('A`)の奇妙な冒険

4: 名無しさん :2006/10/26(木) 19:52:15
  

第一話 「クーには謎がある」


 けたたましい目覚まし時計のアラーム音で、今日も目が覚めた。
 いつも思うことだが、この目覚まし時計というのはどうにも律儀過ぎて困る。
 セットしておいた時間に確実に音を出してくれるのはいいのだが、
 もっと寝ておきたいときなどといったこっちの事情もお構い無しに、規定の時間にアラームを鳴らす。

 その日の脳波だのレム睡眠だのといった体調に合わせて、
 アラームが鳴るを五分なり十分なり遅らせる目覚まし時計が発明されればいいのだけれど。

('A`)「……なんてことを考えてるからモテない」
 自己紹介が遅れた。
 俺の名前はドクオ。
 VIP区都立VIP高校に通う高校二年生だ。
 夢無し、特技無し、将来性無しといった三無しの、平たく言えば駄目人間だ。

 勿論そんなだから今まで女と付き合ったことなど一度も無いし、
 これからもきっと無いだろう。
 下手すれば童貞のまま生涯を終えるかもしれないが、これは覚悟しておくしかあるまい。



5: 名無しさん :2006/10/26(木) 20:08:18
  

('A`)「おはようございます」
 洗面所に行く途中、いつもの習慣で隣の部屋の『同居人』に朝の挨拶をかけた。

川 ゚ -゚)「ああ、お早う」
 ドアが少し開き、パジャマ姿の同居人、クーが挨拶を返してくる。

 ドアの隙間から見える部屋の中は、
 もう朝の七時を過ぎているというのに月の無い夜のような漆黒。
 部屋の中にある窓という窓に、板やら何やらで目張りをしているからだ。
 毎度のことながら、こんな部屋に平気で住んでいる神経を少し疑ってしまう。

川 ゚ -゚)「朝食と弁当ははいつも通り台所の机の上に置いてある。
   あと洗っておいた体操服は洗濯機の横にあるからな」
('A`)「わかった、ありがとう。
   それじゃ、お休みなさい」
川 ゚ -゚)「ああ、お休み」
 以上で朝の会話終了。
 これからクーは睡眠に入るため、
 起こさないように静かに行動しなければならない。

 詳しい話は分からないが、クーの仕事は深夜にある為、
 日中は寝て夜に活動するという昼夜逆転した生活を送っているのだ。

('A`)(今更ながら無味乾燥な会話だ)
 クーと同居してもう五年になるが、お互いの会話はこんな感じのまま一向に進展していない。
 クーは無口無表情だし、俺は俺で人と話すのがおっくうというコミュニケーション不全の為、
 ある意味当然の結果ではあるのだが。



6: 名無しさん :2006/10/26(木) 20:25:01
  

('A`)(五年、か……)
 会話が少ないからと言って、俺はクーが嫌いだったり鬱陶しいと思ったりしているのではない。
 むしろ、少なくない好意と感謝の念を覚えている。

 五年前――大きな事故か何かで、親族もそれまでの記憶も無くした俺を、
 文句一つ言わずに女手一つでここまで育ててきてくれたクー。

 これ以上迷惑を掛けたくなくて、俺が大学に行かずに働くと言った時だって、
 金のことは心配するなと言ってくれた。
 いくら感謝しても、しきれるものではない。

 本当のことを言えば、クーとはもっと親しい感じで話をしてみたいのだ。
 だが、そう思ってから今まで、それが実践に移されたことはない。

 気恥ずかしい、というのもある。
 だが、それとは別の、もっと根本的な理由がある。

 ……踏み込めないのだ。
 クーと俺とは、上手く言えないが、全くの別次元の存在という気がして。

 五年も経つのにクーについてまだまだ知らないことが多くある、というのも勿論ある。
 例えば、都心に近い3LDKマンションに住めるほどのクーの仕事とは一体何なのか、とか。
 クーが家で食事を取る所を一度も見たことが無い、とか。

 しかし、そんなものが瑣末に思える程の壁――
 例えば、人間と犬との違いといった、
 絶対的な隔たりがあるように、思えてならない時があるのだ。



7: 名無しさん :2006/10/26(木) 20:42:14
  

 今まで必死に俺を育ててきてくれたクーに対し、
 こんなことを思ってしまう自分は、きっと救いようのない下種野郎なのだろう。
 その思いが、余計に俺をクーから遠ざけさせる。

('A`)「じゃあ俺、学校言ってくるから」
 もう眠ってしまったのだろう。
 玄関からクーのいる部屋に声を掛けても、返事は返ってこない。

('A`)「……いつも、ありがとう」
 だからきっと、この言葉も、クーには届かないのだろう。


          *       *       *


( ^ω^)「やったお!
    ようやく今日の学校も終わったお!
    思う存分帰ってエロゲーできるお!」
 下校中、俺の隣で恥ずかしげも無くこんな台詞をのたまっているのは内藤ホライゾン。
 通称ブーン。
 俺も相当の馬鹿であるという自覚はあるが、こいつはそれ以上の馬鹿だ。
 悪い奴ではないが、馬鹿だ。

ξ゚听)ξ「馬鹿! あんた道の真ん中で何言ってるのよ!」
 すかさず言葉と鉄建でのツッコミをツンが入れる。
( ^ω^)「ご、ごめんだお……」
 頭にできたたんこぶをさすりながら、ブーンが謝る。
 こんなやりとりが、俺達にとっての日常だった。

 ブーンとツンとは、中学校の時に知り合ってからの付き合いで、
 それから何だかんだでこうやっての腐れ縁が続いている。



8: 名無しさん :2006/10/26(木) 21:00:38
  

('A`)「あー、そうだ。 今度の遊園地だけどさ」
 なるべく自然な感じを装って、俺は二人に会話を振った。

( ^ω^)「お? 何だお?」
('A`)「いや、丁度その日にクーからお使い頼まれてさ、行けなくなったんだわ」
( ^ω^)「ええ!? そうなのかお!」
 仰天するブーン。
ξ゚听)ξ 「ちょっと! それほんとなの!?
    あれだけ一緒に行こうって約束したじゃない!」
 ツンも憤慨する。
 まあ、約束を破るのだから当然か。
('A`)「悪いな。 けどクーはその日どうしても仕事で手が離せないらしいからさ。
    悪いけど、ブーンとツン二人で行ってくれよ」
( ^ω^)「分かったお……
    でも、次は絶対ドクオも一緒に行くお?」
('A`)「わーってるって」
 勿論お使いがあるなんて真っ赤な嘘だ。
 じゃあ何で俺がこんな嘘をついてるかって?
 そんなこと、決まってるじゃないか。

( ^ω^)「じゃあ、遊園地はツンと二人でいくお」
ξ゚听)ξ「しょうがないわね、嫌だけど付き合ってあげるわよ。
    べ、別に嬉しいとか思ってないんだからね!」

 ツンデレ!出た!ツンデレ出た!得意技!
 ツンデレ出た!これ!ツンデレ出たよ〜〜!

 これである。
 ここまであからさまにやられて、気付くなという方が無理だ。
 こんなではキャラでもないのに気を利かさざるを得ないではないか。
 これで気付かないといったら、当事者である誰かさんのような大馬鹿くらいのものだろう。

 ……まあ、でもこいつらはこれでいいのかもしれない。
 気が強く手も早いが、その実人を思いやる気持ちに溢れたツン、
 馬鹿で鈍感だが、あきれる程のお人好しであるブーン。
 将来はきっと、お似合いの夫婦になるんだろう。



9: 名無しさん :2006/10/26(木) 21:22:13
  

( ^ω^)「……あれ? あそこにいるのヒッキー君じゃないかお?」
 ブーンの言葉にふと視線を動かすと、確かに道路の向こうにはヒッキーがいた。
( ^ω^)「おいすー。 ヒッキー君、久し……あ、待つお!」
(-_-)「…………」
 こちらと目が合うや否や、ヒッキーはその場から逃げ去ってしまった。
 ヒッキーは確か隣のクラスの奴で、
 いじめに遭って以来学校には来ていない。
 俺は何度か話したことはあるのだが、大人しく気の弱い奴だったという印象がある。

 でも、引き篭もりのはずのあいつが何で、今日に限って外に出ていたのだろう。
 それに、さっき何かを小脇に抱えていたような……

( ^ω^)「ドクオ、どうしたお?」
('A`)「……ああ、いや、何でもねえ」
 それ以上は、俺は気にしないことにした。

 だが、この時ヒッキーを引き止めなかったことを、俺は死ぬほど後悔することになる。
 俺は知らなかったのだ。
 運命の歯車はこの時既に、あらぬ方向に回り始めているのだということを。

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