('A`)の奇妙な冒険
- 17: 名無しさん :2006/11/04(土) 20:37:45
気がつくと、俺は真っ白な部屋の中にいた。
どこだかは分からない、けれど、確かに知っているこの場所――
ああ、そうか。
これは夢だ。
すぐに、自分は夢を見ているのだということに気がついた。
昔はこの夢が怖かった。
お化けや怪物が出てくるわけではないのに、ただひたすら、この夢が怖かったのだ。
子供のころこの夢を見た後は、決まって泣きながらクーの部屋に行き、一緒に眠ってもらったっけ。
ぐるりと、白い部屋を見回す。
何もない。
あるのは、一つのドアだけ。
そのドアも、硬く閉ざされたまま開かない。
――と、どこからか声が聞こえてきた。
いや、これは声ではない。
悲鳴や、泣き声だ。
それも、子供の。
……どこかで、聞き覚えのある声。
待て、これは、自分の――
夢の中で絶叫し、俺は床に膝をついた。
普通、怖い夢を見れば、叫びながら目を覚ますものだが、
今回はそれでも目が覚めることはなかった。
- 18: 名無しさん :2006/11/04(土) 20:48:15
「どうしたのかね。 そんなに大声を出して」
いきなり、目の前から声をかけられた。
見ると、いつの間にやら一人の男が俺の目の前に立っている。
背はかなり高く、全身に真っ黒なコートを羽織っている。
その顔は、端整に整い世に言うイケメンとやらに分類されるのだろうが、
瞳の奥にはぞっとするような昏い淵が湛えられていた。
「初めまして。 いや、お久し振り、が正しいかな。 ドクオ君」
久し振り?
顔も知らない相手から、久し振りだって?
いや、違う。
俺は確かに、どこかで、この男と逢っている。
「君が覚えていないのも無理はない。
君の記憶は、あらかた私が消しておいたからね。
まあ、君が無理矢理忘れようとした、というのも大きな要因であるけれど」
こいつが俺の記憶を消した、だって?
だけど、そんなことをしてこいつに何の得があるっていうんだ?
「まあ、そんなことはどうでもいい。
ところで君は、最近見なかったこの夢を、
こうして今見ていることに何も疑問はないのかな?
……そういえばそうだ。
二、三年前は頻繁に見ていたが、最近は全く見ていなかったこの夢を、どうして今日に限って。
何か、俺に特別なことでもあったのだろうか。
だが、そんな覚えはない。
……待て、そういえば、一つだけ――
- 19: 名無しさん :2006/11/04(土) 20:54:34
「そう。 君がこれを見たからだ」
男の手に、一つの仮面が出現した。
不気味な形の、石で出来たその仮面。
ヒッキーが持っていたものと、同じ物。
「これは『石仮面』と言って――いや、こんな説明は必要無いな。
君は、これがどんなものであるのか既に知っているのだから。
今は忘れていても、そのうち思い出すだろう」
俺があれを知っているだって?
あんな気味の悪いものに俺が関わっていたとは、何ともぞっとしない話だ。
「それともう一つ、君はこれも知っている筈だ」
男の手から『石仮面』が消え、次に『矢』が現れた。
これについても、俺はどこかで知っているというのだろうか。
「この『矢』は『スタンド』という能力を目覚めさせるものでね。
どういう原理かは知らないが、とにかくこれにはそういう力がある。
君の力も、これから生み出されたものだ」
力、だって?
俺のどこに、そんなものが?
- 20: 名無しさん :2006/11/04(土) 21:03:45
「君の力については、君が一番良く知っている筈だ。
尤も、今の所はこの私が一番この力を使いこなせるがね」
俺の力を、こいつが一番使いこなせる?
「『スタンド』とは自身の心の具現化。
云わば、内世界である心象の、外世界への作用。
だとすれば、君のスタンド『ワールド・イズ・マイン』は、
その最たるものと言えるだろう」
男の姿が――いや、白い部屋全体が霞んでいく。
どうやら、夢から覚めようとしているみたいだった。
「ふむ、今日はここまでのようだな。
まあ、そのうちまた逢うことになるだろう。
それまで、息災でいることだ」
待て。
お前は一体誰――
* * *
('A`)「……かはっ」
最悪の気分で目が覚めた。
何だってんだ、今の夢は。
さっぱり訳がわからない。
ぼんやりした頭で、自分の部屋のテレビをつけて朝のニュースを見てみる。
そこから、同じ学校の生徒の三人が、
ずたずたに引き裂かれて殺されているニュースが目に飛び込んできた。
- 21: 名無しさん :2006/11/04(土) 21:10:34
そこからの記憶は余り覚えていない。
殺人事件の件で学校が緊急休校になるとかいう連絡網が回ってきたので、
家の中でひたすらじっとしていた。
ブーンやツンが家に来て少し取り留めの無い話をした気もするが、
それも殆ど頭には入ってこなかった。
今日殺された奴ら――
ヒッキーを苛めていた奴らだ。
しっかりと、覚えている。
……何故なら、俺は見てしまったからだ。
あいつらが、ヒッキーを苛めているところを。
ヒッキーも、それに気がついた。
俺に、救いを求めるような目を向けてきたことも、覚えている。
――というより、今日のニュースを見て、そのことを思い出した。
俺は逃げた。
ヒッキーを見捨てて。
だって、しょうがないじゃないか。
もし下手に助けたら、今度は俺が、
苛めのターゲットにされるかもしれない。
俺は、怖かったんだ。
- 22: 名無しさん :2006/11/04(土) 21:23:58
……そして俺がヒッキーを見捨てた結果、
あいつら三人は死に、ヒッキーは人殺しになった。
常識で考えれば、あの貧弱なヒッキーが人間をずたずたにするなど不可能だろう。
だけど、俺はヒッキーがやったと考えていた。
あの『石仮面』を使えば、容易いことだ。
そう、確信していた。
そして――
俺は台所から包丁を取り出すと、切れないように刃を布で包んで、懐の中へとしまいこんだ。
ヒッキーをこのままにはしておけない。
恐らく、あいつを放っておけば、もっと沢山の人が死ぬ。
ならば――
あいつを見殺しにしてしまった、俺自身がケリをつけるべきだ。
恐怖は、勿論ある。
『人間を止めて』しまったヒッキーに、俺が何をどうこう出来るとは思えない。
だがそれでも、俺はヒッキーに会わなければならない。
罪悪感、それもある。
だが同時に、無くしてしまった俺の記憶の中の何かが、
『石仮面』に向かって俺を突き動かしていた。
――あの『石仮面』に近づけば、俺の何かが分かるかもしれない。
('A`)「……行ってきます」
支度を整え、誰もいない家に向かって挨拶をした。
クーは、残業だとかで昨日から家に帰っていない。
日の暮れかけた夕暮れ、重い足取りで外に踏み出す。
もう二度と、ここには帰ってこれないかもしれない――
そんな気持ちを抱きながら、俺は進んでいた。
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. < To Be Continued... | |
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