('A`)ドクオは棺桶売りのようです
- 5: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:25:32.13 ID:fnfYmXmz0
第
第六話
話
- 7: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:26:34.40 ID:fnfYmXmz0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
どんな仕事も長く続いた覚えは無かった。
ラブホテルの清掃員。
部屋の四方八方に飛び散った大便と、それに群がる害虫達がトラウマになり、断念。
パチンコ屋店員。
慣れれば楽と聞いたが、客のDQNぶりと、先輩の虐めが余りにも酷く、断念。
ファミレス店員。
その日に限って勃起が止まらなく、女性店員にセクハラで訴えられ、断念。
ブックオフ店員。
怪しい宗教にしつこく勧誘され、断念。
ボウリング場でのバイト。
ピンをアナルに入れているのがばれて、解雇。
緑化するべく、山の表面を緑のペンキで塗るバイト。
中国に飛ばされる。能力を駆使し、逃亡。
幽霊の手伝いなんかで貰える額はたかが知れていたし、
何より、人間の仕事をしないと、本当の霊になっていくような気がして怖かった。
つまりは生きている実感を得るために働いている。
だが、続かない。
根暗だしね。何せ、根暗だしね。社会のバーカ。
- 9: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:27:24.51 ID:fnfYmXmz0
『バイト募集!
時給700円 昇給アリ
アットホームな楽しい職場デス☆』
('A`)「こ、これは……」
思わず咥えていた煙草を落としてしまった。
それが原因で、そのコンビニは炎上したが、俺はひとつの道を見出せた気がした。
時給も低く、時間によって仕事場は戦場と化す。
忙しさとは反比例して、社会の底辺とも見られるような職だ。
しかし俺の中で何かが弾けたのである。一種のときめきだ。
/ ,' 3「コンビニ店員というとね、あまり良いイメージは持たれないんだよ。
彼女の父親に結婚の許しを得ようと訪問して、職業を聞かれた場合、
ほぼ100%追い出される……君にとっても荊の道だよ……?」
('A`)「はい、僕自身も博打だと思っています。
従って初日で辞める覚悟も出来ています」
/ ,' 3「その意気だ!」
面接を五分やったぽっちで採用になった。
差し伸べられた老人の手は、触れる前に“温かい”を感じる事が出来た。
その手があったから、今の今まで俺はバイトを続けていられた。
- 10: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:28:37.64 ID:fnfYmXmz0
- 雨足が更に増し、吹き荒れる風は最早、嵐。
身体中に風を集めるまでもなく、巻き起こっている。
想像以上の大惨事だが、それは今の俺にとって問題じゃない。
目の前の現実に比べれば。
/ ,' 3「迎えにきたよ」
差し伸べられた手。
バイト採用時と同じく、笑顔を作って握り返すべきなのだろうか。
('A`)「あんた……何なんだ……?
仕事放棄したのは、うん、正直すいませんでした。
でも、何故ここにいる? クーに何をした? …………何なんだ?」
触れなくても分かる。
今のこの人の手は、冷たい。
雨に濡れたから、気温が低いから、そんなんじゃない。
あの時とは違う。
通っている血が。
この老人を包む空気全てが違う。
/ ,' 3「何なんだ、か。曖昧というか何というか。
今も昔も、そしてこれからも、君の上司であり続ける男といえば納得するかな?」
余計に分からなくなってきた。
店長、荒巻に認知症の疑いがあるのか。それとも俺の低学歴が災いしているのか。
- 12: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:29:52.64 ID:fnfYmXmz0
- 川 - )「ゴェェ!! ガハッ! ゴェェェ!!」
衣を裂くよな奇声。
俺の胸の中で蹲っていたクーが、血を吐き出した。
小声で「もう大丈夫だ」と囁き、ゆっくりと立ったが
細く白い脚は震え、今にも折れそうで見ていられなかった。
(;'A`)「おい……大丈夫の意味知ってるのかよ」
川 ゚ -゚)「私は無敵だ」
言うとクーは徐に帯を解き、白衣と長襦袢を脱ぎだした。
/ ,' 3('A`)「ちょwwwwwwおまwwwwwwwwww」
真っ白なそれを傷口の深い腰に当て、包帯のようにぐるぐると巻いていく。
その際、上に身につけているものは純白の、所謂ブラ一丁となった。
川 ゚ -゚)「止血完了」
再び帯を結び直し、クーは目の前の荒巻店長を睨みつけた。
既に日本刀を抜いており、肩にかけている。
/ ,' 3「巫女装束の下にぶらじゃーとは、無粋もいい所じゃな」
一方の荒巻店長も刀身の無い刀。
つまりは柄だけの物を掴み、こちらへ向けている。
/ ,' 3「人は斬らない、霊だけを斬る。
先祖代々受け継いできた名刀“蟹鎌”の一太刀を受けて、まだ立ち向かう気か?」
- 14: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:31:09.62 ID:fnfYmXmz0
- 川 ゚ -゚)「私と目を合わせ、対話している時点で貴様がただの人間ではない、
一種の霊能力者だと言う事は分かる。そして我々の邪魔をするという事は、
ラドンに操られて、もしくは一員である可能性が高い。
ならばもう、貴様は立派な敵だ。ただでさえ時間が無い。早めに排除する」
凛とした声はいつものクーと何ら変わりは無い。
しかし後ろに立っている俺には見えている。
荒巻店長に対して、強さを前面に表している代わりに、
小さな背中は弱々しく、狭い肩は今にも崩れてしまいそうだ。
頼りない。否、頼れない。
俺、俺はどうする。
/ ,' 3「君はどうするんだ? ドクオ君」
(;'A`)「は、はひぇっ!!?」
/ ,' 3「率直に言うと私の目的は君を仲間に取り込む事だ。
君の能力は魅力的過ぎる。私は霊を見て触れる事は出来ても所詮は人間に留まる。
だが、君は人でありながら霊にもなれるという。君の力は必ず我が組織ラドンの
役に立つ。欲しい、君が欲しい。組織の長老として君をスカウトする」
川 ゚ -゚)「!! ……一員どころか、リーダーだっていうのか」
(;'A`)「ちょっと待ってくれ……その組織ってのは何を目的に作られた集団なんだ?
地域のボランティア集団が草むしりするとは訳が違うだろう……
幽霊を組織して、一体何を企んでいるんだ!」
- 16: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:32:46.45 ID:fnfYmXmz0
- 棺桶売りも脅かす、鍛え上げられた幽霊の軍団。
それを纏め上げているのがこの男、荒巻だとすれば、何かしらの狙いがあるはずだ。
老後の暇潰し、そんな事も考えられる。普通という単語は通じない。
今対峙している相手は朗らかなコンビニ店長ではないのだ。
彼は善人の仮面を被った外道畜生。
雇ってもらった恩はある。
が、だからといってホイホイこの爺様についていく訳にはいかない。断じて譲らない。
俺は、棺桶売りだ。
未練を残した死者の心を、少しでも埋めて安らかに逝かせるのが俺の仕事だ。
クーに与えられた、自分にしか出来ない使命。
荒巻店長、いや荒巻の野郎がどんな事を口にしようとも、絶対に揺さぶられてはいけない。
/ ,' 3「私の企み……それは革命だよ。幽霊を使ったテロだ。
一連の轢き逃げ事件を見たまえ。催眠術師の霊一人で、ここまで“この世”に
影響を与えている。死者も出る。街も壊す。世界規模も夢ではない……
しかし、邪魔なんだよ。お前ら棺桶売り共が」
霊を操る上での最大の障害。
それは同じ存在である、霊に他ならない。
/ ,' 3「厄介な事にお前らも我々も行動が同じなのだよ……
お互い勢力拡大の為に日々新しく死に、生み出されていく超能力者を狙う。
まぁお前らは棺桶に突っ込んで、半分拉致しているようなものだがな」
川 ゚ -゚)「貴様らこそ、どうせ強引に誘って催眠に落とすやり口だろう?
お互い様だ……それにこちらは悪事など働かせはしない、誇り高き集団だ」
- 18: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:34:16.70 ID:fnfYmXmz0
- / ,' 3「実につまらんね。停滞を続け、革新に目を向けようとしないふしだらな集まりが
誇り高き、だと? 怠惰なループを繰り返しているだけだよ。
正しく天国へ逝けない者を来世へ導き、極一部は新たな棺桶売りとして働かせる。
今日も誰かが死に、死に切れず、強制的に棺桶へ。実に馬鹿だな。
どうして、この中途半端な世界に目を向けない?彷徨える魂が常駐する、霊界に。
未練を残した幽霊を、無理して天国へ逝かせる必要があるのか?」
川 ゚ -゚)「真剣70代しゃべり場」
('A`)「チョベリバ」
/ ,' 3「私は人間世界でも天国でもない、この霊の世界をもっと大切にしたい。
ドクオ君のような生物もいるんだ。人間と幽霊の共存は計れないものなのか。
死ぬ事が第二の人生の始まりとも言えるような、そんな意識が皆芽生えれば……」
川 ゚ -゚)「でも超能力者ないし強い未練を持った死者しか、
こっちの世界にはこれないんですねぃ」
/ ,' 3「ククク、何も超能力者だけとは限らんよ。要は死ぬ際にバグを起こせるかどうか。
例えばエスパーで無くとも、常人離れした特技、力を身につけた者が
霊界に来るケースも珍しくは無い。生前、熱狂的に執着出来るものが趣味だった
死者は異様なほどの未練を現実に残す。これにより霊界に来る者もしばしば。
つまり
人間が霊界に興味を持ち始めます→快適そうだし、どうせ死ぬなら行きたいです
→普通の人生送ったんじゃ見込みは薄いです→何かを一生懸命頑張ります→
それが凄い特技になったり、能力となったりします→皆が充実した人生を歩みます
→そんな人生手放したくありません。死ぬ時はもっと生きたいと後悔します。
これが未練となり、あなたも楽しい霊界ライフ。イヤッホーイだ」
('A`)「…………違う」
- 20: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:36:07.72 ID:fnfYmXmz0
- 荒巻の理想、確かに頷ける部分もある。
しかしずれている。何かが、根本的におかしい。
('A`)「違う違う……そうじゃ、そうじゃない……
残酷だ。霊は人間世界に触れられないというのに。
目の前にあるのに手が届かない、それは更なる悔しさと苦しさを生む。
だから、こんな世界は評価されちゃいけないんだ……!!」
/ ,' 3「触れる必要があるのか!?
例を上げるなら、親が子供を残して死んだとしよう。
親がこの世界に来る事が出来れば、我が子の成長が見れるのだぞ!?
例え触れる事は出来なくとも! 見守る事は出来る!
死んでるのに! ふしぎ!」
('A`)「!! ……でも、でも!!
親だったら、我が子が近くにいたら……絶対抱きしめたくなる!!
自分は見守ってるんだぞって主張したくなる!! だが不可能だ!!
それが悲しいんだ! もし子供が不慮の事故や何かしらの事件に巻き込まれたら
どうするんだ!? 俺が親なら発狂するね、こんな近くに居たのに守れなかったって。
それとも何か? これから親子で霊界生活送りまーすってか。
そんな簡単に割り切れるもんか、我が子の死を見るのが親にとっては一番の苦痛の
筈だ……だから親は先に死ぬんだ!! 希望を託して死ぬんだ!!」
川 ゚ -゚)「あ、熱いぜ……こいつら……
間違いなく二人は現状(トラックとか)を忘れている……
あと私が上半身ブラだけだっていうのも……」
| ^o^ |おきゃくさんがきえたうえに、ろうじんがひとりでねつべんしている
これははんざいのにほひがします
- 22: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:37:58.93 ID:fnfYmXmz0
- / ,' 3「ふぅ……どうやら私と君は相容れない存在らしい。
残念だよ、君は霊界と人間界のパイプ役にも成り得るのに」
('A`)「轢き逃げ騒動起こす前に気づけよ」
天気と同じく、俺の心にも疾風が吹き荒れている。
たまに台風の描写入れないと忘れるんだよ。今、台風衝突中だって。
| ^o^ |こわいのでかえりまsうぐくるしっ
('A`)「ちょっと黙っててくれ」
ドライバーさんの背中に回り込み、人間の状態へ戻った。
何せ隙だらけだ。絞め落とすのは容易。
……今日一日でどんだけ罪を重ねているんだ俺は。
/ ,' 3「実力行使……じゃな。君を仲間にするのがベストだったが、
敵でいるなら早々に消すべき者だ……手加減は一切期待するな」
('A`)「爺さんにゃあ、もう何も求めてねーよ。バイトも今日っきりな。
制服は速達で送るんで。給料は振り込んどいてね、直接取りに行くの気まずいし」
距離にして約三メートル程か。
俺と荒巻は向かい合い、どう攻めるか算段を組み立てている。
人間二人のガチンコ勝負。霊はシャットアウトだ。
('A`)(あの柄だけ剣? は、人間を斬る事は出来ねーんだろ。なら楽勝じゃね……?)
- 23: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:38:55.84 ID:fnfYmXmz0
- / ,' 3「では参ろう」
一歩だけ荒巻が前に出る。
同時に、暇を持て余している左手を背に伸ばした。
('A`)「ん? あれ……??」
目を擦り、改めて見た光景は、世にも奇妙な二刀流だった。
右手には霊だけに刃を現す、柄だけの剣。
左手には、幅が広く剣身の厚い、威圧感たっぷりの刃物が握られている。
/ ,' 3「人間用の武器もあるよ。中国の土産だけど」
その俺をぶった切る用の凶器は、長さにして80cm弱と言った所か。
剣というよりは、鉈。一撃でも喰らえば一溜まりも無いだろう。
それに怯えて霊モードになったとしても、今度は右の見えない剣が襲い掛かる。
川 ゚ -゚)「待てドクオ……一人では無茶だ……」
('A`)「お前が無茶して立ってんだ。俺だけ隅に引っ込んでられるかってんだ。
なぁに、かえって免疫がつく。これからライフル向けられたり、戦車と戦うハメに
なっても驚かねーようにしないと。だって俺は……」
荒巻に負けじと、大きく一歩前進した。
('A`)「誇り高き集団の一人だからな」
/ ,' 3「ならば散れ」
荒巻が駆け出す。この時、俺は自分が素手だった事に気付いた。
- 25: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:41:04.28 ID:fnfYmXmz0
- ('A`)「あれ俺丸腰じゃn――――
中国の土産が空を裂いた。
真横に振られた一閃を、俺は膝を落として回避する事に成功。
左脇腹に大きな隙が生じている。そこへ自慢のミドルキックをブチ込んだ。
('A`)(老いぼれにコイツは効くだろう…………ん??)
ふと気付く。その感触に、その違和感に。
固い。蹴りの衝撃が、防がれた。いや、吸収された。
(;'A`)(これは――――)
/ ,' 3「グッナイボーイ。私は常に鉛の腹巻、胸当て、その他諸々を身に付けている」
(;'A`)「しまっ……」
隙だらけの俺の胴を貫くは左の剛剣。
思わず最終手段を使ってしまった。霊になるという回避。
だが間髪入れずに右の“霊専用”が襲ってくる。
非常にまずい。
身体を退かせるのは利口じゃない。
霊になって初めて、薄らと輪郭線が見えた。
柄から真っ直ぐ伸びる、やや青白い刀身。これこそが霊専用の刀の正体。
凄まじいリーチだ。竹竿のようにも思える。
ともかくコイツを目の当たりにしたら、距離を取れば平気、なんて安易に考えられない。
ならば対策はあるのか? 無い。人間に戻るか? 貫かれているのに?
今、人間の身体になれば、あっという間に『腹を刺されている俺』が誕生する。
- 26: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:41:44.52 ID:fnfYmXmz0
- 半ば諦めかけた、その時。
割り込む影がひとつ。
ミニスカ&ブラ丸出し、最早巫女と呼んでいいのか分からない女、クー。
川;゚ -゚)「っあ!!」
(;'A`)「クー!?」
/ ,' 3「“蟹鎌”に一度殺されかけて、尚も立ち向かうとは……敵ながら天晴れよ」
川 ゚ -゚)「霊だけを斬る、と言ったな。斬れるという事は受ける事が出来るという事だ」
事実、そのぼんやりと青白い輪郭は、クーの日本刀によって受け止められている。
『ビキビキ』と、何やら怪しい音がする。やはり力の差は歴然のようだ。
このクーの勇気を、思いを無駄にしてたまるものか。
何としても一撃与えてやる。このボケたジジイはきついショック療法が必要だ。
('A`)「肩借りんぞ!!」
クーの肩を踏み台に、俺は高く跳躍した。
そのまま拳を作り、荒巻に向かって構える。
/ ,' 3「血迷ったか!! 串刺しにしてくれる!!」
片手でクーの相手をしながら、荒巻はもう一方の剣、中国土産を俺に向かって突き立てた。
ニュートンさんの見つけた法則通り、俺は落下する。
俺は荒巻の剣に突き刺さる、痛みは無い。すり抜けているだけだ。だって幽霊だもん。
/ ,' 3「ば、馬鹿な!! 攻撃するために人間に戻ったんじゃwwwwwwwww」
- 29: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:43:21.07 ID:fnfYmXmz0
- 当然だが幽霊は人間へ攻撃出来ない。逆もまたしかり。
拳を当てる為には必然的に俺は人間になる。
荒巻はそれを理解した上で、人間用である左の剣を俺に向けた。
だが、俺は幽霊の状態を解かなかった。
攻撃を意識させるために、わざとらしく拳を握り、パンチのポーズを見せ付けてやった。
要するに俺は、飛んだだけ、だ。
トドメの一撃というものは、どうしても気持ちが入ってしまうようで、
それ故に出来る隙もまた、格別に大きいものだ。
荒巻は剣を天にかざしたまま硬直している。ちょっとかっこいいんですけど。
('A`)「いっけぇぇぇ俺ぇぇぇぇぇぇえぇぇぇええ!!!」
川 ゚ -゚)「ヒジでええから目に入れろ!!」
/ ,' 3「ちょ、やめt
今度こそ俺は人間の身体となり、荒巻の顔面へと拳をめり込ませた。
少しだけ止まる時間。一瞬で伝わる相手の体温。
そして吹き飛ぶ老人の身体。
事情も知らない人が見ていたら、間違いなく俺は非行青年A。
/ ,' 3「ば……かな……わし、の、先祖は……代々、無敗の……ゴースト、バスター……」
('A`)「ああ、無理して今更設定言う必要ないぜ……言うタイミング無かったんだな……」
- 32: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:45:06.61 ID:fnfYmXmz0
- / ,' 3「ドクオ君……君に頼みがある。なに……手間は取らせない」
コンクリートの壁にもたれ、震える手で手招きをする荒巻。
声は弱々しく、息も切れ切れだ。
こんな老人をブン殴ってしまった。なんだか罪悪感さえ生まれる。
('A`)「な、なんだよ」
/ ,' 3「この剣を……強い意志を持つ君に受け取って貰いたいんじゃ……」
差し出したのは左の中国産の剣。
メイドインチャイナと聞くと、最近は躊躇してしまいがちだが、
この刀は間違いなく良いブツだ。輝きが違う。輝きが。
('A`)「俺、に……?」
/ ,' 3「ああ……死ぬ前に……この剣の持ち主に相応しい人間に出会えて……よかっ……」
(;'A`)「あ……て、店長!! しっかり!!」
/ ,' 3「な訳ないじゃあああああああああああああん!!!」
素早く振られる剣。
反応が鈍り、頬が薄く切れた。
川 ゚ -゚)「キノコ乙」
(;'A`)「ちょwwwwwピンピンしとるwwwwwwwww」
/ ,' 3「ヒッヒー! ヒュアィゴーゥ!!」
- 33: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:46:23.36 ID:fnfYmXmz0
- 元々狂っている人間が更に狂うと、こうなるのか。
恐ろしい。動きが余りにも変則で読めない。
老人とは思えぬスピードで、反復横跳びをしている。
川 ゚ -゚)「ぶ、分身しただと!?」
/ ,' 3「ならダブルスでいくよ」
どう見ても一人しかいません。本当にありがとうございました。
('A`)「頼むからクーさん、乗せられないで」
タクシーが横から荒巻を跳ね飛ばす。
アクセルを踏んでいるのは、俺。
あまりにもジジイの動きがうざかったのでやった。今は反省している。
これが痛みだ。
真横から、不意に、襲い掛かる理不尽。
ああ怖いなぁ交通事故。
川 ゚ -゚)「被害者も少しは報われた……か?」
('A`)「こんな年寄り一人吹っ飛んだって、何も変わらないさ。
死んだ人は戻ってこないよ」
しかし、着々と犯罪者色に染まりつつあるな、俺。
自重しよう。なんでも正義に基づけば良いってもんじゃない。
何でもやり方がある。
五人戦隊が戦車で登場して、一斉に砲弾ぶちまけたら、怪人も子供も泣くっしょ。
- 35: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:47:39.91 ID:fnfYmXmz0
/ ,゚ 3
('A`)「はい、そうです。霊の……いや、例の轢き逃げ事件と関係してると思います。
猛スピードでお願いします。おじいちゃんピクピクしてます、はい」
『ありゃーっしたwwwwww今すぐそこ向かうんでwwwwwww』
携帯電話を折りたたみ、ポケットに戻した。
川 ゚ -゚)「救急車呼んだのか。優しいな」
('A`)「それが俺のジャスティスだよ」
嘘。
単に怖いだけだ。
荒巻が死んで俺を呪うのが、冗談抜きで怖いよママン。
('A`)「あとは……トラックか」
川 ゚ -゚)「解決すると信じたいが、念には念をだ。
今からあるポイントに、そのTAXIで向かおうジャマイカ」
('A`)「ああ…………ん?」
| ^o^ |
再び携帯電話を取り出した。
('A`)「すいません、男性一名追加で」
- 39: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:48:48.02 ID:fnfYmXmz0
- 【+ 】
(*゚∀゚)「モナー……無茶しやがって……」
雨を弾くコンクリートの上、一人の女が立っていた。
淡いピンクのワンピースは、濡れて黒ずんだ道路と相反して、一層鮮やかに見える。
彼女自身も容姿端麗で、美しい栗髪栗目は世の男が放っておかないであろう魅力を備えていた。
(*゚∀゚)「まぁ投げたのは私なんだけど」
ショボン救出を、モナーは生首で懇願してきた。
ブン投げてぶつけて欲しい。それだけ。
(*゚∀゚)「レディに頼むか、普通。しかもそのせいで……」
( ・∀・)「1班はそのまま待機、2班は囲むように陣を取れ。
まぁ散々言ってもどの班とか把握してねぇし、個人方々勝手に統率とってくり」
(*゚∀゚)「飛ばした方向から居場所が割れちまったじゃねーかい」
彼女は囲まれていた。
広い交差点の中央に佇む彼女を取り囲むのは、ベテラン部隊長モララー率いる隊だ。
特徴的なのは全員が女。
更にどいつもこいつも、俗に言うボンテージ姿の女王様スタイルだ。
鞭、網タイツ、仮面。全てモララー隊長の特注品である。
30人ばかりの女王様に取り囲まれる、そんな気分どうよ。
- 42: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:50:34.04 ID:fnfYmXmz0
- ( ・∀・)「また訳のわかんねー奴が出てきたってか。
大丈夫、大丈夫。多分今回で消えるからねー。
その場限りの一発退場キャラだからねー。安心してねー」
「誰に喋ってるのよ!」ビシィ
( ・∀・)「ひゃぅん! もっとこの醜いブタめをひっぱたいてくだしあ!」
(*゚∀゚)「dだ変態がいたもんだ。これだから近頃の棺桶売りは……」
(メ・∀・)「こんな奴ばっかりだよ。はっきり言って変態集団だぜ。
その長が今から到着するんだ。自分の出番が欲しいからほどほどに
動きを封じておけだと。あーめんどくせ、ハインからの連絡もこねー」
そうぼやいた所で、迷彩服のハイン部隊の一人が走ってきた。
ボロボロな姿を見ると、戦闘の末、敗走してきたと見ていいだろう。
よく目を凝らすと、後ろにまた一人何者かの影も見える。
「モララー部隊長……迷子で泣いているブーンを保護しました……」
( ;ω;)「おーん! だって生首がー!」
( ・∀・)「おじさんが元気の出る歌を歌ってあげよう」
( ^ω^)「わーい」
( ・∀・)「かわいたーさけびがーくじけそーなむーねをつーきさすー」
JASRAC
- 44: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:51:49.55 ID:fnfYmXmz0
- ( ・∀・)「学園祭でこの曲をずっと図書室で聴いてたんだぜ……?」
( ^ω^)「誰が?」
( ・∀・)「……」
(*゚∀゚)「しかし壮観だねぇ。これだけの人数が一気に屍になると思うとゾクゾクするよ」
( ・∀・)「もう死んでるっつーの」
(*゚∀゚)「その辺りの設定が曖昧」
( ・∀・)「めんどくせーや、全軍、鞭を構えろ。手加減の必要は無い。潰せ。
オサムさんがいちゃもんつけてきたら、正当防衛でつい、とか言えばおk」
(*゚∀゚)「そうだね、依存はただのホニャラララだってね。
でもってさ、でもってさ、敵が私一人とか思われると困るんだよねー。
流石にこの人数相手だと肩こって仕方ないわ。つー訳でこっちも駒を使うから」
女は親指と人差し指を咥え、俗に言う指笛を鳴らそうとしている。
が、「ピー」という高音がなかなか出ず、息が「ヒューヒュー」と漏れるだけであった。
余りにも可哀相なので、モララーが吹いてやった。ピー。
その瞬間、女王様集団が次々と蹴散らされていく。
後方から駆けて来たのは、外国籍の臭いがする筋肉質の男、約20名。
光の速さで現れた彼らは、あっという間に女を円形に守る陣形を作り上げた。
(*゚∀゚)「これが……ラドンの信者、hay!say!aramakiよ」
( ・∀・)「もうどこから突っ込んでいいのやら」
- 46: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:53:38.73 ID:fnfYmXmz0
- 男達が一斉に口を開く。
「ツー様、守レバ……チュッチュ、シテモラエールヨ……」
「ツー様、傷ツケル奴ハ、死ネバイイト思ウヨ」
「ツー様、唇、ツー様、唇」
( ・∀・)「最初の単語は何? 間違った文法?」
(*゚∀゚)「つー様。私の名前よ、察せ。彼らは全員私の虜よ、ラドン信者というより
私の信者と言っても構わないかもねー」
( ・∀・)「そうかそうか」
モララーは適当に相槌を打った。
恐らく頭では、今晩のおかずについて考えている。
(*゚∀゚)「視覚、聴覚、催眠の種類は数あれど、私の術は少々レアかもね。
キッスで催眠にかかるなんてロマンティックじゃなくて?」
( ・∀・)「チューか、チューで騙すのか。俺にもしろ」
(*゚∀゚)「味覚からの催眠は、視覚や聴覚から入る催眠よりも効力は遥かに劣る。
けど、特化しているのは、その中毒性。
一度蜜の味を覚えた虫は、必ず、また求める。
それを手に入れるためには、何でもするように身体が覚えていくのよ。
私とのキスを味わうために、彼らは貴方達を徹底的に潰すわ」
(;^ω^)「なんという麻薬……」
( ・∀・)「一方カー君はローションでボーリングをしていた」
- 49: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:56:04.44 ID:fnfYmXmz0
- (;^ω^)「余程巧い、美味いキスに違いないですお」
( ・∀・)「まーさか、ニラみてーな味がするぜ」
(*゚∀゚)「それをレモン味に変えるのも、催眠術よ」
つーはウィンクしながら、銃を撃つジェスチャーをして見せた。
それが癇に障ったモララーは突拍子も無く、突撃を命令。
鞭を持った女王様の群れが、飛び掛る。
一方の男達も拳を構えた。
牙を剥いた獣を優しくエスコートする訳も無く、攻撃を開始する。
ある街のある交差点で、人間には見えない戦争が始まった。
( ・∀・)「ちっ……鞭攻撃を快感にしている男もいやがる」
(メ^ω^)「あああ――――っ! もっと罵って――――っ!!」
「この豚野郎!」
この際、何故ブーンを攻撃対象にしているのかは気にしない事にした。
( ・∀・)「戦況は……」
僅かにこちらが押しているか。
だが敵のイケメンパラダイスも、異様なタフネスを持ち、女王様も苦戦を強いられているようだ。
辛うじて数が勝っているだけで、個人の実力は五分か、それ以上と見てもいいだろう。
- 51: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:57:31.11 ID:fnfYmXmz0
- ( ・∀・)「女は何処に行った?」
見渡す限り、女王VSマッチョの乱交パーティだが、
モララーは自慢の視力(0.8)をフルに活用して、つーを探す。
だが、灯台下暗し。彼女はモララーの背中に回り込んでいた。
(*゚∀゚)「秋山パーンチ!」
( ・∀・)「Yabeeeeeeeeeeeeee!」
その右手にはメリケンサックが装着されている。
美女とメリケン。そのギャップが不思議な色香を漂わせている。訳がない。
拳が顔面にまで迫る。モララーは涙目だった。
(メ^ω^)「モララーさん!」
奇襲を見事阻止したのは、新米のブーン。
つーを羽交い絞めにして、動きを封じた。
(*゚∀゚)「ちっ……腹の肉やばいよアンタ」
(メ^ω^)「あててるのよ」
ばこん。
(メ^ω^)「ひぎゃん」
ブーンは倒れた。
背後から襲われたらしい。
証拠にマッチョな白人男性が、つーに向けて親指を立てている。そして笑顔。
- 53: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:58:23.60 ID:fnfYmXmz0
- (メ´ω`)「あうあう……」
意識が朦朧としているブーンに、
ヤンキー座り(またはウンコ座り)で、つーは顔を近づける。
満面の笑みだが、同じ笑顔で返せる余裕は、今のブーンには無い。
(*゚∀゚)「君も私の虜にしてあげる」ズキュウウン
(メ゚ω゚)「ウッ」
( ・∀・)「催眠キスだ! ブーン、意識をしっかり保て!!」
(*゚∀゚)「無駄よ。少なくとも今の彼は昏睡状態に陥り、直に自ら私を求めるように
なるといいなぁ……」
( ・∀・)「ちょwwwwww願望かよwwwwwwwwww」
(メ;ω⊂)バチャ
( ・∀・)「ああっ見ろ! こいつ泥水で口を洗ってるぞッ!!」
(*゚∀゚)「どうして泥水に触れられるのかって質問されたら、どう返すんだ」
- 58: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 02:59:49.16 ID:fnfYmXmz0
- ( ・∀・)「お前がそんな心配をする必要は、もうねぇよ」
舌を出し、嘲笑するように言った。
次の瞬間、指先から青白い電流が音を立てながら発せられ、
細い光は、どう描写しようか悩んでいる奴を置き去りにして、つーの身体へと伸びていく。
(*゚∀゚)「ここにきて電撃能力かよぉぉぉぉ……」
雷鳴と嘆きが恋をして、ここに断末魔というデュエットが誕生した。
深い意味は無い。
(メ´ω`)「流石に雷属性はねーお……」
( ・∀・)「何のインスパイアでもない!」
それはさて置き、問題はここからであった。
将を失えば敵も退いてくると思っていたが、どうにも違うらしい。
マッスル協会の方々は未だ戦いを止めない。寧ろ、他の事柄が一切見えていない。
愛するつー様の撃沈さえも。
( ・∀・)「人は……何故戦うのだろう……
生きて、戦って、死んで、死んだ後も、こうして戦いを続けている」
(メ^ω^)「永遠のテーマじゃないですかお?」
( ・∀・)「永遠か……無限ループって怖くね?
そう言えば、死んで成仏して、天国で来世の手続きを済ませて、
その後はどうなると思う?」
(;^ω^)「え? 普通に来世での人生が始まるんじゃないんですかお?」
- 60: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:01:24.29 ID:fnfYmXmz0
- ( ・∀・)「それならいいなぁ。実の所、俺もよく分からないんだが、
来世は存在せず、また自分の人生が一からスタートするという噂もある」
(;^ω^)「そ、それってつまり……僕は次の人生も、そのまた次の人生も僕って事
ですかお? 他の誰かにはなれず、永遠に僕の人生を送るんですかお!?」
それはあんまりだ。
ブーンは頭を抱えた。
また貧乏催眠術師になって、犬の爺さんを追いかけ、交通事故でポックリ逝って、
真夏の道路を野郎二人でマラソンし、成仏した後も、先輩にコキ使われ、生首を見て、
トラックから転落し、迷子になるというルートを辿らなきゃならないのか。
(;^ω^)「せめて分岐があれば……」
( ・∀・)「ま、ほんの一例に過ぎないし、深く考えないこった。
死んだ後こんな話しても、しゃーねーだろ。
せいぜい、今をのほほんと過ごしとけ」
(;^ω^)「戦場のド真ん中で胡座かいてDSで魔女神判やってるのが
貴方の言うのほほんですかお?」
( ・∀・)「もったいねーんだよ。体内に余った電気が」
彼、モララーは生前は酷く静電気が起きやすく、奇妙な電磁波を持ち合わせていると
小児科の先生も言っていた。狂わせた家電は数知れず。
下敷きで髪を逆立てる遊びでも、モララー付近のクラスメートが感電したりした。
- 62: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:03:27.70 ID:fnfYmXmz0
- 当然だが、その親からのクレームも来た。
「ウチの子を感電させるなんて!」
「その電気人間を転校させて!」
「謝罪と賠償を(ry
我が子を思う故の事だが、それを耳にしたモララーと、女手一つで育ててくれた母は
悲しんだ。
やがてモララーはいじめられ、更には不登校になり、小学生にしてひきこもりになる。
だがモララーの母親は強かった。
ζ(゚ー゚*ζ「モラ男(本名)は良い子よ。お母さんが誰よりも分かってるから」
怖い夢を見て震えた時も、
不意にいじめっ子の顔が浮かんで、泣きたくなった時も、
自分の地域では深夜アニメはギアスしかやってないと発覚した時も、
そっと抱きしめてくれた。
外で例の子の母親よ、と陰口を叩かれても知らん振りした。
しかし愛する我が子を誹謗中傷された時は、ちくわとダンベルを投げ付けたりした。
そんな彼女は雷に打たれて死んだ。
久しぶりに、息子と手を繋いでの外出先での事だった。
この時、モララー高三。
( ・∀・)「マザコンじゃないんだからな!」
- 65: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:05:01.20 ID:fnfYmXmz0
- その後、モララーは無事大学に進むが、行きつけの雀荘で何かに挟まって死んだ。おわり。
( ;∀;)イイハナシダナー
( ^ω^)「か……漢だ……」
( ・∀・)「親孝行出来なかったのがどうにも心残りだったんだ。
でもさっきの言う通り、また次の人生も同じ道を歩むんなら、
何度後悔して、反省したって、何の意味も持たなくなるじゃないか。
だから、俺は来世は必ず別の俺になる。そう信じるね。
で、親が死んだ時も『出来の良い息子だったろ』って煙に手を振ってやるのさ」
( ^ω^)「濡れた」
( ・∀・)「うp」
【+ 】ゞ゚)「登場し辛ぇ〜」
( ・∀・)「ではボス、この愚かなる戦いに終止符を」
【+ 】ゞ゚)「あ、はい」
オサム。
棺桶売りを束ねるボス。
大柄で、真っ黒のコートに身を包み、皺の入った厳格な顔立ちを見ると、
その凛々しさと威圧感で、思わず後退りしてしまいそうだが、
全てをぶち壊しているのは、その内股と、ベージュの半ズボンだ。
しかも、何気に脛毛は綺麗に処理されている。
日頃のスキンケアの賜物である。
- 71: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:07:53.63 ID:fnfYmXmz0
- (*゚∀゚)「あんたか……オサムってのは……」
こんがりと良い具合に焼きあがった、つーが立ち上がる。
華奢な脚は今にも折れてしまいそうで、見るに耐えない状況だった。
一度唾を吐き捨てると、つーは眉間に皺を寄せ、オサムを睨んだ。
呼吸は荒い。
ダメージの所為もあるが、一番は興奮だ。
最高級の獲物が、こんなにも近くにいる。
(*゚∀゚)「あんたを……あんたを潰せば……」
形振り構わず、駆け出した。
(*゚∀゚)「理想郷が見えてくるうううううううううう!!!」
【+ 】ゞ゚)「走馬灯でも見ていろ」
指一本でつーの拳を止めた。
力の差を見せつけるように、そのままゆっくりと、指で拳を押し返す。
次に、オサムの周囲を白い煙が包み込んだ。
(*゚∀゚)「くっ……なんだよぃ! どういうことだでぇ!!」
( ・∀・)「よーく見てろよ、ブーン。何故あの人がボスと呼ばれているかが、分かるぜ」
(;^ω^)「え……?」
( ・∀・)「視界が晴れてきたな。見ろ、あれがボスの操る棺桶だ」
- 73: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:09:33.49 ID:fnfYmXmz0
- 『全長10 hyde』
『高さ 5 hyde』
ミサイルランチャー装備。
その他諸々、名称不明の物、多種。
名を、棺桶軍艦。
巨大。
そして怪しく黒光り。
取り付けられたスピーカーからは、タイタニックのテーマが流れている。
( ・∀・)「全軍伏せろ――――――!!!」
モララーの警告と同時に、攻撃は始まっていた。
四方八方からのミサイル。轟く爆音。吹き飛ぶ男達。泣き喚く女王。
誰もが状況を……理解は出来ているが、現実的に受け止める事が出来ず、
爆撃の餌食となっていった。アーメン。
【+ 】ゞ゚)「おわり」
砲撃が沈静化し、後には焼け爛れた筋肉質の男達の、倒れている様があるだけであった。
マイケルもトムも、ジョナサンもケミカルも、動く様子は見られない。
【+ 】ゞ゚)「……大丈夫だ。手加減はした……と、思う。
立てる者は、男達を棺桶に放り込む作業についてくれ」
(;^ω^)(そこは人手が必要なのかお……)
( ・∀・)「棺桶軍艦だからな。百人乗ってもダイジョーブ」
- 76: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:12:24.78 ID:fnfYmXmz0
- (*゚∀゚)
つーもまた、白目を剥いて倒れていた。
だが僅かに息がある。
( ・∀・)「彼女もですか」
【+ 】ゞ゚)「ああ、どんな極悪霊でも差別は駄目だ。
乗せてやろう、天国への方舟に」
( ・∀・)「服もボロボロだ。何か色々ごめんな」
別に誰に非がある訳でもないが、つーを背負ったモララーは謝罪の言葉を口にした。
( ^ω^)「ごめんで済んだら、とんでぶーりんはいりませんお」
( ・∀・)「また懐かしい所から引っ張るな、お前は」
これで、敵と判断した者全員が、オサムの棺桶に入れられた。
ちなみに、勝手口から中に入る事が出来るので、入棺の際にはその扉を開ける。
覚えといて得する事の無い無駄知識である。
【+ 】ゞ゚)「では、成仏」
オサムは瞳を閉じ、静かに手を合わせた。
- 78: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:14:33.03 ID:fnfYmXmz0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
と、いう訳で、俺達は民家の屋根に立っているのだ。
('A`)「どういう訳?」
川 ゚ -゚)「第一回、チキチキ! タイミングよくこの道路を通過するトラック目掛け
ジャンプして飛び移ろう選手権!!」
('A`)「参加者は?」
川 ゚ -゚)「お前一人」
わーい優勝だ。
スターだ。本当の意味でスターになれるぞ。
川 ゚ -゚)「ようやくハインと連絡が取れた。道順を適当に考えた結果、
間も無く、一分も経たず、このルートを通過するような気がするんだとか……」
そう言うとクーはトランシーバーを見せつけた。
カラフルで、オモチャのようなデザインが、俺の中に眠る少年の心を刺激する。
ああー、小学校とかの昼休みで友達とそれで連絡取って探険とかしてー。
友達いなかったけど。
('A`)「はぁ……親友とか……いい響きだな……」
いつも側にクーはいてくれるが、親友とは違う気がする。
かと言って恋人かと問われれば、そりゃねぇよ畜生、だ。
やはり上司と部下が一番近いか。だがそれも最近は変わってきている気もする。
- 81: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:17:14.20 ID:fnfYmXmz0
- ( ,,-Д;)『お前に守ってもらうしかないんだ……』
そう言えば、そんな約束をした男もいた。
俺が生きてきた中では、最も親友同士っぽいやりとりだったかもしれない。
“それっぽい”というのは大切だ。“それ”になる要素があるのだから。
ならば、その約束を果たそう。
決意を込める意味でも、小さく握り拳を作った。
パキッ、と関節が鳴った。微妙に痛い。
右側を向く。
この道路を真っ直ぐ行くと、丁度例のケーキ屋が見える。
肉眼で確認できる距離だ。かと言って、ここから走ればそれなりに疲れる距離でもある。
大体そんな感じ。
('A`)「しかし……タイミングを見計らって、飛び乗るか……
出来の悪いミニゲームみてぇだな」
川 ゚ -゚)「そういうものこそ大事なんだ。これから生きる上で大切なのは、
パワーとタイミングだ」
('A`)「ポケビとブラビみてぇだな」
川 ゚ -゚)「走るトラックに飛び乗るには、リズム感!
はい、ワン! ツー! エンッ、ツー!」
('A`)「はい、はい、あ、よいよい!」
川 ゚ -゚)「アン、ドゥー、トロワー!
アン、ドゥー、トロワー!」
- 82: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:18:39.40 ID:fnfYmXmz0
- クーの変な掛け声に合わせて、ステップを踏んだり身体を捻らせてみたりした。
今は人間の状態なので、他人の眼に晒されているという事は十分に理解している。
人様の家の屋根で何やってんだ、という感じだが、友との誓いを果たすその瞬間まで、
俺は止まらない。断じて、世間体には負けない。
川 ゚ -゚)「ヘイ、ヘイ、ワンツー、ワンツー」
('A`)「オゥイェース! ディスイズアペン!」
川 ゚ -゚)「ワンモアセッ」
('A`)「ヘイッ、エンヤーコラサー」
川 ゚ -゚)「ヘイ、ワン、ツー、ワン、ツー」
('A`)「ワンッ、エンッ」
川 ゚ -゚)「ツー!」
ノ
('A`) ビシィ
( (7 ≡凸 ←トラック
< ヽ ブーン
- 86: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:20:59.15 ID:fnfYmXmz0
- 从 ゚∀从「ちょwwwwwww飛び降りてこねええええええええええwwwwww」
(;'A`)「あばばばば!! しまったあああああああああ!!」
川 ゚ -゚)「今からでも間に合う、飛べっ!!」
クーの声に後押しされ、遅刻と分かりながらもスタートを切った。
いや、もう明らかに着地点はコンクリだろう。
川 ゚ -゚)「手を伸ばせ!」
('A`)「シィィタァァァ!!」
从 ゚∀从「パズ―――――――!!」
無理。
まず触れられないし。
('A`)「ダルビッシュ!」
顔面から落下した。
痛みよりも虚しさが先行して、変な涙が流れる。すごくベトベト。
川;゚ -゚)「は、走れ! 走ってドライバーの首絞めてトラック止めろ!!」
(;'A`)「無茶言うなwwwwwwwwこの惨状を見ろwwwwwwwww」
ああお終いだ。
未来のビジョンが見える。
ケーキ屋追突、地獄絵図。それで怒り狂った形相のギコ、いや鬼が現れ……
- 87: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:24:35.51 ID:fnfYmXmz0
- ババア「うがあああああああああああああ!!!」
(;'A゚)「う、うわああああああああああああああああ!!!
何故ババアがあああああああああああああああああ!!!」
暴走機関車の如く、後ろからババアが追いかけてきた。
鬼。鬼の登場である。
俺の役目は決まっている。ダッシュで逃げ切る事だ。
(;'A゚)「ぎゃあああああああああああああ!!!
ってか何故ぇぇええええぇぇぇええええぇえ!!!?」
ババア「録画してたのに――――――!!
韓流ドラマ録画してたのに――――――!!
急にビデオ狂ったああああああああああああ!!
その他の家電も狂ったあああああああああああああ!!
何事じゃあああああああああああああああああああああああ!!」
(;'A゚)「し、知るかああああああああああああ!!
こっちくんなあああああああああああああ!!」
ババア「バイト休みやがってええええええええええ!!!」
あっさりと捕まった。オワタ。
そのままジャイアントスイングの形となり、俺は振り回される。
川;゚ -゚)「まさか内藤の催眠術がまだ機能して……」
やがてブン投げられた。なんだこの展開。
- 92: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:27:33.80 ID:fnfYmXmz0
- ('A`)「ダルビッシュ!」
顔面から落下した。
痛みよりも恐怖が先行して、変な涙が流れる。すごくペドペド。
从;゚∀从「よ、よう! 合いたかったぜ」
('A`)「あ、あれ……ここは?」
从;゚∀从「トラックの真上だよ! お前何? わんぱくにも程があるだろ!
今時、空から登場って……」
なんと、瓢箪から独楽。棚から牡丹餅。ジャイアントスイングから奇跡。
妙な感動を味わい、次に自分の使命を思い出す。
('A`)「では行ってくるであります!」
从;゚∀从「お、おう!」
霊になり、鋼鉄を通り抜けて、運転席に辿り着いた。
お菓子の食べカスやらで、やたらと汚い。
問題のドライバーは、最早人の形をした、別の何かだった。
( ゚д゚ )
目の充血、噴出す涎、身体の痙攣。
酷さを物語る個所は数秒でいくつも見つかったが、
それ以上に、狂気染みたオーラが空間を支配している。
- 95: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:29:54.71 ID:fnfYmXmz0
- ('A`)「おい……やめろ」
( ゚д゚ )
ハッとしたのは自分。
幽霊の状態だった。
当然こちらの声は聞こえない。
人間に戻り、再度声をかける。
('A`)「おい……やめろ!」
( ゚д゚ )
('A`)「おい!!」
( ゚д゚ )
('A`)「……!! 畜生……俺に代われ運転!!」
無理矢理退かせようとしても、男は席と同化したかのように、ピクリとも動かない。
まるで岩か何かを動かす作業のようだった。
ハンドルを握っている分、こいつはかなりタチが悪い。
('A`)「……お前が最初に跳ね飛ばした男……笑ってたぞ!!」
( ゚д゚ )
('A`)「死んだ事に変わりはねーが! 生前と同じくアザラシみてーに笑ってたぞ!!」
- 96: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:31:45.41 ID:fnfYmXmz0
- 自分でも何を訴えているのか分からなくなってきた。
('A`)「でも……その笑顔は、もう……生きてる人間には届かないんだ!」
なんだこの台詞。
('A`)「お前が轢いてきた人、大勢! みんなこの世で、生きたかった筈なんだよ!
例えばあんたの彼女……いるか分からないけど、この際いるとしよう!
目の前で! 交通事故で死んだらどうするんだ!?
俺があんたなら発狂するね! こんな近くに居たのに守れなかったって!
あんたが轢いてきた中で、もしかしたら、あんたの親、友人、恋人、上司、部下!
いるかもしれない! でもいないかもしれない! これからあんたが轢くのかもしれ
ない! それだけは……それだけは……」
声掠れてきた。
( ゚д; )
あれ……?
(;'A`)(な、泣いてる――――――!!)
一秒後、俺も泣きそうな事態に直面した。
ケーキ屋が目の前にあるのだ。
何時の間に? ああ俺が説教垂れてる間だ。
(;'A`)「どけえええええええええ!!」
俺は男を突き飛ばした。
先程の苦戦が嘘のように、彼は軽くなっていた。
- 97: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:33:05.14 ID:fnfYmXmz0
- (;'A`)「うらあああああああああああああ!!!」
免許持ってないけど、ブレーキを力一杯踏んだ。
免許持ってないけど、ハンドルを必死に左へ切った。
で、
免許持ってないけど、衝突事故起こした。
ケーキ屋 崩壊
- 100: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:35:46.26 ID:fnfYmXmz0
- 結局ケーキ屋には衝突してしまった。が、奇跡的に従業員は裏のスペースにいた模様で、
被害は無かった。客も台風の日には、流石に来なかったようである。
よかった。よかった。
ただし表の売り場みたいな場所はメッチャクチャですけど。
まぁケガ人が出なくてよかった。よかった。
いや、よくない。
ケガ人いる。
俺、この俺。ドクオ。
気が付けば白い天井の病室なのだろうが、俺はまだ気付いていなかった。
意識の話じゃない。
もっと大切な、何かを失いつつあったのだ。
それに気付いていなかった。
その大切なものとは――――――
- 103: ◆R38CE/IWYU :2007/11/07(水) 03:36:54.12 ID:fnfYmXmz0
- 大切なもの候補1
○奪ったタクシー
( ^ω^)「あれはドクオさんの一握りの良心が働き、ちゃんとタクシー会社に
戻しました。なんでタクシーでトラックを追跡しなかったの?
と言われましても、それは非常に効率が悪いし、
作者自身タクシーで来た事を忘れていたからです」
候補2
○キックしたヤクザのその後
( ^ω^)「彼は昼は保育園、夜はゲイバーな店で働き始めました。
親も就職決まってよかったと感涙」
候補3
○投下がいつもいつも一ヶ月近く空く理由
( ^ω^)「……ほら、最近物騒じゃん」
( ^ω^)「せめて年内には終わらせるので……はい、スイマセン」
つづく
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