( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:17:04.24 ID:6DTiKndi0
・登場人物紹介

アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=キール隠密 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)。

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将



7: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:20:07.41 ID:6DTiKndi0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=海の民 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=海の民 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

jハ*゚ー゚ル 名=ハル(本名ハルトシュラー) 異名=祝福の鐘 民=ラウンジ 武器=二本の鉄扇 階級=情報屋



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/14(月) 20:22:59.55 ID:6DTiKndi0
モテナイ王国
 【狂戦士】ダイオードが永年の雌伏の末、リーマンから独立する形で建国。
 その中心はかつてヒロユキに滅ぼされかけたモテナイ族である。
 【戦士の街】ネグローニを首都とするこの国は、小さいながらも強力な軍事国家だ。
 国旗は赤地に黒犬。

/ ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 串刺し公 黒犬王 民=モテナイ 武器=二本の短槍 階級=モテナイ王

川l.゚ ー゚ノ! 名=ナナ 民=モテナイ ※ イヨゥの妹。

('A`) 名=ドクオ 異名=第三の男 三番目 民=モテナイ 武器=短槍 飛礫 階級=???




白衣白面

( ^ω^) 名=ブーン(真名ニイト=ホライゾン) 異名=王家の猟犬 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=白衣白面隊長

リーマン・評議会派

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形遣い(七英雄) 民=??? 武器=??? 階級=評議会情報部



10: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:27:29.21 ID:6DTiKndi0
MAP 〜フレッシュネス>モス>ケンタッキー>マックだよな?編〜

http://up3.viploader.net/news/src/vlnews000716.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 本隊の遠征中、謎の一団に襲われるが、ニイトの加勢もあり撃破に成功

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 謎の一団を討つ為に、ヴィップに加勢する

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:29:38.76 ID:6DTiKndi0


     第29章 “しあわせなひび”が終わる時


/ ゚、。 /『…木苺を出来るだけ甘味少なめで』

川l.゚ ー゚ノ!『ナナはね、コケモモがいいっ☆ あ、2つともクリームいっぱいにしてね☆』

/ ゚、。 /『……甘味少なめで』

“薄包”と言う食べ物をご存知だろうか?
簡単に言えば、小麦粉を水や乳で薄く溶き、それを焼いて出来た皮で様々な食材を包む食事法である。
その多くは出涸らしの茶葉を干した物を生地に混ぜ込み嵩を増やしていて、
クレープのような物、と言えば最も理解は早いだろう。

この“薄包”。
元々は、軍隊食であったとされる。
“包”のように生地を作る際、酒粕を混ぜて醗酵させる手間も要らない。
皮さえ焼いてあれば後は肉や香草を包むだけ、と調理が簡単だし、片手で食事を終える事も出来る。
焼き上げた生地は直径1尺(30cm)程の大きさがあり、見た目に反して腹に溜まるのもありがたい。
ニイトの“包”と並んで。いや、それ以上に兵士達に人気のメニューであった。

が。
このような食事法を、利に目敏い商人が放っておく筈も無い。
【戦士の街】ネグローニでは、小さめに焼いた“薄包”に蜜漬けの果実を包んで売る屋台が流行っており、
その店先で【黒犬王】ダイオードは慣れぬ行為に間誤付いていた。



18: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:33:03.10 ID:6DTiKndi0
商;゚ー゚)『これが……あのネグローニだと言うのか?』

露店を冷やかしながら、市を散策していた商人が、信じられぬと言うふうに感嘆した。
彼は【経済都市】ニイトに塩漬けの魚を卸して生計を立てる商人の一人だ。
通常であれば、ネグローニには立ち寄らず、カリラから山岳地帯を迂回するようにニイト国内に足を踏み入れるようにしている。
が、この時彼はニイト国内には向かわず、ネグローニに商いの場を求めていた。

理由は諸兄らもお分かりであろう。
ヴィップによるニイト侵攻。
耳聡い筈の商人である彼でさえ予想できぬほど、早急なヴィップの動きが、彼の予定を狂わせた。
カリラには、彼と同じよう足止めを喰った商人で溢れかえり、加工してあるとはいえ、商品の質が落ちる可能性は否めない。
よって、彼は【鉄壁】ヒッキーとの戦を終えて間もないネグローニに馬車を向かわせたのだ。

さて。
地図を見ていただければ分かるよう、本来カリラからカンパリを経由してニイトに向かうのは随分な遠回りである。
王都デメララまで水路を遡り、ネグローニを経由してニイト城に入った方が、数日は短縮できる。
にも拘らず、殆どの商人達は【戦士の街】を通過する事を嫌った。
何故か?

“朝と昼では守るべき法が違う”と言われる程、出鱈目な悪政がその原因である。
数年前までネグローニは『戦士と言う名の盗賊を養成する街』と陰口を叩かれるほどに治安が乱れていた。
【串刺し公】ダイオード。
その彼が、途端に善政を引くようになったと言われても、簡単に信じられる物ではない。

商;゚ー゚)『全く……信じられんな』

が。今、彼の目の前に広がる市には物資と人々の笑顔が溢れかえっている。
それどころか、即位して間もない筈の新王が
春風を纏ったような笑顔を浮かべる少女に、手を引かれて市を歩き回っているのを見て
商人はアゴが外れるほど大きく口をひらき、言葉を失ってしまっていた。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:35:14.68 ID:6DTiKndi0
川l.゚ ー゚ノ!『ねぇ、クロ様!! 早く食べないと駄目になっちゃうよ?』

/ ゚、。;/『……むぅ』

ダイオードは、【狂戦士】の異名が全く似合わぬ程に小柄な戦士である。
戦場でこそ黒王と名付けた巨馬に跨り小さな体躯を誤魔化すようにしていたが、
こうして幼い少女と並んでしまうと、それも出来ない。
その仮面の下には女の素顔が隠されている、と噂しだす者すら出てくる始末であった。
『優れた戦士は気に入った娘の処女を奪っても良い』などと言う、とんでもない悪法を施行しようとしていた頃とは雲低の差である。

さて、そのダイオード。
仮面の下が容易く想像できようほどに困り果てている。
原因は、全てその仮面だ。
この男、睡眠時であってもそれを外す事はない。
食事の際も、空いた手で仮面を持ち上げて食物を口に運ぶほどの徹底振りである。

けれども、仮面を持ち上げる筈の右手は、顔の半分を口にして笑う少女にしっかと握られている。
離してくれとも言えず、そうこうするうちに左手の中の“薄包”は蜜を吸って萎びていく。
周囲を見れば、市民がそんな自分達を生暖かい視線で見守っている。

/ ゚、。;/『……むぅ』

もう一度呟いた。
手にした“薄包”はすでに、生地を内部の蜜漬けとクリームが浸食しきってしまっている。

川l#.゚ ー゚ノ!『あーっ!! せっかくナナが買ってあげたのに、クロ様食べないからベチャベチャじゃない!!』

結局それは、ダイオードが一口も口にする事無く、少女に奪われてしまった。



22: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:37:42.00 ID:6DTiKndi0
一口、二口、三口でそれを平らげた少女は続いてダイオードの蜜塗れの手に目をつける。
良い物を発見した、とばかりににんまり笑うと、黒犬の手にまでかじりついた。

/ ゚、。;/。oO(…どうしてこうなった)

考える。
元々、ダイオードには平穏な生活への憧れが少ない。
いや。誰よりもそれを求める心が強く、それが容易く手に入る物ではない事を知るが故、
敢えて目を向けぬようにしているだけなのかもしれない。
が、その違いにどれ程の意味があろう。
彼が選んだのは修羅の道。戦いの道の筈であった。

この世の全ての憎しみを身に受けようとも、全ての戦いを己の手で終わらせる。
そう誓った筈だった。
安寧に身を置く時間はない。彼一代で戦い抜かねばならない。
急激な政策の方向転換。
市場の安定も民心の保護も、全ては力を求めるが故の必然的行動だった。

そう。
全ては、己が理想を実現させる為だけの手段でしかない筈だった。

それがどうした事だろう。
今、彼は生きてきた道の中で、初めてとも言えるほどに深い安らぎの中にいる。
憎しみの視線を突き立てられるべき身に、大いなる信頼を注がれている。

/ ゚、。 /『……』



25: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:39:42.18 ID:6DTiKndi0
川l.゚ ー゚ノ!『……クロ様、また難しい事考えてるの?』

掌をぎゅう、と握られ我に返った。
純粋に彼の身を想う瞳が、自身を見上げている。
そっとその身体を抱き上げ、肩に乗せてやった。

川l.゚ ー゚ノ!『ナナは、戦争は嫌いだよ。戦争の事を考えてる時のクロ様も嫌い』

目を合わさず、それでも力強く頷いてやる。
そうだ。
戦争を好む者などいる筈が無い。
いるとすれば、宮中の奥深くで積み上げた金銀を数えるのに夢中な者だけで。
日々を必死に生きる者達は、一人として戦争が続くのを望んでなどいない。

ならば、自分が終わらせよう。
すでに失ってはならぬ物を捨てた身だ。
たとえ、この少女に忌み嫌われようとも、永遠の平和の為に甘んじて受け入れよう。

/ ゚、。 /『……』

遥か北の地に視線を送る。
彼の地では獅子と狼が牙を交えている筈で。
その影で暗躍する影の正体には気付いただろうか?
結果如何では、ニイトもしくはヴィップへの出兵もありえる。

/ ゚、。 /『……死ぬなよ。お前達を殺すのは俺なんだ』

一人、呟く。
だが、その声は肩の上ではしゃぐ少女の耳には届く事がなかった。



31: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:44:48.77 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

(#,,゚Д゚)『ふざけやがってゴルァ』

髪に巻いたボロ布を解き、左耳の傷口を押さえるように縛り上げた。
決して清潔とは言えぬそれは、一時的な止血の効果しかないだろうが、それでも戦うのに支障はない。
目に血が入らぬようにさえ出来れば、この男には十分すぎるほどであった。

从 д从『……いやだ……こわい……いやだ、いやだよう……』

(#´_ゝ`)『ハル!! 無口女!! ツン=デレと【天智星】を守れ!!』

火薬の煙立ち込める王座の間に、給士の悲痛な泣き声と隠密の叫び声がこだまする。

(*゚−゚)『……無口女?』

jハ;*゚ー゚ル『で、でも【天智星】は……』

( ´_ゝ`)『大丈夫だ。あれは見た目は派手だが、そうそう命までは奪えん』

兄者の視線は、玉座に悠然と腰を下ろす男から離れない。
背中合わせにフォックスと向かい合う流石兄弟を中心に、ブーン・ギコ・ジョルジュの3人が並び立つ。
自然、その背後に倒れたショボンと女性陣を庇うようなかっこうになった。

( ´_ゝ`)『あの男の戦い方は、我ら兄弟が誰よりも良く知っている』

その言葉に、阿片の煙を燻らせていた男が、くすくすと笑う。

爪'ー`)y‐『なるほど。そう言えば、貴方は私の“狐火”をそっくり真似ていたのでしたね。
      そうだ。貴方に【劣化フォックス】の異名でもさしあげましょうか?』



36: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:47:26.74 ID:6DTiKndi0
(;^ω^)『狐火?』

( ´_ゝ`)『乱れるなブーンよ。あの男は我ら兄弟の“原型”とも言うべき武器を持っている。それだけだ』

フォックスの挑発にも兄者は動じない。
ただ、憎むべき者に鋭い眼光を浴びせる。

ξ゚听)ξ『一つだけ教えて。貴方がお父様を殺したと言うのは……』

爪'ー`)y‐『はい。その通りですよ』

『それが何か?』とでも言うふうに、あまりにも呆気なく首肯した。
その表情は、湧き上がる喜びを押さえ込もうとしているようで。

爪'ー`)y‐『何故?、とでも聞きたそうですね?
      私は、確かに統一王に従って革命戦争に参加いたしました。
      が、王は革命後ラウンジ・神聖ピンクからの完全独立を宣言しました。ご存知ですよね?』

ξ゚听)ξ『……えぇ』

フォックスの言うよう、統一王ヒロユキは即位後に南北両大国の介入を拒絶するよう宣言している。
それはこの島を完全な貿易中間点として確立し、争いの火種を取り込まぬ為の政策であり……

爪'ー`)y‐『それが邪魔になったので殺しました。
      弱小国は弱小国らしく、粛々と大国に従っていれば良いのです』

その言葉を聞いたツンの眦が吊り上がる。
黄金の髪が、ざわ……と逆立った。

ξ#゚听)ξ『そんな……そんな事の為にっ!!』



39: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:49:44.65 ID:6DTiKndi0
爪'∀`)y‐『そうです!! 何の不思議があるのですか!?
       飼い犬が愚かにも飼い主の手に噛み付いたのです!! 殺されて当たり前でしょう!!』

そこで、ついにフォックスは押さえ込んでいた感情を爆発させた。
彫刻のように整った顔が大きく歪む。

(#゚∀゚)『そうして出来たのがラウンジの傀儡、評議会ってわけかよ』

爪'∀`)y‐『ご理解が早くて助かりますよ【急先鋒】!!
      シャキンらには別の思惑があったようですが、そのような事に何ら意味はありません!!
      最終的にはメンヘルを潰せば……この島は評議会の元でラウンジ傘下になるのですから!!』

口が耳まで裂けたかのような邪悪な笑みを浮かべる陰の王。
それまで男の言に耳を傾けていたクーが義足をガシャンと鳴らし、立ち上がった。

川 ゚ -゚)『それで……統一王の義弟であった父モララーを殺し、今はまた多くの我が同胞を冥府に迷わせたワケか』

爪'ー`)y‐『仰る通りで。特に貴方は良く踊ってくれました。あれ程まで暗い情念はなかなかお目にかかれる物ではありません』

感心したかのような口調で答え、一度言葉を止める。
そして。

爪'∀`)y‐『……ご馳走様でした』

川 ゚ -゚)『……っ!!』

それが、誇り高き狼の王の怒りに火をつけた。
静かに。
だが、石畳がひび割れるほど強く足を踏み出す。
その背後で、白炎が燃え上がった。



44: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:52:32.18 ID:6DTiKndi0
川#゚ -゚)『その侮辱、許せん!! 冥府で父と同胞に詫びて来い!!』

その声を合図に、ギコとジョルジュはフォックスの左右に広がった。
正面には流石兄弟とニイトの姉弟、そして少し下がった位置にヒート、の5人が並ぶ。
七人に包囲されるような形になって、ようやくフォックスは玉座から腰を上げた。

爪'ー`)y‐『特別にもう一つ教えて差し上げましょう。頭数だけは揃えたようですが……
      本来、私にとってあなた方など、路上の小石程度の存在でしかありません』

言って、何も持たぬ右腕をすっと前に伸ばした。
その視線の先、蹲る給士が『ひっ』と小さな悲鳴をあげる。

爪'ー`)y‐『その気になれば私一人で皆殺しにするのも容易い事。それでは、何故わざわざ、あなた方を争わせたか!? 
      行きがけの駄賃、と言う奴ですよ!! 壊れて捨てた人形が、実はまだ使えると知って回収に来た。
      そうしたら、たまたま通り道にあなた方の国があったので、ついでに滅ぼす事にした。それだけの事です!!』

(#゚∀゚)『……正気かクズ野郎』

フォックスの言葉にジョルジュは太い眉を吊り上げた。
手にした大鎌が歪まんばかりに、硬く握りしめる。

爪'ー`)y‐『何か問題でもありますか、【急先鋒】? 我が謀を退け、人形兵達をも破った事までは認めてさしあげます。
      ですが、それもここまで。私自身の手で殺してあげましょう』

既にお互い、鉾を収めるつもりなど毛頭無い。

(#,,゚Д゚)『上等だゴルァァァァァァァァァァァッ!!』

まずは、逆上したギコとジョルジュ。ヴィップの誇る二人の勇将が左右から斬りかかった。
……しかし。



47: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:54:52.19 ID:6DTiKndi0
(;゚∀゚)『なっ!?』

共に技量膂力たぐいまれな二人の戦士。
長き戦乱の中にあるアルキュ島においても、有数の実力派であるはずのギコとジョルジュ。
だが、二人の剣はフォックスの身に届く事はなかった。
微動だにせぬ陰の王の頭上で、振り下ろした長刀と大鎌は不可視の“何か”に受け止められている。

(;,,゚Д゚)『避けろゴルァ!!』

ノハ#゚听)『逝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!!!!』

ギコの叫び声とヒートの怒号が重なった。
いや、その時には既にジョルジュも不可思議な“何か”を感じ取り、大きく横に跳んでいる。
それでも、目に見えぬ何かが彼の前髪を切断し、ヒートの放った矢も宙空で乱断されていた。

(;゚∀゚)『っ!! 何だ今の!?』

(#,,゚Д゚)『知るかゴルァ!! さっきと同じだ!!』

答えるギコの頭部に巻かれたボロ布からは、早くも血が滴り始めている。
彼の左耳を奪った謎の“何か”がフォックスの周囲に張り巡らされている事はあまりにも明白だった。

爪'ー`)y‐『どうしました? 私は一歩も動いておりませんよ?』

困惑する者達を前に、楽しげに口角を上げる。

爪'∀`)y‐『では、次は私の番と行きましょうか』

言って、前方にだらりと伸ばした右腕の指を、クンと折り曲げた。
瞬間、【人形遣い】と呼ばれた男の背が大きく膨れ上がり━━━━━



52: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 20:58:10.13 ID:6DTiKndi0
(;゚ω゚)『……なんだお、あれ』

その姿は、あたかも巨大な尾を広げた邪妖のように見えた。
【人形遣い】フォックスの外套の背を突き破って現れた九本の長剣。
それが、彼の身を守るようにして

宙に浮いているのだ。

(;゚∀゚)『妖術……か?』

爪'ー`)y‐『その通り。これぞキール隠密最高の秘術。“九尾”と言います』

言うや、伸ばした右腕を軽く捻る。
ただそれだけの動作で、三本の長剣がギコに襲い掛かった。

(;,,゚Д゚)『ゴルァ!?』

咄嗟に長刀を振るい、払い落とそうと試みる。
が、空中から振り下ろされたそれは、突如動きを止め、間を空けず剣士の両腿に芯まで焼けるような痛みが走る。

(;,,゚Д゚)『飛刀だと、ゴルァ!?』

フォックスの左手から放たれた飛刀が、両の足に突き刺さっていた。
長剣への注意が逸らされた事に気づくまで一瞬。
しかし、その時には三本の長剣はギコの頭部目掛けて斬撃を再開しており……




(#´_ゝ`)『5式っ!!!!!!!!!!』



57: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:01:49.97 ID:6DTiKndi0
爆炎が宙に花開いた。
同時に弟者の放り投げた、酒の入っていた竹筒が空中で両断される。
ほんのりと白濁した液体がフォックスの周囲に降り注いだ。
その隙を突いて、ギコは石畳を転がり危険地帯から離脱する。

(#´_ゝ`)『意識を乱すな!! 妖術などこの世に存在せん!!』

兄者の喝が響きわたった。

ノハ;゚听)『で、でも剣が浮いてるじゃないかぁぁぁぁぁぁっ!?』

(;゚∀゚)『それだけじゃねぇ!! 俺様は確かに剣は避わした筈なのに……』

(´<_`#)『観察しろ!! 剣だけに目を向けるな!!』

ヒートの言うよう、フォックスの周囲には九本の長剣が浮かんでいる。
そして、それは【人形遣い】が指を動かすだけで、複雑に宙を踊るのだ。

だが。
それだけではない。
陰の王の周辺には宙に水滴が輝き、薄っすらと灰色の線が何本も伸びている。
その線の正体が、兄者の投げた投弾兵器の巻き起こした灰塵や埃の類である事に気付くまで
時間はかからなかった。

川;゚ -゚)『まさか……糸か?』

(´<_` )『そうだ。我が鐵鋼糸の“原型”たる斬鉄糸。
       それで九本の剣を操るのが、奴の戦い方だ!!』



60: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:03:58.92 ID:6DTiKndi0
(;^ω^)『……それで【人形遣い】かお』

なるほど、確かにフォックスの構えは、あたかも操り人形で遊ぶ子供のようにも見える。

川 ゚ -゚)『私とホライゾンで叩く!! 流石兄弟と赤毛は援護しろ!!
     遠当てを持たぬ物は怪我人を守れ!!』

クーの指示で前線には流石兄弟とニイトの姉弟が立つ形になった。
倒れたままのショボンとギコを、しぃ・ジョルジュ・ハル・ツンの四人が守る。
少し離れた位置では黒の給士が未だ動けず、その身を庇うようにしてヒートが鉄弓を構えていた。

( ´_ゝ`)『ここは我ら4人に任せてもらおうか』

(´<_` )『すまんが、あの男の首だけは譲る訳にはいかんのだ』

対峙するは、フォックスによって運命を狂わされた四人。
それを見て、ツンも前に出ようとする。

ξ゚听)ξ『それなら、アタシだって……』

川 ゚ -゚)『下がっていろ!! 貴様では足手まといだ!!』

ξ゚听)ξ『……っ』

クーの言うとおり、前線に立つ四人と比較すればツンの実力は大きく落ちる。
形の良い眉を顰めながら、黄金の王はジョルジュの背後に下がった。

(#´_ゝ`)『行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』(´<_`#)

まず最初に。【金剛阿吽】流石兄弟が仕掛ける。



62: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:07:21.68 ID:6DTiKndi0
(´<_` )『二式【縛】!!』

弟者の左手から鐵鋼糸の網が放射された。
それは容易くフォックスの九尾に引き裂かれ、ただの細切れに成り果てるが
その時すでに弟者はフォックスの側面に回りこんでいる。

( ´_ゝ`)『19式っ!!!!!!』

直後、兄者が放った投弾兵器もまた、空中で迎撃された。
が、それは想定通りの行動に過ぎない。
中に仕込まれていた液体が、陰の王に降りかかる。

爪'ー`)y‐『これは……油ですか』

( ´_ゝ`)『墨を練り合わせた特製の油だ!! 俺に不可視の糸は通用せんぞ!!』

粘性の高い油が、くっきりと狐を取り囲む糸の結界を浮かび上がらせた。
なおも弟者とは逆の向きに駆けながら投弾兵器を投げ放つ。
その一瞬。
フォックスの視線が完全に兄者に向いた一瞬を突いて、クーが狐の懐に飛び込んだ。

川#゚ -゚)『冥府に落ちろ、フォックス!!』

滑り込むような体勢から、足を狙った蹴撃。
けれども、それも軽く跳躍して回避された。
そのまま空中に静止し、二本の長剣をクーに振り下ろす。
黒髪の王は身を捻り、倒れこんだ姿勢のままの後ろ蹴りでそれを叩き払った。
すぐさま跳ね起き、一旦距離を空ける。

川;゚ -゚)『張り巡らせた糸の上に立つ事も出来るのか!?』



65: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:09:44.73 ID:6DTiKndi0
(´<_` )『己の常識にとらわれるな!! 固執は隙を生むぞ!!』

川;゚ -゚)『う、うるさい!! 今のは奴の力を測っただけだ!!』

追撃にフォックスが投げた飛刀は、弟者の義手から射出した飛礫が叩き落した。
クーと入れ替わるように斬りかかろうとした兄者は、宙を舞う長剣によって進路を防がれている。

( ´_ゝ`)『それでは、すでに奴の攻略は出来ている、と?』

川#゚ -゚)『当然だ。我が知略に限界はない!! 援護しろ!!』

言って、再び石畳を蹴った。
フォックスの攻撃手段は4つ。九本の長剣。斬鉄糸。飛刀。狐火、がそれである。
しかし、後者2つは放たれる方向さえ分かっていれば、
避わす事はハインや兄者のそれと比較して容易。
結局、どこまで行ってもフォックスの攻撃で警戒すべきは、宙を繰る剣と糸に尽きるのだ。
後方からの牽制を流石兄弟に任せ、自身は接近戦に専念するのが最高の布陣とクーは判断する。

爪'ー`)y‐『なるほど。しかし、その足でそう簡単に近づけるとお思いですか?』

川#゚ -゚)『舐めるな!! 腹に風穴を空けられてから後悔するが良い!!』

頭上を兄者の放った投弾兵器の爆炎に照らされながら、幾度も必殺の蹴りを放つ。
狐は当然のように糸の上を飛び回り、それを回避した。

爪'ー`)y‐『ふふふ。こうしていると、鬼ごっこでもしているようですね。童心に帰った気分です』

川 ゚ -゚)『言っているのも今のうちだ!! 命を賭けた遊戯を楽しんでおくが良い!!』



69: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:12:24.48 ID:6DTiKndi0
一撃一撃の動きが大きいクーの蹴りは、フォックスの身を掠める事すら出来ない。
木の葉のように自身の周りを駆け跳ねられ、剥き出しのままの両腕、両足を糸に斬りつけられる。

爪'ー`)y‐『ほらほら、どうしました? 動きが鈍っていますよ? 鬼さんこちら……と、これは目隠し鬼でしたか』

川#゚ -゚)『……ちっ』

パンパンと掌を叩き合わせて挑発する身に跳びかかり、空中でぎゅるりと身を捻った。
義足の重量を最大限に上乗せした、後方回転蹴り。
風圧だけで身を砕かんと言う一撃は、やはりひょいと避わされた。
それどころか着地の瞬間を糸に襲われ、右の太腿から一瞬血が噴き出す。

川#゚ -゚)『くっ!!』

爪'ー`)y‐『今のは良かったですよ【無限陣】。我が人形に欲しいくらいです』

川#゚ -゚)『……戯言をっ!!』

全く相手にされていないのが、彼女にも分かった。
フォックスの言葉に偽りはない。この男はその気になれば、本当に自分達を皆殺しにできるだけの技量を持っている。
この男にとって、己は掌で踊る玩具のような物なのだろう。

けれど、それで良い。
精々、自分を舐めきっていれば良い。
戦場に散った同胞達の怒りを込めた一撃が、必ずやその身を貫く。

ちら、と背後を見た。
そこではすでに彼女の弟が、剣気を練りあげ終えていて。

( ゚ω゚)『我は……猟犬なり』



74: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:15:27.96 ID:6DTiKndi0
( ゚ω゚)『どけえええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!』

青年が叫ぶよりも早く、クーは横に飛んでいた。
フォックスもまた、ぐい、と腕を振るって四本の長剣を呼び戻す。
それと同時。
銀髪の青年が、青き大剣を叩きつけていた。
その一撃で長剣が弾き飛ばされる。

爪;'ー`)y‐『勝利の剣!? まさか、モララーの子!!』

ここにきて初めて、フォックスは大きく動いた。
瞬歩の加速力と大剣の重量を乗せた一撃など、防げる者は存在し得ない。
が、長剣を払いのけた際に生まれた僅かな時間差を利用して、後退する。
同時に全ての長剣を引き戻し、身を守るように展開させた。

爪;'ー`)y‐『モララーの子に男子は一人の筈……と言う事は、王妹ペニサスとの子・ホライゾンですか』

( ゚ω゚)『多分、その通りだおっ!!』

叫び、再び地を蹴った。
青年が白衣の下に着込んだ胸当てだけでは、フォックスの長剣と鉄を斬る糸は防ぎきれぬ。
しかし、甲冑の類を一切身につけぬフォックスも、勝利の剣の一撃を喰らう事は即死を意味する。
距離を空けたいフォックスと、中に飛び込みたいブーン。
張り巡らせた糸の上を駆け後退する狐の長剣と、猟犬の振るう大剣が、幾度となく火花を散らした。

それだけではない。
退路を防ぐかのように、クーの蹴りが。投弾兵器が。鉄の矢が執拗にフォックスを襲う。

爪;'ー`)y‐『全く。老人の身はいたわる物です』



77: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:17:43.91 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『どうした? 汗をかいているようだぞ!!』

爪;'ー`)y‐『そのような台詞は……せめて私の身に触れてから言うものです』

青年の一撃が長剣を弾き飛ばし、クーがそこに飛び込む。
顎を狙った鋼の膝は、皮一枚というところで避わされた。

( ゚ω゚)『姉様っ!!』

川 ゚ -゚)『ホライゾンっ!!』

銀髪の青年が放つ横薙ぎの一撃と、黒髪の王が放つ回し蹴りが交差する。
咄嗟に全ての長剣を壁のように構えるが、それでも容易くフォックスの身体は吹き飛ばされた。

( ´_ゝ`)『5式っ!!』

爪;'ー`)y‐『狐火っ!!』

そこを狙った兄者の投弾兵器と、フォックスの投弾兵器が空中でぶつかりあう。
隠密と陰の王のちょうど中間で、青と赤の混じった烈花が燃え上がった。

( ゚ω゚)『まだまだぁっ!!』

更に、青年の追撃。
しかし、フォックスは天井の梁に糸を絡ませ、身を引き上げるように跳躍。回避する。
そのまま、糸の上を駆け上がるようにして、上空に距離をとる事に成功した。

爪;'ー`)y‐『まさか、勝利の剣などが出てくるとは……これは、計算をやり直す必要が有りそうですね』



79: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:19:22.12 ID:6DTiKndi0
青年の手が届かぬ、王座の間天井付近。そこに張り渡らせた糸の上で、ようやく狐は息をついた。
彼は元々、統一革命において中枢を担った男だ。
その年齢は、ヴィップの老将フィレンクトと大差なく、若々しく見えるのも薬物による物に過ぎない。
むしろ、化けの皮を剥がしてみれば常に鍛錬を怠らぬ【白鷲】より、遥かに老いているだろう。

( ゚ω゚)『そこを降りて来い!! 叩き斬ってやるお!!』

爪;'ー`)y‐『そのような事を言われて誰が大人しく行く物ですか』

ヒートの放つ矢を払い落としながら、フォックスは内心で小さく息を吐いた。
かつて、騙まし討ちでモララーを殺したのも、彼の知略と武術を怖れたからだ。
何よりも、アルキュ最高剣技と呼ばれる【夢幻剣塵】だけは彼の九尾でも手に負える物ではない。
そして今、荒削り過ぎるとは言え、モララーの力の片鱗と神話の国の聖剣を継ぐ者が現れた。
殺さねばならない。

この男が彼らの前に姿を現したのは、己の最高傑作【心無き暗殺人形】回収の為だけではないのだ。
ニイトとヴィップ両国の敵愾心を煽って共倒れを狙った二虎競食の計。
続いてヴィップの本隊不在を狙った強襲作戦。
フォックスの計算では、決して破れる筈のなかった二つの策。それを破った者の正体を見極めに来た、と言うのが本心である。

(#゚ω゚)『降りて来ないなら……こっちから行くだけだお』

爪'ー`)y‐『どうぞ、ご自由に。来れる物ならば来てみなさい』

言っても、心底彼が来れないと考えている訳ではない。
どのような手段で来るかは読めぬが、必ずや手にした大剣を振るってくるだろう。
その行動の数手先に思いを寄らせるフォックスの眼下で、銀髪の青年は大きく息を吸い込んだ。

( ゚ω゚)『……叩き落してやるお』



84: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:24:04.00 ID:6DTiKndi0
( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

叫ぶや、駆け出した。
だが、それはフォックスを目掛けた物ではない。
瞬歩の加速力を利用したとしても、ただの跳躍では届かない。
青年の狙いは、壁である。

( ´_ゝ`)『そうか!! あの時と同じ手か!!』

垂直の壁を駆け登る。
その高さが狐を越えた辺りで、青年は思いきり石壁を蹴った。

( ゚ω゚)『落ちろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

爪;'ー`)y‐『……そう来ましたか』

落下による推進力を加算した超重量級の一撃。
それは、九本の長剣による防御も払い除け、フォックスを叩き落す。

川#゚ -゚)『良くやった、ホライゾン!!』

そして、その下に待ち構えるのはニイトの白き狼クーだ。
落下する仇の身に、とどめとなる蹴りを叩き込まんと、跳躍する。

と、同時に。
錐揉み状に落下する狐が小さく口角を持ち上げたのを、クーの緑色の瞳は捕らえていた。

川;゚ -゚)『なっ!?』



89: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:26:29.06 ID:6DTiKndi0
爪'∀`)y‐『殺ァッ!!!!!』

突如、フォックスが右腕を振るった。
瞬きする間も無く襲い来た長剣を避ける事も出来ず、クーは全身を切り刻まれる。

川  - )『……が』

振り子運動や慣性を利用しているとはいえ、宙を舞う長剣は所詮おとりのような物だ。
九尾の本当の恐ろしさは、長剣の影で閃く不可視の糸にある。
だが、それでも勢いをつけた鉄剣を軽装の身に受けては無事ではすまない。
意識が白く飛び、目を覚ました時には石畳の上に倒れこんでいた。

(´<_`;)『【突】!!』

弟者の義手から放たれた飛礫は、長剣によって弾かれる。
続けて飛び掛った青年をフォックスがかわすうちに、クーは兄者の手によって戦線から離脱した。

川# - )『くそ……なんと無様な……』

( ´_ゝ`)『良いから身を休めろ!! 【急先鋒】、クーと代われ!!』

言うより早く、ジョルジュはフォックスに斬りかかっていた。
兄者もまた、ハルにクーの身体を預けると、戦場に駆け戻る。

jハ;*゚ー゚ル『ちょっと、クー!! しっかりしてくださいまし!!』

【祝福の鐘】と称される凛とした声が、やけに頭に響く。
肺腑を絞られたかのように呼吸が困難だが、それさえ回復すれば戦線復帰の時は必ず来る筈だ。
戦況は今でも決して彼らに有利とは言えず。
時が満ちるまで彼女は仇敵の動きから目を離さぬ様、心に決めた。



92: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:28:44.62 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

(#゚∀゚)『らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!』

気合と共に振り抜いた大鎌と大剣は、いとも容易く回避されてしまった。
それどころか、鉄すら斬る糸が触れたのか、青年の頬に赤い線が走る。

川 ゚ -゚)『……』

観察者の立場に回って改めて分かった事。
それは【七英雄】と呼ばれる者が誇る戦闘能力の高さだ。
クーは父モララーが本気で剣を振るったところを見た事が無い。
目にした事があるのは日頃の鍛錬くらいな物だったし、フォックスの本質が戦士でなく謀略者の類である事も理解している。

だが、それでも彼らの刃は狐の毛皮を掠める事すら出来ないでいた。
ジョルジュ。ギコ。流石兄弟。ブーン。そして、自分。
揃って大概の将であれば退けられる程の実力は備えている。
しかし、フォックスの力はその遥か高みにあると、認めざるを得なかった。

九本の長剣と斬鉄糸の作り出す結界。
それは潜り抜けるだけでも容易ではなく、懐に飛び込んだ時には一撃をぶつけるのが関の山と言う状態になっている。
複数の剣に四方から襲われ、防ぎきった時には距離を空けられていた。

ノハ#゚听)『吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!』

怒号に釣られて視線を移した。
黒塗りの鉄弓を引き絞る赤い給士。
その少し後方で、身を縮こませる黒い給士が目に映る。



96: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:31:30.76 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『……』

思えば、彼女を憎む気持ちに支えられた半生だった。
失われた幼き日々の思い出を取り返すと誓ったあの日から。
降りかかる困難と過酷。微かな希望を一瞬で塗りつぶす絶望。
心が折れそうな時、【射手】を憎む事で己を保った。
幾度も幾度も、想像の中で八つ裂きにした相手だった。

ハインの過去を知った今、それに同情する心はある。
最も自身に近いのは彼女であろうと言う想いもある。
それでも、許す事は出来ない。
何故ならそれは、己の否定であり、憎んだ者に対する侮辱だからだ。

川 ゚ -゚)『……せめて全ての真実を受け入れてから憎んでやってくれ、か』

何時になく真剣で悲しい表情を浮かべた男の姿を思い出す。
受け入れよう。
己の弱さから逃避する為に、真実に蓋をして憎み続けた。
その全ても受け入れて、憎み続けてやろうではないか。

戦場に目を戻す。
その時、クーが見たのは邪悪に鈍く輝くフォックスの瞳。

川;゚ -゚)『……っ!!』

あの目は危ない。
そう思った時。
既にクーの義足は石畳を蹴っていた。



100: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:34:02.01 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

爪'ー`)y‐『流石は【急先鋒】。ここまで早く我が九尾とやりあえるようになるとは、正直驚きました』

(#゚∀゚)『うるせええええええええええええっ!!!!!!!』

クーの見立てたよう、狐の力は一枚も二枚も上手であった。
が、そこは戦闘経験と言う面で、決してフォックスに引けをとらぬジョルジュである。
襲い来る長剣や糸を、絡め縄や鎖鎌と同じように見てとれば、決して対応できぬ物ではない。
大鎌の柄を短く持ち、確実にフォックスに斬撃を打ち込んでいく。

それでも、まだまだフォックスには余裕があった。
彼を取り囲んでいるのは、近接戦闘では大いに劣る流石兄弟と、一撃が大振りに限られるジョルジュとブーン。
如何に柄を短く持とうと、勝利の剣が特殊な補助柄を備えていようと、性質上大振りになるのは否めない。
ギコとクーの二人を早々に離脱させておいて、正解だったと思う。

フォックスは、ギコの戦い方を良く知っている。
最小限の動きから繰り出される神速の連撃は、最も警戒せねばならぬ物だった。
そして今、クーを討った事で銀髪の青年は我を失いかけている。
補助柄の意味すら忘れ、無謀とも言える力任せの攻撃を繰り返しているのが、その証拠だろう。

爪'ー`)y‐。oO(ならば……もう少し熱くなってもらいましょうか)

命まで奪わなければ、問題はない。
この一撃で、ジョルジュや流石兄弟の冷静さも奪い去る事が出来るだろう。
いや。その為に、今まで“あれ”を放置しておいてやったのだ。

糸を操らぬ左手で、外套の内から黒塗りの武器を取り出す。
多くのバリエーションを持たぬ代わりに、殺傷力を追及した投弾兵器“狐火”。
狙うのは、勿論━━━━━。



106: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:38:05.88 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

从 д从『……いやだ……こわいよぅ……こわい……』

奥歯が浮かび上がり、カチカチと音を鳴らした。
全身が凍りついたかのように寒い。
いや、きっと本当に凍り付いているのだろう。
何故なら、その身体は指先一つ動かす事が出来なかったから。

从 д从『ごめんなさい……いじめないでください……ごめんなさい……』

呪詛のように何度も何度も何度も何度も繰り返し呟いた。
あぁ。あそこでは温もりを与えてくれた人が倒れている。
衣服が燃え尽き、むき出しになった背中が焦げている。
けれども、その光景もどこか遠くの世界の出来事であるかのように思えて。

『流石は【急先鋒】。ここまで早く我が九尾とやりあえるようになるとは、正直驚きました』

激しい金属音に混じって聞こえるのは、あの男の声だ。
人売りを装って隠密の集落を襲い、自分達を人質に大人達を皆殺しにした男。
たくさんの友達の中から“いいこ”を選び抜く為、何十人もいじめた男。
偽りの温もりを与え、自分達を物を考えぬ人形に作り変えた男。

怖い。
コワイ。
こわい。

心の奥底に閉じ込めていたモノが、鎌首を持ち上げて身体に絡み付いてくる。



110: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:40:03.73 ID:6DTiKndi0
母は自分の目の前で両胸に大剣を突き立てられた。
普通であれば即死の傷。
だが、母は死ななかった。
死ななかったから、笑みを浮かべた男にボロボロになるまで斬りつけられた。

あの子は、生きたまま腸を引き摺り出され、腐敗した犬の死体を詰めて見せしめにされた。
あの子は、食べさせてもらえるのが自ら殺した弟の死体だけだった。
あの子は、槍に串刺しにされたまま、二日間も死ねずに痙攣していた。
みんな、みんな“いいこ”じゃなかったから。

何百人も殺した。
一つの夜が明けるまでに、両手の指では数え切れないほどの命を奪った。
それは正しい事の筈なのに。
誰もが恨みと憎しみを込めた目をして死んでいった。

あの貴族は、呪いの言葉を吐きながら絶命した。
あの騎士は、悲しい目で見つめながら息を引き取った。
あの母親は、最期まで子の身を案じながら必死に生きようとしていた。

殺された大人達。
いじめられた仲間達。
殺した者達。
その全てが給士を縛りつける。

『ハインリッヒ!!!!!!!!!!!!!!』

从 д从『っ!?』

名を呼ぶ声に、顔をあげる。
瞬間。視界を何かが塞ぎ、同時に彼女は閃光と熱風に包まれた。



114: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:42:30.54 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

(;゚ω゚)『ハインさんっ!?』

(;゚∀゚)『ハインッ!!』

当然、諸兄らもお気づきだろう。
ハインの身を包み込んだ炎の正体は“狐火”と名付けられた投弾兵器。
自身の包囲網を潜ってそれを投げたのは、【人形遣い】フォックスである。
この時初めて実行された“外野”への攻撃は、彼の考えていた通りの成果を上げた。
つまり。

爪'∀`)y‐『隙だらけですよ、流石兄弟』

(´<_`;)『……っ!?』

(;´_ゝ`)『しまっ……5式っ!!』

常に冷静さを乱さず援護攻撃に徹していた二人の心が、初めて乱れたのだ。
皮肉にも、その策はかつてバーボン城の戦いで兄者が実行したのと全く同じ物。
だが、それはあまりにも効果がてきめんで。

ハッと我に返った時には、フォックスの“狐火”が眼前に迫っている。
迎撃に放った投弾兵器も空しく、兄弟は爆風と共に石壁に叩きつけられた。
更に。

(# ∀ )『ぐおおおおおおおおおおおおっ!?』

まさに一瞬。激痛に【急先鋒】ジョルジュは膝をつく。
その右目には飛刀が突き刺さり、頬を血が濡らしていた。



126: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:46:30.65 ID:6DTiKndi0
( ゚ω゚)『……っ!!』

青年はただ呆然と立ち尽くした。
まばたきをする間も無く、三人の戦士が倒されたのだ。
だが、フォックスの刃が青年を襲う事は無く。
何故か?

それは、黒の給士が炎に包まれる寸前。一つの影がその前に立ち塞がるのを見てしまったから。
そして、青年がそれを為す術もなく見てしまったのに、気づいたから。

(;゚ω゚)『ね……ね……』

爪'ー`)y‐『……これはなかなかに予想外な展開ですね。
      ですが、即興は演劇を盛り上げる手段としては非常に効果的な物。はい、決して悪くないですよ』

冷やかすように不快な声は、青年の耳には入らない。
煙が晴れて行く。
まず、目に入ったのは水色の衣を爆炎に焼き飛ばされ、顕わになった傷だらけの背中。
給士に覆い被さり、護るようにして両腕を広げている。
吹き飛ばされぬよう、赤銅色の義足を、ずんと石畳に下ろしていた。

从 д从『……え? あ……あぁ……』

川  - )『……』

やがて、ゆっくりと黒髪の王の身体が崩れ落ちた。
まるで、給士にもたれかかるようにして、倒れていく。


(;゚ω゚)『姉様ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』



133: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:50:00.13 ID:6DTiKndi0
爪'∀`)y‐『いや、これは褒めてさしあげるべきでしょう!!
      このような喜劇を見たのは、いつかの王都以来……』

言い終わるより早く、宙に飛んだ。
青年の振り下ろした大剣が外套をかすめ、石畳に叩きつけられる。
砕け散った破片が地に落ちるより早く、ブーンの身体はフォックスに迫っていた。

(#゚ω゚)『貴様ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』

我武者羅に刃を振るい、フォックスの身を追う。
斬鉄糸が肌を切り、血が噴き出しても構わずに斬りかかった。

爪'ー`)y‐。oO(……ほぅ)

速い。
素直にそう、感心した。
ただ速さだけなら、父である【夢幻剣塵】モララーにすら大きく引けは取るまい。

爪'ー`)y‐『ですが、それだけですね』

だが、それだけだった。
完全に我を失ったブーンの攻撃など、あしらうのはあまりに易い。
厄介な流石兄弟も封じこみ、ヒートや片目を負傷したジョルジュなどの諸将は斬撃の速さに、近づく事も出来ずにいる。
つまり、ブーンひとりに徹底的に集中できる。
狼を狙う蜂の群れがように、幾度も毒針を突き立ててやれば良い。
また、このまま瞬歩を発動させていれば、青年の体力が先に尽きるのは明らかだった。

そう。冷静さを欠いた者を相手に、万に一つもフォックスが敗れる事はありえない。
たとえ、それが英雄モララーの子であり、聖剣を継いだ者であったとしても、だ。



134: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:52:14.84 ID:6DTiKndi0
(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!』

爪;'ー`)y‐『む?』

咆哮と共に、青年の身を包み込む剣気が爆発した。
叩きつける大剣の重圧も、比にならぬほど高くなる。
踏み込み足は足元がひび割れるほど強く、剣先が掠めただけで石畳に亀裂が走った。

爪;'ー`)y‐『なるほど。今までどこに潜んでいたのか知りませんが……
      流石はモララーの子、というわけですか』

長剣を、ざぁっと並べて青年の進路を塞ぐ。
大きく背後に飛び退いた事に、打診も計算もない。
言わば、本能的に感じた何かが、フォックスの足を退かせた。

(#゚ω゚)『これでも……喰らえお』

このままではジリ貧になるのは、もちろん青年も理解していた。
フォックスは今までに戦った誰よりも強い。
そして、それは経験と手段を選ばぬ冷酷さに裏打ちされた、知による物が大きいのだろう。
ならば、どうする?
そのフォックスの計算力が及ばぬような一撃を叩き込む以外に答えは、ない。

(  _ゝ )『無理だ……ブーン、やめろ……』

兄者の声は青年の耳に届かない。
いや、届いていたとしてもそれに従う事は無かっただろう。
扉を開く鍵となる言霊も、己の内面に飛び込むのに集中する時間も全て不要。
何故なら、青年の心には未だかつて無い程の怒りの炎が渦巻いているからだ。
拳法家が重ねた板を手刀で割るように、一息に自身の中にある扉をぶち破っていく。



138: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:55:08.61 ID:6DTiKndi0
爪;'ー`)y‐『それが切り札、というわけですか』

(#゚ω゚)『……その通りだお』

限界解放。生涯でただ三度だけ許された。全てを打ち砕き、引き裂く必殺の一撃。

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!』

だが、青年が限界解放を発動させた戦いから、まだ一月と経過していない。
万全の状態でさえ、命を削りとる大技だ。
全身を焼き尽くし、引き千切られるような痛みがブーンを襲う。
皮膚が破れて血が噴き出し、心の臓が弾け飛ぶかのような悲鳴をあげた。

(#゚ω゚)『それでも……それでもぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!』

それでも、この一撃に賭けるより他に手段はない。
それでも、この男は許してはならない。
自分がここで敗れれば、その背後にいる大勢の仲間も殺されるのだ。
この男は大勢の仲間を、家族を傷つけ続けてきたのだ。
であれば、なにを躊躇う必要があろうか?

青年の怒りが、最後の一線を踏み越える。

その、瞬間━━━━━

( ゚ω゚)『っ!?』

爪;'ー`)y‐『……なっ!!』

突如襲い掛かった黒い影に、【人形遣い】フォックスの身体は吹き飛ばされていた。



142: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:57:42.07 ID:6DTiKndi0
???『馬鹿野郎!! 自棄になんなっ!! 死にてぇのかっ!!』

(;゚ω゚)『……お? でも……』

???『言い訳すんなっ!!』

(;゚ω゚)『あ……はい、ごめんなさいですお』

驚愕が、青年の心に渦巻く怒りを急激に冷ましていく。

爪;'ー`)y‐『……くっ』

数十秒前までは玉座の形を為していた瓦礫の山から、身を起こした。
その表情は、己の計算を遥かにずれた事実に困惑している。

爪;'ー`)y‐『何故……あなたが……?』

この戦いで初めて【人形遣い】に傷を負わせた者。

右の手には、もう一つのニイトの至宝たる長剣“西方の焔”
左の手には、それぞれの指又に挟みこんだ飛刀。
黒髪を後頭部でまとめあげ、ガラス玉のようだった瞳は今や凛と輝いている。
身に纏うは……皆もお分かりであろう。

漆黒の給士服。


从#゚∀从『何故……じゃねぇっ!! このハインちゃんが直々にぶち殺してやるぜ、フォックスっ!!』

【天翔ける給士】ハインが、そこには立っていた。



146: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:59:50.97 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

川;゚ -゚)『……っ!!』

あの目は危ない。
そう思った時。
既にクーの義足は石畳を蹴っていた。

川#゚ -゚)『ハインリッヒ!!!!!!!!!!!!!!』

从 д从『っ!?』

咄嗟に、その身体を被い庇う。
同時に襲い掛かる閃光と爆音と衝撃。
それだけで身体が弾け散りそうになった。

川  - )『っ……ぐ……ぅ……』

从 д从『……あ……あぁ……何で……?』

続けて全身を貫いた激しい痛みに、意識が朦朧とする。
崩れるように倒れ、給士の身体にもたれかかった。
だが、意識を失う訳には行かない。
歯を喰いしばり、鋼の意思で気を保つ。

川  - )『これで……貸し借りは無しだ』



152: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:02:51.37 ID:6DTiKndi0
从 д从『な、何を言ってやがるんだよ、こんな時に……』

川  - )『こんな時……だからこそだ』

力が抜けていく。倒れてしまえばどんなに楽だろう。
しかし、まだだ。倒れる訳にはいかない。
告げなくてはならぬ言葉がある。

川  - )『良く聴け……ハインリッヒよ。私は……お前を絶対に許さない。
     たとえ、貴様の過去が悲しみに色塗られ、踊らされていたのだとしても……許すわけにはいかない』

从 д从『だったら……だったらハインちゃんなんか放っておけば……』

川 ー )『そうだな……だが……私は、貴様などに借りを作るつもりはないのだ……暗殺者よ』

自嘲するように、小さく笑みを浮かべる。
その言葉を聞いた給士の顔が、わずかだが怒りに染まった。

从# д从『何も知らなかったくせに……勝手な事言いやがって……っ!!』

川 ー )『どうした……癪に障ったのか? ならば、怒ればいい。
     無知で身勝手な私を……貴様も許さなければいい。だがな……』

だが。
絞りかすの様な意思を総動員して、緑色の瞳に力を込める。

川 ー )『……だからと言って……私と貴様が共に戦ってはいけない理由にはならないだろう?』

从 д从『……っ!!』



156: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:05:21.37 ID:6DTiKndi0
从 д从『……え? お前、ハインちゃんを許して……』

川 ー )『許さぬ……といった筈だ。私はお前を永遠に許さない。
     しかし、自分から逃げる為に貴様を憎んで……
     知らぬうちに借りを作り続けて生きるのは……もう終わりだ』

言って、爆風に飛ばされた長剣を拾い上げる。
腰に帯剣しながらも、使う機会の無かったものだ。
それを給士の胸に押し付ける。

从 д从『……』

川 ー )『【射手】よ。人は恐れる物に背を向けて逃げ続ける限り……前には進めない。
     戦わなければ、人は人ですらいられない生き物なのだ……。
     恐れてもなお……人であろうとするならば……戦うより他に、本当の逃げ道など存在しないのだ』

そこがもう、黒髪の王の限界だった。
今度こそ、本当に崩れ落ちていく。

从; д从『【無限陣】!!』

川 ー )『クーと呼ぶが良い……行け……罪無く死んだ者達の恨み……
     ……私に代わって貴様に晴らさせてやる』

从; д从『……っ!!』

それだけ告げて。クーの意識は深い白の中に沈み込んでいった。



161: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:08:04.74 ID:6DTiKndi0
ノハ;゚听)『お……お姉様? 怪我は……』

从 ∀从『……大丈夫だ。こいつが庇ってくれたからな』

完全に力の抜け切った身体を静かに石畳に横たえ、給士は立ち上がる。

jハ;*゚ー゚ル『クー!! 馬鹿な真似をっ!!』

駆けつけたハルとヒートに意識を失ったクーを託し、力を込めた瞳で戦場を睨みつけた。

ノハ;゚听)『で、でも、お姉様は……』

从 ∀从『……』

答える代わりに、長剣を鞘から抜き放った。烈火が如く輝く、ニイトのもう一つの至宝“西方の焔”。
ハインは知らぬが、それはかつてモララーの副官であったラーゼが承った物だった。
つまり、【射手】であった頃の自分によって友を失った者の忘れ形見。
手渡された意味は分からない。だが、手渡された想いは重すぎるほど。熱すぎるほど掌の中に感じる。

从 ∀从『互いに許し合わずとも、それが手を取り合わぬ理由にはならない、か。
     格好つけやがったな、頑固女め。でも……』

もう一度戦場を睨みつける。
いや。己の為にあまりにも多くを喰い殺してきた男を睨みつける。

从#゚∀从『でも、それで十分だ。
     大人しくそこで寝てろよ、クー。ハインちゃんが、あの野郎をぶちのめしてやる』

呟くや、給士は力強く石畳を蹴った。



163: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:09:35.66 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

从#゚∀从『飛刀乱舞・3連っ!!!!!!!!』

爪'ー`)y‐『そのような小技、通用すると思っているのですか!?』

20を越える飛刀を、糸と長剣で払い落とした。
その時には銀髪の青年が懐に飛び込んでいる。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

胴を狙った横薙ぎの攻撃は、皮一枚で避わした。
と、同時に腕を振るって長剣を素早く引き戻す。
背後に回りこみ、切りかかろうとしていた給士は、既に正面に戻って来ていた。

爪'ー`)y‐。oO(く……それにしても、どこで計算が狂った!?)

ハインの戦線加入。それは、フォックスにとって完全に計算外の出来事であった。自分を前にして彼女が己を保てる筈が無い。
冷静さを欠くほどではないが、どうしても心に引っかかる。
クーがハインを庇った時からか?
いや、そもそも彼の知るニイト王は復讐鬼たる存在だった筈。
ハインだけでなく、彼女が身を置くというだけでヴィップですら嫌っていたほどだ。
その彼女が、この場にいる事自体がおかしい。
と、なれば……。

爪;'ー`)y‐。oO(ニイト=ホライゾン!! また貴方ですか!!)



167: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:11:33.21 ID:6DTiKndi0
ヴィップ内部で暗に動いていたショボンすら手玉にとって、戯曲を奏でていたつもりだった。
しかし、その実。真の主演は、彼の目から見えぬ所で台本そのものを作り変えてしまっていたのだ。

从 ゚∀从『ナイトウ!! 右に回れ!!』

( ゚ω゚)『把握だお!!』

爪;'ー`)y‐『全く……面倒な真似をしてくれますね』

脚の動きを休める事無く、ハインとブーンは攻撃を繰り返す。
いや、ただ無闇矢鱈に駆け回っているのではない。
右方と左方。
前面と後背。
近距離と遠距離。
常に相反する位置より【人形遣い】に斬りかかる。
そうする事で、一人に向けられる尾の数はどうしても分散され、飛び込みやすくなる。
故にフォックスは、この戦闘の火蓋が切り落とされて以来初めて、本気で動き回らねばならなくなっていた。

从#゚∀从『高岡流一刀術!! 桧割り!!』

爪;'ー`)y‐『っ!!』

長剣を掻い潜り、高く舞った給士が焔の刃をフォックスの頭に叩き落す。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおらぁっ!!』

そして、それを避けた時にはその足元に銀髪の青年が滑り込んで来ているのだ。
繰った長剣を石畳の隙間に突き立て、柄の尻に飛び乗るようにして回避する。
と、同時に高く跳躍した。
その影を掠める様に、給士の放った飛刀が背後の壁に突き刺さる。



169: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:14:01.20 ID:6DTiKndi0
対峙する数こそ、たったの二人に過ぎない。
だが、神速の移動術たる瞬歩法の使い手二人は、数倍以上の戦力に値するのだ。
ハインの飛刀による援護射撃は【金剛阿吽】の兄弟二人を上回る物だし、
飛刀を放ったかと思えば次の瞬間には炎の刃を振るっている。
銀髪の青年は遠距離攻撃こそ出せないまでも、息をつかせぬ連撃を繰り返していた。

爪'ー`)y‐『あまり調子に乗らないでほしいですね』

从;゚∀从『っと!!』

今、まさに跳躍しようとしていたハインは、危ういところで踏みとどまる。
糸を繰る右手を高く掲げたフォックスの頭上で、九本の長剣全てが舞い踊っていた。
その身体を包むように輝いているのは、狂舞する鉄斬糸で間違いあるまい。

从#゚∀从『何だぁ!? 守りに専念するなんて、らしくねぇじゃねーか!!』

爪'ー`)y‐『私も若くありませんので。休憩時間くらい頂きません……と?』

答えるフォックスの視界に入ったのは、距離を開き剣気を練りあげる青年の姿である。
小柄なハインは、飛刀術は勿論の事、斬撃も軽い。
瞬歩による加速力を利用しなくては、案山子すら斬れないのではないだろうか?
しかし、あの青年は違う。足を休めていては、防ぎきれない。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおっ!!』

爪;'ー`)y‐『やれやれですね。全く、最近の若い人は……』

一直線に走る、閃光が如く剣撃。それをフォックスは、あえて前に飛び込むようにして回避した。
擦れ違い様、土産代わりに青年の脇腹へ手刀を突き刺す。
ぽきり、と確かな感触があり、青年は足を縺れさせながら顔面から倒れこんだ。



171: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:15:37.96 ID:6DTiKndi0
从;゚∀从『ナイトウ!! 大丈夫か!?』

( ゚ω゚)『はい、ですお!!』

すぐさま跳ね起きる姿は、損傷を負ったようには見えぬ。
だが、フォックスの指先は間違いなく青年の肋骨を折っていた筈だ。

爪'ー`)y‐。oO(精神状態が能力を大きく左右するタイプですか……厄介ですね)

そう、判断した。
安定感、と言う意味では青年の戦い方は大いに突け入る隙がある。
が、一度嵌った時の爆発力は、それを差し引いても十分な破壊力を秘めているのだ。

己の最高傑作である【闇に輝く射手】ハインリッヒと、己の策を尽く討ち破った【王家の猟犬】ニイト=ホライゾン。
嘲るような笑みを浮かべてはいても、内心ではとうに余裕など消え失せている。
全力をもってこの二人を討つつもりでなければ、敗れても不思議はない。

爪'ー`)y‐『それでは。これには、どう動きますか?』

从 ゚∀从『させねーよっ!!』

ツン達を狙った“狐火”は、ハインの飛刀に討ち落とされた。
空中に蒼い炎が花開く。

从 ゚∀从『二番煎じかよ。堕ちたもんだな』

爪'ー`)y‐『人形ふぜいが……ただの遊びでいい気にならないで欲しい物です』

挑発にハインの顔が微かに上気する。
フォックスは張り巡らせた糸に飛び乗り、二人から距離を空けようとしていた。



172: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:17:09.55 ID:6DTiKndi0
从 ゚∀从『逃がすと思うのかよ、フォックス!!』

単純な加速力やここぞと言う時の爆発力ではブーンに劣るハインの瞬歩法だが、
彼女にはそれを補って余りある長所がある。
安定性。持続力。そして何よりも、跳躍力がそれだ。

青年には届かぬ高さにフォックスが移動しても、彼女であれば追撃が出来る。
かすかにきらめく糸の上を逃げようかというフォックスを見て、
前衛を務めていた青年を追い抜かすように給士は前に出た。

だが、これは一見正解のように思えて、その実は間違いである。
フォックスの挑発を受け流したつもりで、まんまと罠に嵌ってしまった。
確かに、高みに逃げたフォックスを追う事はブーンには出来ず、それが出来るのはハインしかいない。
しかし、それは同時に牽制役を務める者がいなくなる事も意味しているのだ。

(;゚ω゚)『ハインさん、らめぇっ!!』

从;゚∀从『え……?』

二人も当然、瞬時にこの過ちに気づく。
咄嗟に青年が前に出ようとするが、その時にはもう遅い。
好機をみすみす見逃すほど、この男は甘くなかった。

爪'ー`)y‐『悪い子にはお仕置きが必要ですね』

九本の剣と鉄斬る糸を全て給士に集中させる。
ほんの数瞬。
過ちと呼べぬほど、わずかな時間で修正できた過ちの筈であった。
が、この男にとってそれを致命的とも言える傷に広げるには十分。
数瞬の間に、ハインはその身体を長剣に包囲されてしまう。



183: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:20:58.36 ID:6DTiKndi0
从#゚∀从『この……陰険野郎がっ!!』

爪'ー`)y‐『褒め言葉と受け取っておきましょう。
      ご安心なさい。全てが終わった後には、あの頃とは比べ物にならぬお仕置きをしてあげましょう。
      そして、貴方は再び我が人形へと生まれ変わるのです』

从#゚∀从『っ!! ふざけるなっ!! ハインちゃんはもう二度と人形なんかにならねぇっ!!』

ハインの飛刀は連射には長けるが、長剣を弾くだけの重量はない。
やむなく、半身に身体を開いて“西方の焔”を振るうが、
それだけでは無数に襲い来る糸まで防ぎきる事は不可能だった。

狂ったように宙を踊る斬鉄糸に、給士服が切り刻まれていく。
黒い細切れと赤い鮮血が、風に散る花弁のように宙を舞う。

(;゚ω゚)『ハインさんっ!!』

爪'ー`)y‐『無駄ですよ、ニイト=ホライゾン!!』

咄嗟に壁を駆け上り上空から援護しようととするも、
出足際に“狐火”を叩きつけられて前のめりに転げ込んだ。
瞬歩に跳躍を加えられぬブーンでは、フォックスに手を出す事は出来ない。
壁を使った強襲も、援護する者がいなくては容易く妨害されてしまう。

かと言って、給士の盾となり、彼女の代わりに攻撃を身に受ける事も不可能だろう。
先と同じように、足止めを喰らってそれで終わりだ。
手を拱いているうちにも、ハインの肌に走る赤い線の数がみるみると増えていく。

(;゚ω゚)『くそっ!!』



191: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:23:08.39 ID:6DTiKndi0
縛り付けられたように一歩として動けぬ給士。
それを前にして、青年の頭は嘘のように冴えきっていた。
このままハインに攻撃を集中されてしまえば、いつか必ず全て削り取られる。

だが、自分が動くには何かが一つ足りないのだ。
隣接戦闘のみに限られた自分がフォックスを叩くには、
どうしても誰かの援護が必要になる。
しかし、給士ハインは動けず、【金剛阿吽】流石兄弟は身を起こす事も適わぬ有様。
必死に自分らの背後を駆け回るヒートが放つ矢も、効果は殆ど見られない様子だった。

(;゚ω゚)。oO(どうする……どうする……?)

捨て身の突撃?
それはありえない。狙い済ましたかのように迎撃されて終わりだ。
では、今度こそ限界解放を発動させるか?
不可能だ。集中する間も無く、その身を青い炎が包み込むだろう。

考えろ。考えろ。
この場を切り抜けられるのは、己しかいない。
ジョルジュ、ギコ、クー、流石兄弟と言った個人戦闘の達人が倒され、背後に控える者達ではフォックスを討つ事は不可能だろう。
何か……どこかに突破口は……。

从#゚∀从『ナイトウッ!!』

その時、一瞬にも満たぬ間隙をついて給士が振り返り、叫ぶ。
瞳があった瞬間、彼女の意図を青年は読み取った。

(;゚ω゚)『あ……』

策は、ある。



194: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:25:37.66 ID:6DTiKndi0
(;゚ω゚)『でも……っ』

策はある。
だが、それは賭けに等しい策だ。
数秒ではあるが、ハインの身体を今以上に危険に晒す事になるし、
何よりも他に出口がない以上、フォックスに誘導されている危険性が高すぎる。

从#゚∀从『来い、ナイトウっ!! こうなったのはハインちゃんのミスだ!! これだけは全部防いでみせる!!』

( ゚ω゚)『……っ!!』

その一言で青年は覚悟を決めた。
一息で飛び込める位置にある、フォックスからの死角。
つまりは、ハインの後方に飛び込むと、その背中に向かって石畳を蹴る。

爪'ー`)y‐『狐火っ!!』

从#゚∀从『させるかあああああああああっ!!』

身を護る炎の刃を投げ捨てた。
瞬間、給士の身体を狐の尾がズタズタに切り裂くが、怯まない。
両手から放つ飛刀をもって、全ての投弾兵器を迎撃する。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

そして、青年は全ての攻撃を一身に受ける給士の背を踏み台に。

( ゚ω゚)『フォックスーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!』

高く。高く宙に跳んだ。



204: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:27:30.42 ID:6DTiKndi0
(#゚ω゚)『これで終わりにしてやるおっ!!!!』

爪'ー`)y‐『……ふぅ』

右腕を振るい、長剣を引き戻した。
給士を襲っていたその全てを、ブーンに集中させる。

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!』

勇み足による失策を犯した給士の身を盾にした、強引過ぎる襲撃。
咆哮と共に落下してくる青年は大剣を高く振り上げ、フォックスの攻撃を避けようともしなかった。
いや。元より避ける術など持たない。全てを聖剣の一撃に賭けたかのように、勢いをつけて降下する。
これが普通の者が相手であれば、予想し得ない強襲の筈だったであろう。
だが。

爪'ー`)y‐『まぁ……それしか手はないでしょうからねぇ』

( ゚ω゚)『!!』

やはり、と言うべきだろう。青年の懸念していた通り、この男にはそこまで見透かされていた。

爪'∀`)y‐『お疲れ様です。ニイト=ホライゾン』

落下による加速力を全身に纏った青年の胸元に、ひょいと投弾兵器を投げつける。
今まさに大剣を振り下ろそうかとしていた青年の身体は、爆音と共に青い炎に包まれた。
吹き飛ばされ、数度石畳の上を跳ねてから、うつ伏せに倒れ動かなくなる。

(  ω )『……』

これで残るは先立ってフォックスの攻撃を一身に受け続け傷ついた、【天翔ける給士】ただ一人。



216: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:30:47.89 ID:6DTiKndi0
爪'ー`)y‐『く……くく……』

しかし、狐は動かない。
何故なら、確認せずとも先程の場所に給士がいない事は分かっているから。
ブーンの身体を切り刻んだ長剣をそのまま宙に展開させ、彼が降下してきた位置の更に後方。
上空を見据え、哄笑した。

爪'∀`)y‐『ぁあっはっはっはっはっはっはっはっ!! 
      やはり、そこですか……ハインリッヒ』

从;゚∀从『っ!?』

その視線の先。
残る力の全てを絞り尽くして空中を舞う給士の目が、驚きに見開かれた。

ブーンとハインの狙いは、給士が盾となり青年が刃を振り下ろす、というだけの単純な物ではない。
刃であった筈の青年がその実は盾であり、盾であった筈の給士こそが真なる刃。

つまり、ブーンによる捨て身の攻撃は、迎撃される事を前提とした囮に過ぎなかったのだ。
それに目が行っている隙に、ハインが青年の生み出したフォックスの視界の死角。
すなわち、ブーンの後背に飛翔する。
その後に、青年を撃墜したフォックスの心の間隙を突いて勝負を決める。
強襲と奇襲の、二段構えによる攻撃であった。

だが、それすら陰の王にとっては想定内の行動であり。
今、給士は怨敵に無防備すぎる姿を晒してしまっている。

爪'ー`)y‐『狙いは悪くありませんでしたよ。ですが、相手が悪すぎましたね』

从#゚∀从『くそおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』



223: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:34:42.08 ID:6DTiKndi0
爪'ー`)y‐『そうら、行きますよ?』

中空に待機させていた長剣が、一斉にハインに襲い掛かる。
“天駆ける”の異名を許された彼女とて、その脚力を生かせぬ空中では為す術もない。
身を護る事も出来ず、全身を切り裂かれた。

从# ∀从『これでも……駄目なのかっ』

力を失い、落下していく。
だが、このままおめおめと石畳に叩きつけられる訳には行かない。

从# ∀从『がぁっ!!』

エプロンドレスを引き剥がし、手に巻きつけると、張り巡らされた糸の一本にしがみ付いた。
それだけでも、鉄すら斬ると言われた糸が指に食い込み、出血する。
軽量級のハインでなければ、掴んだ指ごと切り落とされていただろう。
けれども、ダラリとぶら下ったその姿はまるで、中空に磔にされているかのような無様なもので……。

爪'ー`)y‐『おやおや。随分とみっともない姿ではないですか、ハインリッヒ』

从# ∀从『……うるせぇ、黙れ。耳が腐る』

答えるや否や、給士の鳩尾に長剣の柄が叩き込まれた。
衝撃で糸を掴む指から血が吹きだし、白かったエプロンドレスが朱に染まっていく。
流したくもない涙が瞳に浮かび、激しく咳き込む口からは、涎が一本の線となって滴り落ちた。

この体勢から挽回は不可能だろう。給士は悟った。
今の自分はフォックスにとって、ただの的に過ぎない。
だが、この男に屈するのは二度とごめんだ。最後の最後まで戦ってみせる。



228: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:37:35.17 ID:6DTiKndi0
从# ∀从『くそったれ……ハインちゃんは……絶対に負けねぇぞ……』

爪'ー`)y‐『まだ減らず口を叩く元気だけはあるようですね。
      それでは、私から貴女に素敵な子守唄をさし上げます』

言って、巡らせた糸の上から地上に降り立つ。
こみあげる笑いを押さえ込むようにしながら、懐から投弾兵器を取り出した。
ハインに見せびらかすように、二度三度手の上で放ってみせる。

爪'ー`)y‐『我が“狐火”の恐ろしさは貴女もご存知ですよね?
      これから、これを貴女に叩きつけます。
      素直に大人しく、青き炎に焼かれて落ちるも良し。
      抗い、かわし続けて、力尽き落ちるも良し。好きな方を選ばせてあげましょう』

从# ∀从『……』

避ける体力など、残っていなかった。
それならば、たとえこの身を焼かれようとも、掴んだ指だけは放さない。
戦い、抗って……起こる筈のない奇跡を待ち続けてみせる。

爪'∀`)y‐『眠りなさい、ハインリッヒ。次に目覚める時は……地獄です』

フォックスの表情が愉悦に醜く歪んだ。

“狐火”を手にした腕を大きく振りかぶる。

从# ∀从『来やがれ……何回だろうと付き合ってやるぜ……』

ハインもまた、襲い来るであろう衝撃に備えて強く両目を閉じた



232: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:40:08.56 ID:6DTiKndi0
从;゚∀从『……?』

過ぎた時間は、数秒であったか。数十秒であったか。
しかし、その衝撃はいつになってもハインを貫かなかった。
恐る恐る開いた視線の先。
そこには左手を押さえこみ、呻き声をあげる【人形遣い】の姿がある。
その足元には血に濡れた“狐火”が転がっていて。

爪#'ー`)y‐『ぐぅっ!!』

小さな気合と共に、その手を貫く飛刀を引き抜いた。鮮血が激しく石畳に滴り落ちる。
だが、それを放ったのは当然……彼女ではない。

从;゚∀从『……』

フォックスの視線は、完全に彼女から外れていた。
王座の間の片隅、戦場を外れた一角を強く睨みつけている。
ハインは静々と、その視線の先を追った。
そこには。そこには、官服をボロボロに焼かれるほどの傷を負いながらも、
黄金の王に肩を支えられるようにして一人の男が立っているのだ。

爪#'ー`)y‐『死に損ないが……ふざけた真似を……』

【天翔ける給士】ハインリッヒは、その姿を決して忘れぬだろう。

从;゚∀从『あ……あぁ……』

傷つきながらもなお、強き意思を込めた瞳で邪悪を睨み据えるその姿を。

『やれやれだ、フォックス。僕がこのままやられっ放しだとでも、本当に思っていたのかい?』



242: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:43:56.58 ID:6DTiKndi0













(´・ωメ;)『敷き皮にしてやろうか、糞キツネ。ぶちころすぞ』













249: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:46:21.21 ID:6DTiKndi0
爪#'Д`)y‐『天智星ぃぃいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!! 貴様ぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

从;゚∀从『ご主人!?』

二人の声が重なった。
だが、立ち上がったとて深手を負ったショボンには、これ以上攻撃の術は残されていない。
彼に出来るのは、天にあまねく智の星光をもて、翔ける者を導く事だけ。
だから叫ぶ。

(´・ωメ;)『ハイン、跳べ!!』

从;゚∀从『……え?』

(´・ωメ;)『糸だ!! 君なら出来る!!』

从;゚∀从『!!』

爪#'ー`)y‐『っ!!』

二人は同時にショボンの言わんとしている事を理解した。
だが、この時フォックスの視線は完全にショボンに向けられている。
傷つけられた痛みと屈辱に、怒り狂っている。
故に、その男の反応は、わずかに遅れた。

(´・ωメ;)『跳べぇっ!! ハインっ!!』

从 ゚∀从『おうっ!! ご主人っ!!』



251: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:48:19.86 ID:6DTiKndi0
失われていた力が、全身に漲るのを感じる。
彼女は給士だ。
主が彼女の掌を握り締め、導いてくれるというならば。
給士はその声に、ただ粛々と従うのみ。

鉄棒の大車輪の原理で、糸の上に飛び乗った。
そのまま、糸の反動をも利用して渾身の力を込め飛翔する。

爪;'ー`)y‐『くそっ!!』

それを見たフォックスは、素早く長剣を引き戻した。
もう一瞬反応が早ければ、ハインが跳ぶよりも早く糸を回収する事も出来ただろう。
が、それを悔いている時間はなかった。
“あれ”だけは危ない。
九尾の全てをもって守りに徹しても、完全には防ぎきれない。

从 ゚∀从『行くぜ、フォックス……』

飛翔の最頂点に達すると、ハインは中空に身を翻した。
同時に漆黒の給士服に仕込まれていた糸を引き抜くと、
ふわりと舞い上がるスカートの裏に縫い付けられていた1000の飛刀が彼女の周囲に解き放たれる。

从#゚∀从『喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!!!』

そこから放たれる技はただ一つ。
その秘技を放てる者はただ一人。



そう。それこそは、高岡流飛刀術究極奥義・飛刀乱舞━━━━━



256: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:50:47.61 ID:6DTiKndi0









从#゚∀从『━━━━━ 1 0 8 れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ん っ !!!!!!!!!!!!!!!』









265: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:55:03.08 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

音もなく着地した給士に数秒遅れて、高く跳ね上げられた最後の飛刀が石畳に落ちる。
カラカラと乾いた音を立てながら、やがて動きを止めた。

(;´・ωメ;)『そんな……化け物、か』

深、と静まり返った王座の間に【天智星】ショボンの漏らす声が響きわたる。
その男は、全ての者達の視線を全身に浴びながら。給士に背を向け、ゆるりと歩を進めはじめた。
気障な外套も、首に巻きつけた薄絹も散り散りに千切れ、見る影もない。
全身から血を垂れ流し、八本の尾を引き摺り。それでも男は倒れこむのを堪え、よろめき歩いた。

ほどなく、石壁まで辿り着く。
壁に背を預けると、懐から取り出した阿片の煙管を口にくわえ、松明を使って火をつけた。
静かに、深く煙を吸い込み、数秒の後に満足そうに吹き出す。
そうしてから、足元に転がる折れた長剣の刃を、愛おしそうに拾い上げた。

从;゚∀从『……冗談だろ?』

給士もまた、石畳に転がっていた“西方の焔”を拾い上げる。
足が震えているのは、恐怖心からではない。全身に受けた負傷と疲労によるものだ。
だが、その足では神速の移動術は発動させられず、
飛ぶ羽虫すら穿つほどに使い慣れた飛刀は手元に1本として残っていない。
手にした焔の刃だけが、唯一の頼りだった。

爪;メー`)y‐『冗談などではありませんよ。【陰の王】と呼ばれた私でも、不死の術だけは体得していないものですから』

飛刀の嵐を身に受けてなお。
【人形遣い】フォックスは生きている。



269: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:57:33.28 ID:6DTiKndi0
从;゚∀从『まだ……戦えるってのかよ』

半ば絶望にも似た面持ちで、ハインは長剣を身構えた。
フォックスの狙いが読みきれない。
瀕死を装って誘い込もうとしているようにも見える。
口調の中に余裕を感じ取れるが、その実あと一押しで倒れそうにも見える。

斬りかかった瞬間、力なく垂れた狐の尾を大きく広げるくらいの事は、この男なら仕掛けてくるだろう。
が、そう思わせて自分の足を封じる程度の事も、容易い筈だ。

真か、偽か?
裏か、表か?
偽か、真か?
表か、裏か?

判断のつかぬまま、ハインは緩々とすり足で歩を進める。
それでも、フォックスは動かない。
ただ、ニヤニヤと彼女を見据え、阿片の煙を垂れ流すのみ、である。

一歩。
更に、一歩。
次なる一歩で、ハインの爪先がフォックスの射程圏に触れた瞬間。

从;゚∀从『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

狐の八本の尾が、ぞぅと宙を舞う。
それを見た給士は、その場を大きく飛び退いていた。
そして。

从;゚∀从『……え?』



273: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:00:31.00 ID:6DTiKndi0
その時、彼女が見た物。
それは宙を舞った長剣が、石壁に取り付けられた木窓を木っ端微塵に破壊する光景。
そして、自ら作り出した逃走経路に、身体を飛び込ませる陰の王の姿であった。

从;゚∀从『あ……』

してやられた、と瞬時に気づく。
やはり、フォックスは戦いを継続できる身体ではなかったのだ。
故に、彼女を牽制しつつ逃げ通せるだけの体力回復を待った。
それから如何にも待ち構えていた、と言うふうに見せかけて給士を後退かせ、一気に逃走に入ったのだ。

しかし。気づいた時には既に遅い。
窓枠に立つ【人形遣い】は、夜空を背にして満足げに顔を歪め……笑っている。
吹き込む風が、濃紺の外套を激しく揺らした。

爪;メー`)y‐『よくもまぁ……私の尾を破壊したのは貴女が初めてですよ、ハインリッヒ。
      ますます貴女が欲しくなりました。今回は……痛み分け、という所でしょうか』

从#゚∀从『痛み分けだと……?』

冗談ではない。
たかが一本の刃を折るだけに、己を含めて8人の将官が深手を負っているのだ。
今、倒さねば次があるとも思えない。
大脳からの信号を拒否する筋肉を無理矢理に動かし、斬りかかった。
だがしかし、同時にフォックスは夜の闇に身を飛び込ませている。

从#゚∀从『フォックスっ!!!!』

数瞬遅れて、窓に飛びついた。
が、その時既に眼前に広がっているのは夜の闇のみで━━━━━



278: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:03:30.75 ID:6DTiKndi0
どこからともなく、忌まわしき声が聞こえてくる。




━━━━━これだけは、覚えておきなさい。我が最高傑作【闇に輝く射手】ハインリッヒよ。
     その身に背負った罪がある限り、貴女は必ず私の元に帰って来る。必ず……必ず、だ。





从#゚∀从『黙れ!! ハインちゃんは二度と人形になんか戻らねぇ!!
     いつの日か……お前をぶち殺してみせる!! 絶対……絶対、だ!!』




しかし、返ってきた答えは…………ただ、ただ静寂。





从# ∀从『っだああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!』




行き所のない、給士の叫び声だけが、いつまでも深い闇の中に響きわたっていた。



283: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:07:17.94 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

川 ゚ -゚)『……ぅ……む?』

自身の四輪車に腰を下ろす格好で【無限陣】ニイト=クールは目を覚ました。
背中の傷をいたわっているのか、背もたれに分厚い綿が敷かれている。
何故か首元までビッシリと閉じられた鶴縫が、息苦しさの原因だと気づくまでに、少しの時間を必要とした。

(´<_` )『おぉ、やっと起きたのか、クーよ』

( ´_ゝ`)『いつまで寝ているつもりだ? それとも腹でもへったのか?』

クーの前で背中を丸め、石畳に胡坐をかいているのは【金剛阿吽】流石兄弟だ。
何故か褌一枚の姿で、彼女を下から見上げている。

川 ゚ -゚)『……。我らは……勝ったのか?』

問いかけるクーに水の入った竹筒を投げわたし、答えたのは弟者だ。

(´<_` )『勝つには勝ったが……逃げられたよ。最後はハインリッヒによる超上空からの飛刀乱舞だ。
       あれを全身に受けて生きているのだから……全く、とんでもない化け物を相手にしたもんだ』

兄者もまた、続けて口を開く。

( ´_ゝ`)『あぁ。それにしても相変わらずのブーム君パンツだったな。
       あの年齢であれはちょっとどうかと思う』

川 ゚ -゚)『その情報を私に伝える必要があるのか?』

(´<_` )『俺は兄者の方こそどうかと思うが、な』



290: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:11:15.00 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『ところで……何故に貴様らは脱いでいるのだ?
      やはり、あれか? “こんな関係誰にも言えないよな……”とか、そんな感じか?』

(´<_`;)『……貴様、どこでそのような俗物的知識を入れたのだ?』

川 ゚ -゚)『メンヘルの商人が置いていった本で読んだ。なかなかに興味深い』

(´<_`;)『……』

【神算子】レーゼのような溜息を吐く弟者の脳裏に浮かんだのは、明るい色をした髪を左耳の上で束ねた女の姿。
彼女が、何らかの形でクーが手にしたという本に関わっているのは間違いない。
次に会った時、手加減無しにぶん殴ろうと心に誓う。

(´<_`;)『やけど傷に膏薬を塗っていたのだ。どのみち、服は着ていられる代物ではなくなってしまったからな』

( ´_ゝ`)『その通りだ。第一、貴様だってその鶴縫を脱げば似たような格好であろう』

川 ゚ -゚)『……』

クーが兄者の言葉の意味を理解し終わるまでには、数秒の時間を要した。
慌てて鶴縫の中を覗き込む。
そして、そこには身につけていたはずの水色の衣は存在せず……。

川#゚ -゚)『私の服を脱がしたのはどっちだ!! 弟者なら鞭打ち!!
     兄者であれば全身の皮を剥がした後、車裂きにしてやる!!』

( ´_ゝ`)『……対応に差がある理由を是非知りたいところだな』



295: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:14:18.18 ID:6DTiKndi0
決して、クーは兄者を蔑ろに扱っているのではない。
むしろ、このヴィップとの戦い。いや、フォックスとの戦いで最も貢献した一人だと思っている。
だが、今彼女の目の前にいるのは、ニイト城下の酒場で猥談をしていた時と、同じ表情をした男だ。
贔屓目に見ても、己を叱咤してきた男と同一人物には思えるはずもなく。
どう接すればよいのか分からない。
故に、口調がきつくなる。

『あら? 安心しなさいな。貴女の服を脱がせたのは私ですから』

声と同時に、背後から細い腕が首に巻きつけられた。
耳に吹きかけるような話し方と、頬に触れる白金色の髪を見れば、振り向かずとも正体は知れる。

jハ*゚ー゚ル『大丈夫よ。汚い男達の目が無い所で。2人っきりで脱がせたから……誰にも見られていませんわ』

川;゚ -゚)『それはそれで不安なのだがな』

jハ*゚ー゚ル『どうしてかしら? 私としましては、続きは今晩にでも……と期待しているのですけれども』

川;゚ -゚)『その言動が不安だと言っているのだ。あと、顔が近い』

『あら、残念』などと囁きながら、ハルは懐から何やら取り出した。
そっと、クーの手に握らせる。

川;゚ -゚)『……あ』

jハ*゚ー゚ル『ハインリッヒを庇った時に吹き飛ばされたみたいですわね。
      宝物なんでしょ? 大事になさいな』

それは……。
父が姉弟に贈ってくれた、銀色の鈴。



297: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:16:39.87 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『……』

黒髪の王は、自分達から少し離れた所で車座に座り込む者達に目を送る。

     (#,,゚Д゚)『おい、猪馬鹿!! こっちにも酒よこせゴルァ!!』

     (#//∀゚)『黙れ、筋肉チビ!! 俺様の方が重傷なんだから、多く飲むに決まってるだろうが!!』

     (#*゚−゚)『……うざったい』

━━━━━そこには、重傷を負いながら楽しげに酒杯を傾ける者達がいて。

     ノハ;;)『お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』

     从;゚∀从『だあああああああああああっ!! ヒートうるせぇっ!!』

     (´・ωメ;)『……君達、何でそんなに元気なのさ?』

━━━━━勝利の喜びを分かち合う、主従の姿があって。

     ξ゚ー゚)ξ『全く……大人しくするって言うから医療班に運ばせなかったのに』

     ( ^ω^)『おっおっおっ。でも、楽しいお』

━━━━━手を重ねあい、彼らを見守る二人がいる。

川 ゚ -゚)『……ホライゾンは……本当はあのように笑うのだな』

呟き、ぎゅうと握り締めていた掌を開いて、視線を落とす。
そして、誰に言うでもなく口を開いた。



302: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:20:18.29 ID:6DTiKndi0
川  - )『宝物だったんだ。でも……随分と汚れてしまった』

掌の上に乗せられた鈴は、爆炎に黒ずみ。
石畳を跳ねた際の物か、細かい傷が所々についている。

( ´_ゝ`)『汚れたら磨けば良い。それだけだ』

川 ー )『私に……そんな資格はないよ』

( ´_ゝ`)『貴様に出来なければ、頼れる者に助けを求めれば良いのだ。
       貴様はそれを許される。それだけ……本当にそれだけなんだ』

川  - )『……』

しばらく俯いていたクーであったが、やがて意を決したかのように顔をあげた。
その視界の先では、愛しい弟がジョルジュの腋に首を固められている。
ツン=デレがそれを引き剥がそうとし、しぃは「やれやれ」とでも言いたげに首を横に振っていて。
皆が笑い、彼女の弟もその輪の中心で涙を浮かべ笑っていた。

思えば、ニイトにいた頃、青年はいつもどこか困ったような笑顔しか見せなかった。
クーはそれを、記憶に無い思い出話をされている為、と思っていたが、
あの光景を見ればそれが間違いであった事が、いやがおうにも分かってしまう。
きっと、あの時青年は、姉を名乗る人間が自分の友人達を憎む姿を見て、困惑していたのだ。

“生まれ育った故国”という言葉も“血を分かち合った姉弟”という響きも、青年の心を打つ事は無かった。
当たり前だ。
全ては、彼女のエゴイズムを押し付けていただけなのだから。
そうであれば、彼女に選べる道は一つしかないように思えた。

川  - )『ハル。兄者。弟者。……ニイトへ、帰ろう』



308: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:23:57.88 ID:6DTiKndi0
( ´_ゝ`)『……ブーンは……どうするのだ?』

重苦しい空気を破って兄者が口を開く。

川  - )『……ヴィップに残れば良い。ホライゾンは……もうとっくに自分の世界を見つけていたのだ』

奪い去られた幸せだった毎日。それを取り戻す事だけを考えてきた。
その景色を夢に見る時、自分の隣にはいつも弟の姿があって。それが当たり前だと思っていた。

だが、今この時。青年の隣に、自分の姿はない。
結局、思い出は何処まで行っても過去でしかなく。
“しあわせなひび”など、とうに終わっていたのだ。

故に、言う。

川  - )『さぁ、行こう。ハル、済まないが車を押してくれないか?』

( ´_ゝ`)『……』

jハ*゚ー゚ル『……』

(´<_` )『……』

そして、三人は。

jハii-д-ルii´_ゝ`)『はぁああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ』(´<_`ii)

川;゚ -゚)『なっ!?』

合わせた様に、盛大な溜息をついた。



312: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:26:29.14 ID:6DTiKndi0
jハ#*゚ー゚ル『全く……。貴女は、いざと言う時に限って本当にお馬鹿さんですわね。調教が必要なのかしら?』

( *´_ゝ`)『な? な? 俺が言ったとおりだっただろう?』

(´<_` )『何を自分の一人勝ち気分でいるのだ? 
       この件に関しては3人揃って同じ意見しか出ていなかったではないか』

川;゚ -゚)『な……なな……』

突如、目の前で騒ぎ出した三人に、クーは固まりつく。
が、徐々に顔を紅化させると、ついには怒りを爆発させた。

川#゚ -゚)『何をふざけている、貴様ら!! 私は真剣に言っているのだぞ!!』

jハ*゚ー゚ル『はいはい。それくらい分かってるわよ』

言って、ハルは四輪車に腰を下ろすクーの膝に、横座りに飛び乗った。
腕を首に絡めると、心得たとばかりに兄弟が車の背後に回りこむ。

( ´_ゝ`)『さぁ、弟者よ。主の命令だ。行け、と言うなら行こうではないか』

(´<_`* )『うむ、兄者よ。犬耳前日祭・飛翔編というわけだな』

言うや、兄弟は車輪も外れんと言う勢いで四輪車を押し始める。
だが、その疾走。いや、暴走は宮殿の出口に向けての物ではない。
その進行方向に待っていたのは……。

( ^ω^)『姉様!!』

川;゚ -゚)『あ……ぅ……』



316: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:29:13.94 ID:6DTiKndi0
jハ*゚ー゚ル『ここまで来れば、もう逃げられないですわね』

言って、ハルはクーの膝から飛び降りると、四輪車の背後に回りこんだ。
クーの正面には、ヴィップ王ツン=デレと、銀髪の青年が並び立ち、
その背後には文官武官6人が踵を揃えて整列している。
おそらく、彼女の背後でも流石兄弟やハルが同じようにしているのだろう。

( ^ω^)『ツン』

青年の声にコクリと頷くと、金髪の王は足を踏み出した。
やがて、クーの目の前で視線を合わせるように両膝をつくと、掌を組み合わせて一礼する。

ξ゚ー゚)ξ『【白狼王】ニイト=クール。この度の援軍、ヴィップに住む全ての民を代表して感謝します』

川;゚ -゚)『うぅ……わ、私にとっては児戯のような物だ。礼を言われる程の事でも無い』

ξ゚ー゚)ξ『……』

川;゚ -゚)『……』

何を口にすればよいのか分からず、クーは黙り込んでしまう。
眼前ではツンが自分の目を正面からジッと見つめていて。
助け舟を出すかのように、銀髪の青年が口を開いた。

( ^ω^)『ところで、姉様。これから、どうするんだお?』

川;゚ -゚)『!! あ、あぁ。ニイトに帰ろうかと考えている』



319: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:30:34.50 ID:6DTiKndi0
( ^ω^)『……』

川;゚ -゚)『ほら、あれだ。私も色々と多忙の身であるし、長く国を離れる事は出来ない。
     なによりも、レーゼが色々とうるさいだろうから…………な』

自分が子供染みた言い訳の様な事を口にしている、と気づいたのは、
彼女の弟が笑いを堪えるような顔をしているのを見たからである。

いや、彼だけではない。
右目に包帯を巻きつけたジョルジュや、何故かエプロンドレスを外しているハインは
あからさまに吹き出しそうな顔をしていたし、
唯一鉄仮面のような顔のしぃにいたっては、何故か湯浴み後の格好をしているのだから、表情どころの問題ではなかった。

おそらく彼女の背後でも兄者あたりは同じような顔をしているのだろう。
『お馬鹿さんねぇ』と言う声はハルの物だろうし、『頑固者め』と言う呟きはおそらく弟者による物だ。

川;゚ -゚)。oO(兄者の奴、か? 一体、私が寝ている間にヴィップの連中に何を吹き込んだと言うのだ)

正面に居並んだ者達の顔から判断するに、その推測は間違っていないだろう。
いくら兄者とて、自分の目が届かぬ背後でヴィップの面々を笑わせようとしているとは思えない。
そのような事をすれば、弟者はともかくハルが黙っていないはずだ。
と、なれば兄者が。もしくは3人が示し合わせて何か企んでいる、と見るべきだろう。
そうすれば、先程の溜息も説明づけられる、と言うものだ。

再びのぎこちない沈黙。
それを破って口を開いたのは、黄金の王ツンであった。

ξ゚ー゚)ξ『クー。ヴィップと言う国名の意味を知ってる?』



326: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:33:31.72 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『……? 確か、遥か北の国の言葉で“集い選ばれし者”と言う意味だったと記憶しているが』

【鉄の大国】ラウンジの更に北。
神話の国、と呼ばれる地は父モララーが2振りの聖剣を、湖の妖精から譲り受けた地だ。
故に、クーもその言葉を若干は会得している。けれども、金髪の王は静かに首を横に振った。

ξ゚ー゚)ξ『言葉の意味だけ、ではね。
     でも、アタシはこの国を“選ばれた者”だけが作っていく国にはしたくない。
     一人一人の民が、人としての誇りを持って築いていける国にしていきたい』

川 ゚ -゚)『……生まれや育ちで“選ばれた”のではなく、
     自らの意思で生きる道を“選んだ”者の国……という事か』

微笑みを浮かべ、今度は首を縦に振る。

ξ゚ー゚)ξ『そう。民族や思想の垣根を越えて。たとえ歩く道が違っていても、理想持つ人が手を取り合って生きていける国。
     アタシは、貴女にも過去に“選ばれた”のではなく、本当の意味で未来を“選んで”ほしいと思う』

川 ゚ -゚)『私が……過去に縛られている、とでも言いたいのか?
     それは違う。過去とは人の行動原理だ。思考の原点だ。
     確かに私が幼き日々の再現と復讐に生きてきた事は認めよう。
     だが、この道は私が自分で“選んだ”物だ。
     私は過去に縛られているのではない。それが事実であるならば……
     全てを受け入れ、自らで“選んで”生きていく』

一息に言い捨てた。
またしても、場が沈黙に支配されようか、と言うところでブーンが口を開く。

( ^ω^)『それなら……それなら、どうして姉様は僕を置いてニイトに帰ろうとするんですお?』



329: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:37:00.65 ID:6DTiKndi0
川;゚ -゚)『そ、それは……』

( ^ω^)『やっぱり、図星かお』

言いよどんで、背後を睨みつけた。そこでは褌一枚と言う格好で兄者が大袈裟に肩を竦めている。

( ´_ゝ`)『勘違いはしないでくれよ。俺はただ、貴様の思考から何を事を言い出すであろうか、言い当ててみせただけだ』

ニヤリ、と笑って腕を組む。そうしてから、言葉を続けた。

( ´_ゝ`)『貴様の考えは、おそらくこうだ。
       復讐に固執し続けてきた自分では、今のブーンの側に居場所が無い。
       だから、ブーンは自分で見つけ出した世界に残し、己は黙ってニイトに帰ろう……という感じか。
       間抜けめ。その時点で過去に縛られている事に、何故気づかん?
       最初から自身の中で選択肢を一つしか見ていないのなら、それは“選んだ”とは言えんよ』

jハ*゚ー゚ル『だ・か・ら。お馬鹿さんって言っているのよ。
     このままニイトに戻ったら、貴女は何を求めて生きていくのかしら?
     抜け殻になったクーなんて、床に零したミルクほどの魅力もありませんわよ』

从 ゚∀从『人は人であろうとするならば、戦うより他に逃げ道など無いんじゃねぇのかよ?
     だったら、ブーンに何も言わず帰るってのは、戦ってもいねぇし“選んで”もいねぇって事じゃねぇのか?』

川;゚ -゚)『……ぅ』

一斉に責め立てられ、言葉を失う。そこに声をかけてきたのは、やはり金髪の王であった。

ξ゚ー゚)ξ『ナイトウが言っていたわ。自分の理想は、みんなが笑っている国だって。
     そして、それにはアタシも貴女も。ヴィップの民もニイトの民も一人も欠けてはいけないんだって
     だから、もう一度言います。アタシは……本当の意味で、未来を“選んで”ほしいと思う』



335: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:40:29.03 ID:6DTiKndi0
( ´_ゝ`)『ま、難しく考えるな。ようするに、もう少し素直になれって事だ。クーよ』

ポン、とクーの肩を叩くと、兄者はどっかと石畳に腰を下ろす。
その姿は、これ以上口を出す事を拒んでいるようでもあった。

川 ゚ -゚)『……本当の意味で……選ぶ』

ツンの言う“選ぶ”とは、おそらく“求める”と言う意味でもあるのだろう。
自らの意思で生きる道を“求める”者達。
それこそが、ツンの選び求めたヴィップと言う国の。この島の未来の有り方であるに違いない。

きっと自分は今まで本当に求めた物は一つしか無くって。
幼き日々の再現も復讐も、所詮は手段や誤魔化しでしかない。
本当に必要だったのは、振り返る過去ではなく。共に未来へ歩む友や家族であったのだ。

川 ゚ -゚)『私は……私が本当に選びたいのは……』

そこで、クーの口は動きを止めた。
本当に求めている物に気付いても、口に出す言葉を知らないのだ。
だから、ツンは語りかける。

ξ゚ー゚)ξ『ねぇ、クー。あの可哀相な人形達と戦った時、貴女は言ってくれたわよね?
     アタシと貴女が手を取り合えば、風車陣は討ち破れる、って』

川 ゚ -゚)『む。……あぁ、そうだったな』

その声を待って、黄金の王は広げた両腕を差し伸ばした。

ξ゚ー゚)ξ『きっと、それだけじゃないわ。アタシと貴女が手を取り合えば、どんな高みにだって手が届く。
     アタシは……ずっと。ずっと、クーと手を取り合って歩いていきちゃ……いきたい』



349: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:44:48.90 ID:6DTiKndi0
川  - )『…………』

気付いた時。
クーは、その両手を固く握り締めていた。
深く埋めた頭は、表情を隠す為。
しかし、震える両肩と漏れ出る嗚咽が、何よりも彼女の心を表わしていたと言って良いだろう。

( ´_ゝ`)『全く……ガラにも無い事をさせおって。頑固者が。
       今日だけで一生分の真剣さを使い果たしたわ』

jハ*゚ー゚ル『あら。私は正直見直したわよ? ただの変態だと思っていたけど、やれば出来るんじゃない』

(´・ωメ;)『やれば出来るのにやらないのは、やりたくても出来ない無能者と変わらないけどね』

( ´_ゝ`)『……何故、俺は今罵倒されているのだろうな』

言い合いながらも、彼らの視線は固く手を握りあう二人の王に注がれている。







“しあわせなひび”の再現と復讐。
決して届かぬ過去を振り返り続け、憎しみを糧に生きてきた者。【無限陣】ニイト=クール。
彼女の悲しい戦いはこの日終わりを告げた。

そして、クーは新たに生きる意味を。
新たな“しあわせなひび”を築きあげると言う生き方を手に入れたのである。



356: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:47:47.44 ID:6DTiKndi0








━━━━━数日後。

【金獅子王】ツン=デレは、ニイトとの一連の争いは
【人形遣い】フォックスの陰謀であった旨、天下に公表した。
王都デメララの評議会は、即座にフォックスとの関わりを否定。
官職・称号の剥奪と王都からの永久追放を宣言する。

同日。
【白狼王】ニイト=クールは、もう一人の王位継承権所有者ニイト=ホライゾンの帰還を発表。

更に両国は、このニイト=ホライゾンの名に誓っての連合王国設立を表明。
このあまりに慌ただしい連合は、
ニイトの民は大英雄モララーの子を感涙をもって迎え入れ。
ヴィップの民は王の友の生還を宴をもって祝う形で認められたと言う。

そして。
この一連の出来事は、ツン=デレにとって新たな友を得たと言うだけでは終わらない。


それは同時に、流浪の一団であった彼女らが、リーマンやメンヘルと言った大国と。

互角に戦えるだけの勢力に成長した事もまた、意味しているのであった。



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