('A`)ドクオが現実にスクゥようです

64: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:15:19.53 ID:PIWKkFBA0

 家を一歩出ると、それを見計らっていたように雨が降り出した。
 大粒の、冷たい雨だった。
 「空が泣いている」だとか、そんな詩的な表現も浮かんだが、
すぐに馬鹿らしくなって止めた。

「重要なのは、服を汚さない事と、風邪を引かない事」

 人間は退屈だ。
 致命傷を負ったって、それでも人生は続く。
 退屈な日々を、確実に、誠実に、捻り潰す術を模索する。

「問題なのは、既に寒くて凍えそうな件ね……」

 ふぅ、と息を吐く。
 私は小走りで目的地に向かった。
 踏まれ跳ねた雨水が、無遠慮に服を汚す。
 何だか、急に色々なことが面倒臭くなった。

3rd_rainy day parade.



65: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:15:49.95 ID:PIWKkFBA0

「全く……どうなっているんですか?」

 小太りの女が、鼻息を軽く荒げて抜かす。
 長々とした演説は結構だが、こちらも疲れている身だ。
 「責任」だか「教育」だか、そんな単語を並べられた所で、
私の睡魔は撤退してくれそうにない。

 寧ろ、全力で向かって来るくらいだ。

 唯一、現状の打破を可能としていて、
このイベントすべての鍵を握る彼女は、
相変わらず母親の影で俯いている。

 親子で似ないもんだ。
 この口煩そうで、かつ確実に口煩い小太りママンの精力を、
少しでも分けてあげたら良いのに。



66: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:16:20.41 ID:PIWKkFBA0

 そんな風にして、なるべくどうでもいい事を考えていた。
 大体、
どうしてこんな面倒臭いイベントに私が駆り出さなくてはならないのだ。
 私はこの娘の担任ではない。
 面識すらろくにない。
 ただ、現場に居合わせただけだ。
 それもこれも、
あのハゲ、こと校長が「これも良い経験だろう」だとか抜かしたせいだ。
 死ねば良い。

 ――あー、あー、もう嫌だ、心が荒んで行く。



69: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:17:15.60 ID:PIWKkFBA0

 大人は汚い。
 そういえば、母に昔から「あんたは人が良すぎる」とか言われてたっけ。
 そうかな。
 そうかもな。
 そうなのか?
 実家に帰りたい……、眠いなぁ。

「これだから女性の担任は嫌だと言ったのです」

 いや、だから担任ではありません。
 無理矢理押さえつけられた欠伸が、涙腺を刺激する。
 私はここぞとばかりに「本当に申し訳ありません」と俯いた。
 ちょっと苛っとした。我慢した。それが大人クオリティ。
 そして、



70: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:17:53.06 ID:PIWKkFBA0

「申し訳がないのなら、何があるんですかッ!?」

 そして、母親がキレた。
 受け流し作戦は失敗。

 もう駄目。私、終わった。

「あの……」

 そこで、今の今まで、
一言も発することなく座っていた彼女が呟いた。

 俯いたまま、呟いた。

(* − )「あの……、先生は悪く、ないです……」



71: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:18:23.48 ID:PIWKkFBA0

 ちょっと心温まる一言だったが、私はそれに否定で応える。

ξ゚听)ξ「あのね、私が悪いことにしとくのが一番楽なのよ」

 予想外に皮肉った言葉になってしまったが、
まぁそれはそれで悪くないだろう。

 母親がブチギレているが、悪くはないだろう。怖いけど。

 あぁ、もう嫌だ。無視しよう、そうしよう。帰りたい。

ξ゚听)ξ「そういえばあの……――」



72: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:18:56.23 ID:PIWKkFBA0

 「一緒にいた男の子は?」と続く筈だった言葉が、口の中でみるみる溶けていく。
 ――やばい。
 これはきっと、この母親にとっては地雷だ。

 私とした事が迂闊だった。

ξ;゚听)ξ「あー……」

(*゚−゚)「……『ドク子ちゃん』ですよね。
     あれから私を送って帰りましたよ」

ξ;゚听)ξ「……そう」

 誰だ。そいつは。
 しかし、これはグッジョブと言わざるを得ない。
 そもそも、母親はわなわなと怒り心頭で、
私たちの会話を聞いているかも怪しかったが。



73: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:19:26.63 ID:PIWKkFBA0

「……もう結構です……校長先生を――」

ξ゚听)ξ「明日、校長と担任が改めて伺います。元より私は、
      この娘が元気にしているか見に来ただけですので」

 怒りを通り越し、顔色が嫌な感じにどす黒い母親に向けて、
私はきっぱりと言った。

 少し気分が良い。

ξ゚听)ξ「大体、今回くらいのことが何ですか?
      思春期にはありがちな事ですよ?」

 いや、自殺未遂はねーよ。
 自分で言って、しまったと思った。
 調子に乗り過ぎた。



74: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:19:57.48 ID:PIWKkFBA0

 まぁ、いいや。
 後のフォローは、校長及び担任がやるだろう。

 そのまま、「では」と気分良く席を立つ。
 私以外の誰も動かない。
 期待はしていなかったが。
 部屋を出る際、見た窓の外は相変わらずの空模様だ。
 急速に気分を害され、
そこで自分の移り行く気分の早さに気付き、
更に憂鬱な気持ちで、憂鬱な家を出た。



76: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:20:58.01 ID:PIWKkFBA0

ξ゚听)ξ「あーあ、もう濡れても良いや……」

 投げやりに傘を差し、歩き出し、ドアの音に振り返る。
 嫌な予感がしたが、幸い顔を出したのはあの娘だ。

(*゚−゚)「……わざわざありがとうございました」

 そして唐突に、頭を下げる。
 私は少し笑って、「また学校でね」とだけ言った。
 再び顔を上げる姿を見るでもなく、私はまた歩き出す。
 傘はしっかり握ったまま。



77: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:21:28.69 ID:PIWKkFBA0

ξ゚听)ξ「もう何でも良いや」

 土砂降りの雨は、相変わらず止まない。
 虹を拝めるのは、また明日になりそうだ。
 学校への連絡も程ほどに、我が家に向かう途中。
 私の気分は、またしても少しだけ晴れた。

3rd_rainy day parade...end.



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