( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 19:50:47.15 ID:0nVe/+QW0
 ・登場人物紹介

アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将

|(●),  、(●)、| 名=ダディ 異名=第六天魔王 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団団長

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団副団長



4: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 19:52:45.79 ID:0nVe/+QW0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。
 ニイトに潜入活動を行なっていたが流石兄弟によって多くが囚われ、投獄された。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



6: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 19:54:25.60 ID:0nVe/+QW0
MAP 〜個人的にCoolishのカフェラテがあればそれだけで幸せ編〜

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1136634.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 内乱の制圧に成功するが、国内ではニイト征伐の世論が異常なまでに高まりつつある。

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 ヴィップの動きに警戒しつつ、表面上では沈黙を守っている。

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



8: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 19:57:36.16 ID:0nVe/+QW0


     第24章 給士と隠密


(´<_`;)『すまない、兄者……俺が弱いばかりに……』

( ´_ゝ`)『気にするな、弟者。どうしようもない話だ』

その年、初めての雪が降った日の朝だった。
アルキュ島北部に位置し、北からの寒風の影響を強く受けるキール山脈は
年間を通して実に1/3以上が雪に包まれるという、厳しい自然環境下に支配されている。
それ故に求道者達にとって格好の修行場所であったのだが、彼ら以上にこの地に住み慣れた者がいた。
隠密、と呼ばれる者達である。

ネグローニが【戦士の街】なら、キールは【隠密の故郷】とも呼べる地だ。
外界から遮断された環境は身を潜めるにはもってこいだったし、各々が持つ隠密道の技術を磨くにも都合が良かった。

かと言って、キールに住む隠密達が日々憎しみあい、命を狙いあっていた訳ではない。
戦乱に明け暮れるアルキュにおいて隠密の力は確かに“高く売れる”商品だ。
が、“長”と呼ばれる隠密の指導者はそれを由としなかった。
彼らの持つ技術が戦乱を泥沼化させる事を恐れたのである。

故に、隠密達は外界で力を振るう時もする事は精々探索程度の物だったし、
多くの者達が戦乱から遮断されたこの地での生活を愛していた。

だが、しかし。
戦乱を憎んだ“長”は今、兄弟の足元で血の海に沈んでいる。
兄弟の。いや、彼らの“しあわせなひび”はこの時終わりを告げたのだ。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:00:47.91 ID:0nVe/+QW0
( ´_ゝ`)『傷に触るだろう。寝ていろ』

(´<_` )『……寝ている場合ではないだろう』

声を返す弟者の顔は透き通るほどに青ざめている。
思い返せば、鼻の高ささえ除けば二人は瓜二つの双子と噂されていた物だった。
しかし、それも過去の話と成り果てた。
何故なら弟者の左腕は肘からざっくりと失われ、巻きつけた包帯に血を滲ませていたからだ。

( ´_ゝ`)『……貴様がいた所で、何かが出来るというわけでもないのだがな』

どんなに冷たい言葉を選ぼうとも、その裏に秘められた優しさまでは隠し切る事は出来まい。
事実、彼らは運が良かったというべきだった。
住民200を越える周辺最大の集落。
そこに住まう者達の中で成人を迎えた者は揃って命を失い、子供達は一人として行方が知れない。
今、この地に立っている者は、偶然山に入っていた兄者と風邪をこじらせて寝こんでいた弟者の二人だけだった。

( ´_ゝ`)『……“泣き虫”も、か』

(´<_` )『……すまぬ』

軽く息を吐くと、兄者は腰につけた竹筒を鬱憤を晴らすかのように壁に叩きつける。
衝撃で筒が割れ、中に入っていた蜂の子が宙に飛び散った。
潰して、兄者汁と名付けた薬湯を弟の為に作ってやるつもりだった。
ついでに、虫を見ただけで泣き出す“長”の娘をからかってやるつもりだった。

だが。
彼らを兄の様に慕い、キール全体にその才能を知られた少女は。
雪山を兎のように駆け回った少女はもういない。



16: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:06:52.09 ID:0nVe/+QW0
(´<_` )『それにしても……何故子供達を攫う必要があったのだろうな』

弟者の疑問は至極当然な物であった。
子供達を人質に隠密を動かそうとするならば、大人達を殺す意味が無い。
何らかの怨恨による物ならば、子供達を生かしておく必要が無い。
しかし、兄者は解答をすでに見つけ出していて。

( ´_ゝ`)『……弟者は……あの男の事を覚えているか?
       半年前集落を訪れ、“生き人形”などという醜悪な者を操っていた男の事だ』

(´<_`;)『あ……と言う事は……まさか……』

( ´_ゝ`)『そうだ。この事件、最初から子供達が目的だったのだとしたら全て辻褄が合う』

子供とは言え、彼らは皆が皆隠密の技術を身につけている。
もし、彼らを“心無き人形”に変える事が出来れば、それは恐るべき戦闘集団となるだろう。

( ´_ゝ`)『皆を埋葬して……貴様の傷が癒えたら山を下りよう』

(´<_` )『……あぁ。分かっているさ、兄者』

師の仇を。共に過ごした仲間達の仇を討つ。
そして。




(´<_` )『……あいつは今頃泣いているやも知れん。いや、きっと泣いているだろうな』

( ´_ゝ`)『あぁ。この流石兄弟の名に懸けて。必ず助け出すぞ。……ハインリッヒを』



17: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:09:34.76 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

( ´_ゝ`)『……懐かしい夢を見たもんだな』

呟き、兄者は黒い前髪をくしゃっとかきあげた。
あれほど酔っていた筈なのに、今では嫌と言うほど頭が冴え渡っている。
それまでに、久々に見た夢が衝撃だったのか。
喉が渇いている事に気がつき、水を入れた竹筒の栓を抜いて唇に当てる。
背もたれ代わりにしている寝台は、あの日助けようと誓った少女に占領されていた。

( ´_ゝ`)『……』

音を立てぬように膝立ちになり、その顔を覗き込む。
熱はないが、顔中を汗で濡らし時折うなされる様な声を漏らしていた。
起こさぬように注意して、そっと柔らかい布で汗を拭ってやる。

( ´_ゝ`)『……貴様も昔の夢を見ているのだろうな』

額に貼りついた前髪を整えてやりながら思った。
【射手】としての彼女とは数度向かい合った事がある。
が、【給士】としてのハインと向かい合うのは、あのバーボン城の戦いが初めてで。
それでも一目で彼女と分かった。
目鼻顔立ちは随分と大人っぽくなった。
その割に体つきは大して変わっていなかったが、かつての少女が成長した姿がそこにはあって。
何も知らない者が見れば、彼女が過去【射手】と呼ばれ王都を悪夢の色に染め上げたとは信じられぬであろう



20: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:13:35.68 ID:0nVe/+QW0
もう一度水を口に含んで考える。

( ´_ゝ`)。oO(俺が山を下りたのは……)

師の。仲間達の仇を討ち、友を救う為だ。
が、若すぎた兄弟の旅路は、己らの未熟を痛感させただけであった。
幾度と無く苦杯を舐めた2人は、やがてメンヘルに身を寄せる事になるのだが……。

( ´_ゝ`)『……』

思えば、随分と紆余曲折したものだ。
憎き仇は闇に身を潜め姿を現さず、その手先と成り果てたかつての友達と刃を交え続けた。
個人の力に限界を感じ、モナーの下で十二神将となってからも想いを捨てた事はない。
隠密と言う立場を最大限に生かし、僅かに掻き集めた余暇で島中を歩き続けた。
いや。今ならば分かる。
歩き続けていた“つもりだった”。

( ´_ゝ`)。oO(目的と手段が入れ替わっていたのは……この頃だったな)

魔道に落ちた少女を救う為、力を求めた。
少女を止めると言う目的は、何時しか力を得るという手段に変わっていて。
気づいた時には神将という身分とシステムに縛られていた。

ハインがバーボン領においてショボンの庇護下にある、と知ったのはこの頃である。
不思議と、心は乱れなかった。
むしろ、自身が安定した場所に身を置いておける事に安堵した。

すでに、何故力を求めるのか。考える事も無くなっていて。
長い年月と繰り返される過酷が、かつて胸に抱いていた理想を磨耗させてしまっていたのだ。



23: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:17:48.14 ID:0nVe/+QW0
やがて転機が訪れる。

モナーの密命を受けて動いた、ツン=デレ拉致作戦。
その道中で思わぬ油断から王女を逃がした兄弟は、バーボン城で【給士】となったハインと再会する。
一時は有利に戦況を進めながらも、結果は圧倒的な敗北。
これが、消えかけていた心の火を再燃させた。

( ´_ゝ`)。oO(あれが無ければ……俺は今でもメンヘルに身を置いていたのだろうな)

かつての友は、何故に自分が遥かに届かぬ力を得ているのか。
自分はどうして強くなろうと思ったのか。
身を振り返る良い機会となった。

そして兄者はモナーとの別離を決意する。
謀略によって国力を高めようとするメンヘルのやり方は、今の彼にはあまりにも不向きだった。

( ´_ゝ`)。oO(ニイトに来れたのは……運が良かった)

当時、盛んに力をつけていたニイトは、兄者にとって理想的な環境だった。
全てを投げ打って理想の為に歩き続ける“白き狼”ニイト=クール。
そのギラギラとした野心は、かつて自分が失った物で。

深夜、クーの部屋に忍び込み必死に仕官を願った。
表向きは『夜這いに失敗した』事にしたが、自由に動く為にも高職につかぬのはありがたかった。

( ´_ゝ`)『……』



25: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:21:03.24 ID:0nVe/+QW0
兄者は思う。
アルキュ島の地下深くに根を張り巡らせた経済王国ニイト。
その力が強くなれば、狂信的なまでのラウンジ国交論者である“あの男”は必ずどこかで動く。
ならば、自身はニイトを離れるわけにはいかない。
影でクーを支えねばならない。

( ´_ゝ`)『全く。面倒な事だな、ハインリッヒよ』

誰に言うでもなく口にして、寝台に横たわる女の顔を覗き込んだ。
眉間に皺を寄せた寝顔は、お世辞にも良い夢を見ているとは思えない。

隣国ヴィップの力を削ぐのならば、ハインの身を拘束するべきだ。
あの【射手】を捕らえ処刑したとあればクーこそ王位を継ぐに相応しいと、大きなアピールになる。
何故なら【射手】は王都において数多くの王室派貴族を殺害し、評議会の台頭に影ながら貢献した存在だからだ。

( ´_ゝ`)『……しかし、それでは意味が無いのだよなぁ』

そう。
仲間の仇を討つ為に、友を犠牲にしたとあっては全てが無意味になってしまう。
ならば、全ての“真相”を知る者としてクーを説得するか?
いや、それも出来ぬ相談だ。
己の“しあわせなひび”を奪った者に向ける復讐心は、クーの大きな原動力となっている。
家族の生き残りである銀髪の青年と再会した今、もう一つの原動力を奪う事は兄者の目的から大きく遠ざかる事を意味していた。

( ´_ゝ`)『全く。あちらを立てればこちらが立たず。難儀な事だ』

その時、ハインが小さく呻き声を漏らした。
睡眠が浅くなっているのかもしれない。ならば、自然に目を覚ますまで寝かせてやった方が良いだろう。
床に尻を下ろした兄者は、寝台に寄りかかるようにして目を閉じる。
窓の外響く雨垂れを数えながら、隠密は再び深い思考の海に身を沈めていった。



26: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:23:18.92 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

【金獅子王】ツン=デレ拠するヴィップ城。
その城壁の内側、大通りに面した酒場の一角に二人の男が膝をつき合わせ座っていた。
かたや熊の様な巨体の大男。かたや岩を思わせるずんぐりした体格の男である。

( ゚∀゚)『……』

( ,,゚Д゚)『……』

二人の間には、彼らが体重をかけただけで悲鳴をあげようかと言うほどに粗末な木製の卓。
すっかり空になった酒壺に囲まれるようにして、場違いなまでに上質な紙が広げられており
彼らは額をぶつけ合うような格好でそれを覗き込んでいた。

( ゚∀゚)『……いいか、これだけは譲れねぇ。“大”こそ力。支配の象徴だ』

痺れを切らせたように熊男。【急先鋒】ジョルジュが口を開いた。
ゴツゴツした指で件の紙、おそらくはアルキュ島の地図であろうそれをトントンと叩く。

( ゚∀゚)『古来より“大なる者”こそが歴史を担ってきた。これは歴然の事実だ。
     それを知るからこそ勝者たらんとする者は“大なる者”を目指してきた。
     “小なる者”が天を取る事もあるだろうが、それは奇道にすぎねぇ』

言い終えてグイと杯を呷った。
対する岩男。【九紋竜】ギコは腕を組み、ジッと地図を睨みつけている。
その眉間には深い皺が刻まれ、問題が容易い物ではない事を語っていた。



30: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:29:08.15 ID:0nVe/+QW0
ヴィップ軍万騎将【急先鋒】のジョルジュと千歩将【九紋竜】のギコは、かつて戦場で刃を交えあった仲である。
共に瀕死の重傷を負わせあいながらも、戦乙女は最後にジョルジュに微笑んだ。
更に言えば、ジョルジュが平時にも拘らず簡易甲冑の上に純白の該当を着込んでいるのに対し、
ギコはボサボサの髪に無精髭、何時洗濯したのかも分からない外套を片肌脱ぎにしているといった風体である。
にも拘らず、共に“戦士”という点で認め合っているのか、この二人は馬があった。
ギコが客将としてヴィップに加入して以来、二人で酒場に篭もっている所が良く目撃されている。

彼らの主【金獅子王】ツン=デレはアルキュ王家の正統後継者でありながらも、
当時の勢力は微々たるものであった。
島の大半は多数派民族であるリーマンとメンヘルに牛耳られ、
残る僅かな地も経済を裏で支配するニイト・新興軍事国家モテナイ・海戦において無敵を誇る海の民に押さえられている。
彼女の支配地は“不毛の流刑地”と呼ばれた北の大地ギムレットのみであった。

どれ程奇麗事を並べようとも、戦略の最終目的は自国繁栄にある。
そして、その為に最も簡単な手段が“奪う事”だ。
方法は問わない。政治的にしろ軍事的にしろ、他者から“奪う事”が一番手っ取り早い。
この時の彼らは“奪う側”に立つどころか、“本気で奪うほどの価値も無い”弱者に過ぎず。
勝負の土俵にすらあがっていないというのが現状であった。

( ,,-Д-)『……』

が。
だからと言って、ただ奪われる日が訪れるのを伏して待つのか?
束の間の楽園生活に満足するのか?
否。それはありえない。

彼らが駆けて来た道程は、数え切れぬほどの死に彩られている。
全てを奪われる事を享受するには、彼らはあまりにも多くを失いすぎている。
生きると言う行為が、何かを失い何かを護る事の繰り返しである事を知る者は。
決して足を止める事を許されないのだ。



31: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:32:16.15 ID:0nVe/+QW0
町*゚ー゚)『……』

一人の女が彼らにそっと近づいた。
空になった杯に静かに酒を注ぎいれ、影の様に場を離れる。

( ,,゚Д゚)『だがよ、だからと言って“小さき者”がただ敗れ消え去るのみってのは納得いかねぇぞゴルァ』

そこでようやく【九紋竜】が口を開いた。

( ,,゚Д゚)『“小さき者”には“小さき者”の戦い方がある。
      何かしら“大なる者”に勝るもんがあれば勝負はわかんねぇぞゴルァ』

女は、幾度も眼前で繰り返された討論を飽きる事無く見つめていた。
彼女には政など全く分からぬ。
分かるのは、二人が互いの言を認めながらも、袋小路を破る為の討論を繰り返していると言う事。
そして、【暴君】エクスト亡き後もギムレットの大地から戦いが無くならなかったと言うことだけである。

町*゚ー゚)『……』

しかし、それでも構わなかった。
今、堂々と街中で政を語り明かせる。
そんな光景を目の当たりに出来る事が誇らしかった。
街を歩けば、明日を憂う声が聞こえてくる。
エクストの支配下で、ただ“生かされている”だけの頃は考えられない事だった。

昨今街中で高らかに叫ばれているのは、大半が『ニイト討つべし』の声である。
先の内乱において中立を守りながらも、首謀者であるエドワードを保護するニイト王国。
ヴィップの民達には、何故軍を動かさなかったニイトが今更になってエドワードを保護しているのか分からなかったし、
それ故に不安の声が強まっていた。



33: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:39:05.76 ID:0nVe/+QW0
民とて、彼らの王が周辺諸国と比べて一歩も二歩も出遅れている事は分かっているのだ。
立派な王だと思う。誇るべき主だと思う。
だからこそ歯がゆくて仕方が無い。
先の内乱においては、【天智星】ショボンの策や【白鷲】フィレンクトの活躍により、将兵の犠牲は極僅かで済んだ。
【戦鍋団】のダディやフンボルト、【九紋竜】ギコなど優秀な将も加入し、内乱首謀者テネシー家の領財を収める事で官庫も潤っている。
ならば、ニイトを討ちエドワードの身を奪い返して、内乱に完全なケリをつけようというのが多くの声であった。

が、上層部にもそれなりの動けぬ理由がある。
島内一の戦術家と謳われるニイト王【無限陣】クーであるが、その戦術は多くが謎に包まれている。
なにせ、彼女が実際に兵を指揮したのは同国内を荒らす賊に対してのみで、領国間の戦は未だ経験が無い筈なのだ。
経歴と言う面ではメンヘルの侵攻を防いだ七英雄【白鷲】フィレンクトや、【鉄壁】ヒッキーを再起不能なまでに叩き潰したモテナイの【黒犬王】ダイオードに軍杯が挙がると言っても良い。
にも拘らず、彼らの名声がクーを上回ると言う事は無かった。

不気味である。
そして、当時の彼らが知る由もなかったが、ニイトに加担した【白衣白面】の存在。
途絶えた【天駆ける給士】ハインからの報告。
その全てが、ニイト出兵を躊躇させていた。初めての強国との戦を前に、情報が圧倒的に足りなかったのである。

兵;゚Д゚)『も、申し上げますっ!!』

一人の兵士が酒場に飛び込んできたのは、そんな時であった。
具足を泥まみれにし、水を被ったような大汗に顔を濡らしている。
それだけで只事ではないと分かった。

( ゚∀゚)『何事だ?』

あれほど酒壺を空にしたにも拘らず、酔いなどまるで感じさせぬ風にジョルジュが立ち上がる。
しかし、兵士の報告は歴戦の勇将ですら予想できぬものであった。

兵;゚Д゚)『ニ、ニイト出兵を求める一部の兵と民が暴徒化!! 宮殿に押し寄せております!!』



35: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:43:57.06 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

暴#゚Д゚)『横暴だっ!! 王は広く我ら民の声を求めているのではなかったのかっ!?』

(´・ω・`)『……』

結局、暴動は半刻(約一時間)程で鎮圧された。
いくら、鉄の棒や刃を落とした剣で武装しようとも、所詮は指揮官無き烏合の衆である。
兵舎から出撃したフンボルト隊と、ギコ・ジョルジュに挟撃され30程の暴徒は一人残らず捕縛された。
そして今、中書令(立法長官)ショボンと司書令(司法長官)ジョルジュの元、取調べが行なわれている所である。

暴#゚Д゚)『今や、民の怒りは限界に達している!! 民と共に歩もうと言う王の声は虚言だったのかっ!?
     正義は我らにあり、非は反乱者エドワードを匿うニイトにある!!
     天下に広く“正義は我にあり”と宣するのは今しかない!!
     ニイトを討ち、覇道を進むのだ!!』

(´・ω・`)『……』

男が声高に叫ぶのを、天才と呼ばれた男は白眉を撫で付けつつ静かに聞いていた。

(´・ω・`)『良い事言うね。確かにその通りだ』

言って、座からゆるりと立ち上がる。

(´・ω・`)『君の言う通りだよ。我らが王は広く民の声を求めている。
      一部の支配者階級層による政の独占を王は望んでいない』

その言葉に、暴徒の男はパァと顔を輝かせた。
そして次の瞬間、凍てつくようなショボンの眼光に気付き、息を飲む。



38: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:48:58.07 ID:0nVe/+QW0
“権力の一点集中がこの島の混乱を招いた”とは【金獅子王】ツン=デレの言であるが、
この言葉は彼女が如何に優れた戦略家としての才を持っていたか。計る物差しとして多分に引用されてきた。
一部の歴史家から“ツン=デレは300年先の政治を先取りした”と讃えられるよう、
彼女は史上初めて君主の立場から政の分離を行なった人物でもある。

周囲に優れた人材が揃っていた、等の幸運もあろう。
が、司法・立憲・行政の三権を独立させ、科挙を取り入れることで貪欲に人材を集めようとした。
島の統一後、彼女の指揮下で設立された公立の学府には、民族や階級の差なく多くの若者が集まり、
今もなおアルキュを支える人材が巣立っているのである。

しかし。
これらの例に代表されるよう、政の分野において公平でおおらかだった彼女が唯一許さぬ物があった。
その“逆鱗”に触れた者は、ただ一人の例外なく死罪。
それこそが、現在もなお継続している“政の頂点として王家が存続している理由”と言っても良い。
それは。

(´・ω・`)『うん。だけどね』

━━━━━暴力による政治活動の禁止、である。

軍事行動を含む直接的な暴力は勿論、誹謗中傷などによる精神的な暴力も彼女は酷く嫌った。
戦時下の君主ではあるが、いや、戦時下の君主であったがこそ、彼女は暴力による解決が意味を持たない事を知っていたのだ。

君主制が民主政に大きく勝るメリットは、その即決性にある。
一人の人物が首を縦に振れば国全体が動き出すシステムは“朕は国家なり”の言に表れるよう、機敏さにおいて民主政の比ではない。
しかし、彼女はそのメリットを捨ててまで民主政への転機を計った。
それは“権力の一点集中”による悪政はそれ即ち民に対する暴力である、との想いがあったからに他ならないのだ。



41: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:52:44.57 ID:0nVe/+QW0
そして、それを知っているからこそショボンは目の前の男に憎しみを向けた。
一瞬の判断の過ちが命取りに繋がる戦時下の君主として、ツン=デレは失格かもしれない。
だが、彼らは彼女の持つ甘さを受け入れた。
その甘さに惹かれた。
だからこそ、王の許さぬ者を許してはならない。
力で他者を従わせようとする者は裁かねばならない。

(´・ω・`)。oO(…ま、本当なら僕が言えた義理じゃないんだけどね)

心の内で呟くと、白眉の戦略家は言葉を紡いだ。

(´・ω・`)『だけどね。君は手段を間違えた。政に異を唱えるならば、力に頼り民衆の不安を駆り立てるべきではなかった』

言葉に、男の顔からさぁと血の気が引く。

(´・ω・`)『断言しよう。暴力で政を動かそうとした君の行動はエドワードやテネシーの兄弟と何ら変わらない。
      君は我が国にとって憎むべき敵でしかない』

それで男は自らの過ちを知った。
脱力し、ぐぅと項垂れる。
その光景を見たショボンは、これ以上言う事はないとばかりに男に背を向け、
変わって沈黙を守っていた【急先鋒】ジョルジュが司法の長として、男の背後に立つ九竜の剣士に声をかけた。

( ゚∀゚)『……反逆者だ。首を刎ねろ』

( ,,゚Д゚)『……』

その言葉に頷いたギコが、抜き身のまま手にしていた漆黒の長刀を振り上げ━━━━━



42: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 20:57:02.38 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

( ゚∀゚)『……どうにも苛々すんだよなぁ』

(´・ω・`)『……何がだい?』

ツンへの報告を済ませたジョルジュは、今回の暴動鎮圧に加わった部下に“清め”の酒を配り休暇を与えた。
小規模な暴動とは言え、ヴィップの人間をヴィップの者が鎮圧するというのはあまり気分の良い物ではない。
今回の事件はテネシー公の時と違い、私欲によって生じた物ではなく国を思えばこそ生じた物であれば尚更である。
そして、自身の任を終えた大男は自らも酒壺を抱え義弟の私室に乗り込んできたと言う訳なのだ。

テネシー公の反乱は、ヴィップ国内に思いもしなかった副産物を与えた。
“民衆の政治への意識向上”がそれである。
旧支配者階級層の者であれ政治システムの移行に逆らう者は容赦なく処罰される。
それ即ち、どのような身分の者であれ流れについていけぬ者は切り捨てられる、という事だ。

これこそが“目上目線での改革”としてツン=デレが批判される材料の一つなのだが、
当時の人々はこのやり方を万感の拍手をもって受け入れていたとされている。
自らで悩み、考えねば先へ進めぬと言うのは荊の道かも知れぬ。
が、少数の支配者による悪政の下、ただ命を繋いでいるだけの日々を過ごしていた民衆にとって、
茨の中を歩む痛みは心地よい痛みだったのだ。

(´・ω・`)『確かに今回の暴動鎮圧は燃え上がっていた火に水をかけるような物だったからね。
     “名刀を鍛えるには鉄を赤々と焼け”というくらいだし』

それでも、ショボンは口にするほど悲観していなかった。
内乱前にツンが悩んでいた科挙への参加者は内乱終結後一挙に増大した。
それも今回の件で消極化するだろう。
しかし、焦る事はない。
鉄を赤々と焼くには、じっくりと時間をかけねばならぬのだから。



46: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:02:11.27 ID:0nVe/+QW0
( ゚∀゚)『いや、まぁ、それもあるんだけどよ』

言って、ジョルジュは酒壺の中身を口に流し込んだ。
杯を使う、というようなお上品な気分ではないし、この場にいるのは自身と義弟のみ。
比較的下戸の部類に入るショボン相手に酒を薦める必要はなく、ショボンもまた官女の入れた茶を年寄り臭く啜っている。

( ゚∀゚)『なんつーか、今回の“盛り上がり方”。おかしくねぇか?』

(´・ω・`)『あぁ、その事か』

意味もなく両手で包み込んだ碗をくるくると回しながら、ショボンは答える。
大局的見地にしろ、局地的見地にしろ、交戦の直後には厭戦感が漂うものだ。
当然例外はある。
が、内乱終結直後に民衆が他国出兵を訴えるのは異常であった。

(´・ω・`)『確かにこの“盛り上がり方”は僕も予想外だった』

答えながら思う。
数少ない“例外”。
それは、民衆を煽動している者が存在している場合だ。
だがしかし、少なくとも表立って民衆を煽り立てている者はいなかったし、

(´・ω・`)。oO(何者かが影で暗躍している?)

そう考えた彼は、思惟を追い払うように頭を振るった。
影で暗躍している者、それは己自身に他ならないではないか。あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。
と、そこで自分をじっと見つめる義兄の視線に気付く。
その瞳は心の深遠を覗きこもうとしているようで……。

( ゚∀゚)『……ショボン。お前、何を知ってやがる?』



49: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:06:16.04 ID:0nVe/+QW0
(´・ω・`)『……何も知らないよ。今回の暴動は僕にも予想できなかった事だ』

言葉に偽りはない。
確かに、今回のニイト出兵論を複雑化させている一因、【白衣白面】を密かに設立しニイトに派遣させたのはショボン自身だ。
その白面が何故ニイトに加担しているのか、給士からの報告が途絶えている以上下手に動く事は出来ない。
それでも、事態がここまで急展開するとはショボンですら思いもよらぬ事だった。

( ゚∀゚)『ま、いいか。慣れねぇ力を手にした者は、誰だって使い方に困惑するもんだ』

(´・ω・`)『……』

言ってジョルジュは酒壺に視線を移した。
その真意が『ま、いいか』で済む物ではない事をショボンは知っていて。
豪胆にして繊細な勇将がこの問題を放置するとは思えなかった。

兵,゚Д゚)『申し上げます!! 中書令ショボン様・司書令ジョルジュ様、陛下がお呼びです!!』

一人の兵士が部屋の木戸を叩いたのは、そんな時だった。
義兄弟は顔を見合わせ、立ち上がる。

( ゚∀゚)『このタイミングで陛下がお呼びって事は……』

(´・ω・`)『……おそらく出兵となるだろうね』

ショボンは、ニイト王クーが彼と彼の給士を憎んでいる事実を知らない。
【白衣白面】の存在を陽の下に晒すにも時期尚早であり、出来る事なら和平案を選びたかった。
そして【王家の猟犬】を名乗る青年に特別な関心を持つツンも同じ想いであろう。
もし、ニイトに出兵するとなればそれは天才戦略家と呼ばれた彼の思惑を大きく外れる事になり。
望まぬ宴卓に座らされている時の様な不快感を、ショボンは感じていた。



51: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:10:42.49 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

その日。王都デメララは激しい雨に包まれていた。
民家の明かりもすっかり落とされ、暗い夜道を一台の馬車がゆるゆると進んでいく。

( l v l)『すっかり遅くなってしまったな』

木貼りの室内で一人の男が呟く。
彼を照らすのは、天井から吊るされた小さなカンテラの灯りのみで、車輪が小石を踏む度にそれは頼りなさげに揺れた。

男の名はムネオゥ。所謂【王室派】と呼ばれる派閥に属する若い貴族である。
彼を乗せる馬車は、王都中心部に居を構える貴族の物としては些か小ぶりな物で、それが己に対する陰口の材料になっている事を彼は知っていた。

( l v l)。oO(なに、構うものか)

だが、彼はそのような中傷に負ける人物ではなかった。
日和見的に【統一王】と和解した多くのリーマン貴族層と違い、彼はヒロユキと肩を並べて戦場を駆けた古参の臣である。
王が急逝して数月、政局は大きく変わろうとしていた。
王の遺志を継ぐ者として現れた謎の人物ニダー。彼を中心とした【評議会】が政を牛耳り始めたのである。
【評議会】は幼い王女を【沈黙の塔】に幽閉し、北のラウンジとの通商条約を締結。
時を同じくして西のメンヘルは“聖遺物継承者”の肩書きのもと、【評議会】からの分離を発表した。
北のニイトでは【夢幻剣塵】モララーが王の義弟として南下の機会を窺っている。

そんな状況を思えば、無駄遣いに等しい馬車の改築など愚の骨頂。
御者台で雨に打たれている者と比べれば自分はどれ程恵まれているか。
ムネオゥとはこのような思考の出来る人物であった。



52: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:13:55.11 ID:0nVe/+QW0
( l v l)『止まれ』

ムネオゥが御者台に声をかけたのは、馬車が今まさに彼の邸宅の門を潜ろうとしていた時だった。
御者が持つ長竿の先に吊るされた、防水仕様のカンテラ。
その灯りが、一人の少女を照らしている。

???『……』

肩口でザックリと切り揃えた赤い髪は泥にまみれ。
身にする衣服は一枚布に首を通す穴をあけ、縄で腰元を縛っただけの粗末な物。
塗れた石畳に尻をつけ、抱えた膝に顔を埋めるようにして座っていた。

( l v l)『……親はどうした? 家はないのか?』

馬車の窓から顔を出し声をかけると、ようやく少女は顔をあげる。
硝子細工のように虚ろな瞳を見れば、問いに対する答えは自ずと知れてしまった。

( l v l)。oO(孤児か)

と、物騒になった王都を離れ郷里にいる妻子の事を思う。
同時に、路地裏の何処彼処で見かける浮浪孤児達の事も。

ムネオゥのような叩き上げの王室派貴族は、【急先鋒】ジョルジュに代表されるよう多くがヒロユキによって爵位を与えられた新興の貴族が大半である。
彼らは、かつて駆け回った戦場で多くの兵奴達と飯の釜を共にしてきた。
浮浪孤児の行く末など明らかである。
男は名も無き兵奴として戦場に散り、女は路上の花売りとしてはした金で身体を売り病に倒れていく。
それを知っているからこそ、ムネオゥには少女を放っておくことなど出来なかった。

( l v l)『……この娘を宅内へ運んでやれ』



54: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:19:13.62 ID:0nVe/+QW0
(*l v l)『お…ぉぅ……ふゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』

断言しよう。
この若い貴族の行為は、誠心誠意親切心から生まれた物だった。
冷たく汚れた身体を湯で洗わせ、彼の為に用意された温かいスープを少女に与えた。
彼自身は生の蒸留酒で身体を内部から暖め、読み慣れてボロボロになった戦略書を開いていた筈なのだ。

(*l v l)『……うぉあぁ……はぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

それが今、ムネオゥは寝台に腰を下ろし、堪えきれぬ喘ぎ声を漏らしている。
剥き出しになった下半身には、一糸纏わぬ姿の少女が顔を埋めていた。

娘がいきり勃った彼自身にざらりとした舌を押し付ける度、ぴちゃぴちゃと水面を叩くような音を響かせる度、
脊髄に電流でも流したかのように貴族の身体は震えた。

これは離れ暮らす妻に対する背信であると、頭では理解している。
しかし、初潮も迎えていないであろう少女の舌技は妻のそれとは比にならぬほどの物であり、
内股を熱く流れるような快楽に男は耐えるだけで精一杯だった。

(*l v l)『わ……私はそのようなつもりで君を助けたのでふぉぉぉぉぉぉ……ぉぉぉぉぉぉ』

熱に顔を歪めるムネオゥの目に映るのは、娘の傷で覆われた背中だ。
その右手は貴族の“塔”を優しく撫で回し、左手は少女自身の下腹部を激しく弄っている。

(*l v l)。oO(このような少女が……)

少女の行為だけで、彼女がどのようにして生を繋いできたのか想像できた。
弾け散りそうな快楽にムネオゥの意識が掠れる。
そして、次の瞬間。
娘の左手には━━━━━1振りの凶器が握られていた。



57: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:23:39.47 ID:0nVe/+QW0
( l v l)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

咄嗟に娘の身体を蹴り飛ばしたのは、戦場で磨き上げた敏捷性の成せる業であった。

( l v l)『か、身体の中に凶器を隠してっ……』

娘。いや、暗殺者と距離を空けたムネオゥは寝台の枕元に置かれた剣に飛びつこうとする。
が、それは叶わなかった。
猫のように床に着地した暗殺者が、親指で弾くようにして鞘を抜く。
そして一閃。貴族の両足の腱を断絶したのである。

(;l v l)『があっ!?』

そのままうつ伏せに倒れる貴族の上に馬乗りになり、髪を掴んで身体を仰け反らせた。
男の喉が弓のように張りつめる。

ムネオゥが最後に見たのは、逆手に持たれたナイフ。いや、それよりも遥かに小柄な、隠密が使用する投擲用の刃だった。
飛刀と呼ばれるそれを見て、男の脳裏に王都で囁かれている“噂話”が思い浮かぶ。

(;l v l)『貴様っ……まさか、闇に輝く射t』

しかし。優しき【王室派】貴族ムネオゥが、その異名を言い終える事は無かった。
暗殺者の刃が、彼の頚動脈を切り裂いたからだ。
壊れた噴水のように血を撒き散らし暴れる男の左胸に刃を突き立て、ぐしゃぐしゃに掻き混ぜる。
それでようやく、ムネオゥは絶命した。

???『……』

それからもしばらく。
暗殺者は、痙攣する男の死体を見下ろしていた。



58: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:29:24.99 ID:0nVe/+QW0
ムネオゥは相当に質素倹約を好しとする男だったのだろう。
邸宅内にも余計な者は居住しておらず、ムネオゥの老いた両親と彼の弟。庭番を兼ねた御者と、給士を兼ねたその妻。
それだけしか住んでいなかった。
つまり、射手にとってはたったの六人を皆殺しにするだけで良いという事。
ムネオゥ以外の者達は全てが隙だらけで、積み木遊びよりも容易く殺す事が出来た。

ムネオゥの死体を庭に放り出し、その胸に飛刀を突きたてる。
あとは家屋に火を放てば“作業”は終わり。
その光景を目にした者は、ただ一人の例外も無く凶行の犯人が誰か、思い浮かべるだろう。
血に濡れて永遠に紅き月。心無き暗殺人形。幼子ですら恐れさせる、【射手】と言う異名を持つ者。

それでも殺戮者は思う。
ムネオゥの子がこの場にいなくて良かった。もし居たのであれば殺さねばならなかった。
愚者の子とは言え、命さえあれば立ち上がる事も出来よう。

そう。彼女の中でムネオゥは愚か者だった。
時流に逆らい、忠義の言葉の元に王室にしがみつく愚図。
人は時流に逆らってはならない。考えてはならない。逆らえば、そこに歪みが生じる。軋轢が、争いが生まれる。
争いは……第二第三の彼女を生む。

厩舎の藁を邸宅内に撒き散らし、油をかけて火を放った。
一つの家族が護ろうとした幸せの象徴は業火に包まれ、娘はその場を後にする。
普段であれば、それで全てが終わる筈……であったが、その日その時だけは勝手が違った。
黒装束に身を包んだかつての友が目の前に立ち塞がったからである。

( ´_ゝ`)『……ようやく見つけたぞ、ハインリッヒ』

(´<_`;)『……これは……まさか、貴様がやった事なのか!?』

从 ゚−从『……兄者……弟者』



61: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:32:56.93 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

从 Д从『うわぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』

叫び声と同時に跳ね起きた。大きく肩を上下させながら、息を整える。
ゼェゼェと渇いた喉を通過する呼吸音に混ざって聞こえるのは、雨垂れが窓枠を叩く音。
雨は降っているが、彼女がいるのは自らが作りあげた惨劇の現場ではない。

从 Д从『……あ……あぁ……』

周囲を見渡せば、そこは木作りの小屋だ。
剥き出しの梁には、濡れた黒い給士服が吊り下げられている。
部屋の隅に簡単な竈(かまど)が取り付けられているが、それは調理の為に備え付けた物ではないだろう。
加熱処理を伴った何らかの研究・製作の為に使われているのであろう事は、食器や調理器具の類が全く無い事から推測できた。
彼女が横たわっていた寝台のすぐ横に置かれた卓は広く、それこそが部屋の主であるかのような印象を与える。
卓の上には蜂の巣や油の入った壺、厠の土を入れた桶、様々な粉末を入れた碗が乱雑に置かれており、
壁には何やら殴り書いたメモが所狭しと貼り付けられていた。

从 д从『……』

乱れた思考を整理する。
彼女━━━━━【天翔ける給士】ハインは、主の命を受け隣国ニイトに潜入していた。
そこで自身を仇とする【無限陣】クーと出会い、敗れた。
そして……

( ´_ゝ`)『む? 目が覚めたか、ハインリッヒ』



64: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:37:48.25 ID:0nVe/+QW0
从 д从『……あ』

全てを思い出す。
ブーンに救われ逃げ出した彼女は、頼る者も無く夜の街を彷徨い歩いていた。
そこで【金剛阿】兄者と再会したのだ。
伸ばした腕の指先すら見えぬ程に強い夜の雨に打たれながらの再会は、かつて彼女が【射手】と呼ばれていた頃の思い出と酷似していて。

兄者もまた、深く詮索しようとはしなかった。
ただ、『クーと会ったのか?』と尋ねただけである。
ハインの沈黙をもって答えと判断した彼は、何も言わず彼女を自身の住処に連れ帰った。
そして、濡れた給士服を引き剥がし小屋に一枚しかない毛布を巻きつけ、湯を沸かすと鎮静作用のある薬湯を処方したのだ。

( ´_ゝ`)『どれ、膏薬を変えよう』

言って卓上に置かれた壺を手に取る兄者に向け、ハインはスッと痛めた肩を差し出す。
肌を晒す事に不快感は無かった。
任務達成を絶対とする隠密である彼女にとって、それは必要であれば躊躇う要素など何処にも無い行動であったからだ。

( ´_ゝ`)『……弟者がな、犬好きに悪い人間はいないというんだ』

从 д从『……あぁ』

( ´_ゝ`)『と言う事は、だ。幼女好きにも悪い人間はいない。そうは思わぬか?』

从 д从『……ハインちゃんが万全だったら今すぐ殴ってるところだ』

体温で乾いた薬を湿らした布で拭い落とし、新たな膏薬を塗りつける。
その間、兄者はずっとその様な他愛も無い事を口にし続けていた。



65: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:41:45.04 ID:0nVe/+QW0
【金剛阿】兄者。
この男ほど後世の歴史家達による評価が分かれる男は存在しないと言っても良い。
奇人のようであって、深慮遠謀は当代星数多が如く存在した戦略家戦術家に引けを取らず。
罪も無い者を斬殺したかと思うと、ハインを助けたりもする。
弁舌家かと思えば、戦士であり隠密でもある。
【沈黙の塔】よりツン=デレを拉致した張本人でありながら、後世においての人気はジョルジュらに比肩する。

正に矛盾が服を着て歩いているかのような存在である。
故に歴史家達の中では“愛護心が強く味方になれば心強い存在であるが、敵に回すと厄介な人物”として認識されているが、
果たして実際にはどうだったのであろうか。

彼の中に存在する“ハインリッヒ”と言う存在は、一つ言葉で表せるほど簡単な物ではない。
“長”の娘であり野山で虫を見つけては涙を流していた“泣き虫”ハインリッヒ。
王都に暗躍した隠密の完成形【心無き暗殺人形】ハインリッヒ。
数年の時を空けて、心を持ちつつも強さを維持した【天翔ける給士】ハイン。
そして最後に、今彼の前で小さく背を丸めているハインリッヒ、である。

( ´_ゝ`)。oO(考えろ。何が最も良い方法なのかを)

以前、諸兄らに【金剛阿】兄者最大の武器とは何か、と言う話をした事を覚えているだろうか?
他に例を見ぬ特異な武具ではない。隠密としての技量でもない。
道化の仮面の下に隠された頭脳こそが、彼の最大の武器だ。
それは【天智星】ショボンや【無限陣】クーのように机上の理論を活用する物ではなく。
経験に裏打ちされた、より実践的な知識と言える。

( ´_ゝ`)。oO(くそっ)

しかし。
その彼をしても、現状最適な行動は何か?
答えを見出せないでいた。



75: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:49:16.81 ID:0nVe/+QW0
从 д从『……兄者?』

( ´_ゝ`)『ん? ああ』

と、そこで彼は背中ごしに振り返り、自身を見る目に気づく。
その肩を見れば、盛り上がるほどに膏薬が塗りつけられていた。

( ´_ゝ`)『あぁ、すまん。少し考え事をしていた』

言って、こんもりとした膏薬を手ですくいとり壺に戻す。
給士の肩に清潔な布と油紙を貼り付け、包帯を巻きつけてやった。

このような事をしていても、問題解決には繋がらない。
それは十分過ぎるほどに分かっているのだ。
が、どうすれば良い?

ハインを逃がすのは只の現実逃避に過ぎない。
もしそれが発覚した場合は、ヴィップに通じているとの疑いを持たれ首を刎ねられても文句は言えまい。

ならば、クーとハインの間を取り持つか?
それも出来ぬ。鉄仮面のような顔をして、クーは異常なまでの激情家だ。
そうでなければ自身の思い出の為に一つの国家を作りあげるような事は出来ないだろう。
ハイン共々刑場の梅雨に消えてお終い、だ。
もし、万に一つクーが納得したとしても、それは彼女の闘争心を削ぐ結果になる。
どちらに転んでも得は無い。

では、ハインを捕らえクーに差し出すか?
考えるまでも無く、下策中の下策だ。

( ´_ゝ`)『なぁ、ハインリッヒよ。貴様は一体どうしたいと思う?』



78: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:53:02.32 ID:0nVe/+QW0
从 д从『……え?』

(;´_ゝ`)『ぬ? あぁ、すまぬ。つまらない事を聞いた。忘れてくれ』

と、そこで兄者は自分が知らず知らず言葉にしていた事に気づいた。
しかし、それはハインにとっては“つまらない事”でも何でもないわけで。

从 д从『ハインちゃん……ハインちゃんは……帰りたい』

瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

从 Д从『帰りたいよぅ……御主人の所に……帰りたい』

( ´_ゝ`)『……』

両手で顔を覆った拍子にずれ落ちた毛布を肩に掛けてやりながら、兄者は決意した。
結局、彼にとっての彼女は【射手】でも【給士】でもない。
懐かしい日々。肩に青虫を乗せて涙を流している。“泣き虫”のハインリッヒこそが兄者にとっての彼女なのだ。
ならば、為すべきは一つしかあるまい。









( ´_ゝ`)『……帰りたければ帰るが良いさ』



80: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 21:56:47.41 ID:0nVe/+QW0
从 д从『……?』

【給士】を名乗ろうと、どれほど心身が傷つこうと、ハインの本質は隠密だ。
兄者が何故自分を保護したかは分からぬが、ニイトの不利益になるような事はしまい。
少なく見繕っても投獄。最悪の場合極刑も覚悟していた。

从 д从『……いい……のか? でも、どうして……?』

( ´_ゝ`)『……一つ、良い事を教えてやろう』

貴様は俺の妹のようなものだからだ、などと恥ずかしい台詞は口には出来ない。
だから、兄者はハインの問い掛けが最初から耳に入っていない、とでも言う風に言葉を続けるのだ。

( ´_ゝ`)『我ら兄弟がメンヘルを去って以来、神将の座には空きがあった。
       では、もしこの空席に誰かが座り、戦に敗れて逃げ込んできたとしたら……ニイトはどうすると思う?』

从 д从『あ……』

ヴィップの民がニイトを敵視しているのは、中立であった筈のニイトが反乱者エドワードを保護している、と言うのが最大の理由だ。
では、もしエドワードがメンヘル十二神将の一人にモナーから任命されていたのであれば?
当然、同盟国のニイトは彼を保護する他なくなる。
彼を拒む事は同盟関係の破棄。つまりは外交戦略にまで影響を与えるからだ。

そして。
もし、それが確かであればヴィップとニイトの衝突は回避できる可能性が生まれてくる。
外交上の処理。つまりは、エドワードをメンヘルに送還するという形で決着がつく話だ。
ヴィップがニイトに攻め込む理由は無くなるし、元々専守防衛を得意とするニイトがヴィップに侵攻する事もあるまい。
今であればまだ、剣を交えていない。戦は止められる。

( ´_ゝ`)『……これで、貴様はどうあっても帰らねばならなくなったな、ハインリッヒよ』



84: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 22:05:02.52 ID:0nVe/+QW0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

从 ゚∀从『兄者。ありがとうな』

( ´_ゝ`)『口先だけの礼などいらん。本当に礼を言いたいのであれば幼女の一人でも連れてきてくれ。
       出来れば俺を一目見た瞬間、頬を赤らめて「お兄ちゃん」と上目づかいで呼んでくれる娘が望ましい』

从#゚∀从『死滅しろカス』

数日後。
傷の癒えたハインは、兄者の小屋を後にした。
彼女には償いきれぬ罪がある。
給士がショボンと共に、ヴィップにいる限りニイトとの関係を簡単に良化するのは難しいだろう。

しかし、今の彼女にはヴィップからの侵攻を防ぐだけの情報がある。
ニイトがエドワードを保護しなければならなかった理由。
それが広まれば、民衆の不安は抑えられるだろう。
彼女が。彼女だけが戦を止められるのだ。

大きな絶望と引き換えに、より大きな希望を得てハインは駆ける。
思うのはヴィップとニイト、両国の未来だ。
ニイト公モララーの子でありながら自分を庇ったブーンと、密かに自分を匿ってくれた兄者。
2つの新しい国にはまだ、手を取り合える可能性が残されているのだ。

そして、給士はついに主と再会する。
━━━━━だが。



88: ◆COOK./Fzzo :2009/08/18(火) 22:13:55.66 ID:0nVe/+QW0



从;゚∀从『そんな……嘘だろ……御主人』

(´・ω・`)『……すまない、ハイン。遅かった……遅すぎたんだよ』

彼らが再会したのは、【獅子の都】と呼ばれたヴィップ城内ではなく。
国境間近、ニイト討伐軍の陣中においてであった。
暴走したと見られる兵の一部がニイト領内に侵入し、すでにお互い少数とは言え犠牲を出している。
ニイトもまたヴィップによる侵略行為を非難する声明を出し、
主力である【天馬騎士団】を中心とする本体を出陣させていた。

全ては遅すぎた。
いや。












民衆が暴徒化するほどに激しい、ヴィップ国内におけるニイトへの敵意が。

燃え上がるのがあまりにも早すぎたのである。



戻る第25章