( ^ω^)ブーンは色々な本の世界へと旅立つようです
- 142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:15:48.90 ID:mkKwFqUZ0
『ツンデレの使い魔 その4』
土くれのフーケに『破壊の杖』を盗まれたことは、学院中に衝撃を走らせた。
使い魔対抗試合は、その騒ぎによって中止。
シルフィードとサラマンダーの一騎打ちになる所での中止だった故に、多くの人が残念がった。
しかし、それ以上に学院内では動揺が広がっていた。
『破壊の杖』は、王国によって寄贈されたという形でこの学院内に安置されていたらしく、
そのため教師の間では「王国になんと言えばいいのか」という声が出始めていた。
当たり前だろう。大事な宝物を奪われたとなれば、学院の信用は失墜する。
学院への援助もなくなるかもしれない。
そこでオスマン学院長は、午後の授業を全て休講にし、職員同士で対策会議を開くことになった。
生徒達にも事情が説明され、全員が寮の自分の部屋にて待機を命じられた。
だが、3人だけ、自分の部屋ではなく学院長室に呼ばれたものがいた。
それは『破壊の杖』を奪った人物を目撃した者、以前から盗賊について疑いを持っていた者、そしてその2人の友人である者。
彼らが学院長室にて、会議に参加することになったのだ。
それが、私、タバサ、キュルケ。
- 143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:17:20.96 ID:mkKwFqUZ0
オスマン「ふむ、ではタバサ君は以前から、ロングビル君を怪しいと思っておったのじゃの」
タバサ「……はい」
オスマン「何故他の誰にも相談しなかったのじゃ? コルベール君にでも話してくれればよかったのに」
タバサ「申し訳ございません……証拠がなかったもので……」
オスマン「まあよい。では、やはり盗賊フーケの正体はわしの秘書であるロングビル君なのじゃろう。
現在、彼女は行方不明。部屋ももぬけのからじゃ。これだけで十分証拠になる」
教職員達に囲まれる形で、私達は並んで立っていた。
土くれのフーケが現れ、その目撃者である私は特に質問されることが多かった。
彼女の容姿、声、魔法の特徴、色々と。
しかし、私は彼女についてはあまりちゃんと覚えていなかった。
それよりも印象的な人がいたから。
- 145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:19:22.88 ID:mkKwFqUZ0
オスマン「で、ツン君。君が見たという、もう1人の男……黒いローブを着た男かの?
その人物について心当たりはあるのか?」
ξ゚听)ξ「いえ……私の知り合いではないはずです」
オスマン「そうか……」
そう、黒いローブを着て、剣を持ったあの男……あんな人を、私は知らない。
だが、あちらは知っている様子だった。私の名前を言った。『ヴァリエール』と。
確かに私の家はけっこう有名な方だけれども、
あの声は私個人を指し、私のことを知っている人間のものだった。
誰だろう……
ブーン。私の使い魔。
彼はその謎の男にやられてしまった。
今も意識は戻らないまま、部屋で寝かせている。私のベッドの上で。
- 147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:22:09.09 ID:mkKwFqUZ0
ξ゚听)ξ「……」
私はギリッと唇を噛んだ。
自分がふがいなくて仕方なかった。
あの時、私がブーンに声をかけたから彼は負けてしまった。
しかも私は、ブーンに寄り添うだけで謎の男と戦うこともしなかった。
土くれのフーケを止めることもできなかった。
何をしているのだろう、私は。
私は貴族。由緒あるヴァリエール家の息女。そしてメイジのはずじゃないのか?
貴族は平民より上の存在。だからこそ、こういう時に貴族が戦わなくてどうする?
そうでないのなら、普段から貴族として威張っている私は実に滑稽ではないか。
オスマン「……ふむ、人に調べさせた結果、土くれのフーケは近くの森に逃げ込んだという情報が入っておる」
学院長のその言葉に、私ははじけるように顔をあげた。
- 149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:24:53.57 ID:mkKwFqUZ0
フーケが、近くの森に?
あの男も「森でまた会おう」と言っていた。
もしかして、彼ら2人とも、その森の中にいるのだろうか?
コルベール「ここは王室に報告し、兵を差し向けてもらってはどうでしょうか。
フーケはかなり腕の立つメイジです。私達だけでは……」
オスマン「いや、そんなことをしていれば時間がいくらあっても足りん。
それに、これはこの学院の名誉に関わる問題じゃ。わしらだけで解決しなくてどうする。
さあ、おぬしらに聞こう。今より森へ赴き、土くれのフーケを捕まえようとする者はおらんか。
志願するものは杖を掲げよ」
オスマン氏がそう言うものの、職員や教師、誰一人として杖を掲げる者はいなかった。
全員が学院長から目を逸らし、眉を垂れ、困ったような顔をするばかり。
私は、ぎゅっと自分の持つ杖を握り締めた。
- 151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:27:14.02 ID:mkKwFqUZ0
オスマン「どうした? 誰か、土くれのフーケを討って名を上げようとする勇者はおらぬのか」
ξ゚听)ξ「私が行きます!」
ふっと、私は自分の杖を掲げた。
オスマン「なんと……!」
コルベール「ミス・ヴァリエール。君はいいのだよ。生徒なのだから……」
ξ゚听)ξ「土くれのフーケを逃がしたのは私の責任です。ここで私が討たなければ、ヴァリエール家の名が折れます!」
オスマン「しかしの……」
と、そこで私の隣に立っていたタバサが、その大きな杖を掲げた。
ξ゚听)ξ「タバサ……!」
タバサ「……フーケの正体に気付きながら何もできなかった私の責任もある。
ここは私も同行する」
キュルケ「仕方ないわねえ。じゃあ、私も行くわよ。ヴァリエールばかりにいい格好させられないしね」
ξ゚听)ξ「ツェルプストー……」
私は2人の行動に驚きつつも、胸の奥では感謝していた。
私の無茶に付き合ってくれる必要はないというのに……
彼女達は私に笑みを浮かべる。私はそれに対し、頷きを返す。
- 152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:28:17.66 ID:mkKwFqUZ0
オスマン「し、しかしじゃのう。いくら君達が魔法を扱えるメイジとは言え、相手は土くれのフーケじゃ。
君達の手に負えるような相手ではない」
教師「そうです。それに生徒に万が一のことがあれば、それこそ学院の名は失墜します」
教師「ここはやはり、コルベール先生などは……」
コルベール「え? わ、私ですか? しかし私はあまり戦闘が得意ではないので……」
教師「では、ほかに誰が……」
教師達が互いに役目を擦り付けている姿を見て、私はギュッともう一度杖を握った。
こんなことしてられない。土くれのフーケがいつ逃げ出すか分からないし、それに……
ブーンの仇を、取りたい。
- 156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:30:03.11 ID:mkKwFqUZ0
オスマン「ミス・ヴァリエール!」
気付いた時には、私は部屋を飛び出していた。
廊下を走り、杖を持った手を大きく振っていた。
ふと横を見ると、キュルケとタバサも一緒に走ってくれていた。
キュルケ「まったく、あんたは世話が焼けるわ」
タバサ「……シルフィードで行くことにする」
ξ゚听)ξ「……ありがとう!」
待ってて、ブーン。
あなたの目が覚めた時には、もう全て解決しているだろうから。
- 160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:32:59.03 ID:mkKwFqUZ0
- ※
何故だろうか。
目が覚めてしばらくの間、僕はベッドの上から起き上がることができないでいた。
身体に問題があるわけではない。眠いわけでもない。
ただ、気分というか心というか、そういうものが起き上がることを拒否していたのだ。
日がまだ高いのを見れば、あれからそれほど時間は経っていないようだった。
さすがに一日中寝ているわけもないし、そのはずだ。
( ^ω^)「……」
自分がツンのベッドの上に寝かされているということに驚くべきなのだろうか。
それとも、彼女がどこにもいないということに?
それとも……
自分が、あの男に負けたという事実に落ち込み、そして恐れているということに?
- 163 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>159憎しみと友情は表裏一体] 投稿日: 2007/07/09(月) 21:34:41.41 ID:mkKwFqUZ0
『……ブーン、あの男だが』
( ^ω^)「黒いローブの男……どうしたんだお?」
『わずかながらだが……奴の気配が感じられた』
( ^ω^)「元凶……」
『そうだ。おそらく、あの男が全ての元凶に違いない。あいつを倒せば』
( ^ω^)「ツンもこの世界も元通り、かお……」
僕は目を閉じ、考えてみた。
あの男が全ての元凶。あいつを倒せば、全てが終わる。
だが、勝てるのか?
長門(小)の力を使って強くなった自分でも、奴には勝てなかった。
一瞬の隙があったとは言え、あのまま戦っていれば確実に負けていた。
それほどの剣の使い手だった。
奴は強い。ドクオなんかよりもずっと。
('A`)『失礼な奴だな』
- 167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:37:30.61 ID:mkKwFqUZ0
聞こえてきた声を無視して、僕はさらに考える。
土くれのフーケは、どうやら『破壊の杖』を奪取したらしい。
ならば、次の舞台は……確か、近くの森の中だっただろうか。
そこで斉藤がフーケのゴーレムと戦い、『破壊の杖』を使ってゴーレムを倒すはずだ。
キュルケやタバサ、ルイズも一緒に行くけれども、ゴーレムには歯が立たなかった。
( ^ω^)「……そういえばツンは」
どこにいるのだろうか?
もし原作どおりなら、この後森に向かうはずだが……自分という役者が揃ってないので、まだ学院内にいると思うのだが。
「ブーン!」
と、いきなり騒々しく部屋に入ってきたのはギーシュだった。
彼は薔薇の花を片手にベッドの方に近寄ってきて、あわただしく口を開く。
ギーシュ「大変だ! ツンとキュルケとタバサが、勝手にフーケ討伐に向かったらしい!」
( ゚ω゚)「な、なんだってー!!!」
しまった。もう出発していたのか。
物語はそれほど強引に進められているということか。
これはまずい。あの3人だけではフーケのゴーレムには勝てない。
- 170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:39:43.37 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「……ギーシュ! 馬を貸してほしいお!」
ギーシュ「あ、ああ! こっちだ!」
ツン、キュルケ、タバサ。
大事な友達が、知り合いが、危険に晒されている。
そう考えるだけで、僕の身体は動いてくれた。今までの気力のなさが嘘のように。
たとえ、謎の男が現れようとも、もう関係ない。
こうなれば、出来る限りのことをするまでだ。
僕は走り出す。
大切な人を守るために。
- 174 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>168マジだww間違えたww] 投稿日: 2007/07/09(月) 21:41:43.23 ID:mkKwFqUZ0
※
タバサのシルフィードは驚くべき速さで目的地まで運んでくれた。
彼女の使い魔は、以前から思っていたのだが使い魔という域を脱しているように思う。
大きくて強い体。そしてこのスピード。
キュルケの使い魔もそうなのだが、自分の使い魔とは迫力というものが違っていた。
しかし、何故だろうか。
そんな使い魔を、私は嫌いになれなかった。
役立たずで、雑用ぐらいしかできないブーン。
けれども、いざという時はすごい力を発揮して、困った人を助けたり、自分を守ってくれたりした……
今回の大会でわざと負けたのも、もしかしたらフーケを捕まえるためだったのかもしれない。
そう思うと、私はブーンのことがより大切に思えてきた。
- 178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:43:28.63 ID:mkKwFqUZ0
大切に?
それはどういうこと?
私は、あの使い魔を好きだというの?
違う。それは何かが違う。
「私は、あの使い魔に恋愛感情を持っている」
そう自分に言い聞かせてみても、心の半分はそれを肯定し、もう半分が否定していた。
なんだろうか。私は、ブーンのことをどう思っているのだろうか。
大切なのは確かだ。けど、それはどういう意味で大切なのだろう。
私にとってブーンとは?
そしてブーンにとって……私とは何?
タバサ「あの小屋みたい……」
キュルケ「あんなボロ小屋にフーケがいるの? 本当に?」
2人の声に、深く沈んでいた思考が浮かび上がる。
いけない。ちゃんとこれからのことについて考えないと。
私は気持ちを切り替え、下に広がる風景に目を移した。
- 187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:46:30.54 ID:mkKwFqUZ0
たどりついたのは、森の中にポツンと建っている小屋だった。
おそらく木こりが使用していたのだろう。斧や木材が小屋の隣に置かれており、今は誰も使われていない様子だった。
シルフィードがその小屋の横に降り立つと、タバサは上空で待機するように命じた。
私とキュルケが先に小屋の扉を用心深く開け、中へと入っていく。
ξ゚听)ξ「……誰もいない?」
キュルケ「埃っぽいわねえ、嫌になるわ」
ξ゚听)ξ「全然使われた形跡がないわね……」
拍子抜けするぐらい、その小屋はもぬけの空だった。
フーケがここにいるという情報はガセネタだったのだろうか……
とりあえず私達は小屋の中を探索するが、やはり人の気配はなかった。
タバサ「……これ」
と、奥のタンスを探っていたタバサが、大きな箱を持ちながら振り返った。
その黒くて大きな箱は、以前宝物庫を見学した時に見た……!
タバサ「『破壊の杖』」
- 191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:47:50.13 ID:mkKwFqUZ0
キュルケ「ええ! どうしてこんなところに! 中身も入ってるみたいだし……」
ξ゚听)ξ「捨てていったのかしら。逃げきれないと思って」
キュルケ「そうとは思えないんだけど……」
ξ゚听)ξ「いいわ。とりあえずこれを持って帰りましょう。フーケはあとよ」
疑問に思いつつも、『破壊の杖』を持ち帰ろうと外に出た、その時だった。
キュルケ「な、なにこの揺れ!」
タバサ「来た……!」
地震のような揺れが突如起き、小屋の目の前の地面が盛り上がり始めたのだ。
それは、噂で聞いていたのとまったく同じだった。
魔力により、土を人形に変える魔法。
これは別段珍しい魔法ではないのだが、フーケのものは通常とは遥かに違う。
何せ全長が20メートルはあろうかという巨大な人形を作ることができるのだから。
普通ならその重さと大きさから操ることも難しいのに、フーケは軽々とそれをやってのける。
しかも、どんな土であろうとも固まるものならなんでもいいという万能振り。
その能力ゆえについた2つ名が『土くれのフーケ』。
そのフーケのゴーレムが、今目の前で作り出されていこうとしている。
- 197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:49:50.87 ID:mkKwFqUZ0
キュルケ「ファイアーボール!」
ゴーレムが完成するのを止めようとしたのか、キュルケが杖から大きな炎の塊を排出する。
それはゴーレムに直撃するものの、土に炎はあまり効かないようで、ゴーレム生成は止まらない。
タバサ「……ウインド・カッター!」
今度はタバサがその巨大な杖を掲げ、真空のカマイタチを発生させる。
空気の刃がゴーレムの身体を一瞬切り裂くものの、周りの土によってその傷がすぐに塞がれてしまい、やはり効果は薄かった。
ξ゚听)ξ「わ、私も!」
キュルケ「馬鹿! あんたは魔法使えないでしょ! それより、逃げるわよ!」
キュルケに引っ張られて私は小屋の外へと走り出す。
ゴーレムはすでに完成してしまっていた。
あまりにも大きなその巨体。立っているだけで威圧感を放ち、その巨大な足が小屋を踏み潰してしまう。
あと少し遅ければ……
そう思うとぞっとしてしまう。
タバサが指笛を吹いた。
すると、上空で旋回していたシルフィードが、走っている自分達の目の前に降りてくる。
- 201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:52:35.06 ID:mkKwFqUZ0
タバサ「急いで……!」
キュルケ「ツン!」
ξ゚听)ξ「私は……私は……!」
タバサとキュルケがシルフィードに乗っているのに気付きながらも、私は彼女達と一緒には行かなかった。
このままだと、私は何もできない。ただの落ちこぼれの、ゼロのツンのままだ
そんなのは嫌だ。それだけは……!
私だって、貴族。魔法を使うことのできるメイジ。
そして……ブーンのいない分だけ、私が頑張らなくちゃいけない!
私は立ち止まり、巨大なゴーレムの真正面に立つ。
キュルケの呼ぶ声が聞こえたが、無視して私は杖を掲げた。
ξ゚听)ξ「ファイアーボール!」
勢いよく叫んだものの、杖から放たれたのはなんでもない、ただの小規模な爆発だけ。
それではゴーレムを倒すことなどできるはずもない。
- 205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:55:10.04 ID:mkKwFqUZ0
「あんたじゃゴーレムは倒せないよ! ゼロのツン!」
ゴーレムの上の方から声が聞こえて、私は上を見上げた。
すると、人形の肩に人影が見えた。
茶色いローブに長い髪。そしてむかつくほど整ったプロポーション。
ロングビル……いや、土くれのフーケ!
フーケ「あんたが魔法を使えないことは分かってるんだから、無駄よ無駄」
ξ゚听)ξ「く、くううう!」
私は何度も杖を振って魔法を放つ。
だが、出てくるのはやはり小さな爆発音だけで、直接的なダメージにつながるものではなかった。
フーケ「うるさいわねえ……踏み潰してあげなさい! ゴーレム!」
ξ゚听)ξ「あ、あああ!」
ゴーレムの巨大な足が上げられたのを見て、私は腰を抜かした。
まずい。これでは逃げられない。
キュルケ「ツン!」
タバサ「……!」
後ろにいるキュルケとタバサが近付いてくる気配を感じるが、しかし間に合いそうもなかった。
自分の真上にある土の足を見て、私は悲鳴をあげることもできず、目を瞑った。
- 209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 21:58:00.30 ID:mkKwFqUZ0
「ツン!」
だが、私の耳に奇妙な声が聞こえた。
この声はブーン? そんなわけがない。彼は気絶したまま学院に置いてきたはずなのだから……
( ゚ω゚)「このおおおお!」
だが、それは幻聴などではなかった。
フーケの真後ろ、ちょうどこの開けた場所の入り口に立っていたブーンが、
こちらに走りだしてくる姿が確かに見えたのだ。
ξ゚听)ξ「ブーン!」
フーケ「何! また!?」
( ゚ω゚)「くらえええ!」
ブーンは丸腰でゴーレムへと襲いかかろうとしている。
あれではダメだ。いくらブーンの力がすごかろうが、あのゴーレムを素手で倒せるはずがない。
だが、ブーンが止まることはなかった。
彼はゴーレムに向かってジャンプして、拳を空中に向かって突きたてた。
無論、ゴーレム本体に届くはずもないその拳は、虚しく空を切る。
- 213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:01:07.85 ID:mkKwFqUZ0
何を無駄なことを……! と思った矢先、その拳から奇妙な光が発生し始めた。
それは綺麗な光で、虹色に光っているようにも見えた。
それがどんどんとブーンの拳を包んでいくと、次の瞬間、巨大な爆発が起こった。
いや、爆発と言えるのだろうか?
まるでファイアーボールが何十個も爆発したような衝撃「だけ」が、そこに発生したのだ。
炎が発生せず、爆発でも物理的な打撃でもない。
見えない何かが現れたかのごとく、拳の先に存在するものを拒否するかのごとく、その衝撃はゴーレムに襲い掛かっていった。
ゴーレムの身体はそれに耐えることができず、徐々にその身体を瓦解させ、
ある限界点を越えたところで一瞬にして「土くれ」に変わってしまう。
フーケ「な、なんてこと!」
( ^ω^)「……」
衝撃の余韻がまだ続く中、ブーンが地面に立ち、静かに敵の行く末を見守っている。
なんということだろう。
ブーンは、自分の拳ひとつで、ゴーレムを倒してしまったのだ。
私は呆然とそれを見ることしかできなかった。
彼は、いったい何をした?
- 219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:04:10.30 ID:mkKwFqUZ0
※
知らない人は、ただこの業に驚くことだろう。だが、種は実に簡単だった。
全ては長門(小)との話し合いにより考案した、情報操作のプランの1つだった。
様々なアニメや漫画、小説から参考にした能力の中でも、これはきわめて異質で、それでいて僕に合っているものだった。
ある小説・アニメの中に出てくる、巨大ロボットに積み込まれた超兵器。
人間の防衛反応や攻撃衝動、またはイメージを具現化し、バリアや衝撃を発生させる、まるでチートのような能力。
「プランR」と僕が名づけた、斥力場発生装置。
それを長門(小)の力によって現実化させたのだ。
- 221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:05:34.43 ID:mkKwFqUZ0
僕が「ゴーレムを吹っ飛ばす」とイメージし、心の奥底から願い、そして思いを乗せた時、その装置は発動する。
拳の先に巨大な斥力場を発生させ、切り傷や火傷を負わせることなく、ただ相手を「吹っ飛ばす」のだ。
これなら、出力さえ調整すれば、人を傷つけることもないし、壊したい物は壊せる。
現に、ゴーレムは破壊されたけれどもフーケは何一つ傷を負ってない。僕がそうイメージしたから。
そんな、僕にとって非常に都合の良い万能装置だった。
ちなみに、長門(小)自身がその装置の放熱板の役目を担っているので、彼女を落としたら使えなくなるので注意したい。
それと、これを発動する前に一度装置をブーストさせて、試しに周りに熱を放出する必要もある。その方がスムーズに作動させられるのだ。
映像的にはスーパーサイヤ人になって、気の柱を放出する感じ。
最後に、その装置の本体はどこにあるかというと……長門(小)いわく『機密事項』なのだとか。
- 225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:07:36.98 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「はあ、はあ」
僕は土くれに代わったゴーレムの上で、荒い息を整えていた。
この装置は、想像以上に精神力を消耗する。
一度こうやって大きな衝撃を発生させるだけで、かなり疲れた。
あまり多用はできないのかもしれない。
フーケ「く、くそ!」
地面に落ちたフーケが逃げようとするのを、僕が見逃すわけがなかった。
プランRの装置によって、全身の駆動能力も飛躍的にアップしている。
逃げる彼女の目の前に、僕はジャンプし、着地した。
フーケ「ば、化け物め!」
( ^ω^)「失礼な。これでもちゃんとした人間だお……多分」
フーケ「『破壊の杖』の使い方を探ろうと思ったのに……ゴーレムを『破壊の杖』なしで破壊するなんて、化け物のほかないでしょ!」
( ^ω^)「まあ、あんたのやろうとしていることは全てお見通しだお。なので、」
僕はフーケの首筋に手刀を打ち込んでやる。
「あう」という声と共に意識を闇に沈めたフーケ。
簡単なものだよね……人間を捕まえるのって。
- 231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:10:11.35 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「土くれのフーケ……確かに捕まえたお」
「ブーン!!!」
( ^ω^)「つ、ツン」
いきなりツンが飛び掛ってきた。
殴られるのか、と思ったものの、彼女の行動は予想外なものだった。
僕の腕にしがみつき、震えているではないか。
ξ 凵@)ξ「あ、あんたいったい、どうしてここに……」
( ^ω^)「ギーシュから話を聞いて……馬で急いでここまで来たんだお」
ξ 凵@)ξ「あ、あんたがいなくても私は大丈夫なんだからね!
私だってメイジの1人だし、あの時魔法を使おうとしてたんだからね!」
( ^ω^)「はいはい、それはすまないお。横取りして」
ξ;凵G)ξ「けど、ありがとう……」
( ^ω^)「……うん」
- 236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:13:05.11 ID:mkKwFqUZ0
キュルケ「はいはい、お熱いのはいいけど、あんまり見せ付けないでよね」
タバサ「……」
僕がツンのことを抱きしめてやってると、キュルケ達が冷たい目でこちらを見ている。
違う。誤解だ。これはツンを慰めるためにやっているだけで、決してやましい気持ちがあるわけではないのだ、うん。
「やっぱり倒したか」
と、そこに邪魔者の声が介入してきた。
僕は落ち着いてツンを体から引き剥がし、その声の出所を探る。
すると、大破した小屋の上に1人の男が立っていた。
黒いローブにフードを被った、小柄な男。
やはり来た。
謎の男「けど、フーケをここまで簡単に倒すとは思わなかったな」
( ^ω^)「……正体を現すお」
ξ゚听)ξ「また……」
キュルケ「え? え? 誰よこれ。ブーン、ツン、知ってるの?」
タバサ「……」
僕とツンが身構え、キュルケが呆然と立ち尽くしている。
意外なことにタバサも戦闘態勢を取っていた。僕が彼に敵意を持っていることに気付いたのだろうか。
- 239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:14:41.55 ID:mkKwFqUZ0
謎の男「ほんと、驚きだよ。俺があんなに苦戦したっていうのに、あんたはパンチ1発で勝っちゃうんだもんな。
なんというか、俺、かたなし?」
( ゚ω゚)「……まさか!」
謎の男「そう、俺だよ」
黒ローブの下から現れたのは
/./ |:.|:.:.:./:.:/:.∧:.:!:.:.:.:.:.:.ハ:.:.:ハ::.:.ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ:.::.:.ヽ.:..:ヽ、
|:.| |:.|:.:.:|:.,.ィTfヽ.:!:.:.:.:.:.:|_」⊥⊥._.:|.:.:.:.:.:ヽ.:.:|:.::.:.:.:N.:.:.:.\
レ |ハ.:.∧| |,≠ミ|ハ,:.:.:.:.:| ヽ:| ヽ.:.`ト、:.:.:.:.:!:.:|.:.:.:.:.:|.:.\:.:.:.|
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V .ゝ‐' ∨こソ !.:.:.:| ヽ:.:.:.:.:|.:.:|
| ``` ’ ' ' '` |:.:/ 八:.:.:.:|ヽ|
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\ Y } __ //¨.:.:.:.:.:/ V 平賀才人さ!
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_><´ : : : : : : : : : : : : : : : : \
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- 247: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:17:17.53 ID:mkKwFqUZ0
( ゚ω゚)「さ、斉藤!」
サイト「斉藤じゃねえ! サイトだサイト! 間違えんな!」
ジャージのような服にGパン、そして特徴的なフード。そして世の「少年」という特徴を全て詰め込んだ顔。
この小説の主人公、斉藤――もとい、サイトだった。
( ^ω^)「ど、どうしてあんたがここにいるんだお!」
サイト「どうしてって、俺が主人公だからに決まってんだろ」
( ^ω^)「い、いや、けど、僕がその役目を押し付けられていたわけで……」
サイト「そんなことはどうでもいいさ。それよりも……キュルケ! タバサ!」
いきなり2人の名前を呼ぶサイト。勝手知ったるこの世界。2人のこともちゃんと知っているのだろう。
キュルケとタバサは、びくりと身体を震わせた。
当たり前だろう。見知らぬ人に名前を知られていたのだから。
- 254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:19:12.72 ID:mkKwFqUZ0
いったいサイトは何をするつもりだ?
いや、待て。確かこのサイトには『元凶』が乗り移っているかもしれないんだったな。
『ああ。そうだ。確かにあの少年の身体の中に奴の気配がする』
謎の声のアドバイスがタイミングよく頭に響き、僕は気持ちを切り替えた。
そう。そうだ。サイトがなぜこのタイミングで出てきたかは分からないが、
彼の中に元凶が――あの黒い霧がいるのだとしたら、なんとしてでも彼の中からそれを出さなければならない。
僕はプランRの力を再び発動させて、サイトとの距離を確かめた。
ちなみに、情報操作ができる回数はあと1回……
学院内でのごたごたから8時間以上経ってくれているおかげで、なんとか1回分は回復してくれている。
だが、プランRの力があれば、サイト1人ぐらい!
- 256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:20:51.91 ID:mkKwFqUZ0
サイト「この内藤ホライゾンは、実は俺達の敵だったんだ! お前達は騙されてたんだ!」
( ^ω^)「はい?」
奇妙なことを叫ぶサイト。そんなでたらめ、誰が信じるというのだろうか?
キュルケとタバサは彼のことを知っているはずがないというのに……
キュルケ「サイトー!!! やっと帰ってきたのね!!」
タバサ「……心配した」
(;゚ω゚)「へ?」
僕の予想を裏切り、キュルケとタバサは走ってサイトのところへと行ってしまった。
それも猛スピード、かつ僕のことなど眼中にない様子で。
サイト「ごめん。色々とやることがあったんだ」
キュルケ「仕方ないわね。フーケを倒してアンリエッタ王女様にお呼ばれしてたんですもの」
タバサ「けど、連絡ぐらい入れてほしかった……」
なんですか、これ?
- 257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:22:19.37 ID:mkKwFqUZ0
サイト「ああ、それは本当にごめん。けど、今はそれどころじゃない。
あいつを……内藤ホライゾンを倒さないと、学院が危ないんだ!」
キュルケ「おっけー。分かったわ。あなたに加勢する!」
タバサ「分かった……!」
キュルケ・タバサの両名が、魔法の杖をこちらに向ける。
その顔は真剣そのもので、僕に対してあからさまに敵意を抱いていた。
タバサなんて本気で睨んでるし。
僕はその視線を受けてたじたじになる。
なんですかこれ?
さっきまで一緒に戦っていたキュルケとタバサが、どうしていきなり敵になる?
いや、おかしいって。物語の論理性を明らかに崩してるって。
何故、いきなり現れたサイトの言葉を2人は簡単に信じてしまったのだというのだ?
しかも、2人の記憶は都合よく変わってるし……
『これはまずいな』
(;^ω^)(ちょ、ちょっとこの状況を説明してほしいお!)
謎の声の冷静さがこんな時にはむかつく。
- 263: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:24:58.59 ID:mkKwFqUZ0
『分からないのか? あの少年は、この本の主人公なのだろう?』
( ^ω^)(確かにそうだけど……)
『主人公というのは、本の中では絶対的な存在だ。
作者の思想を一身に受け、プロット上重要な位置を占めているあの少年は、
この本の中では絶対的な善だと定義づけられているのだろう。
彼はこの本の中では正義であり、ヒーローなのだ。
分かるか? 彼が白と言えば、カラスすら白になる。彼は必ず正義という信念に基づいた行動を行う。
そして、彼に反する者は絶対的な悪となり、物語上必ず主人公に討ち滅ぼされる』
( ^ω^)(で、今はその悪が僕だとでも?)
『そうだ。あの主人公がそう言ったではないか。【内藤ホライゾンは敵だ】と。
そう言った瞬間、お前は悪になった。
だから、サブキャラクターで、主人公の味方であるあの少女2人もまた、お前を敵とみなしたのだ』
( ^ω^)(んな、馬鹿な……)
- 268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:27:16.28 ID:mkKwFqUZ0
『そうだ。馬鹿なことだ。
だが、この本の中では論理や道理に意味などない。
主人公=善、それ以外=悪、という公式は作者によってすでに定立されており、
これを崩すことなど不可能なのだ。私達は本の世界にいるのだからな。
無論、これはモノローグ小説と呼ばれるタイプの物語だからこそ、起こりえる事態だ。
まるで物語のための人形のようにキャラが扱われている本の中では、しばしばこういう事態が起こる。水戸黄門など良い例だ。
それとは対極に位置するポリフォニー小説の中では、個々のキャラは自意識を持ち、確定づけられたキャラ性など持っていないのだがな。
そのポリフォニー小説の中では、人物達が考え、育ち、作者の思想に反する考えすら持つこともある。
正義と悪など定義づけられることなく、キャラ同士の自意識の混じりあいと対話によってストーリーが進む場合も、』
( ^ω^)(意味不明なこと長々言ってないで、どうすればいいんだお!)
『どうもならん。お前はすでに悪だと定義づけられてしまった。
この本の世界にいる限り、お前は悪で、あの少年は善だ。
奴め、なかなか良い手を使ってくる』
( ゚ω゚)(なんだってー!!!)
- 274: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:29:33.31 ID:mkKwFqUZ0
キュルケ「ファイアーボール!」
タバサ「ウインドカッター」
2人の少女による攻撃が襲い掛かってくるのを見て、僕は慌ててプランRの装置を発動させる。
斥力場は、攻撃にも防御にも使える。
あの長門っちが使ったバリアを正面に発生させることで、なんとか火の玉と風の刃を防ぎきることができた。
(;^ω^)「ぐっ……2人共、本気なのかお!」
キュルケ「悪人! 私の炎で焼き尽くされなさい!」
タバサ「……!」
これはやばい。2人共目が本気だ。
メイジ2人を相手にするとなると、いくらプランRを使っていても不利だ。
だいたい、2人を攻撃するなんてこと、僕にはできない。
いくら敵に回ったとしても、以前は仲間だったのだから。
傷つけずにやっつける……そんな方法はないのか?
プランRの衝撃で軽く吹き飛ばしても、メイジである2人に効くはずもない。
気絶させるほどの衝撃を与えたら、逆に2人の身に危険が及ぶし……
サイト「ツン!」
その声に、僕の後ろにいたツンがびくりと身体を震わせた。
- 280: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:31:35.57 ID:mkKwFqUZ0
しまった、忘れていた。
ツンもまたこの本のキャラクターの1人であり、しかもサイトの恋人役だったのだ。
名前は違うものの、ルイズという役回りを負っているツンが、サイトの声に影響されないという保障なんてない。
サイト「どうした? こっちに来いよ!」
ξ 凵@)ξ「あ……あ」
ツンは目をうつろにしたまま、何事かを呟きながら立ち上がった。
その呟きに耳を澄ませてみるが、「違う、違う」「私は、私は」と、同じ言葉の繰り返しばかりで意味が掴み取れない。
サイト「ツン!」
( ^ω^)「ツン……!」
ξ 凵@)ξ「私は……私はー!!!!」
キュルケとタバサの攻撃が止んだ。
一瞬の静けさの合間をぬうように、ツンの声が響き渡った。
そして、
ξ 凵@)ξ「あっ……」
ドサリ、と倒れたツン。
僕は慌てて傍に寄るものの、彼女の意識は完全に消失しており、『気絶』と呼ばれる状態に完全に落ちていた。
- 283: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:34:05.51 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「ツン……どうして!」
『まずいぞ、気を抜くな!』
サイト「ツンがあいつに捕まった! キュルケ! タバサ!」
キュルケ「分かってる! ツンを助けるわ!」
タバサ「召喚魔法で一気にケリをつける……」
サイトに焚きつけられた2人は、同じ呪文を同時に唱え始める。
召還魔法、という言葉聞いて、僕は妙な違和感を覚えた。
そんな魔法、この世界にあっただろうか?
それとも、僕が知らないだけか?
キュルケ&タバサ「遥か彼方に存在する彼の者よ、私達の呼びかけに答え、今ここにその存在を確立せよ」
色々と突っ込みどころの多い呪文だが、とにもかくにも2人の詠唱は続いていく。
(にしても寒気のしそうな軽い呪文だ)
そして仕上げに、
キュルケ&タバサ「召喚!」
と2人は大きく叫ぶ。
すると、彼女達の前方に巨大な魔方陣が現れる。
その中からひとつの人影が……
- 287: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:35:58.82 ID:mkKwFqUZ0
- ___
r-〆´ `ヽ、 __
rУ´/ , < ̄`ヽ
〈∧ / / / / /!i 、ヽ
〈{ V _、/〃,/ 川 l|
_tY/// 心く/ //Lリ !
rーこフ7 '/ `¨′ ィタフイル′
´ ̄フ_,.イ 小、 ‐- ' `イ〃
___ ´ _|i辻‐`ー-</ ,/リ
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f´ 〈 /_コ_―…'ゝt/´ }. `、
', // `ヽ. Y / `丶 ヘ
〉. f'{ ヽ_ V ,. ´
} |人 ィ´ `ヽ/ /
/ i |! `r‐ '^´ ノ、 /{ //f
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ハ ! _广だュ―- ....ノ-r' l / !
ノU / ヽ.込廴,.-- .___.⊥l / 'ノ i
/ !./ :广 ¬ ム / l
,. -―-、 } ;′ | _ノ,.ヘ |
i′ / ヽ′ l | /.> ヽ._,.ヘ
| / .} j |. / r' / ヽ. ヘ
.ヘ. l / //´ >'>′ ヽ `ン
、くヽ. ヽ. | / /7 ,ヘ.冫 ヽ / `ヽ./ヘ
ヽ\ ヘ f'´ ̄`ヽ./ / _,.ィ/ く /\ _, -'´ ヘ
`、 、ヘ ,√フ冖、/ /U /ムフ /ヽ.__ , -'´ ヘ
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 ̄ _V.ノ ,小-‐¬ヘしi-!ヘ-ァ¬T¨ ̄V刀≧ュ=イ |
 ̄ ∧`ヽ hヽ :|フr'^¨`_/U i  ̄´ l |
-―  ̄! 〉| /ー- // ! l ¬ 、
- 295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:38:22.67 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「……」
『色々と言いたいことがありすぎて、逆に突っ込めないという感じの沈黙だな、それは』
( ^ω^)(いや、だって……どうしてここに彼女が……)
('A`)『うっひょー!!! セイバーちゃんじゃねえか!
まさか三次で拝めるとは思わなかったぜ!
ブーン! 突っ込め! 性的な意味で!』
( ^ω^)「いや、そんな暇ないし……つーか黙れ」
セイバー「呼ばれたのなら、その責務をまっとうするまで……行くぞ!」
( ゚ω゚)「うお!」
某国王様の剣が、僕の頬をかすめた。
これは色々とまずいような気がする。彼女の剣は、聖剣のエクスカリバーだ。
その威力はゲームをやっていれば自ずと知れてくる。
- 300: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:40:21.96 ID:mkKwFqUZ0
・ここで補足説明・
エクスカリバー:『約束された勝利の剣』と書いてエクスカリバーと読む。
所有者の魔力を”光”に変換し、収束・加速させる事により運動量を増大させ、神霊レベルの魔術行使を可能とする聖剣。
その斬撃はあらゆるものを断ち切り、防御不可。
防御不可
セイバー「はっ!」
( ^ω^)「ば、バリア!」
プランRの斥力場を発生させるものの、セイバーの剣はそのバリアを簡単に断ち切り、僕の懐に入ってくる。
(;゚ω゚)「斥力場を切るって、どんだけー!!」
- 305: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:42:36.97 ID:mkKwFqUZ0
あまりの速さに対応できなかった僕だが、プランRは本能的な防衛本能にも反応してくれる。
斬る体勢へと移行していたセイバーの身体に、斥力場が運よく発生して直撃してくれた。
セイバー「わっ!」
軽く吹っ飛ぶセイバー。だが、空中で一回転して見事に着地した彼女は、ギロリと僕を睨みつけ、剣をしっかりと握る。
セイバー「ならば、全力でいこう! エクスカリヴァァァァ!!!」
光るエクスカリバー。おそらく彼女の魔力を光に変換しているのだろう。
おそらく、次の攻撃は飛ぶ斬撃だ。
まずい。そんなもの受けきれるはずがない。
『なんとかしてやろうか?』
(;^ω^)(な、なんとかしてくれお!)
『あまりこの手は使いたくないのだが……相手も使ってるし、まあいいだろう』
- 312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:44:43.35 ID:mkKwFqUZ0
僕の右手が、いきなり動いた。
懐に入れておいた本をおもむろに取り出し、ある1ページを開く。
それは、タバサからもらった魔法の本。
『こちらも召喚する。念じろ。召喚したい人物を』
(;^ω^)「え、え? いきなりそう言われても……」
『いくぞ!』
右手の本が光を放ち始める。
それと共に、あの謎の声のサポートによる白い光が右手から放たれ、
魔法の本と共鳴し、異次元からの召喚者を呼び寄せようとしていた。
慌てて、僕は頭に浮かんだ人物を、こちらに来るように念じる。
魔方陣が現れ、白い光が一気にその光量を増し、辺り一面を照らした。
あまりのまぶしさに前が見えない。
- 319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:46:10.51 ID:mkKwFqUZ0
パンッ!
パララララ!
何か変な音がするのは気のせいだろうか?
- 327: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:47:08.96 ID:mkKwFqUZ0
光が晴れると、目の前には驚きの光景が広がっていた。
なんと、セイバーが倒れているではないか。
剣は地面に突き刺さり、彼女はうつぶせになって動かなくなっている。
頭にたんこぶのようなものができているのは何かの冗談か?
徐々に目が元に戻ってきて、僕は魔方陣の上に立っている人影の存在にようやく気付いた。
- 333: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:48:17.16 ID:mkKwFqUZ0
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;;;;/ i;;i i;;;;;;;;;;;;;;;;i /i ,/.|/'~I;て,)~`.i ii`-/、;;iヾ;;;;i
;;イ^i;;;;i/;;;;;;;;;;;;;;;;;i i;;;i i i ト;;;;ノ : i;;iル'、 リ ヾi
")vl;;;/|/|;;;;;;;;;;;;;;i i/iレ' `-,,,,- l;;;;/ ,メ, ノ
(,_,|;;;i`!'-i;;;;;;;;;;;;;;;i'i ,リ // |\ レ' ` ,_
\i;i~l'-、i;;;;;/^i;;;/ " ' ~フ
\リ-、__ i;;;i レ' _ ノ
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;;;;;;i キ ,r---,,」
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i i ` , !
! i ` , i
__ i ` - , _ノ
`- ,__ i ,---~''---''~
`- ,I_ l
`- , ノ
`-, /
Vゝ
???「……任務完了」
手にグレネードランチャーを持ち、迷彩服を着た男が、冷静な顔で立っていた。
- 349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:50:22.54 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「な、何故殺たし!?」
???「人聞きの悪いことを言うな。殺してはない。これはゴム弾だ」
( ^ω^)「いや、そうだけど、うーん……銃刀法違反とか、色々と」
???「俺は獲物の前で舌なめずりするような、3流の男ではない。
プロフェッショナルとしての当然の行動だ。
そんなことより、コッペパンを要、」
シュン! という音と共に、謎の兵隊さんは再び光に包まれて消えた。
……どこかで見たことあるような気がするのは気のせいだということにしておこう。
ああ、はるか遠くにハリセンの音が聞こえる。
- 361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:52:47.23 ID:mkKwFqUZ0
キュルケ「ま、まさか召喚魔法まで破られるなんて!」
タバサ「……強敵」
サイト「キュルケ、タバサ。後ろに下がってろ。ここは俺が行く!」
キュルケ「サイト、1人じゃ危ないわ!」
サイト「大丈夫だ。俺を信じてくれ……俺は絶対に、ツンを助けるから!」
キュルケ「サイト……」
タバサ「……」
向こうでは何やら感動ドラマが繰り広げられていた。
サイトが剣を持ち、勇ましい様子で前に出る。
そして、女性2人はそれを羨望の眼差しで見つめている。
本当に、よくあるような物語だ。
きっと、現実世界でこの様子を見て「サイトは漢だ!」「いっけー!」とか読者や視聴者が思うに違いない。
2chでは、そういうレスで1000埋まってたりするかもね。
とにかく、熱い展開だということは間違いない。
ただ、僕が悪役なんだけどね。
- 369: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:55:03.41 ID:mkKwFqUZ0
サイト「さあ、行くぞ!」
( ^ω^)「……こうなったら、サイトをやっつけて、元凶を倒すしかないお!」
『ああ、その通りだ』
僕はプランRの装置をブーストさせる。
セイバー相手では後れを取ったが、今回は生身の人間。しかも得物はただの剣でしかない。
斥力場で一撃だ。
( ^ω^)「行くお!」
僕は拳を掲げて、前方に突進する。
たとえ拳が当たらなくても、前方の上下左右120度に展開される斥力場から逃れることなどできない。
たとえそれが主人公であっても。
( ゚ω゚)「はぁ!」
拳を前に突き出した瞬間、プランRの装置が限界まで作動し、巨大な斥力場を発生させる。
剣を構えたまま動かなかったサイトへと、その力場が叩き込まれる。
衝撃が一気に前方のもの全てを吹き飛ばしていった。
- 378: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:57:03.60 ID:mkKwFqUZ0
サイト「遅いぜ!」
だが、敵はすでに前方にはいなかった。
サイトはいつの間にか真横に移動していて、その剣を下段に構え、勢いよく切り上げた。
横にステップしてなんとか避けるものの、その剣さばきは尋常ではなく、
プランRのバリアを展開することでなんとか難を逃れることしかできない。
( ^ω^)「なんてスピードだお……!」
('A`)『当たり前だろ。サイトは【ガンダールヴ】なんだぜ? 武器の達人だ』
そうか、どんな武器でも即座にその使用方法を理解し、達人の域まで扱うことのできる能力。それが『ガンダールヴ』。
サイト「俺が主人公で、お前が悪役! この『ガンダールヴ』のルーンがその証拠なんだぜ!」
( ^ω^)「く、くそっ!」
長門(小)「マスターの身体・精神への負荷増大。装置の使用を停止することを推奨する」
(;^ω^)「そんなことしたら負けちゃうお! ぐおっ!
- 386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 22:59:12.22 ID:mkKwFqUZ0
サイトの四方八方から来る剣撃を、なんとかバリアで防いではいるものの、反撃する暇なんてまったくなかった。
たとえ巨大な斥力場を発生させようとも、サイトは上手くそれを避けてしまい、また剣による攻撃を加えてくる。
確かに、こちらは連戦続きでプランRのキレも悪くなってはいる。
精神と身体に多大な負荷をかけるこの装置は、長時間の使用には向かない。
だが、それを差し引いても『ガンダールヴ』の能力は恐ろしい。
そして、斥力場に何度晒されても折れることのない、サイトの剣も……!
剣「相棒! もう少しだ!」
サイト「おう! 分かってる!」
剣が喋っていることに気がつき、僕はそうか、と思い至る。
サイトの持っているあの古ぼけた茶色の剣。あれは「デルフリンガー」だ。
本来は、ツンと一緒に行ったあの武器屋で手に入れるはずだった伝説の剣。
そうか。サイトが持っていたから、あの武器屋になかったのか!
- 389: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:00:46.11 ID:mkKwFqUZ0
デルフリンガー「そこだ! いけ!」
サイト「おりゃあああ!」
( ゚ω゚)「ぐはっ!」
デルフリンガーの柄による攻撃が、ついにバリアの隙を抜けて僕の胸に到達した。
刃による攻撃ではなかったため、一瞬だけ気を許してしまった。
みぞおちに大きな痛みが走り、数秒だけ息ができなくなる。
サイト「もらった!」
『いかん!』
刃が僕の眼前に迫る。
やられる……!
そう思ったものの、その刃は僕の所には届かなかった。
サイトに何かが起こったわけではない。
プランRの装置が突如作動したと思った次の瞬間には、
僕の身体は後ろへと吹き飛ばされていたからだった。
そのため、サイトの剣は空振りし、僕は風で煽られたかのように地面を転がり、そして止まる。
- 395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:02:41.46 ID:mkKwFqUZ0
(メ^ω^)「な、何が……」
長門(小)「緊急回避プログラム作動。力場を自身に展開し、敵との距離を取った。
代わりに装置がオーバーヒート。システムを緊急シャットダウン。使用不可」
(メ^ω^)「そうかお……ゆきりんが助けてくれたのかお。ありがとう」
長門(小)「それよりも、情報操作はあと1回だけ。指示を」
肩に乗る長門(小)に感謝しながらも、しかし僕はもうどうすればいいのかまったく分からなくなっていた。
これまでで一番強いと思っていたプランRが、サイトには通じない。
これ以上強い能力を、僕はまだ考え付いていなかった。
どうする? 何かあるのか?
たとえ草薙の炎をまとっても、邪気眼を使用しても、サイトのあの剣撃を止めることはできない。
( ^ω^)(どうすればいいんだお)
『よく考えろ。敵はこの作品の主人公だ。主人公に勝つことは、通常の戦闘ではほぼ不可能に近い』
だから、僕の負けを冷静に分析するなっての。
- 400: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:04:43.54 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)(なら、どうしろと?)
『分からん。私も先ほどの召喚で力を使い果たしたため、もうサポートすることができない。
だが、何かあるはずだ。お前はこの本の住人ではないのだ。
作者に作られた存在ではないイレギュラーな存在。それがお前だ。
もしお前がこの本の住人ならば主人公に勝つことなどできないが、お前は違う。
考えろ。何か手があるはずだ。相手の経歴を思い出せ。弱点を探し出せ』
( ^ω^)(相手は主人公。僕と同じようにこの世界に召喚され、そしてルイズの使い魔になって苦労して……
あれ? おかしいお。僕もこの世界に召喚されて、ツンの使い魔になった。
で、サイトと同じような生活をしてる。なら僕もこの世界の主人公のはずだお)
『確かに……そうなるな。だが、実際にお前の言葉を、あの少女2人はまったく聞いていない。
それはお前が主人公ではないからだ。ならば、お前には主人公として何らかの要素が足りていないことになる』
( ^ω^)(主人公としての要素?)
『そうだ。この作品の主人公としての要素。
例えば他の本で言えば、特殊な過去を持っているとか、奇妙な恋人を持っているとか、猫型ロボットが来てくれたとか。
作者が規定した【主人公になるための要素】が、お前にはないということになる』
なんだ? 僕に足りない主人公としての要素は。
- 411: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:08:00.14 ID:mkKwFqUZ0
サイトみたいにエロくないことか? モテないことか?
それとも体型? ぽっちゃり型は主人公に向かないのか? もしくはM心を持っていないこと? いや、それは僕にもある。
なんだ? 何が足りない?
サイト「変な技を使ったみたいだな。だが、次で終わらせてやるぜ!」
デルフリンガー「行け! 相棒!」
僕はサイトの姿を見る。剣を構え、今にもこちらに走り出しそうとしている彼の姿を見て、僕は気がついた。
( ^ω^)「そういうことかお……ゆきりん!」
長門(小)「……なに?」
( ^ω^)「あれを頼むお!」
長門(小)「了解」
3度目の超高速早口が発動する。これで残り回数は0。
もうジョーカーを切ることはできない。
- 418: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:11:23.41 ID:mkKwFqUZ0
だが、これで終わる。そのはずだ。
僕の左手の甲に現れる、光り輝くルーンが、それを証明してくれている。
- 422: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:12:32.78 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「……あれだお!」
周りを見渡した僕は走り出し、まだ地面に突き刺さっていたセイバーの剣を抜き取った。
その瞬間、左手の甲のルーンが一層光を放ち始める。
『ガンダールヴ』というこの世界の文字が。
( ^ω^)「サイト! これで条件は対等のはずだお!」
サイト「ガンダールヴ? そ、そんな馬鹿な!」
( ゚ω゚)「エクスカリヴァァァァァ!」
そう叫ぶと、刀身が光を帯び、僕の最後の精神力が力に変換されていく。
光は、収束・加速させる事により運動量を増大させ、神霊レベルの魔術行使を(ry
とにかく、エクスカリバーに力が宿った。
サイト「このやろ!」
( ^ω^)「はっ!」
デルフリンガーとエクスカリバーの刀身が混じりあい、キンッと金属音が鳴る。
さすがにどちらも伝説の剣。互いに譲らない。
そして、僕とサイトも。
- 430: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:14:38.88 ID:mkKwFqUZ0
僕が上段から袈裟切りを放つと、サイトはそれを刀身で受け流して逆に柄によるカウンターを仕掛けてくる。
僕は臆せず前に出て、右足でサイトの足を引っ掛けて重心を崩し、みぞおちの下の腹筋にその柄を当てさせる。
ダメージは少なく、逆に体勢が崩れたサイトに剣を切り上げることで彼の腕を軽く切ることに成功する。
驚いたサイトは、後ろに下がって距離を取った。
サイト「くっ、くそ」
( ^ω^)「どっちもガンダールヴ……さすがに一撃じゃ決まらないかお」
達人同士の戦いとは一瞬で終わるとはよく言ったものだが、
フィクションの世界ではなかなか一瞬では終わらない。
時には何週間も決着を引っ張ることもあって、読者の反感を買うこともしばしばだ。
って、これは漫画の話か。
キュルケ「あ、あれ? ブーンが戦ってるけど、サイトもいて……えーと、私はキュルケで……」
タバサ「……理解に苦しむ」
サイトの後ろにいたキュルケとタバサが、困惑気味にこの戦いを見ているのに気がついた。
きっと、僕とサイトの間に主人公としての違いがなくなったため、どちらに味方すればいいのか迷っているのだろう。
だが、元々がこの本のキャラクターではない僕が、完全に主人公になれるとは思えない。
おそらく、時間が経てば再びサイトの味方になる。
だから、早く決着をつけなければならない。
- 438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:17:06.20 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「けど……さすがにできるお」
サイト「……こりゃあ長引きそうだな」
デルフリンガー「さっさと終わらせちまえよ、相棒!」
サイト「無茶言うな。なら、あの剣を叩き斬れよ」
デルフリンガー「斬られないようにするので精一杯だ!」
じりじりと続く消耗戦。
僕とサイトはにらみ合い、互いに動けない状態が続く。
だが、それに水を差す音が、僕の後ろから聞こえた。
サイトの動きに注意しつつ後ろを見ると、そこにはゆっくりと立ち上がるツンの姿が。
ξ 凵@)ξ「……」
( ^ω^)「ツン、起きたのかお!」
サイト「ちょうどいい! ツン! こっちに来い! 一緒に内藤を倒そう!」
僕の声にも、サイトの声にも、ツンはまったく反応しなかった。
ただ無表情な顔でふらふらと直立し、そうかと思うといきなり右手の杖を前方に差し出したのだ。
ξ 凵@)ξ「sぁkdfじゃlsdjふぁslkjdflj」
パクパクと小さく口を動かしながら、何やら意味不明なことを呟き始めるツン。
- 445: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:18:46.86 ID:mkKwFqUZ0
デルフリンガー「まずい! あれは虚無の詠唱だ!」
( ^ω^)「きょ、キョン?」
サイト「虚無の魔法……まさか、今ここで!」
デルフリンガー「覚醒が早えが、あれは確実にそうだ! 相棒! 時間を稼げ!
虚無の詠唱は時間がかかる! 『ガンダールヴ』はその間、術者を守るための盾となるんだ!」
サイト「け、けど今『ガンダールヴ』は2人……!」
(;^ω^)「ど、どっちに虚無の魔法が発動するんだお!」
僕とサイトは互いにあたふたとし始めた。
僕にもこのシーンは見覚えがある。
ルイズは、普通の魔法は使えないけれども、失われた魔法である『虚無』の魔法は使える、超スーパー貴重なメイジなのだ。
その威力は、まるで核爆弾のようであり、原作ではその1発の威力で戦争を終結させてしまったほど。
で、ガンダールヴの紋章に呼応するかのように発動する、その虚無の魔法なのだが……
はたしてツンは、僕とサイト、どちらのルーンに反応して詠唱を開始しているのか?
そして、その魔法の矛先はどちらに向けられているのか?
- 452: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:20:43.30 ID:mkKwFqUZ0
ξ 凵@)ξ「dさふぁsjkljふぁslkdf」
サイト「ツン! 俺は信じてるぞ! 俺はお前の使い魔で、お前はご主人様なんだからな!」
ぴくり、とその言葉に反応するツン。
それと共に、少しだけその杖の先が僕の方に向く。
『まずい! お前も何か声をかけろ! お前が主人公だと、あの少女に伝えるんだ!』
(;^ω^)「そ、そう言われても」
いきなり声をかけろと言われて、はたして何を言えばいいのか?
ツンのことを愛してるだとか? それとも、僕は君の使い魔、一生あなたにお仕えする、とか?
違う。そんなの、ツンに向けるべき言葉じゃない。
サイト「俺はお前のことが好きだ! 一生懸命お前を守りたいと思ってる!」
ξ 凵@)ξ「あsldfじゃsldfj」
確かにここは本の中であり、ルイズとサイトは恋人同士っぽい関係になりながら、色々な苦難を乗り越えていく間柄だ。
- 457: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:22:16.27 ID:mkKwFqUZ0
だが、あれはルイズか?
違う。あれはいつも怒りっぽくて、だけれども優しく、僕のことを色々気にかけてくれて、
頭ごなしに叱ることはせずに諭すように話をしてくれる人。
いじめられがちな僕の傍にいつもいてくれて、叱咤激励してくれながら、
馬鹿な遊びにもちゃんと付き合ってくれるような人。
そう、僕の友達。
ツン。
- 460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:23:34.21 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「ツン!」
ξ 凵@)ξ「sldfkじゃsldjf」
( ^ω^)「僕は……君を助けにきたんだお! 一緒に帰るんだお!
元の世界に! だから! だから!」
サイト「何を言ってんだ? 助けにきたって、お前がツンをさらって……って、あれ?」
ツンの杖が、徐々にサイトの方へと動いていく。
サイト「つ、ツン! 俺はお前の使い魔で……!」
ξ 凵@)ξ「さdlkfじゃsdjf……私は……」
詠唱が終わった。
徐々にツンの身体の中から、魔力が湧き出て行くのが僕でも分かる。
すごい魔力。まるで連鎖的に原子からエネルギーが放出しているかのよう。
ξ゚听)ξ「ブーンの友達なの!!」
瞬間、辺りは光に包まれ、
- 463: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:24:08.10 ID:mkKwFqUZ0
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- 470: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:25:17.23 ID:mkKwFqUZ0
※
兵どもが夢の跡。諸行無常の響きあり。
戦いの後というのは非常に静かなものだ。
ツンの虚無の魔法による爆発が引くと、その場で立っているのは僕とツンのただ2人だけだった。
そして残りの4人――サイト、キュルケ、タバサ、フーケ達は地面に倒れていた。
そういえば、いつの間にかセイバーも消えている。
おそらく術者であるキュルケ達が気絶したから、元の世界に戻されたのだろう。
何にせよ、良かった。
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「ブーン……これは……」
( ^ω^)「説明すると色々長いけど……って、あれ?」
ツンの下に、もう1人誰かが倒れているのに気がついた。
ピンクの髪に黒いマント。そして小さな身体に黒いニーソックス。
明らかに、この作品のヒロインであるルイズが、そこにいたのだ。
- 481: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:27:15.55 ID:mkKwFqUZ0
ルイズ「うぅん……」
( ^ω^)「こ、これはどういうことだお」
『推測に過ぎないが』
僕の疑問に、すかさず答えてくれる謎の声。
さすが僕の超AI!
『ルイズとツン、2人の少女は、奴によって無理やり融合させられていたのだろう。
だが、ツンが記憶と自我を取り戻し、完全に自分としての存在を確立したため、
はじかれるように2人は分裂した……そうだと思われる』
( ^ω^)(……けど、どうして2人を融合する必要があったんだお?)
- 487: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:28:44.73 ID:mkKwFqUZ0
『……おそらく、お前に対する作戦なのだろう。
今まで信頼していた味方が敵になった時ほど、その者が弱体化する機会はない。
お前をわざとこの物語の主人公にして、後にサイトを登場させることでお前の心の動揺を誘ったのだ。
ツンをルイズと融合させたのもその理由だろう。友達が敵になるなんて、嫌なものだろう?』
( ^ω^)(確かに……)
('A`)『俺も一応敵になったんスけど』
ξ゚听)ξ「ブーン……これはどういうこと?」
( ^ω^)「元に戻ったのかお……ツン」
('A`)『無視ですか。そうですか』
戸惑っているツンに、これまでのことを話そうと、僕は頭を働かせてみる。
だが、大事なことを忘れているのにいまさらになって気付き、僕はサイトの方へと目を移した。
サイト「……」
サイトはまったく動かない。もう戦うこともできなさそうだ。
- 495: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:30:49.74 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)(奴はどこにいったんだお?)
『ん?……しまった! もうその少年の中にはいない!』
( ^ω^)「じゃ、じゃあどこに!」
『空を見ろ!』
そう言われて、僕は空を見る。
すると、はるか遠くに黒い霧が漂っているのが見えた。
『まずい! 逃げるぞ!』
(;^ω^)「た、倒さないと! あ、けど剣がない!」
エクスカリバーはセイバーが消えたと同時に消滅してしまった。
今の自分は『ガンダールブ』状態ではあるものの、武器がなければどうしようもない。
( ^ω^)「何か、武器はないのかお!」
慌てて周りに目を這わせると、黒い箱が転がっているのに気がついた。
『破壊の杖』。
そうだ。あれを使えば。
- 501: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:32:10.10 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「よし!」
僕はその黒い箱に近寄り、手際よく箱を開ける。
『ガンダールヴ』の文字が光り、一瞬にしてその武器の使い方を理解した。
だが、中身にあるこの武器は……
( ^ω^)「状況知らせ!」
『北からの風が3メートル、気温23℃、湿度30%。視界良好。対象との距離、約900メートル』
( ^ω^)「よし、いくお!」
箱の中にあった部品を瞬時に組み立て、3脚の上にその銃身を置き、僕はうつぶせに寝転んだ。
脇をしめ、顎を固定し、身体全体にぶれが生じないように筋肉を硬直させる。
そして、目をスコープに当てて、対象を確認。
引き金に指をかける。
- 504: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:33:36.55 ID:mkKwFqUZ0
その兵器は、ロケットランチャーではなかった。
何がどうなってこの兵器がここにあるのかは分からない。
これもまた、奴の影響により生じたひとつの不確定要素なのかもしれない。
だが、今この状況でこれ以上に有効な武器があるだろうか。
バレットM82。
Anti-material-rifle――「対物狙撃銃」と呼ばれるもの。
引き金をしぼった瞬間、マズルブレーキによって拡散した発砲煙が目の前を覆い隠す。
だが、12.7×99mmNATO弾は確実に銃身から発射され、目標に向かって一直線に進んでいった。
いくら遠くのものであろうとも、長射程を誇るM82の矛先から逃れられるものなどない。
『ガンダールヴ』によって高められた狙撃の腕もあいまって、弾丸は確実に黒い霧に命中し、それを消滅させた。
- 511: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:36:18.38 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)「……終わったお」
('A`)『かっけぇー!!』
ξ゚听)ξ「ブーン、あんた……いったい」
( ^ω^)「まあ、詳しいことはおいおい話すとして……」
僕はルイズとサイトの方を見た。
元凶が倒された今、おそらくもう元に戻っているのだろう。
これからは2人の物語が始まるはず。
フーケを倒した後の物語が。
( ^ω^)「……」
僕は地面に置いてあるM82を見た。
『破壊の杖』は、原作どおりならここで使いきってしまい、以降は出てこなくなる。
だが、M82は使い捨てではない。弾もかなりあるようだし、ここに残したままでは色々と不都合なことが起きるだろう。
僕はM82を分解して、再び黒い箱の中に入れた。
そして、取っ手を持ち、重いながらもなんとか持ち上げる。
- 514: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:37:44.39 ID:mkKwFqUZ0
『持っていくのか』
( ^ω^)(残しておくわけにはいかないし……役に立つかもしれないお)
『……まあいいだろう。だが、あまりにも変な使い方をすれば私が強制的に壊させてもらうからな』
( ^ω^)(わかったお)
僕は謎の声に、ちゃんと平和的に使うと約束し、ルイズの方へと再び視線を移した。
ツンと融合してはいたものの、3日間一緒に過ごしていたのは確実に彼女だった。
世話になった礼を言いたいものの、その時間はない。
僕は心の中で彼女に感謝した。
( ^ω^)「あ、そうだ」
僕は懐に入れてある、魔法の本を取り出した。
タバサに貸してもらったこの本だが、これはさすがに持ってはいけない。
だいたい、僕には魔法は使えないし、長門(小)の力があれば特に必要もないはず……
- 516: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:39:20.42 ID:mkKwFqUZ0
と、風でページがめくれていき、最後のページが僕の目の前に現れた。
そして、そのページの最後に書いてある文章を見て、僕は驚愕する。
『これはあなたに必要なもの。いつか必ず。だから持っていてほしい。たとえ異世界に行くとしても』
おそらくタバサの書いた文章なのだろう。
これは……いったいどういうことだ?
確かに、タバサ達の間でも、僕は異世界から訪れたということになっている。
だから、この文章になんら矛盾は存在しない。
だが……それだけではない、深い意味がある気がする。
魔法の本、渡してくれたタイミング、『役に立つ』という言葉、そしてこの文章。
僕がただの『異世界人』ではなく、別の目的を持って行動していることを、タバサは知っていた?
( ^ω^)「……」
真相は分からない。
だが、何かあるのかもしれない。
そう思って、僕は本を懐に再びしまいこんだ。
特に邪魔にはならないし、M82と同じく、危なくなれば捨てればいい。
- 522: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:41:08.55 ID:mkKwFqUZ0
( ^ω^)(あれ? けどタバサって日本語使えたっけ……)
『そろそろ行くぞ』
( ^ω^)(……まあ、いいかお)
謎の声がそう告げる。
たった3日間だけれども、仲良くなった人達から離れるのは寂しい。
だが、ハルヒの世界でも同じこと。たとえ彼らが僕のことを忘れいても、僕がそれを覚えていればいい。
思い出は大切に。
さよなら、キュルケ、タバサ、サイト、シェスタ、そしてルイズ。
僕が感慨深い思いを抱きながら、目を瞑ると。
- 529: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:42:27.96 ID:mkKwFqUZ0
ξ゚听)ξ「こら! ちゃんと説明してってば!」
雰囲気を読まない怒鳴り声がひとつ。
(;^ω^)「……だから、説明はちゃんと道中でするお!」
ξ゚听)ξ「今話して! 私がどうしてこんな格好しているのか! ここはどこなのか!」
(;^ω^)「少しは感慨にふけさせてほしいお……」
('A`)『いやあ、いつもどおりの喧嘩だねえ』
『これからうるさくなりそうだ』
口げんかを繰り広げつつ、僕達は白い光に包み込まれていった。
この世界とはおさらば。次の世界へと進むその光に、僕は目を瞑って耐えるのだった。
- 531: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:44:03.00 ID:mkKwFqUZ0
※
サイト「ん……あれ? ここどこだ?」
キュルケ「うーん……私達、何してたんだっけ?」
タバサ「……分からない」
ルイズ「うー、頭痛い……」
私が目を覚ました時、そこは見知らぬ森の中だった。
貴族である私が、野宿なんてするはずもなく、ならばどうしてこんな所で目を覚ますのだろうか?
と疑問を抱き、近くに寝転がっていた使い魔に向かってこう言った。
ルイズ「ちょっとサイト! ここどこよ! どうしてこんなところにいるのよ!」
サイト「俺が知るわけないだろ……って、ちょっと待てよ。だんだんと思い出してきた」
ルイズ「何よ、話してみなさい」
サイト「確か俺達はフーケの捜索に来て、でゴーレムを倒したんだよ。あのロケットランチャーで。
あれ? ならどうして俺達みんな気絶してたんだ?」
キュルケ「『破壊の杖』の威力に、みんなびっくりしたとか」
サイト「そうなのかな。まあ、いいや。お、フーケもそこに倒れてるぞ。
よし! これで盗賊退治完了だな!」
サイトが笑顔でそう言うのを見て、私はほっとため息をつきつつ、胸の中のしこりに気がついた。
- 539: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:45:36.56 ID:mkKwFqUZ0
なんだろうか、この感じ。
別に、サイトの説明に疑問を持ったわけではない。実際、私にもフーケ退治に行った記憶はあるし、
私を守るためにサイトが『破壊の杖』を使ったのも見た覚えがある。
けれども……何故だろうか。
私の心にあったはずのものが、ぽっかりとなくなったような……そんな感覚を覚えた。
タバサ「……」
ルイズ「タバサ? 何を探してるの?」
タバサ「……本がない」
身体のあちこちを探り、自分のバッグの底をひっくり返しているタバサ。
どうやら愛用の魔法の本を探しているらしい。
大事にしていたはずで、なくしたとなれば彼女にとって一大事だろう。
タバサ「……けど、いい」
ルイズ「どうして?」
タバサ「そんな気がするから」
ルイズ「そう……」
タバサにしては直感的な物言いだった。それに、愛用の本がなくなったと言うのにやけにあっさりしている。
- 542: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/09(月) 23:46:44.38 ID:mkKwFqUZ0
サイト「あれ? 『破壊の杖』がないな……まあ、なくなっても、使い捨てだから危険はないんだけど」
キュルケ「じゃあ、帰りましょうか」
タバサがこくりと頷く。
ルイズ「……まあ、いっか」
私は歩き出した。
さあ、これからまた忙しくなる。
サイトをちゃんと使い魔としてしつけて、なおかつ私自身、きちんとしたメイジにならないと!
『ツンデレの使い魔』 終わり
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