の打撃を与える。
個の武ではなく、兵の全てをもって己の刃とし敵陣を切り崩すには『意思持つ手』とも言える練熟した将兵が不可欠なのだ。

退こうとする者達には怒涛と化して襲い掛かり、自棄になって討ちかかって来る者達に対しては包囲して射殺す。
近距離と遠距離、静と動を使い分ける彼女達によって公軍本隊は確実に削られていった。

そして、燕は戦場の中、かつて見知った顔を見つけ出す━━━━━。



61: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:34:57.77 ID:3i0iG5sC0
(#,,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!』

【九紋竜】は雄叫びと共に、手にした長刀を振るった。
それだけで王軍騎士の突き出した槍の柄が、まるで野菜でも切るかのように両断される。
が、一瞬唖然とした表情を浮かべた騎士の首を叩き落すより早く別の騎士に斬りつけられ、ギコは数歩下がらねばならなかった。

(#,,゚Д゚)。oO(今のは牽制って所か……畜生、よく鍛えてやがるぜゴルァ)

一人に対して常に複数で襲い掛かるよう、訓練されている。
友軍の救出を最優先で行なうよう、徹底されている。
少し周囲を見渡すだけでも、それがギコに対してだけでなく自然に行なわれている事が分かった。
同時に、共に戦っている友軍がすでに20人ほどになっている事も知る。
それに数倍する王軍に完全に包囲されていた。

( ,,゚Д゚)。oO(完敗……だな)

認めざるをえなかった。主力であった筈の自由騎士団は一部を除いてがむしゃらに突っ込むしか能が無く、
今では動ける者は甲冑を捨てて逃走し、動けぬ者は剣を捨てて降伏している。
戦意のある者など、すでにギコの周囲に立っている数名を残すのみであろう。
ギコの思うとおり、完膚なきまでの大敗。これが昨夜まで戦場にも拘らず飲めや歌えやを繰り返していたとは信じられぬほどの完敗だった。
テネシー公ジャックとダニエルの消息すら誰一人把握していないだろう。

( ,,゚Д゚)。oO(ま、しょーがねぇわな。)

先刻【金獅子王】ツン=デレの奇襲で主力部隊が混乱した時、本陣でそれを知ったギコは即刻逃げるか、
混乱に乗じてこちらも奇襲を仕掛けツンを討つべきだ、と二人の貴族に進言した。
そして、何の迷いも無く逃げる事を選んだ二人は『逃走資金』を馬車に積むという作業に時間を喰い、
結局しぃの襲撃を許すという愚行を犯したのだ。
重荷を載せた馬車の存在を【三華仙】の一人が見逃す筈も無く、消息が分からぬというのはとうに捕らえられたという事なのだろう。
それでも、ギコが刃を下ろす事はない。これから先は一介の剣士としての戦いである。



63: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:37:31.47 ID:3i0iG5sC0
( ,,゚Д゚)『血路を開くぞゴルァ!!』

叫びすぎて擦れた声でギコが叫ぶ。
渇ききった喉がヒリヒリと痛むが、口の中に唾液すら湧かないのでは我慢する他なかった。

( ,,゚Д゚)『ルァッ!!』

長刀のリーチを生かした神速の三段突きで、瞬く間に三人の騎士を葬り去る。
ジョルジュを破った変則の居合い【地走り】と並ぶ得意技で、幾度と無く危機を救ってくれたものだ。
この時も『刺突』という攻撃に特化した槍よりも早く命を奪い散らしてみせた。
消え行く命にしがみつく様に、騎士がゆっくりと馬から落ちる前には、すでに他の騎士の首が宙に舞っている。

( ,,゚Д゚)『馬を奪え!! 手薄な場所を狙って包囲を抜ける……っ!?』

と、その時ギコは自らを覆う槍衾の向こうに赤い外套を纏った小柄な騎士の姿を見た。
彼女もまたギコに気付いたようで、数名の騎士達に何やら指示を出している。
受けた者達は軽く頷くと、ギコに向かって愛馬に鞭をいれ

(ii,゚Д゚)『……ゴルァ』

思わず声を漏らした。
獲物を逆腕に持ち替えた彼らが揃って振り回しているのは、石縄と呼ばれる武器だ。
三尺(90cm〜1m)程の長さの縄の両端に拳大の石を括りつけ、遠心力を使って投げつける。
扱いが易く身近な道具で作れる物だが、殺傷力は折り紙つきと言っても良い。

それだけであれば布キレを使った投石具と大差ないのだが、本当の曲者は縄の方だろう。
なにせ、元々これは遊牧民が逃げた家畜を捕らえる為に使用していた物なのだ。
縄自体に殺傷力はないが、絡みついたそれは足を封じ、剣を振るう腕も奪ってしまう。

『ヤバイ』と思った瞬間。騎士達の放った石縄が、四方からギコに襲い掛かった。



65: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:41:52.11 ID:3i0iG5sC0
最初に飛来した二本の石縄を身を屈めて回避する。
続いてのそれは、手近の転がっていた槍を咄嗟に拾い上げ体の前方から後方にすくい投げるようにして防いだ。

が。槍に絡みついた縄の勢いは止まらず、ギコはグンと腕を引かれて体勢を崩した。
必死に長刀を振るい、刃全体を使うようにして正面から飛来した物の縄を断ち切る。
縄の束縛を離れた石が頬を掠め、背後で戦っていた兵士の背に直撃し、その破壊力に男は意識を手放し倒れこんだ。

( ,, Д )『……っ!!』

しかし、ギコにもその兵士を案じてやるだけの余裕は無かった。
体勢を崩していた為、更に襲い来た石縄を避わし損なったのである。
腹部正面への直撃こそ避けたものの、アバラを数本砕かれ膝をつく。

王軍騎士『今だ!! 捕らえるぞ!!』

それを見た騎士が更に石縄を取り出すも、ギコの闘志は衰えていなかった。
これ以上の戦闘は無用と判断すると、先程犠牲になった兵士の振るっていた手斧を取り、渾身の力で投げつける。
その一撃が命中する事は無かったが、怯んだ隙に接近したギコは騎士を叩き落し馬を奪う事に成功した。

(;*゚ー゚)『!!』

こうなれば占めたものである。
しぃは自身の用兵術の法則として、兵を無駄に失う事を極端に嫌う傾向がある。
自軍の犠牲を出来る限り減らしていくのは用兵学の基礎とは言え、敵味方として彼女を良く知る者でなければ看破しうえない癖だ。
今も一瞬緩んだ包囲網をギコは一息に離脱した。
そのまま逃げ遅れた戦士の脇を駆け抜けんとして……



(;,゚Д゚)『ぬあっ!?』



69: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:46:04.40 ID:3i0iG5sC0
ワケも分からぬまま、地べたを転がった。
異名となった九匹の竜の彫り物が土にまみれる。
長刀を手放さなかった事だけは流石と言わざるをえまい。

片膝をつく姿勢で起き上がった彼が見たのは、首を失い倒れこんだ馬の姿。
全身を大きく震わせながら、血を吹き流している。
それを目にすれば、たった今すれ違った戦士がギコの眼にも留まらぬ速さで"何か"したのは明らかだった。

(;*゚ー゚)『あ』

赤い燕が小声を漏らす。

(;,゚Д゚)『テメェ……あの傷で……』

九竜の剣士が嘆息する。
そして。

(   )『あの傷だぁ? あんな撫でられた様な怪我で何時までも寝てられねぇんだよ。
      俺様を誰だと思ってやがるんだ?』

ギコに背を向けて立つ男は、手にした片刃の長柄刀を天に掲げ、名乗りを上げるのだ。

(   )『━━━━━乳を語れば天下一。ドン引きされても揉みぬいて。乳首つまめば……俺の勝ち!!』

白い戦外套と、結んだ後ろ髪が風に揺れる。
そう。彼こそは黄金獅子が臣。ヴィップ司書令。万騎将にして【薔薇の騎士団】団長。
振り返り。叫ぶ。

( ゚∀゚)『真の主役は遅れた頃にやってくる!!
     不撓不屈のおっぱい大将軍!! 【急先鋒】のジョルジュとは俺様の事だっ!!!!!!!!!!!!!』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:50:44.42 ID:3i0iG5sC0

  + ∩
( ゚∀゚) +
m9/ |  ←最大限にかっこいいポーズ
| /  |
し ⌒J

(*゚−゚)『…………』

(;,゚Д゚)『…………』

王軍騎士『…………』

( ゚∀゚) +

(*゚−゚)『…………』

(;,゚Д゚)『…………』

公軍兵士『…………』

( ゚∀゚) +

(*゚−゚)『…………死ねクズ』

Σ(;゚∀゚)『え!?』

(*゚−゚)『…………ギコ。ごめん』

(;,゚Д゚)『え? あ、あぁ、なんかこっちこそ見ちゃいけない物見ちゃったみたいで……お前も大変だなゴルァ』



82: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:54:27.93 ID:3i0iG5sC0
(;゚∀゚)『最っ高の決め台詞だと思ったんだけどなぁ』

(*゚−゚)『黙れ』

気まずそうに後頭部を掻くと、長柄刀の石突きを地面に突き刺す。
空いた手で腰から竹筒を外すと、ギコに軽く放り投げた。

(;*゚ー゚)『ちょ、待って』

それを見たしぃは思わず抗議の声を漏らした。
竹筒の中身など聞かずとも予想できる。
ようやく弱らせた竜に水を与えようというのだ。敵に塩、どころの話ではない。

( ゚∀゚)『おいおい。細かい事気にするんじゃねーよ』

が、そんな燕の抗議をジョルジュはさらりと受け流した。
長柄刀を引き抜くと、二度三度と柄をしごき構えを取る。

( ゚∀゚)『俺達ゃ、互いに地べた舐めさせられて黙ってるほど大人しくねーんだ』

対峙するギコは、竹筒の中身を飲み干すとそれを放り捨てた。
無精髭の生えた顎に滴る水を手の甲で拭き取り、握りを確かめるように長刀を下段に構える。

( ,,゚Д゚)『礼は言わねえぞ。こちとら寄って集って殴られてヘトヘトなんだゴルァ』

( ゚∀゚)『へっ。丁度良いじゃねえか。俺様もどっかの誰かさんの不意打ちのせいで動くのも辛ぇんだ』

共に相する者が吐き出した憎まれ口に軽く笑い。
一瞬の睨み合いの後。
先に動いたのは【急先鋒】━━━━━



83: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:57:28.39 ID:3i0iG5sC0
(#゚∀゚)『ぅおおおおおおおおらぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!』

肩に担ぎ上げるように振りかぶった長柄刀を、力任せに叩きつけた。
当然のようにギコは身をかわす。
"斬鉄"と称されるほど鍛え、磨き上げられた漆黒の神刀でも受けきれぬであろう一撃。
仮に刀が無事であっても、それを握る腕がただでは済むまい。
ジョルジュ渾身の一撃は大地を砕き、乾燥した土壌を宙に散らした。

(#,゚Д゚)『っこの、馬鹿力がぁっ!!』

(#゚∀゚)『人の事言えた口かよっ!!!!』

腰をズンと落とした格好から、ギコが右切り上げを放つ。
正確に首を狙ってきた一撃は重く、受け止めたジョルジュの長柄刀が跳ね上げられた。
それでも。

(#゚∀゚)『らぁっ!!!!!!』

【急先鋒】は隙を見せない。
ギコが第二撃を放つより先に、分厚い胸板を蹴り飛ばす。
受け止めようにも刀は大降りの一撃を放ったせいで間に合わず、かわそうにも身体は伸びきっている。
まともに喰らった剣士の身体は鞠のように弾かれ、大地を転がった。

更に追撃を加えんと、熊のような巨体が飛びかかる。
対するギコは咄嗟に砂を拾いあげ、ジョルジュの顔目掛けて投げかけた。

(#×∀×)『うおっ!?』

振り下ろした長柄刀は不発。
それどころか、お返しとばかりに喰らったタックルで、今度はジョルジュが地を転がる番だった。



86: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:01:26.70 ID:vA85jUMv0
(#゚∀゚)『汚ぇ真似しやがって!!』

痛みで本能的に閉じようとする目を強引に開き、長柄刀を横薙ぎに振るう。
掠りもしない一撃だが、その破壊力を目の当たりにした者への牽制には十分。
ギコが追撃を踏み止まった隙に、袖で目に入った砂を拭い落とす。

(#,゚Д゚)『うるせぇ!! 泣き言ぬかすんなら!! 帰って!! マンマのおっぱいでも吸ってろ!! ゴルァ!!』

(#゚∀゚)『それは!! おっぱいのっ!! 大きさにもよるっ!! むしろ!! 大歓迎だっ!!』

(#,゚Д゚)『何だ!! そりゃっ!?』

判断は正しかったとは言え、一瞬恐怖を感じた己にギコは苛立ちを感じた。
視力を回復し立ち上がったジョルジュに正面から切りかかる。
ジョルジュもまた、ギコに小細工が無いと判断するや足を大きく開いて迎撃の態勢をとった。

全体重を乗せて振り下ろされた長刀を、ジョルジュは全身のバネをフルに使って弾き返す。
限界まで溜め込んだ反動を乗せた長柄刀を、ギコが守りを捨てきった前傾姿勢で跳ね払う。
そんな斬り合いを十合ほど続けた二人は、示し合わせたかのように距離をあけた。

(;,゚Д゚)『どう、した……息が、はぁ……あがってるじゃねぇかゴルァ』

(;゚∀゚)『うるせ、ぇよ……テメェこそ、乱れた息が、死ぬほど似合わねぇ…じゃねぇか』

肩を大きく上下させるまで乱れた呼吸を整える間も、挑発がやむ事は無い。
やがて大きく息を吸い込んだ二人は。

(#,゚Д゚)『行くぞぉぉぉぉぉぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』(゚∀゚#)

天も裂けよと雄叫びをあげ、斬り合いを再開する。



87: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:04:35.31 ID:vA85jUMv0
【急先鋒】ジョルジュと【九紋竜】ギコ。
共に恵まれた体躯を誇りながらも満身に溺れず技量を磨いた戦士ではあるが、二人の戦い方には若干の違いがある。
立ち上がった熊を思わせる長身のジョルジュは、本来騎兵と言う事もあって振り下ろす攻撃に慣れている。
対するギコはずんぐりとした体格で、下段から切り上げる剣撃を好んでいた。

(#゚∀゚)『テメェ、コラ、筋肉チビ!! 大人しく死にやがれ!!』

最も得意とする剣筋を違える二人。
自然、昇竜のようなギコの長刀と落雷のようなジョルジュの長柄刀が幾度も衝突し火花を散らす。

(#,゚Д゚)『こっちの台詞だ、発情熊!! 全身の皮ひん剥いて敷物にしてやんぞゴルァ!!』

受け止め、弾き返すだけで肩の骨まで衝撃が走った。握力などとうの昔に消え去っている。
それは正に死の絢爛舞踏と言うべき戦いだ。
岩をも砕く一撃を受ければ、その瞬間身体は肉塊へと変わり、箒と塵取りで肉片を掻き集めなければならなくなるだろう。
しかも、元の色が分からぬほどのボロ外套を纏っているギコだけでなく、
ジョルジュもまた、前を開いた戦外套の下は素肌に包帯を巻きつけているだけなのだ。

それでも。
眼光が肉を裂き、剣気が骨を絶つ空気の中、戦士達は怯まない。
前に出した足が交差し、時には額を合わせる距離で、ただひたすらに己の全力を叩き込む。
剣士はあばら骨を数本折っていたし、騎士は巻き付けた包帯に赤い血を滲ませている。
にも拘らず、両者は一歩たりとも下がる事を是としない。

(#゚∀゚)『いい加減……っ!!』

(#,゚Д゚)『しつけぇぞゴルァッ!!!!!!!!!!!!』

気合と共に刀をぶつけ合った。
そのまま獲物を退かず、力比べの体勢になる。



89: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:07:32.54 ID:vA85jUMv0
技量も五分なら膂力も互角。
交差する刃を全身の力で押し込むが、互いにビクとも動かず。
それどころか、半歩でも前に進もうと踏みしめた足がズズと後方に押しやられた。

(#゚∀゚)『いい事教えてやるぜマッチョチビ……っ!! ジャックとダニエルの二人な、とっくにぶち殺したぜ。
     直に陛下のトコまで首が届く筈だ。残念だったな』

( ,,゚Д゚)『けっ』

動揺はない。
ただ、『あぁ、やっぱり』とだけ思った。

(ii ∀ )『が!?』

口に出す代わりに、押し込んでいた力をスッと抜いてやる。
支えを失いよろめく巨体の腹の傷に膝を叩き込んだ。
そのまま、身体を折り曲げたジョルジュの、がら空きの後頭部を目掛けて長刀を振り上げ━━━━━

( ,, Д )『っは!?』

横殴りの暴風に、身体をくの字に折って弾き飛ばされた。
倒れこみながらもジョルジュが強引に身体を捻り、長柄刀を一閃したのだ。
上段に振りかぶった長刀は防御に間に合わず、痛めた脇腹を強打される。
砕かれた骨が血管を切り裂き、内臓に突き刺さり、痛覚神経をズタズタに傷つけ、
ギコは地に伏せたまま低くうめきを上げた。

あまりに接近しすぎていた為、柄で殴られたのは幸運と言うべきで。
直撃したのが刃の方であれば、2つに分かれた死体が転がっている筈だった。
もっとも。
痛みを感じるより早く胴を両断された方が、はるかに楽かもしれなかったが。



92: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:11:47.13 ID:vA85jUMv0
(ii ∀ )『っぐ……が……はぁ』

膝をつくジョルジュが、長柄刀を杖代わりに立ち上がろうとする。
外套の下の包帯はとうの昔に真っ赤に染まりきり、完全に開いた傷口から溢れた血が、大地に黒い点々を描いた。

( ,, Д )『ぐぉおぉ……糞……れがぁ』

ギコもまた満身創痍。極度に疲労し、幾度も地を転がった全身からはいたる所で出血している。
それでも力の入らぬ膝を鼓舞し、身体を地面から引き剥がすように立ち上がった。

(;*゚ー゚)『……』

彼らの一騎討ちを見守る王軍騎士の数はゆうに30を超える。
今、一斉にギコに襲い掛かれば大した犠牲も出さずに捕らえられるだろう。
いや、今動かねばギコだけでなくジョルジュの命も危うい。
そう感じさせるほど、互いにとって致命的な一撃が叩き込まれた筈だった。

しかし、彼らは動けない。ボロボロに傷ついた二人から立ち昇る決死の剣気が、近寄るだけで全身を切り刻まれる錯覚を覚えさせる。
それでも全ての者が決着の時が近いと悟っていた。

(# ∀ )『やる…じゃ、ねぇかチビ。主、の死を知……ても戦意を失……ぇ、たぁ……褒めてやるぜ』

(#, Д )『…るせぇ木偶……興味ねぇんだよ……ゴルァ』

声を出す事で、吹き飛びそうな意識を強引に繋ぎ止める。そして、ギコはここで小さな過ちを犯した。
それは。

(#゚∀゚)『テメェ……そりゃ、どういう意味だ!?』

剣士の言葉を耳にした瞬間。ジョルジュが突如怒りを顕わにしたのである。



94: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:16:09.48 ID:vA85jUMv0
【急先鋒】ジョルジュと言う男は、騎士の鑑たる一面を濃く持った男である。
口が悪く、師と同様に性癖に問題がある故『一面を持った』と言わなくてはならないのは非常に残念ではあるが、
それでも彼が武芸に秀で、学問を尊び、民を労わり、主に忠誠を貫く男である事に違いはない。

敵味方、階級の分け隔てなく公平であり、立派な人物には素直に尊敬を示すし、取るに足らぬと判断した者は口汚く罵倒もする。
そんな彼だから、ギコが主の死を知ってなお剣を捨てぬ事に敬意を覚えた。
素晴らしい男と命のやり取りが出来ることを嬉しく思った。

(#゚∀゚)『テメェは!! ヤツラの想いに!! 理想に共感したからこそ力を貸したんじゃねぇのか!!
     ヤツラの下で護りたいもんがあったから、剣を振るったんじゃねぇのか!!』

( ,,゚Д゚)『……あのバカどもに理想なんて大それたモンはねぇよ。
      ただ、ヤツラは餓えてぶっ倒れてた俺に飯を食わせてくれた。その恩義に報いるだけだゴルァ』

(#゚∀゚)『そんなモンの為にっ!!』

ジョルジュは吼える。

(#゚∀゚)『この内乱の影で!! どれだけ多くの弱き者が泣いたと思ってやがる!!
     それだけの力を持ちながら、何をちっぽけなモンにしがみついてやがる!!』

(#,゚Д゚)『知った風な口きいてんじゃねぇぞゴルァ!!!!!』

その言葉に、今度はギコが眦を釣り上げた。

(#,゚Д゚)『人は何かを求める時、何かを犠牲にしなきゃいけねぇ!!
      誰かを護りたいと思ったら、他の誰かを犠牲にしなきゃいけねぇ!!
      だから、本当に護りたいモンを失いたくないなら!! 他の全てを諦めるしかねぇ!!
      100人の民を護る為に200人の命を奪ってきたテメェが何を偉そうに!!
      愉快すぎて腹が破裂すんぞゴルァ!!』



97: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:20:49.19 ID:vA85jUMv0
それから二人は暫し睨みあう。
怒りが湧き上がらせた戦意はそのままに、残り僅かな剣気を凝縮する。
気を抜けば飛びそうになる意識を繋ぎ止めてくれる痛みが、今はありがたかった。

( ゚∀゚)『……それでも俺様は誰かを護りたいと思うぜ。そいつが気高き理想を持つ限り、な』

( ,,゚Д゚)『……なら、俺はその傲慢をぶち壊してやるぞゴルァ』

ギコは長刀を左手に持ち替えると、上半身を極端な前傾姿勢に落とした居合いの構えを取る。
ただし、その長すぎる黒刃は鞘に収めるのではなく、刃先を地に埋めるようにして。
先だってジョルジュに深手を負わせた、神速三段突きと並ぶギコの大技。地走りの構えだ。

思い返せば、この戦いでジョルジュは常に後の先を狙う戦い方をしてきた。
ここぞと言う時には動いてくるが、多くはギコの剣戟を見極めてから、最適な動きを選んできたように思える。
それは討ち合いが長引くにつれて顕著になり、おそらくは多量の出血で足が思うように動かぬ事もあるのだろう。
が、それ以上に徒歩での戦闘では僅かに自分が上回っていると判断した。

( ,,゚Д゚)。oO(……それなら)

今回もジョルジュが自分から動く事はない。
ギコ自身の傷も浅くはないが、怒りを力に変えねば立っている事も困難なほど血を失っているジョルジュの比ではない。
それならば、ジョルジュが後の先を放つより早く終わらせる。最速の一撃で終わらせる。

王軍騎士『……』

すでに戦は王軍勝利の形でほぼ終結し。
剣を交えているのは彼ら2人だけになっている。
風も吹かず、衣ずれの音一つしない中。

一人の騎士が生唾を飲んだのと同時に、ギコが大地を蹴った。



100: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:24:41.38 ID:vA85jUMv0
二人の一騎討ちは、最初にジョルジュが仕掛ける形で始まった。
そして、幕を引くのはギコの疾駆。

(#,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!』

初速からトップスピードに乗った。
右肩からぶつかって行く様な突進がジョルジュに迫る。

対するジョルジュは長柄を両手で持ち、両足を大きく開いて半身に構えている。
何の工夫も感じられぬ構えに、ギコは勝利を確信した。

長刀の間合いまであと九歩。

あと七歩。

あと五歩。

ギコが地を滑らせる長刀の柄に、再度強く力を込めた瞬間。

(#゚∀゚)『…待ってたぜ!!テメェがこの技を出してくるのをよ!!!!!!!!』

グッと膝を沈めると、巨体にそぐわぬ敏捷さで地を蹴った。
ただギコを破っただけでは敗北の屈辱は拭えない。
自らの肉体に傷をつけた、【九紋竜】最速の剣技を討ち破ってこそ、その勝利に価値がある。

( ;,゚Д゚)『んだと!? ゴルァ!?』

予想だにしなかった【急先鋒】の強襲に、ギコは息を飲んだ。
その頭蓋目掛けて、ジョルジュは1000年の大樹すら薙ぎ倒す一撃を振り下ろし━━━━━



102: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:27:35.07 ID:vA85jUMv0














              ━━━━━キン















106 名前: 72秒規制とかなんだよ ◆COOK./Fzzo 投稿日: 2009/01/31(土) 00:29:43.77 ID:vA85jUMv0
(;*゚ー゚)『!!』

(  ∀ )『…………っ』

( ,,゚Д゚)『………ちっ』

時が止まったかのように全ての者が感じた。
剣先を大地に押し付けられていた刀身が、摩擦から解放されると同時に天高く振り上げられる。
乾いた音と共に断ち切られた長柄刀の刃がクルクルと回転しながら宙に舞い、罅割れた大地に突き刺さった。
そして。

(ii ∀ )『ぐおあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっぁぁっぁ!!!!!!』

数秒の時を置いて、横一文字に切り裂かれたジョルジュの胸から弾けるように血が噴出す。
【急先鋒】の一撃を弾く為に間合いの半歩先で地走りを発動させた故、必殺には至らなかった。
浅い。が、それでも威力は充分。

(ii ∀ )『ぉ…………ぁあ………ぁ』

瞳から色は消え、全身の力を失い、刃を失った鉄の長柄が手を離れてカランと地に落ちる。
倒れる事を拒むかのように。剣士の身体にもたれる様に意識を失ったのは、最後の意地か。
しかし、それでも。

( ,,゚Д゚)『終わりだ、ゴルァ』

熱い返り血に全身を赤く染めたギコが、意識を無くしたジョルジュの髪を鷲掴み、引き剥がした。
そう。あと一撃、長刀を左胸に突き立てるだけで全てが終わる。
ジョルジュの髪を掴んで膝立ちにさせたギコが、ゆっくりと高く掲げた黒刀を下ろした、その時━━━━━。

(ii ∀ )『……あぁ。終わりだ、筋肉チビ』



108: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:36:27.80 ID:vA85jUMv0
(;,゚Д゚)『なっ!?』

(#゚∀゚)『うらぁぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!』

ジョルジュの目に光が戻る。
ダラリと垂れ下がっていた両腕が素早く跳ね上がり、右手はギコの顔を。左手が長刀を持つ手首を掴んだ。
死を目前にしているとは思えない、万力のような馬鹿力で締め上げる。

( ,, Д )『ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!?』

ゴキリと手首の骨が砕け、剣士は思わず長刀を落とした。
それを見届けたジョルジュは、左手を手首から離し腰帯を掴み取る。

(#゚∀゚)『良い事を教えてやるぜ、筋肉野郎』

( ,, Д )『が、はぁ、ぐぁおぉぉぉぉ!!』

必死にもがき暴れても、ジョルジュの指は引き剥がせない。
頭蓋がミシミシと嫌な音を立てて軋んだ。

(#゚∀゚)『この世の中、普遍の真理ってヤツだ。
     良いか? 世界中に存在する全てのおっぱいには愛と理想が詰まってる。
     例え今は洗濯板でも、うちの陛下やあそこのしぃのおっぱいにも夢と理想が詰まってるんだ』

(#*゚−゚)

ギコは、腰帯を掴む指に更に力が込められるのを感じた。
力こぶが膨れ上がり、太い血管が浮き出る。
震える足で大地を強く踏みしめ、ジョルジュは立ち上がった。



112: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:41:30.47 ID:vA85jUMv0
( ,, Д )『テ…メェ、この期に及、でふざけ……』

(#゚∀゚)『黙って聞けよ。子供達はその母親のおっぱいから愛と理想を吸って成長する。
     そして、それは俺様やテメェも例外じゃなかった筈だぜ』

( ,, Д )『……』

ジョルジュはここで大きく息を吸い込んだ。
丹田に力を込め、残る最後の力を振り絞る。
一瞬、胸の傷から小さく血が爆ぜたが、それも気にしない様子だった。

(#゚∀゚)『だったら。それだったらよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!』

(;, Д )『な!?』

雄叫びとともに、ギコの身体が浮き上がった。
まるで重量挙げでもするかのように、ジョルジュが剣士を持ち上げたのである。
支点は顔面を掴む右手と、腰帯を握った左手の二点のみ。
にも拘らず、どんなにギコが両足をバタつかせようと、身を捩ろうともビクとも動かない。

(#゚∀゚)『だったら……そのおっぱいの成長を……夢と理想でたゆんたゆんに揺れるのを……
     おっぱいがないと生きられない子供達を……夜、おっぱいを揉む事だけを楽しみに仕事に励む男達を……
     垂れたおっぱいの婆様を……その婆様を何十年も愛し続けた爺様を……護るってのが……』

(;, Д )『テメェ、バ、カ、やめ……』

必死に暴れた。この姿勢から己の身に何が起きようとしているのか、野生の獣ですら理解できる。
もし、ジョルジュの巨体と馬鹿力から"それ"が実行されればどうなるか?
答えは一つだ。
そして。



117: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:48:49.89 ID:vA85jUMv0
(#゚∀゚)『その為に生きるってのが真の漢の道!!!!!! 本当の仁義ってもんだろうがぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

怒号と共に、ギコの身体を大地に叩きつけた。

(;*゚ー゚)『ひっ』

大気が震え、大地が揺れる渾身の一撃。
砂煙がジョルジュの巨体を隠すほどの高さまで舞い上がる、まさに全身全霊を注ぎ込んだ必殺の一撃。

王軍騎士『……殺した……のか?』

その呟きはおそらく戦いを見守る全ての者が思った言葉。だが。

(メ, Д )『こ……の、糞馬鹿力が……』

永遠に晴れぬとも思えるほどに濃い砂煙が消えた後。九竜の剣士は死んでいなかった。
罅割れた大地にめり込むようにして横たわりながらも、無理矢理に意識を保ち続ける。

(メ, Д )『教えろ……俺は……俺の生き方は……間違っていたのか?』

( ゚∀゚)『……あのな、筋肉チビ』

照れ臭そうに頭を掻きながら、ジョルジュは尻餅をつくように座り込んだ。背後に倒れこみそうになる身体を両手で支え、空を見上げる。

( -∀-)『人様の生き方に正解不正解を出せるほど、俺様は偉くねぇ。
     おっぱいを護るって最低限のルールさえ守れば、人の生き方なんて様々だ。でもよ』

(メ, Д )『……でも?』

持ち上がらない首を強引に動かし、騎士を見た。ジョルジュもまた、今まで殺しあっていたのが嘘のように笑いかける。



119: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:51:30.70 ID:vA85jUMv0
( ゚∀゚)『男ならでっかくよ、どこまでも高く生きるべきだと俺は思うぜ。
      例えば、テメェは餓えて倒れていた所を助けてもらったからジャックやダニエルに手を貸したと言ったな?
      その考えは嫌いじゃねぇ。
      でもな、腹に入れたその飯を育てたのは誰なんだ? 手を豆だらけにして作物を作るのは誰なんだ?
      人が人として生きる以上、仁義は守らなきゃいけねぇ。
      が、眼の前の事に囚われすぎて、本質を見失うのは……馬鹿らしいんじゃねぇかな』

(メ, Д )『……そうか』

力が抜ける。
大の字に横たわる、彼の上空には青い空。
ギコにはギコなりに、道を貫こうと決意させた過去があり。その為に戦ってきた。
しかし、初めて彼を破った男の声と、広い大空を見ているとそれがあまりにも些細な事に思えてきて。

(メ, Д )『俺の……負けだ』

呟き、意識を手放した。
それを確かに聞き届けたジョルジュもまた。

( ゚∀゚)『へっ。当たり前だ』

(ii ∀ )『俺様を……誰だと思ってやがる』

吸い込まれるように背後に倒れこむ。

(;*゚ー゚)『ジョルジュ!!』

王軍騎士『将軍!!』

薄れていく意識の中で、ジョルジュは駆け寄ってくる友の声を遠くに聞いていた。



121: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:55:03.24 ID:vA85jUMv0
         ※          ※          ※

( ,,゚Д-)『……ここは……?』

ギコが意識を回復した時。
目の前に広がっていたのは大空ではなく灰色の石天井だった。
視界がぼやけているのは、灯りが窓から差し込む月明かりだけだから、と言うわけではあるまい。

( ,,゚Д゚)『っ、痛ぇなゴルァ』

身を起こそうとして、全身に走る激痛に顔を歪めた。
彼が横たわっていたのは硬い台地の上でなく、日の香りがする清潔なシーツに包まれた寝台の上。
白い包帯が裸の上半身の所々に撒かれ、ご丁寧な事に割と気に入っていた無精髭まで剃り落とされている。

( ,,゚Д゚)『そうか……俺は負けたんだったぞゴルァ』

そこで剣士は思い出す。
しかし、それは敗北と言うには余りにも爽やかな記憶で。

( ,,゚Д゚)『ぁ?』

その時、彼は部屋の中央、座の背もたれに寄りかかる様にして寝息を立てている者の姿を見た。
その人物も、部屋に人が動く気配を察したのか目を開く。
灰色の瞳がギコを捕らえ、小柄な身体が立ち上がった。

(*゚ー゚)『……』

( ,,゚Д゚)『……しぃ、か』



124: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:57:31.31 ID:vA85jUMv0
( ,,゚Д゚)『酒か?』

喉の渇きを訴えるギコに、しぃは卓に置かれた水差しから透き通る液体を注いで手渡した。
一息に飲み干したそれは、薄めてはいるものの間違い無く酒である。

(*゚ー゚)『ジョルジュから』

(;,゚Д゚)『万年発情野郎からだぁ?』

それを聞いて、ギコはジョルジュもまた生きている事を知った。
いや、それだけでなく、この様な物を寄越す以上随分と余裕があるようにも思える。

(;*゚ー゚)『"戦が終わっても俺様の酒が飲めないなんて言うほど、き、き、きんた、"』

( ,,-Д-)『金玉小さくねぇだろう、かゴルァ。あの化け物め。やっぱり生きてやがった』

棒読みで必死に言葉を紡ぐしぃに助け舟を出した。
彼女の口下手で無口な性格は知り覚えている。
それでも、これ程までにしぃが声を出すのを初めて見たので、彼は内心驚いていた。

( ,,゚Д゚)『で、ここは何処だゴルァ』

(*゚ー゚)『ヴィップの城。十日間寝てた』

聞けば内乱は完全に終結し【金獅子王】ツン=デレは無事ヴィップ城に凱旋したと言う。
テネシー公ジャックとダニエルは討ち取った者の、残るもう一人の反乱首謀者エドワードは未だ消息を捕らえていない。
緒戦で敗れ、逃げ去った後から行方が知れなくなっているのだ。
しかし、テネシー公の兄弟は緒戦で勝利しても最後は破れ死亡しているのだから、そう考えればエドワードは運が良かったのかもしれず。
今も多くの将兵が戦で疲労しきった足を引きずって、その姿を探し続けていた。



125: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:59:34.78 ID:vA85jUMv0
(*゚ー゚)『ニイト?』

( ,,゚Д゚)『おう、ニイトだ。万が一の時はニイトに亡命できる…みてぇな事を話してた記憶がある』

寝台に並んで腰を下ろす女騎士に答えた。
このような夜更けに男女二人で寝台で座るのは、無邪気さがさせる物だろうか?
それとも、ギコが立つ事も難しい状態だと知っているからだろうか? もしくは、男として甘く見られているのであろうか? 
一番最後の答えであれば少々悲しく思うし、一人で立つ事は難しくても助けがあれば勃たせる事は出来ると思う。

自由騎士団の一つ【戦鍋団】を率いていたダディとフンボルトの二人がツンに降り、仕えているのはしぃから聞いていた。
彼女は多く人材を求めており、自分が丁寧な治療を受けている事からも、近く仕官の話があるであろう事は予想できる。
実際に会ってみない事にはどうしようもないが、それでもエドワードの逃亡先を隠しておくような義理も無かった。

( ,,-Д-)。oO(まぁ、それでも)

ジョルジュほどの男が忠誠を誓う人物である。
正式な将としてではなく、客将という立場であれば手を貸してもいいと思えた。

(*゚ー゚)『ギコ。ありがとう』

話を終え、下らぬ事やら真面目な事やらに没頭していると、しぃが静かに立ち上がった。
おそらく、ギコが目を覚ました事、エドワードの行方が分かった事を皆に伝えに行くのだろう。
そして。
月の光を浴びて、闇の中うっすらと銀色に輝く姿が美しくて。
敵として刃を交え、味方として轡を並べた記憶の何処にも無い姿がとても綺麗で。

( ,,゚Д゚)『しぃ……あのな』

気付いた時には、ギコは彼女に声をかけていた。



128: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:03:01.75 ID:vA85jUMv0
(*゚ー゚)『何?』

( ,,゚Д゚)『あ、あう、その、な?』

(*゚ー゚)『?』

何から話せばよいのか整理もつけていなかった為、金魚のように口をパクパクさせるギコ。
それを見たしぃは、細い腰を紐で縛った白い夜着の裾を押さえるようにして、再び彼に並んで腰を下ろした。

ギコにしてみれば、それは言わずとも良い事なのだ。
今まで、誰にも語る事は無く。心の中に押し留めたまま戦ってきた。
しかし、過去の自分を乗り越える為にも、それは誰かに話さねばならない気もしていて。
覚悟が決まらぬうちに、ギコはその誰かをしぃに選んでしまっていて。
困り果てて下を向けば、しぃの白く細い足が目に入り、また困惑して。

(ii,゚Д゚)『あ〜、その〜、ゴルァ、だ』

(*゚ー゚)『うん』

その灰色の瞳が語る。
自分は全てを受け入れてみせる、と。
それで剣士は腹を括った。

(ii,゚Д゚)『誰かに……、いや、お前に聞いてもらいてぇ事がある。……つまらねぇ昔話だ』

彼が語るのは、かつての彼の物語。
卓越した一人の剣士が、孤独を尊び、一匹狼として生きる事を選ぶ事になった過去の話。
瞳を閉じたギコは、深く埋めた記憶を掘り出すように、ゆっくりと話しはじめる。

( ,,-Д-)『俺は……元々メンヘルの生まれなんだ、ゴルァ』



130: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:06:19.43 ID:vA85jUMv0
(*゚ー゚)『うん』

それ自体は、さほど意外な話では無かった。
重なっては離れていく螺旋のような腐れ縁の中で、そのような噂は幾度も耳にした事がある。
事実、彼が南方訛りの話し方をするのを聞いた者もいたし、
乞食のような服装の剣士が頭に巻き付けているのは
ぼろきれの様になってはいるものの、確かにメンヘル族の成人男性が着用するターバンであったから。

( ,,-Д-)『俺の親父はちょいとばかし有名な坊さんでよ。聞き慣れねぇかもしれねぇが、小乗派。
      つまりは"己を磨く事こそ神に近づき平和に辿り着く道"って教えを説いてきた。
      その頃もメンヘルはモナーを頂点にした大乗派。
      まぁ、簡単に言えば"皆で頑張っていきましょう"みてぇなもんだな。
      そいつが主流だったから、モナーの野郎と衝突したり親父も苦労してたらしい。
      それでも、親父とお袋と小せぇ妹と。楽しく暮らしてたんだ』

(;*゚ー゚)『うん』

そんな【紅飛燕】でも、これは意外に過ぎた。
ギコの口から長々とマタヨシ教の宗派の違いを説明されるとは思ってもいなかったし、
統一王七英雄の一人としてメンヘル族全体を纏めた【指導者】モナーと衝突したとなれば、それは相当な実力者の可能性が高い。
何年も風呂に入っていないような乞食剣士が、実はお坊ちゃんであったと言われれば、それは目を丸くするしかない話であった。

( ,,-Д-)『でもな、親父が小乗の教えを説けば説くほど、親父の周りには人が集まりだした。
      親父の話に共感した連中だけじゃなくて、親父の力を利用したがる連中や、モナーから逃げてきたヤツも沢山いた。
      そんな馬鹿の為にも、親父やお袋は走り回ってたんだ』

(*゚ー゚)『うん』

( ,,゚Д゚)『そんな事をしてるうちにお袋は苦労が祟って倒れた。
      で、そのまま死んじまった。そんだけだ』



132: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:10:27.49 ID:vA85jUMv0
そこでギコは話を区切った。
続く言葉を、選びだす為の沈黙が続く。

(;*゚ー゚)『……』

しぃもまた、かける言葉を見つけ出せずにいた。
己克の教えを説く者が、それを理解しようとせぬ者達の為に奔走し、大切な物を失ったのだ。
あまりに皮肉な話ではないか。

( ,,゚Д゚)『……だから、俺は全てを捨てた。
      お袋の死の間際までクズどもの為に走り回ってた親父の面なんか見たくなかったし、
      それからもずっと態度を崩そうとしない親父には、裏切られたと思った。
      お袋が死んでも貫こうとした己克の教えを、俺だけは貫こうと決めた。
      妹は…まだ小さかったから可哀相な事をしたがな。とにかく、そうやって生きてきた』

そこまで話して、ギコは袖で目許を拭った。
閉じ込めていた記憶を取り出す毎に、感情の堤防が決壊して行く。
これ以上は言うべき台詞ではないと思った。しかし、一度口に出した想いは止まらない。

( ,,;Д;)『それでも!! 【急先鋒】に俺は負けた!!
      傷つき!! 大鎌も無く!! 本来互角の筈のヤツに!! 
      ヤツの想いの強さに俺は完全に負けた!! 負ける筈が無い戦いで、ムシケラみてぇに叩き潰された!!
      だから分からなくなったんだゴルァ!!
      親父は正しかったのか!? お袋は幸せだったのか!?
      大切な人間を守れなかったのに!! 大切な人間に守られなかったのに!!』

言葉は既に慟哭に等しく、ギコは両目を掌で覆い、うずくまった。
それが全ての物語。一人の人間が孤独に生きる道を選ばずにいられなくなった、悲しい物語。
野生の獣を思わせるギコの力強い肉体は、今や小さく背を丸め嗚咽に震えている。
だから、しぃは。



134: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:15:41.44 ID:vA85jUMv0
(*- -)『大丈夫。お母さんはきっと幸せだった』

両手で包み込むように、ギコの頭を抱きしめる。

( ,,;Д;)『……本当か? 親父に守られなかったのに……お袋は幸せだったのか?』

(*- -)『うん。でも忘れないで』

優しく諭すように、幼子に言い聞かせるように、ボサボサの髪を撫で付けた。

(*- -)『わたしもジョルジュもツンを守ってるだけじゃない。同時にツンに守ってもらってる。
     きっとギコのお父さんやお母さんもおんなじで。
     だから、大切な人の為に死ねたお母さんは幸せだったし、そんなお母さんと一緒だったお父さんもきっと幸せ』

( ,,;Д;)『そうか…そうかよ……良かった。本当に良かったぞゴルァ』

言ってギコはしぃの細すぎる腰にしがみついた。
怯える子供のような、自分より遥かに大きい男の頭を、しぃは優しく抱きかかえる。

ギコは知る。自身の人生を捻じ曲げた悲しい出来事の中で、それでも想いあった両親の愛を。
しぃは知る。剣士の人生を捻じ曲げた悲しい出来事の結末を、一人の男が今ここに乗り越えたのを。

( ,,;Д;)『それなら……俺も今からなれるかなぁ?
      親父みたいに……なれるかなぁ……』

(*- -)『大丈夫。ギコにはわたし達がいる』

それからの二人に言葉は不要だった。
一つになった二つの影を、月明かりがいつまでも優しく照らしていた。



136: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:18:11.60 ID:vA85jUMv0
         ※          ※          ※

( ゚∀゚)『ゆうべはおたのしみでしたね』

(#*゚−゚)『死ね』

傷口が交差するあたりを渾身の力で殴りつける。
一撃でジョルジュは泡を吹いて昏倒し、その背を踏みつけて赤い燕は玉座の間に向かった。
謂れの無い噂話に心乱すほどか弱くないが、避けられる面倒事はやはり避けた方が良い。
何よりも、口煩い老将の耳に入ったりなどしたら数刻は説教されるのが目に見えているので、ここでジョルジュの口を封じておくのは正しい結論だと思えた。

この内乱でヴィップは多くの人命を失った。それらは二度と帰らぬものであり、悲しみの声も決して小さくない。
しかし、【金獅子王】ツン=デレはギムレット高地に根付いていた旧貴族階級による反勢力を一掃する事に成功した。
ギムレットは完全に彼女の元に統一されたのだ。

統一王の後継を自任する2つの勢力、【評議会】と【金獅子王】。
王都デメララを拠点とする【評議会】との区別をつける為、ツンが自身らをヴィップと呼んでいたのは諸兄らも承知であろうが、
いつをもってその名を語りだしたかについては、歴史書に記述が残っていない。
それについて、『王が統一宣言を出した日』だと言う者と『ギムレット統一のこの日だ』と主張する者で意見が分かれているのは、この為である。

更に、この戦いでツンは有能な三人の将と戦士達を手に入れた。
【第六天魔王】ダディ。その副官フンボルト。そして【三華仙】が一人、月下剣士【九紋竜】のギコである。

残る内乱の首謀者はエドワードただ一人。
その逃亡先も判明し、この日の会議では彼の捕獲についてを中心に進められ、
最終的に【赤髪鬼】ヒートを主将、ダディを副将にした騎兵100のニイト領境への派遣が決定した。
エドワードが領境を越えていないなら良し。
もし領境を越えたとしても、内乱の最中に動かなかったニイトが動くとも考えられず。
また、メンヘルと何かしらの密約があろうとも、内乱が終わった今となってはニイトにエドワードを匿う必要性などない、と判断してである。
これで本当に内乱が終わり、しばしの平和が訪れる。全ての者がそう信じていた。



139: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:22:02.16 ID:vA85jUMv0
|;(●),  、(●)、|『これは……どう言う事でしょうか?』

ノハ;゚听)『あたしに聞かれても……知るか』

そして、その期待は脆くも裏切られる事になる。

今、彼女らの前に立ち塞がるは領境に沿って隊を揃える、ニイトの主力【天馬騎士団】。
その数およそ500。
白馬で統一された騎士達が、静かに命令の声を待っている。

爪゚∀゚)『悪いけど、エドワード殿はニイトの大事な客人ですヨ?
     もし、身柄を明け渡せと言うなら痛い目見てもらうしかないですヨ?』

その先頭に立つは、ミルクを多めに入れた紅茶色の髪と瞳を持った男装の女騎士。
長大な突撃槍・ランスを手にするニイト只一人の猛将【金槍手】リーゼ。

爪゚∀゚)『いや〜。リーゼとしてはむしろ戦いたいみたいな?
    "エドワードを奪えー、突撃ー!!"みたいな展開だと燃えるんですけど、駄目ですかね?』

ノハ;゚听)『五月蝿い……少し黙っててくれ。頭が栗を火に放り込んだみたいだ』

本心から戦いになるのを期待している風のリーゼ。
対するヒートは己の存在意義すら忘れたように呆然としている。

諸兄らはこの意味がお分かりであろうか?
『あの』ヒートが声を張り上げる事もせず、ただ立ち尽くしているのだ。

それは何故か?

それは━━━━━



143: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:29:05.05 ID:vA85jUMv0

ノハ;゚听)『どう言う事だ、貴様……裏切ったの……か?』










(;゚ ゚)『……ごめんなさいですお。理由は言えないけど……僕はヒートさんと戦いたくありませんお。
      ここは……黙って兵を引いて欲しいですお』








【金槍手】リーゼのすぐ横に。

銀色の髪を持ち、白衣白面に身を包んだ謎の瞬歩使い。
かつて彼女らを救い、ツンに味方である事を約束した幽鬼の剣士。

【王家の猟犬】を名乗る者、ブーンの姿を見出したからであった……。



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