( ^ω^)ブーンは麻雀の世界に生きるようです
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:31:31.00 ID:N7xXgmcH0
- 【第九話:盛夏、その二】
- ──定例会中・学生ホール──
- 「定例会が終わったら、校舎裏まで来てほしい」
- 抜け番になったため学生用カフェテリアで休憩を取っているクーを呼びに行った際、
- そんな風にブーンは頼まれた。
- 折入った話があるとの事だったが、一体何を言われるのだろう。
- (* ^ω^)。oO(こ、この流れはやっぱり…告白?)
- ブーンは胸を躍らせた。
- もしそうなれば、恋愛経験が皆無に等しいブーンにとってはまさしく青天の霹靂。
- 告白なんて、した事もされた事もない。
- ( ^ω^)。oO(いやーそんな僕にも遂に彼女が出来ちゃいますか、デュフフwww)
- ('A`)「ロン、12000」
- (;^ω^)「あっ」
- ブーンはクーとのアレコレを妄想していたが、実はまだ対局中。
- 麻雀に入り込めていないせいかミエミエの親満貫へ放銃し、
- ブーンのトビで本日の最終半荘が終了した。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:33:25.44 ID:N7xXgmcH0
- 普段なら少し大袈裟に感じる程悔しがるのだが、
- 今日に限って鼻歌交じりで記録表にスコアを記入するブーン。
- 周りから「どうしたんだコイツ」という視線を浴びている。
- ( ^ω^)「じゃ、みんな片付けと帰り支度をしてくれおー」
- だが彼はそんな視線など気にする様子も見せず、散会の合図を出した。
- 時刻は9時前。
- 終わるにはちょうど良い。
- それから彼は、「ちょっとトイレに行ってタバコ吸ってくるお」と言って席を外した。
- チラリとクーの方へ目を向けると、彼女も軽く頷く。
- どうやらこのタイミングで構わないようだ。
- ブーンは校舎裏の喫煙所まで行き、クーへそこにいる旨をメールで連絡した。
- (* ^ω^)。oO(さーて、何て返事をしようかしら…。それと一発目のデートはどこがいいかお…)
- 告白されると決まったわけではないのに、受け入れるつもりでそんな事を考えている。
- 彼女のいない童貞男なんて、往々にしてこんなものだ。
- まあ…それはともかく。
- 「呼び立ててすまないな」
- 吸い出したタバコがほどほどに短くなった所で、その声と共にクーが現れた。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:36:41.19 ID:N7xXgmcH0
- 辺りには夜のとばりが降り切っており、その喫煙所には人の気配も無かった。
- 塀と校舎に挟まれて、あるのはベンチと灰皿だけ。
- そんな場所で、ブーンとクーが向かい合っていた。
- この日は満月。
- 月明かりと建物から零れる光が彼らをびんやりと照らしている。
- ソレっぽいムードだと言えばそうなるか。
- ブーンはタバコをもみ消しながら、チラリと顔を覗き込んだ。
- 川 ゚ -゚)「…」
- (* ^ω^)。oO(改めて見てみると…もんすげえ美人だお…)
- 思えば、クーと二人っきりで話すのは初めての事。
- 彼女と会話する時はいつもジャン研の誰かが一緒にいたし、
- その内容も麻雀についてが大半だった。
- だが、今は違う。
-
- ブーンは自身の心臓がドクドクと脈打っているのを自覚する。
- 確かに、「話があるから校舎裏に来て」なんてベッタベタな前フリをされては
- 彼が意識し過ぎてしまうのも仕方の無い事だった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:39:16.35 ID:N7xXgmcH0
- 高鳴る鼓動をおさえて冷静を装いながら、口を開いた。
- ( ^ω^)「それで…話って、何かね?」
- 正直な所、噛まないよう言葉を発するだけで精一杯。
- 若干だが手も震えている。
- 口調がおかしいのは、こういう場面に縁が無かったせいだろう。
- そのあたりは緊張しいのブーンらしい一面とも言える。
- 対して、クーは普段と同じ表情で話し出した。
- 川 ゚ -゚)「実はな、ブーン…」
- 凛とした姿勢で話す相手の方を見る。
- それはいつでも、誰に対しても変わる事は無いのだろう。
- そんな彼女の唇から、少しだけ間を置いて出てきたのは…。
- 付き合ってほしいんだ───
- そんな、ブーンが望んでいたセリフだった。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:43:04.26 ID:N7xXgmcH0
- (* ^ω^)。oO(キタァァァァァ!!!)
- それを受け、心中で両手を上げて踊り狂うブーン。
- まさにこの世の春を迎えた気分だ。
- 『拝啓、お父様お母様。
- 僕を生んでくれてありがとう。
- お陰さまで、こんなに可愛い彼女を持つ事が出来ました。
- 今後は麻雀だけでなく、性生活も充実させていく所存です。
- ちんちんかもかもに勤しむので顔を合わせる時間も減ると思いますが、
- もしかしたら思ったよりも早く孫の顔を見せられるかもしれません。
- 楽しみにしててくださいお───』
- 脳内でそんな手紙を両親へ送る始末である。
- おめでたい事この上無い。
- そう、現実は甘くはなかった。
- ブーンが返事をする前に、クーはこう付け加えたのだ。
- 川 ゚ -゚)「…フリー雀荘に」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:43:45.59 ID:N7xXgmcH0
- ( ^ω^)・・・
- ( ^ω^)「ですよねー」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:47:28.96 ID:N7xXgmcH0
- クーの話をまとめると、頂上戦の本戦へ向けて
- 見知らぬ人間を相手にする事にもっと慣れておきたいというものだった。
- ネット麻雀ではそれこそ不特定多数の打ち手を相手にしてきたが、
- やはり現実世界で知らない人間と打つ麻雀となると、緊張感が各段と高まるもの。
- で、それにはやはりフリー雀荘がうってつけで、
- 是非とも行ってみたいのだと彼女は説明した。
- 一人の打ち手として、どういった雰囲気なのか好奇心もあるらしい。
- だがそこは若い女性が一人で行くには少々ハードルが高い。
- そのため、ブーンへ付き添いを願い出たのである。
- それは少しでも勝ち上がる可能性を上げたいというクーの気持ちが生んだ発想なのだろう。
- 彼女の熱意を察し、ブーンは二つ返事で了承した。
- だが一つ、疑問浮かぶ。
- ( ^ω^)「一緒に行くのは全然いいんだけど、何でこんなとこに呼び出したりしたんだお?
- 別にみんなに隠さなくてもいいと思うお」
- そうブーンが聞くと、クーはここにきて初めて、
- ほんの少しだけ恥ずかしそうな素振りを見せながら口を開いた。
- 川 ゚ -゚)「…私は、ジャン研の中で一番強いのはお前だと思っている」
- ( ^ω^)「おっ!?それは光栄だお」
- 川 ゚ -゚)「だが、それを公言したら…アイツが気にするだろう?」
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:50:22.54 ID:N7xXgmcH0
- クーの言うアイツとは、ジョルジュの事。
- ブーンとジョルジュはお互いにライバルとして認め合っており、
- ジャン研内ではほぼ互角の成績を残している。
- そんな彼は、こと麻雀に関しては特にプライドが高い。
- ブーンは言われて納得した。彼女なりに気を使ったのだろう。
- 川 ゚ -゚)「それに…麻雀を教えるという分野では明らかにお前の方が上手い」
- これにも一理あった。
- ジョルジュはジョルジュで独自の理論をもって麻雀を打っているのだろうが、
- 感覚に頼りがちなせいか、適切な言葉を選んで
- その思考を論理的に説明するという作業が苦手なのだ。
- それに対しブーンは、ジャン研では相手の雀力を考えた上で
- 打牌理由をわかりやすく説明をしようと心掛けていた。
- クーはそれを見抜いていたのである。
- 川 ゚ -゚)「だからこっそりお前に頼んだのさ。
- フリー雀荘という場所も考えると、選べる付き添いは一人だけだしな」
- ( ^ω^)「みんなで行ったらそれこそ本末転倒にもなるおね」
- それもそうだな、とクーは表情を緩めながら返す。
- だがほどなく、元通りの顔つきに戻して言った。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:53:55.54 ID:N7xXgmcH0
- 川 ゚ -゚)「何より…ブーン。私は、お前を特別な存在だと思ってるんだよ」
- ドキッ、とした。
- 真顔で急にそんな事を言われたら、惚れてまうやないか。
- 何故かエセ関西弁で思ったブーンは、ちょっとだけ期待を込めて質問した。
- ( ^ω^)「それは…打ち手として、かお?」
- すると、照れ隠しの意味も込めてクーはほほ笑みながら返す。
- 川 ゚ー゚)「それも込みで、さ」
- それは、意味ありげな言葉だった。
- だが、どういう意図で口にしたのか、ブーンにはわからない。
- なので、冗談半分にこう言った。
- ( ^ω^)「込み…かお?そこはウソでも異性として、と言って欲しかったお。
- そもそも、こんな所に呼び出されて最初は告白でもされるのかと思ったんだお?」
- 川 ゚ -゚)「告白?私がお前に…?」
- _, ,_
- 川 ゚ -゚)「いやいや冗談は体型だけにしてくださいよ内藤さん」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 00:57:20.15 ID:N7xXgmcH0
- 異常に嫌そうな顔をするクーを見て、
- (;^ω^)「ひでぇ…」
- と思った事をそのまま口にするブーン。
- 軽い気持ちで発した言葉を(いや実際はそこまで軽くはないけど)、
- まさかこんな毒舌で返されるとは。
- 確かに自分はココリコ遠藤みたいな体型だけれども。
- こりゃあ、チャンスは無いかお。
- そんな風に思った。
- ( ^ω^)。oO(打ち手としても込みで特別な存在、かお…。
- ま、頼りにされてるってことだおね)
- だが彼はこう考え直し、彼は今回の一件を一人の男性として残念がるのではなく、
- ジャン研の会長として信頼されているんだと喜ぶ事にした。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:01:35.33 ID:N7xXgmcH0
- 今の自分にとっては、色恋よりもジャン研の方が大切。
- それによくよく考えれば、会長である自分がまっ先にサークル内恋愛を始めるなど、
- 万が一にも空気がおかしくなるような事は避けるべきだ。
- もしかしたら、クーも同じような考えなのかもしれない。
- ブーンがそう前向きに捉えた所で、クーが切り出した。
- 川 ゚ -゚)「ま、そういうわけなので、この件はみんなには黙っていてほしい」
- ( ^ω^)「把握したお」
- 川 ゚ -゚)「では…そろそろ戻ろうか。続きはメールでするとしよう」
- ( ^ω^)「おk」
- ブーンが返事をした所で、二人はたまり場へ戻り始める。
- 川 ゚ -゚)。oO(今は恋愛よりも麻雀をしている方が楽しいのさ…)
- 歩きながらクーはそう思うも、ブーンに告げる事は無かった。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:04:45.89 ID:N7xXgmcH0
- ──日曜・オオカミ駅前──
- 結局、ブーンとは日曜の昼間に待ち合わせとなったクーは、
- オオカミ駅の改札前にある広場で彼を待っていた。
- 頂上戦の予選会場があったニューソクと同じく、
- このオオカミも東京で最も賑わっている繁華街の一つ。
- ただどちらかと言えばサラリーマンが多いニューソクに対し、
- 若者の街という通称の通り、そこにいるのは十代から二十代の姿ばかりだった。
- そんな風景を眺めつつ、彼を待ち続けるクー。
- 8月前半、夏真っ盛りの時期にかれこれ15分は経ち続けているというのに、
- その顔色は普段と何一つ変わらない。
- 川 ゚ -゚)。oO(遅いな…)
- 時計を見ると、約束の13時を数分程過ぎていた。
- だがそれも織り込み済み。
- ブーンが時間にルーズなのはジャン研内では常識なのである。
- しかしながら、クーには不安な点が一つあった。
- 今回行く雀荘選びはそんな彼に任せてあるのだが、果たしてそこは良心的な店なのだろうか。
- ( ^ω^)「おいすー」
- そんな彼女の心配をよそに、見慣れたニヤケ顔が現れる。
- 定刻にちょうど5分遅れての登場だった。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:07:55.76 ID:N7xXgmcH0
- 川 ゚ -゚)「遅いぞ、まったく…こんなレディを待たせるなんて言語道断だな」
- (;^ω^)「ごめんだお…」
- そうたしなめるクーに、汗を拭きながらぺこぺこ謝罪するブーン。
- 傍から見れば不釣り合いなカップルに見えたに違いない。
- 川 ゚ -゚)「で、今日はどんな店に連れていってくれるんだ?」
- ( ^ω^)「“もすかう”っていうテンゴの店だお」
- ブーンの言うテンゴとは、千点50円の略。
- 最近ではノーレートの店も増えてきたが、基本的にフリー雀荘はお金を掛けて対局するのである。
- 川 ゚ -゚)「“もすかう”か。聞いた事のある名だな」
- ( ^ω^)「現代麻雀に毎号広告を載せている、大手の雀荘チェーンだお。
- ところで、お金はちゃんと持ってきたおね?」
- 川 ゚ -゚)「ああ、言われた通り二万円程度財布に入れてきた」
- ( ^ω^)「テンゴならそれだけあれば十分だお。それじゃ早速行くかお」
- 川 ゚ -゚)「うむ」
- と、そんなやりとりをし、二人は並んで歩き出した。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:15:38.02 ID:N7xXgmcH0
- 目当ての店は駅から歩いて5分くらいの場所にあった。
- そのため、二人はすぐに“フリー麻雀もすかう”と書かれた看板の前まで到着する。
- 美人と二人っきりで繁華街を歩くのはなかなかに心地良い。
- もう少しそんなデート気分を味わっていたかったとブーンは思いつつ、
- 目的の雀荘がある雑居ビルに入った。
- しかしエレベーター前まで来て、クーは二の足を踏む。
- 川;゚ -゚)「流石に少し緊張してきたな…」
- 初めてのフリー雀荘というものは、とかく緊張してしまいがちである。
- 普段なら滅多な事では動じないクーも、実際は二十歳になったばかりの女の子。
- 彼女がそうなってしまうのも無理はない。
- ( ^ω^)「リラックスリラックス。店に入れば店員さんがマナーとルールを
- しっかり説明してくれるから、クーならすぐに覚えられる筈だお」
- そんな風にブーンはクーの緊張をなだめながら、ボタンを押した。
- ( ^ω^)「この店はそんなに厳しくないし、クーならいつも通りにしていれば大丈夫だお。
- 万一何か間違えたって、テンゴの麻雀だお。取って食われるわけでもなし」
- 川 ゚ -゚)「それもそうだな…」
- そう言われ、落ち着きを少しだけ取り戻すクー。
- この時、ブーンを少しだけ頼もしく感じた。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:19:35.55 ID:N7xXgmcH0
- 店のドアを開けると、カランコロンと鈴が鳴る。
- ブーンに続いて、クーも店内へ足を踏み入れた。
- すると。
- ジャラジャラ…
- ロン!イチマンニセンテンデス!
- カラカラカラ…
- 活気ある麻雀の音が、彼女の耳に飛び込んで来た。
-
- 川 ゚ -゚)「ふむ…」
- 思わず声を漏らしながら、店内を眺める。
- やや縦長のフロアに、黄色を基調とした明るい壁紙。
- どちらかというと若者向けの作りのようにクーは感じた。
- 卓の数は12・3卓程度といった所か。
- 日曜の昼間ということもあり、そのほとんどが麻雀に興じる人間で埋まっている。
- オオカミという土地柄か、客の半数以上が二十代のようだ。
- 川 ゚ -゚)。oO(こういうものなのか…)
- そこは彼女が想像していたような、
- 薄暗くてタバコの煙でモクモクとしている、いわゆるアングラな雰囲気ではなかった。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:23:23.34 ID:N7xXgmcH0
- ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃいませー☆」
- それからほどなく、聞き覚えのある声が聞こえた。
- 声の主は、ミセリ。
- ブーン達が出場した頂上戦で司会進行役を務めていた麻雀プロだ。
- エプロンをしている所を見るに、この店でメンバー業(※)をしているのだろう。
- ミセリは入口に立つブーン達を見るや否や、こちらへ駆け足でやって来た。
- ミセ*゚ー゚)リ「あら、あなた達はVIP大学の…。よく来てくれたわねぇ!現代麻雀見たよ?」
- ( ^ω^)「おっおっ…ありがとうございますお。載っちゃいましたお」
- ミセ*゚ー゚)リ「ところで…今日は麻雀デートかしら?」
- ( ^ω^)「え、いy」
- 川 ゚ -゚)「違います。調整のようなものです」
- ブーンが口を開くと同時に否定するクー。
- いつもの顔で間髪を入れずに言い切る所が彼女らしい。
- ※メンバー業…雀荘の店員の事を麻雀業界ではメンバーと呼びます。
- ドリンクを汲んだり、半荘終了後にお金の清算をしたり、
- 人が足りない時は面子に加わったりと、たくさんの仕事があります。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:27:27.76 ID:N7xXgmcH0
- ミセ*゚ー゚)リ「なるほど、調整ね…」
- ( ^ω^)「この子がフリー雀荘が初めてなので、その付き添いというわけですお」
- ミセ*゚ー゚)リ「フリーデビューかぁ。それにウチの店を選んでくれたのは光栄ね」
- ( ^ω^)「実は…ミセリプロが勤務してるってネットで見て、ココを選んだんですお。
- 少しでも知ってる人がいる方が緊張しないで済むかなと思って」
- 川 ゚ -゚)「そうなのか?」
- ( ^ω^)「言わなかったけど、そうなんだお。
- それに“もすかう”なら客層も雰囲気も良いから、
- クーのフリーデビューにはこの店が持ってこいだと思ったんだお」
- ミセ*゚ー゚)リ「あら…色々考えてるのね、優しいじゃない」
- 川 ゚ -゚)「…」
- クーはそう言われても無言であったが、
- ブーンはブーンなりに思いやってくれたんだな、と思った。
- 後でコーヒーでも奢らせようかと考えていたが、5分の遅刻くらい多めに見てやるとするか。
- ミセ*゚ー゚)リ「さて、雑談はここまでにして…とりあえずあそこの待ち席で待っててね」
- クーがそう考えているとミセリからそう促され、ブーンと共にそこへ腰掛けた。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:31:25.45 ID:N7xXgmcH0
- ミセ*゚ー゚)リ「…と、これで大体ウチのルールとマナーの説明は以上よ」
- 川 ゚ -゚)「概ね把握しました」
- 待ち席でミセリから新規客に向けた説明を受け、それらを頭に入れた。
- 要約すると、こうだ。
- ・東南戦で、順位ウマは1万点−2万点。
- ・九種九牌や四人リーチなど、途中流局は一切無し。
- ・頭ハネは無く、ダブロン・トリプルロンになる。
- ・マンズピンズソウズの5に各1枚ずつ赤ドラが入っている。
- ・裏ドラと赤ドラの入ったアガリには、その枚数だけ一枚100円の祝儀(チップ)が付く。
- 鳴いたアガリでも同様。
- ・その祝儀は、ツモアガリなら相手3人から、ロンアガリなら放銃者から貰える。
- ・親はテンパイ連チャン(最近は流局するとテンパイでも親が流れてしまうルールもあるらしい)。
- ・役満には千円の祝儀が付く。その払いは赤ドラと同様で、ツモアガリの方が得。
- ・ラス半コール(この半荘で終わるという合図)はその半荘が始まる前にメンバーへ告げる。
- ブーンの話によると、細かな違いはあれど、
- このルールがオーソドックスなテンゴフリーでのルールだそうだ。
- 川 ゚ -゚)。oO(このルールならば、もし1半荘で大負けしても3000円程度で済むな…)
- 頭の中でそう計算するクーに対し、ミセリは問いかけた。
- ミセ*゚ー゚)リ「で、クーちゃんはアルティマは初めてよね?」
- 川 ゚ -゚)「アルティマ?それは何でしょう」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:35:26.83 ID:N7xXgmcH0
- ( ^ω^)「配牌が自動で揃う卓の事だお」
- ブーンがそう言うと、ミセリが続けて説明する。
- 聞くと、アルティマとは最新型の麻雀卓の事だそうだ。
- 配牌が自動で揃う、最初から牌山のドラ表示牌がめくれて出てくるなど、
- 今までに無かった機能がウリの台らしい。
- 客からすればそれらの手間が省けるし、
- 店としてもその分の対局時間が短縮され回転率が上がるため、
- ここ数年間で爆発的に普及していったのだとか。
- 言われて打ち手の方に目をやると、
- 確かに全ての卓が、独特のオレンジ色をしたアルティマと呼ばれるそれだった。
- ミセ*゚ー゚)リ「慣れれば楽だけど、開局時によくミスが起きるから間違えないようにしてね☆」
- そんなアドバイスを受け、クーは「はい」と短く返事をする。
- すると、ミセリは店全体を見渡し、軽く手を叩きながら二人に向けてこう言った。
- ミセ*゚ー゚)リ「よし、じゃあ早速打ちましょう☆」
- ( ^ω^)「おっ!?フリー卓を新しく立ててくれるんですかお?」
- ミセ*゚ー゚)リ「ええ。クーちゃんのデビュー戦、私が相手になるわっ!私についてきて!」
- 言い終えると同時、くるりと背を向けて歩き出す。
- そのままスタスタと一番奥の卓へと向かっていった。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:38:58.77 ID:N7xXgmcH0
- ミセリの後を追い、案内された通り卓に着くブーンとクー。
- 同卓希望を出したので、店の決まりにより、向かい合って座った。
- そしてその左右には、ミセリともう一人のメンバーが座る。
- これはわざと鳴ける牌を切るなど、いわゆるコンビ打ちを避ける為
- (またはコンビ打ちだと他の客から誤解されないようにする為)の配慮だそうだ。
- テンゴの麻雀でコンビ打ちをする者など滅多にいないだろうとクーがぼんやり考えていると、
- ミセ*゚ー゚)リ「よろしくおねがいしまーす☆」
- 起親となったミセリがそう声を出し、クーのフリーデビューとなる対局が始まった。
- 卓中央のボタンが押されると、各対局者の手元に13枚の配牌が伏せて配置される。
- それらに手を掛け、中身を確認するクー。
- 見知った顔が相手ということもあって、この頃には緊張もほぼ無くなっていた。
- 川 ゚ -゚)配牌:238m1479p25s西西白中 ドラ5s
- ※5sは赤
- その配牌は、至って平凡なもの。
- 1枚でドラ2つ分の役割を果たす赤5sがあるものの、南家なので役牌対子も無い。
- 役牌が重なれば仕掛けて出られるが、基本的には順子を作ってのピンフ、
- あるいはメンゼンリーチが本線といった所だろう。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:43:04.93 ID:N7xXgmcH0
- 4巡が経過し、クーの手牌はそれなりの形になってきた。
- 川 ゚ -゚):1238m47789p25s西西 ドラ5s
- ※5sは赤
- しかし、ここまで来て伸びが止まってしまう。
- 折角赤5sがあるのだから、早くテンパイを入れてリーチと出たい所だ。
- そう思うも、テンパイどころか赤5sにくっつく牌すら引けない。
- ツモが悪いな、と思った瞬間、親のミセリがブーンの切った東にポンの声を掛けた。
- ダブ東の仕掛けなので、少し危険な香りがする。
- 川 ゚ -゚)。oO(打点のありそうな仕掛けだな…)
- 自分から赤5sが見えているとはいえ、クーがそう考えるのも仕方の無い事。
- フリーの麻雀はドラが赤も含め7枚入っているので、
- それ次第で簡単に高打点のアガリが出現するのである。
- そのため、少し安全運転気味に行こうかと思った矢先、
- ミセリの仕掛けによって4sが流れてきた。
- これで赤5sを使いきれる形になったと安堵しながら、打2s。
- するとその2巡後には、6pを引いてくる。
- これでイーシャンテン。アガリの可能性がグっと近づいてきた。
- だが、対するミセリも負けてはいない。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:50:22.20 ID:N7xXgmcH0
- ミセ*゚ー゚)リ:999m55p56789s ポン東東東 ドラ5s
- 既に出アガリ7700のテンパイを入れていた。
- ミセ*゚ー゚)リ。oO(プロとしてカッコイイとこ見せちゃうんだから…!)
- 心中ではそう意気込むも、淡々と摸打(※)するミセリ。
- やはりそれなりに麻雀プロとしての意地があるのだろう。
- だがいくら意地があろうとも、アガリ牌は引いて来れなかった。
- そして、13巡目。
- 8pを引き入れてテンパイしたクーが、勝負に出る。
- 川 ゚ -゚)「リーチ」
- 川 ゚ -゚):123m677889p45s西西 ドラ5s
- ※5sは赤
- メンピンドラ赤・36sと、ダブ東ドラ1・47sの対決。
- リーチと来られてようが、親のミセリも全ツッパ。
- お互いに、アガリ牌以外はツモ切る構えである。
- こうなれば、めくり合いだ。
- ※摸打…ツモって切る、という動作の事
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:53:54.44 ID:N7xXgmcH0
- だが、決着は終盤までもつれる。
- お互いに相手の待ちがソーズの中らへんだとわかる程に油っこい牌が切られたが、
- 目当ての牌が出て来ずじまいだった。
- もうすでに、17巡目。
- (;^ω^)。oO(蚊帳の外だお…。無事に流局してくれないかしら…)
- ベタオリしながら念じるブーン。しかし、その願いは叶わない。
- クーの最後のツモ牌が、ツモの発声と同時、表に置かれたのだ。
- 川 ゚ -゚)「3000・6000の2枚オール」
- 裏ドラを1枚乗せて、メンピンツモドラ3、跳満のアガリ。
- クーは東1局にして、大きなトップ目に躍り出た。
- ミセ*>ー<)リ「あいたた…親カブリかぁ…」
- そう言って悔しがるミセリとは対照的に、
- ( ^ω^)。oO(ふむ、もう緊張はしてないようだおね…)
- 開かれた手牌を見て、点数と祝儀の申告に誤りが無い事を静かに確認するブーン。
- 『それじゃ、そろそろ僕も飛ばしていくかお』
- そう言わんばかりに、こきり、と一度だけ首を鳴らした。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 01:57:24.40 ID:N7xXgmcH0
- 次局のクーは、親でリーヅモドラ1の2000オールを引き、さらに他家とのリードを広げた。
- だが、そこからはブーンが途中から勢いを増し、赤ドラを絡めた効率的なアガリを拾い始める。
- ( ^ω^)「チー、ポン、ツモ、1000・2000の1本場と1枚オール」
- ( ^ω^)「ポン、ポン、ツモ、1300・2600の1枚オール」
- ( ^ω^)「ポン、チー、ロン、3900点の1枚」
- うまく仕掛けを利用し、アガリやすい両面待ちを作っているようだ。
- 川 ゚ -゚)。oO(なるほどな…)
- ブーンの闘牌を見て、一つ納得した。
- 手牌に赤ドラがある時には、多少打点が下がってもスピードを優先し、きちんとアガリ切る。
- ツモれば祝儀が多く入ってくるし、
- アガリ回数が多くなればなる程4着回避にも繋がるという、一石二鳥の打法だ。
- それは、相手の雀風や場況・ルールによって打ち方を自在に変える、
- オールラウンドなブーンらしい闘牌とも言える。
-
- だがそれも、一つの狙いがあった上での事。
- ( ^ω^)。oO(オーラスまでに点差を少しでも縮めるのが先決…)
- この半荘のラス親は、ブーンだった。
- そのため、序盤で大きくリードされてしまっても、多少の余裕がある。
- 少なくともトップ目との点差を1万6千点以内にしておけば、満貫ツモで一撃終了になるのだ。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 02:00:13.07 ID:N7xXgmcH0
- そして迎えた南4局。
- ここまではブーンの狙い通り、クーとの差は1万2千点強だった。
- ( ^ω^)。oO(満ツモ条件…)
- 川 ゚ -゚)。oO(そうはさせん…!)
- 両者が卓上で火花を散らしながら、配牌を手にした。
- ( ^ω^):11589m13p8s東西北北白發 ドラ3p
- ※5mは赤
- 川 ゚ -゚):2m499p45789s南南北白 ドラ3p
- ブーンは相当に苦しく、一方のクーは
- 南さえ鳴ければアガリはそう遠くなさそうなものだった。
- ( ^ω^)「…」
- 小考し、ブーンは1pに手を掛ける。
- そしておもむろに、クーの第1打である北にポンの声をあげた。
- それから、ドラである3pを切り飛ばす。
- 他家をおさえつつの、無理矢理気味なホンイツだ。
- ( ^ω^)。oO(字牌のケアをしてくれそうな面子だから、このポンは有効な筈だお…)
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 02:04:19.48 ID:N7xXgmcH0
- ブーンのこの読みは、結果として的中する。
- 親が手出しで1p3pのドラターツを初手から切り出して、その上でオタ風の北を一鳴き。
- 十中八九、ホンイツ絡みの仕掛けと通常は読む。
- トイトイならば、重なった時の事を考えて序盤からドラは切らないからだ。
- となると、他家は字牌、特に役牌を非常に切りづらくなってくる。
- そのためクーが鳴きたい南も中々姿を現さないだろう。
- 川;゚ -゚)。oO(また…厄介な事をする……)
- クーが顔をしかめている間、さらにブーンは1mをポンした。
- こうなってくると、他家、特にメンバーである同卓の二人は受けざるを得ない。
- 客をもてなす立場であるメンバーには、
- 『場に大きな影響を与える打牌をしてはいけない』という不文律があるからだ(※)。
- その間、ブーンは悠々とマンズ・字牌集めに勤しめば良いだけ。
- 彼の作戦勝ちである。
- 捨て牌が二段目も終わろうかという頃には、目論見通り彼にはテンパイが入っていた。
- ( ^ω^):56789m白白 ドラ3p ポン111m ポン北北北
- ※5mは赤
- ※最近ではメンバーに打牌規制の無いお店も増えていますが、
- この店では暗黙のルールになっており、ブーンはそれに気付いていたと思ってください
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 02:09:32.92 ID:N7xXgmcH0
- 15巡目、ブーンは引いてきた北をカンする。
- そして次巡、目当ての牌である4mを掘り起こした。
- ( ^ω^)「ツモ!3200オールと1枚!!」
- 川;゚ -゚)「クッ…」
- ミセ;゚ー゚)リ「…はい(全然見せ場が無かったわ…)」
- 肩を落とす女性陣を尻目に、嬉々とするブーン。
- これで初戦は彼のマクリトップとなった。
- ジャン研会長としての面目躍如と言った具合だろう。
- 彼の顔からはいつも以上に笑みがこぼれていた。
- 川 ゚ -゚)。oO(だが…まだまだ!)
- クーがそう意気込むと、ミセリともう一人のメンバーは後から来た客と入れ替わる事になった。
- これで普通のフリー麻雀らしくなったのだが、
- 既にクーは麻雀に入り込んでおり、メンツの事などは意識の外にあるようだ。
- 卓の中央に視線を落とし、次のゲーム開始を待ちながらじっくり集中しているように見える。
- ( ^ω^)。oO(もう…完全に大丈夫みたいだおね)
- ブーンは彼女の方を見ながら、自分も改めて麻雀だけに集中する決意をした
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 02:12:15.07 ID:N7xXgmcH0
- ・
- ・
- ・
- 結局、この日は5半荘打ってブーンが3千円程勝ち、
- クーはほぼトントンという塩梅に終わった。
- 二人同時に店を出て、あそこの局面ではああだった、等と歩きながら麻雀の話をする。
- それは普通の人から見れば、少しだけ異様な男女に映るかもしれない。
- けれども、クーは満足していた。
- 新しい遊び場を知った嬉しさなのだろうか。
- 金額こそ大して浮けなかったものの、闘牌の新たな引き出しが増えた満足感だろうか。
- あるいは、麻雀の世界にまた一歩踏み込めた事の喜びなのだろうか。
- それは彼女にしかわからない。
- しかしながら。
- ( ^ω^)「頂上戦の調整になったかお?」
- 川 ゚ -゚)「まずまず…かな。近いうち、また一緒に頼む」
- そう言われたブーンもやはり、今日は良い一日だったと思うのだった。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/21(水) 02:19:27.80 ID:N7xXgmcH0
- この日を境に、ブーンとクーは二人で“もすかう”へ麻雀を打ちに行く機会が増えた。
- 今は夏休み真っ盛り、時間は大いにある。
- だがまだ一人では心細いらしく、クーはブーンの付き添いが必要らしい。
- それでも彼は面倒臭がりもせず、むしろ喜んで足を運んだ。
- ( ^ω^)川 ゚ -゚)スタスタ
- ξ゚听)ξ「…あれは、ブーンとクー?」
- 用があってオオカミを歩いていた、ツンに見つかる事になるとも知らずに。
- 続く。
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