( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

89: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:26:29.06 ID:6DTiKndi0
爪'∀`)y‐『殺ァッ!!!!!』

突如、フォックスが右腕を振るった。
瞬きする間も無く襲い来た長剣を避ける事も出来ず、クーは全身を切り刻まれる。

川  - )『……が』

振り子運動や慣性を利用しているとはいえ、宙を舞う長剣は所詮おとりのような物だ。
九尾の本当の恐ろしさは、長剣の影で閃く不可視の糸にある。
だが、それでも勢いをつけた鉄剣を軽装の身に受けては無事ではすまない。
意識が白く飛び、目を覚ました時には石畳の上に倒れこんでいた。

(´<_`;)『【突】!!』

弟者の義手から放たれた飛礫は、長剣によって弾かれる。
続けて飛び掛った青年をフォックスがかわすうちに、クーは兄者の手によって戦線から離脱した。

川# - )『くそ……なんと無様な……』

( ´_ゝ`)『良いから身を休めろ!! 【急先鋒】、クーと代われ!!』

言うより早く、ジョルジュはフォックスに斬りかかっていた。
兄者もまた、ハルにクーの身体を預けると、戦場に駆け戻る。

jハ;*゚ー゚ル『ちょっと、クー!! しっかりしてくださいまし!!』

【祝福の鐘】と称される凛とした声が、やけに頭に響く。
肺腑を絞られたかのように呼吸が困難だが、それさえ回復すれば戦線復帰の時は必ず来る筈だ。
戦況は今でも決して彼らに有利とは言えず。
時が満ちるまで彼女は仇敵の動きから目を離さぬ様、心に決めた。



92: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:28:44.62 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

(#゚∀゚)『らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!』

気合と共に振り抜いた大鎌と大剣は、いとも容易く回避されてしまった。
それどころか、鉄すら斬る糸が触れたのか、青年の頬に赤い線が走る。

川 ゚ -゚)『……』

観察者の立場に回って改めて分かった事。
それは【七英雄】と呼ばれる者が誇る戦闘能力の高さだ。
クーは父モララーが本気で剣を振るったところを見た事が無い。
目にした事があるのは日頃の鍛錬くらいな物だったし、フォックスの本質が戦士でなく謀略者の類である事も理解している。

だが、それでも彼らの刃は狐の毛皮を掠める事すら出来ないでいた。
ジョルジュ。ギコ。流石兄弟。ブーン。そして、自分。
揃って大概の将であれば退けられる程の実力は備えている。
しかし、フォックスの力はその遥か高みにあると、認めざるを得なかった。

九本の長剣と斬鉄糸の作り出す結界。
それは潜り抜けるだけでも容易ではなく、懐に飛び込んだ時には一撃をぶつけるのが関の山と言う状態になっている。
複数の剣に四方から襲われ、防ぎきった時には距離を空けられていた。

ノハ#゚听)『吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!』

怒号に釣られて視線を移した。
黒塗りの鉄弓を引き絞る赤い給士。
その少し後方で、身を縮こませる黒い給士が目に映る。



96: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:31:30.76 ID:6DTiKndi0
川 ゚ -゚)『……』

思えば、彼女を憎む気持ちに支えられた半生だった。
失われた幼き日々の思い出を取り返すと誓ったあの日から。
降りかかる困難と過酷。微かな希望を一瞬で塗りつぶす絶望。
心が折れそうな時、【射手】を憎む事で己を保った。
幾度も幾度も、想像の中で八つ裂きにした相手だった。

ハインの過去を知った今、それに同情する心はある。
最も自身に近いのは彼女であろうと言う想いもある。
それでも、許す事は出来ない。
何故ならそれは、己の否定であり、憎んだ者に対する侮辱だからだ。

川 ゚ -゚)『……せめて全ての真実を受け入れてから憎んでやってくれ、か』

何時になく真剣で悲しい表情を浮かべた男の姿を思い出す。
受け入れよう。
己の弱さから逃避する為に、真実に蓋をして憎み続けた。
その全ても受け入れて、憎み続けてやろうではないか。

戦場に目を戻す。
その時、クーが見たのは邪悪に鈍く輝くフォックスの瞳。

川;゚ -゚)『……っ!!』

あの目は危ない。
そう思った時。
既にクーの義足は石畳を蹴っていた。



100: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:34:02.01 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

爪'ー`)y‐『流石は【急先鋒】。ここまで早く我が九尾とやりあえるようになるとは、正直驚きました』

(#゚∀゚)『うるせええええええええええええっ!!!!!!!』

クーの見立てたよう、狐の力は一枚も二枚も上手であった。
が、そこは戦闘経験と言う面で、決してフォックスに引けをとらぬジョルジュである。
襲い来る長剣や糸を、絡め縄や鎖鎌と同じように見てとれば、決して対応できぬ物ではない。
大鎌の柄を短く持ち、確実にフォックスに斬撃を打ち込んでいく。

それでも、まだまだフォックスには余裕があった。
彼を取り囲んでいるのは、近接戦闘では大いに劣る流石兄弟と、一撃が大振りに限られるジョルジュとブーン。
如何に柄を短く持とうと、勝利の剣が特殊な補助柄を備えていようと、性質上大振りになるのは否めない。
ギコとクーの二人を早々に離脱させておいて、正解だったと思う。

フォックスは、ギコの戦い方を良く知っている。
最小限の動きから繰り出される神速の連撃は、最も警戒せねばならぬ物だった。
そして今、クーを討った事で銀髪の青年は我を失いかけている。
補助柄の意味すら忘れ、無謀とも言える力任せの攻撃を繰り返しているのが、その証拠だろう。

爪'ー`)y‐。oO(ならば……もう少し熱くなってもらいましょうか)

命まで奪わなければ、問題はない。
この一撃で、ジョルジュや流石兄弟の冷静さも奪い去る事が出来るだろう。
いや。その為に、今まで“あれ”を放置しておいてやったのだ。

糸を操らぬ左手で、外套の内から黒塗りの武器を取り出す。
多くのバリエーションを持たぬ代わりに、殺傷力を追及した投弾兵器“狐火”。
狙うのは、勿論━━━━━。



106: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:38:05.88 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

从 д从『……いやだ……こわいよぅ……こわい……』

奥歯が浮かび上がり、カチカチと音を鳴らした。
全身が凍りついたかのように寒い。
いや、きっと本当に凍り付いているのだろう。
何故なら、その身体は指先一つ動かす事が出来なかったから。

从 д从『ごめんなさい……いじめないでください……ごめんなさい……』

呪詛のように何度も何度も何度も何度も繰り返し呟いた。
あぁ。あそこでは温もりを与えてくれた人が倒れている。
衣服が燃え尽き、むき出しになった背中が焦げている。
けれども、その光景もどこか遠くの世界の出来事であるかのように思えて。

『流石は【急先鋒】。ここまで早く我が九尾とやりあえるようになるとは、正直驚きました』

激しい金属音に混じって聞こえるのは、あの男の声だ。
人売りを装って隠密の集落を襲い、自分達を人質に大人達を皆殺しにした男。
たくさんの友達の中から“いいこ”を選び抜く為、何十人もいじめた男。
偽りの温もりを与え、自分達を物を考えぬ人形に作り変えた男。

怖い。
コワイ。
こわい。

心の奥底に閉じ込めていたモノが、鎌首を持ち上げて身体に絡み付いてくる。



110: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:40:03.73 ID:6DTiKndi0
母は自分の目の前で両胸に大剣を突き立てられた。
普通であれば即死の傷。
だが、母は死ななかった。
死ななかったから、笑みを浮かべた男にボロボロになるまで斬りつけられた。

あの子は、生きたまま腸を引き摺り出され、腐敗した犬の死体を詰めて見せしめにされた。
あの子は、食べさせてもらえるのが自ら殺した弟の死体だけだった。
あの子は、槍に串刺しにされたまま、二日間も死ねずに痙攣していた。
みんな、みんな“いいこ”じゃなかったから。

何百人も殺した。
一つの夜が明けるまでに、両手の指では数え切れないほどの命を奪った。
それは正しい事の筈なのに。
誰もが恨みと憎しみを込めた目をして死んでいった。

あの貴族は、呪いの言葉を吐きながら絶命した。
あの騎士は、悲しい目で見つめながら息を引き取った。
あの母親は、最期まで子の身を案じながら必死に生きようとしていた。

殺された大人達。
いじめられた仲間達。
殺した者達。
その全てが給士を縛りつける。

『ハインリッヒ!!!!!!!!!!!!!!』

从 д从『っ!?』

名を呼ぶ声に、顔をあげる。
瞬間。視界を何かが塞ぎ、同時に彼女は閃光と熱風に包まれた。



114: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:42:30.54 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

(;゚ω゚)『ハインさんっ!?』

(;゚∀゚)『ハインッ!!』

当然、諸兄らもお気づきだろう。
ハインの身を包み込んだ炎の正体は“狐火”と名付けられた投弾兵器。
自身の包囲網を潜ってそれを投げたのは、【人形遣い】フォックスである。
この時初めて実行された“外野”への攻撃は、彼の考えていた通りの成果を上げた。
つまり。

爪'∀`)y‐『隙だらけですよ、流石兄弟』

(´<_`;)『……っ!?』

(;´_ゝ`)『しまっ……5式っ!!』

常に冷静さを乱さず援護攻撃に徹していた二人の心が、初めて乱れたのだ。
皮肉にも、その策はかつてバーボン城の戦いで兄者が実行したのと全く同じ物。
だが、それはあまりにも効果がてきめんで。

ハッと我に返った時には、フォックスの“狐火”が眼前に迫っている。
迎撃に放った投弾兵器も空しく、兄弟は爆風と共に石壁に叩きつけられた。
更に。

(# ∀ )『ぐおおおおおおおおおおおおっ!?』

まさに一瞬。激痛に【急先鋒】ジョルジュは膝をつく。
その右目には飛刀が突き刺さり、頬を血が濡らしていた。



126: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:46:30.65 ID:6DTiKndi0
( ゚ω゚)『……っ!!』

青年はただ呆然と立ち尽くした。
まばたきをする間も無く、三人の戦士が倒されたのだ。
だが、フォックスの刃が青年を襲う事は無く。
何故か?

それは、黒の給士が炎に包まれる寸前。一つの影がその前に立ち塞がるのを見てしまったから。
そして、青年がそれを為す術もなく見てしまったのに、気づいたから。

(;゚ω゚)『ね……ね……』

爪'ー`)y‐『……これはなかなかに予想外な展開ですね。
      ですが、即興は演劇を盛り上げる手段としては非常に効果的な物。はい、決して悪くないですよ』

冷やかすように不快な声は、青年の耳には入らない。
煙が晴れて行く。
まず、目に入ったのは水色の衣を爆炎に焼き飛ばされ、顕わになった傷だらけの背中。
給士に覆い被さり、護るようにして両腕を広げている。
吹き飛ばされぬよう、赤銅色の義足を、ずんと石畳に下ろしていた。

从 д从『……え? あ……あぁ……』

川  - )『……』

やがて、ゆっくりと黒髪の王の身体が崩れ落ちた。
まるで、給士にもたれかかるようにして、倒れていく。


(;゚ω゚)『姉様ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』



133: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:50:00.13 ID:6DTiKndi0
爪'∀`)y‐『いや、これは褒めてさしあげるべきでしょう!!
      このような喜劇を見たのは、いつかの王都以来……』

言い終わるより早く、宙に飛んだ。
青年の振り下ろした大剣が外套をかすめ、石畳に叩きつけられる。
砕け散った破片が地に落ちるより早く、ブーンの身体はフォックスに迫っていた。

(#゚ω゚)『貴様ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』

我武者羅に刃を振るい、フォックスの身を追う。
斬鉄糸が肌を切り、血が噴き出しても構わずに斬りかかった。

爪'ー`)y‐。oO(……ほぅ)

速い。
素直にそう、感心した。
ただ速さだけなら、父である【夢幻剣塵】モララーにすら大きく引けは取るまい。

爪'ー`)y‐『ですが、それだけですね』

だが、それだけだった。
完全に我を失ったブーンの攻撃など、あしらうのはあまりに易い。
厄介な流石兄弟も封じこみ、ヒートや片目を負傷したジョルジュなどの諸将は斬撃の速さに、近づく事も出来ずにいる。
つまり、ブーンひとりに徹底的に集中できる。
狼を狙う蜂の群れがように、幾度も毒針を突き立ててやれば良い。
また、このまま瞬歩を発動させていれば、青年の体力が先に尽きるのは明らかだった。

そう。冷静さを欠いた者を相手に、万に一つもフォックスが敗れる事はありえない。
たとえ、それが英雄モララーの子であり、聖剣を継いだ者であったとしても、だ。



134: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:52:14.84 ID:6DTiKndi0
(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!』

爪;'ー`)y‐『む?』

咆哮と共に、青年の身を包み込む剣気が爆発した。
叩きつける大剣の重圧も、比にならぬほど高くなる。
踏み込み足は足元がひび割れるほど強く、剣先が掠めただけで石畳に亀裂が走った。

爪;'ー`)y‐『なるほど。今までどこに潜んでいたのか知りませんが……
      流石はモララーの子、というわけですか』

長剣を、ざぁっと並べて青年の進路を塞ぐ。
大きく背後に飛び退いた事に、打診も計算もない。
言わば、本能的に感じた何かが、フォックスの足を退かせた。

(#゚ω゚)『これでも……喰らえお』

このままではジリ貧になるのは、もちろん青年も理解していた。
フォックスは今までに戦った誰よりも強い。
そして、それは経験と手段を選ばぬ冷酷さに裏打ちされた、知による物が大きいのだろう。
ならば、どうする?
そのフォックスの計算力が及ばぬような一撃を叩き込む以外に答えは、ない。

(  _ゝ )『無理だ……ブーン、やめろ……』

兄者の声は青年の耳に届かない。
いや、届いていたとしてもそれに従う事は無かっただろう。
扉を開く鍵となる言霊も、己の内面に飛び込むのに集中する時間も全て不要。
何故なら、青年の心には未だかつて無い程の怒りの炎が渦巻いているからだ。
拳法家が重ねた板を手刀で割るように、一息に自身の中にある扉をぶち破っていく。



138: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:55:08.61 ID:6DTiKndi0
爪;'ー`)y‐『それが切り札、というわけですか』

(#゚ω゚)『……その通りだお』

限界解放。生涯でただ三度だけ許された。全てを打ち砕き、引き裂く必殺の一撃。

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!』

だが、青年が限界解放を発動させた戦いから、まだ一月と経過していない。
万全の状態でさえ、命を削りとる大技だ。
全身を焼き尽くし、引き千切られるような痛みがブーンを襲う。
皮膚が破れて血が噴き出し、心の臓が弾け飛ぶかのような悲鳴をあげた。

(#゚ω゚)『それでも……それでもぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!』

それでも、この一撃に賭けるより他に手段はない。
それでも、この男は許してはならない。
自分がここで敗れれば、その背後にいる大勢の仲間も殺されるのだ。
この男は大勢の仲間を、家族を傷つけ続けてきたのだ。
であれば、なにを躊躇う必要があろうか?

青年の怒りが、最後の一線を踏み越える。

その、瞬間━━━━━

( ゚ω゚)『っ!?』

爪;'ー`)y‐『……なっ!!』

突如襲い掛かった黒い影に、【人形遣い】フォックスの身体は吹き飛ばされていた。



142: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:57:42.07 ID:6DTiKndi0
???『馬鹿野郎!! 自棄になんなっ!! 死にてぇのかっ!!』

(;゚ω゚)『……お? でも……』

???『言い訳すんなっ!!』

(;゚ω゚)『あ……はい、ごめんなさいですお』

驚愕が、青年の心に渦巻く怒りを急激に冷ましていく。

爪;'ー`)y‐『……くっ』

数十秒前までは玉座の形を為していた瓦礫の山から、身を起こした。
その表情は、己の計算を遥かにずれた事実に困惑している。

爪;'ー`)y‐『何故……あなたが……?』

この戦いで初めて【人形遣い】に傷を負わせた者。

右の手には、もう一つのニイトの至宝たる長剣“西方の焔”
左の手には、それぞれの指又に挟みこんだ飛刀。
黒髪を後頭部でまとめあげ、ガラス玉のようだった瞳は今や凛と輝いている。
身に纏うは……皆もお分かりであろう。

漆黒の給士服。


从#゚∀从『何故……じゃねぇっ!! このハインちゃんが直々にぶち殺してやるぜ、フォックスっ!!』

【天翔ける給士】ハインが、そこには立っていた。



146: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 21:59:50.97 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

川;゚ -゚)『……っ!!』

あの目は危ない。
そう思った時。
既にクーの義足は石畳を蹴っていた。

川#゚ -゚)『ハインリッヒ!!!!!!!!!!!!!!』

从 д从『っ!?』

咄嗟に、その身体を被い庇う。
同時に襲い掛かる閃光と爆音と衝撃。
それだけで身体が弾け散りそうになった。

川  - )『っ……ぐ……ぅ……』

从 д从『……あ……あぁ……何で……?』

続けて全身を貫いた激しい痛みに、意識が朦朧とする。
崩れるように倒れ、給士の身体にもたれかかった。
だが、意識を失う訳には行かない。
歯を喰いしばり、鋼の意思で気を保つ。

川  - )『これで……貸し借りは無しだ』



152: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:02:51.37 ID:6DTiKndi0
从 д从『な、何を言ってやがるんだよ、こんな時に……』

川  - )『こんな時……だからこそだ』

力が抜けていく。倒れてしまえばどんなに楽だろう。
しかし、まだだ。倒れる訳にはいかない。
告げなくてはならぬ言葉がある。

川  - )『良く聴け……ハインリッヒよ。私は……お前を絶対に許さない。
     たとえ、貴様の過去が悲しみに色塗られ、踊らされていたのだとしても……許すわけにはいかない』

从 д从『だったら……だったらハインちゃんなんか放っておけば……』

川 ー )『そうだな……だが……私は、貴様などに借りを作るつもりはないのだ……暗殺者よ』

自嘲するように、小さく笑みを浮かべる。
その言葉を聞いた給士の顔が、わずかだが怒りに染まった。

从# д从『何も知らなかったくせに……勝手な事言いやがって……っ!!』

川 ー )『どうした……癪に障ったのか? ならば、怒ればいい。
     無知で身勝手な私を……貴様も許さなければいい。だがな……』

だが。
絞りかすの様な意思を総動員して、緑色の瞳に力を込める。

川 ー )『……だからと言って……私と貴様が共に戦ってはいけない理由にはならないだろう?』

从 д从『……っ!!』



156: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:05:21.37 ID:6DTiKndi0
从 д从『……え? お前、ハインちゃんを許して……』

川 ー )『許さぬ……といった筈だ。私はお前を永遠に許さない。
     しかし、自分から逃げる為に貴様を憎んで……
     知らぬうちに借りを作り続けて生きるのは……もう終わりだ』

言って、爆風に飛ばされた長剣を拾い上げる。
腰に帯剣しながらも、使う機会の無かったものだ。
それを給士の胸に押し付ける。

从 д从『……』

川 ー )『【射手】よ。人は恐れる物に背を向けて逃げ続ける限り……前には進めない。
     戦わなければ、人は人ですらいられない生き物なのだ……。
     恐れてもなお……人であろうとするならば……戦うより他に、本当の逃げ道など存在しないのだ』

そこがもう、黒髪の王の限界だった。
今度こそ、本当に崩れ落ちていく。

从; д从『【無限陣】!!』

川 ー )『クーと呼ぶが良い……行け……罪無く死んだ者達の恨み……
     ……私に代わって貴様に晴らさせてやる』

从; д从『……っ!!』

それだけ告げて。クーの意識は深い白の中に沈み込んでいった。



161: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:08:04.74 ID:6DTiKndi0
ノハ;゚听)『お……お姉様? 怪我は……』

从 ∀从『……大丈夫だ。こいつが庇ってくれたからな』

完全に力の抜け切った身体を静かに石畳に横たえ、給士は立ち上がる。

jハ;*゚ー゚ル『クー!! 馬鹿な真似をっ!!』

駆けつけたハルとヒートに意識を失ったクーを託し、力を込めた瞳で戦場を睨みつけた。

ノハ;゚听)『で、でも、お姉様は……』

从 ∀从『……』

答える代わりに、長剣を鞘から抜き放った。烈火が如く輝く、ニイトのもう一つの至宝“西方の焔”。
ハインは知らぬが、それはかつてモララーの副官であったラーゼが承った物だった。
つまり、【射手】であった頃の自分によって友を失った者の忘れ形見。
手渡された意味は分からない。だが、手渡された想いは重すぎるほど。熱すぎるほど掌の中に感じる。

从 ∀从『互いに許し合わずとも、それが手を取り合わぬ理由にはならない、か。
     格好つけやがったな、頑固女め。でも……』

もう一度戦場を睨みつける。
いや。己の為にあまりにも多くを喰い殺してきた男を睨みつける。

从#゚∀从『でも、それで十分だ。
     大人しくそこで寝てろよ、クー。ハインちゃんが、あの野郎をぶちのめしてやる』

呟くや、給士は力強く石畳を蹴った。



163: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:09:35.66 ID:6DTiKndi0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

从#゚∀从『飛刀乱舞・3連っ!!!!!!!!』

爪'ー`)y‐『そのような小技、通用すると思っているのですか!?』

20を越える飛刀を、糸と長剣で払い落とした。
その時には銀髪の青年が懐に飛び込んでいる。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

胴を狙った横薙ぎの攻撃は、皮一枚で避わした。
と、同時に腕を振るって長剣を素早く引き戻す。
背後に回りこみ、切りかかろうとしていた給士は、既に正面に戻って来ていた。

爪'ー`)y‐。oO(く……それにしても、どこで計算が狂った!?)

ハインの戦線加入。それは、フォックスにとって完全に計算外の出来事であった。自分を前にして彼女が己を保てる筈が無い。
冷静さを欠くほどではないが、どうしても心に引っかかる。
クーがハインを庇った時からか?
いや、そもそも彼の知るニイト王は復讐鬼たる存在だった筈。
ハインだけでなく、彼女が身を置くというだけでヴィップですら嫌っていたほどだ。
その彼女が、この場にいる事自体がおかしい。
と、なれば……。

爪;'ー`)y‐。oO(ニイト=ホライゾン!! また貴方ですか!!)



167: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:11:33.21 ID:6DTiKndi0
ヴィップ内部で暗に動いていたショボンすら手玉にとって、戯曲を奏でていたつもりだった。
しかし、その実。真の主演は、彼の目から見えぬ所で台本そのものを作り変えてしまっていたのだ。

从 ゚∀从『ナイトウ!! 右に回れ!!』

( ゚ω゚)『把握だお!!』

爪;'ー`)y‐『全く……面倒な真似をしてくれますね』

脚の動きを休める事無く、ハインとブーンは攻撃を繰り返す。
いや、ただ無闇矢鱈に駆け回っているのではない。
右方と左方。
前面と後背。
近距離と遠距離。
常に相反する位置より【人形遣い】に斬りかかる。
そうする事で、一人に向けられる尾の数はどうしても分散され、飛び込みやすくなる。
故にフォックスは、この戦闘の火蓋が切り落とされて以来初めて、本気で動き回らねばならなくなっていた。

从#゚∀从『高岡流一刀術!! 桧割り!!』

爪;'ー`)y‐『っ!!』

長剣を掻い潜り、高く舞った給士が焔の刃をフォックスの頭に叩き落す。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおらぁっ!!』

そして、それを避けた時にはその足元に銀髪の青年が滑り込んで来ているのだ。
繰った長剣を石畳の隙間に突き立て、柄の尻に飛び乗るようにして回避する。
と、同時に高く跳躍した。
その影を掠める様に、給士の放った飛刀が背後の壁に突き刺さる。



169: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:14:01.20 ID:6DTiKndi0
対峙する数こそ、たったの二人に過ぎない。
だが、神速の移動術たる瞬歩法の使い手二人は、数倍以上の戦力に値するのだ。
ハインの飛刀による援護射撃は【金剛阿吽】の兄弟二人を上回る物だし、
飛刀を放ったかと思えば次の瞬間には炎の刃を振るっている。
銀髪の青年は遠距離攻撃こそ出せないまでも、息をつかせぬ連撃を繰り返していた。

爪'ー`)y‐『あまり調子に乗らないでほしいですね』

从;゚∀从『っと!!』

今、まさに跳躍しようとしていたハインは、危ういところで踏みとどまる。
糸を繰る右手を高く掲げたフォックスの頭上で、九本の長剣全てが舞い踊っていた。
その身体を包むように輝いているのは、狂舞する鉄斬糸で間違いあるまい。

从#゚∀从『何だぁ!? 守りに専念するなんて、らしくねぇじゃねーか!!』

爪'ー`)y‐『私も若くありませんので。休憩時間くらい頂きません……と?』

答えるフォックスの視界に入ったのは、距離を開き剣気を練りあげる青年の姿である。
小柄なハインは、飛刀術は勿論の事、斬撃も軽い。
瞬歩による加速力を利用しなくては、案山子すら斬れないのではないだろうか?
しかし、あの青年は違う。足を休めていては、防ぎきれない。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおっ!!』

爪;'ー`)y‐『やれやれですね。全く、最近の若い人は……』

一直線に走る、閃光が如く剣撃。それをフォックスは、あえて前に飛び込むようにして回避した。
擦れ違い様、土産代わりに青年の脇腹へ手刀を突き刺す。
ぽきり、と確かな感触があり、青年は足を縺れさせながら顔面から倒れこんだ。



171: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:15:37.96 ID:6DTiKndi0
从;゚∀从『ナイトウ!! 大丈夫か!?』

( ゚ω゚)『はい、ですお!!』

すぐさま跳ね起きる姿は、損傷を負ったようには見えぬ。
だが、フォックスの指先は間違いなく青年の肋骨を折っていた筈だ。

爪'ー`)y‐。oO(精神状態が能力を大きく左右するタイプですか……厄介ですね)

そう、判断した。
安定感、と言う意味では青年の戦い方は大いに突け入る隙がある。
が、一度嵌った時の爆発力は、それを差し引いても十分な破壊力を秘めているのだ。

己の最高傑作である【闇に輝く射手】ハインリッヒと、己の策を尽く討ち破った【王家の猟犬】ニイト=ホライゾン。
嘲るような笑みを浮かべてはいても、内心ではとうに余裕など消え失せている。
全力をもってこの二人を討つつもりでなければ、敗れても不思議はない。

爪'ー`)y‐『それでは。これには、どう動きますか?』

从 ゚∀从『させねーよっ!!』

ツン達を狙った“狐火”は、ハインの飛刀に討ち落とされた。
空中に蒼い炎が花開く。

从 ゚∀从『二番煎じかよ。堕ちたもんだな』

爪'ー`)y‐『人形ふぜいが……ただの遊びでいい気にならないで欲しい物です』

挑発にハインの顔が微かに上気する。
フォックスは張り巡らせた糸に飛び乗り、二人から距離を空けようとしていた。



172: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:17:09.55 ID:6DTiKndi0
从 ゚∀从『逃がすと思うのかよ、フォックス!!』

単純な加速力やここぞと言う時の爆発力ではブーンに劣るハインの瞬歩法だが、
彼女にはそれを補って余りある長所がある。
安定性。持続力。そして何よりも、跳躍力がそれだ。

青年には届かぬ高さにフォックスが移動しても、彼女であれば追撃が出来る。
かすかにきらめく糸の上を逃げようかというフォックスを見て、
前衛を務めていた青年を追い抜かすように給士は前に出た。

だが、これは一見正解のように思えて、その実は間違いである。
フォックスの挑発を受け流したつもりで、まんまと罠に嵌ってしまった。
確かに、高みに逃げたフォックスを追う事はブーンには出来ず、それが出来るのはハインしかいない。
しかし、それは同時に牽制役を務める者がいなくなる事も意味しているのだ。

(;゚ω゚)『ハインさん、らめぇっ!!』

从;゚∀从『え……?』

二人も当然、瞬時にこの過ちに気づく。
咄嗟に青年が前に出ようとするが、その時にはもう遅い。
好機をみすみす見逃すほど、この男は甘くなかった。

爪'ー`)y‐『悪い子にはお仕置きが必要ですね』

九本の剣と鉄斬る糸を全て給士に集中させる。
ほんの数瞬。
過ちと呼べぬほど、わずかな時間で修正できた過ちの筈であった。
が、この男にとってそれを致命的とも言える傷に広げるには十分。
数瞬の間に、ハインはその身体を長剣に包囲されてしまう。



183: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:20:58.36 ID:6DTiKndi0
从#゚∀从『この……陰険野郎がっ!!』

爪'ー`)y‐『褒め言葉と受け取っておきましょう。
      ご安心なさい。全てが終わった後には、あの頃とは比べ物にならぬお仕置きをしてあげましょう。
      そして、貴方は再び我が人形へと生まれ変わるのです』

从#゚∀从『っ!! ふざけるなっ!! ハインちゃんはもう二度と人形なんかにならねぇっ!!』

ハインの飛刀は連射には長けるが、長剣を弾くだけの重量はない。
やむなく、半身に身体を開いて“西方の焔”を振るうが、
それだけでは無数に襲い来る糸まで防ぎきる事は不可能だった。

狂ったように宙を踊る斬鉄糸に、給士服が切り刻まれていく。
黒い細切れと赤い鮮血が、風に散る花弁のように宙を舞う。

(;゚ω゚)『ハインさんっ!!』

爪'ー`)y‐『無駄ですよ、ニイト=ホライゾン!!』

咄嗟に壁を駆け上り上空から援護しようととするも、
出足際に“狐火”を叩きつけられて前のめりに転げ込んだ。
瞬歩に跳躍を加えられぬブーンでは、フォックスに手を出す事は出来ない。
壁を使った強襲も、援護する者がいなくては容易く妨害されてしまう。

かと言って、給士の盾となり、彼女の代わりに攻撃を身に受ける事も不可能だろう。
先と同じように、足止めを喰らってそれで終わりだ。
手を拱いているうちにも、ハインの肌に走る赤い線の数がみるみると増えていく。

(;゚ω゚)『くそっ!!』



191: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:23:08.39 ID:6DTiKndi0
縛り付けられたように一歩として動けぬ給士。
それを前にして、青年の頭は嘘のように冴えきっていた。
このままハインに攻撃を集中されてしまえば、いつか必ず全て削り取られる。

だが、自分が動くには何かが一つ足りないのだ。
隣接戦闘のみに限られた自分がフォックスを叩くには、
どうしても誰かの援護が必要になる。
しかし、給士ハインは動けず、【金剛阿吽】流石兄弟は身を起こす事も適わぬ有様。
必死に自分らの背後を駆け回るヒートが放つ矢も、効果は殆ど見られない様子だった。

(;゚ω゚)。oO(どうする……どうする……?)

捨て身の突撃?
それはありえない。狙い済ましたかのように迎撃されて終わりだ。
では、今度こそ限界解放を発動させるか?
不可能だ。集中する間も無く、その身を青い炎が包み込むだろう。

考えろ。考えろ。
この場を切り抜けられるのは、己しかいない。
ジョルジュ、ギコ、クー、流石兄弟と言った個人戦闘の達人が倒され、背後に控える者達ではフォックスを討つ事は不可能だろう。
何か……どこかに突破口は……。

从#゚∀从『ナイトウッ!!』

その時、一瞬にも満たぬ間隙をついて給士が振り返り、叫ぶ。
瞳があった瞬間、彼女の意図を青年は読み取った。

(;゚ω゚)『あ……』

策は、ある。



194: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:25:37.66 ID:6DTiKndi0
(;゚ω゚)『でも……っ』

策はある。
だが、それは賭けに等しい策だ。
数秒ではあるが、ハインの身体を今以上に危険に晒す事になるし、
何よりも他に出口がない以上、フォックスに誘導されている危険性が高すぎる。

从#゚∀从『来い、ナイトウっ!! こうなったのはハインちゃんのミスだ!! これだけは全部防いでみせる!!』

( ゚ω゚)『……っ!!』

その一言で青年は覚悟を決めた。
一息で飛び込める位置にある、フォックスからの死角。
つまりは、ハインの後方に飛び込むと、その背中に向かって石畳を蹴る。

爪'ー`)y‐『狐火っ!!』

从#゚∀从『させるかあああああああああっ!!』

身を護る炎の刃を投げ捨てた。
瞬間、給士の身体を狐の尾がズタズタに切り裂くが、怯まない。
両手から放つ飛刀をもって、全ての投弾兵器を迎撃する。

( ゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!』

そして、青年は全ての攻撃を一身に受ける給士の背を踏み台に。

( ゚ω゚)『フォックスーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!』

高く。高く宙に跳んだ。



204: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:27:30.42 ID:6DTiKndi0
(#゚ω゚)『これで終わりにしてやるおっ!!!!』

爪'ー`)y‐『……ふぅ』

右腕を振るい、長剣を引き戻した。
給士を襲っていたその全てを、ブーンに集中させる。

(#゚ω゚)『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!』

勇み足による失策を犯した給士の身を盾にした、強引過ぎる襲撃。
咆哮と共に落下してくる青年は大剣を高く振り上げ、フォックスの攻撃を避けようともしなかった。
いや。元より避ける術など持たない。全てを聖剣の一撃に賭けたかのように、勢いをつけて降下する。
これが普通の者が相手であれば、予想し得ない強襲の筈だったであろう。
だが。

爪'ー`)y‐『まぁ……それしか手はないでしょうからねぇ』

( ゚ω゚)『!!』

やはり、と言うべきだろう。青年の懸念していた通り、この男にはそこまで見透かされていた。

爪'∀`)y‐『お疲れ様です。ニイト=ホライゾン』

落下による加速力を全身に纏った青年の胸元に、ひょいと投弾兵器を投げつける。
今まさに大剣を振り下ろそうかとしていた青年の身体は、爆音と共に青い炎に包まれた。
吹き飛ばされ、数度石畳の上を跳ねてから、うつ伏せに倒れ動かなくなる。

(  ω )『……』

これで残るは先立ってフォックスの攻撃を一身に受け続け傷ついた、【天翔ける給士】ただ一人。



戻る次のページ