( ^ω^)はミュージカルをするようです

88: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:26:38.03 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「おお、いつの間に……」

(ムΘラ)「手間が省けたな、あそこに行こうぜ」

[`↓´]「えぇ〜タクシー乗りたかったのにぃ」

(ムΘラ)「ボコボコにしてやるから救急車に来てもらうか?」

从 ‐ 从「うっ……ううっ……」

(ムΘラ)「……?どうしたよ、お嬢ちゃん?」

胸を押さえてうつむく渡辺さんを心配そうに見る男。

从 ‐ 从「……うぅ………」

(;ムΘラ)「おいっ!どうしたんだ!?」

[;`↓´]「病気か?持病かなにかの病か!?」

慌てる二人。
尋常じゃない彼女に気が動転しているようだった。



90: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:27:55.01 ID:1Y48UeqXO

(;ムΘラ)「びょ、病院だ!病院!!」

[;`↓´]「救急車呼ぼう!」

(;ムΘラ)「だから金なんて無いだろ!このタクシーをパクるぞ!!」

渡辺さんは手を引かれ、車に乗せられた。

[;`↓´]「しっかりしろ!息だ!息をしろ!ひっひっふー!ひっひっふー!」

从 ‐ 从「うぅぅ……うっ………」

(#ムΘラ)「そりゃ妊婦の呼吸法だろ!?
     余計なことしてねぇで背中でもさすってやれよ!!」

運転席に座った男が怒号を上げながらエンジンをかけ、車を発進させる。

[;`↓´]「わ、分かった……」



92: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:29:16.73 ID:1Y48UeqXO

後部座席にいる男が渡辺さんの背中を撫でる。

[;`↓´]「大丈夫か?なあ?」

从 ‐ 从「うっ……うっうっ……………」

問いに、答えない。
うつむき続ける。

息を吸う。
大きく。

そして、叫んだ。

从゚□゚从「おわあああああああああああっ!!!!」

介抱する手を振りほどき、車の窓を拳で叩き割る渡辺さん。

[;`↓´]「なになになに!?」

(;ムΘラ)「ええええええっ!?」

从 ゚Д゚从「うえぇあああああああああああっ!!!!」

彼女は両足で床を踏み鳴らし、
両手を天井にがつんがつんとぶつける。



95: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:32:30.15 ID:1Y48UeqXO

そして渡辺さんは割れた窓から飛び下りた。

―――――


从 ゚ー゚从「うひょ、うひょ、うひょおおおおおおおおおおおおっ!!」

彼女は全速力で疾走していた。
股が裂ける程に足を伸ばし、腕が肩から千切れるぐらいに振った。

それでもまだ、足りないぐらい、一刻も早くあそこに行きたかった。

从 ゚ー゚从「フオォォォォォォォォォッ!!」

本能が命じるままに駆けたその先。
そこには銀行から飛び出すびしょ濡れになった柔和に微笑む青年がいた。

( ^ω^)「ホライゾーン♪勝手気ままなホライゾーン♪」



96: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:33:42.49 ID:1Y48UeqXO

膝まずく人の列の中央を両手を広げて走る青年。
彼が通るたびに次々と回りながら立ち上がる人々。
銀行からも大勢の人たちが水に濡れた顔を拭いもせずに青年に続いた。

从゚ー゚从「はあああああっ!!!」

とにかくもう、この宴に参加したかった渡辺さん。
彼女は今まで出したこともない速度で青年の前までダッシュした。

从;'ー'从「くっ!」

しかし彼女は意図せずに転倒してしまう。
それも青年の進行方向上でだ。

从'ー'从(しまったよ!!)

不味い、邪魔だ。これでは野暮になる。



97: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:35:46.43 ID:1Y48UeqXO

そう思った彼女は、
苦肉の策で上半身を倒したまま両足を左右に広げた。

( ^ω^)「やりたい放題やっちゃうもーん♪」

すると青年は、歌いながら
陸上競技のハードルをクリアーするみたいに、自分の上を飛び越えた。

从'ー'从(よっしゃっ!!)

満足気にそれを見届けた渡辺さんは、
開いた足をそのままに、腕の力だけで上体を持ち上げた。

从'ー'从「最高にクールだよっ!!」

宣言し、頭の天辺をアスファルトに着ける。
そしてそこを支点に渡辺さんは、勢いをつけて回り出した。

「あれ見ろよ!ヘッドスピンだ!!」

「スゲー勢いだ!!」



99: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:36:29.92 ID:1Y48UeqXO

通行人が自分を見て声を張り上げた。
嬉しくなって、更に回った。

从'ー'从「ワオッ!!」

回転数を増やす。
それを意識しながら、手で地面を押して更に回る。

从'ー'从「ヘイヘーイッ!!」

そして足の先を掴み、両足を広げる渡辺さん。
スカートをはいていたのでパンツは全開だったが、気にしない。

( ^ω^)「だからあなたもカモンだお♪」

从'ー'从「ひゅーっ!」

周りを見ると自分と同じように
頭で回転する人達が現れていた。

まるでお花畑みたい――渡辺さんは
そう思いながら回り続けていた。



102: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:38:54.72 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「ちょっと目を離した隙になーにしてんだよ?」

[`↓´]「やれやれだぜ!」

いつの間にかいなくなっていたはずの二人組が、
肩で風を切りながらこちらに向かってきた。

(ムΘラ)「こんな無茶な――」

男が言い切る前に、ぴたりと回るのを止める渡辺さん。
そして逆さになったまま言う。

从゚ー゚从「うるせぇ!!」

(;ムΘラ)「え?」

[;`↓´]「き、決めセリフが台無しに――」

从゚ー゚从「だからうっせぇって!!!」

((((;Θ;))))「なななな、なんだよぉ……」

[;`↓´]「おいおい、泣くなよ……」



103: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:39:50.21 ID:1Y48UeqXO

从゚ー゚从「ガタガタ言ってんじゃないよっ!!」

从゚ー゚从「歌えっ!!!」

((((;Θ;))))「ひいぃぃ……キャラが違う……」

[;`↓´]「お前もな」

从゚ー゚从「歌うんだよぉぉぉぉぉっ!!!」

( ^ω^)「そうだお♪みんなでやるんだお♪」

渡辺さんの両足を穏やかに
微笑む青年が閉じさせ、抱え、反転させながら持ち上げた。

( ^ω^)「やりたい放題やっちゃうお♪」

从*'ー'从「空が!近いぃぃぃ!!」

青年に抱き抱えられ、両手を広げる渡辺さん。

ノパ听)「よっしゃあっ!!」



105: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:41:07.91 ID:1Y48UeqXO

そして男物のシャツを着た女が青年ごと更に持ち上げる。

( ^ω^)「そら行くお♪」

青年が両腕の力だけで彼女を放り投げる。
渡辺さんはその勢いを利用して、華麗にバク宙した。

从'ー'从「ヘーイ♪」

着地するとすぐに青年も宙を舞ったのが見えた。

( ^ω^)「だおー♪」

青年が地に足を着けたのを確認するシャツを着た女。

ノパ听)「こっち来ーい♪」

そう歌って手招きをした。

同時に走り出し、同じタイミングで飛び上がる青年と渡辺さん。
女は手を差し伸ばす。
その掌に足を掛け、再びバク宙した。



106: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:41:45.18 ID:1Y48UeqXO

( ^ω^)从'ー'从『ヒャホーウ♪』

小気味良く一回転半し、背中から落ちる二人。
その体を受け止めるホームレスの二人組。

(^ω^ )↓´]「よいしょー♪」

(ムΘ从'ー'从「こらしょー♪」

渡辺さんは丁寧に着地させてもらい、中腰になった。
そしてその上を男が馬飛びする。
彼の目の先には同じように飛び越えた相方がいた。

(ムΘラ)「俺は小汚い公園暮らし♪どうやら社会の負け犬らしい♪」

(ムΘラ)「毎日夕食、残飯三昧♪それでもお腹はパンパン万歳♪」



107: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:42:32.53 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「そいつは奇遇だ俺そう♪うんざりにしてるぜそれはもう♪」

[`↓´]「賞味期限はいい加減♪だから壊す腹、もう吐けん♪」

お互いを指差し境遇を嘆き合う二人組。
若干涙目になっているのは誰の目から見ても明らかだった。

彼等は下を向き、溜め息を吐いた。

そんな二人の肩に手を置き、
分かるよ分かるよ、といった感じで頷く青年。

( ^ω^)「それは大変命がけ、毎日必死のサバイバル♪
       だけど必要なのは心がけ、見方を変えればカーニバル♪」

手近にいる渡辺さんの腰を掴む青年。

从*'ー'从「きゃっ」



109: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:43:09.70 ID:1Y48UeqXO

ぐいっと持ち上げてお姫さまだっこをされる渡辺さん。

从*'‐'从「…………」

青年は顎を上げていたので顔が見えない。
しかし唐突に彼女を目を直視する。

それに思わず、照れてしまった。

( ^ω^)「さあさあそれじゃやるんだお♪恥ずかしがらずやっちゃうお♪」

自分の片手だけを握って放り投げる青年。
びっくりするぐらい上手に立てる渡辺さん。

そんな彼女に顔を近付けて青年は歌う。

( ^ω^)「好きに勝手にやっちゃうお♪やりたい放題やっちゃうお♪」

青年が左右に手を引いた。
逆らえずに体が揺れた。



111: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:43:44.79 ID:1Y48UeqXO

从*'ー'从「わわっ……」

( ^ω^)「僕の名前はホライゾーン♪やりたい放題やっちゃうもーん♪」

( ^ω^)「だからみんなもカモンだおっ♪」

鳴りを潜めていた群衆が、いっせいに湧いた。
歌う青年の元へと集まった。

( ^ω^)「ホライゾーン♪」

そして組体操をする。
ピラミッドだ。
青年は渡辺さんの手を引きながらその階段を上がる。

( ^ω^)「僕の名前はホライゾーン♪」

渡辺さんは地面とは違う柔かい感触を足で踏む。
聞いたことも無い歌の歌詞が頭に浮かぶ。



113: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:44:20.44 ID:1Y48UeqXO

从*'ー'从「ナ・イ・ト・ウ♪ホライゾーン♪」

( ^ω^)「マイ・ネーム・イズ――」

頂上の人の背中に足を置く青年と渡辺さん。
胸を張り、顔を上げる。
歌う。

从'ー'从( ^ω^)皆さん『ホライゾーン♪』

声が、揃った。
その合唱は、夏の空に響いていた。


―――――


なぜか銀行内から流れ出した水には、沢山の一万円札が浮いていた。
それをちゃっかり拾ったホームレスの二人組は、
警察に届けることもしないで散財した。



115: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:45:04.18 ID:1Y48UeqXO

彼曰く、(ムΘラ)『銀行にゃあ保険がかかってるから大丈夫だ。
それにあいつらの手口は、汚い』だそうだ。

食い逃げしたお店の料金を払い、
詐欺の電話した相手に謝罪し、掘った穴を埋めた。

そして、うなぎをご馳走してもらった。

从*'ー'从「ふええ〜美味しかったよ〜」

[*`↓´]「マジとろけたわ、舌で」

(ムΘラ)「昨日今日と忙しかったからな、労いがてらに奮発よ」

(ムΘラ)「それと――」

(ムΘラ)「餞に、か」

从'ー'从「……そうだね〜」

[`↓´]「ん?」

立ち止まる三人。
お互いの顔を見合う。



117: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:45:47.31 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「本当は、とっくに気付いてたんだ。
     でもお前らとつるむのは楽しいから、つい、な……」

[`↓´]「……そうか……そうだよな」

从'ー'从「私も楽しかったよ〜」

[`↓´]「うん、俺も」

(ムΘラ)「…………」

从'ー'从「やっぱこのままじゃいけないよね……」

渡辺さんは嬉しかった。
二人の気持ちが自分と同じだったことが。
自分達は本当に仲が良かったのだな、と思った。

(ムΘラ)「俺とお前が出会って十年ちょっと、
     そんでお嬢ちゃんとは三年弱ってとこか?」



119: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:47:35.52 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「よくもまぁ、ここまでブラブラしたもんだ」

从'ー'从「同感だよ〜」

切っ掛けはあの柔和に微笑む青年との出会い。
正確に言うと、あそこに集って踊っていた人達だった。

平日の朝に参加してきた束の間の仲間達は、多くが働く社会人だ。
それは服装や雰囲気で察せられた。

真摯に毎日を生き抜く彼等や彼女達にとって、
あの集まりは楽しそうな息抜きに見えた。

それに引き替え自分は、
無器用なことを良いことに怠惰に過ごしていた、と実感してしまった。

表情で、分かったのだ。
自分とあの人達との違いに。



121: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:48:54.57 ID:1Y48UeqXO

誰もが生き生きとした、実に良い顔だった。

彼女は、なりたいと思った。
あんな顔に。

だから立ち止まるのはやめることにした。
愉快な日々に別れを告げることを決意した。

[`↓´]「しかしよ……社会復帰なんて出来るのかねぇ……」

(;ムΘラ)「確かにな。人生サボり過ぎたわ」

从'ー'从「私たち、駄目人間だしね〜」

束縛からの逃避ではなく、
充実した時間が欲しくて自立したかった。

今度こそ、自分の力で。
自分の面倒を自分で見れるようになるために。

从'ー'从「でも、一度失敗したからもう怖くないよ」



124: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:50:02.11 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「…………」

[`↓´]「…………」

从'ー'从「転んでも、こうやって立てるってことを私は知っちゃったもん」

从'ー'从「だから、また会おうよ。そんで再会を豪遊して祝おうよ!」

(ムΘラ)「……いいな、豪遊。
     いつかその日のために働くってのも、悪くないな」

[`↓´]「その時もしお前らが貧乏でも安心していいぞ。
     俺が奢ってやるから」

(#ムΘラ)「なんでテメーが勝ち組なんだよ!どう考えても俺の方が――」

从'ー'从「あれれ〜?人生は勝ち負けなんかじゃ決まらないよ〜?」



125: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:50:49.33 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「頑張ってる人が一番なだけだよ〜」

(ムΘラ)「……この野郎!いいこと言うじゃねーか!!」

[`↓´]「それもそーだな!やってやるぜ!!」

从'ー'从「それじゃお別れだね!元気でね!!」

从'ー'从(ムΘラ)[`↓´]『また会う日までさようなら!!』

三人は、いっせいに歩き出した。
別々の方向へ。

お互いに身の振り方は聞かなかった。
聞くのが楽しみだったからだ。
また会った時に。

从'ー'从「〜♪」

これからどうしようか?

それは何度もした自問自答。



127: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:51:31.35 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从(いっぺん実家に帰ってみようかな〜
     それとも住み込みのお仕事を探そうかな〜)

もう美容師にはこだわらない。
向いてなかったのだと諦めた。
でも無駄だとは思わない。あれはあれでいい経験だった。

从'ー'从「らら〜らんが〜♪」

これから何をしていこうか?

色々なことを想像して、
自分は本当に自由なんだなと実感した。

从'ー'从「らごらご〜らんぎ〜♪」

そして彼等のことを考える。

今度会う時、あの二人はどんな風になっているのだろうかと。

仕事は何をしているだろう。
服装はどんな感じだろう。



128: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:52:17.41 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「マ〜イ・ネ〜ム・イズゥ〜・ワッタナベ〜♪」

でも、一つだけ変わらないことを彼女は知っている。

それは再会したら、また馬鹿みたいなやりとりで
大騒ぎするに決まっている、ということだ。

これだけは、きっと変わらない。

だから彼女は安心して前を歩けた。

そして一度だって振り返らない。

きっと彼等も、そうしているはずだから。





七曲目・完



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