( ^ω^)ブーンは色々な本の世界へと旅立つようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:28:16.72 ID:5AUlFKF50

『誰かさんの憂鬱 その3』


朝がやってきた。

その日の朝はなかなかにすがすがしいものだった。

キョンの部屋の床に布団を敷き、本を枕にして寝ていたのだが、
そのせいで頭は痛いし、布団が薄いせいで身体の節々が痛い。

しかもかけ布団も借りたパジャマも薄い仕様なので、
冬の寒い外気にさらされて身体も冷え切ってる始末。

ああ、なんてすがすがしい朝なのだろう。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:29:30.81 ID:5AUlFKF50

( ^ω^)「ペップシ! コーラ!……あー、くしゃみがひどいお」

現在朝の6時。外はまだまだ暗い。

現実世界では夏だったので、身体はまだ寒さに慣れきっていない。
頭がボーッとしているのは風邪の兆候か。
あとでキョンに薬でももらおうと思いつつ、僕は起き上がり、ベッドの方を見た。

キョン「zzz……」

ポケモンの眠り状態と同じいびきをかいているキョン。
安らかな寝顔。ああ、なんて忌々しい。
その分厚い布団をもぎ取ってやろうか。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:31:29.81 ID:5AUlFKF50

( ^ω^)「……はぁ」

僕はため息をついて、自分の置かれている状況を再確認する。

キョン宅の居候……ではなくて、異世界からの旅人だ、僕は。

この世界で友達を探すために、キョン他の物語のキャラクターに協力を求めなければならない。
彼らが本当に協力してくれるかはまだ分からないが、
どちらにせよ、僕自身も何かしら行動を起こさないといけないだろう。

にしても僕は、簡単にこの状況に馴染んでるな。自分でもこれには驚いている。
本の中の世界に突然放り込まれて、ここまで落ち着いて行動できるとはね。

なんとなく自分でも分かってるのだが、おそらく僕はこの状況を楽しんでいる。
今まで外からでしか眺められなかったこの世界に、僕は身を投じている。
誰だってそういうのは楽しく思うものだろう?



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:33:56.03 ID:5AUlFKF50

『そういうものなのか?』

またしてもいきなり聞こえてきた謎の声に、僕は静かに驚愕した。
年中無休で聞こえてくるのか? この声は。

( ^ω^)「いきなりなんだお……」

『いや、本の中の世界が、楽しいものなのか?』

( ^ω^)「そりゃあ……って、人の心を勝手に読んでるじゃないお」

『仕方あるまい。私はお前の頭の中の超AIなのだからな』

( ^ω^)(密かに根に持ってるし……)

『まあ、いい。楽しむのは結構だが、本来の目的を忘れないことだな』

( ^ω^)「そのことなんだけど、僕の友達はいったいどこにいるんだお?」

『知らん』

( ^ω^)「ズコー」



9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>6それに関して後で説明する] 投稿日: 2007/06/25(月) 21:37:32.53 ID:5AUlFKF50

あっけらかんと言う謎の声。
僕をこの世界に連れてきたくせに、その言い草はないだろうにう。

『知らんものは知らん。この世界の住人に協力してもらって、なんとか探してみろ』

( ^ω^)「せめてヒントでもないのかお?」

『ふむ……ここは本の世界。しからずんば、物語として書かれてある以上のものは、存在しないことになる。
 いや、言葉が違うな。存在しているとしても、それはこの世界ではあまり意味を持たない』

( ^ω^)「意味が分からないお……」

『何かが起こるとすれば、物語の中の何かとの関係で起こるということだ』

( ^ω^)「えーと……やっぱり分からないお」

『この低脳め』

(#^ω^)ビキビキ



11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>>8アッー!!] 投稿日: 2007/06/25(月) 21:39:42.75 ID:5AUlFKF50

『あのSOS団という団体だったか? あれに関係する事象と絡まっている可能性が高いということだ』

( ^ω^)「やっぱり分からん」

『死ね』

( ^ω^)「……」

もういい。無視だ無視。

「ん……なんだ内藤、やけに早いじゃないか」

僕が独り言のように謎の声と喋っていたからなのか、キョンが眠そうに目をこすりながら起き上がった。
おかしい。彼はいつも妹にダイビングされて起こしてもらわなければ目覚めないはずだ。
あれを間近で見られると思っていたのに、なんと残念なことか。
あれがうらやましいよ、本当に。

( ^ω^)「いや……今日はどうしようかなあ、と考えてたんだお」

キョン「げっ、まだ6時じゃねえか。さすがに早すぎるぞ」

( ^ω^)「まあ、早起きは三文の得というし」

キョン「俺は自分の体内時計を信じる派なんだよ。さて、もう一眠りするかっと……」

彼が布団を被り直す。そんなに眠れてうらやましい。その厚い布団をこちらにもよこせ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:41:16.82 ID:5AUlFKF50

そう恨めしく思っていると、机に置いてあった携帯が盛大な音で鳴り始めた。

黒電話の着メロだということは置いといて、
キョンは完全にそれを無視しており、ベッドの上から動かなかった。

電話「ジリリリリリ!」

( ^ω^)「……」

キョン「……zzz」

( ^ω^)「この状況で寝るとは……なかなかのつわものだお」

仕方ないので、僕が代わりに出てやることにした。
ディスプレイには……電話番号が表示されているだけで、名前は出てない。
どうやらメモリに登録されている相手ではないらしい。

( ^ω^)「はい、キョン君の携帯ですが」

『……』

相手からの返事がない。
一瞬長門っちかと思ったが、それならメモリに登録されていないのがおかしい。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:43:05.94 ID:5AUlFKF50

( ^ω^)「誰だお……?」

『……俺の邪魔をするな』

低い男の声が聞こえたところで、電話は切れた。
つー、つー、(*゚∀゚)?という音だけが受話器から響き、僕は呆然と携帯の通話終了ボタンを押す。

『どうやら、お前の選択は間違ってないようだな』

( ^ω^)「そうかお? 今の誰だお?」

『知らん。だが、何かがあるのは間違いないようだ』

( ^ω^)「そうかお……」

謎の声にとりあえず同意しつつ、これからの苦労を考えて僕は頭を抱えるのだった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:44:24.64 ID:5AUlFKF50



キョン妹「キョンくーん! 起きてー!!」

キョン「ぐはっ!」

恒例の妹ダイビングを間近で見た朝の7時半。

あー、本の中にきて良かったなあ、と思いつつ、謹んでキョン宅の朝食をご馳走になり、
僕とキョンは連れ立って学校に向かうことになった。

( ^ω^)「というか、僕が学校に行ってもいいのかお?」

『言ったはずだ。学校側への記憶の改ざん等の操作は済んでいる。
 お前はそのキョンという少年と同じクラスで、しかも彼の隣の席ということになっている』

( ^ω^)「そうなのかお……なんというご都合主義……」

キョン「何やってんだ内藤。行こうぜ」

( ^ω^)「お、おー」

僕とキョンは学校に向かった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:46:02.00 ID:5AUlFKF50

『涼宮ハルヒの憂鬱』でも何度も語られているが、
北高に行くには早朝ハイキングコースを強制的に通らなければならない。
軽い山道を何十分も登るのだが、これがキョンの描写で書かれている通り、かなりきつい。

というか、これは通学コースに向いていないだろ。普通なら通学バスでも用意するべきだ。

体力のない僕は、ひいこら言いながらハイキングコースを登っていく。

( ^ω^)「これはきつい……ふぅふぅ」

キョン「そうか。お前は初めてなんだな。俺はもう慣れてしまったんだが……」

( ^ω^)「絶対おかしいお。世間で言われているキョン君最強説は本当なのかお……」

キョン「なんだそりゃ。俺は普通の人間だぞ」

( ^ω^)「いや、朝倉さんのナイフを避けたり、机をぶん投げたりできるのは、まさしく超人ではないかと……」

キョン「あれはただ必死だっただけで……って、そこまで知ってるのかよ」

それから、朝倉さんがいかに怖かったかをキョンから聞いているうちに、坂の前方に見慣れた背中が見えてきた。

あれは……まさか!



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:47:21.90 ID:5AUlFKF50

キョン「お、谷口じゃないか」

谷口「おーす、キョンと……内藤か? 珍しいな、お前らが一緒に登校してるなんて」

谷口!

その空気の読めなさ、空間介入能力、その他数々の名シーンに登場し、名台詞を連発している男!

まさかこの男にまで出会えるとは……!

谷口「内藤、まさかお前も涼宮ワールドに巻き込まれてるんじゃないだろうな?」

( ^ω^)「へ? いや、まあ……そうと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうかもだお」

谷口「おいおい、あまり涼宮菌を広めないでくれよ。俺に感染したらどうするんだよ」

いや、谷口さん。あなたはすでに感染してますって。かなり汚染されてると思いますよ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:49:47.46 ID:5AUlFKF50

キョン「谷口、お前も内藤のことは知ってるんだな」

谷口「あん? そりゃあ知ってるさ。クラスメイトの名前ぐらいは覚えてるに決まってるだろ」

どうやら、本当に記憶の改ざんが行われているらしい。驚きだ。

谷口「普段は無口なのに、テンションが上がったら何するか分からんからな。妙なキャラクターだと、俺は思うぜ」

( ^ω^)「……いったいどんなキャラ設定をしてるんだお」

『普通だ。よくあるお前のイメージ像を使わせてもらっている』

謎の声がすかさず答える。だから、人と話してる時に話しに割り込むのはやめてくれ。頭がこんがらがる。

『それは失礼した』

谷口「で、今日もキョンは涼宮の怪しい団体にいくのか?」

キョン「……仕方ないだろう。行かなければ死刑らしいからな」

谷口「それは真面目なことで」

2人共、どうして坂を上っているのに平然とおしゃべりができるのだろうか。僕には不思議でならない。
僕がこんなにも息切れしているというのに。
これが本の中のキャラクターの強みというものなのだろうか……



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:51:23.62 ID:5AUlFKF50

谷口「そういえば、今日は3限目の英語、宿題があったのは覚えてるか?」

キョン「ああ。ちゃんとやってきたさ」

ちなみに僕もやっている。
どうやら僕は、昨日もちゃんと学校で授業を受けていたらしく、
その英語の宿題も今日提出しなくちゃならないのだとか。

昨日、キョンと一緒になって必死で解いた。

キョン「あれは結構難しかった。正直投げ出したくなったぐらいだ」

谷口「ま、俺は投げ出したがな」

キョン「……は?」

谷口「忘れたってことさ。WAWAWA、」

( ^ω^)「忘れ物〜」

谷口「内藤、俺の台詞取るなよ」

( ^ω^)「それはすまない。だが、反省はしていない」

谷口・( ^ω^)「あはははは!」

キョン「お前ら、けっこう似たもの同士かもな……」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:52:57.81 ID:5AUlFKF50



で、学校に着いたわけだが。

キョン「ん、ハルヒはまだなのか」

涼宮ハルヒはまだ学校に来てないらしい。
窓際の後ろから2番目の席にキョンが座り、僕がその隣の席に座る。
幸いなことに教科書などは机に突っ込まれていた。
授業時間を無駄に過ごさなくて済みそうだ。

と言っても、高校1年の授業をいまさらやってもしょうがないような気がする。
僕は高校2年生であり、確かに成績は悪いものの1年の内容ぐらいは覚えている。

だから授業なんてサボって、さっさと友達を探しに行きたいと思っていたのだが、



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:55:07.91 ID:5AUlFKF50

キョン「お、ハルヒ」

教室を出て行こうとしたところで、涼宮ハルヒが教室に現れた。
なんということだ。目の前に自分好みの女の子が現れただけで
、外に出て行く気力が完全になくなってしまった。

ああ、かわいい、本当にかわいい。画面越しに見つめるよりも100倍はかわいい。
なんといっても立体映像なのだから。

北高の制服の上に白いコートを着て、頭には黄色いカチューシャをつけている我らが団長様は、
教室の中の誰にも目もくれず、自分の席へと向っていく。

キョン「よう」

ハルヒ「……はよう」

彼女は少し眉を吊り上げ気味にして挨拶を返した。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 21:56:29.72 ID:5AUlFKF50

キョン「なんだ? 機嫌悪いな」

ハルヒ「別に。ちょっと疲れてるだけよ」

キョン「珍しい。お前でも疲れることがあるんだな」

ハルヒ「あたしだって人間だからね。少し疲れ気味なことだってあるわよ。
    今日は全部の授業を睡眠時間にするから、話しかけないで」

そう言って、机に突っ伏してしまった。

本当に珍しい。あんなに元気がないのは、『涼宮ハルヒの憂鬱』の終盤辺りぐらいしか見たことがない。
元気印の太陽のような女の子のはずなのに。

もしかすると、本では描写されていないだけで、こういう日が何度かあるのかもしれない。
彼女だって人間なのだから、疲れることもあるだろう。

まあ、キョンも驚いているみたいだけどね。

( ^ω^)「お疲れのようなのかお?」

キョン「みたいだな。まあ、いいさ。静かに勉強できるのはいいことだ」

ハルヒは突っ伏したまま動かない。本当に寝てしまったようだ。

僕とキョンは顔を見合わせ、肩をすくめる。放っておいた方がよさそうだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:01:28.82 ID:5AUlFKF50

そうして授業が始まった。

高校1年生の授業は簡単……なはずだった。

(;^ω^)(やべえ……まったくわからないお)

先生「ここはsin60°だ。だからここのcosの値も自然に分かってくる。よってここで公式を適用して――」

サイン、コサイン、タンジェントって何だったけ?

『お前、受験でかなり苦労するな』

うるさい、黙れ、僕だって絶望してるんだ。

『参考書でもあてがってやろう。無事に戻ってこれたならな』

くっ……なんという屈辱。こうなったら、僕の頭のよさを思い知らせてやる。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:03:55.83 ID:5AUlFKF50

( ^ω^)(クイズだお。後醍醐天皇が幼少の頃にすごしたお寺は?)

『天竜寺』

( ^ω^)(ブラックホールは無限の何偏移が起こっている?)

『赤方偏移』

(;^ω^)(孫の孫の名称は?)

『玄孫』

(;゚ω゚)(ぼ、僕の好きなキャラは次のうちどれ!? 1:長門っち 2:みくる様 3:団長様)

『全員』



( ´ω`)「……負けた」

『本を舐めるな』



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:05:39.05 ID:5AUlFKF50

それからも四苦八苦しながら授業を受けていると、
隣の席から心地よさそうな寝息が聞こえてきた。

てっきり涼宮ハルヒのものかと思ったが、彼女だけではなくキョンも机に突っ伏して眠っていた。
自分よりも成績がやばそうなキョンなのに、大丈夫なのだろうか?

あ、待てよ。確かキョンはハルヒの手助けで無事に2年に進級できるんだった。
ち、なんということだ。教えてくれる親切な人がいるだなんて、嫉妬するしかない。

僕が頭を抱えて勉強をしている間も、キョン達は気持ちよさそうに眠っている。

ああ、忌々しい、忌々しいったら忌々しい。

『早く勉強しろ』

( ´ω`)(……はい)

なんだか逆らえなくなってしまった。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:07:48.59 ID:5AUlFKF50

授業は淡々と進んだ。何事もなく、平和な日常だった。

本では事細かに説明されない授業風景だが、それもよく分かる。こんな日常のことを書いたって何も面白くない。
読者は非日常を求めるものであり、よって日常のことは少し説明して、
あとは非日常な出来事を次々と語っていけば物語は自然と面白いものとなる。

少なくともラノベというやつはね。そういう種類のものなのだ。

さて、放課後になって、時間が空いた。僕はどうすればいいのだろうか、と考えていると、

『あの団体の傍にいることを推奨する』

( ^ω^)「お? どうしてだお?」

謎の声からのいきなりの進言に、僕は廊下で立ち尽くしながら小声呟いた。

すでに授業が終わってから時間が経っており、廊下に生徒の姿は見受けられない。
だがさすがに、大声で頭の中の誰かと喋るのはあまりにも電波すぎるので、控えめに。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:09:59.05 ID:5AUlFKF50

『今朝も話しただろう。何かが起こるとすれば、あの団体の近くで起こる可能性が高い』

( ^ω^)「そうだったお……けど、こんなに本のキャラクターに接触して大丈夫なのかお?」

こうやって接触を繰り返すたびに、この世界が歪んでいってしまうとか……そういうことにならないのだろうか?

『何がまずい? お前が現実世界で本を読んでいるというだけで、お前はキャラクターと接しているということになるのだぞ。
 情報の進行は一方通行だが、お前はその情報を解釈しながら理解している。決してお前とこの本のキャラクターは無関係ではない』

( ^ω^)「……意味が分からないお」

『この本の世界に来たことが楽しいと言っただろう?
 それでいい。楽しめ。本を楽しむことはなんら悪くはない。それに……』

( ^ω^)「それに?」

『……いい。これは後で話すべきことだ。とにかくあの団体に合流してみろ。何か情報を得られるかもしれん』

謎の声は珍しく動揺したような声になる。何かまだ秘密でもあるのだろうか。
まあ後で話してくれるのならそれでいいけど。

( ^ω^)「じゃあ、ちょっと覗いてみるかお」

SOS団の活動にも興味があるしね。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:11:35.94 ID:5AUlFKF50

というわけで、僕は部室棟へと向かい、その中の文芸部の部室を探した。
原作なら2階か3階ぐらいにあったはずだが、いかんせんちゃんと覚えていない。

これは長いこと探し回らないといけないかな、と思っていたが、意外なところで早く見つかった。

「キョンー!!!」

という大声がある部屋から聞こえてきたからだ。

明らかに涼宮ハルヒの怒鳴り声であり、僕はその声を頼りにようやく部屋を見つけた。

扉の上についている『文芸部』という標識の上に、堂々と『SOS団』という手書きの紙が貼ってある。
ああ、ここもアニメ通りなんだなあ、と思いつつ、僕はその扉をノックした。

ハルヒ「どうぞっ!」

涼宮ハルヒのイライラ声が返ってくる。かなり不機嫌な様子だ。この時期に何かあったっけ?

僕は恐る恐る扉を開いた。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:13:45.32 ID:5AUlFKF50

(;^ω^)「ど、どうも」

ハルヒ「ん? あんたは確か……」
キョン「内藤じゃないか。どうしたんだ、こんな所に」
古泉「おやおや、これは」
みくる「ほえー……」
長門「……」

5者5様の反応が返ってくる。

涼宮ハルヒは団長席でふんぞり返るようにパソコンをいじっており、
キョンと古泉は何かのボードゲームを興じている。
みくる様はメイド服姿で(これがかなりかわいい)お茶をいれ、
長門っちは隅の方で本を読んでいた。

まさしくSOS団の活動そのものであり、僕はなんだか感動を覚えた。

ハルヒ「なに? またあんた? 何か用なの?」

( ^ω^)「えーと……」

涼宮ハルヒの機嫌は相当に悪いようだ。
僕をこれでもかと睨みつけ、今にも視線で人を殺そうとしているかのようである。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:16:31.33 ID:5AUlFKF50

人の憎悪に満ちた視線がものすごく苦手なものの、こんな美少女に睨まれているということがなんだか快感で、
僕はそんな2つの感情の板ばさみになりながら、キョンに助けを求めた。

( ^ω^)「あーあー……僕はちょっとこの団体に興味があって……」

キョン「あ、ああ、そうだったな。ハルヒ、内藤はSOS団に入りたがっているみたいだぞ」

見事に話をあわせてくれたキョン。さすが状況把握の天才。

ハルヒ「そうなの? ふーん……」

彼女はじろりと僕の身体を見定める。あの、有名な半びらきにした目だ。ジト目ともいう。

ハルヒ「……却下。普通すぎて何の面白みもない人間だわ。普通の人間はキョンで間に合ってるのよ」

( ^ω^)「そ、そこをなんとか!」

僕がそう懇願すると、涼宮ハルヒは腕を組んでニヤニヤし始めた。
何か面白いことでも考えているのだろう。それが僕達にとっても面白いかどうかは別問題だが。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:18:31.41 ID:5AUlFKF50

そうしていると、キョンが僕の方へと近付いてきて、小声で言った。

キョン「おい、どういうつもりだ」

( ^ω^)「どうもこうも……友達を探すには、これが一番有効な策なのかもしれないんだお」

キョン「SOS団に入ることがか? やめとけ。絶対に後悔するぞ」

( ^ω^)「けど、謎の声が言うには……」

ハルヒ「うん、分かったわ!」

いきなり涼宮ハルヒが立ち上がった。
椅子の上に乗り、高らかと恒久平和宣言でもするかのように手をあげる。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:20:24.52 ID:5AUlFKF50

ハルヒ「そこまで言うのなら、仮団員として認めてあげましょう!これから3日間、いえ、1週間ほど試用期間を設けるわ。
    アルバイトでも派遣社員でも、まずは試しに雇ってみて、その人の人間性や能力を把握するものだしね。
    SOS団も、たまにはそういうことをやるべきなのよ!」

キョン「あぁ……ハルヒに変な火が点いちまった」

(;^ω^)「そうみたいだお……」

ハルヒ「内藤と言ったわね? これから1週間、あんたがSOS団団員にふさわしいか厳しくチェックしていくわよ!
    私の目は節穴じゃないから、少しでもふさわしくないと思ったらすぐに首を切るわ。
    今の時勢、派遣社員はそういう瀬戸際に立たされているんだから!」

涼宮ハルヒはそう言って、机から1枚の紙を取り出し、黒ペンで何かを書き始める。
キュキュという音と共に出来上がった文字は「団員その4(仮)」の字。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:23:14.56 ID:5AUlFKF50

ハルヒ「これを胸につけなさい! 一日中ね!」

(;^ω^)「え、じゅ、授業中もかお? 家に帰っても?」

ハルヒ「当たり前でしょ。本当なら胸に団員証でも作りたいけど、めんどくさいからこれでいいわ。
    ホッチキスか接着剤で制服にくっつけときなさい」

なんという非常識……いや、これが涼宮ハルヒにとっての常識なのだろう。
別にこの制服をずっと着るわけではないので、それほど痛手にはならないが……心の痛手になること間違いない。

ハルヒ「あんたは団員その1のキョンよりも位が低いのよ。覚悟しなさい。
    我慢して試用期間に耐えて私に認められたら、あんたは晴れてSOS団団員よ。
    で、キョン」

キョン「なんだ?」

ハルヒ「あんたは内藤の面倒を見てやるのよ。最古参なんだから、トレーナーとしてみっちり育ててやりなさい」

キョン「なんで俺が……と言っても無駄なんだろうな」

ハルヒ「さあ、楽しくなってきたわ! さっそく仮団員に仕事よ!
    ジュース買ってきなさい! 100パーセントのオレンジジュースよ!」

(;^ω^)「は、はいぃ!」

これは選択をミスったかもしれない……今頃後悔してきたのだった。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:25:31.11 ID:5AUlFKF50



ハルヒ「これじゃないのよね。私はグレープジュースが飲みたかったの!」

(;^ω^)「そんな、確かにオレンジジュースと……」

ハルヒ「あんたには耳がないの? ほら、ちゃんとグレープジュースを買ってきなさい!」

5分後……

(;^ω^)「ひぃひぃ……ぐ、グレープジュースを買ってきましたお」

ハルヒ「遅いわよ。じゃあ、今度はそこで腹筋しなさい。ジュース買いに行くのにかかった分数×10ね」

(;^ω^)「な、なんで!?」

ハルヒ「SOS団団員たるもの、普段から筋トレしなくちゃならないのよ! さっさとやる!」

(;^ω^)「ひえ〜」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:26:46.35 ID:5AUlFKF50

ハルヒ「キョンにSOS団の歴史について教えてもらいなさい。キョン、ちゃんと教えるのよ! いいわね!」

キョン「あ、ああ」

( ^ω^)「これはまだ楽だお……」

ハルヒ「あさってぐらいにテストするから。90点以下だったら罰金ね。間違えた点数×1000円よ」

(;^ω^)「ど、どんだけ〜」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:29:21.01 ID:5AUlFKF50

ハルヒ「パソコンの調子が悪いわねえ……
    団員その4(仮)、ちょっとコンピ研に行って代えてきてもらって」

( ^ω^)「え、けどさすがにパソコンは……」

ハルヒ「あら? 何? 文句でもあるの? へえ……じゃあ、あんたの家にパソコンはある?
    それでいいわ。持ってきなさい」

(;^ω^)「僕の家にあるのはデスクトップパソコンなのですが……」

ハルヒ「関係ないわ。運賃ぐらい、そっちの業者で勉強しときなさい。サービス精神がないわよ」

(;^ω^)「ひょえー」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:31:31.70 ID:5AUlFKF50



そうして、その日の活動は全て雑用に終わった。

上にあげたもの以外にも、部室の掃除をして、コスプレ衣装にアイロンをかけ、団長の肩を揉んだ。

まあ、肩を揉むのはある意味天国だったから良かったものの、そのほかの指示がかなり無茶だ。

「プールに潜って謎を見つけてきなさい!」っていう命令なんて、
冬を経験している人間の発言とは思えない。

常軌を逸している。
某総書記でも少しはマシな命令を出すぞ。

( ´ω`)「はぁ……」

ああ、胸の「団員その4(仮)」が光ってるねえ。
そういえばこれ、「団員その5(仮)」じゃないのか?
いや、古泉が「副団長」だからこれでいいのだろうか……彼女の思考はよく分からない。
こればっかりは本を読んでいても理解不能だ。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:33:21.65 ID:5AUlFKF50

(;´ω`)「つ、疲れたお……」

キョン「ご苦労さん、としか言えないな」

古泉「ええ。よくあの命令全てをこなせたものです。人間とはあそこまで無茶ができるものなのですね」
みくる「私、感心しちゃいました〜」
長門「……タフ」

ははは、と乾いた笑いを返しながら、僕は帰り道の下り坂を延々と歩いていた。

現在午後6時を回っている。
涼宮ハルヒ団長様は用事があるとかで早々に家に帰り、今は僕と他のSOS団団員で帰路についているところだった。

古泉「何しろ、まさかあなたがSOS団に入ろうとするとは思いませんでした。これも何かの作戦ですか?」

( ^ω^)「えーと……謎の声が、SOS団の近くにいれば何か分かるかもしれないって」

古泉「謎の声、ですか?」

キョン「どうやら何か電波な声が聞こえるらしいぞ」

みくる「へえー、電波な人だったんですかぁ〜」

長門「……」

いや、長門さん、そんな憐れな目で僕を見ないでほしい。こう見えても健全な人間ですから。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:35:28.80 ID:5AUlFKF50

古泉「よく分かりませんが、確かに僕達の傍にいる方が事件は起こるでしょうね」

キョン「どうしてだ?」

古泉「彼の話によれば、その本の主人公は僕達だという話じゃないですか。
   ならば、物語というのはえてして主人公を中心にして回っていくものです。
   推理小説、サスペンス、ホラー、冒険、全ての物語は主人公なしには存在しえません。
   逆に、物語なくして主人公もなりたたないとも言えますが……
   それはさておき、今回の事件もまた、主人公である僕達の周りで起こると考えていいでしょう。
   だからこそ、彼はこの北高に現れたのだし、こうして僕達と合流もしている。
   どこか辺境の場所で事件が起こるということはありえないのです。
   なぜならば、僕達は主人公ですから。どうやってもその事件と関わらなくてはならないのですよ」

( ^ω^)「……さすが、ホ泉は説明が上手だお」

古泉「お褒めにあずかり、光栄です」

キョン「『ホ』の部分を否定しろよ」

あの謎の声の言いたいことがようやく分かってきたように思う。
つまり、SOS団の周りにいれば友達も見つかるということ。
ロシアだとかアメリカだとか、何の関係もない場所にいる可能性は0なのだろう。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:37:42.10 ID:5AUlFKF50

古泉「さて、おしゃべりはこれぐらいにして、それぞれの組織からの報告でもしましょうか」

みくる「は、はい!」
長門「……」

古泉が急に真面目な顔になり、みくる様も少しからだをこわばらせる。

長門っちは頷くだけ。

古泉「僕達『機関』は、今回の出来事に関して間接的ながら協力することになりました。
   あなたの住居に関しても、良いものが用意できそうですよ」

( ^ω^)「それはありがたいお。あの薄い布団だけじゃいつか風邪ひいちゃうと思ってたんだお」

キョン「悪かったな、薄くて」

古泉が所属する『機関』は協力的なようだ。しかし、直接協力してくれないというのが彼ららしい。
おそらく僕のことを頭から信じたわけではないのだろう。
もしかしたら僕が涼宮ハルヒを狙うどこかの組織のエージェントかもしれないので、そのための保険として他の手も打っているに違いない。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:39:33.73 ID:5AUlFKF50

みくる「わ、私の上司は特に何も指示してくれませんでした。多分あんまり興味がないのだと思います……」

キョン「今回のことは既定事項だということか、それとも変数のうちのひとつとしか見てないか……どちらかということでしょうね」

みくる「わ、分かりませんが、多分そうです。けど、私自身は協力したいと思ってます!」

( ^ω^)「ありがとうございますだお。朝比奈先輩」

未来人達は静観の構えか……僕のことを知らないに違いない。元々この物語のキャラじゃないのだから。
よって裏で何かしらの調査を進めているのだろう。もしくは完全にどうでもいいと思っているのか。
まあ、なんでもいいか。

なんか、未来人ってそんなに重要な気がしないし。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:41:28.42 ID:5AUlFKF50

長門「……」

最後に長門っち。彼女は静かに、とつとつと語りはじめた。

長門「……情報統合思念体は、今回の出来事に関して観察に留めることにしている」

( ^ω^)「そうかお……」

長門「ただし、私にはある程度協力する権限が認められている。
   涼宮ハルヒの安全にも関係することと思われるため。
   それに、私個人も協力したいと思っている」

( ^ω^)「ありがとうだお……長門さん」

長門「……」

長門っちはまたコクリと頷いた。
かわいいねえ。どうしてこんなにかわいいと感じてしまうのだろう。

少しの間考えてみたが、長門っちの魅力に関する記述だけでA4用紙30枚は軽く超えそうで、
しかもその理由を書くと長編小説1本は書けそうなのでやめておこう。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:43:44.16 ID:5AUlFKF50

キョン「つまり、ここにいる3人は協力してくれるってことか」

古泉「そういうことになります」
みくる「は、はいっ!」
長門「……」

キョン「良かったな。これなら早く友達を見つけることもできるだろ」

( ^ω^)「本当に、感謝しきれないお。僕も頑張って友達を見つけるお!」

僕は息巻いて、興奮気味に言った。この3人の協力が得られれば、鬼に金棒、すぐに事件も解決に導けることだろう。
だって、本編の事件もこの3人(いや、2人か?)が中心的になって解決してるようなものなのだから。

まあ、キョンの頑張りもあってのことだけど。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:45:56.82 ID:5AUlFKF50

古泉「しかし、その友達というのはいったいどこにいるんでしょうね。
   今日、軽く調査員に探させてみたのですが、どうも不審な人物はこの近辺にはいないようです」

みくる「も、もしかしてその人に関する記憶も改ざんされてるんじゃあ……」

キョン「確かに、それはありえるかもしれん。長門、そういう痕跡はないのか?」

長門「少なくとも、私の探知領域にそういう存在は介入していない」

キョン「そもそも、その友達というのはどういうやつなんだ? そうじゃないと見つけようもないだろ」

当たり前のことを、いまさらになって僕も気がついた。
そうか。この人達は僕の友達のことを知らないのだから、教えなくちゃいけないのか。

そう思って、僕は友達の特徴を要点だけ伝えてみた。

古泉「ふむ……分かりました。明日はその特徴に合わせて調査してみましょう」

みくる「私も友達に聞いてみたりします!」

長門「……」

長門っち、また頷くだけ。けどそれが心強い。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:47:13.78 ID:5AUlFKF50

古泉「それにしても、そのお友達の中には僕と似たような趣味をお持ちの方がいるようで……少々楽しみになってきましたよ」

キョン「古泉、冗談はやめろ。冗談じゃなくてもそういうことを平然と言うのはやめろ」

古泉「失敬。冗談が過ぎましたね」

にこやかに笑う古泉だったが、どうも僕はこの人は苦手だ。
本当に。あの友達に似すぎなような気がする。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:49:14.60 ID:5AUlFKF50

それからは談笑モードになり、僕の世界の話について盛り上がった。
と言っても、それほどこの世界と変わりはないのだけれども。

ああ、あの主題歌が本当にオリコンに入ってることを話したら、彼らはめちゃくちゃ驚いていた。
なんでも、今目下練習中なのだとか。土日にみっちりと練習しているらしい。

キョンなんてめちゃくちゃ愚痴をこぼしていた。
「あんなスピードで踊れるか」「人間の動きじゃない」だとかなんとか。

けど頑張ってくれ。あれがあのアニメの特徴のひとつなのだから。

古泉「では、今日はこの辺で。また明日会いましょう」
みくる「じゃあ、またね」
長門「……」

古泉達とは分かれ道でお別れし、僕とキョンだけが残った。

古泉の話によると、どうやら僕の家の準備がまだ進んでいないらしく、今日もまたキョンの家に泊まることになるらしい。
キョンは別に構わないと言ってくれたが、僕が構う。あの薄い布団だけはもう嫌だ。

キョン「心配するな。今日は押入れを引っ掻き回してマシな布団を引っ張りだしてくるつもりだ」

( ^ω^)「それならまだ安心だお……じゃあ、今日は妹ちゃんとゲームでもするお」

キョン「……少し心配だが、まあいいだろう。たまには妹の遊び相手をあてがってやらんとな」

そうして僕達はキョン宅へと帰っていったのだった。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:51:31.17 ID:5AUlFKF50



キョン妹「上がり!」

( ^ω^)「し、しまった! また負けたお!」

キョン「お前……弱すぎるだろう……」

キョン宅にて。僕は、キョンとキョン妹と共にババ抜きをやっていた。

最初キョン妹が「あそぼー」と部屋の中に入ってきてから始まり、
ならばたまにはトランプでもとキョンが机の引き出しの奥から捜してきて、
僕はババ抜きが得意なので、それなら勝てると思って提案した結果、

僕の惨敗だった。

1位キョン、2位キョン妹、最下位僕、という順番が、10回以上ババ抜きをやって固定されてしまった。
これが噂の格差の固定化というやつか……!



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:53:18.26 ID:5AUlFKF50

キョン「お前は簡単な罠に引っかかりすぎるんだ。
    妹が少しずらしたババを、どうしてそう簡単に取るんだ?」

(;^ω^)「だ、だって、妹ちゃんのウキウキらんらんとした目を見てると、どうしてもそれを取ってしまうものだお!」

キョン「情は捨てろ! 妹のあの目に騙されるな!」

(;^ω^)「そ、それに僕は正々堂々と勝負するのが好きなんだお!
       どんな策略を使われようとも、努力はそれを上回るはずなんだお!」

キョン「どこの熱血少年漫画だそりゃ……」

キョン妹「ねえねえ、次は7並べしようー」

(*^ω^)「は、はーい」

キョン「だから騙されるなっての!」

結局7並べでも惨敗し、僕は小学生以下の脳みそしか持っていないことが明らかになった。

キョンには呆れられ、妹ちゃんには笑われる始末。ああ、なんという屈辱。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:58:48.14 ID:5AUlFKF50

キョン妹「ねえねえ、内藤君はどうしてそんなに弱いのー?」
キョン「それはね。この人がものすごく単純で、馬鹿だからなんだ」

キョン妹「へー、馬鹿なんだー」
キョン「そうだぞ。お前はこんな人みたいに馬鹿になっちゃいけないぞ」

キョン妹「はーい」

妹の教育の種に使われている自分。みじめだ。本当にみじめだ。

( ^ω^)「くっ……いくら馬鹿だとか厨2病だとか言われようとも、僕は負けない!
      僕にも譲れないもの、守りたいものがあるのだから!」

キョン妹「キョンくーん、『ちゅう2びょう』ってなにー?」
キョン「変人のことだ。子供っぽくて、自分が特別だと感じてしまう人とも言う」

キョン妹「へえー、怖いねえ。今の内藤君みたいない人のことだよね」
キョン「そうだ。それに恥ずかしいんだ。本人にも周りにもな。お前は絶対にそういう人になっちゃいけないぞ」

キョン妹「はーい」


( ´ω`)「……」

僕はトランプをなおしながら、2人のコントじみた教育話を震えながら聞くしかなかった。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 22:59:34.86 ID:5AUlFKF50

しばらくしてキョン妹は疲れたのか自分の部屋に戻り、再び僕とキョンだけの空間が訪れる。

ああ、だけどもう話す気力なんてない。あれだけ馬鹿にし続けられれば、もう何も言い返せない。
そうさ、僕は馬鹿で厨2病さ。そうやって生きていくのが僕の人生なのさ。

キョン「おい、内藤。あまり落ち込むな。人間って奴は変わることができるんだから」

(#^ω^)「く、くそおおお!」

最後の最後まで、キョンは毒舌だった。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 23:00:40.19 ID:5AUlFKF50

そうやって馬鹿にし、されつついると、机の上にあったキョンの形態がまた鳴り出した。
着メロは今朝とは違う。確かこれは、ダースベーダーの曲だったような……

あの独特とした重いメロディが鳴り響く中、キョンは携帯のディスプレイを見て軽くため息をつき、電話に出た。

キョン「俺だ。こんな時間になんだ?」

少し機嫌の悪そうな声で答えるキョン。それだけで分かる。相手は多分、涼宮ハルヒだ。

キョン「明日? 明日の放課後ならいつも通りに空いてるが……そうか。
    分かった。じゃあ、明日の放課後は校門前に集合でいいんだな?」

( ^ω^)「何かあったのかお?」

キョンは慌てて人差し指を自分の唇に当てる。静かにしろってことか。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 23:01:27.50 ID:5AUlFKF50

キョン「ああ、なんでもない。テレビの音だ。用件は分かった。ああ、じゃあまた明日な」

ゆっくりと電話を切ったキョンは「やれやれ」と呟いた。

キョン「明日、放課後に不思議探索をやるそうだ。
    学校の後なんて珍しいが、仮団員がいれば不思議が現れるかもしれないとの考えらしい。
    随分嬉しそうだったな。これは明日疲れることになりそうだ」

( ^ω^)「放課後に遊びに行くってことかお? けど、明日の放課後は友達探しをしようと思ってたけど……」

キョン「来なければ死刑、だとさ。お前にも連絡しろと言われた。『死刑』の部分も」

(;^ω^)「……死刑は嫌だお」

キョン「なら、明日の放課後の予定は決定だな。本来は会議のはずだったが、まあいい。どっちも変わらんだろう」

彼はもう一度ため息をつき、「やれやれ」と呟いた。
これは彼の口癖で、一時はなりを潜めていたが、まだ自然と出てきてしまうのだろう。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/25(月) 23:02:18.47 ID:5AUlFKF50

しかし、今は僕も言いたくなる。まさかSOS団に関わることで友達探しの時間が削られてしまうとは思わなかった。本末転倒とでも言うべきか。

まあ、仕方ない。明日は大人しく団長様の言うことに従おう。ああ、そういえば待ち合わせに最後になった人は奢りだとかいう規則があったっけ? 
僕はお金を持ってないので、これはなんとしても避けなくてはならない。
なんらかの力が働いて、これまではずっとキョンが最後になっていたようだが(一度だけ例外があるが)、用心には用心を重ねなくてはならないだろう。

明日のことを考えると少し憂鬱になりつつも、不思議探索にわくわくしている自分もいて、
僕は複雑な思いを抱きながら、その夜を過ごしていた


(『誰かさんの憂鬱 その3』 終わり)



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