( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

135: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:28:32.66 ID:M9rbxiAPP
( ´_ゝ`)『そう言えば……海の民では“手”が“友”だから“抜く”のだと言われていたな』

爪ii- -)『食事中に止めてくれないかしら……最悪』

一際真面目そうな顔で答える兄者の隣で、麦粥をチビチビと啜っていたレーゼが、手にしていた匙を卓に放り投げた。
ちなみに、彼女の皿にだけ肉が入っていないのは、出兵支度にまつわるゴタゴタで徹夜が続いた彼女が、
『夜に肉を食べると肌が荒れる』と主張した為だ。
レーゼの皿に浮かぶはずだった肉は、そう言った敏感さとはまるで無縁な彼女の妹の胃袋に、既に納まっている。

爪*゚∀゚)『やは? もう食べないんですかネ?』

爪ii- -)『……食欲なくなっちゃった。食べていいわよ』

爪>∀<)『やりぃっ!! ちゃんと食べないからレーゼはおっぱい失敗ちっぱい惨敗になるんですヨ!!』

キッと睨み、皿を取り返そうとするが、もう遅い。その時にはリーゼは皿を抱え込むようにして、粥を口に流しこんでいる。
長旅の必需品とは言え、乾し肉は高級品だ。
下級兵卒には10日に一度。長職にある者に対しても、特別な事が無い限り、5日に一度てのひら大の物が支給されるに過ぎない。
そのような環境下であるから、肉の味が染み出した粥を一度でも手放したレーゼにリーゼを責める権利などない。
尤も、自分では隠しているつもりのコンプレックスをいじられて、怒りを覚えた経済の専門家を非難する権利も誰にも無いのだけれど。

( ^ω^)『そう言えば……僕も疑問に思っていた事が一つあったんだお』

爪#- -)『……何かしら? もし、くだらない事だったら……削ぎ落とすわよ?』

(;^ω^)『おぉっ!?』

こめかみに浮かんだ青筋を小刻みに痙攣させるレーゼを見て、青年は思わず息を飲む。
が、彼の疑問は彼女の言う“くだらない事”に区分される物ではない筈だから、
少しだけ戸惑いの表情を浮かべた後、言葉を続けた。



138: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:32:16.59 ID:M9rbxiAPP
(;^ω^)『ど、どうして、アイラじゃなくてカリラを経由するんだお?』

爪゚ー゚)『ちょっと表出r……え? あぁ、その事でしたか』

一瞬、腰の刀に手を当てて立ち上がりかけたレーゼであったが、青年の言葉を脳が理解すると表情をパァと輝かせた。
余程、己の味方が現われた事が嬉しかったのだろう。

さて。彼らは、旧ヴィップ・旧ニイト・モテナイ王国、3つの領境となる地点に宿泊している。
ここから南下してカリラに入り、そこからバーボン城に向かう訳だが、そうなると幾つか問題が出てくるのだ。
まず、ネグローニ山地付近は勾配があり、大軍の移動には適さない事。
そして、カリラからバーボンに進むには大地の裂け目を時計回りに迂回せねばならず、
兵馬の疲労や移動日数を考えれば最適のルートとは言えぬ事である。

ならば、ヴィップ領内から直接南下してバーボン領に入り、アイラを経由してバーボン城に入った方が日数的に早い。
ギムレット南部山地を通過せねばならないが、それでも大幅な時間短縮である。
実際、ツンやブーンがギムレット台地に入る際も、後者のルートを使用しているのだ。

ル∀゚*パ⌒『確かに……地図を見る限り、遠回りとしか思えないにゃ。何か意味があるのかにゃ?』

既に食事を終え、両手で温めた酒を注いだ碗を包むように持っていたアリスが、青年に続いた。
マタヨシ教の信者は肉と言えば羊を好んで食し、豚は穢れていると言って嫌うのだが、
彼女の場合はそれは当てはまらない。豚でも牛でも構わず口に入れる。
“郷に入れば郷に従え”と言うわけではなく、マタヨシの信者にも色々いるという事だろう。

川 ゚ -゚)『人に会いに行くのだ』

(;^ω^)『人? 誰だお?』

その言葉にクーは答えない。
『楽しみにしていろ』とだけ言って、唇を軽く持ち上げた。



139: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:33:49.42 ID:M9rbxiAPP
翌朝。陣を畳んだ南征第二軍は、領境を南下。
カリラに向けて出立した。

山岳地帯でなく、台地の裂け目に沿って整備された街道を通っているのだが、それでも勾配のある道は疲労を蓄積させる。
中部特有の朝靄が火照った体に纏わりつき、誘い出されるように汗が噴き出してくる。
とは言え、山岳地帯を越えるまでは南風の影響も殆ど無い為、
多くの兵士が綿入れを着込んだまま、汗をひた流すと言う状態に陥っていた。

( ^ω^)『全軍停止するお!! このあたりで四半刻(約30分)休憩するお!!』

1刻(約2時間)進むごとに、山陰や風の心地よい場所を選んで、兵を休ませる。
故に進軍は遅々とした物となったが、気にはならなかった。
士気さえ低下していなければ、山岳地帯を抜けてから遅れは取り戻せるであろうし、
兵奴としての経験から、どの程度までの無理であれば兵が受け入れるかは十分に分かっている。

( ^ω^)『濡れた綿入れは着たままでいちゃ駄目だお。今のうち、しっかり汗を拭いて着替えておくんだお』

兵を休ませている間も、ブーンは馬を駆けらせ、兵を見て回った。
特に長期遠征の経験が無い兵達が体調を崩さぬよう、長職にある者達に指示を与える。
差し迫った問題と言えば、まずは水だ。
北部を抜けると、徐々に水質は柔らかくなってくる。
いきなり硬い水を飲んだ時ほどではないだろうが、慣れぬ水を飲んだギムレット出身の兵達が腹を壊さないかが心配だった。

(,,^Д^)『勝手に水を飲めない行軍中は、こいつを口の中で転がしておくと良いッスよwwww唾液が溢れて来るッスwwww』

ここでも、プギャーはブーンに従って若い兵に声をかけて回っていた。
平時には小物屋を営んでいる男の話を、兵達は真剣に聞き入っている。
この時、プギャーが配っているのは、ヴィップ出立前に集めた、川底の小石だ。
すっかり角の取れた小石は口内を傷つける事も無く、口の中を潤してくれる。
これもまた、些細な事ではあるが数多くの戦場を渡り歩いてきた者だけが持つ知恵だった。



141: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:36:23.57 ID:M9rbxiAPP
やがて、この日最も困難になるであろう登り坂を越え、カリラ城の遠影が姿を現した。
カリラからバーボンまでの距離は長く、この日はカリラ城外に陣をひく予定となっている。
急な下り坂は上りよりも体力を消費するが、それでも目的地が視認出来るのと出来ないのでは士気は大きく変わってくる。
坂上で足を休ませていた兵の顔にも、微かな微笑みが戻ってきていた。

(´<_` )『うむ。先の休憩で全兵に綿入れを脱がせておいたのは正解だったな』

空を見上げていた弟者が誰に言うでもなく呟く。
平坦に塗りたくったような青空に浮かぶ太陽は燦々と地上を照らし、彼らを悩ませた朝靄など影も見当たらない。
中天に輝く光球は僅かに西に傾きつつあり、あと二刻もすれば強く引き寄せられるように沈んでいくのだろう。

( ´_ゝ`)『だが、この程度で悲鳴をあげられては敵わんぞ。モスコーの蒸し暑さはこの比では無いからな』

爪;゚ー゚)『嫌になっちゃうわね。でも、雨に降られないのは運が良かったわ』

爪;゚∀゚)『やは〜。もし、リーゼが干物になったらおっぱいがレーゼと同じになっちゃいますよ』

爪#゚ー゚)『それは……どういう意味かしら?』

珍しく衣服を着崩し、首元からパタパタと風を送り込みながら、レーゼが妹を睨みつけた。
そのリーゼと言えば、戦外套を脱いでいるだけでなく、服の袖は肩までまくりあげ、
脚袢などは足の付け根の辺りから、ばっさりと切り落としてしまっている。

北の生まれ・北の育ちと言えば、彼女らがその代表例だ。
2年前までは北部どころかニイト領から足を出した事も無く、寒さには強いが暑さには滅法弱い。
対照となるのが、アルキュ全土を旅して回っていた流石兄弟や、南の大陸出身のアリス=マスカレイドであろう。

金竜の月後半から雷竜の月前半は、一般的にアルキュでは雨季にあたる。
ヴィップ城出立の数日前にも、この島は熱気を洗い流すような豪雨に襲われ、南征に向かう者達を心配させた。
しかし、いずれは雨天での戦いも覚悟せねばならぬだろう。



143: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:37:26.87 ID:M9rbxiAPP
( ^ω^)『どうやら……問題なく日没までにカリラに到着しそうだお』

将兵達の声を耳に、カリラ城の遠影を眺めていた青年が、ホッとした様に漏らした。
出立を前に地図を渡されてはいるが、丸めたままで開こうともしていない。
どのみち、地図上からカリラまでの距離を判断する技術など持っていないのだから、
中途半端に頼るよりも己の勘と経験を信じぬいた方が良い。
そう考えての事だった。

川 ゚ -゚)『……ホライゾンよ。地図も見ないで判断するとは、少し早計では無いか?』

( ^ω^)『おっおっ。問題ないお。みんなの声を聞いていれば、あとどれくらい進軍速度を上げられるか。
       十分に分かるもんだお。雨の匂いもしないし……街道が塞がれてでもない限り2刻半(約5時間)で到着する筈だお』

笑いかける愛弟を前にして、それでもクーは訝しげな顔を崩せない。
ある物事を判断する時、黒髪の戦術家が拠り所とするのは、徹底してその知識である。
例えばこのような場合であれば、地図を睨み、それまでの兵の行動や雲の動きなどから、進軍速度をはじき出す。
彼女を支えてきた物は、その卓越した智であり、その意味では弟と正反対であるのだ。

とは言え、彼女が兵の姿を鑑みないと言うわけではなく。
ただ、単にそれが己の中の分析力に頼るところが大きいと言う話である。
壮絶な過去を背負ってはいるが、【天智星】ショボン同様にやはり彼女も支配者階級の出身。
最下級層である兵奴としての生活を送っていた銀髪の青年のように、周囲の兵の気持ちを計り知る事など出来ないし、
“雨の匂い”などと言う不確かな物から天候を読む事など出来はしない。

この進軍の途中でも、彼女一人が膝の上に焼き菓子を積み上げていたり、すれ違った商人から蜜柑を買ったりしているが、
それでも兵の反感を買わないのは、その行動に悪気がない事を皆が知っているから。
机上の知識からとは言え、兵を労わる事を彼女が疎かにしないからである。
多少の欠点や悪癖を持ってはいてもある分野で優秀な指導者がこそ、国を導いていけるのは古今において変わりがなく。
欠点や悪癖だけしか持たぬ無能者が支柱となった時、国は崩壊の一路を辿る。
諸兄らの中にも心当たりのある者は多いのでは無いだろうか?



145: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:40:05.21 ID:M9rbxiAPP
( ^ω^)『それじゃ、進軍開始するお。次の休憩は山岳部を抜けてからだお』

青年のどこか気の抜けた号令と共に、進軍が再開された。
彼らの目指すカリラ城は、通称【炎の街】と呼ばれる都市である。
大地の裂け目に近い為か地下水に恵まれ、北のラウンジから分け与えられた鉄の大半がこの街に集まる。
そして、鍋や鎌などの日用品。もしくは刀剣・甲冑などに加工されるのだ。

アイラ、ネグローニ、バーボン、オルメカ、デメララと言ったリーマン族勢力下にある主要都市の中心に位置し、
その戦略的重要性を知るヒロユキは、この街の奪還後に大号令を発している。
また、余談ではあるがカリラは【急先鋒】ジョルジュの生誕地であり、
革命の終結を待たずして戦死した彼の亡骸は【炎の街】付近の乳頭山に手厚く弔われた。
後に彼がその功績から『男子健康』『安産』の神として祀られるようになると、多くの人々がかの地を訪れるようになる。
産業革命によって、貿易の中継点としての価値をアルキュが失うと共に、カリラもまた鍛冶の街としての役目を終えるのだが、
偉大なる死神の大鎌の振るい手は、今もなお生誕の神として己の郷里を守り続けているのだ。

やがて彼らは山岳部を抜けきり、平坦な道に入る。
目的地となるカリラはもう目と鼻の先であり、足を重くしていた兵達も最後の元気を取り戻した。
それを見た将官達も、一日の肩の荷を降ろせるのも近いと、表情をほころばせる。
だが、それもまたすぐに緊張で硬く引き締められる事となった。

(;,^Д^)『ちょwwwwあれってwwwww』

川 ゚ー゚)『驚いたか? だが、言っただろう? 人と会う予定があると』

【炎の街】の北門を背に、3人の騎士が彼らの到着を待っていたのである。




/ ゚、。 /『…遅かったな。そろそろ帰ろうかと思っていたぞ』



150: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:43:27.34 ID:M9rbxiAPP
/ ゚、。 /『…戦装ゆえ、面倒な礼は省略させてもらうぞ。文句はあるまい、無限陣』

川 ゚ -゚)『あぁ。その方がこちらもありがたい。だが、本当に貴様自身が来るとは思わなかったぞ。
     病に倒れたと聞いていたのだがな……随分と元気そうではないか』

/ ゚、。 /『…そうでもない。今にも倒れてしまいそうさ』

クーの刺すような皮肉などまるで意に介さず受け流す。
漆黒の巨馬に跨り、甲冑は闇の色。夜を切り取ったかのような戦外套をまとい、深く被ったフードに白塗りの仮面。
それが、銀髪の青年が初めて目にするモテナイ王ダイオードのいでたちであった。

背後に控える小柄な騎士もまた、主と似た格好だが、彼の外套には風に散る桜の花弁が刺繍されている。
化粧をすれば少女と間違えられる事も多いであろう、幼い顔の右頬に2本の刀傷。
ダイオードの身体を労わるかのように、黒塗りの大傘を手に影を作っていた。

残る1人は茶色い髪を三つ編みにし、手巾を巻いた少女である。
将官職にある者としては珍しく外套は身に纏わず、身につけているのは太腿まで顕わな短い衣と、簡素な胸当てのみ。
腰には明らかに安物と分かる鞘に包まれた短剣と、皮製の矢筒を吊っている。
左腕に弦を張った長弓を下げる姿は、戦士と言うよりも村の狩人と言った風体であり、
乗馬に慣れていないのか落ち着きのない騎馬を宥めるのに四苦八苦していた。

(;^ω^)『人を待たせてるって……モテナイ王だったのかお』

川 ゚ -゚)『あぁ。目的を同じくするとは言え、アルキュの正統なる王に仕える我らが
     堂々と接触を持つのも躊躇われる相手なのでな。公言は避けねばならなかった』

言って、クーはわざとらしい咳を一つした。

川 ゚ -゚)『まずは紹介しておくぞ、ダイオード。この者の名は、ニイト=ホライゾン。
     ニイト公モララーと王妹ペニサスが一子。そして、最後のニイト王だ』



152: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:45:04.24 ID:M9rbxiAPP
(;,^Д^)。oO(ちょwwwwあの2人、知り合いなんすかwwww)

( ´_ゝ`)。oO(む? まぁ……当然と言えば当然なのだがな)

小指で耳をほじりながら、隠密はプギャーの囁くような問いに答えた。
レーゼにジロリと一瞥され、惜しそうに耳垢をふぅと吹き飛ばす。

大規模ではないにしろ、クーが王位にあった頃のニイトとネグローニは通商上の繋がりを持っていた。
経済都市として生まれ変わったニイトに商人達が出向くには、どうしてもギムレット台地かネグローニ山地周辺を経由せねばならない。
が、当時のギムレットにおいては【金獅子王】ツン=デレも地方の一勢力に過ぎず。
また、クーの個人的感情から、ヴィップ領内のみ闇市は開かれていなかった。
ネグローニもまた、かつての経済破綻状態からの復興を果たしておらず、ダイオードは安定した供給を求めて。
クーは通商ルートの保護を求めて、手を取り合っていたのである。

そして時は流れニイトはヴィップと和睦し、連合化を果たす。
しかし、ヴィップはモテナイという国家とダイオードの即位宣言を受け入れていない。
アルキュ島の王は彼らの主【金獅子王】ツン=デレ1人と言うのが彼らの認識だからだ。

故に、ヴィップとモテナイは国交上の繋がりを持った事はなかった。
ヴィップからすればモテナイとは唯一無二の存在である筈の王を名乗る逆臣であったし、
モテナイからすればヒロユキの血を引くツンは、かつて同胞を滅亡寸前まで追い込んだ仇の子である。

尤も、モテナイ族が滅びかけたのは【全知全能】スカルチノフによるリーマン族との離間の計による所が大きく、
当時のモテナイの戦士達を殺しつくしたのはリーマン族であったのだが、
ヒロユキはそのリーマン族と和睦し、支援を受ける形で王位についている。

つまるところ、モテナイの者がツンに向けている感情は見当違いな八つ当たりに等しいのだが、
どれほど神聖国教会の存在が驚異であるとは言え、金獅子王の大号令に従う事はモテナイの者にとって耐え難い屈辱であろう。
それ故、過去に結びつきのあったクーとダイオードの個人的な会合と言う形で、両者の再会は行なわれたのだ。



153: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:47:50.71 ID:M9rbxiAPP
/ ゚、。 /『ニイト王……お前がモララーの子だと言うのか……?』

川 ゚ -゚)『あぁ、そうだ。12年もの間行方が知れなくなっていたが、2年前に無事帰還した……我が弟だ』

そして、銀髪の青年、ニイト=ホライゾンがニイト王の座に就いていたのも、まぎれもない歴史上の事実だ。
両国が合併する際、クーはヴィップの1領地となるニイト人民の心中を考慮して、まず実弟である彼に王位を禅譲している。
“獅子の友”“白面を継ぐ者”“大英雄が残し形見”と両国で人気の高いブーンを緩衝材とする事で、
一つになる両国内に不要な諍いが起こらぬようにしたのだ。
ただの一日。王位を譲る為だけの任を持った王とは言え、それでも彼が最後のニイト王であった事に変わりはない。

( ^ω^)『……』

だが、そんな自身の境遇の事よりも、青年の意識は別の方向に向けられていた。
【狂戦士】と呼ばれていたとは思えぬほど細く、比較的小柄な体つきをした仮面の王。
骨の浮いていない手首を見れば、その体格が病によって痩せ細ったもので無い事は察しがつく。
そして、仮面の奥に輝く瞳は、確かに自身に向けて輝きを放っていた。

/ ゚、。 /『…ニイト……ホライゾン。そうか、お前がそうだったのか……』

(;^ω^)『お?』

/ ゚、。 /『…話には聞いていた。無限陣とクs……金獅子王の仲を取り持った者がいるとな。
     そいつは風よりも早く走り、かの聖剣【勝利の剣】を振るうと言う。
     ニイト=ホライゾン……その名前だけでは分からなかったよ』

(;^ω^)『あの……言ってる意味が分かりませんお』

/ ゚、。 /『…そうだな……だが、仕方ない。もう、あまりにも……違いすぎる』

言って、ダイオードは天を仰ぎ見る。しばらく青空を眺めた後、唐突に黒髪の軍師へと顔を向けた。



157: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:50:51.55 ID:M9rbxiAPP
/ ゚、。 /『…久し振りだな。7年振りか』

川 ゚ -゚)『いや、6年だ。最後に顔を会わせたのは、私がニイト王となった年だからな』

くもぐった響きの声を、クーが訂正する。

/ ゚、。 /『…あの頃は、このような形で再会するとは夢にも思わなかった。だが、これも宿命というべきなんだろうな』

川 ゚ -゚)『あぁ。当時、王の座にあった私は一介の臣となり、一介の臣であった貴様は王の座にある。運命とは分からぬものだ』

/ ゚、。 /『…再会は戦場だと信じて疑わなかったよ。不思議なもんだな』

と、そこでクーは仮面の王の意識が、自身に向かっているようでその実は、己の背後に向けられている事に気付いた。
果たして振り返れば、そこにはただ呆然と立つ実弟の姿がある。

川 ゚ -゚)『ホライゾン……ダイオードを知っているのか? 幼い頃、一度だけ王都で会った事がある筈なのだが……』

(;^ω^)『…………。いや、初めて会う……筈ですお』

姉の問い掛けに、青年は平坦な声で答えた。

しかし、だ。
不思議と何かが懐かしいのだ。心が何かを叫ぶのだ。
それが、何なのかは分からない。
しかし、その“何か”が全身を氷のように冷やし、血を熱く滾らせ、何かを告げようとしている。

(;^ω^)『でも……僕は……ネグローニで兵奴の訓練を受けたから……何処かですれ違ってるかもしれませんお』

が、それでも、その“何か”の正体が分からない。
故に彼には、自身を無理矢理に納得させるような、重い呟きを漏らす事しか出来なかった。



160: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:53:15.97 ID:M9rbxiAPP
/ ゚、。 /『…それで良いさ。今はまだ、相応しい時じゃないからな』

(;^ω^)『……?』

言葉の真意がつかめず、青年が口を開こうとしたのを制するように、ダイオードがスッと片手を挙げる。
おそらく、それが合図であると前もって決められていたのだろう。
背後に控えていた狩人風の少女が、前に出ようと馬の腹に合図を入れた。
が、馬は相変わらず首を振るって抵抗し、やむなく彼女はその背から飛び降りる。
慌てたふうに両の手を胸の前で組み、頭を下げた。
それを見届けてから、ダイオードは口を開く。

/ ゚、。 /『…本題に入ろうか。戦には出られそうに無いが、糧道の守備は任せてもらおう。
      約束の兵5000と10万本の矢は既にバーボンへ向かわせた。現地で合流するが良い。
      それと……兵を率いる将がいるだろう?』

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『スパムと申しますです。モテナイでは遊撃部隊の千歩将を任されておりますです。
       どうぞ、宜しくお願いいたしますです』

(;^ω^)『……?』

姉に向けて語る口調が、何処か硬くなったのは、青年の思い過ごしであろうか?

/ ゚、。 /『…喜べ、無限陣。ニイト=ホライゾン。スパムの父は【勝利の剣】モララー。
      つまり、貴様ら2人の妹と言うことになる』

川;゚ -゚)『なっ!?』

(;^ω^)『おっ!?』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『ダ、ダイオード様っ!!』



163: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:55:53.72 ID:M9rbxiAPP
爪;゚ー゚)『……まさか、本当にモララー様の……』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『あ、いや、それはですね……』

(;´_ゝ`)『モララーは各地に妻を持っていたと言われるが……』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『あの、そのですね……話を聞いてもらえませんです……か?』

ダイオードの告白に諸将が色めきだった。
【勝利の剣】モララーが“その分野”においても類稀な英雄であった事は広く知られている。
そして、彼が幼馴染であるクルウとの間に生した子は長じて【無限陣】クーとなり、
王妹ペニサスに産ませた子は【王家の猟犬】ホライゾンとしてヴィップの重鎮の座に就いているのだ。

スパムがモララーの落とし種であるとしたら、彼女もまた父より偉大なる才を継いでいる可能性が高い。
いや、そうでないとしても、人々は彼女を崇め、奉るだろう。
彼の残した数多くの伝説と功績は、それ程の価値を持つ。
北の大英雄の子と言う肩書きは、それのみでこの島の力関係を左右してしまえるまでに危険な魅力を秘めているのだ。
ちなみに現在。
モララーの子孫は“御三家”と呼ばれる直系を除き、殆ど残っていない。
それは、後の人々があまりにも“モララーが御落胤の末裔”を自称した為、そのありがたみが薄れてしまったからである。

爪*゚∀゚)『やは〜。あちこちに種を撒き散らして……タンポポみたいな人だったんですネ?』

川;゚ -゚)『…………』

堪らず顔を見合わせあう将官に囲まれ、クーはただひたすらに絶句していた。
そして、銀髪の青年はただ1人、平静を崩さずダイオードの次なる言葉を待つ。
何故なら、仮面の下に覗く瞳が、どこかイタズラな輝きを湛えているのを見てしまったからだ。

/ ゚、。 /『…戯れだ。どうやら柄にもなく気が昂ぶっているらしい。許せ』



165: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 23:59:26.92 ID:M9rbxiAPP
ル∀゚*;パ⌒『は?』

川;゚ -゚)『……戯……れ?』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『は、はいです!! あたしの父様はモララー様と言うか、モララー様だったらいいなぁ……とか』

川  ー )『……は……はは……そうか、戯れか……。はは……これは、なかなかに傑作だ』

俯き加減に下を向き、肩を震わせる。
そして刹那。
空気がざわめき、諸将はぎょっと目を見開いた。
がしゃん、と重い鉄の音を響かせ、クーが立ち上がる。

川#゚ -゚)『この私が許せぬ物が、この世には3つある。
     一つが、不味い飯!!
     一つが、食料を粗末にする行為!!
     最後が、我が同胞と家族を嘲る行いだ!!
     貴様はこの【無限陣】の逆鱗に触れた!!
     その理由如何を問わず、今すぐこの場で肉片に変えてくれよう』

爪;゚∀゚)『3つのうち2つがご飯の話ってどうなんですかネッ?』

爪;゚ー゚)『そ、そんな事どうでも良いのよっ!! 手伝いなさいっ!!』

黒髪の戦術家が仮面の王に蹴りかかろうとしたところを、左右から二組の双子が飛びかかり、四輪車に押し戻した。
それでもクーは隙あらば彼らをはねのけて黒犬の喉笛を喰い千切らんと、瞳を爛々と輝かせている。
そんな中、1人状況を見守っていた青年が、ダイオードに向けて歩を踏み出した。

( ^ω^)『……どういう事だお? 父様を馬鹿にすればどうなるか……分かっていたんじゃないのかお?』



169: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:02:46.10 ID:4GjOAcWpP
/ ゚、。 /『…言っただろ? 冗談さ』

( ^ω^)『言って良い冗談と悪い冗談があるお。
       もし、喧嘩を売るつもりなら……』

/ ゚、。 /『…やるか? まぁ……それも悪くない』

言うや、ダイオードは腰に差していた2本の短槍を引き抜いた。
振るえば必ず敵の心の臓を貫くと言われる呪いの槍と、子を間引く際に使われたと言う魔の槍。
青年もまた、背負っていた聖剣を包む布を払い捨て、身構える。

(;,^Д^)『ちょwwww大将、あんたまで何やってんすかwwww』

(# ^ω^)『プギャー……父様を冗談のネタにされて面白くないのは、僕も同じだお』

“勝利の剣”をゆらりと天へ掲げるように構えるブーンと、
双の手にした短槍をだらりと下げたダイオード。
【王家の猟犬】と【魔犬の末裔】は静かに。だが、激しく火花を散らせて睨み合う。
やがて、青の聖剣と朱の魔槍。白を纏った青年と黒に包まれた騎士、
両雄に挟まれた空気が軋みをあげるかと思われた瞬間、ダイオードがふぅと息を吐き出した。

(# ^ω^)『お?』

/ ゚、。 /『…やめよう。さっきも言ったが……今はまだ時が来ていない』

1人、さっさと短槍を腰に戻し、降参とばかりに両手を軽く上げて見せる。
戦意を削がれた青年が少し戸惑いの表情を浮かべるのを余所に、剣気で乱れたフードを整えた。

/ ゚、。 /『…だが、俺は嘘だけは言ってないぜ。スパム、お前の口から説明してやれ』



174: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:05:39.78 ID:4GjOAcWpP
ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『ひゃ……はい、です!!』

いきなり声をかけられ、どうしていいものかマゴついていた少女が、素っ頓狂な声をあげる。
予告も無しに群衆の前で演説を命じられた者がするように、
軽く咳払いをしてから、慎重に言葉を紡ぎ出した。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『あの……あたしはカルア村……昔のネグローニとニイトの領境にある村の出身です。
       父さんはいなくて……母さんも、あたしを産んですぐに死んでしまいました』

少女の説明は、そう長い物ではなかった。
彼女を育てた祖父は、両親の顔も知らぬスパムを哀れと思ったのだろう。
父は北の大英雄モララーであると聞かせて少女を育て、彼女もまたそれを信じて成長したと言う。
長じた今となれば、それが自身を慰める為の罪の無い嘘だと理解できるが、
だからと言ってその全てを否定してしまう事など、出来よう筈もない。

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『多分……あたしの本当の父さんは異名も無い兵隊さんか、行商人だと思いますです。
        でも、やっぱり……モララー様が父さんだったら素敵だなってのは変わらなくて……。
        あの、心の中だけで良いんです!! モララー様を父さんと呼ばせていただけないでしょうか!?』

/ ゚、。 /『…あざけられたと思うなら、それは詫びよう。
      だが、スパムは祖父の言葉を信じ、モララーこそが己の父であると思い焦がれて生きてきた。
      血の繋がりはなくとも、モララーをまだ見ぬ父と信じて、心の中でそう呼び続けてきたのだ。
      ならば、俺の言葉の全てが嘘とも言い切れんだろう?』

川#゚ -゚)『…………ち』

その言葉に一応は納得をしたのだろう。
が、一度噴き上がった怒りをどうやって処理すれば良いのか分からず、クーは聞こえよがしに舌を打つ。
感情的になりやすいと言う彼女の欠点は一向に治っていないのだ。
しかしそれでも、なんとか流血沙汰だけは回避されたから、一同はとりあえずホッと胸を撫で下ろした。



176: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:08:13.45 ID:4GjOAcWpP
/ ゚、。 /『…それでどうする、ナイト=ホライゾン? まだ納得できないと言うなら、今度こそ相手になってやるぜ?』

(;^ω^)『お……おぉっ?』

と、そこで青年は自分が聖剣を構えたまま、立ち尽くしているのに気がついた。
慌てて蒼の大剣を引き戻す。
それを見てから、仮面の王はやや残念そうに言葉を続けた。

/ ゚、。 /『…異名を【天光弓】。モテナイでは祖父殿の情と【勝利の剣】モララーに敬意を表して、天光弓姫とか、姫と呼んでいる』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『あの……あたし、ただの村娘ですので……本当は姫って呼ばれるのは勘弁して欲しいです』

/ ゚、。 /『…弓の腕前だけは俺が保証しよう。鍛えてやってくれ』

( ^ω^)『……』

チラ、と姉に視線を向けると、クーは薄い唇を子供のように尖らせながらも首を縦に振った。
ブーンとしてもダイオードが父モララーを愚弄したのではないとさえ分かれば、何一つ異論はない。

実を言えば、総将ブーンや軍師クー。白面副長プギャーを除けば、第二軍の将は指揮経験が些か乏しい者で構成されている。
意外なほど何でも卆なくこなす兄者は例外として、専門的な将といえばリーゼ1人と言うのが現実なのだ。
彼らの進む先はフッサール派の拠点たるスピリタスであり、その活動内容も直接戦闘より敗残兵の吸収や
潜入による内部との呼応など搦め手が多くなると読んでの事である。
国教会軍との直接戦闘はジョルジュ率いる第一軍や、ニダー率いるリーマン本隊が多く受け持つ事になるだろう。
が、補佐的活動が多いであろうとは言え、やはり何が起こるか分からないのが戦場だ。
専門的な将が増えるというのは、ありがたい話であった。

( ^ω^)『分かりましたお。こちらこそ宜しくだお、スパム姫』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『……あうあうぅ』



179: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:10:21.14 ID:4GjOAcWpP
それで、野上の会談は終わった。
その事を意思表示するかのように、ダイオードの背後に控えていた黒騎士が手にしていた大傘を閉じる。
全く言う事を聞こうとしなかったスパムの愛馬は、プギャーの手にかかると嘘のように従順になり、
狩人はひたすらに平身低頭している。
仮面の王は漆黒の巨馬の腹に軽く蹴りを入れ、クーもまた兄者に四輪車の向きを変えるよう命じた。
だが。

(;^ω^)『ちょ、ちょっと待ってくださいお!!』

/ ゚、。 /『…なんだ? まだ、何か用があるのか?』

すれ違ったダイオードの背に向けて、慌てたふうに叫ぶ。
青年には、どうしても確かめねばならぬ事が一つだけあった。
失地の民が平穏の地となったモテナイ王国。
彼の地には、かつて己を裏切り、袂を分けた男が身を置いているという。
以来、自身の出生の秘密やニイト・ヴィップの連合化、ネグローニの独立など様々な出来事があった。
しかし、口に出さねど、その者の事を忘れた事など一度もない。

(;^ω^)『モテナイには僕の友達がいる筈なんですお』

/ ゚、。 /『………友達?』

そう。
7年間、捜し求めていた友なのだ。
7年前に姿を消して以来、微かに伝え聞く噂以外に消息のつかめなかった友なのだ。
ならば今、手を伸ばさずにいつ手を伸ばせと言うのだろう。

(;^ω^)『ドクオって名前ですお!! ドクオは……元気でいるのかお!?』

/ ゚、。 /『………』



182: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:12:46.87 ID:4GjOAcWpP
巨馬の鞍上で、青年に背を向けたままダイオードは微動だにしなかった。
ただ、沈黙だけが流れる。
かつて、ブーンから“友達”の話を耳が苔生すほど聞かされていたプギャーが、
少しだけ複雑そうな顔で2人を見つめていた。

(;^ω^)『おっ?』

やがて、ダイオードがゆっくりと首だけで青年に振り返る。
その仮面の下の眼光は、少しだけ嬉しそうで、少しだけ悲しそうに、青年には思えた。

/ ゚、。 /『…元気さ。いずれ戦場で合間見える事もあるだろう』

(;^ω^)『!! それじゃ、それじゃ……ドクオは今、何処n』

/ ゚、。 /『…だが!! その男はお前を裏切ったんだろう!? 刃を交え、道を違えたんだろう!?
      それでも……それでも、お前は友と呼ぶのか!?』

ここにきて、これ以上は感情を抑えきれぬとばかりにダイオードが声を荒げた。
激昂したクーやブーンを前にしても淡々としていた男の突然の豹変に、諸将は目を丸くする。
しかし、その問いは自身の中でも幾度となく反芻しつくしてきた物であったから、銀髪の青年は静かに首を縦に振った。

( ^ω^)『そうだお。ドクオは僕を裏切って……ツンを殺そうとしたお。
      あれから何年もたって……多分、お互いにあまりにも変わり過ぎてしまっている筈ですお。
      もう…………昔には戻れない。それは分かっているつもりですお』

/ ゚、。 /『…そうだ……その通りだ!! ならば、どうして……』

( ^ω^)『それは……僕達2人が、あの頃とは変わりすぎているからだお。
       あの頃のままだったら、きっと再会してもムズムズしてた筈だけど……今ならきっと、分かり合える。
       そんな気がしてならないんだお』



185: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:15:46.07 ID:4GjOAcWpP
/ ゚、。 /『………分かり合える……だと?』

( ^ω^)『だお』

絶句する仮面の王を前に、青年は己の言葉が足りていなかったと判断したのだろう。
ときほぐすように言葉を続ける。

( ^ω^)『何も分かり合えずに別れた、あの頃のままだったら……やっぱり、今も何も分かりあえませんお。
       でも、今はお互いに変わり過ぎてるから……あの頃より、分かり合えるはずですお』

/ ゚、。 /『…それでも……それでも、分かり合えなかったらどうする!?
      その時こそ、真に袂を分かつと言うのか!?』

ダイオードの絶叫は、どこか幼い抵抗のようで。
青年はニコリと笑うと、グッと握った拳を突き出して、口を開いた。

( ^ω^)『その時は……ぶん殴ってでも分からせてやるお。
      ドクオもきっと、同じ事をする筈で……僕達は、本当に大切な物が何なのか分からなかった、あの頃とは違いますお。
      今は歩く道が違っていたとしても、お互いに分かり合えれば……いつか必ず、もう一度肩を並べて歩ける日が来る。
      僕は、そう信じていますお』

/ ゚、。 /『……』

その言葉に、ダイオードは思わず天を仰ぎ見た。
静寂の中、何かを堪えるかのように拳を握る音が、ぎゅうと響く。
やがて仮面の王は、静かに青年へ視線を戻した。

/ ゚、。 /『…その言葉、一字一句違わず、必ずや伝えておこう。
      そして……ヤツに代わって礼を言う。ありがとう』



189: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:19:20.97 ID:4GjOAcWpP
/ ゚、。 /『…だが、勘違いするなよ!! これで違えた道が一つになる訳じゃねぇ!!
      既に語り合うは言葉じゃなく……刃を持って別れた宿命は、刃をして一つになる他ねぇんだ!!』

(=゚ω゚)ノ『我が君!!』

そこで初めて、沈黙を保っていた大傘の騎士が口を開いた。
その声に、ダイオードはハッと我に返る。
仮面の奥、金色に輝いていた瞳が、急速に熱を失い闇の色に戻っていった。

/ ゚、。 /『…無限陣よ。一つ、言い忘れていた事がある』

わざとらしく青年から視線を外し、怪訝そうな顔のクーに、ダイオードは言葉を紡げる。

/ ゚、。 /『…スピリタス西で抵抗を続けていた魔女は、敗れて囚われの身となったそうだ。
      貴様らの作戦に支障が無いと良いがな。兎も角、戦神の加護があらん事を祈っているぞ』

(;^ω^)『……ちょ、まだ聞きたい事が……!!』

しかし、青年の願いは聞き届けられなかった。
一方的に告げ終えると、仮面の王は漆黒の巨馬に鞭を入れ、振り返りもせずに駆け去って行く。
彼の忠臣もまた、銀髪の青年を鋭く一瞥すると、その後を追った。

爪;゚∀゚)『なんだか……大人子供みたいな人でしたネ?』

(´<_`;)『……あぁ。ダイオードと言えば、フィレンクトやフッサールと同世代の人間の筈なのだが……
       ヤツも、フォックスのように薬でも使っているのか?
       いや、どちらかと言えば、ガキが無理に背伸びしているかのような感じだったな』

ヽiリ;,゚ヮ゚ノi『あうあう〜。ダイオード様、どうしちゃったんでしょうかです……』



193: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:21:33.24 ID:4GjOAcWpP
(;^ω^)『……』

仮面の王が去った後、諸将が身勝手に囁きあうのを、青年はどこか遠くの景色を眺めるかのような気持ちで聞いていた。
しかし、彼らの行動は無理もないと思う。
何故なら、ダイオードの行動は、まるでこの場から逃げ出そうとしていたかのようだったからである。

そして、確実に言える事が2つあった。
まず一つが、己と仮面の王は過去に何らかの接触を持っていると言う事。
それは、自身に向ける言葉と姉に向ける言葉の響きに、隠しきれない違いがあった事からも明らかであるし、
おそらく最後に激昂した姿こそが、ダイオードと言う男の本質なのだろう。

が、どうしても彼の声に覚えがないのだ。
青年が過去の記憶を失っていると言っても、それは幼少期の頃の事。
もし、仮面の王と接触を持っているとなれば、【戦士の街】ネグローニにおいてを他に考えられない。
どこか懐かしい声触り。
けれど、予め口に綿でも含んでいるのか、素顔を包む仮面のせいか、もしくはその両方か。
もしくは……長い年月が壁となっているのか、どうしても思い出せぬのだ。
故に、青年は言う。

( ^ω^)『姉様。今日はここに陣を敷こうと思いますお』

川 ゚ -゚)『……いいのか、ホライゾン?』

姉の問いに、ブーンはニコリと笑って頷いた。
もし、思い出せぬとしたら、それはきっと“まだ相応しい時ではない”のだろう。
ならば、相応しい時は必ずやって来る。
仮面の黒犬と、かつての親友。
彼らと対峙する日が必ず来る。
それはどこか確信めいた予感であった。



195: ◆COOK./Fzzo :2010/07/05(月) 00:24:13.48 ID:4GjOAcWpP









─────そして、青年の予感は、正にその通りの物となる。

【王家の猟犬】ニイト=ホライゾンと【黒犬王】ダイオード。
猟犬を継ぐ者と、魔犬の末裔。
白衣白面と漆黒の騎士。
聖剣の担い手と魔槍の使い手。

あまりにも対照的な両者の運命は、この日を境に強く深く結びついていく事となるのだ。
2人はいずれ、戦場で再会する宿命にある。
泥濘の中、刃を交える定めにある。

だが……今はまだ“相応しい時”に非ず。
その時が来るまで、しばしの月日を挟まなければならなかった。








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