('A`)ドクオが現実にスクゥようです

34: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:02:22.50 ID:PIWKkFBA0

「いつからこうなったんだろ……」

 独白はそうして始まった。
 真夜中。静かな部屋で、静かに始まった。

「……最初から、かな」

 部屋に響くのは、揺れるささやかな声。
 少女は、震える体を自ら抱くように座り、虚空を見つめていた。



35: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:02:53.25 ID:PIWKkFBA0

「優先すべきは……、そんなの知ってるんだけどね……」

 「うん、知ってる」と確認するように呟くと、少女は立ち上がる。

「知れ」

 部屋のドアが、ゆっくりと開き、閉じる。
 それきり、部屋には完全な静寂が訪れた。

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36: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:03:23.66 ID:Qb7CbpLM0

 冬の寒さも手伝ってか、夜の街はどこか廃れた雰囲気を醸し出していた。
 冷たく、そして動きのない空気。
 時々、轟音を響かせて通り抜けてる大型のトラックは、
まるで異世界の魔物のようで、ここがどこで、自分が誰なのか、
それを忘れてしまうにはうてつけの夜に思えた。

(*゚−゚)「……」

 「忘れられる筈ないのに」。

 恨めしい声が、白い息に化けて出る。
 何を成す暇もなく、それは消えてしまったのだけど。



39: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:03:54.20 ID:PIWKkFBA0

 閑散とした通りを抜けると、今度は比較的明るい通りに出る。
 何度も繰り返したパターンだ。目的地はこの通りの一番奥。
今更、何を思うでもない。

 繰り返す。何度も繰り返したパターンだ。

(*゚−゚)「何で繰り返してたんだっけ……」

 それも、今更思う事ではない。
 何もかもが、今更だ。
 ここがどこで、自分が誰か。
 覚えていようが、忘れていようが、まるで関係も意味もない。
 ただ、今日も繰り返す。
 同じ場所で、同じ記憶で繰り返す。



40: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:04:24.47 ID:PIWKkFBA0

(*゚−゚)「……そろそろ終わってくれても良いのに」

 足はただ記憶を辿る。
 そして私はまた、同じ場所に立っていた。

 そこから響く重低音が、停止していた空気を揺らす。

 『LIVE HOUSE second channel』。

 ――ライトアップされた看板が、私を見下していた。

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42: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:04:56.17 ID:PIWKkFBA0

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 室内に、轟音が響いた。
 これから、ライブが始まる、合図。音、々。
 空間を、ただ音だけが支配していた。
 音を、ただここだけが支配している、錯覚。

('A`)「ふぅ……」

 音に呼ばれ、ステージに上がる。
 視界がコマ送りに変わる。
 何かが、大きく、大きく揺れた。
 ここを支配する、錯覚。

 ――沢山の錯覚を連れて、一つ目の音が鳴った。

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43: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:05:26.33 ID:PIWKkFBA0

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 少ないような、多いような、人の群れ。
 この時間帯を思えば多いのだろうけど、
この空間には少し足りない密度。

 ここはいつも、こんなものだ。

(*゚−゚)「はぁ……」

 適当に辺りを伺う。
 ステージには丁度、一組目のバンドが上がろうとしている所だった。
 見たところ高校生だろう。
 緊張しているのか薄ら伺える表情は堅い。
 そういえば、初めてみる顔だ。



45: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:05:56.72 ID:PIWKkFBA0

 私は何となしにそれを見ていた。
 別にバンドが見たくてここに来た訳じゃない。
 ただ、他にやる事もない。
 私にはただ、たった一言を発する予定しかない。

 「いいよ」。

 誰かが話しかけてきたら、そう答えるだけで良い。
 それが「しぃ」の繰り返し。
 関係も、意味も、きっとない。



48: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:06:27.08 ID:Qb7CbpLM0

(*゚−゚)「……馬鹿みたいだ」

 視界の隅に、二つの人影が写った。
 こちらを見ながら、何かを話し合っているようで、
こちらと目が合うと、ニヤニヤと一人が手を振った。
 男の一人が笑みを浮かべながら、
こちらに向かって歩いてくる。

 あぁ、そうだった。

「あの、良かったらこれから――」



50: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:06:58.35 ID:PIWKkFBA0

 「ふぅ……」と、

 拡張された声が、それを遮った。

 何だか良くわからない、汚れた声を遮った。

 音源は、ステージ上の男。
 俯いたまま何かを呟き、そのまま動かない。
 曲名を言ったようだったが、それはマイクに拾われる事なく、
やがて鳴るギターの音に続いた。

('A`)「――!!」

(*゚−゚)「……」



52: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:07:34.51 ID:PIWKkFBA0

 MCもなく始まった曲は、どこかで聞いた曲のコピーだった。
 高校生バンドには、ありがちな事だ。
 ボーカルの男は、面倒臭そうに唄い、
面倒臭そうにギターを鳴らす。
 劇的に上手くもなく、悲劇的に下手でもない。

 ――そして、有り得ないタイミングでその二つは止んだ。

 それに習うように、ベースが止み、引き摺られるように、ドラムが止み、

 やがて沈黙が訪れた。



54: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:08:05.03 ID:Qb7CbpLM0

 「ふぅ……」と、再び巨大なスピーカーが鳴く。

 ボーカルの男は、マイクを握り直して、やはり面倒臭そうに言った。

('A`)「……止めます」

 それこそ、有り得ない一言だった。

('A`)「何でこんな面倒臭い事しなくちゃダメなんですか。
    普通に楽しければ良いのに。ないですもんね。無理ですもんね」

 男は少しだけ泣きそうな顔で、投げやりに、やはり言う。



55: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:08:35.28 ID:PIWKkFBA0

('A`)「だからもう嫌です。終わりです。さようなら」

 それだけの事を捲くし立てるように言い放ち、スタスタとステージを降りた。
 残されたメンバーは、まるで予期せぬ出来事だったらしく、
おろおろと狼狽るだけだった。

( ・∀・)「あー……『これから、
 友達が演奏するから一緒に盛り上げて貰おう』って思ったんだけど……
 これじゃあ、無理だよね。ごめん、何でもない」

 私の横で所在なくしていた男も、同じように狼狽て言った。
 その顔に浮かぶ笑顔は、もう「ニヤニヤ」ではなく普通のそれだ。
 声も。ここも。何もかも。

(*゚−゚)「……」

 私以外の何もかも。



57: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:09:14.35 ID:PIWKkFBA0

 「ここがどこで、自分が誰か」。
 気付けば、それだけが残されていた。

 馬鹿みたいだ。

 私は何故だか、「じゃあ」と小さく残して、
もう一人の元へ向かう男の背中に声を掛けた。

 声は自然と泳ぐ。

(*゚−゚)「……『次』があれば、考えないこともないですよ」



58: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:09:44.90 ID:PIWKkFBA0

 何だか急に恥ずかしくなって、私は急いでライブハウスを出た。
 後ろからは「助かるよ」とか何とか、
そんな感じの声が聞こえてきた。
 外に出て、それでも立ち止まる気分にはなれず、
意味もなくどこまでも走る。

 ここがどこで、自分が誰か。

 関係もなく、意味もなく、だから何もない。
 目の前に絶えず浮かぶ白い息と、響き続ける足音と、
ただそんな感じの何かが、ずっとどこかで響いていた。



59: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:10:15.33 ID:PIWKkFBA0

 闇雲に走ったせいか、息は切れ、
私はいつもとどこか違う場所に止まった。

 白く残り続ける呼吸と、耳のすぐそばで聞こえる、速い鼓動。

 「私」はいつもとどこか違う場所に、留まった。
 寒さなど、どこからも消えていた。

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