( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

2: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 21:59:47.56 ID:RruG5sl60


     登場人物紹介


ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



8: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:03:44.94 ID:RruG5sl60
MAP 〜ここはとあるレストラン。人気メニューはナポリタン編〜

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_097369.jpg

@キール山脈 未開の地。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 現在、テネシー公らが起こした反乱の鎮圧中

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 メンヘルと画策し、ヴィップの内乱に乗じる筈であったが今も尚沈黙を守っている

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:06:17.90 ID:RruG5sl60


     第21章 白面の行方


爪- -)。oO(まずは予定より遅れてる給金の計算からね。あ、傷病兵の負担金計算もまだだったわね。
      そう言えば、最近また塩の価格が値上がりしたとか言ってたっけ。
      まったく、メンヘルも余計な事するなって言うのよ)

爪- -)。oO(……)

爪#- -)。oO(ああああああああああっ、もうっ!!!!!!)

時は夜。自室に運び込んだ陶製の湯船に浸かっていた女性が、苛立ちの声をあげてザブンと湯の中に沈みこんだ。
時間が時間ゆえ、もちろん声は心の中で出すに留めておいたが、それでも彼女が苛立っている事に変わりはない。
冷めかけた湯の中で膝を抱える彼女の口から気泡が漏れる。ミルクティー色の髪が、海草の様に広がった。
やがて、波立っていた水面が滑らかになった頃。

爪;- -)『ぷはっ』

ようやく気が済んだのか、女が立ち上がる。たっぷりと水を吸い込んだ髪を絞り、近くの座に放り投げておいた大きめのタオルを手に取る。
簡単に身体を拭ってから長い髪を包み、夜着を身にまとった。

爪- -)『……はぁ』

小さく溜息をついてから自分の背が知らず知らず丸まっていたのに気付く。それがまた彼女を憂鬱にさせ。

爪- -)『……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

自分でも分かるほどの大きな溜息をつくのであった。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:12:38.91 ID:RruG5sl60
爪゚ー゚)『全く。最悪』

思わず漏れた言葉も決して友好的なものではなかった。
彼女の名はレーゼ。ニイトが誇る勇将【金槍手】リーゼの双子の姉である。
レーゼは決して陰鬱な性格をしているわけではない。
多々にして規律にうるさく勝ち気な所はあるが、本質は秘めた優しさが魅力的な女性だ。
が、一日の業務の疲れを落とす湯船の中でも、明日の仕事について考えてしまうとなると、気も滅入ろうという物であった。

爪゚−゚)。oO(あ〜。クマ出来てるじゃない)

全身を映せる姿見を覗き込む。
決して明るいとは言えない室内でもクッキリ分かるほど、目の下が変色していた。
思えば昔ほど肌が水を弾かなくなった気がするし、髪も痛んでいるように思える。

とは言え、元々彼女は男達の目を惹きつけて止まない程度には美女である。
クマが目立つのも元の肌が透き通るように白いからに過ぎない。
それでも、昼間見た妹の肌と髪は艶やかに輝いていて。
思い出すと、産まれた日を同じくする双子の妹に女として差をつけられたように感じ、悲しくなるのだ。

もっとも。
彼女が山のような書類と格闘している時、もう一人は子供達と野を走り回っていた。
レーゼが仕事の手を休めるのを惜しんで簡素な"包"を胃に詰め込んでいる時、リーゼは市で買い食いを楽しんでいた。
姉が湯船の中で経済の動向に想いを巡らせている時、妹は高鼾で夢の中にいた。
如何に双子とは言え、これで差がつかなかったら嘘と言うものだ。
世の中の美容関係者は揃って破産する他無くなるだろう。

爪- -)『……はぁ』

かと言って。
それが彼女の慰めになる訳ではないのだが。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:15:23.70 ID:RruG5sl60
姿見を前にして、レーゼは夜着の腰紐を緩めた。
重ねになっているそれの前をはだけ、豊かな胸を顕わにする。

爪゚−゚)。oO(……)

細く括れた腰の線をしているわりに豊かな胸を、彼女は密かに気に入っていた。
衣服の形を崩すほど大きすぎる訳でもないし、形も決して悪くないと思う。

掌で包み隠すにはやや大きい胸を両手で恐る恐る持ち上げた。
二度三度、確かめるように揺らしてみて。

爪ii- -)『……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

またしても大きな溜息をついた。
明らかに弾力が落ちていて、本格的に老いが始まったかのような錯覚を覚える。

爪ii- -)『最悪だわ』

言いながら夜着を整え、腰紐を結びなおす。

爪#- -)『ホンッッッッットに。最悪』






( ´_ゝ`)『いやいや。そこまで言うほど悪くないと思うぞ。むしろ誇って良い』

爪#゚ー゚)『最悪ってのはね。貴方に言ったのよ。この覗き魔』



25: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:19:43.40 ID:RruG5sl60
( ´_ゝ`)『勘違いされても仕方ないがな、何も俺は覗きをする為に来た訳ではないのだ』

言って、貼り付いていた天井から音も無く着地する。
彼の名は【金剛阿】兄者。
かつてはメンヘル十二神将の第五位と言う高職にありながらも出奔し、今ではニイトの客将となっている男である。
どのような人物かと問われれば『見ての通りだ』と答えるしかない。

爪;゚ー゚)『全く。どうやってあんな所に……』

口に出すも、答えを聞き出すより早くレーゼは正解に辿り着いた。
天井に四本の杭が刺さっている。おそらく、あれに?まっていたのに違いない。

( ´_ゝ`)『いや、すまんと思っている。だが何せ、昼間はお前も忙しそうだったからな。
       止む無くこの様な時間に参上してしまった次第だ』

爪ii- -)『お気遣い感謝するわ。用件を明日にまわして貰えれば、もっと感謝できるのだけど』

言って寝台に腰を下ろした。
変態ではあるが、兄者は優秀な隠密であり、物事の順列を弁えた男だ。
レーゼが疲れている事も承知しているだろうし、その上で伝える事があって彼女を訪ねてきたのだろう。
で、あれば待たせてしまった事を申し訳ないと少し思うが……。

爪- -)『ところで……あなた何時からあそこで待っててくれたのかしら?』

( ´_ゝ`)『ん? あぁ、気にするな。お前が湯浴みをしようと服を脱ぎ出してからだ。
       見てれば暇も潰せたし、気にしてもらわなくても構わない』

爪#゚ー゚)『……って、最初から最後までじゃないの!!
     見てないで声かけなさいよ!! 変な気ぃ使ってないで、脱ぐ前に用件切り出しなさいよ!!
     つか、見てんじゃないわよ!! このど変態!!』



29: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:24:10.55 ID:RruG5sl60
爪#゚ー゚)『最悪!! あ〜、もうっ!! ホントに最っ悪っ!!!!!』

口にしながら苛立ちをぶつける様にゴシゴシと髪を拭いた。これほど気が昂ぶってしまっては今夜は眠れないかもしれない。
明日一日を徹夜で乗り越えねばならぬ可能性が浮かび、それが一層彼女の機嫌を悪くした。

( ´_ゝ`)『何を興奮しているのか知らんが、枝毛になるぞ。勿体無い』

言いながら兄者は水差しから碗に水を注いだ。懐から取り出した指先大の丸薬を放り込む。

( ´_ゝ`)『ほら。沈静効果のある薬湯だ。睡眠不足は乙女の敵、と昔から言うらしいからな』

爪#゚ー゚)『私の美容と健康の為には貴方が今すぐ消えてくれるのが一番なんですけどね』

言いながらも、美容の為と聞けば受け取ってしまうのが乙女の悲しさか。
口に含めば仄かに甘く、爽やかな香味が鼻から抜けていく。

爪゚ー゚)『あら、美味しいじゃない』

( *´_ゝ`)『お、そうか? そいつはな、肌の調子を整える"特製兄者汁"も入ってるんだ。何なら、あと十杯くらい作るか?』

爪;゚ー゚)『そんなに飲めないわよ』

考えてみれば、【金剛阿】兄者とはこのような男であった。
隠密としては優れていても、真性なのか確信犯なのか分からぬが人としてずれた行動を取る時が多い。
その癖、おかしな所で気が回り、細やかに物事を観察しているので、道化の仮面が本当に仮面なのか素顔なのか分からなくなる時がある。
ひょっとしたら、彼がここに来たのも本当は薬湯を渡したいだけかも知れず。本当は覗きなどしていないのかもしれず。

爪゚ー゚)『ま、いいわ。とりあえず、貴方の用件とやらを聞かせてちょうだい』

内心で少しだけ兄者の評価を高め、レーゼは口を開いた。



33: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:29:21.10 ID:RruG5sl60
爪;゚ー゚)『給金?』

( ´_ゝ`)『あぁ、そうだ。弟者の給金が少なすぎるように思える。賃上げ交渉というヤツだ』

爪;゚ー゚)『…………』

レーゼは、たった今高めた兄者の評価が急降下していくのを感じていた。
いや、むしろ足元からガラガラと音を立て崩れていく感覚に等しい。

爪ii- -)『……っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』

この日何度目かの。この日最も大きな溜息をつく。

爪ii- -)『あのね、兄者。私、とっても疲れてるの。今すぐ寝たいの。貴方の冗談に付き合いたくないの』

( ´_ゝ`)『何を言う。大事な話だ。給金の計算は明日中に終わってしまうだろうし、
       正当な報酬が無いのは士気にも関わる。当然お前の評価も下がる。違うか?』

それでも兄者は引く気が無いらしく。
馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、付き合ってやらねばならない様だった。

爪ii- -)『で。弟者君の給金なんて貴方にとってはどうでもいい筈じゃない。幾ら弟とは言え、過保護すぎるわ。
      弟者君が"自分が正当に評価されてない"と思うなら、自分で言うべきよ。違うの?』

( ´_ゝ`)『うむ。弟者自身は特に不満はないらしいが、先日金の無心を頼んだら断られてな。
       散々粘ったところ、給金が値上がりしたら貸しても良いという約束を取り付けたのだ。
       故に、値上げしてもらえねば俺が困る』

爪ii- -)『……兄の威厳が皆無じゃないのよ。最悪。本っ当に最悪』



36: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:33:55.88 ID:RruG5sl60
( ´_ゝ`)『別に俺の給金を上げてくれても構わんのだがな』

爪゚ー゚)『絶対駄目よ。クー様の許可が下りないわ』

( ´_ゝ`)『あぁ。俺もそう思う。多分今月も一度娼室に行ったらずっと水と中身の無い"包"だけの生活だろうな。
       だから、弟者が金を貸してくれねば本当に困るのだ。自給自足も構わんが、野草は喰いすぎると腹を壊す』

爪ii- -)『貴方ねぇ……もう少し金銭感覚を整えなさいよ』

心なしか頭がキリキリと痛くなったように感じて、レーゼはこめかみを指で押す。
本来、適正な給金が支払われていれば、兄者は毎夜毎夜遊び歩けるだけの力を持った男だ。
にも拘らず、彼は最低限の給金しか受け取っていない。
それは何故か?

( ´_ゝ`)『……あの時クーの部屋に忍び込んだりしていなければなぁ。
       返す返すもヤツが幼女だと言うデマを信じた自分を恨めしく思う』

爪゚ー゚)『命があるだけありがたいと思いなさい。お金で命を買ったと思えば安い物でしょ?』

二人の会話がその答えである。
兄弟がニイトに身を置く事になった経緯の中に、兄者がクーの部屋に夜這いをかけると言う事件があった。
結果、兄者は捕らえられ、今も半採用の形で保釈金を払い続けているという訳なのだ。

爪゚ー゚)『分かったらそろそろ帰ってくれないかしら。私、眠いのよ。
     明日の朝、鏡に映った顔がカサついてるのは嫌なのよ』

( ´_ゝ`)『いや、ダメだ。今のは俺の話ではないか。俺は弟者の給金について話をしに来ている。
       肌荒れが気になるなら兄者汁マシマシで薬湯を作ってやろう。
       とにかく、しっかりした答えを聞くまで俺は帰らんぞ』



38: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:37:47.55 ID:RruG5sl60
爪ii- -)『……貴方ねぇ』

最悪、と呟きつつ髪をかきあげる。

爪;゚ー゚)『って言うか、さっきから気になってたんだけど"特製兄者汁"って何なのよ?』

( *´_ゝ`)『知りたいか? それは高蛋白のだな……』

爪ii- -)『ごめん。やっぱり聞きたくない』

得体の知れない物を口にしてしまった自分を激しく呪う。
妊娠する事だけはないだろうと、レーゼは自分を慰めた。

爪#゚ー゚)『はっきり言っておきます』

( ´_ゝ`)『おう。ようやく本題だな』

誰のせいでこんなに長引いてると思ってるのよ、と喉まで出かかった言葉をグッと飲み干す。
両手を腰に当てて仁王立ち、触れあわんばかりの距離から頭一つ高い兄者の顔をキッと見上げた。

( *´_ゝ`)『おぉ。桃の吐息』

爪#- -)。oO(……)

気にしたら負けと自分に言い聞かせ、口を開く。

爪#゚ー゚)『将官達の給金に関しては、それぞれの能力・経験・実績・仕事内容を考慮して適正な金額を支給しています。
     よって、【金剛吽】弟者君の今月の昇給はありません。以上』

( ´_ゝ`)『……』



41: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:40:11.51 ID:RruG5sl60
(;´_ゝ`)『え? それで終わり!?』

爪#゚ー゚)『えぇ。給金の支給額は士気にも関わりますから。適切な数字をつけさせてもらってるわ』

仕返しとばかりに、レーゼは兄者の言葉をそっくりそのまま返す。とは言え、彼女は決して弟者を過小評価しているわけではない。
事務を任せればリーゼより手早くこなし、分を競えばレーゼなど手も足も出ない。
最近では一隊を率いて市の警備にもあたっており、バランスの取れた良い将に育ってきたと思う。
癖の強いリーゼや兄者に流されない常識人と言うのも彼女としてはありがたい。

しかし、見方を変えればそれまでなのだ。事務ではレーゼに劣り、武でリーゼに引けを取る。
兄のように周囲を驚かせる奇策を披露できる訳でもなく、戦略戦術においてクーのような大局を見渡す眼も持っていない。
悪い言い方をすれば、小さくまとまりすぎているし、兄の背に隠れて積極性に欠けると言うのがレーゼの判断だった。

(;´_ゝ`)『だが、な。弟者は“才能”は俺以上なのだぞ!!腕を失って以来消極的になっているが、本来の実力を発揮さえすれば……』

爪- -)『はいはい、分かったわ。それでは昇給の話は、弟者君が秘めた才能を開花させるまでお預けね』

(;´_ゝ`)『ぐむ』

そこまで言われれば兄者も口舌を垂れ流せない。

爪゚ー゚)『さぁ、早く出て行って頂戴。10数え終わるまでに出て行かなかったら、保釈金を二人分払う事になるわよ』

言い終わるより早く兄者の肩を掴むと、180度回転させて部屋の外に押し出した。

爪ii- -)『ふぅ』

もはや癖になりつつある溜息と同時に、身体が埋まるほど柔らかい寝台に倒れこむ。
その耳に何処か遠くから鳥のさえずりが聞こえてきて。
レーゼは小さく『最悪』と呟くのだった。



42: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:44:03.85 ID:RruG5sl60
         ※          ※          ※

川 ゚ -゚)『会議中に欠伸とは弛んでいるのではないか?』

爪;゚ー゚)『も、申し訳ありません!!』

噛み殺したつもりが、すっかりバレていたようだ。
慌てて立ち上がり頭を下げる。

爪゚∀゚)『うわぁ。リーゼは情けないですヨ? そんな子に育てた覚えはありませんヨ?』

( ´_ゝ`)『全くだ。けしからんな』

嬉しそうにはしゃぎ出す二人を、睨みつけて黙らせる。
主が視線を外すのを合図に、座に腰を戻した。

爪ii- -)。oO(……最悪)

結局、あれから一睡も出来ずレーゼは朝を迎えていた。
兄者特製薬湯の効果があったのか、自身で驚くほど肌の調子は良かったが、反して機嫌はすこぶる悪い。
今朝の報告でも、入ってくる筈の塩の量は予定を下回っていた。
聞けば、また値上がりしたのだと言う。
まだまだ倉庫に備蓄はあるが、このような事が続けばいずれ底が尽きるのであって。
それすなわち、彼女の役目が増えるという事であった。

爪゚∀゚)『ところでですネ? 何故どーして最近塩の値上がりが続いてるんでしょうかネ?』

(´<_`;)『貴様はこのニイトにいて、そんな事も知らんのか……』



44: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:47:26.94 ID:RruG5sl60
場所は玉座の間。
とは言え、両足を失い平時は四輪車を愛用しているクーの為、玉座は取り除かれていた。
純白の鶴縫に身を包み、羽毛扇を手にした王の両脇に平服の流石兄弟と男装の姉妹。二組の双子が腰を下ろす。
それが毎朝恒例の風景となっていた。

(´<_` )『まず、な。この島で出回っている塩はどこから来てるか……は知ってるよな?』

爪゚∀゚)『えと、確かシーブリーズが製塩権を持っているんですよネ?』

(´<_` )『それは民の生活を守る最低量だけだな』

アルキュ島に塩を供給しているのは南方の大国・神聖ピンクである。
その支援下にあるメンヘルはそれを北方の大国・ラウンジ帝国に送る為、ラウンジ支援下のリーマンに輸出。
同時に自国内の生活を守れるだけの塩を下賜され、リーマンに売却するだけの塩を買い取っている。

(´<_` )『それとは別に、神聖ピンクの塩商人というのもいる訳だ』

塩商人とは所謂、個人で塩の貿易を行う者達だ。
貿易の中間点を避けて北へ向かう事など出来ぬから、彼らは皆アルキュに寄港する。
そこで"税"の名目でメンヘルに正規の価格より安く塩を売り払い、残りを使いそれぞれのやり方で商売をするのだ。
メンヘルはこの『金蔓』を優遇したし、商人達も下手に逆らえば寄港禁止処分を受ける。
それでも大人しく"税"さえ払えば最低限メンヘル領内の安全は確保できたから、商人はこのルールに従ってきたわけだ。

爪゚ー゚)『昔は酷かったのよ。メンヘル領内を出た瞬間、野盗に襲われるとか当たり前だったから』

その彼らを警護するのも【戦鍋団】など自由騎士団の収入源であったが、やはり万全では無かったらしい。
酷い話では自身が雇った自由騎士団に荷財を奪われたという話もあり、無一文のまま異国で生を終える者も多かった。

(´<_` )『クーは各地にギルドを設け、情報網を整え、商人の安全を確保した。
       これによってアルキュ内で商売を望む者達は全てニイトを通す事になったのだが……ここまでは分かったな?』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:52:21.46 ID:RruG5sl60
爪;゚∀゚)『あうあうあーですネ? 分かったような分からないようなですヨ?』

(´<_` )『分からなくても進めるぞ。我らの収益源は主に2つ。
       ギルドから入る“税金”と“商品”を転売した差額だ。
       ギルドは商人から塩を買い上げ、各地に輸送して売り払う。こうして利益を得ているわけだな』

この場合、塩の輸送はギルドからギルドへ直接送られる場合と、一旦ニイトを経由する場合とに別れる。
このやり方は塩だけでなく、北の商人が扱う鉄や茶葉、絹などの日用品にも適用されていた。

爪ii゚∀゚)『えっと、それだと何でどーして塩の値上がりに繋がるんですかネ?』

(´<_` )『分からんか? 最近メンヘルがツン=デレにちょっかい出してるのは知ってるだろう?』

モナーの支援を受けたギムレットの旧貴族達が【獅子の都】ヴィップで内乱を起こしたという知らせは皆が知る所である。
ツン=デレは南のアマレットに逃げ落ち、メンヘルも【打虎将】ジタンを主将に1500の兵を出兵した。
ニイトにも連日のように合わせて兵を出すよう要請が届いている。

(´<_` )『つまり、手っ取り早く戦費を稼ぐ為にモナーが商人達から普段以上に安く塩を買い叩いた訳だ。
       そうなると、商人達も生活に困るから、我らに高く売りつける他ない』

爪ii- -)『“税金”払わせてるから、嫌なら余所に行けとも言えないしね。
      あの手この手で値を吊り上げてくるのよ。本当に困った物だわ。最悪』

言いながらも、レーゼは思った以上に弟者が満足できる答えを出してきた事に舌を巻いた。
短期間でよく勉強している。

爪゚ー゚)。oO(これなら、少しくらい色つけてあげてもいいかな)

そう思った。
もっとも、それは兄者に見つからないようにするのが最低限の条件ではあったが。



50: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 22:58:40.63 ID:RruG5sl60
川 ゚ -゚)『その件については私が対処しよう。鉄の供給を抑え、市場価格を吊り上げる事で金を吐き出させる。
      下手な小細工が出来んよう、圧力をかけてやらねばな』

ここに来て臣下のやり取りを見守っていたクーが口を開いた。
確かに最善の策はクーの出した市場捜査であり、むしろ他に方法はないようにも思える。

川 ゚ -゚)『では、今朝の本題に入ろう。先日、また輸送隊が襲われた。
     犯人不明。死者・実害共に無し。だが、ギルド内に明らかな動揺が見られる』

その言葉に一同はギョッと目を見開いた。
クーの柔らかく垂れた瞳も、不機嫌色に染まっている。

爪ii- -)『おかげで無駄な出兵しなくて済むのはありがたいんだけどね』

得る物の無いヴィップへの出兵要請を断るのに、突如現れた輸送隊荒らしの存在は渡りに船というべき物であった。
おかげで『自国領内で賊が暴れている為』と言う名目が立つし、事実であるから後も引かない。
お約束の『国主急病』を考えていたクー達にとってありがたい話なのだが、
自国経済の要であるギルド内で不安が囁かれているとしたら、これはもう放置できない問題だ。

爪ii- -)『犯人が分からないっていうのは不気味よね』

川 ゚ -゚)『うむ。犯行目的が見えぬ以上、なかなか手も出せんからな』

彼女らも当然、この謎の犯行組織の身元を追っている。
だが、現場に何一つ物証を残さず、影も形も見えないというのでは正直お手上げの状態だった。

爪゚∀゚)『ふふふ。でも、実はリーゼには犯人の目星がついているのですヨ?』

(´<_` )『あっそ。期待はしてないが言ってみろ』



53: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:04:09.16 ID:RruG5sl60
爪゚∀゚)『ズバリ!! 犯人はギムレットやネグローニを追われた山賊です!!』

(´<_` )『積荷を奪わぬ盗賊がどこにいる?』

爪゚∀゚)『メンヘルかリーマンの陰謀!!』

(´<_` )『メンヘルがニイトを混乱させる必要が無い。
       評議会とてダイオードの独立でそれどころではないからな。
       ネグローニ…いや、今はモテナイか。背後に位置する我らを貶めるより、関係を強めた方が得策だ』

爪>∀<)『怪奇!! 地底に住む第六の民族が……』

(´<_` )『貴様、もうどうでも良くなってるだろう』

地底人陰謀説はさて置き。
消去法的に削っていくと犯人は自ずと絞られる物である。
独立を表明したばかりのダイオードにその様な余裕は無いであろうし、
可能性があるとすればニイトと同じく島中に塩を供給しているシーブリーズか。
弟者がそのような事を考えていたその時。

川 ゚ -゚)『いや、二人ともそこまでで良い。おかげで犯人は絞り込めたよ』

( ´_ゝ`)『あぁ、俺もだ。確かに彼らには犯行に及ぶ理由がある』

爪ii- -)『そうね。内乱の最中にあるからって無意識のうちに除外してたのかしら。
     本来なら一番に疑うべきだったのに。迂闊だったわ。最悪』

爪;゚∀゚)『へ?』

一斉に口を開かれ、リーゼは目を丸くした。



56: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:07:32.85 ID:RruG5sl60
( ´_ゝ`)『まだ分からんのか、馬鹿。貴様もほぼ正解に辿り着いていただろう』

兄者が冷たい視線を送る。

爪>∀<)『ガーン!! 馬鹿に馬鹿って言われましたヨ?』

(´<_`#)『訂正しろ貴様!! 兄者は変態であっても馬鹿ではない!!』

( ´_ゝ`)『……』

爪#゚ー゚)『リーゼ、話が先に進まないから黙ってて!!
     弟者君、全然フォローになってない!!
     兄者は静かに凹まない!! どうして貴方は意味の分からない所で無駄に繊細なの!?』

故意に脱線しようとする三人を無理矢理軌道修正して、

爪ii- -)『……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

肺の空気を全て吐き出すような深い溜息をつく。

川 ゚ -゚)『お前らを見てると飽きないな』

爪ii- -)『クー様。弟者君があっちに回っただけでも大変なんです。
      貴女までとんちんかんな事言い出さないで下さい』

よく分からないという風に首を傾げてから、それでも一言『あぁ、すまない』とだけ告げ、クーは本題に入る。

川 ゚ -゚)『犯人はヴィップのツン=デレだ。まぁ、絵を描いたのは垂れ眉毛だろうが、
     薄汚い野良猫が、身の程知らずにも気高き狼の縄張りを荒らしていると見るべきだろう』



58: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:11:22.92 ID:RruG5sl60
クーの柔和な瞳が怒りの色を映し出した。彼女のツン=デレ嫌いを臣下の者で知らぬのはいないだろう。
正確にはクーが嫌っているのはツンの臣下。その者を側においているのが気に喰わないだけなのだが、閑話休題。

(´<_` )『ちょっと待て。ヴィップは今クーデターの対応で大忙しの筈だ。こっちに手を回す余裕はないだろう?』

爪゚ー゚)『いえ、だからこそ、なのよ』

首を傾げる弟者を見れば、大局を見る眼に欠ける事が嫌が応にも分かってしまう。
万事につけて深入りをしようとしない態度が、彼の視界を狭めているのだ。
何事も遠くから見渡すだけでなく、近寄らねば分からぬ事もある。

( ´_ゝ`)『メンヘルの圧力に負けて我らも兵を出したとしよう。
       それに1000の兵を割くのなら、最初から100の兵を使った方が良い。
       いつ我らが動くか怯えながらでは戦い方も制限されるからな』

川 ゚ -゚)『大方、小細工しか出来ぬ【天智星】の入れ知恵だろうよ。
     ヤツならば我らが出兵しても得る物が無いと考えている事くらい、容易に想像する筈だ。
     目の前にぶら下がった餌に、踊らされていたと言う訳だよ、我らは』

(´<_`;)『……なるほど』

そう考えれば、全ての線が繋がってくる。
出兵を渋るニイトに、“出兵できない言い訳”を作ってやるのが目的であれば、積荷自体の被害が無いのも納得だ。

爪゚ー゚)『どのような形であれ、ヴィップの内乱が収まれば解決に向かう筈よ。
     警備を強めて手出しできないようにすれば、目的は達成しているんだもの。無茶はしないはずだわ』

レーゼの出した案は、最も効率的な物だった。だが。

川 ゚ -゚)『あぁ。だが、それだけでは面白くないな』



60: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:15:19.86 ID:RruG5sl60
爪;゚ー゚)『ちょ、クー様!?』

川 ゚ -゚)『考えてもみろ』

クーはレーゼの言葉を遮り、言う。

川 ゚ -゚)『我らはただ踊らされて終わりか? 頬の一つも張り倒してやらねば気がすまない』

( ´_ゝ`)『俺もクーに賛成だな。奴らは我らの商売の邪魔をしたのだぞ。
       今後舐められない為にも、ギルドの信用を回復する為にも、ここは強く出るべきだ』

爪;゚ー゚)『あう〜』

クーの感情論は兎も角、兄者の意見は至極真っ当なものだ。
外交の世界において『舐められたら終わり』と言うのは昔も今も変わらない。
故に反論も出来ないのだが、

爪ii- -)『先に謝っておくわ、兄者。貴方が真面目な事言い出すと、その後にどんな馬鹿な事言い出すか怖いのよ』

それは昨夜自らの身に降りかかった不幸を思い出せば分かる事。

(;´_ゝ`)『そこまで馬鹿な事を言う気はないのだがな』

自身の過去の行いをそっくり棚上げするような事を呟き、続ける。

( ´_ゝ`)『ただ、今回の犯人探し。総指揮は弟者にやらせてもらいたいのだ』

(´<_`;)『え? 俺!?』

爪#゚ー゚)『ちょっと!! 貴方ねぇ……っ!!』



62: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:18:32.39 ID:RruG5sl60
弟者とレーゼ、二人の声が重なった。
レーゼの脳裏に浮かぶのは、彼女の睡眠時間を根こそぎ奪い取った、忌まわしき昨夜の騒ぎ事だ。
これで弟者が犯人を捕らえれば、給金額も上乗せせざるを得ない。

( ´_ゝ`)『何か問題があるか? 弟者が周辺の警備隊を率いる様になって随分立つ。
       将官としての実戦経験を積むにも、失敗が許される今回は良い機会だ』

(´<_`;)『あ、え? いや、俺は後方支援が向いていると言うか…あまり前には出たくないのだが』

( ´_ゝ`)『後方支援はレーゼだけで十分だろう。いずれ多くの兵を率いる為にも経験は積んだ方が良い』

兄者が垂れ流す口舌は"表面的には"ニイトの未来を考えたマトモなものである。
しかし、その裏にあるしょっぱい企みを知るレーゼとしては、どうしても兄者を応援する気にはなれない。

(´<_`;)『いや、だからな。そーゆーのは兄者とリーゼに任せてだな』

( ´_ゝ`)『弟者よ。よく考えろ。レーゼは算盤弾くしか能が無いのだぞ。その仕事を奪ったら可哀相だと思わんのか』

(´<_`;)『それは十分理解している。だが、それとこれとは別問題だ』

爪#゚ー゚)

所々に挟まれる子供染みた自分への悪口もあって、
つい『あの…』とか『その…』とか漏らす弟者を応援したくなる。
普段であればそのような態度を『女々しい』と一刀両断しているのだから、現金な物だ。

(#´_ゝ`)『全く、お前は変な所で意思を曲げん男だな!! 一体誰に似たのだ!?』

爪ii- -)。oO(どう考えても貴方でしょうに)



64: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:22:17.53 ID:RruG5sl60
川 ゚ -゚)『じゃれ合うのはその辺にしておけ、二人とも』

その言葉でレベルが低い言い争いは終わった。兄は渋々と。弟はホッと胸を撫で下ろしながら座に戻る。

川 ゚ -゚)『賊の捕獲については夜までに検討しておこう。レーゼは今日中に塩商人と再度価格調整をしておく事。
     兄者は各ギルドに積荷隊荒らしの犯人は目星がついていると連絡。弟者は念のため市場警備を頼む。以上だ』

爪゚∀゚)『リーゼは何をしていればいいんですかネ?』

川 ゚ -゚)『兵の訓練だ。終わったら市を探索して美味い“包”でも差し入れてくれればありがたい』

爪>∀<)『了解であります』

それでその日の朝の会議は終わった。騒がしくも日常の風景。
兄者が場をかき回して、弟者が常識の域を出ない発言をする。
リーゼが能天気さを発揮して、レーゼが大きな溜息をつく。全てを最後にクーがまとめあげるのだ。

ただ効率的に場を進めたいのであれば、全員が揃う必要も無い。
流れを乱す者は立ち入りすら許されぬだろうし、もっと杓子定規に行われる筈だ。
だが、彼らの中にこの騒がしい光景を本気で嗜めようと思う者はいない。

何故なら、これこそがクーの求めた景色だからだ。
戦乱で愛する者達を亡くし両足すら失った彼女が、戦い護ろうと決意した何気ない日常。
二度と戻らぬ事を知りつつも、心のどこかで奇跡を信じ、それにすがりつく事で生きてきた。

それを知っているからこそ、彼らは心から騒ぎ笑う。
偽善ではなく、弱さを抱えそれでも戦い生きる者を愛するからこそ。毎日を笑って生きようと思うのだ。

だから。だから彼らはこの日の夜、弟者の身に降りかかる悲劇を。
誰一人として予想できずにいた。



67: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:26:17.70 ID:RruG5sl60














(´<_`* )『ふむ。この三人が揃って犬耳になるわけか。この俺の心を燃え上がらせるのに十分な恩賞と言えるな』










( *´_ゝ`)『ですよねー』

爪;゚ー゚川;゚ -゚爪;゚∀゚)『   は い ?  』



72: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:30:30.96 ID:RruG5sl60
爪;゚ー゚)『ちょ、ちょっとどうしちゃったの、弟者君!! お願いだから正気に……』

(゚<_゚#)『黙れ、垂れ耳!! 不幸体質!! 俺は何時でも何処でも全力全開!! 噴火直前の火山が如く正気だ!!』

( *´_ゝ`)『素晴らしいぞ弟者!! それでこそ我が弟!! 最高だ!! 愛してるぞ!!』

+(´<_`* )『ふっ。俺もだ兄者。むしろ俺のほうが愛していると言って過言ではない』

やんややんやと煽り立てる兄者に、何故か歯をキラリと輝かせて笑いかける弟者。
この突然の豹変。誰が一枚噛んでいるのか……いや、誰が黒幕なのは間違いないだろう。

川 ゚ -゚)『わんわんおー』

爪#゚ー゚)『クー様まで何をやっているのですか!?』

川 ゚ -゚)『可愛いかなー、なんて思って』

爪#゚ー゚)『可愛いだけでは世間は納得しません!! 国主の威厳を忘れないで下さい!!』

顔の半分を口にして怒鳴りつける。
その行為自体が臣下たるものに許されるものではないのだが、それすらも彼女は頭になくなってしまっているようだ。

爪>∀<)『あのね、あのね!! 今日市で色々聞いてたら、明らかに商人じゃない人達がコソコソしてたんだって!!
    お釣りを誤魔化しても気付かなかったって言ってたから間違いないですヨ!?』

(´<_`* )『良くやったリーゼ。お前には立て耳……いや、立て耳はクーだから、蝶羽耳をやろう』

爪>∀<)『っしゃーーーーーーーーー!!』

爪#゚ー゚)『お願いだから、これ以上火に油を注がないで!!』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:36:29.89 ID:RruG5sl60
( ´_ゝ`)『今夜中にケリをつける。明日の朝を楽しみにしているんだな』

(´<_` )『尾の準備を忘れるなよ。尾の無い犬耳など“塩を入れ忘れたシチュー”のようなものだ』

それだけ言い残して【金剛阿吽】の兄弟は去っていった。
突如変貌を遂げた、弟者と言う名の台風が立ち去った後に残ったのは

川;゚ -゚)『なんと言うか……凄かったな』

愛用の羽毛扇を四輪車の足元に落としたまま、気付かぬクーと。

爪T∀T)『負けました……完敗ですヨ?』

ペタリと石畳に座り込み肩を落とすリーゼと。

爪ii- -)『常識人が……私の数少ない味方が……』

両手両膝を地についてがっくり項垂れるレーゼの三人……。
軽い気持ちで尻馬に乗ってみたクーは勿論。
ヴィップの【赤髪鬼】ヒートとは違う意味の騒がせ屋であるリーゼすら太刀打ちできぬ始末だった。

爪゚∀゚)『そう言えば、兄者が言ってたよ。“弟者は俺を遥かに超える才能の持ち主だ”って?』

爪ii- -)『“才能”の意味が違うわよ……』

変態。能天気。世間知らず。そして、目覚めてしまった天才。四人に囲まれた己の未来を思い浮かべて。

爪ii- -)『……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。……最悪』

【神算子】レーゼは深い深い溜息をつくのであった。



78: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:41:26.24 ID:RruG5sl60
         ※          ※          ※

( *^ω^)『ニイトはご飯が美味しいお』

(,,^Д^)『いやいや。お前さんが何喰っても美味いとしか言わねぇじゃねーか』

(#^ω^)

(,,^Д^)『サーセンwwwwwww』

ニイト城下に広がる大市場の一角には、旅の商人が足を休める安宿の密集区域が存在する。
その中の一つ、宿代が高くも安くも無い。部屋が綺麗でも汚くも無い。
つまり、ニイトに数多くある宿の中で最も特徴のない宿。その1階にある酒場で二人の男が鍋を囲んでいた。

頭に巻いたターバンと浅黒い肌を見れば、誰もがメンヘルから来た塩商人だと思うだろう。
しかし不思議な事に、彼らは朝一番で宿を出るのだが、荷を広げているのを見た者は誰一人いない。
更に注意深い者が居れば、小声で会話する彼らの声に南方訛りが含まれて居ない事に気付いただろう。

ところで、彼らが挟む鍋の中で煮え滾っているのは、熱いスープではなく油である。
そこに鉄串に刺した肉や野菜を入れ、“包”と呼ばれる蒸しパンに挟んでいく。
その後にチーズを入れ、蕩け出す寸前で引き上げたら、これも挟みこんで塩を振りかけ完成だ。

行儀悪く手掴みで口に放り込めば、まず蕩けたチーズの熱と甘味が襲いかかる。
その後に肉や野菜の旨味が、怒涛となって押し寄せてくるのだ。
高温の油で表面を固めた食材は中の水分が逃げ出さないから、咀嚼するごとに味が広がる。
最後に山羊の乳で割った酒を流し込み、次の一口に備えて口内を洗い清めるのが、正しい食べ方と言えた。

( *^ω^)『ハフッ、ハフハフ、モグッ、ゴクゴク、ハムッハフハグ、ゴクッ』

(,,^Д^)『わりぃ、大将。本気で引くわwwwwサーセンwwww』



82: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:47:56.75 ID:RruG5sl60
( ^ω^)『それよりプギャーは全然食べてないみたいだお?』

(,,^Д^)『おう。どーもこっちの味は好きになれねーんだわ』

今でこそ経済国家ではあるが、元々酪農を糧にする者が多かったニイトではあらゆる料理に乳が使われていると言って過言ではない。
前述の乳で割った酒やチーズの他にも、原乳を放置して水分と分離した乳脂肪を漉したクリーム、
バター、“包”にも乳が使われているし、米も乳で炊く徹底ぶりである。
かつてプギャーが居を構えていたデメララでも乳製品は食されていたが、そこでは癖の無い物が好まれていたし、
なによりニイトは彼にとって忌まわしい思い出に繋がる土地である事も匙の進まない一因となっていた。

( ^ω^)『そーかお? 僕は何だか好きな味だお』

(,,^Д^)『……お前さん、もしかしたら北の生まれなのかもな』

それは以前から思っていた事だ。
兵奴としてローハイド草原を中心に駆け回っていたにも拘らず、雪国への順応が早すぎる。
予想もしなかった雪に降られた時、誰に教わる訳でもなく靴に蔦を縛り付けて即席の滑り止めを拵える様は、
どう見ても気候の穏やかな南東部や雪など降らない南西部の出身者とは思えなかった。

( ^ω^)『どーだか分からんお。それに、ネグローニで訓練受けてた時はもっと癖が強いご飯食べてたお』

(,,^Д^)『飯の話だけじゃねぇよ、馬鹿』

( #^ω^)

(,,^Д^)『サーセンwwwwwwwww』

しかし、この記憶の無い青年にとって今は目の前の食事の方が大切な様であり。
プギャーは話題を本題に移す事にした。



85: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:53:07.22 ID:RruG5sl60
(,,^Д^)『そろそろ潮時だろうな』

言いながら串に刺した鶏の胸肉を煮えた油に漬け込む。
表面がキツネ色になったところで引き上げると、軽く塩を振って口に放り込んだ。

( ^ω^)『そうかお? 僕の見立てではもう一摘み塩をかけた方が美味しいと思うお』

(#,^Д^)『そっちの塩じゃねぇ。もう“良い子はお家に帰る時間だ”って話だ』

( ^ω^)『まだ食べ足りないお』

(#,^Д^)『お前さんは少し食い物から頭を離せ』

言ってギヤマンの碗に注いだ水を口に含む。
薄く檸檬の香味をつけた液体が、口内を洗い流してくれた。

(,,^Д^)『そろそろ撤退時だって言ってるんだよ』

( ^ω^)『分かってるお。やり過ぎたら本格的にニイト軍が動くかもしれないお。
       もう“出兵しない言い訳”には十分だし、明日の朝には撤退するお』

(,,^Д^)『おう、分かってんじゃねぇか。
     報告では姫さんもヴィップ城奪還に動き出したらしい。
     俺達にも仕事が回ってくるかも知れねぇからな』

殊更に声のトーンを落として会話する。
多くの酔客で賑わう酒場に、彼らの話を気に留める者は存在しない。
それでも、用心に用心を重ねる事に異論はなかった。



87: ◆COOK./Fzzo :2009/02/04(水) 23:56:41.63 ID:RruG5sl60
諸兄らも御存知の様に、彼らは塩商人などではない。
【天智星】ショボン、第二の懐刀。
獅子に害なす者の首を、闇にて喰い千切る伝説の猟犬。
【白衣白面】。
それこそが彼らの部隊名だ。

彼らはショボンの命を受けてニイトの撹乱に暗躍している。
この2人だけでなく多くの白面兵が商人に扮して市中に潜伏しており、隊長格の彼らは帰還の時期を話し合っていたのだ。
もっとも、彼らが“胡散臭い”人物だと言う事は多くの商人が気付いている。
何故なら、プギャーは商人にしては筋肉質に過ぎたし、ブーンはのんびりし過ぎていたからだ。
しかし、それに気付かず密談を続ける彼らを笑う事など出来まい。
気付いていても気付かぬ風を装い、聞こえぬふりをして聞き耳を立てる事に関して、商人に勝る者は居ないからである。

( ^ω^)『それじゃ、そろそろ僕は自分の宿に戻るお』

(,,^Д^)『おう。それじゃ、明日の朝な。寝坊するんじゃねぇぞ』

懐から銀片を三枚出して放ったブーンに、プギャーは言う。

(,,^Д^)『気をつけろよ。そろそろニイトの連中が動いててもおかしくねぇ頃だ』

( ^ω^)ノシ『大丈夫だおー』

自身より年配の副官にそれだけ告げると、白面の隊長は騒がしい店内を後にした。
そして、ねぐらにしている安宿に向かう帰り道。望んでもいなかった再会を果たすのである。



( ´_ゝ`)『なるほど。積荷隊荒らしの正体は貴様だったか、銀髪君。
       そうなると、裏にいるのはツン=デレで確定だな』



89: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:01:08.10 ID:dOu1dP6N0
(;^ω^)『【金剛阿呆】流石兄弟……』

( ´_ゝ`)『一文字違うがな。俺の名は【金剛阿】の兄者だ。気軽にあー君と呼んでくれて構わない。
       久しぶりに会えて“嬉しい”よ』

黒装束に身を包み、手斧を玩ぶ兄者の顔には柔らかい笑みが浮かんでいる。
が、その身を包むのは燃えるように明確な殺気。
ブーンは腰から護身用の短剣を引き抜いた。
一尺(約30cm)の刃は対峙する者と渡り合うにはやや不安が残るが、止むを得まい。

(;^ω^)『僕の名前はブーンだお。それにしても、何でニイトに……?』

( ´_ゝ`)『あぁ。今はメンヘルを出てこの国に仕えている』

(;^ω^)『そうだったのかお……』

何気ない会話を続ける風を装い、気を練りあげる。
【王家の猟犬】ブーンと【金剛阿】兄者。二人は過去の因縁で繋がりあう者同士だ。
かつて、バーボン城での戦いの裏で、ブーンは親友ドクオと共に流石兄弟と剣を交えた。
当時は【金剛】の兄弟に手も足も出ず、戦いは友の裏切りと言う形で終局を迎えている。

( ^ω^)『でも……僕もあの頃の僕じゃないお』

( ´_ゝ`)『ほう?』

言いながら青年は号砲を待つ短距離走の選手の様に腰を落とした。
精神を集中し、練りあげた気を丹田に溜める。
その口からは小さな声が漏れた。

(  ω )『……我は……猟犬なり……』



92: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:04:50.26 ID:dOu1dP6N0
(ii´_ゝ`)『っは!?』

瞬間。兄者の身体がくの字に折り曲がった。
続けて襲った衝撃に顎を跳ね上げられ、隠密は無様に地を転がる。

(;´_ゝ`)『瞬歩か!?』

身体の痛みを忘れるほどの驚愕が兄者を襲い、その驚愕は強い精神力でねじ伏せた。
瞬歩使いと戦う時の注意点は3つ。

一つは、その神速に冷静さを失わぬ事。

一つは、常に動き回って一箇所に留まらぬ事。

そして最後に、背を取られぬ事。

過去の経験と研究が、思うより早く兄者の身体を動かした。
立ち上がるより先に横っ飛びに石畳を蹴る。
コンマ0秒の時間差で、そこに短剣の刃が斬りつけられ火花を散らした。

( ^ω^)『ちょうどいいお。あの時の借りは返させて貰うお!! 命は助けてやるから安心するお!!』

( ´_ゝ`)『ありがたくて涙が出るな。九十二式っ!!』

叫ぶや否や、兄者は懐から取り出した鶏卵大の玉を足元に叩きつける。
爆発するような勢いで紫色の煙が立ち込め、その姿を覆い隠した。

( ^ω^)『無駄だお!!』



94: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:08:22.43 ID:dOu1dP6N0
石畳を蹴り、煙を横薙ぎに払った。
しかし、上下に断たれた煙の中に兄者の姿はない。

(;^ω^)『な!?』

『十五式っ!!』

ブーンの驚きの声と、側面から叫ばれた兄者の声が重なる。
咄嗟に振るった短剣が炎の投弾を両断し、爆音に飾り付けられた烈火の花を、宙に咲かせた。

( ´_ゝ`)『やるな。仕留めたと思ったのだが』

(;^ω^)『確かに危なかったお。わざわざ叫んでくれなかったら今頃こんがりだったお』

( ´_ゝ`)『だが、仕方ない。必殺技の名を叫ぶのは男の浪漫だ』

(;^ω^)『そーかお』

短剣の握りを確かめ、構えなおす。
深く静かに息を吸い込み、呼吸を整えた。
同時に乱れかけた気を集中しなおす。

(;^ω^)。oO(あれ? もしかして僕、押してるのかお?)

【金剛吽】弟者の姿こそ無いものの、かつては赤子の手を捻るように遊ばれた相手と善く戦っていた。
互角以上と言っても良いだろう。
自身の背丈がどれほど伸びたかと言うのは本人にはなかなか分からぬもので。
比較する対象があって初めて気がつく時の方が多い物だ。
初めて対峙した日から、数えて五年。
青年は自らの成長をようやく噛みしめていた。



97: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:13:05.17 ID:dOu1dP6N0
( ´_ゝ`)『いやはや、随分強くなったものだ。俺も修行の手を抜いたつもりはないのだが……
        速さだけならハインリッヒ以上かもしれん』

手斧の背でわざとらしく肩を叩きながら兄者が零した。
言葉の響きに嘘偽りはなく、素直な賛辞である。

( ^ω^)『そりゃどうもだお』

( ´_ゝ`)『だが、ここに立っているのは、この島で最も対瞬歩の戦術を学んだ男だ。
       ただ速いだけでは俺には勝てない。相手が悪かったな』

兄者の細く小さい瞳が一層細められる。
余裕綽々の態度が、僅かに青年を苛立たせた。
いや、事実として兄者は初激こそ受けられなかったが、その後は完全にペースを取り戻している。

(#^ω^)『勝手に言ってろお!!』

ブーンの身体が陽炎のように揺らめいたかと思うと、十歩の距離を一瞬で詰めた。
しかし、振るった短剣は兄者を捕らえきれず、彼が背にしていた水甕を破壊するだけに終わる。
陶製の甕の中には首元まで水を汲んであったのだろう。
石畳に水溜りが広がった。

(;^ω^)『お?』

( ´_ゝ`)『教えてやろう。これが銀髪君の弱点その@だ。お前の瞬歩は発動までに僅かなロスがある。
       ハインリッヒを想定して修行を続けてきた俺から見れば、避けるに十分な時間だ』

声の方を振り向けば、そこにはやはり距離を広く取った兄者の姿。
先程とは別の水甕に寄りかかるようにして立っている。



99: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:16:46.13 ID:dOu1dP6N0
( ´_ゝ`)『弱点そのA』

言って兄者は水甕を蹴倒し、真横に飛んだ。
次の瞬間には、距離を詰めた青年の短剣で水甕は叩き割られている。
遠く離れた山奥で眠っている獣ですら飛び起きるほどに派手な音が、夜の市に鳴り響いた。

( ´_ゝ`)『貴様、直線移動しか出来ないだろう?
       来るタイミングと方向が分かっていれば、避わすのは容易い』

(#゚ω゚)『うるさいお!! それならこれでどうだお!?』

あくまで冷静さを失わない兄者を前に、カッと頭が熱くなった。
彼とて自身の瞬歩の弱点は弁えているし、それを穴埋める為の戦い方も編み出している。
それすなわち。

( ´_ゝ`)『ぬ?』

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!』

それすなわち、高速での超短距離移動をジグザグに繰り返す事。
ツンと仮面越しの再会を果たしたオリーブ村の戦いで、多くの賊達を立て続けに切って捨てた戦法。
濡れた石畳を数歩駆け、急停止と同時に方向転換する事を数度繰り返し、手斧の届かぬ左方から斬りかかる。
だが。

( ´_ゝ`)『何をしているのだ、銀髪君』

(#)゚ω゚)『はぶっ!?』

高く跳ね上がった兄者の回し蹴りがカウンター気味に頬を捕らえ、青年は水飛沫をあげて石畳を転がった。



101: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:19:41.30 ID:dOu1dP6N0
(;^ω^)『な、何でだお……?』

顔中の泥水を拭い、立ち上がる。

( ´_ゝ`)『馬鹿が。タイミングと方向さえ分かっていれば、避わすのは容易いと言っただろう』

(;^ω^)『……お?』

( ´_ゝ`)『何の為に一面を水浸しにしたと思っている?
       あれだけ派手に水を蹴っていては、盲(めくら)とて貴様の位置を知るだろうよ』

(;^ω^)『っ!!』

地の利を支配して、『頃合い良し』と判断した兄者が転じる。
手斧を左手に持ち替え、右手にはそれぞれの指の間に挟みこんだ三つの投弾。

(#´_ゝ`)『十五式・三連!!』

(;゚ω゚)『おぅふ!?』

至近距離から投げられたのを、無我夢中で叩き落す。
立て続けに宙に烈火が咲き乱れ、ブーンは兄者の姿を見失い

( ´_ゝ`)『下だ』

(;゚ω゚)『お!?』

一瞬、体が浮いたような感覚の後、尻から石畳に倒れ込んだ。
爆炎を潜り抜けるようにして滑り込んできた隠密に足を払われたのだ。
それでも、横ざまに振るわれた顔面への蹴りだけは受け止めて、転がるように距離を空ける。



103: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:23:16.66 ID:dOu1dP6N0
( ´_ゝ`)『避わさなかった……いや、避わせなかったのか?
       どうやら、弱点そのB・時間内での使用回数制限も付け加える必要があるな』

( #^ω^)『うるせーお』

強がるものの、完全に形勢は逆転していた。
ハインを想定して身を鍛え、戦術を磨いたと言うだけあって、この分野では兄者に一日の長があるのは認めざるをえない。

速さでは勝っていても、ブーンの瞬歩法はハインのそれと比べて欠点も多い。
短時間で兄者に見破られた、発動までのロス・直線移動限定の他にも、
中短距離限定・気の消費が激しい・発動前に集中を必要とする等の短所も数多く抱えている。
その視点から見ても、より完璧に近い瞬歩の使い手と戦う為の修練を積んだ男は、難敵と言えた。

昨今の研究で、瞬歩法のメカニズムは“感情の爆発などによる肉体の限界解放の意識化”と解明されている。
要は『火事場の馬鹿力』を意識的に発揮する、と言えば理解も早いだろう。
特に、この『馬鹿力』を早く駆ける事に特化させた者が瞬歩法の使い手となりえる。
人によっては怪力・集中力・持続力など、どの分野に長けるかは違ってくるのだが
先天的に脚力に長けた肉体を持つと言う点では、給士も猟犬も変わらない。

二人の違いは、スタートラインにあるのだ。
ハインが訓練に訓練を重ねた後に瞬歩法を会得したのに対して、
ブーンはいきなりリミッターが全壊して暴走するところから始まった。
このリミッターがいつ壊れたのかはさて置き、本来は暴走する事しか出来ないのを“ある特殊な条件”をつける事で
肉体が破壊されない程度に能力を落としたのが、ブーンの瞬歩と言う事になる。

この“特殊な条件”が“鍵”と呼ばれる物なのだが、
これこそが高い能力を持ちながらも、青年の瞬歩に弱点の多い理由。
同じ瞬歩法でありながら、静と動、大きな違いがある理由とされている。



105: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:27:29.13 ID:dOu1dP6N0
話を戦場に戻そう。
猫だまし的な一撃で初撃こそ奪ったものの、ブーンは完全に後手に回っていた。
特に、一面に撒き散らされた水溜りが行く手を阻む。だが、青年に勝機がないわけではなかった。

(;^ω^)。oO(このまま勘違いしててくれれば……)

そう。兄者は一つだけ読み違えていた。ブーンの瞬歩に時間内での回数制限など存在しない。
発動までのロスタイム、つまりは“発動前に気を集中させる”必要があるだけである。

( ´_ゝ`)『困ったな。このままでは弟者が来る前に勝ってしまうぞ? 当初の目的こそ果たしたが、
       出来れば弟者に“初陣”は飾らせたい。どうすればいいと思う、銀髪君』

(;^ω^)『知らんがな』

注意深く周囲を見渡す。
兄者が“勘違い”してくれているのなら、あと一度は瞬歩による一撃を浴びせられる筈だ。
しかし、ただ瞬歩を発動させるだけでは石畳のそこら中に広がる水溜りが邪魔をする。
つまり、水飛沫を立てぬ方法が必要になる訳で。

( ^ω^)『……!!』

見つけた。一玉の飛沫もあげず、瞬歩を発動させる方法。

( ^ω^)『兄者。僕の瞬歩の欠点。良く見抜いてくれたお。勉強になったお』

大きく息を吸い込み、丹田に集中する。

( ^ω^)『でも、最後は僕の勝ちだお』

瞬間、地を蹴った身体は風と化した。



106: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:31:03.56 ID:dOu1dP6N0
( ´_ゝ`)『懲りずに瞬歩でくるか!!』

兄者とて一流の隠密である。
ブーンが最後の一撃を瞬歩に賭けてくる可能性は、当然捨て切っていなかった。
だが、地の利は完全に彼の物。広がった水溜りは━━━━━水面すら揺れていない。

(;´_ゝ`)『な!? まさか上……』

ここで初めて兄者は狼狽を顕わにした。
卓越した脚力を跳躍力に変えるのは、【天駆ける】を名乗るを許された者の特技である。
そして、夜空の中にも青年の姿は、ない。

(;´_ゝ`)『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』

横薙ぎに襲いかかった刃を手斧で防ぎとめたのは、殺気を感じ取った者の本能。
云わば偶然。運が良かったに過ぎず。

(;´_ゝ`)『き、貴様、壁を駆けて……っ!!』

(#^ω^)『大・正・解・だおっ!!!!!!!!』

不自然な姿勢からの一撃ゆえ、威力は浅い。
しかし、爆発的な瞬歩の脚力と全体重を乗せて振るった刃は、軽々と隠密の身体を吹き飛ばした。
石畳に嫌われているかのようにバウンドしながら地を転がる。
倒れ伏した身体からは完全に戦闘意欲が消え去っていた。

(  _ゝ )『……くそ』



109: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:33:38.58 ID:dOu1dP6N0
( ^ω^)『さて。悪いけど、明日の朝まで大人しくしててもらうお』

兄者の手を離れ転がっている手斧を、自身の背後へ蹴り飛ばした。
石造りの民家の壁を駆け、側面に回りこんでの一撃。我ながら完璧だったと思う。
商人が荷を纏める時に使う麻紐を腰袋から取り出し、ゆっくりと兄者に近づいていく。
しかし、【金剛阿】はしぶとく意識を保っていた。

(  _ゝ )『悪いが……何歳になっても落ち着きのない大人でいたくてね』

この期に及んでも軽口を吐きながら動かぬ身体を引き摺り、すぐ側の路地に転がり込んだ。
どんなに無様でも生き延びて情報を伝えぬく事。それこそが隠密の生き方であり、闇に生きる者の矜持。
害虫のように地べたを這いながらも、兄者は生にしがみ付く。

(;^ω^)『仲間を呼ぶ気かお!?』

ブーンもまた、兄者を追って路地に飛び込んだ。
だが。

(;^ω^)『……くそ』

星明りも届かぬ暗闇に青年は足を踏み入れるのを躊躇する。
民家の影になり、足元が舗装されているのかすら分からない。
そして、暗闇こそ隠密が住まう世界なのだ。下手に踏み込めば、どこから心の臓に刃が付きたてられるか知れたものではない。
それでも、今兄者を止めねば多くの仲間が被害にあうだろう。

短剣の柄を固く握りなおす。
元々、人が大っぴらに使う道ではないのだろう。
路地の入口付近に置かれた、大人がひとり入れるほどの甕の横をすり抜けて足を踏み込み……

『動くな』



111: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:35:48.74 ID:dOu1dP6N0
闇の中から響いた声に、青年は足を止めた。漆黒の奥。確かに人の気配を感じる。

『まさか、ここまで追い詰められるとは思わなかった。こちらも切り札を使うしかあるまい』

(;^ω^)『何を……言っているんだお?』

しかし、青年は思い出していた。
いくら道化の仮面を被っていても【金剛阿】兄者の正体は“手段を選ばぬ”隠密なのだ。
五年前初めて会った時も、彼らはメンヘルの利益の為にツンの身柄を拉致し、
バーボン城の戦いでは逃げるブーン達の足止めをする為に、宮女ミセリを捕らえている。

『分かっているぞ、銀髪君。随分と女性に甘いみたいだったからな』

(;゚ω゚)『お、お前……何を……』

背に氷を落とされたように感じた。
そう。この男なら、誰かを人質に取ることくらい日々の食事支度より軽くやってのけるだろう。
例えば、二人の斬り合いを路地の影から覗いきこんでいた、好奇心旺盛な少女を人質にするくらいは。
やがて、目が闇に慣れてくる。
果たして、そこに見たのは……【金剛阿】兄者の物とは違う、赤茶けた長髪━━━━━







∬ ´_>`) 『さぁ。武器を捨てろ、銀髪君。か弱き女性の命を救いたければ、な』

( ^ω^)『……』



117: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:38:55.92 ID:dOu1dP6N0
   『うぼぅぁ!?』        『おらぁっ!!』
         Σ ∬ ゚_> (┗┐(^ω^#)

青年の前蹴りを正面から顔に受け、黒装束に身を包んだ女(っぽい生き物)は吹き飛んだ。
ぬかるんだ地面に尻餅をつく。

∬;´_>`) 『なに!? 何なの!? 麗しき乙女の顔を蹴るなんて最低!!』

(#^ω^)『貴様は僕を怒らせたお』

短剣を鞘に戻し、ゆっくりと近づく。縛り上げて気絶でもさせておけば、朝まで誰も気付かないだろう。
あとは騒ぎが大きくなる前に、ニイトを後にすれば良い。

∬;´_>`) 『ちょ、ちょっと待った!! 俺、縛られるより縛る方が好きなんだ!!
      だからちょっと待てって!! 悪かった!! 俺が悪かった!! 話せば分かる……』

顔に足跡をつけたまま必死に後ずさるも、その速さはただ歩いているだけのブーンに到底及ばない。
?まる事を拒絶するように突き出した両手は、隠密の抵抗か。

対して、一歩二歩と距離を縮める青年の目は、その突き出した両手に注がれていた。
手斧を失い、ろくに立つ事すら出来ずとも、隠密には一発逆転の手段が残されている。
百を超す種類を誇る稀代の投弾兵器【兄者玉】。
しかし、前に出された両手は、それを取り出そうとする素振りもなくて。
ブーンは僅かな。ほんの僅かな溜息を吐く。
そして、その瞬間。

(;゚ω゚)『おぉっ!?』

突如、白い何かが放射線状に視界に広がった。それは青年の身体に絡みつき、大地に引き倒す。
ほんの刹那の時間の後。ブーンの身体は泥濘の中に転がっていた。



119: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:41:37.94 ID:dOu1dP6N0
(;゚ω゚)『お、お、おぉぉぉっ!?』

半ば放心状態で青年は自らの身に起きた異変を確認した。
それは網だ。
いや、ただの網ではない。臭水と風から作り出した、鋼の強度を持つ糸【鐵鋼糸】で編まれた網。
もがいても暴れても絶対に切れず、それどころか肉に食い込んでいく不断の捕縛兵器。

(;゚ω゚)『な、何でだお!? どうしてだお!!』

間違いなく、身を縛る網はあの時前方から襲いかかった。
しかし、隠密は何かを投げようとした素振りなど微塵も見せていない。人の気配は確かに一人分しかなく、
こうして動きを奪われた今も、そこには『してやったり』と言った顔の男が胡坐をかいて座り込んでいるだけである。

『やれやれ。まだ分からんか?』

いきなり頭上からかけられた声に、体を捻った。
そこには、路地の入口。置かれていた巨大な甕の中からにょっきりと顔を出す兄者の姿。
座り込んでいた男も立ち上がると、芋虫のように横たわるブーンの元に歩いてきた。
開いて見せた左手の掌は、皮膚が破れポッカリと暗い穴が空いている。

並び立つ二人の男を見て、ようやく青年は全てを理解した。

( ´_ゝ`)『瞬時に入れ替わった事を全く気付かせぬとは。流石だよな、俺ら』

∬ ´_>`) 『全くだ。しかし、銀髪君よ。初めて会う仲でもないのだ。
       鼻が高いのは、この俺【金剛吽】弟者だと言う事を覚えておくべきだったな』

( ^ω^)『…………』

(;゚ω゚)『きたねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!』



123: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:48:24.98 ID:dOu1dP6N0
∬*´_>`) 『“汚い”か。それは我ら隠密にとって最高の褒め言葉だな』

( ´_ゝ`)『全くだ。だが、ここは双子ならではのコンビネーションと言ってもらいたい』

言うや、兄者は身動きの取れぬブーンの身体を肩に担ぎ上げた。
そのまま暗い路地を出ると、濡れた石畳に放り投げる。
縛られたままでは受身も取れず、青年は『うぅ』と呻いた。

( ´_ゝ`)『諸君、待たせたな。もう出て来て良いぞ!!』

兄者の声に反応するように、それまで不自然なほど静まり返っていた民家の窓に光が灯る。
扉が開き、ぞろぞろと手に木剣や棒を持った男達が現われた。
その目には敵意の炎が浮かんでいて。

( ´_ゝ`)『憎むべき積荷隊荒らしは、この【金剛阿吽】流石兄弟が捕らえた。
       殺さぬ程度に痛めつけてやるが良い』

∬*´_>`) 『ヘイヘイ。顔は止めとけ。ボディにしな』

声も終わらぬうちに、男達はブーンに襲いかかる。
避わす事も受ける事も出来ず滅多打ちにあう中でも、青年は急所だけは守ろうと抵抗した。
しかし、それでも遂に側頭部に一撃を受け意識を手放す。

こうして、【王家の猟犬】ブーンはニイトの手に落ちたのである。





(  ω )『……スイーツ』



126: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:53:03.85 ID:dOu1dP6N0
         ※          ※          ※
∧ ∧
川;゚ -゚)『まさか……本当に捕らえてくるとはな』

翌朝。絶対不可侵である筈の軍議の光景は、2つの異物によって完全に侵略されていた。
そのうちの一つについてはすでに言うまでもなく。

Uii- -)『…………朝から最悪』
 ∧ ∧
爪>∀<)『わんわんおー!! 弟者君サイコーですヨ!?』

(´<_`* )『当然だ!! もっと俺を褒め称えるがいい!! 俺こそが新世界の神だ!!』

正体不明の積荷隊荒らしを流石兄弟が捕らえた事件は、空が白むのを待たずしてニイト城中に伝わっていた。
ブーンだけでなく、十数名の不審者の身も今では地下牢の湿った床に横たわっている。

爪゚ー゚)『でも、お礼を言うわ。これでギルドからの信用も回復できる』

ちゃっかりと犬耳を外しつつレーゼが言う。ついでとばかりに、立て耳と蝶羽耳も外してしまった。
彼女の言葉が示すよう、彼女達は完全に失った信用を取り戻したと言える。
更に『安全神話健在』を知った商人達の多くが“ご機嫌取り”の為か売価の値上げを撤回。
そこまで計算していたわけではなかった彼女らにとって、これは嬉しい『計算外』であった。

爪゚ー゚)『さぁ、今日は色々と算盤弾きなおさなくちゃ!! 忙しくなるわよ』

言いつつもレーゼの顔には満面の笑みが浮かんでいる。
【神算子】の異名を持つ彼女にとって、利益に繋がる労苦は幸福と意味を同じくするのだ。

爪゚∀゚)『まぁ、お金の話は守銭奴のレーゼに任せておくとしてですネ…?』



129: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 00:58:16.50 ID:dOu1dP6N0
爪*゚∀゚)σ『これ、どうするんですカ?』

彼女が指差したのは、車座になって座る五人の中央に置かれた巨大な麻袋だ。
大人がひとり入れるほどの大きさのそれは、口をしっかりと縛られ
瀕死の芋虫のようにもぞもぞと動いている。

( ´_ゝ`)『今回の騒動の犯人さ。しかも彼は騒動の裏にツン=デレがいる事を証明する重要人物でもある』

(´<_` )『で、これが宿から回収した荷物だな。残念ながらヴィップとの繋がりを示す物は見つからなかったが、
       なかなかに面白い物が入っているぞ』

暴れる麻袋を転がして車座から追い出すと、弟者はあらかじめ用意させておいた卓の上にズタ袋をドンと置いた。
そのまま口紐を解き始め、一同は興味深そうに中を覗き込む。

爪゚ー゚)『竹筒と…この袋はお財布か。没収。あれ? これは随分と変な武器ね』

( ´_ゝ`)『それは拐だな。統一王の時代にクリテロが使ってたとされる骨董品だ』

爪*゚ ゚)『このお面貰ってもいいですかネ?』

勝手な事を言いながら、青年の荷を漁る五人。
と、クーの動きが止まった。
柔らかく垂れた瞳は信じられぬ物を見たとばかりに大きく開かれ、身体が小刻みに震えている。

川  - )『……こ……れは?』

( ´_ゝ`)『あぁ、それは銀髪君が大事に首から下げていた物だ。毒でも入ってたらと思って取り上げた』

クーが手に取ったもの。
それは、ところどころが黒く変色した━━━━━銀の鈴。



135: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 01:03:05.28 ID:dOu1dP6N0
川  - )『…………け』

( ´_ゝ`)『む?』

川#゚ -゚)『今すぐに袋の口を解けと言ったんだ!!!!! 早くしろ!!!!!』

突然感情を顕わにしたクーの姿に、一同は飛び上がらんばかりに驚愕した。
彼らの王は孤高の白き狼。感情など最初から持っていなかったかのように現さなかったのが、今や錯乱したかのように声を張り上げている。
それでも慌てて麻袋に駆け寄り、固く縛られた口紐をほどいた。

川 ゚ -゚)『…………………ぁ』

(;^ω^)『………………ぉ?』

麻袋から解放され、猿轡も外された青年の眼に最初に飛び込んできたのは、白い朝の光。

川 ゚ -゚)『…………ぁ……ぁぁ……』

徐々に眼が慣れてくると、次に目に入ったのは四輪車に腰を下ろした黒髪の女性と、二組の双子。
黒髪の女は純白の鶴縫の下に、足全体を覆い隠すような腰布を巻きつけ、羽毛扇を手にしている。

川  - )『……ぅ……ぁぁぁ……ぁ……』

完全に視界が回復する。
そこでブーンは彼女の瞳が滲み、小さく開かれた唇が震えているのに気がついた。
その肌が新雪のような青白さを放っているのも、おそらく白光を背にしているからだけではあるまい。

川 ;Д;)『……ぅあ……ぉ……ゎあぁあ、ぁああぁぁあ……ぁぁああああぁぁぁぁ』

(;^ω^)『……ぉお?』



140: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 01:06:02.17 ID:dOu1dP6N0
爪;゚ー゚)『クー様!!』

レーゼの悲鳴が響く。
クーが立ち上がろうとして、四輪車から転げ落ちたのだ。
両膝から下を失っている彼女は顔面を床に直撃させ、それでも身を起こして嗚咽を漏らしながらブーンに這い寄って行く。

(´<_`;)『何が……どうなっているのだ?』

(;´_ゝ`)『……俺が知るか』

鬼気迫る表情の王に、双子達は助け起こす事も忘れて茫然と立ち竦む。
やがて、白い鶴縫を石床で灰に染め上げ、頬に擦り傷を拵えた彼女は、青年の元に辿り着く。
飛びかかる様に、その頭を抱きしめた。

川  - )『……かった』

(;^ω^)『お』

川 ;Д;)『会いたか、たと言…たんだ!!!! 何度も……っんども諦めて……絶望……て、
      れでも、それでも信じて……すがりつ、て、全部……もう一度会いたかっ、から!!!』

肺が壊れたかのようにしゃっくりあげても、それでも溢れる感情を抑えきれず叫ぶ。

川 ;Д;)『このよ、な髪でも…、には一目……分か、ったぞっ!!!!!
      さぁ、もっと顔を見せ…くれ!!!! 声を聞、せてくれ!!!!! 昔のよ、に私を呼んでくれ!!!!!』

そして、クーは彼の名を呼ぶのだ。
かつて、一度だけ夢の世界に現われた少女が呼んだ名を。

そう。すなわち。



142: ◆COOK./Fzzo :2009/02/05(木) 01:08:10.07 ID:dOu1dP6N0














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