( ^ω^)はミュージカルをするようです

5: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:06:02.94 ID:1Y48UeqXO

七曲目・渡辺さん




('A`)「ぎゃああああああっ!!」

痩せた男の悲痛な叫びが店内に響いた。
彼の頭からは、噴水みたいに勢いよく血が吹き出ていた。

从'ー'从「あれれ〜?失敗しちゃったよ〜?」

渡辺さんは不思議そうな顔をしながら、顎に指をやって首をかしげた。
手には血に濡れたハサミを持っている。

('A`)「なんて……なんて酷いことをするんだ!!」

痩せた男は、何故か渡辺さんと
目を合わせないように下を向きながら言った。



6: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:08:17.29 ID:1Y48UeqXO

('A`)「俺は……気分転換にと髪を切りにきただけなのに……」

从'ー'从「なんでだろ〜?手が滑っちゃったのかな〜?」

(;A;)「なんでこんな目に合うんだぁぁぁっ!
   やっぱ床屋にしときゃ良かったぁぁぁっ!!」

从'ー'从「あれれ〜?お客さんは何で泣いてるんですか〜?」

よろよろと立ち上がりながら泣き叫ぶ男を見て、
渡辺さんは更に不思議そうな顔をした。

店長「渡辺君!!君は何やってるんだっ!?」

从'ー'从「……ふぇ?どちら様ですか〜?」

店長「渡辺くん……?ほ、本気で言ってるのかっ!?」



8: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:09:56.90 ID:1Y48UeqXO

(;A;)「ちくしょぉぉぉっ!死んでやるっ!
   死んでやるぞぉぉぉっ!!」

痩せた男はベルトを外し、首に巻き付けた。

店長「ちょっ!ちょっと待ってください!
   気を確にしてください、お客様!!」

(;A;)「うるせぇぇぇっ!!俺は死ぬんだぁぁぁぁぁっ!!」

椅子の上に立った男性は、
首に巻いたベルトをどこかに引っ掛けようと、悪戦苦闘していた。

そしてそれを見て渡辺さんは笑った。

从'ー'从「あははは〜っ!テルテルボウズみたいだねぇ〜!」

切った髪の毛が服に付着しないよう被されたカバーが、
彼女にそう連想させたのだ。



10: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:12:07.61 ID:1Y48UeqXO

(;A;)「………」

店長「………」

从'ー'从「明日は晴れるかな〜?」

(;A;)「おわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

从'ー'从「ひゃあ〜〜〜」

彼女は突然大声を出した男性に驚いた。
その痩せた男は、何事かを叫びながら、店を出て行った。

从'ー'从「……元気一杯な人だねぇ〜」

店長「…………」

从'ー'从「さってと、お仕事お仕事〜っと♪」

店長「その必要はねーよ。お前な、クビだから」

从'o'从「ふぇぇ〜?」

店長「もう来なくていい と言うか帰れ、すぐに」

从'ε'从「………?」



13: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:14:08.12 ID:1Y48UeqXO

店長「お客様の頭から流血だぞ?当然の処置だろうが」

从'ω'从「………??」

店長「退職金なんか出ねーからな。
   それより、訴えられるんのを覚悟しとけよ」

从'δ'从「………???」

店長「勤務態度も酷いと思ったけどよ、まさかここまで――」

その瞬間、美容院にトラックが突っ込んだ。

店長「うわああああああっ!?」

渡辺さんに話をしていた男は、
そのトラックに吹き飛ばされた。

从'ー'从「あれれ〜?」

外からでも店内の様子が見易いように
と設計された広い窓ガラスは粉々に砕けた。



14: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:16:53.10 ID:1Y48UeqXO

リラックスしてカットされるのを楽しめる
ふかふかの椅子も大きな車体と太いタイヤによって潰された。

ノハ;;)「私の車がぁぁぁぁっ!!」

トラックから少し遅れて、若い女が店に開いた穴から入ってくる。

店長「なに考えてるんだテメーはっ!?どうしてくれるんだよ!!」

苦しそうに油汗をかきながら、脇腹を押さえた男性がそう抗議した。



17: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:19:13.36 ID:1Y48UeqXO

从'‐'从「………」

ノハ;;)「わっ……私のせいじゃないんだよ……
    片目を髪で隠した女が急に車を奪いやがってさ……」

店長「はあぁぁぁっ!?何をホザきやがんだ!!
   妙な責任転嫁してんじゃねぇよ!!」

ノハ;゚听)「いや……本当なんだよ!!
     口の悪い女が私を引きずり降ろしてさ、
     この店に車を突っ込ませたんだって!!」

从つo`从「……ふあぁぁぁっ……」

店長「信じられるかそんな事!!
   信用して欲しいなら、今すぐそいつを連れてこい!!」



18: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:20:45.80 ID:1Y48UeqXO

ノハ;゚听)「いや、それがスゲー運動神経でさ、
     店にぶつかる前に車から飛び下りちまったんだよ!!」

从´ー`从「……ムニャムニャ」

店長「嘘つけボケ!!」

ノハ#゚听)「マジだバカ!!」

从'ー'从「……なんだか眠たいから、帰りますね〜」

ぺこりと頭を下げた渡辺さんは、
優雅に鼻唄を歌いながらその場を去った。

店で繰り広げられる喧騒に、彼女は目もくれなかった。


―――――


从'ー'从「たっだいまぁ〜」

犬「ワン!」

从'ー'从「またお仕事を辞めさせられちゃったよ〜」

犬「クゥ〜ン……」



20: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:21:46.21 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「ねー?困っちゃうよねぇ〜?
     これで18店舗目だもんねぇ〜」

すとんっ、と腰を下ろして犬の体を撫で出す渡辺さん。
彼女は拾ってきたラジカセでクラシックを流した。

从'ー'从「ふが〜♪ふんが〜っ♪」

段ボールハウスの中にバッハの音楽に響き、
渡辺さんはその音に陶酔した。

やがてお腹が減ったため、表に出て火をおこす。

从'ー'从「ふごふご〜♪ふぎぃ〜♪ぱぁ〜らぁ〜♪」

手鍋の中に水と米を入れ、火にかける。

从'o'从「おー♪おおー♪」

海水から得た塩を用意する。

从'ー'从「ぷぎぃ〜♪」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:25:47.95 ID:1Y48UeqXO
そして炊き上がるのを待つ。

つやつやに光るご飯が出来たら、
前述の調味料をかけて「渡辺ライス」の完成だ。

以上の作業を終えた彼女は家の中に入り、
炊きあがるのを待つことにした。

从'∀'从「あぎゃぱー♪」

从´ー'从「ぱっ……」

从´-`从「……――」

从- o -从「……zzZ」

そして彼女は深い眠りにつく。

―――――

从つー`从「ふぃ……?」

犬「キャインッ!キャインッ!」

从´o`从「……ふぁ〜――」

从'ー'从「よく寝たなぁ〜」

背伸びをして眠気を醒まそうとする渡辺さん。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:26:22.17 ID:1Y48UeqXO
しかし、彼女の目前には目覚ましには
最も効果的で危険な物が迫っていた。

从'ー'从「なんか焦げた匂いがするよ〜」

犬「ギャワンッ!アヒンッ!!」

从'ー'从「あれれ〜?」

眼前に広がるは赤い炎。

从'ー'从「ふえぇ?」

迫り来るは火炎。

从'ー'从「なんだか私のお家が燃えてるよ〜?」

出火の原因は渡辺さんの不注意だった。

米を炊くための火は、その器ごと墨に変えて激しさを増し、
彼女の固い紙繊維で出来た家を焼いていたのだ。

犬「ヒンッ!ヒギンッ!ワギョーンッ!!」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:28:26.87 ID:1Y48UeqXO

从;'ー'从「暑いよー!暑いよー!」

犬「ギャボォォォォッ!ワギャンッ!!」

半狂乱になった犬が小便で火を消そうとしたが、
それを見た渡辺さんが尻を叩いた。

从#'ー'从「コラッ!お家の中でオシッコしちゃダメでしょ!!」

犬「クゥーン……」

从#'ー'从「メッ!!」

犬「ワンッ!」

野良に生きる愛玩動物のしつけには成功はしたが、
命の燭は消え去る直前にまでせまっていた。

从;'ー'从「それにしても今年の夏は暑いねぇ〜」

燃え盛る炎はすぐ目の前に来ていたが、
彼女は異常気象で片付けているみたいだった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:30:07.43 ID:1Y48UeqXO

从;'ー'从「海にでも行きたい――」

渡辺さんのセリフを遮る様に、
炭酸ガスが噴射されるような音が辺りに響く。

その音の元である白い煙は炎を消し去り、彼女の顔を白くした。

从;δ;从「ゲフンッ!ゲフンッ!!」

煙にむせて涙を流す渡辺さん。

从つ3;从 「何するの〜!酷いじゃないの〜!」

咳き込みながら表に出ると、
消火器を持った二人組が胸を張って出迎えた。

(ムΘラ)「ツインズ!」

[`↓´]「参上!!」

从;o;从「またあなた達ですか〜!」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:31:12.57 ID:1Y48UeqXO

そこには渡辺さんよりも
遥かに長い公園ライフを過ごすベテランホームレス達が、
ポーズを取りながら決め台詞を吐いていた。


―――――



(ムΘラ)「俺達の」

[`↓´]「お陰で」

(ムΘラ)[`↓´]『お前助かった!!』

从#'ー'从「だから〜!
     いちいち恩着せがましいんですよ!あなた達は〜っ!!」

(ムΘラ)[`↓´]『………』

(ムΘラ)「なんだか」

[`↓´]「ごめんね」

(ムΘラ)[`↓´]『アイム・ソーリー!!』

从'ー'从「ジャクソン!ほら〜、噛み殺しなぁ〜」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:32:51.79 ID:1Y48UeqXO

犬「ブギャンッギャンッ!ギャバギャァンッ!!」

[;`↓´]「うわっ!ひいぃぃぃっ!ぎゃっ!!」

(ムΘラ)「ひひひひひ………」

溜め息をついてから、渡辺さんは考え事をすることにした。
明日からどうしよう、と。

家は焼失し、仕事はクビになった。

从'ー'从(どうやって生活してこうかなぁ〜)

公園に住んでいるので家賃は掛らない。
それに食事も、廃棄された弁当や生活の知恵というやつで賄っている。

だがそうは言っても、年頃の女の子だ。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:34:11.39 ID:1Y48UeqXO

洗剤抜きで洗う洋服や、
ゴミをアクセサリーだと言い張るのには限界がある。

渡辺さんは、なんとか生活水準を上げたいな、と思っていたのだ。

从'ο'从「あーあ……」

犬「ブロォォォッ!ゴギャンッ!!ギョーーンッ!!!」

(;ムΘラ)「痛っ!痛いから!!止めろ!!」

[`↓´]「ぷぷぷ、ぷっー!クスクスクスッ!」

从'‐'从「どうすれば、いいのかな〜?」

犬「ワゴォォォォォォォォォッ!!!ギョボゴォォォォォォォンッ!!!」

(;ムΘラ)「ぎゃあああああああああああっ!!」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:35:58.87 ID:1Y48UeqXO

[;`↓´]「……あら?もうそろそろ洒落にならない……か?」

(#ムΘラ)「あたりめーだろ!さっさと助けろよ!!」

[;`↓´]「ちょ、ちょっとカルカン買ってくるわ!」

(#ムΘラ)「それは『猫まっしぐら』だろ!!」

渡辺さんは考える。
なぜ自分の人生が上手くいかないかと。

从'‐'从「……私の何がいけなかったんだろぉ〜?」

(#ムΘラ)「大体テメーにはそんなもん買う金あんのかよ!?」

[;`↓´]「いや、ねーよ」

(#ムΘラ)「だったら棒とかでこの犬叩け!!」

[;`↓´]「それはダメだろ。可哀想じゃん」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:37:49.80 ID:1Y48UeqXO

(#ムΘラ)「…………それもそうだよなあああああっ!
     ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

この街に来て、美容師の専門学校を卒業した。
なぜその道に進んだかというと、手に職をつけたかったからだ。

技術があれば、食いっぱぐれない。
そんな風に渡辺さんは思っていたのだ。

しかし蓋を開ければ、失職の嵐。
二十歳を越えて周りを見れば、段ボールの家すらも残っていなかった。

从'ー'从「あれれ〜?私の人生設計はどこで狂っちゃったんだろ〜?」

不可思議な現状だった。
なぜ、こうなったのだろう?



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:40:08.57 ID:1Y48UeqXO

[;`↓´]「ちょっとお嬢ちゃん!
      もう勘弁してくれよ!相棒が死んじまうよ!!」

(ムΘラ)「うわああ……あっ……ああ……」

从'‐'从(世間の荒波は想像以上に厳しいねぇ〜)

[;`↓´]「…………」

[`↓´]「共同墓地を予約しておこうか?」

(ムΘラ)「あきらめ……てんじゃ……ねぇ……」

从'‐'从(明日からどうしよう……)

[;`↓´]「そう言われてもなぁ……」

(ムΘラ)「お嬢……ちゃん……ご飯……
     ご馳走するから……助けて……」

从'ー'从「!!」

从'ー'从「ビリー!もう止めていいよ!」

犬「ワン」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:42:30.87 ID:1Y48UeqXO

男の首から口を離す犬。
噛まれていた男は、咳き込んだ。

[`↓´]「おおっ!良かったな!」

(;ムΘラ)「ゲホッ……ゴホッ……てめぇ……後で殴るからな……」

从'ー'从「ねえ」

渡辺さんは二人に向かい言った。

从^ー^从「私、ウナギが食べたいな〜」


―――――


二人組は自動販売機の下から十円玉を何個か拾い、
公衆電話に向かっていた。
渡辺さんもその後に続いて歩いている。

[`↓´]「携帯なんぞが普及するから、探すのも一苦労だな」

(ムΘラ)「時代の流れってやつだろ。仕方ねーよ」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:45:05.36 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「あれれ〜なんでウナギを食べるのに電話なんて掛けるの〜?」

(ムΘラ)「あのな、俺達にそんな高級品を奢る金なんてあると思うか?」

[`↓´]「答えは否だ」

(ムΘラ)「ならばどうする?」

[`↓´]「作れば良い」

(ムΘラ)「どうやって?」

[`↓´]「そこが頭の見せ処」

(ムΘラ)「そう、スゲェ賢い」

[`↓´]「俺ら二人が」

(ムΘラ)[`↓´]『錬金術を披露しよう』

从'o'从「ふぇぇ?」

(ムΘラ)「まあ、見とけって」

公衆電話に十円を入れ、適当に番号を押す男。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:46:59.83 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「ほれ、受話器だ」

[`↓´]「あいよ、任せてくれ」

从'ー'从「……?」

(ムΘラ)「分からないよな、教えてやろうか?」

(ムΘラ)「こいつは『オレオレ詐欺』ってやつさ」

从'ー'从「おれ……?」

[`↓´]】「あっ、もしもし?」

『もしもし、どちら様ですか?』

[`↓´]】「俺だよ、俺」

(ムΘラ)「……開口一番にこう言われると、
     電話の相手が自分の身内みてぇに思えるだろ?」

从'ー'从「うん!」

(ムΘラ)「ここで金を貸してくれって言われれば?」

从'ー'从「貸しちゃう!」

从;'Д'从「あっ!!」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:48:45.34 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「そういうことさ……クックックッ……」

[`↓´]】「俺だって!俺!!」

『失礼ですが、どちら様でしょうか?』

[`↓´]】「だから俺だって!俺よ!!」

『……どちら様ですか?』

[;`↓´]「ええ……うおっ……」

(ムΘラ)「……ん?」

从'ε'从「?」

[;`↓´]】「俺、俺、俺!俺だって!!」

『いや、だからお名前を……』

[;`↓´]】「ちょっと待っててね!!!」

[;`↓´]「おい!変わってくれよ!!」

(;ムΘラ)「……俺が?」

[;`↓´]「早く早く!!」



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