( ^ω^)ブーンは色々な本の世界へと旅立つようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 15:59:31.21 ID:mkKwFqUZ0

『ツンデレの使い魔 その3』


1週間なんてあっという間だと思う時がある。
テレビを見ていると『あれ? この番組って昨日にやってなかったか?』と勘違いして、実は1週間すでに経っていたり。
今日が何曜日か分からず、ネットの掲示板を見て『月曜日が来ること』に怯えふためいている住人を、なんだか不思議な気分で観察してみたり。
この1週間で何をやっていたのかまったく思い出せなかったり。

ニート生活を送っていれば、そういう時が絶対にある。

で、だ。
ニートではないものの、それに近い使い魔生活を送っていた僕は、その感覚をまさに今受けていた。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:00:57.33 ID:mkKwFqUZ0

時は使い魔生活が始まって3日目のこと。
僕はツンの部屋を鼻歌混じりに掃除していた。

彼女は、汚すことは得意でも綺麗にすることは苦手らしく、1日でも放っておけば部屋はすぐにめちゃくちゃになる。
そのため1日に2回は掃除する必要があり、僕は朝一番から彼女が散らかしたタンスやらベッドやらを片付けなくてはならなかった。

しかし、嫌だというわけでもなかった。
こうやって天気の良い日に洗濯するのは実にすがすがしいものだし、
自分が掃除した部屋の中で寝転ぶのも悪くはない。

箒とちりとりを両手に持ち、せっせと部屋の隅にたまっている埃を取るのもまあまあ楽しい。
異世界にやってきたというのにこの生活観溢れる時間は何なのだろうか。

だが、まあこうやって雑用をしていた方が気も落ち着くし、充実感だってある。
まるで緑茶を飲んだ後のような、ほっとするような気の抜けるような安心感が僕の心に広がるのだ。

とまあ、そんな時間を僕が過ごしていると。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:02:57.15 ID:mkKwFqUZ0

ξ゚听)ξ「明日はついに使い魔同士が闘う大会……ブーン! 私に恥をかかせないでよね!」

( ^ω^)「へ? もう明日なのかお?」

いきなりそんなことを告げられて僕はきょとんとカレンダーを見つめた。

赤丸のついた日が大会のある日で、×印がついているのがもう過ぎ去ってしまった過去の日。
で、大会の2日前まで×印がついていたのだ。
おかしい。確かに明日、大会がある日になっている。

( ^ω^)「あれ……確かタバサちゃんは1週間後だって……」

さて、冒頭の感覚について話を戻そう。

確かに、人間というのは変化のない日常を送り続けていると、
時間が流れるのを早く感じ、「あれ? もう3日経ってたのか」と驚くことはある。
これは科学的にも証明されている。

それは確かだ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:06:19.26 ID:mkKwFqUZ0

しかし、だ。
僕の受けている感覚はそれとは完全に違っていた。
僕は驚くどころか、呆然とするしかなかった。

なぜならば、僕にとって「昨日」が、ツンと一緒に武器屋に行き、タバサから大会について聞いた日であり、
今日はそれから1日経っただけ。本来は6日後に大会があるはずだったからだ。

つまり……昨日大会について聞いて、今日朝起きて掃除をしていたら、
あれ? 明日大会がある?
という状況に僕は陥っていたのだった。

(;^ω^)「あ、あれ? どうしてだお? いつの間に5日間も過ぎてるんだお」

ξ゚听)ξ「この1週間、あんたは私をえらく困らせてくれたわ。
     ツェルプストーの馬鹿の誘惑に引っかかったり、仕事をサボって平民メイドといちゃいちゃしたり……
     胃に穴が空く思いだったわ」

( ^ω^)「い、いや、ちょっと待ってほしいお。僕はそんなことをした記憶は……」

ξ゚听)ξ「けど! 明日の大会で名誉回復すれば、私もあんたをちゃんと認めてやるわ!
     あれだけの強さがあれば、どんな使い魔も敵じゃない! 絶対に優勝するのよ!」

( ^ω^)「ほえー……」

これはどういうことだ?



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:09:26.21 ID:mkKwFqUZ0

『どうやら、勝手に時間を進められたようだな』

謎の声が聞こえて、僕は未だに何やら講釈を垂れているツンを無視して、そちらに集中した。

( ^ω^)(勝手にって……誰が? というか、そんなことできるわけないお)

『できる。なぜならば、この世界は本の世界だ。ページをめくれば、時間などいくらでも飛ばすことができる。
 プロローグからエピローグに飛ぶことだってな。
 おそらくこれを行ったのは……奴しかおるまい』

( ^ω^)(元凶……かお?)

『ああ。何が目的か知らんが、これは困ったことになったぞ。明日大会となると、例の悪人が活動を開始するはずだ』

( ^ω^)(そうだお……『破壊の杖』を奪いにくるはずだお)

昨日の晩、僕は謎の声と共に頭をほじくりかえしまくり、脳内改造をするかのごとく考えまくって、
この本のあらすじをようやく思い出していた。
と言っても、一巻の最後までだけだが。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:12:34.11 ID:mkKwFqUZ0

しかし、それだけでも十分だった。その思い出した内容というのが『破壊の杖』の存在だった。
『破壊の杖』とは、この学院の宝物庫に納められている『携行型M72ロケットランチャー』のことだ。
それは、かつて過去に日本からこの世界へと偶然放り出された1人の兵士が持っていたもの。

この学院の学院長は昔、危機に陥った時に彼に助けられた。
だが、その兵士はこの世界に放り出された反動からか死んでしまい、
学院長が彼の持っていたそのロケットランチャーを遺品として大切に保管していたのだという。

で、あのロングビルという盗賊さんはその『破壊の杖』を手に入れようと企んでいるというわけだ。

確かに、ロケットランチャーなんてものは、この科学の発達していない魔法世界では脅威の兵器だろう。
ただし、携行型なので弾は使い捨ての1発こっきり。
斉藤が土のゴーレムを倒すのに使ってしまい、それ以降の物語では出てこなくなった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:14:03.38 ID:mkKwFqUZ0

( ^ω^)(……対策、あんまり練りこまれてないお)

『ああ』

盗む者と盗まれる物が分かっていれば、対策も立てやすい。
そう思って僕はある程度、どうやってそれを阻止するかについて考えてはいたのだが……
まさか、ここまで予定が前倒しにさせられてしまうとは思わなかった。

『しかし、考えていないよりはマシだ。今晩、また作戦を練り直すことにしよう。
 どうも嫌な予感がする。奴が時間を早めたということは、あちらも何か行動を起こすのかもしれん』

( ^ω^)(明日が決戦というわけかお……)

ξ゚听)ξ「高貴なるヴァリエール家の使い魔として、あんたは明日の戦いに挑む。
     それを肝に銘じておくのよ。プライドと誇り、騎士道精神に賭けてね。
     ……け、けどあんまり無茶はしちゃだめよ。大会とはいえ、怪我をしないとは限らないんだから。
     あんたは私の使い魔なんだから、私の所有物をあんたは大切にしなくちゃいけないのよ」

ツンが喋り続けているのを聞き流しながら、僕は明日のことに不安を覚えるのだった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:15:59.94 ID:mkKwFqUZ0



実況『さあ! 始まりました! トリステイン魔法学院内、使い魔対抗戦!
   今年も活きのいい使い魔たちが召還され、本当に結果が楽しみですね! カケフさん!』

カケフ『やはり今年はね、タバサ君のドラゴンが有力だと思いますよ。
    彼女のシルフィードは、他の使い魔とは体格が段違いですし、彼女自身にもよく懐いている。
    1つ頭が抜けているような感を受けますね。
    ただし侮れないのがゼロのツンの使い魔でしょう。彼の力は未知数ですから』

実況『はい、その通りですね。大方の予想ではタバサさんのシルフィードが勝つとされています。
   では、カズシゲさんはどう思われますか?』

カズシゲ『僕はね、みんなが精一杯頑張ってくれたらいいと思いますよ』

実況『そうですか。では、そろそろ第一試合の始まる時間のようですね。
   今回の対抗戦、実況は安部憲幸、解説はカケフさん、カズシゲさんでお送りしていきます』



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:18:23.97 ID:mkKwFqUZ0



大会の日がついにやってきた。

その日、トリステイン魔法学院はお祭り騒ぎに興じていた。
驚いたことにこの大会、近くの城からの国賓を招いたり、貴族や有名人がたくさんこの大会を見物しにくるほどのものだった。
どうしてこんな一魔法学院の大会をそんな人達が見に来るのだろう、と疑問に思うのだが……

しかし、周りの人間は熱狂振りを隠せないでいた。
中庭には特設武闘会場が作られ、その周りには観客席も用意されている。3000人は入る大掛かりなものだった。

そして、その武闘台の周りには露店が立ち並び、
そこでは人気のある生徒のキャラクターグッズや、現地の名物だとか飲み物だとかが売られており、
本当に天下一武闘会みたいな様相を呈していた。

まさか、ここまで大掛かりな大会になるとは思っていなかった僕は、それらの風景を目にして呆然とするばかりだ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:19:46.44 ID:mkKwFqUZ0

( ^ω^)「こ、こんな大会だったかお……?」

『どうにも魔法世界らしくないな。ここにも何らかの影響が及んでいるのか……』

ξ゚听)ξ「ブーン、行くわよ。使い魔は控え室でマスターと一緒に待機するの」

( ^ω^)「は、はあ」

朝起きていきなり着替えさせられ、
その上一昨日(いや正確に言えば1週間前か)に買ったグローブも着けさせられて連れてこられたのが、この中庭だった。

朝早くから大会は始まるらしく、お祭り状態となっている周りをよそに、僕は選手控え室と貼り紙のされたプレハブ小屋に通された。

そこには、ツンと同じく最近になって使い魔を召還した生徒達が大勢待機していた。

キュルケ「あら、ツンとブーンじゃない」
タバサ「……」
ギーシュ「おやおや、ようやく来たのかい」
モンモランシー「大丈夫なのかしら」

そこには見たことのある顔もいる。僕はこの1週間で知り合いも増えた……らしい。
キュルケとは、あわやムフフな関係になるところだっとか。覚えていないことが悔やまれる。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:21:17.40 ID:mkKwFqUZ0

キュルケ「ま、いいわ。ブーン、この大会に出るのなら容赦はしないわよ。私のサラマンダーの強さに驚くことね」

キュルケは足元にいる火を吹くトカゲを撫でながら、色目使いを忘れずにそう言った。
ヒトカゲなら尻尾の火を消せばいいだけなんだけどな。

タバサ「……」

( ^ω^)「タバサの使い魔はどこにいるんだお?」

タバサ「外。私のシルフィードは大きすぎて、この部屋に入らないから」

( ^ω^)「ああ、そうかお」

タバサの使い魔、シルフィードは白いドラゴンだ。
さすがに控え室に入るはずもなく、外で待機させているのだろう。
あのドラゴンが他の使い魔と戦うなんて……はっきり言って無茶がすぎると思うのだけれども。

ギーシュとモンモランシーはこちらのことを完全に無視して、何やらおしゃべりをしていた。
その足元には、モグラとハツカネズミがいる。それぞれギーシュとモンモの使い魔だ。
あの2人、浮気騒動から仲直りでもしたのだろうか。
1週間という期間を飛ばされてしまうと、どうしても状況が把握できないことが多い。
まあ、どうせギーシュはまだまだ浮気性でヘタレキャラなのだろうけど。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:23:49.68 ID:mkKwFqUZ0

ξ゚听)ξ「ブーン、いいわね。ちゃんと勝ってくるのよ。勝たなきゃお仕置きだからね」

( ^ω^)「……足でいじめるとか?」

ξ#゚听)ξ「……馬の鞭で叩いてあげるわよ」

(;^ω^)「それはひどい」

僕は太陽の紋章の入ったグローブをはめて、周りをもう一度見渡した。
こんな使い魔たちと戦わなくちゃならないだなんて……本当に大丈夫なのだろうか、自分。

と、ふと、部屋の隅に立っている1人に目をとめ、僕は奇妙な感覚を覚えた。

その人は黒いローブに身を包み、顔をフードで隠したまま壁に寄りかかって動かない。
メイジなのだろうけれども、他の生徒とは風貌がまるで違う。

( ^ω^)「……あんなキャラいたかお?」

記憶の中では、あんな陰気なキャラはいなかったように思う。
この小説は、基本的に明るいおちゃらけた雰囲気で、それほど暗いものは出てこなかったような気がするのだが……

ξ゚听)ξ「出番よ、ブーン」

( ^ω^)「あ、分かったお」

僕は奇妙に思いながらも、ツンの言う通り舞台へと向かう。

さて、今日は色々と忙しいことになりそうだった。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:25:42.11 ID:mkKwFqUZ0



実況『さあ、始まった使い魔対抗戦。ちゃくちゃくとカードが進む中、今大会の注目の2選手がついに登場です!』

審判『赤コーナー! ゼロのツンの使い魔ー、ないとおおおお! ホライゾオオオオン!』

実況『今、噂の人間の使い魔が入場してきました。白い特設格闘場に降り立つ、奇異の使い魔。
   その実力は計り知れず、以前は貴族と戦い、それに勝利したと噂されています!』

カケフ『非常に面白い戦いになると、僕は思いますよ。
    人間の使い魔というのは聞いたことがありませんし、果たしてどのような能力を持っているのかが見ものです』

カズシゲ『頑張ってほしいですね』

実況『そうですね。今、内藤ホライゾン選手が武闘台へと経ちました。
   縦横50メートルの広い武闘台。観客は一杯。多くの人の拍手に迎えられ、内藤ホライゾン選手は少々緊張気味のようです』



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:29:29.21 ID:mkKwFqUZ0


審判『青コーナー! 雪風のタバサの使い魔ー! シィィィルフィィィィドオオオオ!』


実況『そして、反対側からは優勝候補であるシルフィードが現れました!
   長い歴史を誇るトリステイン魔法学院ですが、これほど見事なドラゴンを使い魔とした例はほとんどありません!
   力も伊達ではなく、おそらく全使い魔の中でもトップクラスの実力を持っているでしょう!』

カケフ『果たして内藤君がどのようにシルフィード君と戦うか、そこが見所ですよ』

カズシゲ『でかいなあ』

実況『さて、今審判が両使い魔とメイジにルールの説明を行っているところです。
   ルールは簡単。どちらかの選手が気絶、もしくは降参するか、場外に出れば負けになります。
   また、メイジが魔法で援護するのは禁止。メイジは命令とアドヴァイスのみです。
   使い魔は基本的に何をしてもOKですが、命に関わるような技は固く禁じられています。
   さあ、いよいよ始まります!』

審判『両選手、前へ!』

実況『ゆっくりと、内藤ホライゾン選手とシルフィード選手が前に出ます。
   近付けば近付くほど、その体格差に目を見張ります。内藤ホライゾン選手が米粒のようです』


審判『……ファイ!!』



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:30:25.96 ID:mkKwFqUZ0

実況『試合が始まりました! さっそくシルフィード選手が内藤選手に近付き、その大きな前足を突き出します!
   しかし、内藤選手は間一髪で横にジャンプし、避けた!』

カケフ『これは危ないところでしたね。内藤選手にとって、1発でも攻撃を受ければそれで終わりですよ』 

カズシゲ『怖い怖い』

実況『さて、内藤選手、立ち上がってどうするのか? おや? ポケットから何かを取り出したぞ?
   武器の使用も認められていますが、いったい何を取り出すのか?』

カケフ『あれは……小さな箱のようですね』

実況『はい、そうですね。小さな箱を取り出した内藤選手ですが……
   しかし、再びそれをポケットにしまいこんでしまいました。
   いったい何をしたかったのでしょうか』

カズシゲ『箱の中にお弁当でも入ってたんでしょうかね。あはは』



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:32:14.93 ID:mkKwFqUZ0

実況『内藤選手、おもむろに戦闘体勢を解きます。そして……
   あー!! なんということでしょう! 内藤選手、シルフィード選手に背を向けて、後ろに歩き出しました!
   そしてそのまま、武闘台の外に出る!』


審判『じょ、場外! シルフィード選手の勝利!』


実況『これは前代未聞の出来事が起こってしまいました! なんと内藤選手!
   自分から戦闘を放棄し、場外負けになってしまったのです!
   なんということでしょう! これはメイジであるゼロのツンの指示なのでしょうか!』

カケフ『人間の使い魔が何をするのか楽しみでしたが……まさかこのようなことをやるとは、違う意味で予想外ですね』

カズシゲ『若い世代が台頭してきたことに感激して、自ら負けを選んだんですよ。
     やー、某仙人のような人だなあ』

実況『雪風のタバサとシルフィード選手は呆然としています! 当たり前でしょう!
   このような事態を誰が想像していたでしょうか! 注目のカードである内藤ホライゾン選手対シルフィード選手!
   内藤選手の場外負けとなってしまいました!』



あっけない幕切れに、会場は困惑の渦に巻き込まれていた。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:34:29.43 ID:mkKwFqUZ0



ξ#゚听)ξ「なにやってんの、この馬鹿使い魔―!!!」

(;^ω^)「こ、これには訳があって」

大会1回戦、僕はタバサのシルフィードと当たり、そして負けた。
しかも、僕がわざと場外に出て。

控え室の中で、僕はツンに叩かれていた。
怒る気持ちはよく分かるのだが、馬の鞭を本当に持ち出すのはやめてほしい。

ξ#゚听)ξ「どうしてわざと場外に出たのよ!?」

(;^ω^)「あんまり無駄な戦いはしたくないんだお」

普通の学生である僕には、力なんてまったくない。腕立て伏せ20回もできないぐらいだ。
だから、本当の実力でシルフィードに勝てるはずはない。それは分かる。

勝つには、最強の人形である長門(小)の力を借りなくてはならないのだが……
長門(小)の力は使用回数に制限があるのだ。
これからのことを考えても、大会なんかで無駄に力を使ってられない。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:35:37.40 ID:mkKwFqUZ0

ξ#゚听)ξ「どうしてあんたはいつもこう、私を困らせるのかしら!
      戦って負けたのならまだしも、わざと負けるだなんて……」

( ^ω^)「あの、ツン、あのですね……」

『ブーン、そろそろ用意しておかないと、いつ来るか分からんぞ』

( ^ω^)「それは分かってるけど……」

ξ#゚听)ξ「何が分かってるのよ! あーもう! 明日からご飯抜きよ! 永遠に!」

( ^ω^)「うひゃー」

ツンはぷりぷりしながら控え室を出て行った。
彼女には悪いことをした。使い魔である自分がヘマをすれば、彼女も笑いものになる。
それだけは避けたいが故に、とりあえず使い魔対抗試合には出てみたのだが……

今回は色々と事情が重なったのだから仕方ないと思ってほしい。ツンにもね。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:37:32.01 ID:mkKwFqUZ0

キュルケ「ほんと、どうしたの? わざと負けるだなんて……タバサも少し残念がってたわよ」

遠くからツンの怒りっぷりを眺めていたキュルケが、今度は話しかけてくる。
彼女のサラマンダーは見事一回戦を突破しており、このままだとタバサのシルフィードと当たることになるだろう。

( ^ω^)「まあ、色々と……」

キュルケ「ふーん……まあいいわ。ブーンは私達の闘いっぷりを観戦しててね!」

そう言って、キュルケは投げキッスと共に去っていく。

( ^ω^)「はあ」

『時間がないぞ。この大会中に奴は来るのだろう?』

( ^ω^)「分かってるお。じゃあ、そろそろいくかお」

僕はポケットから長門(小)の小箱を取り出す。


さあ、盗賊でも捕まえにいこうか。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:39:20.34 ID:mkKwFqUZ0



大会は順調に進んでいた。
前評判通り、タバサのシルフィードは勝ち進み、キュルケのサラマンダーも残っていた。
ギーシュとモンモランシーの使い魔は、戦闘向けではないので1回戦負け。これは仕方ない。

他にも大勢の使い魔が戦い、勝利の美酒に酔い、敗北の涙を流す。
大会は最高潮。学院内の全ての人間が観客席に押し寄せ、その祭りを見届けていた。


だが、そんな中、ちょうど大会の会場とは正反対の中庭にて、僕は物陰に隠れていた。
事前調査で、この中庭に面する塔の屋上に『破壊の杖』があると判明しているのだ。

そして、僕の記憶と照合した結果、この場所に盗賊は現れ、土のゴーレムを使って『破壊の杖』を奪取することも知っている。
だから僕はここで、彼女を止めるために待機していた。

準備は万端。後は結果を待つばかり、というわけだ。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:40:58.70 ID:mkKwFqUZ0

( ^ω^)「……来たお」

誰かが近くにやってきた。

茶色いローブを着て、顔はフードに隠れて見えない。
体型からして女のようで、予想通りこの中庭に入ってきて、塔の方を見つめている。

あれがロングビルの真の姿。

『……用意は?』

( ^ω^)(万全!)

盗賊は、塔の方をしばらく見つめていたかと思うと、おもむろに杖を取り出す。
そして、口を動かしてぶつぶつと何かを言っている。

しばらく経つと、地面に異変が起きた。
地震のような揺れが起きたかと思うと、盗賊の立っている地点を中心に土が盛り上がり、
ひとつの塊を形成していく。

そう、それが盗賊であるロングビルの能力だった。
ただの土に命を吹き込み、人形と化す。

巨大なゴーレムを作るという、驚異的な能力なのだ。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:43:07.60 ID:mkKwFqUZ0

盛り上がる土はどんどんと巨大になっていき、人の形を呈していく。
盗賊はその上に乗って笑みを浮かべていた。
ゴーレムはだんだんとその形を整えていき、ついにはマンションの3階分ぐらいまでの高さまでなったところで完成。

巨大な土のゴーレムの誕生だった。

おそらくあれで、この塔の最上階にある宝物庫の扉を破壊するつもりなのだろう。
あそこは厳重な魔法の封印がされていると聞いた。

( ^ω^)「今だお!」

僕は物陰から飛び出し、ポケットからあの小箱を取り出す。
加えて、もう1つの手にはある物があった。


それは、タバサからもらった本。


( ^ω^)「ゆきりん! 情報操作! この呪文を唱えるんだお!」

長門(小)は小箱から出てきてすぐに「了解」という返事をし、超高速早口を炸裂させる。
それと共に本のある一ページが開かれ、そのページが光りだした。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:45:38.96 ID:mkKwFqUZ0

盗賊「なに! 誰!?」

盗賊が僕のことに気付くが、もう遅かった。
呪文はすでに唱え終わっていたのだ。

土のゴーレムがこちらへ歩き出そうとするのと同時に、その身体に異変が起きる。
それまで泥や土の塊でできていたはずのその身体が、急速に崩れていったのだ。
それも当たり前。その身体は、密度が高くてかたまりやすい土から、白い砂へと変わっていったからだ。

タバサからもらった魔法の本に書いてあった魔法。
長門(小)は本ならなんでも読めるらしく、彼女に読んでもらいながら盗賊対策をやっている途中でこの魔法が有効なことに気がついた。

ある物質を別の物質に変える錬金の魔法。
これで土を砂に変えてしまったのだ。

盗賊「くっ! 錬金か! だが、もう一度土に変えてしまえば!」

( ^ω^)「無駄だお! ゆきりんの情報操作を重ね合わせた魔法! ちょっとやそっとじゃ破れないお!
       ついでにここら一帯の土に魔法をかけられないようにしておいたお!」

盗賊「く、くそっ!」



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:47:37.85 ID:mkKwFqUZ0

いくら杖を振ってもゴーレムを作り出せないことに業を煮やしたのか、盗賊は踵を返して逃げ出そうとする。

だが、ここで逃がすわけがない。僕はグローブをつけて、第2の情報操作を長門(小)に命じた。
途端に体に力が溢れ、手から炎が湧き出る。

( ^ω^)「いくぜ!」

地面を蹴り、一気に盗賊との距離を詰める。
魔法使いとの戦いにおいて重要なのは、相手に魔法を使わせないことだ。
この世界では、杖をふるうことによって魔法が発動するものらしい。
ならば、杖をかざすまえに近付いてのしてしまえばこっちのもの。

盗賊「くっ!」

( ^ω^)「ボデーががら空きだぜ!」

右フック→肘鉄→右ストレートのコンボを、盗賊に放つ。炎は使う必要がない。
あまり女性を殴る趣味はないし、気絶させてしまえばそれで済むはず……!

だが、その時、一筋の影が僕の目の前を横切った。

(  ゚ω゚)「なっ!?」

右拳が誰かに止められていることに気付き、僕は目を見開いた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:49:16.61 ID:mkKwFqUZ0

「……」

( ^ω^)「だ、誰だお!」

「ふっ!」

僕と盗賊の間に突然割り込んできた存在。それは控え室で見た、黒いローブの誰か……いや、声からして男だった。
僕の腕をひねり、器用に重心を移動させて僕を投げ飛ばそうとする。

だが、足腰をふんばってそれに耐える。
一瞬、両者の動きが止まった。

( ^ω^)「くそっ!」

ハイキックを出すものの、その男は華麗に避けてしまう。
僕が体勢を立て直す前に男は後ろに下がって距離を取り、背中から剣を取り出した。

謎の男「はあっ!」

息つく間もなく切り込んでくる謎の男。
なんとか身体をねじらせて避けるものの、男の攻撃は止まらない。
正確に急所を捉えてくるその攻撃を、僕は避けることしかできなかった。

2振り、3振りと連続して攻撃が続くごとに、僕はだんだんと追い詰められていく。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:51:15.89 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「う! は!」

かなりの剣の腕前だった。
こっちは格闘ゲーム界のヒーローの能力を持っているというのに、一度も反撃できない。

どういうことだ、これは。

謎の男「おりゃ!」

( ^ω^)「っと!」

首を狙ってくる剣をしゃがんで避け、アッパーで反撃しようと拳を固める。

「ブーン!」

だが突然後ろから声が聞こえて、僕の意識が一瞬だけそちらに向いた。

謎の男「そこだ!」

その隙を謎の男が見逃すはずもなかった。
腹に重い蹴りを入れられ、意識が飛びかける。

なんとか踏ん張り、反撃を仕掛けようとするものの、
次にやってきた剣の柄による顎への攻撃は、致命的だった。

ガツン、という鈍い音。

(  ゚ω゚)「ぐ……は」

脳が揺らされる。頭の奥がぐらりと揺れ、僕は気付く間もなく地面に落ちていた。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:54:35.30 ID:mkKwFqUZ0

ξ゚听)ξ「ブーン!」

僕を呼んだ声はツンだった。
どうしてここに? と問うこともできず、僕は地面の感触を感じながらツンがこちらに寄りかかり、心配そうな顔で覗き込んでくるのを見るしかできなかった。

ξ゚听)ξ「あ、あんた達、いったい何者!」

謎の男「……」

男は何も答えず、後ろを振り向いた。
そこには盗賊の姿が。

盗賊「これはいったいなんなのよ……」

謎の男「土くれのフーケ」

男の、高いけれどもよく伸びる声が響く。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 16:55:39.45 ID:mkKwFqUZ0

フーケ「な、なによ」
謎の男「宝物庫はあの塔の最上階だ。封印は俺が解いたから、早く『破壊の杖』を盗んでくれ」
フーケ「え、あ……どうして私のことを……」

謎の男「色々あるんだよ」

男の口元が笑みの形を作る。誰だ? いったい、誰だ?
男はそのまま歩いて門の方向へと歩いていく。

謎の男「……あの森でまた会おう、ヴァリエールさん」

ξ゚听)ξ「え……?」

男がそう呟きつつ、剣を背中にしまい、フードをしっかりと被りなおした。
僕は、消えていく背中をしっかりと見つめていた。

フーケ「な、なんなのかよく分からないけど、『破壊の杖』、確かに頂くわ!」

ξ゚听)ξ「『破壊の杖』? い、いったいなんのことなのよ!」

フーケ「じゃあ、お嬢さんはそこにいてちょうだい。邪魔しないでよ!」

土くれのフーケが塔の中へと入っていく。
ツンはそれを呆然と見つめるだけで、助けを呼ぶこともできない状態のようだった。

それを最後に、僕の意識は沈んだ。


『ツンデレの使い魔 その3』 終わり



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