( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 141: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:18:02.47 ID:3Vc1+XSSP
- 从;゚∀从;゚ー゚フェ『っ!!』
- 斥 'ゝ')『ちぃっ!!』
- 執事が大きく舌を打った。
- 腰に下げたばかりの蛮刀を、早くも引き抜く。
- ランプの灯りが磨きぬかれた刀身に反射して、持ち主の瞳のように獰猛な輝きを発した。
- 从;゚∀从『見つかっちまった!?』
- 斥;'ゝ')『仕方ねぇ!! 一気に突破するぞ!! 人質を目の前に連れ出されるより早く脱出する!!』
- ハ#゚ー゚フェ『正面突破!! 邪悪必滅ですね、了解です!!』
- 短い時間の付き合いでも、執事の状況分析力は絶対的に信頼出来るものだと判断したのだろう。
- 最初に石床を蹴ったアインハウゼを追うように、2人も駆け出した。
- もし、目の前に人質を引き出されたら、為す術もない。
- 給士も執事も。そして、少女も同様の手口で投降させられたのだ。
- つまり、人売り達は彼らに対して最も有効な戦術を知っている。
- 降服を渋るそぶりでも見せようものなら、見せしめとして人質の首を刎ねるくらいの事はして見せるだろう。
- だからこそ、一刻も早く。そのような状態に陥る前に脱出しなくてはいけないのだ。
- 投降を迫る駒、という役割さえ押し付けられなければ、牢内に残してきた者達が人質にされる事も無い。
- そうなれば彼らは人売りにとって貴重な“収入源”である。
- 少なくとも、命の危険だけは最低限に抑えられる。
- 斥#'ゝ')『絶対に離れるんじゃねぇぞ!! 互いの背を守りあうんだ!!』
- 叫ぶと同時、執事は湖に向かう大扉に飛びかかった。
- 143: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:20:21.01 ID:3Vc1+XSSP
- 人売りF『なっ!? こいつら、どこから……』
- それが、男の最期の言葉となった。
- アインハウゼの蛮刀が横薙ぎに振るわれ、男の首は驚きの表情を浮かべたまま宙を舞う。
- 思いもしなかった所から姿を現した3人に、人売り達の視線が集中した。
- その背後には、アーリー湖が澄んだ水面に夜空を映して、闇色に揺らいでいる。
- 風の引き起こす波がキラキラと白銀色に輝き。月ではなく、数え切れぬほど多くの赤い光が湖上を照らしていた。
- そして、その光景を目にした執事は、あまりにも忌々しげに声を漏らす。
- 斥;'ゝ')『……すまねぇ。やっちまったみたいだ』
- 从#゚∀从『……ざっと100人ってトコか。時間をかけるとまだまだ増えるぞ!!』
- ハ#゚ー゚フェ『そうです!! 一気に行っちゃいましょう!! 悪即斬です!!』
- あくまで結果論だが、強行突破という解答を導き出すまでに、彼らはやや短慮にすぎた。
- だが、あの『敵襲』の声が自分達に向けられた物ではなかった、と言う事を。
- “商売”に励みすぎた人売り達を征伐せんと、正規軍を動かしたメンヘル軍に向けられた物だと、どうして判断できようか。
- 湖影を照らす赤い光は、メンヘル軍の小船に乗る兵士達が手にする、松明の明かり。
- 5人乗りの船が、100隻以下という事は無いだろう。
- その全てが円と正十字を重ねあわせた、マタヨシ教聖印の旗印を掲げている。
- 3人は、そのメンヘル軍の討伐を迎え討たんとしている人売り達の真っ只中に飛び込んでしまっていたのだ。
- 从#゚∀从『気にすんな、オッサン!! しょーがねぇ事だ!!』
- 斥#'ゝ')『お、おう!! あと、俺はオッサンじゃねぇっ!!!!!!!!!』
- それでも、これは挟撃の絶好機でもある。
- 彼らは、人売りの群れの中に斬りこんで行った。
- 147: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:27:55.56 ID:3Vc1+XSSP
- 人売りG『うわぁぁぁぁぁっ!!』
- 人売りH『メンヘル軍!? 何でこんなに早く上陸……っ!!』
- 数の上では圧倒的に不利である。
- が、どれほど頭数だけ揃えようとも、集団としての訓練を受けず、
- 浮き足立った者達などハインやアインハウゼの敵ではなかった。
- 陸地に接近した小船からも、闇夜を切り裂いて矢が射て込まれ、人売り達の混乱は頂点に達する。
- ワケも分からず駆け回っていた者同士が、正面衝突して転倒した。
- 周囲も確認せずに振るった長槍の刃先が、味方の喉元を切り裂いた。
- 挙句の果てには、砦内から駆け出て来た者と逃げ込もうとしていた者が、
- 薄暗闇の中で敵味方の区別もつけられず、斬り合いを始めている。
- 从 ゚∀从『南が一番薄い!! オッサン、先頭は任せたぜ!!』
- 斥#'ゝ')『火を狙え、ちびっこ!! 混乱に紛れて抜けるぞ!!』
- パー゚フェ『喧嘩は駄目って神もおっしゃってますよ!! わたしは、出来れば湖の方に向かって御味方と合流したいです!!』
- 斥 'ゝ')゚∀从『却下!!』
- ハ;゚ー゚フェ『何でっ!?』
- 何故アインハウゼまでが反対するかは分かっていなくても、給士には明確な理由があった。
- 彼女の目的は、聖杯の奪取である。
- つまり、もしあのメンヘル軍が大乗派。つまり、神聖国教会に与する者達であった場合、非常に都合が悪いのだ。
- そして、理由こそ異なれど、都合が悪いのは執事も同然である。
- 国教会とは即ち、主の敵。
- 今、面倒事を起こすわけには行かぬ相手であった。
- 150: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:30:21.65 ID:3Vc1+XSSP
- 人売りG『うわぁぁぁぁぁっ!!』
- 人売りH『メンヘル軍!? 何でこんなに早く上陸……っ!!』
- 数の上では圧倒的に不利である。
- が、どれほど頭数だけ揃えようとも、集団としての訓練を受けず、
- 浮き足立った者達などハインやアインハウゼの敵ではなかった。
- 陸地に接近した小船からも、闇夜を切り裂いて矢が射て込まれ、人売り達の混乱は頂点に達する。
- ワケも分からず駆け回っていた者同士が、正面衝突して転倒した。
- 周囲も確認せずに振るった長槍の刃先が、味方の喉元を切り裂いた。
- 挙句の果てには、砦内から駆け出て来た者と逃げ込もうとしていた者が、
- 薄暗闇の中で敵味方の区別もつけられず、斬り合いを始めている。
- 从 ゚∀从『南が一番薄い!! オッサン、先頭は任せたぜ!!』
- 斥#'ゝ')『火を狙え、ちびっこ!! 混乱に紛れて抜けるぞ!!』
- パー゚フェ『喧嘩は駄目って神もおっしゃってますよ!! わたしは、出来れば湖の方に向かって御味方と合流したいです!!』
- 斥 'ゝ')゚∀从『却下!!』
- ハ;゚ー゚フェ『何でっ!?』
- 何故アインハウゼまでが反対するかは分かっていなくても、給士には明確な理由があった。
- 彼女の目的は、聖杯の奪取である。
- つまり、もしあのメンヘル軍が大乗派。つまり、神聖国教会に与する者達であった場合、非常に都合が悪いのだ。
- そして、理由こそ異なれど、都合が悪いのは執事も同然である。
- 国教会とは即ち、主の敵。
- 今、面倒事を起こすわけには行かぬ相手であった。
- 151: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:32:58.95 ID:3Vc1+XSSP
- 斥#'ゝ')『おらぁっ!!』
- アインハウゼの蛮刀が煌めくたび、人売り達の首や腕が血の虹を描いて宙を飛んだ。
- 重量をたっぷりと乗せた一撃は、受け止めようとする剣を打ち砕き、頭蓋を叩き割る。
- 無造作に斬りつけただけで、着込んでいた鎧ごと腹を割かれた男が、血を吹き出させて倒れていった。
- 人売りI『ひ、ひぃぃっ』
- この男は、隠密として優秀なだけではない。
- 2本の蛮刀を振るう姿は様になっていたし、鎖を使った絞殺術など、戦士としての訓練も十分に詰んでいるように思える。
- もっとも、彼が本当に得意とするのは“男らしさ”を追い求める主の身の回りの世話であって、
- その分野でも給士に引けを取る事は無いのだが、その腕前を披露できる舞台はここにはないだろう。
- 从#゚∀从『高岡流飛刀術・猫爪!! 乱舞3連!!』
- 暴風が如く2本の蛮刀を振るう執事の背後で、ハインは補佐役に徹していた。
- 指の又に飛刀を挟み込んだ腕を振るうと、横三本に顔を切り裂かれた男が小さく悲鳴をあげて身を崩す。
- そこを蹴り飛ばしてやれば、その者は幾人もの味方の足に踏まれ、蹴られ、動かなくなるのだ。
- また、放たれた飛刀は的確に人売り達が手にする松明を穿ち落とし、それがまた混乱に拍車をかける。
- ハ;゚ー゚フェ『うー。こんな、マタヨシ様のお力が宿ってない剣じゃ、全然駄目ですよぅ』
- そのハインと並び、赤錆びた剣を振るっているのはパフェだ。
- 錆びて脆くなっていた剣は、乱戦の中で腹から折れてしまっている。
- それでも、アインハウゼが討ち漏らした人売りを殴り飛ばしているのだが、効果は皆無に等しい。
- ハ*゚∀゚フェ『あっ!! 見つけた!!』
- そのパフェが、声をあげると同時に突如駆け出したのは、そんな時である。
- 戦場を外れた片隅に、自身の刀の姿を目に捉え、気付いた時には体が動いてしまっていたのだ。
- 153: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:34:48.72 ID:3Vc1+XSSP
- 从;゚∀从『っ!? 馬鹿っ!! 嬢ちゃん、一人で行くなっ!!』
- 叫んだ時には既に、少女の身体は人売り達の作り出す渦の中に飲み込まれていた。
- いくら返り血を浴びているとは言え、身を包むマタヨシ教団の修道服は目立ち過ぎる。
- 湖賊達に一目で敵と認識されてしまうだろう。
- そうなれば、あの細腕の少女に抵抗の手段はない。
- 再び囚われ人質とされるか、最悪の場合……死、だ。切り刻まれて、襤褸切れのように死ぬのだ。
- 从;゚∀从『ちっ!!』
- 給士の瞳は完全にその姿を見失っていた。
- だが、だからと言って、どうして見捨てる事が出来よう。
- 堪らず、人売り達を掻き分けて、その後を追おうとしたハインの肩を、アインハウゼが引きとどめた。
- 斥;'ゝ')『追うな!! 無理だ!! お前も逃げられなくなるぞ!!』
- 从;゚∀从『……っ!! でも、でもっ!!』
- 斥;'ゝ')『言うな!! ここで終わるつもりか!? 今は逃げ切る事だけを考えろ!!
- パフェの事は……神に委ねるんだ。運が良ければ、メンヘル軍に救出してもらえる!!』
- 既に、メンヘル軍は上陸を開始している。
- そして、砦内部からも異変に気付いた人売り達が雲霞と現れ、乱戦状態と化していた。
- 銀髪の青年の物と違って、破壊力に欠けるハインの瞬歩法は、肩がぶつかり合うような混雑下では効果を半減させる。
- つまり、パフェを救おうと思ったら、ハイン自身も危険を覚悟で人売りの渦に飛び込まねばならないのだ。
- 主の命を完遂する為にも、給士はメンヘル軍と事を起こすわけにはいかない。
- 彼女の行動一つで、聖杯の行方が。この島の行方が左右されるのだ。軽率な行動は許されない。
- 从;゚∀从『でも……それでも……だからって、見殺しにしろって言うのかよ……』
- 155: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:37:33.46 ID:3Vc1+XSSP
- 斥#'ゝ')『助けてやりたいのは俺も同じだ!!!!!!!』
- ガシ、とハインの両肩を掴み、正面から目を見つめる。
- その必死な形相に、給士はビクッと震えた。
- 斥 'ゝ')『分かってくれ!! だが、それでも、俺はここで終わるわけにはいかない。どうしても、ここを抜け出ねばならん。
- だが、もし目の前に囚われたパフェの姿を見たら……意思を保てる自信が無いのだ』
- 从;゚∀从『……』
- 斥 ゝ )『お前が何者か、俺には分からん。今は肩を並べていても、ここを出たら殺しあわねばならぬ相手かも知れん。
- しかし、今……ここを斬り抜けるには、お前の力が必要なのだ!! 頼む……っ』
- 人として、己の考えが間違っているとは、ハインには思えない。
- だが、隠密としての自分は、アインハウゼが正しいと言っている。
- 終わるわけにはいかない。為さねばならぬ事があるのは、ハインも同じなのだ。
- 从# ∀从『……畜生』
- 給士の肩が、落ちた。
- 首を傾げたくなる言動も多かったが、パフェは愛らしい少女だった。
- 少なくとも、このような戦場で人売り達の刃にかかって死んでよい少女ではない。
- それでも、自分は彼女を見捨てて先に進まねばならないのだ。
- 从 ∀从『……ちくしょうが』
- 思わず、呪詛の言葉が口から漏れ出た。
- その時。
- どぉりゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
- 157: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:40:09.14 ID:3Vc1+XSSP
- ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!
- 从ii゚Д从『へ?』
- 呪詛の言葉に続けて漏れたのは、あまりにも間の抜けた声だった。
- 思いもしなかった光景に、顎が外れんばかりになる。
- 从ii゚Д从『な……なんだ、ありゃ』
- 斥ii'ゝ')『……俺が知るわけないだろう』
- 数人の人売り達の身体が宙に舞い上がり、賊達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う先に。
- ハ*゚∀゚フェ
- マタヨシ教の聖書の一説を引用するならば“海が割れる”かのように突如開けた視界の先に
- “護身用の刀”を手にした少女が立っていた。
- 斥ii'ゝ')『あぁ……なるほど。そういう事か』
- この時になって、理解する。
- 何故、牢を抜け出ようとしていた時、少女は鉄格子を曲げるなどと言う奇行に出ようとしたのか。
- 何故、非力に見える少女が、大のおとなを撲殺できたのか。
- 何故、あの倉庫で“刀”は見つからず、『探さなくても、すぐに分かる』と少女は断言したのか。
- その答えが“あれ”なのだ。
- 159: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:42:23.64 ID:3Vc1+XSSP
- 从ii゚Д从『まぁ……確かにあれも……』
- 斥ii'ゝ')『“刀”だな……』
- ただし、その刀は柄の長さも刃の長さも共に6尺(約180cm)以上。
- 【王家の猟犬】ブーンの【勝利の剣】を遥かに凌駕する刀身を誇っている。
- 大人の腕でも持ち上げる事すら敵わない。
- まさに“鉄塊”という響きが相応しい巨大武器。
- ハ*゚∀゚フェ『唯一神マタヨシが神官戦士!! 【斬馬刀】のパフェ、参ります!! 邪悪必滅!! 悪即斬!!』
- 叫ぶや、少女は愛用の“刀”を風車が如く回転させながら、人売り達の中に斬りこんだ。
- 人売りJ『ひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!! ば、化け物だぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
- 人売りK『く、来るなっ!! こっちに来rぎゃああああああああああああああっ!!!!!!』
- 当たるを幸いに道を切り開き、手にする鉄塊が織り成す血と臓物のカーペットの上を進んでいく。
- そのまま、マタヨシの聖印を旗印に掲げた討伐軍と、合流するつもりなのだろう。
- 从ii゚Д从『……えっと……。どうする、オッサン』
- 斥ii'ゝ')『放っておいても問題は無さそうだな。……俺達は南から逃げるとしようぜ』
- か弱い少女を庇ってやっているつもりでいた自分達が、何だかとてつもなく馬鹿らしい存在に思えてきて。
- 給士と執事は、少女に別れも告げず、そのまま戦場を離脱する事にしたのだった。
- 163: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:45:04.21 ID:3Vc1+XSSP
- ※ ※ ※
- パ∀゚フェ『ポルカ・ミゼーリアです』
- (-@∀@)『ポルカ・ミゼーリア。パフェ』
- 四半刻(約30分後)。
- 神官戦士パフェは、討伐軍を率いる将と数年ぶりの再会を果たしていた。
- メンヘル十二神将・第九位。【聖印騎士団】団長、【断罪の聖印】アサピーと言うのが、男の名である。
- 山のように高く岩のように分厚い身体を、銀糸で縁取った黒い神父服に包んでいた。
- 金色の頭髪を短く刈りそろえ、目元には分厚い銀縁眼鏡。渓谷をイメージさせる彫りの深い顔には、柔和な笑みすら浮かんでいる。
- 背中に背負った巨大な聖印が無ければ、戦場に迷い込んだ一介の神父と勘違いされてもおかしくないだろう。
- 死を前にした戦士達の、最後の懺悔を聞いてやるのがお似合いに思えた。
- だが、今。彼の視界の先では目を背けたくなるような虐殺劇が繰り広げられている。
- 膝をついて必死に詫び続ける者も。泣き叫ぶ者も。命乞いをする者も。
- ただの一つも例外無く、彼の引き連れてきた戦士達が殺していった。
- 人売り達の悲鳴と哀願と断末魔の声に、高らかに聖歌の響きが混ざり合う。
- 聖書の中にある“裁きの時”が、具現化したかのような光景だった。
- 人売りL『ゆ、許してください!! お願いします!!』
- 人売りM『ここ、これからは神様を信じて真面目に生きていきます!! だから、いのち、命だけは……っ!!』
- 聖戦士達の包囲網を抜けて、2人の男が走りこんできたのは、ちょうどそんな時である。
- 大地に額を何度も叩きつけながら、助けを乞う。そんな男達の姿を、アサピーは冷ややかに見つめていた。
- (-@∀@)『貴方がたが許しを乞うのは……私に対してでは無いでしょう?』
- 165: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:47:11.48 ID:3Vc1+XSSP
- 低く、擦れた。だが決して不愉快ではない声に、2人の人売りは顔をあげた。
- 温和な笑みを浮かべるアサピーの背後では、彼らが拉致してきた男女が救出され、ここでも身を寄せ合って火にあたっている。
- その瞳には感情が浮かんでおらず、凍てつかんばかりの冷たさで視線を送り続けていた。
- そして、彼らの前では、やはり彼らが売り払おうとしていた少女が、巨大な斬馬刀を手に2人を見下ろしている。
- 人売りL『お、お願いします!! お願いします!! お願いしますぅ!!』
- 人売りM『奴隷にでも何でもなります!! し、しし、死にたくありません!!』
- 喚き散らし、足にすがりつく。
- 血が吹き出し、大地を赤く染めても2人は額を叩きつけ続けた。
- いつしか、その周囲を血に濡れた刃を手に下げた聖戦士達が取り囲んでいる。
- 人売り達は血と涙と鼻水と涎で顔をグシャグシャにし、泥をこびり付かせている。
- 恐怖から筋肉が緩み、膝元は己の垂れ流した尿で濡れていた。
- やがて、冷ややかに2人を見下ろしていた少女が静かに口を開く。
- パー゚フェ『アサピー様。わたしには、彼らを裁く権利も許す権利もありません。
- それが出来るのは、唯一神マタヨシ様のみ。
- ですから、聖書12章37節の言葉を彼らに贈りたいと思います』
- (-@∀@)『成長しましたね、パフェ。私も、それが良いと考えておりました』
- その声に、2人の男はハッと顔を持ち上げた。
- アサピーとパフェ。2人の聖者の顔には優しい笑みが浮かんでいて……
- 人売りL『そ、そんな……』
- 人売りM『あんまりだ……』
- 168: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:49:13.92 ID:3Vc1+XSSP
- 2人の聖者の顔には優しい笑みが浮かんでいて。
- だが、同時にパフェは斬馬刀を。アサピーは背にしていた巨大な聖印を振りかぶっていた。
- (-@∀@)『聖書に曰く。“罪人よ。神が元に行きて許しを願うが良い。ならば、神は汝が全ての罪を洗い清めよう”』
- パ∀゚フェ『“許しを求むる者よ、怖れるなかれ。死は汝の只一つの救いなれば”……邪悪必滅!! 悪即斬っ!!』
- 声と共に、聖者達の腕が振り下ろされた。
- 一人目の男は、聖印に身体を両断される。
- あまりの鋭さに、しばらく身を斬られた事も理解できずにいたが、やがて額の傷口から血が1滴垂れ落ちた数瞬後。
- 血と臓物を撒き散らしながら、左右(!!)に倒れこんだ。
- もう一人の男は、少女が手にしていた鉄塊によって、害虫にでもするかのように叩き潰された。
- 大地と鉄の塊の間に、超強力な破壊力を伴って挟み込まれた身体は、圧力に耐え切れず木っ端微塵に弾け散る。
- 血に濡れた2本の巨大兵器は、戦士達が数人がかりで受け取り、湖で血を洗い流した。
- (-@∀@)『なんと……愚かな事でしょう。人とは罪を犯さねば生きていけぬモノなのでしょうか』
- ボソリと呟く。
- その声を耳にした少女が、笑顔で答えた。
- パ∀゚フェ『でも、彼らは神を信じていませんでした。それに……邪悪です!!』
- 169: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:51:14.53 ID:3Vc1+XSSP
- (-@∀@)『そうですね……。その通りです』
- ニコリと少女に微笑み返し、アサピーは銀縁の眼鏡を顔から外した。
- 丁寧にツルを折りたたみ、神父服の胸ポケットに仕舞いこむ。
- 代わって、黒塗りの遮光眼鏡を顔に装着した。
- (#-●皿●)『忌まわしき無神教者の分際で、神に祝福されし地を踏み歩くとは、おこがましいにも程がある!!
- 神の戦士達よ!! 只の一人も生かして逃がしてはならぬぞ!! 大いなる神の名の下に!!』
- パ∀゚フェ『神の名の下に!! 邪悪必滅!!』
- 邪………
- 邪悪……
- 邪悪必…
- 邪悪必滅
- 邪悪必滅!!
- 邪悪必滅!!!! 邪悪必滅!!!! 邪悪必滅!!!!
- 少女の声に、周囲の戦士達が続いた。
- その掛け声は砦中を伝播し、やがて至る所から『邪悪必滅』の気勢が沸きあがる。
- 討伐隊の士気は更に上がり、逃げる者も、隠れる者も、暴れる者も、全ての罪人が殺されていった。
- 砦の最上部では松の生枝に火をつけた狼煙が狂ったように炊かれ、周囲の砦に援軍を求めている。
- だが、彼らが救われる事は無いだろう。
- 何故なら、彼らはやりすぎたから。
- 周囲とのバランスも考えず、片っ端から“商品”を狩り尽くし、独占しようとしたから。
- その結果、メンヘルと言う動かす必要の無い討伐者を呼び寄せてしまった者達を、助ける義理などありはしない。
- それどころか【無法都市】に住まう者達は、彼らの“商売敵”が滅びていくさまを。
- 冷ややかな笑みを浮かべて眺めていたのである。
- 171: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:53:34.66 ID:3Vc1+XSSP
- ※ ※ ※
- 从 ゚∀从『何とか、抜け出せたな』
- 斥 'ゝ')『あぁ。あと、オッサンって言うんじゃねぇ』
- 从;-∀从『……まだ言ってねぇよ』
- 南からグサノ・ロホを脱出した給士と執事は、小高い岩の上に腰かけて燃え崩れていく砦を眺めていた。
- アーリー湖上では、西へ帰還する小船が隊を為していて、静かに進んでいく。
- きっとあの中の一つに、共に戦ったマタヨシの神官戦士パフェも乗っているのだろう。出来れば、もう一度会いたいと思う。
- 斥 'ゝ')『……ただし、戦場以外で、な』
- 从ii-∀从『全くだ』
- いつしか空は金銀を散りばめた常闇の色から、濃紺色に変わりつつある。
- あれほどまでにまばやいていた星々も、その存在感を弱め、世界が生まれ変わる瞬間が訪れようとしているのだ。
- 从 ゚∀从『で、オッサンはこれからどーするんだ? ぶっちゃけ、敵に回したくねぇんだけど』
- 何気なく口を漏れ出た言葉だった。
- が、少しの時間だけ考え込むような仕草を見せてから、執事は首を横に振る。
- 斥 'ゝ')『……そうだな。だが、俺にはやらねばならぬ事がある』
- 从 ゚∀从『あ?』
- 斥 'ゝ')『俺はこれからシーブリーズに向かおうと思っている。
- 我が主と海の民の妹者は既知の仲。必ずや力になってくれる筈だ』
- 174: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:56:33.67 ID:3Vc1+XSSP
- 从 -∀从『……シーブリーズねぇ』
- 給士は、スッと目を細めた。
- 跳ね上がるようにして立ち上がり、数歩距離を空ける。
- 執事もまた、同じように腰を上げた。
- 从 ゚∀从『海の民と親密な繋がりを持つ主に仕える執事、か。しかも、あの腕前。オッサン、何者だ?』
- 斥 'ゝ')『その台詞は牢の中でも聞いたぞ、ちびっこ。
- 俺の方こそ、瞬歩法や飛刀術を使いこなす給士など聞いた事が……』
- ハインは踵を僅かに浮かし、いつでも飛びかかれる体勢を。
- アインハウゼは腰をグッと落とし、迎撃の構えを取った。
- 給士の両の手には4本ずつの飛刀が握られ、執事は腰から蛮刀を鞘抜いている。
- 从 ゚∀从『……』
- 斥 'ゝ')『……』
- しばし、睨み合う。
- 互いの全体像を隙なく観察し、かすかな行動の前兆も見逃さない。
- そんな視線だ。
- 尚且つ、脳裏では相手の正体を見極めんと頭脳がフル活動している。
- そして、2人の間に張り巡らされた緊張の糸が限界まで張り詰めた時─────。
- 从*゚∀从=3『プッ』
- 斥*'ゝ')=3『ハッ』
- 2人の隠密は、あらかじめ示し合わせていたかのように、笑い出した。
- 176: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:58:07.55 ID:3Vc1+XSSP
- 从*゚∀从『は……は……ははっ!! 何やってんだ、ハインちゃんは。自分が馬鹿みたいじゃねーか』
- 斥*'ゝ')『いや、全く同感だ!! 一応、主を救い出した後、手を貸してもらえそうな者達の事は
- 頭に入れておいたつもりだったのだがな!!
- 俺も相当、気が参っていたようだ!! 反省せねばな!!』
- 再びペタンと腰を下ろした時、給士の手の中から飛刀は消えていた。
- 執事も蛮刀を腰に戻し、ハインの真横に歩を進めると、どしりと座り込む。
- 何と言う事もない。
- 給士の正体。執事の正体。それは、互いに口に出した言葉の中に答えが全て散りばめられていたのだ。
- 从*゚∀从『って事は……なるほどな。考えてみれば、国教会の関係者ならつかまってるはずがねーよな!!
- ハインちゃん達はお互いに警戒しなくていい相手に、喧嘩売りあってたって事か!!』
- 斥*'ゝ')『そのようだ!! だが、まさか、このようなところで会えるとは思っていなかったぞ!!
- と、言う事はお前は、あれか? 聖杯か!?』
- 从*゚∀从『大正解だ!! じゃあ、こんな話は知ってるか!? ヴィップは神聖国教会に対して強制的にでも島を出てもらうつもりなんだぜ!!』
- 斥*'ゝ')『言うな!! ならば、我らは友好国では無いか!! やはり、暗い場所はいかんな!! 考えも暗くなる!!』
- 興奮冷めやらぬといった風に、2人は言葉を連続して吐き続ける。
- なんとも馬鹿馬鹿しい話だった。
- となれば、あの殺伐とした出会いはやむない物としても、互いを警戒し、罵りあった道中は全くの無意味だった事になる。
- しかも、もう少し深く考えを張り巡らせれば、答えは一つに絞り込まれる問題だったのだ。
- 澱んだ空気の冒険と、血臭ただよう戦場。
- そこを抜け出た空の下では、どんなに笑っても笑い足りないような気がした。
- やがて、年の功か。
- 先に笑いを収めた執事が、スッと右手を差し伸ばしてくる。
- 177: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 04:59:03.90 ID:3Vc1+XSSP
- 斥 'ゝ')『改めて自己紹介させてもらおう。レモナ=マスカレイドの影、アインハウゼ=クーゲルシュライバーだ。
- 特技は見ての通り……神聖国教会の陰謀を叩き潰し、主を救い出すため、戦っている』
- 从 ゚∀从『【金獅子王】ツン=デレが臣、【天智星】ショボンに仕える者。【天翔ける給士】ハインちゃんだ。
- 特技は……瞬歩法と飛刀術だな。主の命を受け、聖杯の行方を探っている。あんたの主の妹は元気でやってるよ』
- 言って、2人は固く手を握り合った。
- 彼らの真なる出会いを祝福するかのように、東の彼方。地平線が黄金色に輝き始める。
- 暗き夜は終わり、朝がやってきたのだ。
- 从ii-∀从『でもよ、もしかして、お互い一番警戒しなきゃならなかったのは、
- 確実にマタヨシ教団と繋がってた……あのお嬢ちゃんだったんじゃねぇか?』
- 斥 'ゝ')『言うんじゃねぇよ。まさか、あれが軍隊と繋がりがあるなんて、想像できねぇさ。
- で、お前はどうするんだ、ちびっこ。聖杯の探索……俺も協力できると思うが?』
- 从 ゚∀从『そうしてくれれば助かるな。ハインちゃんもオッサンに手を貸せると思うぜ』
- なじる言葉に、悪意は全く感じ取れない。
- じゃれあうような物だからである。
- ハインにとって、執事の悲願成就は、マタヨシ教団内部に精通した協力者を得る事に直結する。
- アインハウゼにとって、給士の目的達成は、この島に法王庁の確固たる足場を築きあげ、レモナの安全を保護する事に繋がる。
- 互いの正体を知った今、手を組まない理由は何処にも無い。
- 主の命を完遂し、聖杯を手中に収める為。
- 絶対的不利の状況下、抵抗を続ける主を救う為。
- 給士と執事は歩き出した。
- 目指すは遥か南。シーブリーズである。
- 178: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:00:39.97 ID:3Vc1+XSSP
- ※ ※ ※
- 【獅子の都】ヴィップ城・宮殿2階。
- 東に面したテラスに続く小部屋では、黄金の獅子を支える武官文官達が顔を揃え、
- ある者は雑談に勤しみ、ある者は落ち着き無く周りを見渡してり、ウロウロと歩き回ったりしている。
- 【天使の塵】フッサールが亡命を求め、評議長ニダーの訪問を受けた、あの生誕祭から10日以上が過ぎていた。
- 荘々たる顔ぶれといって良いだろう。
- 中書令ショボンの姿こそ見えぬが、尚書令フィレンクト。司書令ジョルジュ。軍務令クー。太府令レーゼの五大令。
- 歩兵部隊筆頭ギコ。歩兵部隊筆頭補佐ヒート。流石兄弟。ハルトシュラー。
- 【白衣白面】隊長ブーン。【天馬騎士団】団長リーゼ。【黄天弓兵団】団長シィ。
- ようやく傷の癒えた、砂漠の老将フッサール。【光明の巫女】シュー。法王の娘アリス=マスカレイド……。
- 官職にこそついていないが、白面副長【鉄牛】プギャーの姿もある。
- 流石に全ての幹部が集まるわけにはいかぬから、自由騎士出身のダディとフンボルトは席を外していたし
- 王の付き人も兼ねている【花飾り】のミセリや、当然ハインの姿も無い。
- だが、ヴィップの中枢を担う者達が一同に集っていると言っても、決して過言ではあるまい。
- (メ´・ω・)『やぁ、みんなお待たせ。もしかして、僕が最後かな?』
- 言いながら、朱塗りの扉を潜って来たのは、白眉の戦略家。【天智星】ショボンである。
- その彼に、規律や時間にうるさい、隻腕の老人が噛みついた。
- (‘_L’) 『随分と遅いではないですか、天智星。今日がどのような日か分かっておいででしょう? そもそも、その顔の傷は……』
- (メ´・ω・)『うん、済まない。ちょっと外せない用事があってね』
- 尚も小言を続けようとするフィレンクトを制して言う。
- (メ´・ω・)『ハインから鳩が届いた』
- 180: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:02:38.36 ID:3Vc1+XSSP
- (;^ω^)『ハインから!?』
- さりげなく告げた言葉に、諸将が色めき立った。
- 鳩を使った伝達手段は、郵便制度が確立されていなかったこの時代、多用されていた手段の一つだ。
- かつてショボンも、身を隠し活動していた【白衣白面】を動かすのに、鳩文を使っている。
- ( ´_ゝ`)『で、ハインリッヒは何と言ってきたのだ?』
- (メ´・ω・)『あぁ。なんでも、法王庁の隠密・アインハウゼと言う男と合流したらしい。
- 今は、シーブリーズにいて……ヴィップが国教会に対して兵を挙げる場合、
- 海の民も時を同じくして挙兵する。確約を得たそうだよ』
- ル∀゚*パ⌒『アインハウゼと!? それなら怖いもん無しだにゃ!!』
- 大道芸人風の衣装に身を包んだ少女が、意を得たりとばかりに指を鳴らす。
- この場にいる者達の中で、唯一姉に仕える隠密の優秀さを知っているのは彼女だったから、当然だろう。
- jハ*゚ー゚ル『で、それを陛下にお伝えしなくてもよろしいのかしら?』
- (メ´・ω・)『言ったよ。ところが偶然、着替えの最中に扉を開けてしまってね。話がこじれてしまったのさ』
- (,,^Д^)『なにやってんすかwwww』
- lw´‐ _‐ノv 『ひくわー』
- なにはともあれ、これでようやく役者が揃ったと言える。
- 法王庁の隠密の話など、しばらく雑談に興じていると、空気を震わせて銅鑼が一回。鳴らされたの聞こえた。
- 黄金の王が姿を見せる、その合図である。
- 表情を切り替え、軽く頷きあうと彼らは、眼下に城民を湛えるテラスに向かって歩き始めた。
- 182: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:04:11.83 ID:3Vc1+XSSP
- ξ゚听)ξ『【天使の塵】フッサール。【金獅子王】ツン=デレの名において、貴方がたの亡命を正式に受け入れます。
- また、軍務官鎮国士・千騎将に任命します。その十字槍を、今後は我が民の為に振るいなさい』
- ミ,,-Д-彡『マタヨシが司祭フッサール、任をお受けいたします』
- ξ゚听)ξ『【光明の巫女】シュー。軍務官南征士・千歩将を任じます。
- マスカレイド家王女アリス。貴女には【金槍手】リーゼを護衛につけます。この島の未来が為、共に任に当たってください』
- lw´‐ _‐ノv 『三度の食事の恩には命を懸けてもお答えする所存…………かも』
- ル∀-*パ⌒『法王トマスが娘、アリス。父と母と神の名において、我が友ツン=デレに従うにゃ』
- フッサールとシューに、軍務省属を表す金色の小刀が。
- アリスには、彼女の纏っている服と同じ、朱塗りの皮鎧が与えられた。
- 本来であれば、この新たな将官の誕生を、人々は賛辞の言葉を叫び、酒を浴びせあって祝福しただろう。
- が、この時ツンの眼下を埋める、民の中から響く拍手の音は疎らだった。
- 決して、3人を歓迎していないのではない。
- アリスやシューは既に市に溶け込んでいるし、フッサールは兵士達に賞賛をもって受け入れられている。
- ヴィップと言う国は元々、リーマン族・ニイト族・自由騎士などによる混成国家であるから、亡命の将を敵視する土台が小さいのだ。
- が、それと同時に彼らはクーやレーゼの築きあげた、経済と流通によって国土を豊かにしてきた者達である。
- 他地区の住民と比べて、情勢に敏感な面もある。
- 地位を失くし亡命してきた3人。そして、老将と巫女に与えられた鎮国士、南征士の官職。
- その全てが、渡りの商人達がまことしやかに囁く噂話の真偽を、証明していた。
- フッサールらが自身の背後に立ち並ぶ、文官武官の列に加わったのを確認してから。
- ツンは、眼下を埋め尽くす民に答える様、口を開く。
- ξ゚听)ξ『アルキュ暦495年・金竜の月、20日。アルキュ王ツン=デレが、この島の全ての民に告げます』
- 184: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:06:57.71 ID:3Vc1+XSSP
- 城民『……っ!!』
- 一瞬。
- 一瞬であったが、確かに押し殺しきれなかったざわめきが起こった。
- アルキュ王と言う呼称を使っても、ツンが聖詔を告げるのは、常に『我が民』に対してだった。
- 『アルキュ島全ての民』に向けて詔を告げた事はない。
- ただ、それだけの言葉であったが、ツンの言葉を一字一句聞き漏らす事の無いよう見守っていた彼らは、緊張を新たに王の言葉を待つ。
- ツンもまた、ざわめきが完全に収まるのを待ってから、言葉を続けた。
- ξ゚听)ξ『……皆も、聞き及んでいるでしょう。今、この島は火急存亡の危機にあります。
- 神聖ピンク帝国・神聖国教会。神の使徒を名乗る者達が、古よりの条約を一方的に破棄して、侵略して来ているのです。
- その数、およそ十万。私は、強く遺憾の意を表明します。
- 我らは自由と独立の民。彼らの横暴を、許すわけにはいきません。
- 私はこの島の王として、彼らに早急な退去を勧告する。……これは、最初で最後の警告です』
- そこで、ツンは敢えて声を止めた。
- それが合図であったかのように、背後に控えていたミセリが前に出る。
- 大事そうに胸に抱えていた“それ”を、恭しくツンに差し出した。
- それを。アルキュ島支配の象徴・禁鞭を掴み取ったツンは、太陽を突き刺さんばかりに高く掲げ、雄々しく吼える。
- ξ゚听)ξ『もし、我が意に従わぬ場合っ!!
- 我、アルキュ王ツン=デレは金竜の月が終わりを以って、宣戦布告とみなします!!
- 今、再び告げる!! アルキュの全ての民よ!! 自由と独立の民よ!!
- 我が、大号令に従いたまえ!! 愚暴なる侵略者達の喉笛に、我らが怒りの牙を突き立てよ!!!!!!!』
- 舞い起こった風が黒絹の戦外套を捲り上がらせ、黄金の甲冑が陽光に煌いた。
- 王に続き、背後に居並ぶ戦士達も、腰の宝剣を鞘抜き、天に掲げる。
- 民もまた、彼らに倣うかのように、大歓声をあげながら拳を空に突き上げた。
- この日この時。【金獅子王】ツン=デレは、南からの侵略者に対して初めて公式な拒絶の念を、叩きつけたのである。
- 186: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:09:04.45 ID:3Vc1+XSSP
- ※ ※ ※
- 金獅子王の大号令は、瞬く間にアルキュ全土を駆け巡った。
- デメララ、バーボン、ローハイドを支配するリーマン族。【評議長】ニダーは、勿論。
- 給士ハインと執事アインハウゼを受け入れたシーブリーズの海の民。
- モテナイの【黒犬王】ダイオードもまた、参戦を表明した。
- そして、金竜の月が終わる。
- 雷竜の月・1日。
- 国教会側からの返答は無く、ヴィップはモスコーに向けて兵を派遣した。
- 第1軍は、【急先鋒】ジョルジュを総将兼騎兵部隊長に。騎兵部隊副長【天使の塵】フッサール。
- 軍師【天智星】ショボン。副軍師【光明の巫女】シュー。
- 歩兵部隊長【九紋竜】ギコ。歩兵部隊副長【赤髪鬼】ヒート。輜重部隊長【花飾り】ミセリ。
- 騎兵5000。歩兵10000。
- マティーニ城から南下し、【大神殿】シルヴァラードを陥落させた後、前線基地として確保。ストロワヤを目指す。
- 第2軍は、【王家の猟犬】ニイト=ホライゾンを総将に。
- 軍師【無限陣】ニイト=クール。軍師補佐アリス=マスカレイド。
- 騎兵部隊長【金槍手】リーゼ。
- 歩兵部隊長【金剛阿】兄者。歩兵部隊副長【金剛吽】弟者。輜重部隊長【神算子】レーゼ。
- 騎兵3000。歩兵7000。
- バーボン城を基地として、西に向かう。
- モスコー内に残る小乗派の将兵を吸収しつつ、スピリタスを目指す。
- ギブソンに【第六天魔王】ダディ。マティーニ城に【白鷲】フィレンクト。カンパリに【不自由な自由騎士】フンボルト。
- ニイトに【祝福の鐘】ハルトシュラー。【獅子の都】ヴィップには【金獅子王】ツン=デレと【紅飛燕】シィが残った。
- 187: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 05:11:59.46 ID:3Vc1+XSSP
- 【翼持つ蛇】ニダーは【一丈青】ワタナベと共にデメララ河を下り、【湖塞都市】アーリーを前線基地に双子砦を狙う。
- 兵力は騎兵7000。歩兵23000。
- 【常勝将】シャキンはローハイド草原を西に進み、平地帯からモスコーを目指す。
- 戦車隊2000。騎兵2000。歩兵6000。
- オルメカからは【国士無双】ロマネスクが。クエルボからは【天目将】ワカッテマスがそれぞれ5000の兵を率い、進軍する。
- 国土には25000の兵を残し、【全知全能】スカルチノフや【鉄壁】ヒッキーを中心に若い千将が活躍の時を待っている。
- モテナイは【黒犬王】ダイオードが病の床にあるとして大幅な派兵を見送ったが、武具糧秣などの後方支援と
- 騎兵2000、歩兵3000の派兵を約束した。
- 海の民は既に、スミノフに向かう国教会の船と海上で交戦を開始している。
- 貿易権。
- 聖杯。
- 侵略者の撃退。
- 南の大国における、政治闘争。
- レモナ=マスカレイドの救出。
- それぞれの思惑は交錯し、戦況は混迷を深めている。
- 人々は夜空を見上げ、一日も早い終戦を。一人でも多くの兵士の帰還を星に願った。
- そして、彼らの誰もが知らなかった事実が最後に一つ。
- この時、既に。
- スピリタス城西の山頂で抵抗を続けていた陣は陥落し。
- 【不敗の魔術師】ツーは虜囚の辱めを受けていたのである。
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