( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

2: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:09:55.45 ID:UiiYW9gI0
登場人物紹介

アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将

|(●),  、(●)、| 名=ダディ 異名=第六天魔王 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団団長

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団副団長



4: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:13:31.83 ID:UiiYW9gI0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=斬見殺(義足) 階級=ニイト王

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(真名ニイト=ホライゾン) 異名=王家の猟犬 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=白衣白面隊長



7: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:19:06.67 ID:UiiYW9gI0
MAP 〜ローソン>セブンイレブン>ファミマだよな?編〜

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1157845.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 本隊の遠征中、謎の一団に襲われるが、ニイトの加勢もあり撃破に成功

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 謎の一団を討つ為に、ヴィップに加勢する

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



14: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:24:20.55 ID:UiiYW9gI0









━━━━━昔々のお話です。
       キールの山奥に、2匹の亀と1匹の兎が住んでいました。
       池の中を自由に泳ぎまわる亀を、兎は羨ましそうに見つめ。
       山の中を自在に駆けまわる兎を、亀は『いつかあのように走りたい』と思いながら眺めていました。
       それでも3匹は、楽しく暮らしていたのです。










     第28章 兎と亀 狼と猟犬 獅子の親子 そして最後に……



21: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:27:43.02 ID:UiiYW9gI0
( ´_ゝ`)『……何から話すべきかな』

長い一日が終わろうとしていた。
謎の一団から解放されたヴィップ城内では、多くの民が笑いあっている。
酒家は店を開放し、子供達は駆け回り、妻は夫との再会に。永遠の別れに涙を流す。
市の中心にある大広場では男達が女の手を取って踊り、宮殿裏の艶街では女達が酔客を奪い合っていた。

が。
その喧騒からポツンと取り残されたように、ヴィップ城王座の間は静まりかえっている。
宮女の灯した壁掛け式の松明に、飛び込んだ虫が焼かれる音さえ聞こえるようであった。

運び込ませた折りたたみ式の座に、円を描くように腰を下ろす一同の目は、ただ一人の語り手に注がれ。
その一挙一動すら見逃さぬよう、見つめている。
【急先鋒】ジョルジュが握り締めた竹筒を、すぐ隣に座るギコが奪い取り、グビリと一口。流し込んだ。

( ´_ゝ`)『とても……とても昔の話だ。
       長かった統一革命も終わり、この島は統一王ヒロユキの元、数百年ぶりの平和を謳歌していた。
       そんな頃、我ら兄弟は故郷シーブリーズを捨て、キールに移り住んだ』

ぽつりぽつりと語りだす。

( ´_ゝ`)『理由は……どうでもいいだろう?
       ただ、この腕に頼れる技術を身に着けたかった』

ξ゚听)ξ『……お父様が生きていらした時。アタシがまだ子供の頃ね?』

コクリと頷き、兄者はツンの言葉を肯定した。

( ´_ゝ`)『そこで我らは……出会ったのだ』



24: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:30:44.64 ID:UiiYW9gI0
・         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

???『……はぁっ…………はぁっ』

一人の少女が深い山中を駆けていた。
真っ白い木綿の衣を赤い帯でとめ、木の皮を叩いて作った靴を履いている。
熟れきった果実のように赤い髪は、後頭部で三つ編みにされていた。

少女『来るな……来るなよ……っ』

息を切らし、木の枝が服に引っかかっても構わずに走る。
茂みを飛び越え、倒木を潜り抜け。
怯えた表情で、ときおり背後を振り返りつつ、必死に走った。
山林を抜け、行く手を川が遮ったところでようやく足を止める。

少女『はぁっ……ここまで来れば……』

呟き、乱れた息を整えつつ周囲を見渡した。
目の前は小石が敷き詰められた川原。
川の対岸は切り立った崖。
追撃者が姿を隠せるような場所はどこにも無い。

少女『……ふぅ』

それで、ようやっと少女は緊張を解いた。
額に浮かんだ汗を手の甲で拭き取る。



27: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:33:08.75 ID:UiiYW9gI0
少女『のど……渇いちゃったな』

どこにも身を潜められない拓けた場所は、少女にとって格好の逃げ場所だった。
駆け足なら、集落の誰にも。
いや、この山の誰にも負けない自信がある。
“追撃者”が現れた瞬間に逃げ出せば?まる事はないはずだ。

少女『……』

それでも慎重深くきょろきょろと周囲を見渡しながら、少女は川に近づく。
先日の大雨で水かさは随分と増えており、流れもいつもより速い。
が、幸いな事に水はそれほど濁っておらず、十分に喉の渇きを癒してくれそうだった。

少女『よかった。これなら飲めそうだ』

腰帯に括りつけた小物袋から、竹製の水筒を取り出す。
『みず おいしいです』と書かれたそれは、王都に遊びに行った知人がお土産に買ってきてくれた、
少女のお気に入りだった。

もう一度周囲を見渡して、風で揺れる木の葉以外に動く物が無いのを確認してから少女は川岸に両膝をつける。
腕を伸ばし、無造作に水面へ水筒を近づけた、その時!!

少女『っ!!』

水中から伸び出た手が少女の腕を鷲掴みにした。
驚き、手から離した水筒が一瞬で流れに飲まれて行きそうになったのを残った手で掴み、
それはザバァと姿を現す。
前髪がべったりとくっ付いたその顔は、まるで幽鬼のようで━━━━━

男『ようやく……捕まえたぞ……ハインリッヒ……』



30: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:37:06.80 ID:UiiYW9gI0
从 ∀从『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』

深い山の中、少女の悲鳴が響きわたった。

男『……鬼ごっこは……終わりだ』

水中から裸の上半身だけを出した男から逃れようと、少女は暴れる。
しかし、その腕を掴む手は万力のように硬く締め付け、決して放しそうにない。
必死に男の顔を蹴り飛ばしたが、それも効果はないようだった。

男『諦めろ……お前の負けだ』

やがて、少女の足も捕らえた男は、ザブリと川原に上がる。
今の彼女は、正に蜘蛛の巣に捕らえられた蝶だ。
どれ程もがこうと、目的を果たした男が彼女を解放する筈はない。
やがて、川原の隅に一角だけ柔らかそうな砂地を見つけると、男は少女を投げ下ろした。

男『さぁ……お楽しみの時間だ』

从 ∀从『あ……あぁ……』

少女は怯え、すでに声も出せなくなっている。
濡れた髪をかきあげ、腰の袋から鶏卵大の玉を取り出すと、男はさも愉快そうに笑った。
そして、言うのだ。

( *´_ゝ`)『喜べ、ハインリッヒよ。今日は畑で新鮮な青虫君がたっぷり手に入ったぞ。心ゆくまで楽しむが良い』

从 ;∀从『嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!』



33: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:40:53.88 ID:UiiYW9gI0
(;´_ゝ`)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』

兄者の身体が錐揉み状に吹き飛んだ。
家の壁を頭から突き破り、そのまま動かなくなる。
  _、
从 , ノ` 从『フン。あたしの娘に何してくれてるんだい、全く』

パンパンと両手を叩き、埃を落としながら女が言った。
この女、とにかくでかい。
尻もでかければ、胸もまた自己主張が激しい。
彼女の前掛けを握り締めながら、ぐしぐしと泣いているのは、先程の少女だった。
  _、
从#, ノ` 从『アンタも何時までも泣いてるんじゃないよ!!』

少女の頭を軽く叩く。
  _、
从#, ノ` 从『アンタにはあたしの後を継いで、高岡流隠密術を極めてもらわなきゃならないんだ!!
      いつまでもそんな事でどうするんだいっ!?』

从 ;∀从『だって……だって……』

それでも少女は泣き止まぬ。
盛大な溜息をついて、まだ何かされたのかと問いかける母に、少女はこくりと頷いた。

从 ;∀从『鬼ごっこに負けたからって……したぎとられた』
  _、
从#, ノ` 从『兄者おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

咆哮する。
だがその時には、後に【金剛阿】と呼ばれる者の姿は、消え去っていた。



35: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:43:53.88 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

jハ*゚ー゚ル『生粋の変態ですわね。この世に一時でも存在してしまっている事すら汚らわしいですわ』

( ;^ω^)『……少しでも兄者を見直していた、過去の自分を殴ってやりたいですお』

(´<_` )『ここにいる全ての者に言っておくぞ。俺とこの男は一切の関係がない。赤の他人だ』

口々に非難が集中する。
が、兄者はそれを敢えて否定した。

( ´_ゝ`)『まぁ、落ち着け。この程度、甘酸っぱい青春の思い出に過ぎんだろう』

(#,゚Д゚)『油と松明持って来い!! 汚物は消毒だゴルァ!!』

ノハ#゚听)『この、ど変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!』

轟々と降り注ぐありとあらゆる罵詈雑言の中、兄者は『困ったな』と言う風に溜息をつく。

( ´_ゝ`)『人の感性はそれぞれだからな。俺も貴様らのそれを否定しないさ。
       だが、あの日までは本当に俺達はしあわせだったんだ』

それでも、兄者の口調は変わらない。
いや。むしろ更に深みを増したかのようで……。

( ´_ゝ`)『そう……あの日までは、な』



38: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:46:45.64 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

(´<_`;)『すまない、兄者……俺が弱いばかりに……』

( ´_ゝ`)『気にするな、弟者。どうしようもない話だ』

呟く声にも、力は無かった。

ネグローニが【戦士の街】なら、キールは【隠密の故郷】とも呼べる地だ。
外界から遮断された環境は身を潜めるにはもってこいだったし、各々が持つ隠密道の技術を磨くにも都合が良かった。

かと言って、キールに住む隠密達が日々憎しみあい、命を狙いあっていた訳ではない。
戦乱に明け暮れるアルキュにおいて隠密の力は確かに“高く売れる”商品だ。
が、“長”と呼ばれる隠密の指導者はそれを由としなかった。
彼らの持つ技術が戦乱を泥沼化させる事を恐れたのである。

故に、隠密達は外界で力を振るう時もする事は精々探索程度の物だったし、
多くの者達が戦乱から遮断されたこの地での生活を愛していた。

だが、しかし。
戦乱を憎んだ“長”は。あれほど強かった“長”は今、兄弟の足元で血の海に沈んでいる。
彼らの“しあわせなひび”はこの時終わりを告げたのだ。

それは。
その年、初めての雪が降った日の朝の出来事だった。



40: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:48:52.22 ID:UiiYW9gI0
( ´_ゝ`)『傷に触るだろう。寝ていろ』

(´<_` )『……寝ている場合ではないだろう』

声を返す弟者の顔は透き通るほどに青ざめている。
思い返せば、鼻の高ささえ除けば二人は瓜二つの双子と噂されていた物だった。
しかし、それも過去の話と成り果てた。
何故なら弟者の左腕は肘からざっくりと失われ、巻きつけた包帯に血を滲ませていたからだ。

( ´_ゝ`)『……貴様がいた所で、何かが出来るというわけでもないのだがな』

どんなに冷たい言葉を選ぼうとも、その裏に秘められた優しさまでは隠し切る事は出来まい。
事実、彼らは運が良かったというべきだった。
住民200を越える周辺最大の集落。
そこに住まう者達の中で成人を迎えた者は揃って命を失い、子供達は一人として行方が知れない。
今、この地に立っている者は、偶然山に入っていた兄者と風邪をこじらせて寝こんでいた弟者の二人だけだった。

( ´_ゝ`)『……ハインリッヒも、か』

(´<_` )『……すまぬ』

軽く息を吐くと、兄者は腰につけた竹筒を鬱憤を晴らすかのように壁に叩きつける。
衝撃で筒が割れ、中に入っていた蜂の子が宙に飛び散った。
潰して、兄者汁と名付けた薬湯を弟の為に作ってやるつもりだった。
ついでに、虫を見ただけで泣き出す“長”の娘をからかってやるつもりだった。

だが。
彼らを兄の様に慕い、キール全体にその才能を知られた少女は。
雪山を兎のように駆け回った少女はもういない。



44: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:51:24.08 ID:UiiYW9gI0
(´<_` )『それにしても……何故子供達を攫う必要があったのだろうな』

弟者の疑問は至極当然な物であった。
子供達を人質に隠密を動かそうとするならば、大人達を殺す意味が無い。
何らかの怨恨による物ならば、子供達を生かしておく必要が無い。
しかし、兄者は解答をすでに見つけ出していて。

( ´_ゝ`)『……弟者は……あの男の事を覚えているか?
       半年前集落を訪れ、“生き人形”などという醜悪な者を操っていた男の事だ』

(´<_`;)『あ……と言う事は……まさか……』

( ´_ゝ`)『そうだ。この事件、最初から子供達が目的だったのだとしたら全て辻褄が合う』

子供とは言え、彼らは皆が皆隠密の技術を身につけている。
もし、彼らを“心無き人形”に変える事が出来れば、それは恐るべき戦闘集団となるだろう。

( ´_ゝ`)『皆を埋葬して……貴様の傷が癒えたら山を下りよう』

(´<_` )『……あぁ。分かっているさ、兄者』

師の仇を。共に過ごした仲間達の仇を討つ。
そして。




(´<_` )『……あいつは今頃泣いているやも知れん。いや、きっと泣いているだろうな』

( ´_ゝ`)『あぁ。この流石兄弟の名に懸けて。必ず助け出すぞ。……ハインリッヒを』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:53:51.71 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

ξ;゚听)ξ『生き人形?』

( ´_ゝ`)『……麻薬と催眠による洗脳で心を破壊する邪法だ。
       生き人形と化した者は傷みも感じず、ただ支配者の命令をひたすら実行するだけの奴隷となる』

(;゚∀゚)『っ!! それじゃ、まさかヴィップを襲ったのは!?』

ジョルジュの言葉に、兄者は悲しそうに首を横に振る。

( ´_ゝ`)『確かに生き人形だ。が……死体を確認したよ。我らの友では無かった』

从 ∀从『……』

( ;^ω^)『……?』

兄者の言葉の意味が分からなかったのは、ブーン一人ではなかった。
怪訝な顔で囁きあう一同に、隠密は残酷な現実を叩きつける。

( ´_ゝ`)『生き人形にされたのは……我ら隠密の子供達だけではないのだ。
       戦乱で親を失ったり、貧困から親に捨てられた子供達も……その対象となる』

( ゚ω゚)『な……』

( ´_ゝ`)『この意味が分かるか? 先の戦いで貴様らが殺したのは……その全てが、元は哀れな子供達なのだ』



49: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:56:43.65 ID:UiiYW9gI0
ξ;゚听)ξ『そんな……嘘でしょ……?』

( ´_ゝ`)『真実だ。責めるつもりはない。だが、知っておいてやって欲しかった』

喉の渇きを覚えたのか、兄者はそこで言葉を区切った。
手にした碗から冷め切って苦いだけの茶を啜る。
その、日常的な動作が、これから語る真実は更に禍々しいのだ、と言っているようで。
誰かが生唾を飲み干す音が静かに響いた。

( ´_ゝ`)『……それから、一年間。弟者の傷が癒えるのを待ってから我らはアルキュ中を歩き回ったよ。
       その一年で変わったのは、我らの周囲だけではなかった。統一王が急逝し、途端に世情は乱れ始めた。
       王の後継たるツン=デレは幼く、【評議会】が台頭しつつあった。
       ニイトではモララーが挙兵の動きを見せている頃……我ら兄弟は王都に辿り着いたのだ』

(;゚∀゚)『ちょっと待てよ……その頃の王都って事は……』

( ´_ゝ`)『あぁ。当時、王都デメララでは評議会に反対する王室派貴族が暗殺される事件が続いていた。
       我らはそれを知って、王都に向かったのだ』

兄者の拳は固く握り締められていた。
爪が肉に喰いこんでいるのか、ポタリと一滴、血が石畳に垂れ落ちる。

( ´_ゝ`)『まもなく、我らは自分達の考えが正解であった事を知ったよ。
       王都に入った我らを、連日のように生き人形が襲ってきたのだ。
       それは……キールで苦楽を共にした友の成れの果ての姿でな。
       説得に耳を貸さぬ奴らを、我らは何人も殺さなければならなかった。何人も……何人も』

川;゚ -゚)『……』



50: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 22:58:32.18 ID:UiiYW9gI0
(´<_` )『……生き人形と言うのはな。心に深い傷を持っていなければ作れないのだ。
       世を憎む心を持つ者の中に、甘言でもって侵入し、根を張るのさ。
       だが、我らの友は生き人形にされる為、わざわざ心に傷を負わされた。
       そんな友を……我らは何十人と殺してきたのだ』

戦争で父を失った子供達。
貧困で母を失くした子供達。
その、哀れな子らに囁く者がいる。

『君は何も悪くないよ』

『一緒に平和な世界を作ろう』

『君が犠牲になる事で君のようなかわいそうな子供を出さずにすむんだ』

甘美な言葉と麻薬の煙で、彼らの傷は埋められる。
そうして、与えられた理想に心を支配された人形が生まれるのだ。

( ´_ゝ`)『それでも我らは殺し続けた。殺さなければ前に進む事が出来なかった。
       そうして、ようやく辿り着いたんだ。
       あの悪魔が生み出した……最強の生き人形の影に』

( ;^ω^)『それって……まさか……』






???『……兄者っ!!!!!!』



52: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:02:29.91 ID:UiiYW9gI0
ノハ;゚听)『あ……』

全ての目が、その声を発した者に集中した。
その人物。彼女はゆるりと座から腰を上げる。

( ´_ゝ`)『……何だ、ハインリッヒよ』

从 д从『……そこから先は……ハインちゃんが話す』

渇ききった喉の奥からようやく絞り出したのか、その声は聞き取るのが困難な程に擦れていて。
比較的小さな体躯を支える両足も、小刻みに震えている。

(´ ω `)『ハイン……駄目だ……やめてくれ……』

从 д从『ご主人ごめん。……でも、これはハインちゃんの口から話さないといけない事なんだ』

(´ ω `)『……』

永遠とも感じられる数秒間が過ぎ去った後。
給士はゆっくりと口を開いた。

从 ∀从『もう、みんなも分かってるだろ? 
     これは……ハインちゃんが【闇に輝く射手】と呼ばれていた頃の話だ』

そうして、彼女は語り出す。
そう。
それは王都を悪夢の底なし沼にひきずりこんだ。
【射手】と言う名の悲しい生き人形、誕生の物語……。



56: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:05:17.75 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

…………ぅっ……ひっく……う……ぅぅ…………

窓の一つも無い石造りの小さな部屋。
調度品と呼べる物は、その空間内に存在せず。
片隅に無造作に置かれた藁の上で、一人の少女が丸まりこんでいた。

ただ一枚の衣服を身に着けるすら許されず、両足は鎖で繋がれていて。
幼い柔肌のいたる所に痣やみみず腫れ。火傷。切り傷がつけられている。
後頭部で三つ編みにされた赤い髪は、男達が面白半分に掴んで振り回すので、ぼろぼろに乱れていた。
その姿は、人間と言うよりも家畜というべき物で……。

堪えきれない嗚咽が外に漏れぬよう、血が出るまで強く腕を噛む。
きっと、泣き声が聞こえたら、酷い大人達は自分をたくさん殴りに来るだろう。
とても楽しそうに。謝っても謝っても自分をたくさん蹴るだろう。
だから、どんなに痛くても、口を離そうとしなかった。

从 ;д从『……ひ、っく……おなか……いたいよぅ』

余った手で下腹を押さえ込む。
痛むのは、カビが生えた“包”を無理矢理口に詰め込まれたからではない。
今日は4人に“いじめられた”。
明日は何人に“ひどいこと”をされるのだろう?



57: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:07:28.30 ID:UiiYW9gI0
時間の概念など、とうに無くなっていた。
分かるのは、静かにしていればいじめられないのが夜、と言う事だけだ。

从 ;д从『……助け、て……お母さん……』

だが、助けが来ない事は分かっている。

お気に入りの水筒をくれた、おじさん。

夕餉の時間になると毎日煮付けた野菜を持ってきてくれた、おばさん。

少しだけ怖かったけど、強くて優しかった、おかあさん。

みんなみんな殺された。
彼女の目の前で切り殺された。

        嫌      もうしませ     ごめんな い

どこかから泣き叫ぶ声と、下卑た笑い声が聞こえる。
ずっと遠くかもしれないし、もしかしたら隣の部屋かもしれない。
ただ、ただ、自分の身を守りたくて、漏れ出す声を必死に堪えた。

地獄のような毎日を過ごしているのは、自分だけではないのだ。
昼を過ぎ、酒の抜けきらない頭で男達が目を覚ますと、部屋から引き出される。
順番に決まりはない為、廊下を歩く男達の靴音が聞こえるたび、存在する筈のない神に祈った。

少しでも順番が遅くなれば、その分“ひどいこと”をされる時間が少なくなるから。



60: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:12:10.53 ID:UiiYW9gI0
少女達は、その場所で男達の玩具に過ぎなかった。
首を絞めながら“いじめる”のが好きな者がいた。
焼けた火箸を押し付けて笑う者がいた。
少女自身に動くよう、命ずる者がいた。

少年達もまた、かっこうの遊び道具だった。
兄弟で殺し合いをさせられる者がいた。
少女と同じように“いじめられる”者がいた。
頭から肉汁をかけられ、餓えた犬の檻に投げ込まれる者がいた。

当然、死に逃げようとした者もたくさんいた。
が、男達は哄笑しながら、舌を噛み切った少女の口に“ひどいこと”をし、
頭を石畳に叩きつけ、死を直前に痙攣する身体すら“いじめた”。
最後の瞬間に至るまで人間としての尊厳を奪い尽くされ、冷たくなった肉体は犬の餌となった。

从 −从『……』

やがて子供達は何も考えなくなった。
だから、その日も部屋の扉が開かれた時。少女は表情一つ変えず、藁の山からのそりと立ち上がった。
いつもと同じ事が始まるだけだ。
それが終わったら酸っぱい匂いのするスープを飲む。それとも今日は青カビだらけの“包”かもしれない。
自分は男達にとって“いいこ”だから、少なくとも小便を飲まされる事だけで終わる事はないだろう。
いや。どうでもいい。食事の時間が終わったら、朝が来るまで眠るだけだ。

ただ、その日は少しだけ、いつもと違っていた。
扉を潜ってきた男が、顔中を涙で濡らしながら、そっと少女の身体を抱きしめたのである。

从 −从『……?』

???『かわいそうに……もう、大丈夫。貴女を助けに来ました』



62: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:15:42.94 ID:UiiYW9gI0
???『彼らもまた、戦乱の被害者なのですよ』

子供達にたくさんの“ひどいこと”をしたのは人売りと呼ばれる者達である。
そう聞かされたのは、表面上の傷が癒えた頃だった。

少女に与えられた私室。
身体が沈み込むほど柔らかい布団が敷かれた寝台に身を横たえた彼女に、男は言う。
枕元に置かれた小さな香炉から、薄紫色の煙が立ち昇っていた。
目覚めているのに夢の中にいるような。不思議な感覚が少女を包み込む。

???『彼らも元々は、この島の未来を憂いる勇敢な兵士でした。
    しかし、戦乱が終わり彼らは収入源を失いました。
    そうして、紆余曲折を経て人売りにまで身を窶したのです』

さも残念そうに男は言う。
だが、だからと言って自分達を“いじめて”も良い理由にはならない筈だ。

???『そうです。ですが、この島には近い将来再び戦乱の風が荒れ狂うでしょう。
    そうなれば、彼らのような者が更に増えます。
    つまり、貴女がされたような事をされる子供達も増える、と言う事です』

そこで男は言葉を止めた。
少女の瞳に、僅かに残った意思の光が灯るのを確認し、口を開く。





???『私はこれ以上、戦争の被害者を見たくはありません。
    かわいそうな子供達がこれ以上生まれぬよう……私に力を貸していただけませんか?』



66: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:19:46.97 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

その日。王都デメララは激しい雨に包まれていた。
民家の明かりもすっかり落とされ、少女の視界を照らす物は何一つ存在しない。

昨夜は酷い夢を見た。
彼方まで続く血の海に、腰まで浸かりきっている夢。
がらんどうになった瞳から、血の涙を流す首が無数に浮かんでいる。
あぁ。あれは、あの時刺し殺した男だ。あれは、あの日首を刎ねた男だ。
前に進もうと足を踏み出す。
が、ねちゃねちゃと血が身体に纏わりつき、彼女は1歩として動く事が出来なかった。
あれ?
自分はどうして歩こうとしているんだろう?

自分は間違っていない。
“あの方”は。“養父”は教えてくれたのだ。
王都デメララに巣食う王室派貴族達。
彼らは統一王亡き後に設立された評議会に歯向かい、【沈黙の塔】に幽閉された王女の即位を訴えていた。
時流に逆らう行為は、やがて戦乱に繋がる。
これ以上“かわいそうな子供達”を生み出さない為にも、彼らは殺さなければならない。
きっと、おかしな夢を見たのは、“あの方”がくれた煙を吸うのが足りなかったのだ。

目的地とする門の前に辿り着くと、壁に背を預け座り込んだ。
抱えた両膝に顔を埋め、標的が帰るのを待つ。
やがて、目の前に1台の馬車が止まり、車両の窓から男が顔を見せた。
彼は……。その日の標的は、静かに問いかける。



( l v l)『……親はどうした? 家はないのか?』



70: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:23:46.77 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

( ´_ゝ`)『……ハインリッヒ。もういいぞ』

兄者の言葉を合図に、その悲しい物語は終わりを告げる。
白眉の青年が立ち上がり、告白者の小さな頭を胸に抱き寄せた。

(´ ω `)『……ハイン。もう終わりだ。もう、思い出さなくていいんだ……』

从 д从『ぅあ……っく……ご主人……ご主人』

その腕の中で給士は小さく肩を震わせ、噛みしめるような嗚咽が王座の間に響きわたる。

ξ;;)ξ『そんな……酷い……』

( ;ω;)『こんなのって……あんまりだお……』

( ´_ゝ`)『だが……これも真実だ。【闇に輝く射手】ハインリッヒの真実なのだ』

涙を流しているのは、黒衣の給士だけではない。
ジョルジュは悔しさから拳を石畳に叩きつけ、しぃはただ静かに泣いた。
ヒートは姉と呼ぶ者の足元で泣き崩れ、ハルは一人離れた場所で皆に背を向け、しゃっくりあげていた。

そして、四輪車に腰を下ろす黒髪の王は。

川;゚ -゚)『ぁ……そんな……そんな馬鹿な……』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:27:39.86 ID:UiiYW9gI0
( ´_ゝ`)『認めるのだ、クーよ。これが現実だ』

川;゚ -゚)『だが!! しかし……それではっ!!』

クーは明らかに狼狽している。
何故なら、あまりに似ているからだ。

両親を惨殺され、幼き“しあわせなひび”を奪われ、魔道に堕ちた少女。
それは、まるで自分ではないか。
ニイトの再興と復讐を、失った両足に誓った。
あの頃の自分と全く同じではないか。

川;゚ -゚)『違う!! そんな馬鹿な事がある筈はない!! だって……だって、その女は……っ』

大きく首を左右に振り、否定する。
クーにとって、ハインは。【闇に輝く射手】は憎むべき仇だ。
何度殺しても飽き足らぬ、敵であるはずだ。
もし、ハインの話を肯定してしまえば、それは己の半生を否定する事に繋がる。
ならば、認めない。
認めるわけにはいかない。

( ´_ゝ`)『……この、頑固者が』

ふう、と大きく息を吐き兄者は立ち上がった。
皆が見守る中、ゆっくりとクーに歩み寄る。
そして、小馬鹿にするような声ではっきりと。問いかけるのだ。

( ´_ゝ`)『なぁ。貴様、処女だろ?』

川;゚ -゚)『は?』



78: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:31:31.95 ID:UiiYW9gI0
数瞬の間、クーは目の前に立つ男が何を言ったのか分からなかった。
呆然と周囲を見渡し、皆の目線が自分に集まっているのを確認した辺りで、ようやく脳が言葉の解析を終える。
と、同時にクーの白すぎる顔が紅潮した。

川#゚ -゚)『っ!! 無礼者!!』

叫び、バネでも仕込まれていたような勢いで立ち上がる。
兄者の胸倉を絞り上げた。

川#゚ -゚)『このような場で……このような時に、私を愚弄するとはっ!! 蹴り殺されたいのか!?』

( ´_ゝ`)『いや、大事な話だ。貴様はニイトを再興する際、どのような手段も選ばなかったと聞く。
       それでも、処女なのか?』

川#゚ -゚)『そうだ!! そもそも、このような醜い身体の女など誰が抱こうと思う!?』

( ´_ゝ`)『……そうか。分かった』

そこで、兄者の目が更に細められた。
一見して、普段と変わらぬ惚けた表情に見える。
が。その眼光の中に何やら確信めいた光を見つけ、クーは僅かに怯んだ。

( ´_ゝ`)『ならば、質問の仕方を変えよう。何故、貴様は処女なのか……って、これでは違うな』

襟首を掴まれたまま、思考する。
やがて、最適の言葉を見つけ出したのか、兄者は再度問いかけた。

( ´_ゝ`)『クーよ。どうしてお前は、純潔を保ったままでいられているのだ?』

川;゚ -゚)『……え?』



82: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:35:35.53 ID:UiiYW9gI0
川;゚ -゚)『あ……あぁ……』

その言葉の真意に気付き、黒装束を掴むクーの手が緩んだ。
それで、兄者はその手を優しく解き、襟を正す。

ξ;゚听)ξ『……? 意味が分からないんだけど……』

( ´_ゝ`)『それは、こういう事だ。ニイトが陥落した時、多くの女達が辱めを受けた。
       当時、クーや双子姉妹より幼い者達でも、だ。
       にも拘らず、クーは純潔のままだという。おかしな話だと思わんか?』

川  - )『……』

黙りこくったままのクーを前に、さも困ったというふうに兄者は後頭部をボリボリと掻きあげる。
次の瞬間、身じろぎもせず立ち尽くす主の胸倉を、いきなり掴みあげた。
そして、叫ぶ。

(#´_ゝ`)『残酷な事実を突きつけているのは百も承知だ!!
       が、人はいつまでも幼き思い出の中だけに生きてはいけん!!
       思い出せ!! あの日、何があったのかを!!
       受け入れろ!! あの日、起こった真実を!! それが生きている者の義務だ!!』

そこまで言って、しばらく彼女を睨みつけてから、隠密は手を離した。
糸が切れたかのように、すとんとクーは四輪車に崩れ落ちる。
その口が、緩慢に動き出した。

川  - )『……そうだ……あの日……私は……』



86: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:38:35.17 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

o川*;ー;)o『うわ〜ん!! 怖いよー助けてー父様母様ーーーーーーっ!!』

('、`;川『やめて!! 子供には手を出さないでっ!!』

从 ゚−从『……大人しくしていれば今はまだ殺さない』

たとえ生き長らえたとしても、その光景を生涯忘れる事はないだろう。
恐怖に怯え、泣き叫びつつも幼いクーは何処か冷静にそんな事を考えていた。

連戦連勝を重ねる父からの朗報に心を躍らせながら布団に包まったある晩。
見張りの兵を殺し、城門を開いた隠密は彼女と大差ない年頃の少女だった。
隠密は石畳に仰向けに倒れるクーの胸を片足で踏みつけ、首筋にべっとりと血で染まった小太刀の切っ先を押し当てている。
それはまるで、娘の身柄さえ確保してしまえば母親の抵抗もなくせる事を計算しているかのようであった。

暴れようと思えば、それも可能であっただろう。
が、圧倒的なまでの恐怖がそれを不可能にさせていた。
路地裏の浮浪者のようにボサボサの赤い髪。
硝子細工を思わせる虚ろな瞳。
そして、血を滴らせるボロボロの黒外套。
その全てが両親に温かく見守られ育ったクーには未体験の恐ろしさを秘めておリ。
どれ程の罪を重ね続ければこのような悪鬼が生まれ出るのか?
彼女には想像する事も出来なかった。

???『おっ!? 上手くやったみてぇじゃねぇか』



89: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:41:28.00 ID:UiiYW9gI0
o川*;ー;)o『ひぃっ!?』

ぞろぞろと室内に入って来た男達を見て、クーは小さな悲鳴をあげた。
叫び声をあげなかったのは、本能的に男達を刺激してはならぬと察知したから。
それでも、声を押さえ込む事は出来なかった。
何故か?

何故なら、男達は手に手に血に濡れた剣を下げていたからである。
彼らは罪人で構成された部隊。
元より規律も法律も存在せず、勝利の興奮に自身を押さえ込む者など殆どいなかったのであろう。
先頭を歩く男が引き摺っているのは、クーもよく見知っている官女。
青い月明かりが、全身を赤く染めグッタリとした彼女の裸体を照らし出していた。

兵『へっへっへっ……後は俺達が面倒見てやるよ』

言って一人の兵士が隠密の少女を押しのける。

从 ゚−从『……何をするつもりだ?』

兵『決まってるだろ? 命令は殺しちゃならねぇ、ってだけだからな。その前に高貴な方々の身体の味を堪能するだけさ』

从 ゚−从『……』

その言葉を聞いた【射手】の目が大きく見開かれる。
男は構わずクーに馬乗りになり、寝巻きの襟に手をかけた。
そして。



从 Д从『ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!』



93: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:44:58.63 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

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━━━━━━━━
━━━━━━

( ´_ゝ`)『そうだ!! ニイトを陥落させたのがハインリッヒなら、貴様を救ったのもまたハインリッヒ!!
       貴様は【射手】によって救われながらも、己の弱さから逃げる為、
       ただ盲目的にハインリッヒを憎み続けていたのだ!!』

川  - )『……』

( ´_ゝ`)『……似た過去を持つ者として貴様の境遇に同情はするが、これ以上目を背けるのは止せ。
       許せとか、忘れろなどと偉そうな事を言うつもりはない。
       しかし、ならば……せめて全ての真実を受け入れてから憎んでやってくれ』

それだけ言って、兄者は踵を返した。

(  ´_ゝ)『それが、兄としての……ただ一つの願いだ』

疲れ果てたふうに、どっかと座に腰を下ろす。

川  - )『……そんな……それなら私の人生は……でも……どうして……』

俯き、両手で頭を抱え込んだ。歯が震え、かちかちと不愉快な音が聞こえる。
両足を失い、家族を亡くし、友を奪われた。
幼き日々への郷愁と、復讐の一念だけがクーを支えてきたのだ。
誰もがかける言葉も見つからぬまま、やがて給士がぽつりと口を開く。

从 ∀从『……ずっと本気で……考えてたんだ』



102: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:51:27.73 ID:UiiYW9gI0
川  - )『……』

何を?
などと聞く者はいない。
ハインは静かに言葉を紡ぐ。

从 ∀从『心の底から……ハインちゃんみたいな想いをする子供がいなくなればいいと思った』

己の身に降りかかった悲劇を誰にも味わせたくなくて。
ひたすらに凶刃を振るい続けた。

从 ∀从『誰かを殺した日は……必ず殺した誰かの夢を見た。
     それでも、思い込みと薬で……自分は正しいんだと言い聞かせた。そうしないと壊れそうだった』

それが何時しか理想に繋がるのだと信じこんで。
ただただ心を殺し続けた。

从 ∀从『でも……ハインちゃんがしてきた事は……』

かつての己自身を量産しているだけに過ぎなくて。
その現実を知った瞬間。

(´ ω `)『……ハインの心は砕け散ったのさ。
     暴走し、力尽きたハインは“あの男”に捕らえられ、使い物にならないと分かるや捨てられた。
     ニイトの宮殿が焼け落ちたのは……侵入者が、松明でも落としたんだろうね。
     己を守る為に、現実から目を背けようとする辺り、ハインとクーはそっくりかもしれないよ』

そして、ついにショボンが沈黙を破る。

(´ ω `)『兄者……ありがとう。この先は、僕が話そう』



105: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:53:45.27 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

キールの山奥。
鉄扉で外界から遮断された洞窟の最奥に、一人の少女がいた。
壁に打ち付けられた鎖で、身体が十字になるよう絡めとられ自由は一切利かない。
衣服は一切身に纏わず、その下半身は氷のように冷たい地下水に沈んでいた。

从 −从『……』

ガラス玉を思わせる虚ろな瞳は、微かに彼女の魂がその身から抜け切っていない事を伝えてくれる。
微弱ではあっても小さな胸は呼吸に合わせて規則正しく動いている。
生きている。
いや、見せしめの為に生かされているのだ。

彼女の養父は裏切りを許さない。
それがどれほど理不尽な要求であっても、こなせぬ者は裏切ったと見なされる。
おそらく少女は生きたまま身体が腐り果てるまでここで生かされ続けるのだろう。

从 −从『……』

しかし、それでも構わなかった。
与えられる罰はどのような物であっても身に受けようと決意した。
多くの罪を犯し。掌は血に染まり。身体からは血臭が漂う。
そんな自分には、お似合いの末路だと思った。



107: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:54:54.64 ID:UiiYW9gI0
類稀な才能と失ったものへの愛情。それに、幼い正義が少女の人生を狂わせた。
繰り返される流血の毎日。
彼女を煽り、影で笑っていた者はいただろう。
それでも、実際に罪を重ねたのは少女自身だ。

己の身に降りかかった悲劇を誰にも味わせたくなくて。
ひたすらに凶刃を振るい続けた。
それが何時しか理想に繋がるのだと信じこんで。
ただただ心を殺し続けた。

そして。
己の行為がかつての己自身を量産しているだけに過ぎないのだと知った時。

少女の心は粉々に砕け散った。

从 −从『……』

洞窟の天井から垂れる水滴が、一定のリズムで身を浸す池に滴り落ちる。
それで彼女は外では雨が降っているのだと気付いた。
と、同時に鉄扉が開かれ、中に誰かが足を踏み入れて来た事を知る。

从 −从。oO(……?)

この雨の中、見せしめになっている少女の見物に来る酔狂者がいるとは思えなかった。
彼女を生かし続ける為、腐った残飯を口に詰め込んでいく生き人形が来る時間でもない。
だとすれば、おそらく道に迷った旅人が雨宿りにでも立ち寄った物だと考えるのが自然であった。

その者は、備え付けの火打石を使って壁にかけられた松明に火を飛ばし始める。
常用されている松明は幾ばくかの時間を置いて赤々と燃え上がり、侵入者の姿を映し出した。
頭に乗せた冠からすると、おそらくは男のようである。



111: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:56:31.36 ID:UiiYW9gI0
もしも、この世に神がいるならば。
何故この少女に過酷を背負わせたのであろうか。

そして。
少女の養父が“見せしめの為”として鉄扉に鍵をかけさせなかったのは。
この侵入者が父についてキールの山奥にやってきたのは。
退屈を紛らわせる為に出た散策の途中で雨に降られ、この洞窟を見つけ出したのは。
全て運命の神の思し召しによるものなのだろうか。

侵入者『あれ? 奥に誰かいるのかい?』

思わず発せられた声から、少女はその者が男であると確信する。
その声は、少年と言うにはやや低すぎて。青年と呼ぶにはやや幼すぎる風に聞こえた。

从 −从『……』

男は、壁につけられた松明を外すと、洞窟の中に歩を進める。
おそらく、好奇心を抑えきれぬ性格なのだろう。
やがて、男は十字に吊るされた少女の下に辿り着く。
その顔に生やされた、太くて白い毛の塊が彼の垂れた眉である事を、彼女は少しの間理解する事が出来なかった。

从 −从『……』

(´・ω・`)『……きみは一体……?』



116: ◆COOK./Fzzo :2009/09/02(水) 23:58:50.89 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

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━━━━━━

(´ ω `)『何らかの罰を受けているのであろう事は一目で分かったよ。
     ……美しいと思った。
     己の罪深さを硝子細工のような瞳に浮かべ、十字に吊るされる姿を見て……本当に美しく思えたんだ』

(;,゚Д゚)『……それじゃ……まさかテメェの戦う理由ってのは……ゴルァ』

ギコの言葉を、ショボンは首を左右に振る形で否定した。

(´ ω `)『最初はそのつもりだったさ。
     父とハインの“養父”が何らかの形で繋がっているのは分かっていたからね。
     まずは父の周囲を探る事から始めた。
     幸い……父はバーボンに帰る事は少なかったし、割と順調に事は進んだよ。
     でも、ある事実を知った時。僕は己も罪人であったと知るんだ』

(;゚∀゚)『それは違う!! お前はその時、何も知らなかった筈だ!!』

立ち上がり、叫んだのは【急先鋒】ジョルジュだ。
しかし、ショボンは優しい笑みを浮かべ、続ける。

(´ ω `)『そうだね。でも、この場合……無知とは罪、そのものだ。
     何も知らず、忌まわしき罪を犯した男の下でのほほんと生きていた男。
     そのくせ、恥知らずにも……あの日ハインの姿を見て美しいと思ってしまった男。
     それが天才と謳われた男。【天智星】ショボンの正体さ』



120: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:00:13.80 ID:XD9g5tvi0
         ※          ※          ※

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━━━━━━━━
━━━━━━

それから。ハインはショボンに引き取られる事になる。
廃人同然になっていた彼女を、養父はまるで子供が壊れた人形を捨てるように呆気なく手放した。

从 ゚−从『……』

一年の後。
ようやく一人で歩けるまでに回復した少女に、白眉の青年は一枚の衣服を手渡す。
それは、北の大国ラウンジで貴族層に仕える女が着用する物。黒い給士服だった。

从 ゚−从。oO(……やっぱりか)

思ったのはそんな事だ。
凶刃を振るっていた一年前。
少女は、己の未熟すぎる身体を男の前に晒す機会を幾度も経験していた。
そして、その中には少女に風変わりな衣服を着せたり、加虐趣味を剥き出しにする者も少なくなかったのである。

从 ゚−从『……いいぜ。どうにでも好きにしてくれ。殴ろうが刺そうが。何なら火あぶりにしてくれても構わない』

この一年。ショボンの暇潰しだったのだと思えば納得がいった。
側を離れず世話をしてくれた彼に身を汚されるのは辛かったが、これも罰だと思えば受け入れる事が出来た。
しかし、彼は悲しそうに首を横に振る。

(´・ω・`)『何を勘違いしているんだい? 【闇に輝く射手】ハインリッヒよ』



123: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:01:15.68 ID:XD9g5tvi0
从 ゚−从『……知ってたのか』

(´・ω・`)『まぁね』

申し訳無さそうに頬を掻く。

(´・ω・`)『僕は君の身体が欲しくて君を助けた訳じゃない。
     僕は僕の為に君を助けたんだ』

从 ゚−从『何を言ってやがる』

少女が問うと、ショボンは一層表情を暗く落として立ち上がった。
言葉を練る様にしてゆっくりと歩き出す。

(´・ω・`)『王都の政変。つまり、         。それに我が父が関与しているとしたら……?』

少女は答えない。

(´・ω・`)『君の罪は我が父によって齎された物でもある、と言う事さ。
     何も知らずにいた……君が罪に染まっていくのを知らずにいた僕も同罪だ。それに……』

从 ゚−从『それに……?』

(´・ω・`)『いや、それはどうでも良い話さ。とにかくこれは僕が僕の為にしなければならない贖罪でもあるんだ』

言ってショボンはハインの手を取る。

(´・ω・`)『僕は君を導きたい。幸い、僕には誰にも負けない知識がある。
     君を罪と言う名の牢獄から救い出したいんだ』



125: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:02:21.08 ID:XD9g5tvi0
从 −从『……ふざけるなよ』

吐き捨てる。
それでも、少女は青年の掌から確かな温もりを感じ取っていた。
柔らかく、豆一つ無い。それだけで苦労知らずのお坊ちゃんである事が分かる掌。
それでも、その温もりが。一人の人間の体温が堪らなく嬉しくて。
己の罪を自覚してから初めて、ハインの瞳からは熱い涙が零れ落ちていた。

从 −从『優しくなんてしないでくれよ!! お前の手が温かいほど、あとで傷は深くなる!!
     俺みたいな人間をどうして何も知らないお坊ちゃんが助けられる!? 
     どうせ離す手なら最初から掴まないでくれたほうが良いんだ!!』

(´・ω・`)『約束する!! 僕は君の手を絶対に離さない!!』

从 ;−从『この掌は赤い血に染まっている!! 拭いきれない罪に穢れている!!
     それでも……それでもお前は俺を……導けると、救い出してくれると言うのか!!』

(´・ω・`)『何度だって言ってやるさ!!』

握った手の力を思わず強めた。
ハッとして少女は彼の目と視線を合わせる。
この時、ハインはこの一年で初めて本当にショボンの瞳を見たような気がした。

(´・ω・`)『例えこの身が紅蓮に焼かれようと構わない!! この名が地に落ちようとも構わない!!
     僕は君を必ずや導いてみせる!! だから……だから……』

固い決意を秘めた。真の男の瞳だった。

(´・ω・`)『今日この日をもって暗殺者ハインリッヒの名は捨てよう。
      今この瞬間から君は【天智星】ショボンの給士。━━━━━【天翔ける給士】ハインだ』



129: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:04:20.45 ID:UiiYW9gI0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

ξ゚听)ξ『……贖罪?』

(´ ω `)『そうさ。それが、僕が戦ってきた理由だ。
     僕は、自分で自分を許す事が出来なかった。愚かで……恥知らずな自分を許せなかった。
     この時から、僕とハインは互いの贖罪の為、生きる事を誓ったんだ。
     でも、真実はあまりにも大きすぎて、それを公にする事はこの島が滅びる事に繋がる。
     だから、僕は時を待った。
     そして……君達と出会ったんだ』

( ,,゚Д゚)『……正直、話がおぼろげで見えてこねぇんだがゴルァ』

言って、ギコはジョルジュから奪い取った竹筒を唇に当てた。
それはおそらく、無意識の行動だった筈で。
それが最後の一押しをしたかのように、ついにショボンは最後の真実を明かす。







(´・ω・`)『統一王ヒロユキ。つまり、ツンの父君を暗殺し、評議会と王室派の争いにハインを引き込んだ大罪人。
     その一人こそ、我が父。アルキュ評議会元帥【常勝将】シャキンなのさ!!
     僕は、この男を殺す為に……ずっと君達を欺き続けてきたんだ!!』



135: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:06:55.35 ID:XD9g5tvi0
ξ;゚听)ξ『え……?』

川;゚ -゚)『な……んだと……?』

(;,゚Д゚)『……ゴルァ?』

ギコの手から竹筒が滑り落ちた。
カラカラと石畳を踊り、やがて静止する。

(´・ω・`)『これで分かったかい!? 確かに、この事実を公にすれば父の……評議会の権威は地に落ちる!!
     だが、それはこの島が大戦争に巻き込まれる事の……この島そのものの破滅を意味するんだ!!
     だから、僕はツンを利用した!!
     唯一の王位継承権保持者により、評議会勢力を討つ事で……父を殺そうとしたんだ!!』

(;゚ω゚)『そんな……嘘だお……』

(´・ω・`)『真実さ!! 何も知らず、忌まわしき罪を犯した男の下でのほほんと生きていた愚か者!!
     その罪が父によって齎された物だというのに、あの日ハインの姿を見て美しいと思ってしまった恥知らず!!
     それが僕だ!! 僕は自分が許せなかった……だから、誓ったんだ!!
     あの日、美しいと思った存在の為にも……この贖罪は必ず果たす、と!!』

一息にまくしたて、ショボンは言葉を区切った。
肩で息をしていたのを整え、小さく息を吐く。
胸に抱きかかえた給士の髪に鼻先を埋め、まるで名残を惜しむかのように瞳を閉じた。
そして。


(´・ω・`)『でも。それも今日で終わりだ』

寂しく笑った。



142: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:11:11.44 ID:XD9g5tvi0
从;゚∀从『ご主人っ!!』

(;゚∀゚)『くっ!!』

悲鳴が重なる。
ショボンが、胸に抱いていたハインをジョルジュ目掛けて突き飛ばしたのだ。

(;゚ω゚)『ショボンさんっ!?』

(;´_ゝ`)『阿呆がっ!!』

ブーンは背後に置かれていた大剣を、隠密は懐から投弾兵器を素早く取り出す。
が、そこで二人の動きは止まった。
何故なら。白眉の戦略家が給士から掠め取った飛刀を、己の首先に押し当てていたから。

(´・ω・`)『……無限陣』

川;゚ -゚)『……っ』

そのまま、淡々と話す。

(´・ω・`)『すぐには信じられないと思うけど、これが君の仇【闇に輝く射手】の真実だ。
     仲良くしてやってくれとは言わない。ただ、真に討つべき邪悪は存在する。
     それだけは分かってくれ』

川;゚ -゚)『貴様……何を言って……』

(´・ω・`)『……随分と僕の考えとは狂ったけど……予定通りにするだけさ。
     こんな事を言えた義理じゃないけど、ブーンと2人でツンを頼む。
     元々ヴィップとニイトには争う理由なんか無い筈なんだ』



146: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:13:02.29 ID:XD9g5tvi0
(;,゚Д゚)『馬鹿かテメェ!! 今更そんな事をするのに何の意味があるゴルァ!?』

(;*゚ー゚)『……』

(´<_`;)『そこの筋肉が言うとおりだ!! 貴様のそれは犬死に以外の何でもない!!』

jハ;*゚ー゚ル『この……お馬鹿っ!!』

しかし、ショボンは浮かべた笑みを崩そうとはしなかった。
それは、覚悟の果てに辿り着いた者だけが持つ。
静かな優しい微笑みで。

(´・ω・`)『意味ならあるさ。けじめだよ。
     元々、全てをツンに明らかにした時には、死ぬ事を決めていた。
     そして、ヴィップとニイトは先の戦で多くの命を失った。
     和解するには……確固たる人柱が必要なんだ。
     この罪に穢れた命と引き換えに両国が和解出来るなら……これに勝る幸せはない』

ノハ;Д;)『ふざけるなぁっ!! やめろ、ご主人!!』

从 ;Д从『嫌だ……ご主人……お願いだから……っ』

最後に長い年月を共に過ごしてきた2人の給士の姿を瞳に焼き付け、瞼を閉じた。
悔いはない。

(´-ω-`)『さよなら、ヒート。さよなら……ハイン』

首に突きあてた飛刀を持つ手に、渾身の力を込め━━━━━━━━━━



151: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:14:33.45 ID:XD9g5tvi0





























157: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:16:29.48 ID:XD9g5tvi0
ノハ;;)『……っ』

jハ;*゚ー゚ル『あ……』

放物線を描き、宙に舞った飛刀が石畳を跳ねた。
三度。四度。やがて動きを止める。
数瞬の後、まるで絶望したかのように男は膝から崩れた。

(´ ω `)『……どうして』

落雷が如く振り抜かれ、飛刀を弾き飛ばしたのは、アルキュ王家支配の象徴、禁鞭。
それを手に握るは、黄金の獅子。

ξ#゚听)ξ『……』

【金獅子王】ツン=デレ。

(´ ω `)『何故、分かってくれないんだ。僕がどれ程君を欺いたと思ってる?
     僕一人の命で、全てが収まるなら……安いもんなんだ』

白眉の青年の声など耳に入らぬ、と言った風にツンは静かに歩を踏み出す。

ξ#^ー^)ξ『ショボン。貴方の言いたい事も分かるわ。
      でも、今の貴方にピッタリの言葉を古の賢人が残している。それを貴方に贈ります』

石畳に膝をつく彼の前で立ち止まると、渾身の力を込めて、その頬を張り飛ばした。

川;゚ -゚)『な……』

ξ#゚听)ξ『思い上がるんじゃないわよ、馬鹿男。ぶち殺すわよ』



171: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:20:08.02 ID:XD9g5tvi0
(´ ω `)『君は……何を言っているのか分かっているのか? だから、僕は死をもって全てを清算しようと……』

ξ#゚听)ξ『アタシ達が……何千、何万の想いを背に歩いて来たと思っているの!?
      それを、死でもって償う? ふざけないで!! 多くを欺き、公になったから今度は死を選ぶ?
      それは逃げているだけだわ!! アタシ達を護る為に命を落とした、死者への冒涜よ!!』

ツンは言う。
人は生きている限り、歩き続けなければならない。
どんなに悲しい事があっても。どれほど大切な者を失っても。
いや。悲しいからこそ。大切だったからこそ。歩かなければならない。

灰色に覆われた剣の墓標。
やっと手に入れた宝物を失った。
それでも。だからこそ、彼女は立ち止まれなかった。涙を流しながら、前に進み続けた。

(´ ω `)『でも……僕一人の命で全ては丸く収まる。君も一国の王なら、それによって生まれる利を取るべきなんだ』

ξ#゚听)ξ『でも。も、クソミソも無い!! 偽りの平和に何の意味がある!?
      アタシは混乱を齎す為にいる!! 古く、間違った物を否定する為にここにいる!!
      混乱の先に求める物があると信じるから……そうでなければ、戦いに生きたりはしない!!』

黄金の髪が揺れる。
獅子は、自らの死を求める罪人に、声高に吼えた。

ξ゚听)ξ『人には皆、一人一人の理想がある。それを信じるがこそ、人は過ちを犯すのかもしれない。争うのかもしれない。
     でも、アタシは気高き理想を語る者の、瞳の輝きの美しさを信じる!!
     王として。全ての民の頂点に立つ者として!!
     アタシの前に立ちはだからぬ限り。いえ、立ちはだかったとしても、理想持つ者を護ってみせる!!』

(´ ω `)『……』



177: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:25:03.24 ID:XD9g5tvi0
ξ゚听)ξ『【天智星】ショボン。貴方に罰を与えます』

(;*゚ー゚)『……』

(´ ω `)『……どのような罰でも』

しばしの沈黙の後、ツンは静かに口を開いた。

ξ゚听)ξ『多くを欺き、多くの理想持つ者を死に追いやった貴方の罪、許す訳にはいきません。
     ですが、だからこそ貴方を殺す事はしない。
     貴方に夢を託し死んでいった者達の想いを。
     貴方が想いの為に死んでいった者達の夢を引き継ぎ、生きなさい』

(;゚∀゚)『……陛下』

ξ゚听)ξ『【金獅子王】ツン=デレの名において、【天智星】ショボンの官職を剥奪します。
     【天駆ける給士】ハインとともに、庶民として暮らしなさい』

(´ ω `)『承知……いたしました』

そして、最後に。
彼女は、こう付け加えるのだ。

ξ゚ー゚)ξ『それと。貴方は一人の理想持つ者として、精一杯アタシを利用しなさい。
     何も知らぬ者を利用するのではなく、これからはアタシを。アタシだけを利用しなさい。
     アタシは貴方の王として、気高き想いを持つ者の全てを受け入れてみせましょう』



188: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:28:52.91 ID:XD9g5tvi0
(´ ω `)『くう……ぁぁ……ぁあああぁああぁぁぁああぁ…………』

瞳から溢れる液体が、石畳に染みをつくっていく。
自分を許せず、多くを欺いた。死をもって全てを終わらせると決めていた。
そして、今日全てが終わった。
だが、それは彼の破滅と言う形で無く。全てを受け入れられる形で終わったのだ。

ξ:゚听)ξ『ちょ、ちょっとショボン? 泣いて……』

(´ ω `)『陛下っ!!!!!!!!』

気付いた時、【天智星】ショボンは両手を胸の前で組み、深々と頭を下げていた。
この時、白眉の青年は初めて欺く為でなく、心の底から臣下の礼をツンに向けていた。

(´ ω `)『僕は……ハインの為だけに戦ってきた。
     彼女を罪に穢した全ての物が許せなくて、戦ってきた。
     それは……これからも変わらない。
     でも……でも……っ』

顔をあげる。
眼前に立つ王は、あまりにも神々しく輝いていて。
あぁ。
自分が利用してきた者は、こんなにも大きな人物だったのか。



(´;ω;`)『でも……誓おうっ!!
     世界に天が存在する限り……僕は君と共にどこまでも生きてみせる!!
     たとえ、死に倒れたとしても、僕は……【天智星】ショボンは、君の道となる!!!!!』



200: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:32:12.18 ID:XD9g5tvi0














━━━━━そうですか。ならば、死になさい。














214: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:34:49.60 ID:XD9g5tvi0
その光景は。
まるで、ショボンの身体から蒼炎が噴き出したかのように、彼らの目には映った。
宙を舞い、石畳に叩きつけられた白眉の青年は、地を転がった後、ピクリとも動かなくなる。

(;, Д )『ゴルァァァァァァァッ!?』

【九紋竜】ギコは、突如左耳“があった場所”を押さえ込み、苦痛の叫びをあげた。
その指の間からは血が滴り落ち、足元には彼の左耳が転がっている。

???『いやはや、素晴らしい。役者は三流なれど……台本が良いおかげでしょうか? 面白い物を見せていただけました』

見下すような拍手の音が、玉座の間に鳴り響いた。

(;゚∀゚)『な……なんで……いつからそこにいやがった?』

全ての者が。いや、双子の隠密を除く全ての者が、己の目を疑った。
そこには。黄金の獅子だけが座するをゆるされた“そこ”には確かに“誰もいなかった”筈なのだ。

jハ;*゚ー゚ル『……え? 何ですの? 何が起こったと言うのですの……?』

从; Д从『……あぁ、ぁぁぁ……いやだ……いやだ、こわい……ごしゅじん』

石畳に伏せ、動かないショボンの身体。
それを目にしても、黒衣の給士は足を動かす事すら出来ずにいた。
玉座に悠然と足を組み、深々と腰を下ろす者を見て、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
【金剛阿】兄者が、忌々しそうに吐き捨てた。

( ´_ゝ`)『……ようやく姿を見せたか』

(´<_` )『長かった……ついにこの時が来たのだな、兄者よ』



228: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:38:10.85 ID:XD9g5tvi0
(#´_ゝ`)『今こそ、皆に告げよう!! その男こそ、我らが幼き日を踏み躙った巨悪!!
       人売りを装ってキールの子供達を攫い、幼きハインリッヒの心を破壊した真なる邪悪!!』

その男は、艶やかな黒髪を肩まで伸ばしていた。
黄金の刺繍された濃紺色の外套を身にまとい、遊女の好む薄絹を首に巻きつけている。

(´<_`#)『【常勝将】シャキンすらをも操って、己の主を暗殺した薄汚い裏切り者!!
       偽りの降伏をもってニイトを襲わせ、多くの“しあわせなひび”を奪った悪鬼!!
       そして今、ヴィップとニイトの民を影で煽り、会談の場においては両国の使者を瀕死に追いやった張本人!!』

2人の言葉に、唇から阿片のパイプを離す。
そして、静かに紫色の煙を吐き出すと……顔を歪ませ愉快そうに笑った。

???『くっくっく……キールの生き残りふぜいが。よくぞここまで辿り着いた物です』

川;゚ -゚)『そんな……それでは、この男が!!』

そう。
この男こそ、歴史の影で暗躍してきた、陰の王。
かわいそうな生き人形たちの支配者。
数え切れぬほどの小さな幸福を蹂躙し、毒の煙で更に多くを魔に落とす、この世の全ての悪とも呼べる存在。




爪'ー`)y‐


(#´_ゝ`)『七英雄!! 【人形遣い】フォックス!!!!!!!!!!!!』(´<_`#)



231: ◆COOK./Fzzo :2009/09/03(木) 00:40:33.92 ID:XD9g5tvi0














━━━━━兎と亀。狼と猟犬。獅子の親子。











                     そして最後に……全てを嘲笑う狐。



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