( ^ω^)はミュージカルをするようです

95: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:08:45.82 ID:HXhYKscXO
こうしているのが正しいとは、とても思えない。
ビロードの命は風前の灯火のはずなのだ。
それなら傍にいてやる方が良いのだろう。

しかし、会えない。会いたくない。

妊娠と彼の病気のせいで、頭が混乱しているからだ。
いま彼の顔を見ても、上手に笑える気がしぃにはしない。

(*゚‐゚)(小説みたいには……いかないみたいだね……)

昨夜読んだ本の内容と今を取り巻く現状は恐ろしいほど酷似していたが、
ヒロインのようにあっさりと現実を受け入れないし、
自分は彼女みたいに快活な行動などとれそうもなかった。

(*゚‐゚)(……でも、しっかりしなきゃ……赤ちゃんがいるんだもんね……)



97: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:10:17.51 ID:HXhYKscXO
しぃは怖かった。
腹に宿した命の重さと、近い将来彼がいなくなってしまう現実が。

(#゚‐゚)「バカ!私のバカ!!」

竿を離してバケツを蹴り倒す。
海に逃げようとする一杯のイカを捕まえる。

(*゚‐゚)「いま一番怖くて困ってるのは……ビー君じゃない……
    なのに自分のことばっかり考えて……」

イカを抱き締め、ギリギリと締め上げる。

(* ‐ )「……でも……どうしたら……私はどうすれば……」


その時、どこからか、歌が聞こえた。


(*゚‐゚)「……?」

『――♪』

(*゚‐゚)「……なに?」



98: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:11:12.05 ID:HXhYKscXO
「だったら踊りで決めようお♪リズムとダンスでファイトしお♪」

(*゚‐゚)「??」

( ^ω^)「ブンブブーン♪ブンブンブーン♪」

倉庫が立ち並ぶ一角で、柔和な表情の青年が歌いながら踊っていた。

( `ハ※)「ブンブブーン♪ブンブンブーン♪」

あれはカレーだろうか?
茶色の物体を顔面につけた男が大きく一度、足を振り上げてからジャンプする。



100: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:12:41.81 ID:HXhYKscXO
(*゚‐゚)(……楽しそうだなぁ……)

(部A`ゝ´)「ブンブブーン♪ブンブンブーン♪」

茶色を付着させた男に対抗するように胸を張り、
手を頭上で交差させて地面を膝で滑る男もいる。

(*゚‐゚)(私も……仲間に……)

胸に抱くイカが、足の先を彼らに向けた。

『行こう、あそこへ』

そう言ってる気がしてならなかった。

(*゚ー゚)「うんっ!!」

イカを振り回し、ダンスホールにヘッドスライディングするしぃ。

(*゚ー゚)「ブンブブーン♪ブンブンブーン♪」

(´・ω・`)「まーた変なの来やがった」

しょぼくれた男がそう言った。
海の沖では鯨がシオを吹く。



103: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:13:27.48 ID:HXhYKscXO
鯨「ブシュー」

( ^ω^)「踊ろうお♪」

(部A`ゝ´)「ブンブブーン♪」

( ^ω^)「歌おうお♪」

[壱・八・]「ブンブブーン♪」

( ^ω^)「笑おうお♪」

(*゚ー゚)「ブンブブーン♪」

( `ハ※)「み・ん・な・で」

全員「仲良くしようよ♪」

歌い合い、踊り合う。
ダンスのステップなんて知らなかったが、手にいるイカが教えてくれる。



105: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:15:08.36 ID:HXhYKscXO
微笑みながら両手を広げて青年が走る。
男達が拳銃を発砲する。

(*゚ー゚)(楽しい……楽しいよ……っ!!)

浮き沈みする鯨、低空飛行するカモメ、水しぶきをあげる鰯達。

(*゚ー゚)(……こんなに楽しいことがあるだなんて!!)

全身を使って、踊る。
腹から声を出して、歌う。

( ^ω^)「ブンブンブンブン♪ブブブーン♪」

歌に一区切りつき、全員が思い思いのポーズで静止した。
辺りはしんと静まりかえり、乱れる息だけが微かに聞こえてくる。


そして空からは、しぃにとって信じられないものが降ってきた。



107: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:16:25.86 ID:HXhYKscXO


(*゚‐゚)「――これは……雪っ!!?」

真っ白の粉が、辺りを包んだのだ。
これは粉雪だ、としぃは目を丸くする。

(*゚‐゚)(真夏に……雪が……)

煙霧のような乳白色の粉が、風と共に舞い上がる。
港に備え付けられた灯りに反射して、一粒一粒をきらきらと輝かしながら。

(*;‐;)(ビー君……ほら、凄いよ……夢みたいにな出来事が起きちゃったよ)

光景に、目を奪われた。
両手で掬い、空を仰いだ。

(*;‐;)(綺麗だよ……ビー君にも、見せてあげたいよ……)

この先自分が生きて行く中、これほど美しいものを見れるのは、
決してそう多くはないはずだ。

だからしぃは、見たいと思った。

彼と二人で。
肩を並べて。

その方が、もっと綺麗に思えるだろうから。



108: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:18:59.57 ID:HXhYKscXO
(部B`ゝ´)「大分盛り上がってきやがったな!」

パンッ、と手を叩いて男が言う。

[壱・八・]「でも夜はまだまだこれからOK?」

簡単なステップを踏んでから、中国人らしき男が応える。

( ^ω^)b「おk」

親指を立てる青年。
それに続き、みなが指を立てていく。

( `ハ※)b「おk」

(部A`ゝ´)b「おk」

[弐・八・]b「おk」

(部B`ゝ´)b「おk」

[壱・八・]b「おk」

(*;‐;)「…………」

(*つ‐;)

d(*゚ー゚)b「おkおk」



111: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:20:45.74 ID:HXhYKscXO
( `ハ※)「OK!エブリバディ!」

( ^ω^)「そいじゃ朝までブンブンナァァァァァイトッ!!!」

再び、踊り出した。
しぃも負けずに体を動かした。

いつの間にか、宙を舞う白は、消えていた。

(*゚ー゚)(ねえ、ビー君……私は決めたよ。
   この先なにがあろうと、私はビー君の傍にいるって。
   だってもしまたあんな凄いことが起きた時、君と一緒に見れないのは残念だもん)

(*゚ー゚)(だから、離れないよ……ずっと支えるよ。
    力不足かもしれないけど、精一杯……)

(*^ー^)(そんで三人で……仲良く生きようね)

( `ハ※)「こ・の・ま・ま」

全員『朝まで騒ごう♪』

( ^ω^)「ブンブブーン♪」



112: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:22:28.92 ID:HXhYKscXO
青年が腕を広げ、胸を張った。
そこでバシャリと水の音が背後から聞こえた。

(‘_L’)「トロ蔵さぁぁぁぁぁんっ!
     私も混ぜてくださいよぉぉぉぉぉっ!!」

振り向くとびしょびしょに濡れた老人が、
手を振ってこちらに走り寄る姿が見えた。

その瞬間、どこか遠くからサイレンのような音が鳴り響く。

(;`ハ※)「っ!!!」

(;^ω^)「お?」

(部A;`ゝ´)「サ、サツだ!!サツが来やがった!!
       みんな逃げろおおおおおっ!!!」

(;゚ー゚)「え?ええっ!?」

[壱;・八・]「我逃走決意ッ!!!」

その場にいた全員が半狂乱でぎゃあぎゃあ喚き、右往左往に走り回る。



114: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:24:03.66 ID:HXhYKscXO
(‘_L’)「……あれ?踊らないのですか?」

(;`ハ※)「ヤバいアル!早く逃げるアル!!」

(部B;`ゝ´)「ありゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!!?」

(‘_L’)「皆さん、どうしたのですか?」

(;゚ー゚)「ダメ!前科持ちの妊婦なんて絶対ダメだよぉぉぉぉぉ!!!」

[弐;・八・]「亜婆婆婆婆婆婆婆婆!!!」

(‘_L’)「踊りましょうよー」

慌てて車に乗り込む男達。
次々と海に飛び込む中国人達。

(;^ω^)「おー……僕は別に捕まっても……手間も省けるし……」

(#゚ー゚)「バカ!!!」

(゚ω゚(#)「ぶはぁっ!!」

しぃはぶつぶつ呟く青年を、しぃは平手で叩く。



116: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:24:58.09 ID:HXhYKscXO
(#゚ー゚)「ここに何丁拳銃が転がってると思ってんの!!
    全部あんたのせいにされちゃうよ!?
    それに銃器の所持は一発実刑だから当分檻から出られないんだよ!!?」

(;^ω^)「……おー……お?」

(#゚ー゚)「とにかく走る!!返事はっ!?」

(;^ω^)「は、はいですおっ!!」

青年の手を引いて、全速力でその場から離れるしぃ。

(‘_L’)「ブンブブーン♪」

余韻ではないはっきりとした歌声に目だけをやると、
濡れた老人が片足を天に振り上げているところだった。

しぃはそれを気にも止めずにダッシュする。



118: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:26:25.77 ID:HXhYKscXO
(;^ω^)「ちょっ……早っ……」

(#゚ー゚)「もっと急ぎなって!!捕まりたいの!?」

貧弱なスタミナからか、弱音を吐く青年。そんな彼に激を飛ばすしぃ。
途中、「段ボールに隠れれば大丈夫」と言う彼の意見にも一喝し、二人は夜の街を走り抜ける。

(#゚ー゚)「ほらこっち!!」

(;^ω^)「階段ですかお……」

歩道橋を指差したしぃに、うんざりとした様子で答える青年。

(#゚ー゚)「いいから!!」

(;^ω^)「……はいですお」

相変わらず、手は繋いでいた。
そのまましぃは階段を駆け上がる。

しかし、強い力で引き止められた。



119: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:27:32.27 ID:HXhYKscXO
(;゚д゚)「あぐぅ!?」

驚いて、青年を見る。
彼は自分より吃驚した顔だった。

( ゚ω゚)「だっ、大丈夫ですかお!?」

(;゚ー゚)「……ん?なにが?」

( ゚ω゚)「血ですお!!血が出てるんですお!!」

しぃには青年の言葉の意味が分からない。
なので彼の視線を追って、自分の腿を見た。

(*゚‐゚)「…………」

(;゚д゚)「あぁぁぁっ!!?」

( ゚ω゚)「この血の量は重傷だお……」

(*////)「あやややや……こここ、これは……」



122: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:29:37.97 ID:HXhYKscXO
( ゚ω゚)「逃げてる場合じゃないですお!!
      どうして黙ってたんですかお!?」

(*////)「ちゃうちゃうやがなぁ……これは……あのぅ……」

( ゚ω゚)「手当てしなきゃダメですお!!
       すぐに見せてくださいおっ!!」

(*////)「み……見せ……うぇ?」

( ゚ω゚)「傷口ですお!!!早く見せ(ry」

高速で取り出したはスタンガン。
迷わず青年に押し付け、スイッチオン。

(((((( ゜゜ω゜゜))))))「あんぎゃああああああああああああああっ!!!」

店員曰く、食らったら半日は目を醒まさない電気ショック。
青年は悶絶しながら階段から転げ落ちていった。



124: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:31:34.08 ID:HXhYKscXO
(*////)「…………えっち」

睨み付け、舌を出す。
この威力なら、彼は昼頃まで気を失ったままだろう、と溜飲を下げるしぃ。

そして彼女は急にきたあれのため、コンビニに向かった。


―――――


日が出る前の早朝は、もっとも涼しい時間帯。
その爽やかとも言える空気の中、しぃは帰路についていた。

(*゚ー゚)(なんとかパクられることはなさそうだね……)



129: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:33:27.99 ID:HXhYKscXO
買い物をすませて吉野家で牛丼をかっ食らい、野良猫と遊んで時間を潰したしぃ。
今は静まり返った住宅街を、少しだけ警戒しながら歩いていた。

空は闇から徐々に薄い青へと変わってきている。

昨日と合わせて徹夜を二回。
しぃはもう、くたくただった。

(*゚ー゚)(……疲れると、なんとなく声が聞きたくなっちゃうなぁ)

携帯電話を取り出して、見慣れた番号に電話を掛ける。

しばし聞くコール音。
流石に寝てるか、と諦めて切ろうとした瞬間、彼は出た。



130: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:34:45.05 ID:HXhYKscXO
( ><)】『もしもしなんです!』

(*゚ー゚)】「……起こしちゃったかな?」

( ><)】『いえ、起きてたんです。
      それよりどうしてずっと電波が無かったんですか?』

(*゚ー゚)】「心配しちゃった?」

( ><)】『当たり前なんです!』

(*゚ー゚)】「ごめんね。でも、そう言ってくれて嬉しいよ」

( ><)】『怒ってるんですよ!喜んじゃダメなんです!』

(*゚ー゚)】「……うん、そうだね。本当にごめんなさい」

( ><)】『……そう素直になられると、困るんです』

そう言う彼が可愛いらしくて、笑い声をあげそうになるのを、しぃは堪えた。
ビロードには謝罪しなくてはならないことがあるからだ。



131: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:35:45.50 ID:HXhYKscXO
(*゚‐゚)】「……あのね、子供のことなんだけど」

( ><)】『……はいなんです』

感じる、不安。
これを聞いたら本当に怒るんじゃないかな、と。

でも、しぃは言う。
それを話さなくては、さっき起きた出来事を説明出来ないからだ。

あの美しい光景を、どうしても知ってもらいたかったのだ。

(* ‐ )】「あれ、私の勘違いだったよ。変なこと言って、ごめん」

( ><)】『……謝らなくてもいいんです!
      早とちりなんて、誰にでもあることなんです。それに……』

(*゚‐゚)】「……それに?」

(* ><)】『し、しぃちゃんのそういうとこは、
      ぼ、僕が誰よりも知ってるんです!』

(*゚‐゚)】「ビー君……」



134: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:37:22.31 ID:HXhYKscXO
( ><)】『だから、気にしちゃダメなんです!』

(* ‐ )】「…………」

改めて、思った。
ずっと彼の傍に居ようと。

そして強く決意した。

この先もし短い時間しかないとしても、
あの港で踊るような笑い合える日々をビロードと共に送ろうと。

(*゚ー゚)(……よし!)

しぃは口を開いた。
言うのだ。彼の病気のことを。

しかしすぐに笑われた。
それも度の過ぎた勘違いなのだと。

自分の馬鹿さ加減と思い違い、それに安堵からしぃも笑った。



135: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:38:18.00 ID:HXhYKscXO
( ><)】『おかしなしぃちゃんなんです!』

彼の声に、胸が弾んだ。
ああ、やっぱり好きなんだな、と再確認。

(*゚ー゚)】「なんかあったのかな?今日は凄く機嫌が良いみたいだけど?」

( ><)】『そうなんです!友達が増えたんです!凄く楽しかったんです!』

(*゚ー゚)】「ふーん。でも、楽しかったことなら私も負けないよ?」

( ><)】『そうなんですか?』

(*^ー^)】「そうなんですよ」



140: ◆PxaeLV0ois :2007/11/29(木) 01:47:37.83 ID:HXhYKscXO
足を止めるしぃ。
彼女は微笑みながら、悪戯っぽく彼に言う。

(*゚ー゚)】「ねえ、窓から顔出してみてよ」

そう伝え、電話を切った。
携帯をしまって、出窓を見上げた。

もう少し待てば、彼の出てくるところが見えるはず。
どんな表情かな、なんて想像してみたりする。

地平の先から日差しが滲み、緩やかに強さを増してった。
夜明けの光に照らされながら、彼女は笑顔で出迎えた。


眩しそうに、目を細めて。
嬉しそうにも見える顔で。




九曲目・完



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