( ^ω^)ブーンがお迎えにあがるようです

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:08:41.30 ID:MWYPLXc10
正直な所、僕は僕の眉毛が大嫌いだった。

悲しくもないのに『なんで泣きそうなの?』なんてよく言われたり、
ただ眉尻が下がってるってだけで『情けなさそう』だとか『頼りない』だとか散々言われて、


しかも名前がショボンと来たものだ。しょんぼりのしょぼん。冗談じゃない。
はっきり言って親のネーミングセンスを疑う。疑た上でその時の精神状態を問い詰めたい。
小一時間ほど問い詰めて殴り倒したい。殴った上で倒したい。



ξ゚听)ξ「眉が気に入らない、そんな理由で私どもは働きませんよ?」
(´・ω・`)「それ位解ってますよ。確かに僕、死んだ……んですよね」



ξ゚听)ξ「話が進めやすいですね」
(´・ω・`)「そりゃどうも」


往来の真ん中で立ち話。
生きている間にやるととんだ迷惑行為だけど僕らはもうこの世のものじゃない。
言葉通り僕らを《通り過ぎていく》人たち。
皆一様に忙しそうに歩を進め、険しい顔つきで下を向く。


――見上げれば突き抜けるような青空があるのに、と僕は思う。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:09:17.37 ID:MWYPLXc10
( ^ω^)「……えーっと、春日ショボンさん」
(´・ω・`)「春日井です」
( ^ω^)「こりゃすみませんお」



ξ゚听)ξ「私たちは極楽送迎会社、VIPの者です」
(´・ω・`)「……はい」


ξ゚听)ξ「全ては顧客サービスの為 ――皆様に後悔なく浄土へ渡って頂く為に」





ξ゚听)ξ「「貴方の生涯にある『一片の悔い』を晴らしに来ました!」」(^ω^ )





黒スーツの二人組は、そう言って僕に笑いかけた。
ここから僕の《死後》は始まる。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:10:33.56 ID:MWYPLXc10




( ^ω^)ブーンがお迎えにあがるようです








*(‘‘)* 「あははははー! ちょっとちょっと、何ていうかさー!」
(´・ω・`)「……む」


*(‘‘)* 「最っ高に似合わなすぎ!」


再び爆笑。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:11:18.12 ID:MWYPLXc10
(´・ω・`)「おい。君が初のお披露目なんだからさ、
 もうちょっとほら、何て言うんだ。歯に衣着せるよーな、さぁ……」


*(‘‘)* 「んん? あー、あー。あー……ヨォクオニアイデスヨ!」

(´・ω・`)「あれ、ぜんッぜん嬉しくないのは何でだろうかな」



*(‘‘)* 「あははははははー! でも将来、店立ち上げるのが夢なんでしょ?
 なら今の内にバーテンの制服、着慣れとかなきゃですね、ショボン先輩?」


(´・ω・`)「そうなったら一番に見せ付けて美味しい酒飲ませるよ」
*(‘‘)* 「んで大笑い飛ばしちゃう訳ね!」


(´・ω・`)「……覚えとくんだな、その言葉」


客入りが相変わらずない街角の一角、ひっそりと店を構える寂れたバー。
照明の落ちた店内に有線のジャズが響いている。曲名は解らないけれど、落ち着いたいい曲だ。
ホール役から念願のバーテンになった僕に初めて掛けられた言葉は、そんな笑い声だった。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:12:15.81 ID:MWYPLXc10
隣にいる、モップを持ってるんだか使ってるんだか解らないバイトの先輩、
大学の後輩であるヘリカル沢近に向かって、僕は可能な限り眉をしかめさせる。


*(‘‘)* 「うわー! 眉尻下げるのか上げるのかどっちかにしてくださいよ」
(´・ω・`)「人の容姿に文句つけるか、君は」


*(‘‘)* 「ごめんごめん。でもさ、先輩よくそうやって愚痴るけど」
(´・ω・`)「…………」


清掃用のモップに顎を預けながら、彼女は笑う。


*(‘‘)* 「ほら、優しそうともとれるでしょ?」
(´・ω・`)「貶したあとに慰めとは……」

*(‘‘)* 「アメとムチって奴ですぁ旦那! それにね、私、その眉毛結構好きですよ?」
(´・ω・`)「そりゃどうも」


*(‘‘)* 「マジムカ! 人が意を決して言ったことさらりと流したよ!」
(´・ω・`)「そう言うのってマスターにとって大切だからね」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:13:07.71 ID:MWYPLXc10
*(‘‘)* 「……覚えとくんだね、その言葉」


(´・ω・`)「ああ、しっかりと覚えてるよ。もし店が立ったなら、君をお客さん第一号に予定しとこう」
*(‘‘)* 「光栄の至りって奴ですねー。あー今のうちに腹筋鍛えとかなきゃー」


(´・ω・`)「……まったく、あの、なあ」

ため息を一つ漏らしてから、僕はカウンターへ向かう。
買出しに出たオーナーの姿はまだなく、店内に響くのはヘリカルの笑い声とシックなジャス。


*(‘‘)* 「覚えてるから、今の内に下済み頑張れよ後輩君!」

(´・ω・`)「励ましの言葉痛み入るよ先輩君」


それが彼女と交わした最期の会話。
覚えておかれても、何をしても、もう手の届かないあの日の約束。


■■■



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:14:36.49 ID:MWYPLXc10


(´・ω・`)「やくそく、守れなかった、から」



ξ゚听)ξ「……春日さん」
(´・ω・`)「春日井です」
ξ゚听)ξ「失礼しました」



ξ゚听)ξ「貴方のその未練、晴らす事が出来ない訳ではありません。ただ、条件が」
(´・ω・`)「条件……?」

交通量の多い車道を横切りながら、僕らは会話を続ける。
僕が信号無視の車に跳ねられた場所も、ちょうどこんな風な行き交いの速度だった。
今更ながらに、死ぬってこんなもんか、と思う。


つまりは未練がましくしがみ付いている物がある場合、
人間それ以外への執着なんて簡単に無くなるってことだ。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:15:48.79 ID:MWYPLXc10


ξ゚听)ξ「貴方が貴方の姿まま会う事は到底出来ません。
 ――ですのでここは少し、道具の力を借りましょう」



ツンさんがスーツの懐からなにやら取り出してくる。
未来から来た青狸ならぬ、天国から来た黒狸。……洒落になってないか。



ξ゚听)ξ「第五課の発明品で今一番人気、身代わり君です!」



出てきたのは、古くから伝わる呪い道具。使い時は丑の刻。
つまりは、身代わり君、ならぬ――わら人形だった。


■■■



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:16:29.68 ID:MWYPLXc10
( ゚д゚ ) 「……で、この姿ですか」
ξ゚听)ξ「はい」

( ^ω^)「こっちみんn」
ξ゚听)ξ「粛清ッ!」


( ゜ω゜)「ふごぁ」
二人とも天然でやり合っているように見えるのは僕の気のせいだろうか。
……気のせいだろう。うん。


バイト先、街角の一角、ひっそりと店を構える寂れたバーの扉の前。
その時間帯ならオーナーは買出しに出ているハズだ。


( ゚д゚ ) 「……確かに、オーナーの姿なら約束、果たせます」
ξ゚听)ξ「はい。けれど、」
( ゚д゚ ) 「解ってますよ。オーナーと鉢合わせにならない、僕だという事は名乗らない、ですね?」


ξ゚听)ξ「その通りです。混乱を招くような事だけは、何としても避けて頂きたい」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:16:52.13 ID:MWYPLXc10

( ゚д゚ ) 「……解りました」


返答し、僕は扉のドアノブに触れる。もう打っていないはずの心臓が鼓動していた。

君は覚えているだろうか?
僕は果たせるのだろうか?

色々な思いがミキサーにかけられてぐちゃぐちゃになって行く。
オーナーの顔だから眉尻は少し上がり調子なハズなのに、
なぜか頭の中の鏡に写ってるのは情けない面した僕だった。




――いろんなごちゃごちゃはここに置いといて、いまあの日の約束を果たしに行くよ。



カラン、と乾いた音を立てる入り口の鐘。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:17:33.56 ID:MWYPLXc10

*(‘‘)* 「あ、すみません今オーナーがいないんで……」


( ゚д゚ ) 「…………」
*(‘‘)* 「って、オーナー。忘れ物ですか?」
( ゚д゚ ) 「あ、い、いや――――」

*(‘‘)* 「何突っ立ってるんですか」

耳に届くのは、有線のジャズ。ゆったりとした曲調に、ピアノが乗せられていて――
あの日、あの時、あの約束を交わした時に掛かっていたものと同じではなかったけれど、
そんな出来すぎたお話は僕の周りにはない。けれども、


( ゚д゚ ) 「あ、あ、の…………」

*(‘‘)* 「はい?」


彼女がいる。
この店の制服を着て、清掃用のモップをもって、
あの日、あの時、あの約束を交わした時のように、変わらず、彼女がいる。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:18:16.71 ID:MWYPLXc10
゚д゚ ) 「……酒、酒飲まないか?」
*(‘‘)* 「今私バイト中ですけど。つーか酒飲むなーって言ったのオーナーじゃないd」

(; ゚д゚ ) 「いや、いいんだ! 許す、許すから」


今日だけだから。今だけだから。と僕は願う。
それでも彼女と目を合わせられなくて。目を見て会話は出来なくて。

――つまりは多分そうしたら、心から色々な思いがあふれ出てしまって制御なんて利かない。


バーテンと言う職種には自制心が何よりも必要だと言うのに、情けない。
きっと大笑いかまされる理由はそう言う所にもあったんだろうな。と、死んでから自分を冷静に分析。


*(‘‘)* 「解りました、お言葉に甘えましょう。つー訳で、さっさと入ってくださいよ」
(; ゚д゚ )「ほ、本当かい!?」


*(‘‘)* 「本当です。それにしてもマスター、何か今日変じゃありません?」
( ゚д゚ )「い、いや、そんな事ない……んだぜ」


*(‘‘)* 「……まあいいや。あー、たっかいの空けていいですか?」
( ゚д゚ )「いや、無理。バーボンで我慢なさい」


*(‘‘)* 「……むー」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:19:07.69 ID:MWYPLXc10
頬を膨らませる彼女を見やりながら、僕はカウンターにくぐって行く。
何回も、何千回も『もし僕がここにたったのなら』なんて仮定で働く場面を想像してた場所。

そこに今僕が立っている。
それから、初めてのお客さんとして、彼女に酒を出す。


懇々と湧き上がってくる何かは、胸の中に暖かい感情をただ降りしきらせる。
それを感じながら、僕はグラスとバーボンの瓶を手に取った。


*(‘‘)* 「ねぇ、マスター。私さぁ、春日井さんと約束してたんですよー」
( ゚д゚ ) 「…………」

*(‘‘)* 「お客さん一号になってやるーとか、それを大笑いしてやるーとか」
( ゚д゚ ) 「…………」


カウンターに座り、向き合うヘリカルが少しだけうつむく。


*(‘‘)* 「なのに、なのにあいつ、交通事故でぽっくりーとか、信じられます!?」
( ゚д゚ ) 「…………む」

バン、と強く拳で打たれたカウンターの木。
それに押されて身引きする僕。

*(‘‘)* 「あー、すみません。マスターにこんな話」
( ゚д゚ ) 「い、いや……」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:19:30.89 ID:MWYPLXc10
コトン、とそこに置く一杯のバーボン。
響くジャズの音色と、クーラーの静かな送風音。

( ゚д゚ ) 「なあ、僕は、いいマスターになったと思うか?」
*(‘‘)*「……何言ってんですか? マスターって、もうマスターでしょ」

(; ゚д゚ ) 「――あ、な、ああ、まあ、そうだな!」

危ない。全部を陥没させる墓穴掘る所だった。
あわてて頷き、そしてまた僕はカウンターから出て行く。

*(‘‘)*「……どうしたんですか?」
( ゚д゚ ) 「忘れ物思い出した。沢近君、店番頼む」
*(‘‘)*「まあまた突拍子の無いことする人ですねアンタ」


( ゚д゚ ) 「――正確には、取りにきたんだけど、ね」


*(‘‘)*「何か言いました?」
( ゚д゚ ) 「別に何も。それじゃ」


扉の前に立ちドアノブに手をかける。
五分未満の逢瀬。許された時間はそれぐらいで、
つまりは神様は予想以上にせっかちだって事。やっきりこいちゃうね、まったく。

扉に姿を消す間際、



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:21:03.22 ID:MWYPLXc10



*(‘‘)*「なった、と思いますよ。情けなくて、頼りなくて、それで、優しいマスターに」





彼女がそう言ったかどうかは、もう確かめようのない事だけれど。
カラン、と乾いた金属音がなる。そうして扉が閉まる。


――――やくそく、果したからな。


小さく、本当に小さい声で扉向うに僕は声を掛ける。
胸を突き上げる慟哭に、同調したかのように聞こえてくる扉向こうからの微かな嗚咽。


(´-ω-`)「わが生涯に一片の悔いなし、か……」


目を瞑り、僕は小さく笑う。
つまりは、いい人生だった、て胸を張って言えるって事。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:21:36.62 ID:MWYPLXc10
■■■


(´・ω・`)「って言うのが、僕のエピソード」


グラスを拭きながら、カウンターにいる烏合の衆に目を配らせる。


从 ゚∀从「おー、何て言うか韓流? いや、純愛的な感じか?」

(; ^ω^)「うわ古っ!」

从 ゚∀从「うるせーバーカ」

(;; ^ω^)「いてて、いてぇですお!!」


(´・ω・`)「死後の世界でも商売ができるって聞いて安心したよ。ま、アイツが来るの、のんびりと待つことにする」
ξ゚听)ξ「……それこそ《天職》だもんね、アンタ」
(´・ω・`)「天国の職で天職ね。ツン君、それ洒落かい?」
ξ#゚听)ξ「るっさい!」


暖かい笑いに包まれるバーボンハウス。


僕のおすすめ?  ――勿論、バーボンだよ。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 21:22:47.88 ID:MWYPLXc10
NO.147*****1
氏名 春日井 ショボン
性別 男
享年 24
死因  脳震盪

未練 好きだった彼女にお酒を出したい


管轄 第三課
担当 ツンデレ (補佐 ブーン)



第二話 終わり
多分ヘリカルは二人称が「オーナー」から「マスター」に変わった時点で何かしら勘付てると思います。
はい、つー訳ですみません待たせました。第三話の投下行きます。



戻る第三話