('A`)ドクオが現実にスクゥようです

79: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:22:08.23 ID:PIWKkFBA0

 今日は凄く天気が良い。
 でも、良いってなんだっけ。
 まるで雨が「悪い」みたいだ。

 「天気が悪い」。

 本当は誰が悪いのか。
 何もかもが曖昧に、今日が始まり、ただ終わりに向かう。

「……何で僕はこうなんだろ」



81: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:22:39.87 ID:PIWKkFBA0

 ふと一人ごちる。同然のように、返る言葉はない。
 どうして僕には誰もいないんだっけ。
 顔も普通のはずなのに、性格も普通のはずなのに、
どうして誰も僕を必要としないんだろう。
 一声掛けてくれれば、気の効いた言葉の一つも吐ける。
 相談にも乗るよ。
 僕は、どこかにいる君の為に、きっと何かが出来るよ。
 謂わば僕は供給だ。
 需要に対して精一杯真摯な、供給だ。

 誰か、僕を必要としてよ。

 ――当然のように、返る言葉はない。



82: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:23:10.28 ID:PIWKkFBA0

 僕は、誰かを必要としてる。
 平日の午後。どことなく気だるい空気の中で、想像が宙を舞う。
 「君」はきっと、良い奴なんだろう。なら、僕も良い奴でいられるから。
 「君」はきっと、素直じゃない。皮肉った言葉に、
僕にしか分からない優しさがあったり、するんだろう。
 「君」はきっと、透明なんだ。
 だから僕には、姿が見えない。今まで気付かなかったけど、
ずっと僕を見守ってくれているんだろう。
 僕にしか聞こえないその声で、僕にしか響かない言葉を掛けるんだろう。



83: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:23:40.58 ID:PIWKkFBA0

 きっと今にその声が聞こえる。
 出てくるなら、今ほど好機はないだろう。
 今なら僕は、突然の声に驚いたりはしない。
 きっと君を、すんなり受け入れてあげるよ。

「だから、もう出てきてよ……」

 当然、返る言葉はない。
 僕はいつまでも、独り言の終わりを待っていた。

4th_the world end_a-part.



85: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:24:12.49 ID:PIWKkFBA0

4th_the world end_a-part.

 太陽が昇った。
 そして、僕は目を覚ました。
 昨夜を思い出して、少し愉快な気持ちになり、
昨夜を思い出して、少し憂鬱な気持ちになった。

 かの昨夜は、記念すべき初ライブであり、
そして、それは失敗した。
 失敗だの成功だの、
それはメンバーでもない僕に取っては割と重要でもないのだが、
案ずるべきはその原因だ。



87: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:24:42.82 ID:PIWKkFBA0

「もう嫌です。終わりです。さようなら」

 あいつが、昨日という日、つまり「初ライブ」とやらに、
どれだけの思いを寄せていたか。
 それは、恐らく誰よりも僕が知っている。
 思い上がりだと言われようが、知っていると思い込んでいる僕には関係のない話だ。
 その「初ライブ」を自らの手で失敗へと導いた「あいつ」は、今、どんな気分なんだろう。

 僕は知っている。

「よう、ドクオ」

 僕は河原に佇む影に声を掛けた。
 遠くで、学校のチャイムが鳴った。

4th_the world end_a-part>b-part.



91: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:25:13.23 ID:PIWKkFBA0

4th_the world end_a-part>b-part.

「よう、ドクオ」

 ふいに掛けられた声に振り返ると、
そこにはよく知った顔があった。

('A`)「……おう」

( ・∀・)「サボリ?」

 「お前もな」、と短く応えて隣に座った友人から目をそらす。
 遠くで聞こえるチャイムから察するに、ホームルームを終え、ちょうど一限目が始まったところだろう。

 ふと、眼前に缶コーヒーが差し出される。
 礼を言って受け取り、その温もりを握り締める。
風こそ穏やかだが、気温はそこそこに低く思える。
 冬はこれからだな、などと考えていると不意打ちを食らった。



92: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:26:02.24 ID:PIWKkFBA0

( ・∀・)「……でさ、昨日の、どうした?」

('A`)「まぁ……いろいろ、ね」

 これは、ある程度予測していた事態でもある。

 「昨日の、どうしたの?」。

 昨日の、と言えば間違いなくライブの事だ。
 別に「ロックだと思って、つい」などと答える気はない。
 それなりの行動には、いつだってそれなりの理由がある。
 その「それなり」が個々によって微妙に異なるものだから、
俺は思わず口をつぐんだ。



93: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:26:39.72 ID:PIWKkFBA0

 悪い癖だった。

 個々による微妙な差異など、俺ごときに予想できる筈もない。
 予想外を起こさないためには、何も起こさない事しかできない。
 俺は口をつぐんだ。
 俺は彼を、拒絶した。

 隣を確認する事が出来なかった。
 頑なに前を見て、沈黙が過ぎ去るのを待った。



94: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:27:10.39 ID:PIWKkFBA0

 俺は、本当に駄目な奴だ。

 この後の事態は、予想出来ているというのに、
 何も出来ずに、
 ただ、
 過ぎて行くのを待って、
 次の台詞を用意している。

 「何をする暇もなかった」。

 遠くで、チャイムが鳴った。
 一限目の始まりは、どうやらこれからのようだった。

4th_the world end_b-part>c-part.



97: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:28:12.08 ID:PIWKkFBA0

4th_the world end_b-part>c-part.

 朝が来た。
 結局一睡もしていない。
 ギターのソフトケースを開け、弾き、しまい、開け、弾き、しまい――

('A`)「……あれれー? お外がもう明るいよー?」

 馬鹿か、俺は。
 遠足前の小学生か。

('A`)「本当に馬鹿か、俺は」

 確認の為に口に出してみるが、お日様が踵を返すことはない。
それはもう、恐ろしいまでに当然だ。必然だ。



100: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:29:04.32 ID:PIWKkFBA0

('A`)「本当に馬鹿だ……疑いようもなく馬鹿だ……」

 次に口に出した時、太陽はもう沈み掛けていた。

( ゚∀゚)「えーと、一組目のバンドさーん。リハの準備お願いしまーす!!」

 もう時間軸が狂っているとしか思えない。
 もしくは俺の記憶力に問題があるのかも知れない。
 「あぁ、寝不足で迎えた朝は、太陽が目に痛いなぁ」と、そう思っていた筈が、
今や、ギターを抱えて、人生初のリハーサルに挑もうとしている訳だ。

 あぁ、そういえば、



103: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:29:51.78 ID:PIWKkFBA0

( ゚∀゚)「ハーイ、オッケーでーす!!」

 そういえば、なんだっけ、などと思ってる隙に、リハーサルも終了です。
本当にありがとうございました。
 リハーサルって、短いんですね。
 もっと長々やるのかと思ってました。
 だって、俺、コード一回弾いただけじゃないですか。
 その後、マイクに向かって「あー」って言っただけじゃないですか。
 これ、騙されてないですか?
 高校生だからって、適当に扱われてるんじゃないですか?
 確かめる術がありませんね。
 諦めるしかないんですね。
 仕方ないんですね。
 力なき被害者は、いつだって泣き寝入りするしかないんですね。



106: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:30:22.17 ID:PIWKkFBA0

('A`)「大人はいつだってそうさ……ッ!!」

( ^Д^)「は? 何言ってんの?」

 気が付けば、場所は見知らぬ喫茶店です。

('A`)「……」

(・∀ ・)「壊れた……?」

 現状に少し遅れて、脳が情報を吐き出す。
 現在、ライブハウスからそう遠くない、某ファミリーレストラン。
 リハーサルを終え、本番までの間に少し遅い夕食、
及び本番に向けたミーティング。
 そして、目の前にいるニヤケ面がベーシストのプギャーで、
目の前にいるニヤケ面がドラマーのマタンキだ。

('A`)「なるほど……」



108: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:30:52.62 ID:PIWKkFBA0

 特に親しいわけでもないが、こと「バンド」となると選り好んでもいられない。
 俺はただ、ライブがしたい。ステージに立って唄ってみたい。
 ただ、できる事をやってみたい。
 今すぐに親しくなる必要はない。
 「バンド」という共通点を辿って、互いを認め合えればそれでいい。
 たった、それだけで十分だ。

( ^Д^)「っていうかさ……」

 ニヤケ面をさらにニヤニヤとさせ、プギャーが口を開く。
 どうにも不快感を先行させる笑みだった。
 偏見だろうか。



114: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:34:32.70 ID:PIWKkFBA0

( ^Д^)「――」

(・∀ ・)「――」

「――」

「――」

 いつしか、可笑しな会話が始まった。そして、気が付けば終わっていた。
 例の、「時間軸の狂い」が影響しているのかも知れない。
 いや、「記憶力の低下」だろうか。



115: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:35:10.41 ID:PIWKkFBA0

 何か、可笑しな事があったようだった。

 そして、俺は、どうやら自分の記憶力を信じても良いようだった。

「客席にマジ可愛い娘いたんだからなっ!!」

「いいなぁ、お前ボーカルだろ? モテモテじゃねーか」

「まぁ、男の子なら誰もがそうなんだからな!!」

「それこそ、ロックなんじゃね?」

「計画通りな――」

「今日の夜はい――」



116: ◆hNdx3bVk06 :2008/01/20(日) 00:35:41.89 ID:PIWKkFBA0

 次に気付いた時、俺はステージに立っていたが、それはまた違う話だ。

('A`)「俺はそんなんじゃねぇ……」

 その声は、マイクに拾われる事なく。

( A )「違う……」

 その意思は、誰に汲まれる事なく。

 ――人生で始めてのライブが始まった。

4th_the world end_a-b-c-part...end.



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