( ^ω^)はミュージカルをするようです

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:37:48.48 ID:zIj6aBHDO

数日間を経て目を覚ました彼に待っていたのは、
隻腕になった体と妻からの三下り半だった。

彼は全く気付いていなかったが随分と前から浮気をされていたらしく、
フィレンクトの失職と同時に妻は別れを決意したらしい。

喪失感と絶望から、妻にはあっさりと離婚を同意し、
工場を訴えるなどのことはしなかった。
だがこれはフィレンクトの強気になれない
性格の弱さが起因しているせいでもある。

彼は弱い人間だ。確かに優しさや暖かさを持っている人格者でもあったが、
本質的には臆病なだけなのだ。

(‘_L’)(真知子さん……)



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:39:25.87 ID:zIj6aBHDO

そして彼はまたもや失おうとしていた。
今度は長い孤独の生活に、彩りをくれたあの人を。

(‘_L’)(……私は……どうしたら……)

元々彼女は別の土地で暮らしていたのだが、
生まれ故郷であるこの街で余生を過ごそうと、一軒家で独り暮らしをしていた。

だが、いつまでも母親を放っておけないと息子夫婦が同居を申し出て、
根負けした彼女はそれを承諾したらしい。

(‘_L’)(引き止められるはずがない……私にはそんな権利はない……)

重い足を引きずり、彼はとぼとぼと歩いていた。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:41:40.31 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(……しかし……でも……)

今日、彼女はこの街を去る。
港から船に乗り、遠い地へと行ってしまう。

(‘_L’)(私、は……)

正確な時刻は分からない。
なぜならフィレンクトは彼女の話の途中で立ち去ってしまったからだ。
それは涙を堪えられる自信が無かったせいだ。

「なんでモナァァァッ!モナーは何にも悪くないモナァァァァッ!!」

(‘_L’)(おや……?)

その時、彼の耳には大きな涙声が届いた。

( ;∀;)「モナァァァ!モナァァァァァ!」

(;^ω^)「な、泣かないでくださいお……」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:42:59.24 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(トロ蔵さん!?)

そこには駅前の広場で号泣する少年に、
袋を持ったまま狼狽している青年がいた。

(‘_L’)(そうだ……トロ蔵さんに相談してみよう!)

あれほど親切な彼なら、
きっと自分の話も聞いてくれるに違いない、とフィレンクトは思った。

(‘_L’)「トロ蔵さぁぁぁぁんっ!」

走り寄るフィレンクト。

(^ω^;)「お?」

( ;∀;)「モナァァァはっ!
       どーしてこぉぉぉなんだ、モナァァァァァァッ!!」

泣き叫ぶ少年。

(;^ω^)「おおっ……?」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:44:07.86 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「実はご相談したいことがあるんですよぉぉぉ!!」

すがり寄るフィレンクト。

(^ω^;)「おっ……おお?」

( ;∀;)「教えてモナ!お願いモナァァァ!!」

(;^ω^)「おー……おっ?」

(‘_L’)「聞いてますかトロ蔵さぁぁぁぁぁんっ!?」

(^ω^;)「おっ……?」

( ;∀;)「モナァァァァァ!!」

(;^ω^)「………」

(‘_L’)「トロ蔵さぁぁぁぁぁんっ!?」

(^ω^;)「………」

 (^ω^)

\(^ω^)/

青年は両手を上げた。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:45:45.30 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「トロ蔵さん!トロ蔵さんったら!!」

( ;∀;)「モナァァァ!モナァァァ!」

そして頭の上、ぴしゃりと手を叩く。

( ^ω^)「1・2・3・4!!」

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

(‘_L’)「……トロ蔵さん?」

体を揺すりながら足踏みする青年。

( ^ω^)「だっだっだっだっ♪」

( ^ω^)「だおだおんっ♪」

(;‘_L’)(………)

いったいどうしたというのだろう?
なぜか青年は突然、歌い出したのだ。
なにが彼をこうさせたのだろうか?

フィレンクトは困惑した。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:47:30.02 ID:zIj6aBHDO

そこに大勢の人が走ってくる音が轟いた。

(‘_L’)「……なんだ?」

音の方向に目をやる。
すると、自分達の方へと駆けてくる人の群がいた。

( ^ω^)「悩みっぱなしじゃ元気がなくなるお♪」

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

(‘_L’)「電車の出る時間……なのかな?」

ここは駅前だ。もしそうならおかしくはない。

だが明らかに仕事中であっただろう警察官や
ウエイトレスまで走っていたのが不自然だった。

( ^ω^)「そーんな君達なんか見たくないんだお♪」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:48:55.11 ID:zIj6aBHDO

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

やがて自分達に接近したその大勢の人達は――

( ^ω^)「だから歌ってそんなのぶっ飛ばしちゃうお♪」

いっせいに、ジャンプした。

( ^ω^)&皆さん『だおだおっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』

(;‘_L’)「っ!!!?」

青年と合唱した多くの人達。
フィレンクトは驚きを隠せなかった。

(;‘_L’)「………」

だが彼は、その驚きを上回るぐらい混ざりたくて仕方ない気がし、叫んだ。

(‘_L’)「うおおおおおっ!!」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:50:45.72 ID:zIj6aBHDO

するとフィレンクトの体中から力が湧いた。
腰と背筋が伸び、目に輝きが現れた。

( ^ω^)&皆さん『だおだおっ♪だおだおんっ♪』

(‘_L’)「ヘイッ!ヘイッ!ヘイッ!ヘイッ!
     ヘヘヘッヘイッ!!」

彼はパチンパチンと指を鳴らしながら、青年に肩を寄せた。

(‘_L’)「ちょいと私の悩みを聞いてよ〜♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

(‘_L’)「慕ってた人が遠くに行っちゃうの〜♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

(‘_L’)「どーすりゃいいかな?教えてちょーだいな♪」

皆さん『だおだおんっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:53:14.34 ID:zIj6aBHDO

一回転して大股を広げるフィレンクト。
そしてリズムを取りながら、じりじりと青年に近付いていく。

青年は左右に尻を振りながら、フィレンクトから押されるように離れていく。
ある一定の距離を進むと、今度は青年がじわりじわりと彼に寄り、
フィレンクトはゆっくり後ろに下がる。

二人はこれを交互に続けていた。

( ^ω^)「そいつは悲しい困ったことだおね♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

( ^ω^)「それならいっーちょ頑張らないとだおっ♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:54:54.97 ID:zIj6aBHDO

( ^ω^)「貴方のあつーいハートをぶつけるお♪」

皆さん『だおだおんっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』

するとそこで泣いていた少年の鼻から、
トランペットの様な音がした。

( ´∀`)〜<パプーッ♪

(* ´∀`)「モナッ♪」

これは恐らく鼻水がつまったせいで笛の原理が作用したのだろう、
とフィレンクトは思った。

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

\(^ω^)/「ヘーイ!」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:56:28.34 ID:zIj6aBHDO

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

 (‘_L’)/「ハーイ!」

(* ´∀`)〜<パパパパパッパッパッパッパラ〜パッ♪

(* ´∀`)〜<パァーッパパッパッパパパッ♪

皆さん『イェーイ♪』

向かい合って両手を持ち、青年の股の間を滑るフィレンクト。
それを一回、二回と往復し、立ち上がりながら回転してぴたっ、と静止する。

(‘_L’)(トロ蔵さん……私は……)

青年は右へ左へと体を揺すりながら、ノリノリで踊っていた。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:57:09.10 ID:zIj6aBHDO

少年は鼻から管楽器の音を響かせながら、服を脱いでいる。
集まって住人達は、思い思いに体を揺する。

(‘_L’)「行ってきます!!」

青年に一礼し、走り出すフィレンクト。
そこで車に跳ね飛ばされた。

(メ‘_L’)「ぐわぁぁぁっ!」

道路に叩き付けられる体。
一瞬消えそうになる意識。

(;゚∀゚)「お、お爺さんっ!!大丈夫ですか!!?」

車からスーツ姿の男が降りてきて、自分に駆け寄る。
だがフィレンクトは何でもないように立ち上がる。

(#‘_L’)「……車を貸せ」

(;゚∀゚)「え?」



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:59:18.43 ID:zIj6aBHDO

(#‘_L’)「車を貸すんだ!!」

(;゚∀゚)「は、はい!!」

開いたままのドアから車内に体を滑り込ませるフィレンクト。
ドアミラーをチェックし、
シートを足の長さに合わせて調節させ、シートベルトをしめた。

(‘_L’)(ATか……なんとか運転出来るだろうか……?)

エンジンをかけ、覚悟する。

(‘_L’)「いや、させるんだ!!」

振り上げた足をアクセルに叩き付けた。
唸るエンジン音と共に猛烈なスピードで車は発進した。

(‘_L’)「うおおおおおおおおおおおお!!!」



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:01:31.40 ID:zIj6aBHDO

制限速度を強烈なまでに無視した速度で車は加速する。
路上駐車していた車にぶつけ、対向車の車体を削り、赤信号を突破した。

(#‘_L’)「真知子さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

フィレンクトは加速する。
その様はまるで公道を駆ける彗星のようだった。


―――――


12台の車に傷をつけ、4台の車を大破させ、
電柱やガードレール等を破壊しながら港に辿りついた。

しかしすでに彼女を乗せた船は出港してしまっていた。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:03:45.55 ID:zIj6aBHDO

そこでフィレンクトは海を満喫する金持ちの老人からモーターボートを強引に借り、
漁船を一隻転覆させ、やっとのことで船に追い付いた。

止まれ止まれと大声を上げながら船を叩くフィレンクトに恐怖した船長は、
顔を引きつらせながらも、彼を船上へ迎入れた。

(‘_L’)「真知子さん!!」

∬'ー`)「フィレンクトさん……!来てくださったんですか!?」

彼女は驚きながらもフィレンクトを笑顔で見つめた。

∬'ー`)「良かった……怒らせてしまったんじゃないかと、不安でしたの……」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:04:48.62 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「まさか貴方に怒るだなんて!
     ……なぜ私が怒っていると思ったんですか?」

∬'ー`)「引っ越すことを言い出せなかったからですよ」

(‘_L’)「そんな――」

∬'ー`)「でも急に走り出してしまったでしょう?
    本当に申し訳なく思いましたわ」

(‘_L’)「……真知子さん、お話があります。
     貴方に聞いていただきたいことがあります」

∬'ー`)「あら……何かしら?」

そこでぶるりと体が震え、臆病さが顔を出す。
下腹の辺りに違和感を感じ、足がすくむ。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:06:25.51 ID:zIj6aBHDO

(;‘_L’)(……ク、クソ……しっかりするんだ……)

この歳になって告白など、
みっともなくはないか、と頭にちらりとよぎった。

(‘_L’)(年甲斐さなど踊った時に路傍に捨てた!
     そうでしょう?トロ蔵さん!!)

彼の続きの言葉を待つ彼女を見て、
フィレンクトは大きく息を吸う。

(‘_L’)「実は私にも、言い出せなかったことがあるんです」

∬'ー`)「……?」

(‘_L’)「真知子さん。……私は貴方のことが好きです」

∬*'ー`)「っ!?」

(‘_L’)「誰よりも愛してます」



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:08:01.63 ID:zIj6aBHDO

∬*'ー`)「フィ、フィレンクトさん……?」

(‘_L’)「本当に、心から、愛しております」

∬*'ー`)「あの……えっと……」

(‘_L’)「今はまだ、お返事は結構です」

∬*'ー`)「えっ……?」

(‘_L’)「私の気持ちを知っていただければ、それで充分なんです」

∬*'ー`)「………」

(‘_L’)「……私は今までとても長い人生を送ってきました。
     それは悠久と言っても過言ではないものだと思えるぐらいです。
     貴方にとっても、きっとそうだと思います」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:09:51.62 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「だから私たちが共に過ごした時間など、
     その長い時の流れに比べてしまえば、
     すれ違いと言える程に短いものでしょう」

∬'ー`)「……そうかもしれませんね」

(‘_L’)「でも……もったいないと思いませんか?」

(‘_L’)「すれ違いだけで終らせるには、
     人生というのは余りに貴重過ぎると思えませんか?」

(‘_L’)「だから……会いに行きます。私は貴方に会いに行きます。
     どんなに離れても、貴方の笑顔が見たいから……」

∬*'ー`)「………」

(‘_L’)「……さようなら、真知子さん。必ずまた、会いましょう」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:11:17.24 ID:zIj6aBHDO

真っ直ぐに目を見て微笑するフィレンクト。
彼はそれだけ言うと、船上から海へと降りるために歩き始めた。

∬'ー`)「……待ってください……牛乳屋さん」

(;‘_L’)「っ!!?」

フィレンクトは彼女の言葉に振り返った。

∬'ー`)「今まで毎日……美味しい牛乳を届けてくださって、
    ありがとうございました」

(;‘_L’)「なっ……なぜ貴方がそれを!?
      貴方も読心術の使い手なんですか!!」

∬'ー`)「……気付いたのは今日なんです。だって――」

∬'ー`)「冷たい牛乳のすぐそばに、あなたがいたから……」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:13:12.22 ID:zIj6aBHDO

(;//_L/)「……………」

∬'ー`)「またお会い出来るのを待っています。私も貴方の――」

(;//_L/)「うおおおおおおおっ!!!」

恥ずかしさの余り、フィレンクトは海に飛込んだ。
かなりの高さがあったが、彼にそれを気にかける余裕なんて全くなかった。


―――――


船が水平線へと消えた。
それを見送った後に、泳ぐ力を緩め、水面に漂うことにする。

(‘_L’)「………」

緩やかに波立つ海面に、フィレンクトの体は揺れる。
視線の先には夕日に染められた茜色の空。
静かにそれを見つめていた。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:15:30.14 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(綺麗だな……)

これ程美しい景色を見たことがあっただろうか?
彼は自分の記憶を掘り返してみたが、思い出すのは辛い経験ばかりだった。

仕事を失い、腕を失い、妻に去られてしまった。
それからは空虚で無益な時間の積み重ねだ。

ただ生きてきただけ。
気が付いたら、もう枯れ果てた老人へとなっていた。

(‘_L’)「………」

だがどうだろうか、この素晴らしい景色と晴々とした心境は。
フィレンクトは今まで、自分の人生は惨めで不幸なものだと思っていた。
だが本当にそうだったのか、と問掛ける。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:17:18.41 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(……きっとそんなことはない)

そう、今まで過ごした時間がなければ、
この場所に来てこんな気持ちになれなかったはずだ。

(‘_L’)(実に……良い気分だな……)

青年が大事なことを教えてくれた。

それは、自分にはまだ歌える喉と踊れる体があるということだ。
そして楽しむことを躊躇しなければ、存外に人生は面白い。

そして大事な人が教えてくれた。

自分にはまだ、美しいものを美しいと思える心があることを。
それは好意を持つ人の笑顔や達成感と共に見る風景だ。

(‘_L’)(良い人生だ……本当に……)



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:18:36.71 ID:zIj6aBHDO

そしてそれはこれからも続くだろう、
自分が生きている限り。

気の持ちようと行動だけで、
こんなにも素晴らしく愉快なものになるのだから。

(‘_L’)「さあ!帰ろうじゃないか!」

フィレンクトは反転し、泳ぎ出した。
この海を渡る帰り道の先には、
どんなことが待っているのかと夢想しながら。

長い時間をかけて泳ぎ続け、やがて港が見えてきた。
そして波の音に紛れながら、誰かの歌声が聞こえてくる気がした。

きっと貴方ですよね、トロ蔵さん?

声に出さずに呟いて、彼は楽しそうに微笑んだ。




五曲目・完



戻る六曲目