( ^ω^)ブーンは色々な本の世界へと旅立つようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:14:44.60 ID:fOfLL3Ks0

『ツンデレの使い魔 その2』

界王拳の反動でしばらく寝込んでいた僕は、その日の晩になってようやく目が覚めた。
ギーシュとの決闘の後すぐに倒れたらしく、他の生徒に担がれて部屋まで運ばれたのだと、ツンから聞いた。

ξ゚听)ξ「いきなり倒れるからびっくりしたじゃない……いったいなんだったの?」

( ^ω^)「うーんと……ちょっと技を使ったら、その反動で色々と」

ξ゚听)ξ「技ねえ……まあ、いいわ。今日はそのまま休んでなさい
     ギーシュのことなら心配いらないわ。あっちも相当懲りたみたいだし。
     これからは貴族と決闘しようだなんて思わないでよね」

僕は、床にしかれた藁の上で寝ころがされていた。
調子の悪い時ぐらいベッドで寝かしてくれてもいいのに、と思ったが、
まあ今のツンは貴族なのでプライドが許さないのだろう。

彼女は昼間と変わらない格好で、何やら僕の周りをうろちょろとしながらぶつぶつ何かを言っている。
寝ている所の周りを歩かれると、非常にうざったい。
「やっぱり身体が――けどなあ」などと呟いているのはいいが、少しは落ち着けないのだろうか



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:16:03.11 ID:fOfLL3Ks0

グゥ

僕のお腹が突然なり始めた。当たり前か。この世界に来てから一度も食事をしていない。
昼は雑用で忙しかったし、時間がなかった。
さすがに何か食べないと辛いな。

( ^ω^)「あのツン、何か食べ物でもないかお」

ξ゚听)ξ「食べ物? あ、ああ〜……あるわよ。はい、これ」

そう言ってツンが出してきたのは、パン1個と冷めたスープだった。
パンは何も中に入ってない、飾り気のないコッペパン。
そしてスープは、クルトンが上に乗った濃いコーンポタージュ。しかし冷めてる。

目の前にそれらを置かれて、僕はひとつ大きなため息をついた。

( ´ω`)「……ひもじい。せめてクリームパンを要求するお」

ξ;゚听)ξ「し、仕方ないでしょ! それだけしか取ってこれなかったんだから!
     今日はそれで我慢しなさい! ふんっ!」

ベッドの上に座ってふんぞり返るツン。
心なしか語調が弱いのは、少しでも申し訳なく思ってくれているからなのだろうか。

食べないよりはマシなので、僕はコッペパンを一つまみし、口に含む。
おいしい。コッペパンがこんなにおいしいと感じたのは初めてかもしれなかった。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:17:50.39 ID:fOfLL3Ks0

食事の後しばらくして、僕とツンは寝床につくことになった。
「本来なら使い魔に着替えを手伝ってもらうはずだけど、今日は勘弁してあげるわ!」とのたまうツン。
それはありがたい。さすがに友達の下着姿を見て平気でいられる自信はない。

電気(いや、正確に言えば火か)を消して、ツンはさっさとベッドの中に入ってしまう。

ちなみに僕の寝床はやはり藁の上だった。ツンから心もとない薄い布をもらったが、これで十分だと言えるはずがない。
今の季節は春に近いようだが、それでも寝る時ぐらいは暖かくしたいものだ。
にしても、ハルヒの世界を含めて、まともな寝床についたことは一度もないような気がする。
僕には運がないのだろうか。

僕はひもじく縮こまりながら、目を瞑ろうとする。
すでに隣からはツンの寝息が聞こえてきた。寝るのが早い。
そりゃあ、あんな厚い布団を被ってたら当たり前か。

こっちはうすら寒くて眠れないのに。

はあ、どうするべきか。気を紛らわせる意味も含めて、これからのことについて考えてみよう。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:19:24.37 ID:fOfLL3Ks0

ツンは……原作どおりに進めば、僕と恋愛関係になったりするのだろう。
原作では、色々な事件が起こるにつれて、主人公の斉藤にルイズが惹かれていくというものだった。
今のところ原作どおりに進んでいるので、このままだと僕とツンは……

いや、まあ、これはありえない。そうなったとして、僕の方が耐えられない。
確かに僕はツンのことが嫌いじゃない。いや、むしろ好きの部類に入るかもしれないけれども、
こんな本の世界で別キャラクターと化したツンとムフフなことをしたいとは思わない。
恋人になるのなら、正々堂々と、ツン本人に告白するべきだ。

『ほう、その辺りは誠意があるのだな』

( ^ω^)(失礼な……僕にも理性というものがあるんだお)

恋愛フラグに関しては、まあ僕がとぼけたりすることで回避していこう。
さっさとツンを元に戻せば、それで全てが元通りになるわけだし。
ツンと相思相愛になったまま元に戻さないという選択肢もあるが、これをやると謎の声がうるさそうだし。

『当たり前だ。ちゃんと自分の目的を果たせ』

( ^ω^)(分かってるお)



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:21:47.04 ID:fOfLL3Ks0

『ならいい。で、だ。これから何が起こるのか、お前は知らんのか?
 その中に元凶につながりそうなものはないのか?』

( ^ω^)(そう言われても、あんまりこの物語については覚えてなくて……
       確か主人公は土のゴーレムと戦っていたような気がするお)

『土のゴーレムか……それはなんだ? 何か敵でも現れるのか?』

( ^ω^)(多分そうだったはずだお。けど確証はないし、いつ起こるのかもよく分からないお)

『ふむ……どこに元凶が潜んでいるのか分からんが、このまま原作どおりに進むのなら、お前はその土のゴーレムと戦うのだろう』

( ^ω^)(そうだお……って、けっこうやばいかもしれないお)

記憶にある限り、あの土のゴーレムはめちゃくちゃ大きかったような気がする。
斉藤が苦戦している場面が目に浮かぶ。剣が折れたりしてなかったか?

( ^ω^)(これは対策を考えておいた方がいいかもしれないお)

ギーシュと戦った時に使った界王拳はリスクが高すぎる。もう少しスマートに強くなりたい。
自分が強くなりつつも、リスクを背負わない技や能力……何かあるだろうか。



13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>>11寝息だ。すまん] 投稿日: 2007/07/04(水) 14:24:08.22 ID:fOfLL3Ks0

('A`)『邪気眼! 邪気眼!』

(#^ω^)(あれは、僕自身が厨2病っぽくなるから嫌だお)

('A`)『ちっ……なら、アニメやら漫画やら小説やら、なんでもいいから試してみろよ。時間はあるだろ』

( ^ω^)(ゆきりんの情報操作は1日3回しかできないんだお。なるべく無駄使いはしたくないお。
      って、そう言えば1回だけ使った場合は回復するのにどれだけかかるんだお……)

('A`)『3回で24時間なんだろ? なら、1回分回復するのに8時間ってところだろ』

( ^ω^)(そっか……うーん、やっぱり使いどころをちゃんと考えて、ちゃんとした情報操作を行わないといけないお)

('A`)『うーん……楽器やアルファベットを武器にしたり、指輪で身体強化したりとかすればいいんじゃね?』

( ^ω^)(……それはまずいだろう、色々と)

しばらくの間、情報操作について考え、何個か良い案が思いついた所で自然と眠気が強くなる。
僕はいつの間にか眠っていた。

寒い夜は更けていく。普段とは違う寝床で寝るということに、だんだんと慣れてきていた。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:26:37.98 ID:fOfLL3Ks0



ξ゚听)ξ「……」

( −ω−)「ねむねむ……zzz」

ξ#゚听)ξ「さっさと起きろー! この馬鹿使い魔ー!」

(  ゚ω゚)「うひゃああ!」

怒鳴り起こされた朝。
このご主人様曰く「使い魔は主人より早く起きて、一日の用意を済ませておくものなの!」らしい。
まったく理不尽極まりない。僕は朝が苦手で、ブラックコーヒーの一杯でも飲まなければ絶対に目が覚めないのだ。
そんな人間にいったい何を求めるというのだろう。

しかし言うことを聞かないとあの魔法の杖が怖いので、僕はせっせと準備を進める。
タンスから服を取り出し、彼女の生着替えを見ないように注意しながら(着せろという命令は断固拒否した)、乱れた布団を整え、目覚めのミルクを用意する。
朝食は食堂で食べるようなので、少なからずほっとした。料理は苦手だ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:28:24.03 ID:fOfLL3Ks0

ξ゚听)ξ「よし、いくわよ」

( ^ω^)「いってらっしゃい」

ξ#゚听)ξ「あんたもくるの!」

(;^ω^)「はいはい……」

相変わらずのツンっぷりに僕はため息をつくしかない。
今日で2日目なのだから、もう少しやわらかい態度で接してくれてもいいじゃないか……
いつになったらデレが拝めるのだろう。これじゃあ、ツンデレじゃなくツンツンじゃないか。

しばらく廊下を歩いていると、とても大きな部屋にたどりついた。
長机が何個も置かれ、縦に100メートル近く伸びている部屋の中を、僕とツンは連れ立って歩いていく。
すでに他の生徒達は集まっていて、椅子に座って友達同士雑談をしていた。
時々、僕が近くを通ると物珍しそうに目を向けてくる。それほど人間の使い魔は珍しいのだろう。

だが、そんな好奇な視線にはもう慣れた。洗濯に行くだけでもこんな目で見られるのだから、慣れるに決まっている。
問題は、テーブルに置かれた豪華な食事の方だった。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:30:04.34 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「これはまた豪華な……」

朝だというのにこの量はなんなのだろう。
茶色にこんがりと焼かれたローストビーフ、綺麗な黄色をしているスクランブルエッグ、
様々な野菜の詰まったサラダ、いかにも甘そうなミックスジュース、そして色とりどりのパン。

フランス貴族のような食事をするんだな、この学生達は。って、確かこの人達も貴族だっけ。

そんな料理を見つめながら、僕はぐぅとお腹を鳴らす。
昨日のコッペパンとスープだけでは明らかに足りない。もう今にも倒れそうな気分だ。
だが、僕は分かっている。ここにある料理達を僕が食べることなどないことを。
そう、ここにある料理は全て貴族である生徒達専用のものであり、使い魔がこんな豪華なものを食べられるわけがないのだ。
原作でもそうだったはず。この食堂に入った時になって、主人公の斉藤がひもじい表情で床に座っている場面が頭に浮かんだ。

はあ、まあいいさ。またパンとスープだけだろうけど、食べないよりはマシさ。
あわよくば、貴族達が落とした食料を拾って食べよう……人間としてのプライドなど、もうとうの昔に捨てた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:31:50.58 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「はあ……じゃ、僕は床に座るお」

ξ゚听)ξ「よく分かってるじゃない。そうよ、あんたの食事はそれ」

ツンが椅子に座ると同時に、床に置いてある白い皿を指差す。
そこにあるのはやはりコッペパンとシチューのみ。
僕はそれを見てげんなりとする。分かってはいても辛いものだ。

コッペパンをつまみあげ、口に頬張ろうとした瞬間、ツンが「待ちなさい」とストップをかけた。

( ^ω^)「なんだお? 僕は腹が減って仕方ないんだお」

ξ゚听)ξ「……あんたには食前の礼儀というものがないようね。まあ、いいわ。ほら、これをあげる」

呆れた顔をした彼女が差し出したのは、小皿に取り分けられたローストビーフとスクランブルエッグ。

ξ゚听)ξ「あんただって、それだけじゃ辛いでしょ。昨日のこともあったし、ご主人様からのせめてものお情けよ」

(  ゚ω゚)「おおおおお! ありがたや〜、ありがたや〜」

ξ#゚听)ξ「ちょっと! 私の手まで食べようとしないでよ!」

彼女の滅多に見れない優しさが垣間見れたような気がする。
やっぱりツンデレはツンツンだけじゃなくて、デレ要素も入ってくれないと困る。僕の身が持たない。

ローストビーフとスクランブルエッグの味が僕の口に広がる。甘くておいしい。生き返る心地だった。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:34:06.02 ID:fOfLL3Ks0



朝食を終えると、僕は学院長室へと連れていかれた。
ツンの話では、どうやら僕とギーシュが決闘したことに対して話がある、と学園長からのお達しがあったのだとか。

ξ゚听)ξ「どうしましょう。やっぱり貴族との決闘だなんて、罰せられるんだわ」

( ^ω^)「……大丈夫だお。そんなことはないお」

ξ゚听)ξ「どうしてそう言えるのよ! あんた、この世界のこと何にも知らないでしょ!」

( ^ω^)「いや、まあ、そうとも言えるかお」

確かにちゃんとは知らない。けど、この本が10巻ぐらいまで出ていることは知っている。
こんな所で主人公が罰せられては、物語は進まない。本だって1巻の途中で終わってしまうはずだ。
主人公は、危機を迎えたとしても作者権限によりその危機を乗り越えられるものなのだ。

だから僕がちゃんと主人公をしておけば、少なくともツンと僕に何かの危害が及ぶことはないはず……多分ね。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:36:11.53 ID:fOfLL3Ks0

学院長室前に着くと、ツンはその扉を静かにノックした。
「入りたまえ」という声が中から聞こえる。

緊張した面持ちで部屋に入るツンと、至極あっけらかんとした表情でいる僕。

部屋に入ると、そこはいかにもな学院長室だった。もう少しひねりでもつけてほしいものだ。
どうして部屋の真ん中に高価な机が置かれているという設定を、誰も超えられないのだろうか。不思議でしょうがない。

「楽にしていい。それほど大事な話ではないからの」

その机に座っているおじいさんが、笑顔を浮かべつつそう言った。
あれが学院長か。直球だねえ。

ξ゚听)ξ「オスマン学院長。ブーンは何か罰を受けるのですか……?」

オスマン「いや、大丈夫じゃ。ギーシュ君との決闘じゃったかの?
     あれはギーシュ君からけしかけたものだと聞いているし、彼にも良い薬になったじゃろ」

オスマン氏というらしいご老人。
長く白い髭をはやし、穏やかな笑顔を浮かべているその人からは、何も厳格なオーラなど感じない。
ああ、確かセクハラ魔人だったっけ。

その隣に立っている人。秘書らしい緑の髪をしたナイスバディな女性を見て、僕はピン、と何か頭ではじけたような感覚を受けた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:38:47.02 ID:fOfLL3Ks0

なんだろうか。自分はあの女性を知っている。確か、何か重要なキャラだったような気がするのだが……

オスマン「まあ、今回は決闘が何故起こったかについてブーン君に話を聞きたいと思っただけじゃ。
     だが、見た限り彼には特に問題もなさそうだし、今回のことはこれで終わりとしよう」

ξ゚听)ξ「ありがとうございます!」

オスマン「そうじゃ。彼と2人で話をしたいので、いいかの? ミス・ヴァリエール? ロングビル君?」

ξ゚听)ξ「え……あ、はい。分かりました」
ロングビル「はい、承知しました」

秘書の名前はロングビル……けど、これは偽名で……

その瞬間、僕の頭の中で記憶の爆発が起きた。

土のゴーレムに乗っている人間……それは、この緑の髪の女性。
そう、彼女は敵に内通している人で、この後、僕が戦うであろう人なのだ。

(  ゚ω゚)「あ、ああ……!」

ロングビル「私の顔に何かついていますか?」

(;゚ω゚)「あ、いえ、その……」

ロングビル「? おかしな人」

ツンとロングヒル氏が外に出るのを呆然と見つめることしかできない僕。
どうする。どうすればいい。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:41:25.48 ID:fOfLL3Ks0

学院長と2人残された後も、この衝撃の真実に呆然としていた。

オスマン「うん? どうしたんじゃ?」

( ^ω^)「あああああ、あの秘書さんはまずいお! この後、あの人は変わっちゃうんだお!」

オスマン「ロングビル君のことか? 彼女は有能な秘書じゃが……」

( ^ω^)「け、けどあの人はこの後、僕と――」

『やめろ』

僕がしどろもどろに学院長に話をしていると、謎の声がそれを止めた。
驚いた僕は、そこから何も言えなくなり、顔を俯かせることしかできなかった。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:43:20.14 ID:fOfLL3Ks0

オスマン「よく分からんが、まあいい。君に話とは、君に刻まれるはずであったルーンについてじゃ」

( ^ω^)「……」

オスマン「本来、メイジに使い魔として召還されれば、その使い魔の身体にはその証としてルーンと呼ばれる文字が刻まれるはずなのじゃ。
     だが、君の身体にはそのような文字は一切現れておらん。コルベール君がそう言っていたのだから間違いないじゃろう」

( ^ω^)「ルーン……」

オスマン「何故なのかはわからん。ヴァリエール嬢といい君といい、どうやら君達は少々特殊なメイジと使い魔のようじゃ。
     これから君達に何が起こるか分からんが、もしルーンが刻まれる兆候があれば、わしかコルベール君に言っておくれ」

( ^ω^)「……分かったお」

オスマン「では、話はそれだけじゃ。ああ、そう。ギーシュ君のことはあまりいじめないでやってくれ。
     彼にも彼の事情があるというものじゃからの」

( ^ω^)「分かりましたお……」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:44:59.48 ID:fOfLL3Ks0

学院長の話が終わると、僕はすぐに部屋を出る。結局学院長の話はほとんど聞いていなかった。
それほど僕にとって重要そうな話じゃないし、どうでもよかった。

問題はあの秘書さんのことだ。

僕は部屋を出た瞬間に走り出し、物陰に隠れて「どういうことだお!」と謎の声に向かって怒鳴りつけた。

(  ゚ω゚)「あの人は悪人だお! この後僕と戦う人なんだお!」

『ああ。この本の筋書きではそのようだな』

( ^ω^)「なら、早くみんなに知らせてあいつをやっつけないと……!」

『だから、待てと言っているだろう。それはできない』

謎の声の冷静な声が頭に響く。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:47:11.23 ID:fOfLL3Ks0

『証拠はあるのか?』

( ^ω^)「しょう……こ?」

『そうだ。証拠だ。彼女がお前の敵であり、これからあの土のゴーレムを使って戦うということを、お前は証明できるのか?
 お前が知っているというだけではダメだ。客観的な証拠が必要になる』

( ^ω^)「けど……真実だお!」

『だが、この世界ではその真実はまだ表に出ていない。ゴーレムに乗るという事実も起こっていない。
 分かるか? たとえお前が【あの人は敵です! 悪人です!】とわめいても、この世界の人間がそれを信じると思うか?
 たとえ未来で彼女が悪行を働くということが確定していても、今この時にはまだ悪行を働いたという事実自体が存在しないのだ。
 だから、証拠が必要になる。彼女が悪人であるという客観的な証拠がな』

( ^ω^)「くっ……」

確かにそうだ。ここで僕が「あの人は悪人です!」と誰かに言っても、証拠がない限り信じてくれる人なんていない。
逆に僕の頭が疑われるに違いない。
今のこの時間では、ロングビルはただの有能な秘書であり、彼女が悪人だと判明するのはずっと後のことなのだ。

で、彼女が悪人だという証拠を僕が持っているかと言えば、そんなものは持っているはずがない。
僕の記憶だけが証拠なのだ。これではどうしようもない。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:48:55.17 ID:fOfLL3Ks0

『お前が取るべき行動は2つだ。1つは、』

ξ゚听)ξ「ちょっとブーン、そんなところで何してるのよ」

謎の声からの助言を聞く前にツンに見つかってしまった。
途端に謎の声が聞こえなくなり、僕は仕方なくツンの方へと振り替えし、笑みを浮かべる。

( ^ω^)「い、いや、考え事だお」

ξ゚听)ξ「何を?」

( ^ω^)「あ〜……お腹が空いたなあ、と」

ξ゚听)ξ「相変わらず食欲だけはあるのね……昼まで我慢しなさい。それより、洗濯物を済ませてちょうだい」

( ^ω^)「あい」

引っ張られるようにして連れていかれる自分を、ふがいなく思う気持ちなどなくなった。
もうツンに怒鳴れるのは慣れたし、雑用をこなしていれば彼女もそう怒ることはない。
従順にしていれば波風は立たないものなのさ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:51:01.82 ID:fOfLL3Ks0

ξ゚听)ξ「……学院長になんて言われたの?」

( ^ω^)「へ?」

ξ゚听)ξ「2人だけで何を話してたの? やっぱりギーシュとの決闘が……」

( ^ω^)「あー、いや、大丈夫だお。ちょっとした世間話だお」

ξ゚听)ξ「……ならいいけど。あ、そうだ。午後から出かけるから、そのつもりでいなさい。
     雑用は早めに済ませておくのよ」

( ^ω^)「あいわかりました」

ξ゚听)ξ「今日はえらく素直ね……感心感心」

( ^ω^)「じゃあ、さっそく洗濯に行ってくるお!」

そう言って僕はいち早く駆け出し、部屋へと向かった。
「あっ、ブーン……」というツンの声が後ろから聞こえた気がしたが、今はそれどころじゃない。
あの秘書さんについてちゃんと考えておかないとまずい。これからのことについて考える必要があったのだ。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:53:12.97 ID:fOfLL3Ks0

洗濯物を部屋から持ってきて、僕は駆け足で中庭に向かう。そこの水場で洗濯をするためだ。
2回目なのでもう一人でできる。パンツのゴムを切るなんてヘマはしない。

( ^ω^)「で、結局どうするんだお」

僕は洗濯をしながら謎の声に向かって問いかけた。

『ふむ、先ほどの続きだな。選択肢は2つ。
 1つは、辺りを走り回り、聞き込みをし、部屋に侵入するなどして
 あの秘書が悪人であるという証拠を見つけること』

( ^ω^)「探偵になれ、ってことかお」

『そういうことだ。そしてもう1つは……これが一番手っ取り早いかもしれんな。
 お前は、これから何が起こるかをわずかながら知っている。
 どんな事件が起きて、誰が犯人なのか。もう分かっているな?』

あの秘書さんが土のゴーレムに乗ってこの学院を潰す、だったような、そうでなかったような。
ん? 確か彼女は盗賊だったか? なら、何かを盗むのだろうか?
そうだ。確かにそうだ。で、その盗むものとは確か……



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:54:52.54 ID:fOfLL3Ks0

『どうやら分かっているようだな。なら話は簡単だ。お前が先回りして、彼女の悪事を止める。
 彼女が何かを行おうとしたその現場を押さえ、お前が彼女を捕まえればいい。
 被害は最小限で済むだろう』

( ^ω^)「……けど、そのためにはあの土のゴーレムに勝たないといけないお」

『そのために、お前にはあの人形があるのだろうが』

( ^ω^)「確かに。けど、まだどんな風に情報を操作するか決まってなくて……」

『ならば早くすることだ。彼女が行動を開始するのがいつなのかは知らんが、
 強大な敵が現れても倒すことのできるような技や能力を思いついておけ。
 これから旅を続ける間もそれは必要なことだ』

( ^ω^)「わかったお」

洗濯をしながら作戦会議。なかなかシュールな光景ではないか。

鼻歌混じりに洗濯を終え、外の物干し場に干していく。まるで主夫。
いやあ、僕って家事能力も多少はあるのかもね。誰でもいいから女の人に寄生したら楽に人生過ごせるのだろうか。

そんな不純なことを考えていると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:56:39.65 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「お?」

タバサ「……」

それは、無口で無愛想な読書好きの女の子、タバサだった。
片手に杖、片手に本を持ち、めがね越しにこちらを見つめてくるその冷たい目を見て、やっぱり僕はあの人を思い出してしまう。

似すぎじゃね? いや、似ているというか本人だって。

タバサ「……これ、読んで」

( ^ω^)「はい?」

彼女が差し出したのは一冊の本だった。
この世界の文字で書かれているため自分には読めないが、えらく難しそうなものだということは分かる。
分厚いし、表紙の絵も幾何学模様の何かだった。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 14:59:03.48 ID:fOfLL3Ks0

タバサ「必要になる。絶対に」

( ^ω^)「そう言われても……どんな本なんだお?」

タバサ「魔法の本」

( ^ω^)「どうしてそれを僕に」

タバサ「……あなたはこの世界について何も知らない。魔法はメイジの大きな武器。
    これからあなたが生き残るには、魔法についてちゃんと知っておかないと」

( ^ω^)「ふむふむ」

タバサ「……私も、あの秘書は怪しいと考えてる」

( ^ω^)「へ?」

彼女は驚くべきことを口にした。
この世界の人間は、まだあのロングビル秘書が悪人だということに気付いていないはずだ。
ましてや、タバサのような主要人物が知っているだなんて……本編ではそんな描写はなかったぞ。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:00:59.29 ID:fOfLL3Ks0

タバサ「けど、証拠がない。私も気をつけてはいるけど……」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってほしいお。どうして君はあの秘書さんの正体に気付いているんだお?
      それに僕がそのことを知っていると、何故分かるんだお?」

タバサ「あの秘書が怪しいとは、前々から思っていた。これに理由はない。勘のようなもの。
    次の質問に関しての答えは……あなたが学院長室前の廊下の端で何かこそこそしていたので、魔法であなたの話を盗み聞きしてしまったから。
    それについては謝る。ごめんなさい」

( ^ω^)「いや、いいけど……」

この女の子、予想以上にできる子かもしれない。

タバサ「1週間後、使い魔同士で強さを競う大会がある」

( ^ω^)「へ? 初耳だお……」

タバサ「もしかしたら、その時に彼女は行動を起こすかもしれない。用心して」

彼女はそう言うと、ぺこりと頭を下げて踵を返し、去っていこうとする。
僕は、思わず「た、タバサさん」と呼び止めてしまい、振り返った彼女の顔を見て意味なくどぎまぎしてしまった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:03:02.80 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「あの、ありがとうだお」

タバサ「……いい」

今度こそタバサは歩みを進める。
途中、あの胸の大きなキュルケと顔を合わせ、「何してたの?」「何も」と2人で話している姿を最後に、消えていった。

これはまさかの展開だ。彼女がロングビル秘書のことを疑っていたとは……
もしかすると、これから何が起こるかもある程度予測がついているのだろうか。

ただのルイズの友達だと思っていたが、これは思わぬ伏兵が潜んでいたものだ。

1週間後、使い魔同士が強さを競い大会。
そこで事が起こるかもしれない。

よく頭に刻んでおこう。1週間の間に、魔法使いへの対策とかも考えておかないといけない。
タバサからもらった本を有効活用しよう……文字が読めないけど。

( ^ω^)「……ま、なんとかなるお」

僕はそうやって楽観的に考えるだけだった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:04:48.39 ID:fOfLL3Ks0



午後になって僕とツンは一頭ずつ馬になって街へと繰り出した。
ツン曰く「買い物に行く」とのことだが、例によって例のごとく行き先は教えられていない。
まったく、いつも連れまわされてばかりで、こっちは疲れるばかり。
これじゃあまるでハルヒとキョンみたいだ。

街に入ったところで馬から下り、近くの馬屋に預けて今度は徒歩で賑やかな商店街へと入っていく。
ここは魔法学院の近くでは一番大きい街らしく、野菜や果物から、日常に使う雑貨まで、様々な露店が軒を連ねていた。

まるで函館や黒門で見る市場のようだ。活気に溢れ、そこかしこから売り子の呼び声が聞こえる。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:07:10.23 ID:fOfLL3Ks0

ξ゚听)ξ「見えた、あそこよ」

( ^ω^)「あれは……」

そんな喧騒の中を歩いていくこと数十分、ツンの目的の店が見えた。
ちなみに、僕とツンは手を繋いでいる……なんてことはない。
僕がそれとなく提案してもツンは大げさまでに顔を赤くして断るだけだった。
まあ、僕とツンの仲じゃ当たり前か。

で、ツンの示した店は、どうやら武器屋のようだった。
扉にはおあつらえ向きに槍が×印を作っているマークが飾られており、RPGの世界かここは、と突っ込みたくなる。

店に入ると、まず思ったより狭いことに驚いた。
外見の半分ぐらいしか店内スペースがないように思う。
そうか。多分住居の半分は店の人が住むのに使っているのだろう。
だって、刀剣の横に洗濯物が干してあるし。

……どうも信用ならない店だ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:09:05.98 ID:fOfLL3Ks0

店主「へ、へいらっしゃい! これはこれは、貴族のお嬢様がこんな店へ……
   私らのような古ぼけた店に、貴族の方の目にかなうような品があるとは思えませんが……」

奥から出てきた店主がこびへつらうような笑顔でツンの横に立つ。
どうもこういう人間は苦手だ。反吐が出る。

ξ゚听)ξ「私じゃないわ。使い魔の武器を探しに来たの」

店主「へ、へい。そうでござりやしたか。近頃の使い魔さんは武器をお持ちのようで」

( ^ω^)「ぶ、武器?」

ξ゚听)ξ「何驚いてるのよ。あんた、私の使い魔なんだから私を守る義務があるのよ。
     その義務を果たすことができるように、わざわざ武器を買ってあげるの、感謝しなさい」

( ^ω^)「はあ……けど、僕は」

武器を持つ趣味なんかない。
それに、人殺しに使うような武器なんて持ちたくない。
もし戦うことがあれば長門(小)がいれば十分だし……って、うん? この場面、小説でも見たぞ。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:11:13.56 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)(あー……そうかそうか。ここで斉藤が武器を手に入れるんだったお)

確か……クリフハンガーだか、デブフリンガーだか、デルフリンガーだか、そんな名前の剣だったはずだ。
で、実はその剣は知性を持ち、喋ることもできるインテリジェンスソードで、斉藤の大きな武器になる。

そう、そうだ。斉藤はその手に刻まれたルーンの力で、どんな武器でも扱えるとかいう能力を持っていなかったか?
だんだんと思い出してきた。
ということは、ルーンを持たない自分は斉藤の物語とかなり食い違っている。

この違いはどこから生まれたのだろう?



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:13:13.69 ID:fOfLL3Ks0

店主「貴族の使い魔さんの持つ武器なら、こういうのはどうでやんしょう? 
   はるか遠いゲルマニアの刀匠が作り上げた至高の一品!」

ξ゚听)ξ「へえ、綺麗な剣ね。黄金に輝いて……ブーン、どう思う? って、何してるのよ」

( ^ω^)「え? ああ、ちょっと伝説の剣を探してるんだお。あ、ちなみにそっちの剣は偽物なんで買っちゃいけないお」

ξ゚听)ξ「へ?」

店主「な、何をいきなり! どこにそんな証拠があって!」

( ^ω^)「証拠なんてないけど、知ってるんだお。僕はその剣、絶対に買わないお」

ξ゚听)ξ「……ま、あんたが言うならそれでいいわ。さっさと自分にあった武器を探してちょうだい」

( ^ω^)「分かってるお」

貧相なカゴに入れられたボロい剣の束をひっくり返し、あのデブフリンガーとかいう剣を探してみたのだが、
どういうわけかそれらしき剣がどこにもない。

どうしてだろうか。ここで斉藤は伝説の剣を手に入れて、後々のピンチを切り抜けるはずなのだが……



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:15:42.01 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「……ないお」

ξ゚听)ξ「何探してるのよ。まさか、本当に伝説の剣でも探してたの?」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「馬鹿らしい。だいたい、あんたは剣術なんて使えるの? 確か、ギーシュをやっつけた時は徒手空拳だったじゃない」

( ^ω^)「まあ、確かに……」

長門(小)の力を使えば、剣術の達人にだってなることができるだろうが、
たかが剣を使えるだけじゃあ、これから先の戦いに勝てる可能性は低い。
もっと派手な技や能力を使わないと、せっかくの情報操作が無駄になる。

ξ゚听)ξ「あのグローブなんかはどう? 拳を痛めないために必要なんじゃない?」

( ^ω^)「あれかお……って、あれは!」

僕は壁にかかった、格闘戦用のグローブを見て、目を見開いた。

どうして、どうしてあれがここに!?

(  ゚ω゚)「あれにするお! 絶対にあれがいいお!」

ξ゚听)ξ「よし、じゃああれにするわ。店主、あれちょうだい。それと、その黄金の剣、捨てとかないと後で警備隊に通報するから」

店主「うぅ……営業妨害で訴えてやる」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:17:26.76 ID:fOfLL3Ks0



そうして僕とツンは武器屋を出た。

( ^ω^)「ふんふん、やったお〜」

僕は紙袋を抱えて、上機嫌で歩いていく。
ちなみに武器屋は最後、泣きながら笑顔を浮かべるという器用な芸当で見送ってくれた。
黄金の剣を売れなかったことがそんなにショックだったのだろうか。

ξ゚听)ξ「たかがグローブひとつでそんなに喜ぶなんて……あんたも単純ね」

( ^ω^)「これは男のロマンなんだお。ここについている紋様がまた、味のあるものだし」

その時だった。
人ごみの中を突き抜ける、女性の「きゃー!!」という悲鳴が響き渡ったのだ。

( ^ω^)「な、なんだお!」

僕は驚いて周りを見渡す。
すると、自分達の進行方向に、何やら人だかりができているのが見えた。

その人だかりの中心で、屈強な男3人、女性を取り囲んでいる様子がわずかながら垣間見えた。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:19:05.80 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「あれは!」

ξ゚听)ξ「よく見えないけど、まあ平民同士のいざこざみたいね。面倒だし、別の道から帰りましょう」

(  ゚ω゚)「何言ってるんだお! 助けないと!」

ξ゚听)ξ「どうしてよ。たかが平民達が騒いでるだけじゃない。その内警備兵がやってきて、騒ぎも収まるわ」

こいつは……本当にツンか?
人が困っているのを見過ごすような、そんな人間だったか?
違う、ツンはそんな人じゃなかった!

(  ゚ω゚)「そういう問題じゃないんだお!」

僕は一目散に駆け出していた。
ツンのことなんてどうでもいい。今は目先の危機をなんとかしなくてはならない。

僕は走りつつ、ポケットから長門(小)の小箱を取り出し、スイッチを押す。

出てきた長門(小)は何も言わず、こちらを見つめるだけ。
僕は彼女に対し、行うべき情報操作を口で伝える。

長門(小)「了解」

人形は静かに答えた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:20:47.71 ID:fOfLL3Ks0

男1「へへー、いいじゃねえかよ。少しぐらい俺達に付き合ってもらってよ」
男2「へなちょこな彼氏はどっか行っちまったんだから、気にすることねえよ」
男3「おらおら! 見世物じゃねえぞ! 散れ散れ!」

女性「きゃー!! 助けてー!」

どうやら男達が強引に女性を連れ出そうとしている様子だ。
周りの人は、男達の屈強さに恐れをなしているのか近付こうとしない。

男1「よし、じゃあまずは裏道の酒場に行こうぜ。あそこで一杯酒を飲めば、すぐに良い気分になるさ」

女性「いや……やめて」

(  ゚ω゚)「待てい!」

人ごみを掻き分け、僕は男達の前へと息巻いて飛び出した。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:23:19.93 ID:fOfLL3Ks0

男2「ああん? なんだよ。俺達になにか用か?」

( ^ω^)「嫌がる女性を無理に連れ去ろうとしている不埒な輩め! この僕が成敗してくれるお!」

男3「何者だ!」

(  ゚ω゚)「貴様らに名乗る名などない!」

そう叫んだ瞬間、僕の第一歩はすでに踏み出されていた。

男達は危機を感じて構えを取るが、僕の足はそれ以上に早かった。
反応が遅い男達の懐に飛び込み、僕の右手にはめられたグローブがキラリと輝く。

その手の甲には、太陽の紋章が刻まれていた。

(  ゚ω゚)「いくぜ!」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:24:08.63 ID:fOfLL3Ks0

           BOON VS MAN1



              ROUND 1




              FIGHT!



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:25:24.56 ID:fOfLL3Ks0

(  ゚ω゚)「ボデーが甘えぜ!」

男1「ぐはぁ!」

僕の右フックが男1のボディに直撃する。
その瞬間、手袋の太陽の紋章が光り、拳の先に炎が生み出され、それが敵を焼き尽くす。

そう、この手袋をつければ、手のひらから赤い炎を出せるのだ!



……いや、長門(小)のおかげだけどね。

(  ゚ω゚)「燃えろー!!」

男2「ぎゃあああ!」

男2の腹をわしづかみにし、そこから炎を発して吹き飛ばす。
弐百拾弐式 琴月・陽……だったかな?



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:26:57.24 ID:fOfLL3Ks0

男3「ひ、ひいいい!」

残っていた男1人が逃げ出そうとするのを、僕は見逃さなかった。

急いでその男の襟足を掴み、身体を揺さぶって重心を崩す。
体勢が崩れたところを狙い、相手の腰の下に自分の腰を入れて、背負い投げ一本、地面に沈めてやる。

男3「ぐは!」

そして……

(  ゚ω゚)「はああああ!」

手に炎を集中させ、気合の1発!



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:27:47.55 ID:fOfLL3Ks0



                  くらいやがれー
         ぎゃああ!  ミミミ       彡彡
         ∧_∧ ミミミ   ∧∧ 从彡彡彡彡
         ( ´_ゝ`)ミミミ   (∀` )ノ) 彡彡彡
         (    )ミミ ,..-ー'´ ̄´ / 彡彡
         │ │ │ ミミミ `'ヌ /i < 彡彡
         (__)_)   ミ (_) ` J


炎に巻き込まれた男は、全身に軽度の火傷を負う。
断末魔と共に地面に沈んだ男3は、そのまま動かなくなり、僕の勝利を静かに告げていた。


          K.O. PERFECT!

           WINNER BOON!



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:30:12.69 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「ふ……あんたらじゃ燃えねえな」

僕は最後に、自分の指先についた火を息で吹き消して、キメ台詞を放った。

('A`)『……はっきり言おう、つまらんよ、お前の技』

( ^ω^)「え! どうしてだお! めちゃくちゃかっこいいお!」

('A`)『いや、なんというか……気持ち悪い。今時KOFってのもなあ。
   外の人もそう思うって。絶対ドン引き。間違いない』

(#^ω^)ビキビキ

厨2病にとやかく言われる筋合いなんてないね。まったく。かっこいいじゃないか、手の平から炎を出すだなんて。
グローブつながりで、「うおおおお!」と叫びながら悪魔とフュージョンするのもいいかもしれない。「喰らえ! 悪魔光線!」なんてね。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:32:31.34 ID:fOfLL3Ks0

( ^ω^)「もしくは護符を巻きつけて身体強化とか、それもいいかも……」

女性「あ、ありがとうございました!」

( ^ω^)「あ、いやいや、困った人を助けるのは当たり前だお」

ξ#゚听)ξ「ちょっとブーン! 何してんのよ! 勝手に!」

お礼を言う女性の前に強引に割り込んできたツン。その顔はめちゃくちゃ怒っている。

( ^ω^)「何って……人助けだお」

ξ#゚听)ξ「あんたは私の使い魔なんだから、私から離れちゃダメでしょ! まったく、使えないんだから!」

( ^ω^)「け、けど、困った人がいたら助けないと……」

そう言うと、ツンはギロリと助けられた女性の方を見る。
一瞬女性はたじろいだが、すぐに持ち直し、僕の方を見て
「本当にありがとうございました」と改めて御礼を言い、つつましくも去っていった。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:33:48.98 ID:fOfLL3Ks0

ξ゚听)ξ「……ふん! まあいいわ。人助けなら仕方ないわね」

( ^ω^)「ほっ、分かってくれたかお」

ξ゚听)ξ「まあ、私も女の人が絡まれているなんて見えなかったし……
    『ほっとけばいい』なんて言って、あの人にも悪かったわね。
     どうせ平民の男同士の喧嘩だと思ってたわ」

( ^ω^)「……ツン」

ξ゚听)ξ「さあ、帰るわよ。さっさと帰って、宿題をやらないといけないわ」

もしかしてツンは、宿題を後回しにして僕の武器を買いに連れてきてくれたのだろうか。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 15:34:48.36 ID:fOfLL3Ks0

ツンのことがよく分からない。
友達だった時のツンは、気性は荒いものの優しくて、人が困っているのを見過ごせないタイプだった。

で、目の前にいるツンは、普段とは違って差別的で、平民のことなんて屁とも思ってないのに、
時として優しさを見せることもある。
今もそうだ。もし彼女が「女性が男に襲われている」と分かっていれば、彼女は真っ先にあの男達を倒そうとしたのだろう。

優しさと非道さ……その2つが彼女の中でせめぎ合い、混ざっているような感じだった。
この本のキャラ設定、ミスってないか?

素朴な疑問を感じながら、僕はツンと一緒に馬屋へと向かうのだった。



『ツンデレの使い魔 その2』 終わり



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