( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

5: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:09:00.22 ID:iAjRCg9h0


     登場人物一覧 ・ヴィップ軍

( ^ω^) 名=ナイトウ 異名=−−− 民=−−− 
       武器=−−− 階級=−−−
       現在地=−−− 状況=死亡
       特徴=−−−

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン
      武器=禁鞭 階級=アルキュ王
      現在地=ギムレット 状況=アルキュの正統なる王として立ち上がる。
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将
      現在地=ギムレット 状況=食料関係の責任者として大忙し
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。



6: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:11:22.76 ID:iAjRCg9h0
( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=軍部の最高責任者として訓練に明け暮れる
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れな

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将
     現在地=ギムレット 状況=騎兵の最高責任者として兵を鍛える毎日
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長
      現在地=ギムレット 状況=若き王を支える実力者。
      特徴=隻腕の老将。白髪を丁寧に後頭部に流している。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。



9: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:12:35.93 ID:iAjRCg9h0
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=ギムレットの復興に精を出す
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。



11: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:16:00.74 ID:iAjRCg9h0
〜超手抜き地形説明・スキャナさえ治れば何とかなる。そんな風に考えていた頃が俺にもありました編〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただしAは厳しい気候の為か半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



14: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:18:46.29 ID:iAjRCg9h0


              第二部 この掌は赤い血で染まってしまっているけれど。

     序章 ある少女のある日の独り言


アルキュ暦493年 風竜の月 7日 天気(晴天)

昨日までのどんより空がまるで嘘のように晴れあがりました。
ただのっぺりと青いだけに見える空も、注意深く観察すればその色が濃くなっているのが分かります。
空から大地へ視線を移せば、溶けた雪の下からところどころ黒い土が姿を現して来ていて。
更に目を近づければ、そこからは小さくも力強い草木の新芽が大地を押しのけ顔を出しているのです。
厳しかった冬も終わり、春が訪れようとしているのでしょう。

こんな日はヴィップの主婦さんは大忙し。
溜まりに溜まった洗濯物を片そうと腕をまくります。
城内の居住地は到る所に洗濯物が吊るされ、子供達がその間を走り回っているのが遠目からでもよく見えました。



16: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:20:25.70 ID:iAjRCg9h0
ボクだって大変なんです。
そろそろ種蒔きの時期も迫っていますから、各班に分配する種の量を計算しなくてはなりません。
思えば、ボク達がこのギムレットに来てからもう5年も経つんですね。
来た当時は、こんな寒い場所で農業なんて出来る訳が無いと考えていました。
それが今ではボク達が来た翌年に比べ、数倍の生産量を記録しています。
今年は更なる収穫が期待できるでしょう。

     (´・ω・`)『ギムレットは不毛の地ではない。ただ施政者に恵まれていなかっただけだ』

そう胸を張っていたショボン様の顔は今でもはっきりと思い出せます。
あの垂れ眉毛は只の馬鹿ではありませんでした。



17: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:22:04.50 ID:iAjRCg9h0
本来、ギムレットは罪を犯した貴族の流刑地に選ばれるような土地です。
厳しい環境下で罰を与えようと言う考えからなのでしょう。
更に、中央での政争に敗れた貴族や中央に住めない貧乏貴族も流れ着いてきます。
つまり、この地はショボン様の仰る通り施政者に。
いえ、施政者の懐と改革の意思に恵まれていなかったのです。

     (´・ω・`)『罪人。負け犬。貧乏人。彼らが何十人集まろうと、何百年時間を費やそうと、
            出来なかった事を僕はやってみせる』

そう断言するショボンさんがまず最初にした事は、
ギムレットより遥かに気候の厳しいラウンジで栽培されている食物の種を持ち込む事でした。
え?
そんな簡単な事をどうして今まで誰もしなかったのかって?
まず一つが、為政者の懐具合の問題。
ギムレットに住む貴族達でそのような事が可能な財を持つ人はいませんでした。
もう一つが、ギムレットへの偏見と住人の思い込み。
中央の貴族達は

     (貴゚∀゚)『ギムレットは見放された地。この地に投資するなど財力の無駄遣いだ』

     (貴゚ー゚)『その通り。しかも彼の地は流刑地ではないか。
          罪人に贅沢は不要であり、下手に力をつけられて叛乱でも起こされたら堪らん』

と公言していましたし、それを受けてか住人達も『貧しいのが当たり前』と決め付けてしまっていたのです。
かく言うボクも、

     ミセ*゚ー゚)リ。oO(ギムレットは何も無い最果ての地)

ってずっと思っていましたから、そんな思い込みに負けず策を練り続けたショボンさんは凄い人なのかもしれません。



20: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:25:37.02 ID:iAjRCg9h0
更にショボンさんが取り入れたのが、地熱農法と言う技術でした。
ボクの専門分野からは少し外れるので、細かい事は分からないのですが

     (´・ω・`)『ギムレットは【井戸を掘れば温泉が湧き出る】と言われるほど地熱に恵まれた土地柄だ。
            確かに陽光にこそ恵まれていないけど、この地熱を利用すれば堆肥の醗酵を促進させる事が出来る。
            そうすれば、十分に収穫は期待できる筈だ』

との事。
その言葉に応える様に、年間収穫量は目に見えて増えていきました。

ところで。
温泉ってギムレットに来てから初めて入りましたけど、素敵な物ですね。
最初は大勢で一度に入るのに抵抗がありましたけど、慣れてしまうと凄く楽しいです。
この温泉施設を整備しているのはヒートさん。

     ノパ听)『戦いが終わってさ。この温泉が何百年後も使われてたら素敵だと思わないか!?』

なんて言っていましたっけ。

毎日の訓練や業務は大変だけど、白く濁った温泉に浸かっていると疲れなんて吹き飛んじゃいます。
温泉から出た後に飲むお酒も美味しいんです。
クソジジ…もとい。
フィレンクトさんが飲み過ぎないように見張ってなきゃなんですけどね。

あと、ヒートさんやボクだけじゃなく。
初潮が始まったばかりの年齢の女の子と自分の胸を見比べて、
ガックリと肩を落とす黒衣の貧乳給士を見るのも凄く楽しみでもあります。

ふふ。



23: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:28:31.86 ID:iAjRCg9h0
あ。
見てください。
城外では将官達による訓練が始まりました。

鹿毛色の馬に跨っているのはフィレンクト様としぃさん。
白馬に跨っているのがジョルジュ将軍です。
そして。
栃栗毛(金色に近い栗毛)の馬に跨り颯爽と駆けているのが陛下……あ。落馬した。
全く。
いつもの事とは言え…また洗濯が大変そうです。

さて、と。
お喋りはこの辺にしておかないと駄目そうですね。
ボクの本業は陛下の付き人です。
早く陛下に清潔なタオルと外套を届けなきゃいけません。

宮殿の屋上では、きっと宮女さん達が乾した洗濯物が列を成して風に揺れているのでしょう。
そして、その更に上では。
ヴィップの旗印たる黄金獅子の旗がたなびいているに違いありません。

偉大なる【金獅子王】ツン=デレの名において。
一日も早くアルキュに平和が訪れん事を。



26: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:36:58.53 ID:iAjRCg9h0
         ※          ※          ※

雪解けにぬかるんだ大地を黄金色の馬が駆ける。
跨っているのは、やはり太陽が如く金色の髪をした少女だ。
その身に纏うは、天を舞う五爪の竜と鳳凰の刺繍された黒地の外套。
それを翻しながらツンは愛馬に鞭を入れ、さらに速度を上げる。

気の早い若葉が春の訪れを告げてはいるの物の、大気は冷たく吐く息は白い。
が。
それ以上に彼女の身は熱く。血は滾る様に燃えていた。

手にするは支配の象徴たる禁鞭。
禁鞭はかつて彼女が手にしていたような蛇を思わせる形状をしていない。
鉄を長く細く鍛え上げ、乗馬鞭を長くしたような形をしている。
これにより距離を取って戦う事は出来なくなったが、
広くなった打撃点が扱いやすさを遥かに大きくしていた。

彼女の駆ける先には、棒の先に円形の板を貼りつけた的が十本ほど不規則に並んでいる。
すれ違いざま。

ξ゚听)ξ『はぁっ!!』

禁鞭を叩きつけると、それは真っ二つに割れ宙を待った。
だが、彼女はその光景に見向きもしない。
決して速度を落すことなく愛馬を走らせ、先程の板が地に落ちる前に次の板を破壊する。
その間僅か十数秒。

ツンが手綱を引き愛馬が歩を休めた時には、全ての的が見事に地に転がっていた。



27: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:39:23.28 ID:iAjRCg9h0
(‘_L’) 『素晴らしい。お見事です』

(*゚ー゚)『合格』

言いながらツンに近づいてきた者が二人いた。
白髪を撫で付けた隻腕の老将が【白鷲】フィレンクト。
灰色の髪と瞳の小柄な女将軍が【紅飛燕】しぃ。
共に名の知れた名将である。

ξ゚听)ξ『ありがとう。でもまだまだよ。一つ外しちゃったわ』

愛馬の首筋を撫でてやりながら振り返る。
そこには破壊こそ免れた物の、かすめた鞭の一撃で吹き飛ばされた的が落ちていた。

(‘_L’) 『あれ位なら問題は無いでしょう。十分及第点です』

(*゚ー゚)『問題なし』

ξ゚ペ)ξ『む〜』

形の良い眉をしかめて納得のいかない表情をしているツンを見てフィレンクトは思う。

(‘_L’) 。oO(本当に強くなられた)

思えば、彼が初めてツンと会った時。
最初の印象は『弱々しい少女』と言う程度の物だった。
その姿からはかつて彼が仕えた統一王の面影は微塵も感じ取れず、
あまりの頼りなさに不安を覚えた物である。



28: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:41:16.16 ID:iAjRCg9h0
そしてまた。
銀髪の青年ナイトウの突然すぎる死。
それは少女の心を再び挫くに十分すぎる出来事だった筈だ。

ツンによるアルキュ統一宣言から数日後。
青年は戦場で負った傷を悪化させ、呆気なく世を去った。
降り積もる雪の中、ツンは何日もにわたって彼の墓を抱きかかえるようにして泣き続け
彼女を宮殿に連れ戻すには力づくで引き剥がすようにしなければならなかった程だ。
今もなお、青年の眠る墓の周辺は丁寧に掃き清められ、
朝と夕には香が焚かれているのをヴィップに暮らす者なら誰もが知っている。

当時、老将は何故ツンがそこまで悲しむのか全く理解できないでいた。
将来を約束しあった仲でも無く、肉体の契りを交し合った仲でもない。
【恋】の一言で片付けるにはナイトウの存在は彼女の中であまりにも大きく。
また、口づけすら交していない彼らの関係は【愛】と呼ぶにはあまりに幼い物だったからだ。

だからこそ、ツンが王の道を歩む決意をした背景にナイトウの存在があったことを知った時。
フィレンクトは運命の残酷さをひたすらに嘆いた。

(‘_L’) 。oO(陛下にとってナイトウ殿は…ようやく得た友だったのか……)

自身を支えてくれる存在。
自身を必要としてくれる存在。
そこには見返りなどは無く。
ただ、あるがままに互いに求め高め合う関係は、『男と女』と言う関係以上に彼女を勇気づけてくれたのだろう。

悩み。もがき。苦しみ。求め。
そうしてようやく得た半身は。光を掌で掬いあげられぬように、すぅと消えてしまった。
絶望から全てを棄てたとしても、誰が彼女を責められようか。



29: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:43:24.84 ID:iAjRCg9h0
それが見よ。
今の彼女からは当時の姿など全く想像できない。
黙っていても全身から発せられる威厳。
獅子が如く力強い眼光。
それは揺るぎない覚悟と決意に裏打ちされた、理想と言う名の輝き。

もし、青年と出会う前の少女であれば。
悲しみから立ち上がれなかったかもしれない。

ナイトウは過去を失った男だ。
ただ漠然と戦いの日々に身を置いていても、それは生きる糧を得られる場所がそこにしかなかったから。
誰よりも争いを憎み、平和を望んでいたのは彼だったはずだ。

そして、やはり平和を待つ多くの民。
それが彼女を支えている。
彼女の理想は彼女だけの物ではない。
剣の墓標に眠る死者の。
戦に怯え暮らす生者の。
そして、誓いを果たせず散った青年の意思が彼女を支えているのだ。

(‘_L’) 。oO(……陛下)

しかし、どれ程気丈に振舞おうとも、彼から見れば所詮はまだまだ小娘である。
雑務から解放された僅かの時に。
ツンは何をするでもなく、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
その先にある物。
青年が眠る剣の墓標。

その光景を見るたび、フィレンクトは彼女の心中を想い
何も出来ぬ自分に歯がゆさを覚えるのであった。



31: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:45:34.26 ID:iAjRCg9h0
民と共に生きる。
彼女の選んだ道は、父である前王とは全く正反対のベクトルを向いた生き方だ。
しかし、その身に纏った輝きは統一王ヒロユキのそれに勝るとも劣らず。
戦乱に喘ぐこの島の、真の王は自分であるとはっきり主張している。
それは決して彼女が追い求めた物ではなく。
彼女が求めた物は、只一人の友。
そしてそれも二度と手に入らぬ場所へ消えてしまった。
だからこそ、『よくぞここまで強くなられた物だ』とフィレンクトは感嘆せざるを得ないのだ。

???『いや、上を目指すのは素晴らしい事だけどね。フィレンクト老が言うように、今は十分合格なんじゃないかな』

???『そうそう。第一、馬上で剣を振るうのは俺様達の役目だ。陛下に剣を抜かせるような状況になったら俺様が説教されちまうぜ』

いつの間にか騎馬を降り、歩み寄ってきた男が二人会話に加わる。
一人は、頭に鳩を乗せた白眉の青年。
一人は大鎌を肩に担いだ、熊のような巨体の将。



36: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:47:49.09 ID:iAjRCg9h0
(‘_L’) 『その通りです。ところで、ショボン殿。その鳩は……』

言いながら隻腕の老将はひらりと愛馬の背を降りる。
【紅飛燕】しぃもそれに続いた。
アルキュ王たる者を示す竜鳳が刺繍された外套を着込んだツンも、それに習おうとして。

ξ;゚听)ξ『あ。え? とととととぉぉぉぉおおぃぃぃやぁぁっ!!』

鐙にかけた足が外れず大きくバランスを崩し、溺れているかのように両腕をバタつかせる。
そして、必死の抵抗空しく。





べしゃ。






━━━━━顔面からぬかるんだ大地に落下した。



37: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:51:17.22 ID:iAjRCg9h0
(;‘_L) 『へへへへへへ陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?』

声こそあげるものの、咄嗟の事に身体が反応しないフィレンクト。
その背後では白眉の青年と大男が腕を組み、うんうんと頷きながらそれを眺めている。

( ゚∀゚)『おぉ。こりゃまた今日は良い落ち方したな』

(´・ω・`)『うん。落下角度。悲鳴。姿勢。どれをとっても今年最高の落ち方かもしれないね』

(*゚ー゚)『……』

音叉と言う道具をご存知だろうか?
もし分からない方がいたら、アルファベットの『Y』の字を思い描いてもらいたい。
それが、アルキュの真の王。【黄金の獅子】こと、ツン=デレの今のポーズである。
見事に愛馬の背から落下した彼女は激しい泥飛沫と共に顔から地面に衝突した。
その美しい顔は、もしかしたらぬかるんだ大地に埋まりこんでいたのかもしれない。
やがて。引き寄せられるようにゆっくりと。
彼女はうつ伏せ状態で大の字に倒れ込んだ。

ξ )ξ『……』

そのまま動かない。
が。

(´・ω・`)『これは素晴らしい。時間差での転倒とは…また腕を上げたね』

( ゚∀゚)『あぁ。いい物見せてもらったな』

この二人は全く動じないのであった。



40: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:53:44.15 ID:iAjRCg9h0
(#‘_L) 『ぶ…無礼者っ!! そこになおれっ!! 我が剣の錆にしてくれるわっ!!』

叫ぶや、愛用の長剣を引き抜く老騎士。

(´・ω・`)『…いや、そうは言うけどさ……』

( ゚∀゚)『……だよなぁ』

この二人にも言い分はあるのである。
落馬など日常茶飯事。何も無い所で転ぶ。足の小指を棚にぶつける。
階段から落ちる。考え事をしながら歩いていて柱にぶつかる。閉めた扉に髪を挟む。
そんな光景が『当たり前』なのであった。
当初こそ、その度に皆で駆け寄って助け起こしもしたし、
本人も

ξメ゚听)ξ『まだ緊張が抜けていないのかしら』

とか

ξメ゚听)ξ『その…寝不足で……』

などと言い訳をしていたのだが、それが毎日のように続くとその機会は目に見えて減っていった。

ミセ*゚ー゚)リ『あまりご心配なさらずに。いつもの事です』

とは、付き人であるミセリの言であり
ツン自身も王らしく(?)派手に転倒しても怪我一つ無くピンピンしているのだから、
あまりこの二人だけを責めるのも酷という物かもしれない。



43: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:55:45.41 ID:iAjRCg9h0
そして、そのミセリの言葉通りに。
全く何事も無かったかのように、王女はガバッと身を起こした。
そのまま、すっくと立ち上がる。
その姿はまるで泥人形……いや。まさに泥人形そのものだ。
【紅飛燕】しぃが手渡した布でなんとか目元口元に付いた泥を拭い落とし、王は口を開く。

ξ゚听)ξ『で、中書令ショボン。報告があるのでは?』

(;‘_L) 『お、お待ち下さい、陛下。何もその様なお姿で…』

何事も無かったかのように話されては困る。
そう言いかけて老将はピタリと口を塞いだ。
何故なら、ツンが鬼の形相で彼を睨みつけていたからだ。

ξ゚听)ξ『どうしました、将軍。アタシなら何事もありませんでしたが』

(;‘_L) 『何事も…とは同意しかねます。現に【雪解け祭】を終えた農民がように全身泥まみれでは…』

ξ♯^ー^)ξ『 何 事 も あ り ま せ ん で し た っ 。
      それとも何か? 将軍はアタシが落馬して顔から地面に突っ込んだとでも言いたいのかしら?』

と、そこまで強気で押し切られては返す言葉も浮かばない。

(;´・ω・)『…僕も陛下がそれでいいって言うなら報告するけどさ』

言いながらショボンは鳩の足に付けられた小さな筒から一片の紙切れを取り出す。

(´・ω・`)『西部のオリーブ村に潜入してる密偵からの知らせだね。
      あの辺りを荒らしている賊どもに大きな動きがあったらしい。
      春になって眠ってればいい連中も目を離したってトコか』



47: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 00:59:54.61 ID:iAjRCg9h0
ふむ。
隻腕の老将が顎に手をやり意見を述べる。

(‘_L’) 『おそらく人売りの連中でしょうな。
      春夏を迎えるに当たって労働力を欲しがる者は多い。
      闇船でも使ってラウンジかピンクの奴隷商人に売り渡すつもりなのでしょう』

( ゚∀゚)『成る程な。冬を越したばかりの村には碌な食料もねぇだろうし。
     ここは先生の意見に同意だ。で、陛下。どーすんだ?』

当たり前とばかりにツンは頷いた。

ξ゚听)ξ『当然、殲滅します。民の生活を脅かす者などに、歩む大地は無い事を教えてあげましょう。
     ショボン中書令』

呼びかけられた白眉の青年は待ってましたとばかりに深々と頭を下げる。

(´・ω・`)『賊の数は多く見積もっても300前後かと。今から最速で出陣したとして、オリーブ村までの到着は半日。
      村人を人質にされる可能性も高いだろうね』

最後の言葉にツンはあからさまに眉をしかめた。

ξ゚听)ξ『半日……どんなに急いでも村が襲われた後か…。
     最悪、村人全員連れ去られた後って可能性もあるわね』

( ゚∀゚)『でもまぁ、村人は奴らにとっては大切な【商売品】だ。軽々しく殺すような事はねーだろ。
     そこは密偵組がうまくやってくれる事を期待するしかねーと思うぜ』

その一言はツンの心中を労わろうと言う、この男なりの優しさなのだろう。
それを察して彼女は少しだけ微笑んだ。



49: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 01:07:13.78 ID:iAjRCg9h0
(´・ω・`)『では、陛下。指示を』

ξ゚听)ξ『時は神速を求めます。足の速い騎兵を中心に軍を構成しましょう。
     先鋒は司書令ジョルジュ万騎将と【薔薇の騎士団】500。しぃ千騎将は300の兵を率いて遊撃部隊としてサポートに。
     アタシとショボン千騎将で中軍を指揮します。ミセリは歩兵300と共に後詰を任せましょう。
     フィレンクト将軍は万が一に備えてヴィップに残り城を護って頂戴』

そこまで言ってツンはチラリとフィレンクトを覗き見る。老将はそれに大きく頷き、王はホッと肩を撫で下ろした。
もしも、てんで方向性の違う命を出したとしたら、この子姑臭い老人に数刻に亘り【指導】を受ける事になるのだ。

今回のようなケースで求められるのは奇策の類ではない。
最速を持って襲いかかり、数倍の兵力で押し潰す。
あわよくば、勝ち目がない事を知った賊が村を放棄してくれる可能性もあるだろう。
逆に最悪なのが、村人を人質に彼らの根城に籠城された場合だ。
後手に回らぬ為にも、ここは出来る限り早く交戦したい。
半日で全ての村人が連行されるとは思えないが、悪い可能性の芽は摘んでおきたかった。
そう考えれば、彼女は数ある選択肢の中でも最適な物を見つけ出した事になるのだ。

ξ゚听)ξ『では、一同出陣準備!! 一刻後には城を出ます!! 分かったわね!?』

将達は胸の前で手を組み一礼すると、一斉に城門に向けて駆け出す。

( ゚∀゚)『? 何やってんだ、ショボン』

見ればバーボンの奇人は鳩の足に付けられた筒に何やら紙切れを差し込んでいた。

(´・ω・`)『なぁに。ちょっとした保険さ』

言って鳩を宙に放してやる。
その姿が西の空に向けて小さくなっていくのを確認してから、ショボンは城門に向け歩き出した。



52: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 01:10:58.73 ID:iAjRCg9h0
         ※          ※          ※

その鳩は青空を羽ばたいていく。
城壁を囲む湖を越え、雪の残る大地を眼下にしながら飛んでいく。
やがて、村を囲む柵を補強する男達すらも見下ろしながら鳩は更に飛び続けた。

そうして辿り着いたのは、ギムレットとキール山脈の境にある辺鄙な村。
そこでようやく鳩は飛行を下方修正した。

奇妙な村である。
食物は自給しているのか、石を積んで作られた小屋と小屋の間に小さな畑がぽつぽつと存在している。
だがそれも今は雪に覆われ、もう少し暖かくなるのを待って手入れがされるのだろう。
村の人口は200名程。
そして、その大半が筋肉の上に皮膚と傷を張り付かせたような屈強の男達であり、
女達の姿は両手で数える程しか見られない。
何より奇妙なのは、辺境では在り得ないほど立派な石造りの建物が村の中央にそびえており
それに隣接する庭には剣術訓練用の木人形が並んでいた。
そこでは上半身裸の男達が全身から湯気を立ち昇らせながら、木剣で撃ち乱れあっているのである。

賊の襲撃を怖れて若者達が自警団を組織している村は多い。
それは辺境に行くに従って増えていく。
が、これ程までに広大な訓練施設を持つ村は何処にも存在せず、
規模はともかく充実ぶりだけを見れば【戦士の街】ネグローニにも決して引けは取らないだろう。
更に、畑が雪に覆われているにもかかわらず訓練施設だけは雪を取り除いているなど考えられない事だった。

やがて。その中央で二本の棍を振るう男を見つけ出した鳩は、その男に向けてゆっくりと降りてゆく。
男もそれに気付いて棍を振るう手を休めた。

(,,^Д^)『おう? 何だ?』



54: ◆COOK.INu.. :2008/01/31(木) 01:14:00.97 ID:iAjRCg9h0
男はおそらく四十台中盤と言った年齢だろう。
そろそろ顔に刻まれた皺が深くなり、頭髪も色々と気になりだす年頃だ。
中央に住む多少裕福な暮らしをする者達であれば、腹回りに贅肉もつき始めていてもおかしくない。

が。
この男の身体には一片の無駄な肉も見られなかった。
極限まで贅肉を削ぎ落とした身体には血管が浮き出ており、偉大な彫刻家の作りあげた石膏像を思わせる。
その筋肉美は【急先鋒】ジョルジュと比べても見劣りしない物だった。
そして、右の頬に深く刻まれた二本の刀傷。
常に自嘲するかのような表情とあわせて、誰が見ても農夫というより幾多の戦場を乗り越えた戦士のような風体をしている。

(男゚∀゚)『プギャー副長。その鳩は?』

プギャーと呼ばれた男の下に降り立った鳩を確認して、周囲で訓練に明け暮れていた男達も手を休める。
その誰もが彼に劣らず見事な肉体の持ち主だった。
男達の輪の中で筒から手紙を取り出したプギャーは表情を固くする。

(,,^Д^)『おう、お前ら。隊長は何処行った?』

(男゚∀゚)『隊長なら室内でいつもの瞑想中です。もしかしてその鳩は【例】の……?』

男はその言葉に強く頷いた。

(,,^Д^)『おう、急いで隊長呼んで来い。オリーブ村が人売りどもに襲われそうになってる。
     俺達が向かった方が二刻は早く到着するだろう。出動命令だ。【白衣白面】出撃する』

━━━━━【白衣白面】。
二十年以上も昔に全滅した筈の最強の突撃部隊。
その言葉の響きをもって運命の物語は再開する━━━━━。



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