( ^ω^)ブーンは麻雀の世界に生きるようです
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:09:24.97 ID:w49E7TOU0
- 【第八話:盛夏】
- 夏で、夏休みだった。
- 炎天下、青々と茂った木々の隙間から熱い日射しが差し込む。
- そして降り注ぐ蝉時雨。
- 普段はいそいそと餌を探して動き回る鳩達も、
- あまりの暑さのせいか今は遠慮がちに木陰で大人しく固まっている。
- VIP駅のすぐそばから隣駅まで続く並木道は、
- 東京の真ん中であるにも関わらず、ちょっとした自然の楽しめるスポットだ。
- 全長にすると1kmちょっとといった所だろうか。
- そこは、いつ来ても散歩をしている人や
- ベンチに座って景色を眺める人が多くいるという、
- 近隣住民からも公園代わりの場所として人気のある道だった。
- (;^ω^)「あぢぃ…」
- ふうふう汗をぬぐいながら、そんな昼過ぎの並木道をブーンは一人歩いていた。
- 中ほどまで進んだ所に隣接する、VIP大学へ向かっているのである。
- しかしながら、いつもと違って駆け足ではない。
- 夏季休暇で授業が無いからだ。
- そのため、暑い暑いと言いながらも、夏を味わうかの如くゆっくりと足を進めている。
- 四季折々の風情を感じる事も嫌いではなかった。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:11:28.67 ID:w49E7TOU0
- (;^ω^)。oO(ちょっとタバコでも吸っていくかお)
- 自販機の缶コーヒーを買い、空いているベンチを見つけて腰掛けるブーン。
- 空を見上げると、抜ける様な青空にもくもくと入道雲が広がっていた。
- それから視線を下げ、少し先にある母校の校舎を眺めながら
- ポケットからクシャクシャになったラッキーストライクを取り出して、
- ライターの火を当てる。
- ( ^ω^)y━~~「ふう…」
-
- 至福の一時。
- 好きな風景を見ながらコーヒー片手に吸うタバコは、いつだってうまいものだ。
- (´・ω・`)「こんちは」
- ぼんやりとタバコをくよらせ、半分ほどになった所で、突然後輩が姿を現した。
- どうやら彼も大学へ向かう所で、その最中にブーンの姿を見つけたらしい。
- そんなショボンから挨拶を受けたブーンも「おいすー」と笑顔で返す。
- ( ^ω^)「うっし、んじゃ行くかお」
- そして、吸い終えたタバコをベンチ備え付けの灰皿に押し付け、立ち上がった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:13:48.15 ID:w49E7TOU0
- (´・ω・`)「あの大会からもうすぐ一ヶ月。早いですね…」
- 並んで歩き始めた所で、ショボンがそう切り出した。
- そう、あの頂上戦の予選が終わってから早くも四週間が経過しようとしている。
- 100人を超える参加者のうち16人しか駒を進めない予選決勝に
- VIP大からは4名が勝ち上がり。
- そして、たった4枠しかない本戦出場の権利を仲間の一人が手に入れる事が出来た。
- 彼らも初陣としては上々と言った所だろう。
- ( ^ω^)「あれは…本当に良い経験になったお…」
- このブーンの言葉は心の底から出たものだ。
- 単純に仲間の本戦出場も嬉しいが、目標に向かってメンバーが一致団結し、
- 絆を深める事が出来たのも大きいと考えているのである。
- ( ^ω^)「…ま、僕は負けちゃったんだけど」
- (´・ω・`)「いや、会長も…ジョルジュさんやツンさんもそうですけど、
- 決勝に行っただけで凄いと思います」
- ( ^ω^)「そんなことないお。負けたら…一緒だお」
- と、ほんの少し表情を曇らせるブーン。
- 敗北の瞬間を思い出したのだろう。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:16:08.99 ID:w49E7TOU0
- あの光景は忘れようにも忘れられない。
- 予選決勝、南3局。
- ブーンは2万点のリードをしていた所から
- ロマネスクによる親三倍満ツモでまさかの大逆転を許してしまう。
- それはまさに、ポッキリと心が折られた瞬間だった。
- 今でも夢に出てくる程、彼の脳裏に焼き付いて離れないでいる。
- だが、ふるふると首を振ってその記憶を頭から追い払う。
- 会長である自分がいつまでも敗北を引きずってはいられない。
- ショボンだって、情けない先輩の姿など見たくもないだろう。
- 何か前向きな発言をしなければ。
- そう思い、こう切り出した。
- ( ^ω^)「とりあえず、本戦に勝ち上がったクーをみんなで応援するお」
- それを受けたショボンがニッコリ笑いながら「ですね」と応じた所で、
- 二人は目的地に辿り着いた。
- 今日は金曜日。
- ジャン研定例会の日だ。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:19:40.88 ID:w49E7TOU0
- ───VIP大学・学生ホール───
- 休み期間だというのに、広い学生ホールは多くの人で賑わっていた。
- 部室を持たないサークルのほとんどが集まるこの場所は、いつだって満員状態。
- それぞれにテーブルが割り振られているわけないので、全体を見渡してみても
- どこにどのサークルがあるのかわからない程だ。
- だが、喧騒の中から時折ジャラジャラと牌の音が聞こえてくるため、
- 自分の仲間達だけはどこにいるのかすぐに把握出来る。
- ( ^ω^)「おいすー」
- 人をかき分け、ブーンとショボンが仲間のいる場所に到着。
- すると既に他のメンバーが全員揃っており、卓を囲んでいたのだが…。
- その隣のテーブルに、思いもよらぬ来客の姿もあった。
- ('、`*川「こんにちは。お邪魔してるわね」
- (・∀ ・)「ようやく会長さんのおでましかー」
- ( ^ω^)「おっ…どうもどうも」
- ペニサス伊藤と斉藤またんき。
- 頂上戦を主催した業界唯一の全国誌、“現代麻雀”の編集部コンビである。
- 彼らは予選会場で“報道”と書かれた腕章をしていたので、ブーン達も顔だけは知っていた。
- その編集部員達が、どういった用事でここに来たのだろうか。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:23:19.62 ID:w49E7TOU0
- ('、`*川「これ、明日発売の最新号よ」
- そう言われ、現代麻雀を受け取ってから早速広げるブーン。
- 巻頭にあるカラーページを見るやいなや、「ふぇっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
- ( ゚ω゚)「こ…これは…!」
- そこでは頂上戦予選の記事が数ページに渡って書かれていたのだが、
- 驚くべきは2ページ目の下半分。
- 『頂上戦東京ブロック予選 VIP大学VSラウンジ大学、因縁の対決』
- そんな見出しのプチ特集が2分の1ページに渡って組まれており、
- 決勝に残ったジャン研メンバー4人の写真と結果が掲載されていたのだ。
- (・∀ ・)「記念になるだろー、タダであげるから大事にしろよー」
- ( ^ω^)「あ…ありがとうございますお!」
- ブーンは誌面を見つめながら、ほんの少し涙目になった。
- 自分の作り上げたサークルが設立して半年もせず全国誌の一面に躍り出たのである。
- 嬉しくないわけがない。
- それが例えスペースが小さくて、ラウンジ大麻雀部との相乗効果であったとしても、だ。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:26:33.24 ID:w49E7TOU0
- ('A`)「何泣いてんだよ、ブーン」
- そう言いながら、ドクオがバシッと背中を叩いてきた。
- ブーンが涙もろい事を知っている故の、よくある光景だ。
- ( ^ω^)「な、泣いてなんかないお!ちょっと感激してただけだお!」
- ('ー`*川「ふふ…喜んでもらえたみたいで何よりね」
- ペニサスが言い終えた所で疑問が一つ浮かんだ。
- 少々間を取って、ブーンは質問する。
- ( ^ω^)「そう言えば…お二人はわざわざこれを届けるためだけに来てくれたんですかお?」
- そんな問い掛けを受け、それもあるけど…とペニサス。
- ('、`*川「君が来る前に、予選通過のクーちゃんに追加取材させてもらったのよ」
- (・∀ ・)「ウチの会社はここから歩いて10分だしなー」
- (;'A`)。oO(ち、近場だから来たのか…)
- 余計な事を言わなくてもよろしいと言わんばかりに一つ咳払いをして、
- ペニサスは続けた。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:30:10.37 ID:w49E7TOU0
- ('、`*川「頂上戦のホームページでね、ミニコーナーを作って
- 予選通過者の中から注目選手をピックアップして取り上げようと思ってるの」
- ( ^ω^)「ふむふむ、なるほど」
- ('、`*川「私達メディアの人間は本当はこんな事言っちゃいけないんだけど。
- 内心、あなた達を応援しているのよ。やっぱり若い力は応援したくなるじゃない?」
- (・∀ ・)「特定の団体ばっか応援するのはマズいからなー。でも頑張ってほしいんだぜー」
- 川 ゚ -゚)「そう言われて、私も協力させてもらったというわけだ。少々気恥ずかしいがな…」
- ここで、ブーンはピンときた。
- 学生のサークルが活躍したのなら、それを目立たせれば、
- 負けじと後を追うように麻雀活動へ精を出す他の若者や団体が出てくるだろう。
- 特に、今回勝ち上がったのは、ネット麻雀出身で容姿端麗な大学生雀士、クー。
- もし彼女が活躍を続ければ、ちょっとしたアイドル的存在になるのは間違いない。
- となれば、大会参加者が増えたり雑誌の売上も伸びるなど、自分達の利益に直結する。
- そう考えるとペニサス達が自分達を担ぎ上げてくるのも納得出来る話だ。
- そんな邪推をするも、ブーンは「ありがたい話ですお」と言いながら深々と頭を下げた。
- メディアに取り上げられるのは、ジャン研にとっても悪い事ではないからだ。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:37:03.01 ID:w49E7TOU0
- ('、`*川「それじゃ、そろそろおいとまさせて頂くわね」
- (・∀ ・)「来週には更新するからなー」
- それからブーン達と数分雑談をした彼らは、その言葉と名刺を残して帰社していった。
- 直後、麻雀を打っていた者も手を止めて、
- 全員で置かれていった現代麻雀を食い入るように覗き込む。
- ( ゚∀゚)「あー、こんな事なら髪を染め直していけば良かったぜっ」
- ξ;゚听)ξ「あたしって打ってる時はこんなしかめっ面だったのね…」
- 川 ゚ -゚)「勝ったせいか、他の三人より私の写真が若干大きいな」
- (*‘ω‘ *)「ツンさんもクーさんもキレイに写ってるっぽ!」
- (´・ω・`)「これは僕らにとってもホントに記念になるなあ」
- ( ><)「凄いんです!皆さん全国デビューなんです!」
- (-_-)「…いいなぁ……」ボソッ
- ('A`)「俺は4百点差で全国デビューを逃したのか…」
- などと、それぞれ思った事をワイワイと話し合うメンバー達。
- その様子を見て、ブーンは大会に出て良かったと改めて思った。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:40:06.39 ID:w49E7TOU0
- ブーンも再び現代麻雀を手に取ると、ある事に気付いた。
- ( ^ω^)。oO(そう言えば、弟者さんは決勝卓で勝てなかったのかお…)
- そう。
- 予選決勝には確かラウンジ大の弟者も進出していた筈。
- だが弟者の卓はVIP大のメンバーがいない卓だったので、
- その存在をすっかり忘れていたのだ。
- そんな折、誌面に
- 『副部長の流石弟者選手も決勝まで勝ち進むが、C卓で惜しくも2着。
- 残念ながら本戦出場はならなかった』
- と写真付きで書かれており、思い出したのである。
- ( ^ω^)。oO(弟者さんだって充分強いのに…)
- ブーンは少しだけ、今頃は隣町のラウンジ大学にいるであろう弟者に思いを馳せた。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:44:38.76 ID:w49E7TOU0
- ───ラウンジ大学部室棟・屋上───
- 一方その頃、件の流石兄弟は…。
- ( ´_ゝ`)「まさかこんなコーナーが作られるとはね」
- (´<_` )「折角忘れかけていたのに、活字になったせいでまた思い出してしまったよ」
- 休憩がてら屋上に行き、空を眺めながら現代麻雀を片手に語り合っていた。
- あの編集部の二人はVIP大学へ行く前にラウンジ大にも訪れており、
- 主にロマネスクに対する取材をした後、最新号を置いて行ったのだ。
- (´<_` )「あれからもうひと月か」
- ( ´_ゝ`)「俺たち二人共、揃って女に負けるとはな」
- (´<_` )「そんな所までシンクロしなくて良いのにな…」
- 頂上戦の予選決勝、兄者はツン・クーと対戦し、数千点の差で敗れた。
- そして弟者も、ある女性に僅差で負けたのである。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:47:02.89 ID:w49E7TOU0
- ━━━━━━━━━
- ━━━━━━
- ━━━
- 予選決勝・C卓。
- そこは序盤から中盤まで弟者とその対面のアガリ合戦で、
- 二人の鍔迫り合いの様相を呈していた。
- 弟者の対面に座ったのは、髪の長い女性。
- だがその顔立ちは非常に中世的で、胸にも起伏がほぼ見当たらない。
- 格好だけ見れば、男か女か実に判断し難いものだった。
- (´<_` )。oO(この女、出来る…!)
- この時弟者が対面を女だと思ったのは、発声を聞いたからだ。
- これまでに数回程耳に入ってきた声が、やや高めの、女性のそれだったのである。
- 从 ゚∀从「…」
- 無言でサイコロボタンを押す彼女。
- 年齢は24、5歳といった所だろうか。
- 賽で8の目が出ても素早く配牌を取り出す所を見るに、かなり打ち慣れている様子だ。
- ※サイコロで8が出た場合、ノータイムで配牌を取り出すのは慣れてないと結構間違えます
- 実際の麻雀牌を使って打ってみればわかりやすいです
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:50:46.12 ID:w49E7TOU0
- (´<_` )。oO(その差は約3千点と少し。親カブリさせて少しでも差を広げたいが…)
- 場は南3局。
- 点棒的なライバルである対面の、最後の親だ。
- ここを凌げば、残すはオーラスのみ。
- 連チャンは絶対に阻止したい局面なので、スピードに重点を置くべきだろう。
- もちろん欲を言えば、それに打点も加えたものをアガリ切って、
- 出来るだけオーラスを楽に迎えたい所だ。
- そう考えながら手にした配牌は、まずまずといった具合であった。
- (´<_` )配牌:22667m15p78s西西白中 ドラ8s
- 西が役牌なので、ここが鳴ければアガリはそう遠くないだろう。
- そして2巡後、白が重なる。これで打点も見えた。
- (´<_` )。oO(よしッ!いける!!)
- 思うや否や、すぐに西が切られた。
- 当然それをポンし、打5p。
- その4巡後に6mを引いて中を切り、この形になった。
- (´<_` ):226667m78s白白 ポン西西西 ドラ8s
- 場合によってはホンイツ、あるいはトイトイの変化もあるイーシャンテンだ。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:54:49.86 ID:w49E7TOU0
- 9巡目。白が切られたので、それも仕掛ける。
- (´<_` )。oO(3翻あれば充分。染める必要は無いな)
- 打7m。無表情のまま、5200のポンテン(※)を取った。
- しかし…
- ゾクリ。
- 牌を置いた瞬間、何とも言えない違和感が弟者の身体を覆った。
- (´<_`;)。oO(な…何だこの感覚は…)
- 数巡して、その違和感の正体を知る。
- 4巡の間に、8m、9mと引いてきたのだ。
- すなわちそれは、西・白・ホンイツ、満貫のアガリ逃し。
- それをわかっている弟者は、ぐぐぐ…と歯ぎしりをした。
-
- (´<_` )。oO(いや…焦るな。この状況で、あの形からテンパイ取らずなんてあり得ない)
- しかしながら、すぐさま冷静さを取り戻す弟者。
- このあたりのメンタルの落ち着かせ方は、普段の稽古による賜物だろう。
- ほどなく6sを引き、1300・2600をアガった。
- ※ポンテン…ポンしてテンパイの略
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 22:58:47.89 ID:w49E7TOU0
- オーラス。
- 上家の親がアガらない限り、最終局となる。
- 前局のアガリで2着目との差は10900点に広がった。
- 対面は満貫ツモでも足りないので跳満以上の手を作らなければならず、
- それは相当苦しい筈。
- 対する弟者は、ノミ手でもアガリ切れば良い。圧倒的に有利だ。
- (´<_` ):468m333p45899s南南 ドラ3p
- 7巡目。速度を重視する構えの弟者は、
- ここから南をポンして打8sとし、イーシャンテンに構える。
-
- (´<_` )。oO(アガリトップの時に限って、無駄にドラ暗刻になったりするんだよな俺…)
- そう自嘲した直後、親の牌が横に置かれ、リーチが掛けられた。
- 親はどれだけ点差が離れていようとただひたすらにアガリを狙ってくるので、
- こうなる事もあるだろう。
- が、もちろんそれは想定内。
- 雀頭の9sは親の現物なので、危険牌を引いたらひとまずそれを切って2巡凌げば良い。
- そんな弟者が親のリーチを受けて、即座に掴んだのは無筋の7p。
- ピンフ系の捨牌である親リーの一発目に打つには、ややリスクのある牌だ。
-
- (´<_` )。oO(ま、5800でも打ったら馬鹿らしいしね…)
- やはり、打9s。とりあえず現物の雀頭を落とし、様子見の一打を取った。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:02:41.41 ID:w49E7TOU0
- 次巡引いたのは、場に3枚出ている東。いわゆる完全安牌だ。
- 弟者はとりあえずそれをキープし、9sをもう河へ1枚並べる。
- だが、ふとここで異変に気付いた。
- (´<_` )。oO(対面が…全ツッパしてやがる…)
- 対面の女が、無筋をバシバシと連続勝負してきている。
- 放たれる気配を感じ、弟者の額からぽつりと冷汗が流れ落ちた。
- (´<_`;)。oO(まずいな…)
- そう。
- リーチ棒が1本出たため、対面の条件がハネ満から満貫ツモにまで緩和されたのだ。
- 普段はうっとおしい親リーチも、この時ばかりは大きな助け船となったに間違いない。
- 从 ゚∀从「リーチ」
- そしてその2巡後、恐れていた事態が起こった。
- 対面からのリーチ宣言。十中八九、ツモれば満貫以上の手だろう。
- こうなってしまったら流局か親のアガリを願うばかりだ。
- しかしそんな願いも空しく、ツモの声を上げたのは対面だった。
- 从 ゚∀从:23466m24p345567s ドラ3p
- 開かれたその手は、最後のドラをツモってのメンタンドラ1、満貫。
- 弟者はただ、うなだれるだけであった。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:07:51.80 ID:w49E7TOU0
- 从 ゚∀从「100点差…どうにかこうにかって感じだな…」
- 終局後、そう口を開く対面。
- 少しだけ女性らしく顔をほころばせ、安堵の表情を見せた。
- (´<_` )「最後の最後まで諦めず、可能性を追ったからこその結果でしょう」
- そう称えられて「まぁな」と返してくる対面。
- 気分が良いのか、饒舌気味にこう続けた。
- 从 ゚∀从「でも…アンタも強いよ。ラス前に13・26をツモられて、ここまでかって思ったもん」
- (´<_` )「いや、あの局は満貫を逃しているんです」
- 从 ゚∀从「そういえば河に7、8、9mが並んでたな…。
- 確かにあれを満貫に仕上げられてたら、流石のハインちゃんでもお手上げだったろうな」
- (´<_`;)「え、ハイン…?」
- 弟者はその名前に聞き覚えがあった。
- 確かそんな感じの麻雀系サイトがあったような…。
- (´<_` )「失礼ですが…お名前を伺ってもよろしいですか?ホームページとかやってません?」
- 記憶を探りながら、丁寧に質問する弟者。
- すると、対面の女性は平らな胸に親指を突き立て、背筋を伸ばしながらこう答えた。
- 从*゚∀从「ああ…私はハインリッヒ高岡。“旅打ちハイン”とは、俺の事さっ!」
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:11:14.96 ID:w49E7TOU0
- ━━━
- ━━━━━━
- ━━━━━━━━━
- ( ´_ゝ`)「まさか、あの旅打ちハインと弟者が予選決勝で当たったとはな…」
- 旅打ちハイン。
- それはあるサイト名であり、同時にサイト主のハンドルネームを指す。
- 麻雀関係のページを巡回する人間なら、誰しもが一度は耳にしたことのある名称だ。
- 数年前、女だてらに全国の雀荘を旅打ちして回り、
- 毒舌7割でレポートするという何とも奇怪な実録ホームページがあった。
- それは、その類稀な行動力と文章で多くのファンを得たものの、
- 2年前に休止されてしまったのだが…。
- 未だに復活を待ち望む者も多いサイトである。
- 流石兄弟はこれといってファンというわけではなかったが、
- ネットで情報を集める機会が多かった為しばしばそのページを閲覧しており、
- その名が記憶に残っていたのだ。
- (´<_` )「まぁ…良い経験になったよ。この世界、まだまだ色んなヤツがいるもんだ」
- そう言いながら、弟者は手に持った現代麻雀の巻頭記事に視線を落とす。
- そこには、小さいながらも予選通過者として掲載された、ハインの姿があった。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:14:58.19 ID:w49E7TOU0
- ( ´_ゝ`)「惚れたのか?惚れちゃったのか?」
- (´<_` )「…まさか」
- 茶化してくる兄者を冷たくあしらう弟者。
- しかしながら、柵に手を掛け空を眺めるその姿はいつになくメランコリックに見える。
- ( ´_ゝ`)「ふぅん」
- 兄者はそれ以上のツッコミを入れなかった。
- こういう時は何をしても一方通行になるのを知っているからだ。
- だがそれから数秒が経過し、突如として大声を上げた。
- 何かを思い付いたらしい。
- ( ´_ゝ`)「弟者!閃いたぞ!」
- (´<_`;)「どうした藪から棒に…。何を閃いたんだ?」
- (* ´_ゝ`)「えへへ…教えなーい」
- (´<_` #)ムカッ
- ・
- ・
- ・
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:17:57.55 ID:w49E7TOU0
- (#)_ゝ`メ)「いやさ…頂上戦本戦、ロマの応援しに会場へ行ってみるのはどうだろうと思って。
- 見学オッケーだって言ってたし」
- (´<_` )「…!」
- 弟者はその提案が兄者なりの優しさである事を悟った。
- 本戦会場へ行けば、後輩の応援というごく自然な形でハインに会えるからだ。
- 確かに自分は、ハインとまた会って話したいと感じている。
- これが俗に言う恋心ってヤツなのかどうかは、まだわからないが…。
- とりあえず、その気持ちを双子の兄には隠そうとしても無駄らしい。
- そう思った弟者は、半ば観念したそぶりで口を開いた。
- (´<_` )「ありがとう兄者。是非そうさせてもらうよ」
- 礼を言われ「いいってことよ」と返しながら、兄者はニヤリとほくそ笑む。
- ( ´_ゝ`)。oO(フフ…。再会してもただ挨拶するだけじゃ、つまらないよね…)
- 何やら思惑がある様子だが、弟者がそれに気付く事は無かった。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:22:14.38 ID:w49E7TOU0
- ───夕刻・VIP大学───
- 時刻は5時前。
- ちょうど抜け番となったクーは、学生用カフェテリアに移動し、休憩を取っていた。
- 窓際に座って外の景色を見ながらコーヒーを飲む事は、
- 彼女にとって大切な時間の一つなのである。
- 夕暮れを眺めつつブラックコーヒーを上品に口へ運び、もの思いにふける黒髪美人。
- それはちょっとしたドラマのワンシーンさながらといった風景だ。
- 近くに座った学生も、目の保養をすべく視線をチラチラ向けている。
- だが考えているのは、麻雀一色。
- そればかりは誰にも想像が出来なかっただろう。
- 川 ゚ -゚)。oO(あと三週間か…)
-
- この三週間というのは、頂上戦本戦までの時間の事。
- ジャン研の面々が出場した東京ブロック予選は、最も早く開催された。
- そして今は地方予選の真っ最中、
- 8月末に行われる本戦の出場者を全国で篩にかけている段階である。
- 人によっては、勝負熱が冷めないように日時を空けず打ちたいという意見も出るだろう。
- だがクーは、この二ヶ月弱の空白期間をありがたく感じていた。
- 思う存分、準備が出来るからだ。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:26:45.72 ID:w49E7TOU0
- 川 ゚ -゚)。oO(しかし、予選を通っただけで雑誌に載るとはな…)
- 突き詰めれば、それもまたブーンの力なのだろう。
- 彼は麻雀サークルの無かったこの大学でジャン研を立ち上げ、
- ブログを開設するなど献身的に活動をしてきた。
- ラウンジ大麻雀部を率いる流石兄弟との出会いも、
- その彼が定期的にフリー雀荘探訪を続けていたからこそ成し得たものである。
- そして、サークル活動としてメンバー総動員で出場した、今回の頂上戦。
- つまり、ブーンを中心としたそれら一つ一つの要素が重なって、
- 現代麻雀が取り上げてくれたのだ。
- そう考えてみると、クーもまた
- 彼の影響によって麻雀界の表舞台に連れ出された一人である事に相違ない。
- 川 ゚ー゚)。oO(私はやはり…あいつに感謝すべきなのだろうな)
- 結論に辿り着いたクーは、微かにほほ笑んだ。
- あいつも相当に麻雀が好きなのだろう。
- しかし、私だってその気持ちだけは負けないつもりだ。
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:30:31.78 ID:w49E7TOU0
- クーが麻雀を始めたキッカケは、家庭麻雀だった。
- 彼女自身、これはまだ誰にも話した事が無かったのだが…。
- 仕事の忙しい父が、月に一回時間を割いて卓を囲んでくれる。
- 家族が一緒になって、牌の巡り合わせに一喜一憂する。
- そんな時間が、大好きだったのだ。
- 『ははは、クーはまだまだだなぁ。何がいけなかったか、よーく自分で考えてごらん』
- 『配牌を見て、最初から文句言ってもどうにもならないよ。そこから始めるんだ』
- 『いいかい?今の状況を冷静に判断し、自分が何をするべきなのか常に考えるんだよ』
- 人生にも通じる教訓を麻雀を通じていくつも教えてくれる父。
- クーは心から尊敬していた。
- だが、クーが高校に入学してすぐ、父は海外転勤を命じられる。
- そのため、麻雀を打つどころか、顔を合わせる機会すらほとんど無くなってしまった。
- 楽しみな時間が無くなり、寂しがるクー。
- 川 ゚ -゚)。oO(いつかまた…皆で卓を囲めるよな…)
- しかし…。
- そんな少女の願いは、叶わずに終わる。
- とある夏の日の夕方、電話を受けたクーは愕然とする。
- 赴任先で交通事故に遭い、父は帰らぬ人となってしまったのだ。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:34:06.27 ID:w49E7TOU0
- 川 ; - ;)「嘘だろ!?父さん…!!」
- クーはしばらくの間泣き続けた。
- 告別式が終わった後も、部屋に籠りっきりだった。
- けれども、いつまでも泣いて過ごすわけにはいかない。
- 共に残された母や妹に心配を掛け続ける事は出来ないし、
- 天国から見守っているであろう父もそれを望んでいない事くらい、
- 彼女自身もわかっている。
- 初七日を過ぎたあたりから、いつも通りの生活に戻った。
- いや、正確には“いつも通りの生活に戻そうと努めた”と表記すべきか。
- どうしたって、大切な人が亡くなった事を考えたら、簡単に戻せるものではない。
- なのでクーは、麻雀牌を見ようともしなかった。
- あの楽しい時間を思い出すのが辛かったからだ。
- 思えば、彼女があまり表情を出さなくなったのもこの頃からだった。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:39:31.86 ID:w49E7TOU0
- だが、それから2年が経過し、変化が訪れる。
- ふとした拍子に無料で出来るネット麻雀を見つけ、久々にやってみようかと思い立ったのだ。
- 川 ゚ -゚)「ふむ…」
- その結果、クーは見事にのめり込んだ。
- 初戦をトップで飾った瞬間、
- 『クー、やるじゃないか』という父の笑顔が頭をよぎったのである。
- 麻雀を打つと悲しさが蘇ってしまうのではないか。
- 始まる前は少しばかりそう心配したのだが、むしろその逆で。
- 勝っても負けても、思い出すのは父の言葉。
- それらが脳裏に浮かぶたび、温かい気持ちになった。
- こうしてクーは、徐々にネット麻雀へ没頭。
- 再び麻雀を楽しめるようになったのだ。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:43:07.15 ID:w49E7TOU0
- 川 ゚ -゚)。oO(私が麻雀を続けているのは、天国の父から褒めてもらいたいからなのだろうな…)
- 思いながら、コトリと小さく音を立ててカップを置く。
- 「やっぱりここにいたのかお」
- すると、背後から聞き慣れたあいつの声が聞こえてきた。
- 振り向くと、いつものニヤケ顔で立っている。
- ( ^ω^)「次の対局を始めるからそろそろ戻ってきてくれお」
- 言われて気付くクー。どうやら思った以上に長い間考え事をしていたようだ。
- 窓の外に目をやると、夕日が沈もうとしている。
- ブーンは立ったまま話し続けた。
- ( ^ω^)「そうそう、皆で話し合って本戦はクーの応援に行く事に決めたお。
- だから気合を入れてくれお」
- そう言われ、「それはありがたいな」と返事をする。
- そして。
- 川 ゚ー゚)「それじゃ、戻ろうか。そんな風に言われたら私も打ち気が出てきたよ、ありがとう」
- 笑顔で、ブーンに礼を言った。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/01(木) 23:47:15.80 ID:w49E7TOU0
- 夏の夕焼けを見るといつも、父が亡くなった日を思い出す。
- 正直言って、今でも心に穴が空いているような気分だ。
- けれど、父が教えてくれた麻雀の楽しさがあるからここまで来れた。
- それに、その楽しみを分かち合う仲間が出来た事によって、
- 最近では少し笑えるようになってきたつもりだ。
- 川 ゚ -゚)。oO(父さん…見守っていてくれよ)
- クーは勢いよくコーヒーカップの中身を飲み干して、立ち上がった。
- 続く。
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