( ^Д^)と(*゚∀゚)は魔界のならず者のようです

11: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:08 hJuavnb7O

第一話 『時を経て、再び』



主に人間達が暮らしている、広大なる世界(ここでは現世と呼ぶ)


その現世のとある地に位置する大都市・ニューVIP。

百年前から既に大都市であったこの街は現在、さらなる発展を遂げていた。
高層ビルが立ち並び、電力で作動する車らしきモノが道路を行き交っている。
まさに時代の最先端を絵に描いたような都市となっていた。



12: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:11 hJuavnb7O

そのニューVIPにある、とある大きなバー。
多くの人々が一日の終わりに集う、活気に満ち溢れた憩いの場。
だが、そんな都会のオアシスとも言えるバーの地下倉庫。
店主や店員の同行がなければ入ることすら許されないはずの空間に、二つの影があった。

( ^Д^)「んー、これなんか美味そうだな…」

ワインの入った瓶を眺めているそれは古ぼけた宝箱から上半身だけを出した、何とも奇妙な存在。
その身体は薄い茶色をしており、どう見ても人間ではなかった。

古い道具や器物などに魂が宿ったものを付喪神というが、彼は宝箱に魂を宿した妖怪であり、名をタカラといった。
彼は、人間が多く住むこの現世とは別の世界―――魔界の住人である。



13: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:17 hJuavnb7O

さておき、彼はたった今現世に顔を出してこの地下倉庫に忍び込んだ挙げ句、ワインを頂戴しようとしていた。
そう、俗に言う泥棒行為である。

そしてそれを白い目で見る存在もあった。

(#゚;;-゚)「…マダー?」

古ぼけた箱から上半身を出した……
要はタカラと大体同じ姿をした存在で、名をでぃといった。
たまには一緒に遊びに行きたいということで今回タカラと共に現世に来ている、所謂タカラのガールフレンドのような存在である。

しかし顔や身体、その身を入れている箱は何故か傷だらけだ。



14: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:21 hJuavnb7O

実は知り合った当初、彼女にこれらの傷はなかったのだが、ある時タカラが現世に行ったきり、ずっと戻ってこないことがあった。
そして約百五十年という長い時を経て再会した時、既にでぃはこのような姿となっていた。
本人はあまり気にしていないようだが、タカラが現世にいた間に彼女の身に何が起こったのかは打ち明けようとしない。

そんな理由もあって、タカラは長期間魔界を離れるのをやめた。

( ^Д^)「まあ待ってくれ、あと少しで決めるからよ」

申し訳なさそうに告げるタカラに対し、でぃはただただ急かす。

(#゚;;-゚)「…早くしないと見つかっちゃうよ?
     …これって人間でいう、立派な犯罪行為だよ?」
( ^Д^)「いいんだよ! 俺達に罪もクソもねえ!」
(#゚;;-゚)「(また、道理のないことを…)」



15: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:24 hJuavnb7O

酒やワインのことになると普段以上に気が高ぶるタカラ。

でぃは溜め息をつく。

(#゚;;-゚)「…酒なんて魔界の井戸で貰えばいいじゃん…」
( ^Д^)「確かにあそこの酒は美味い。
     けどよ、人間の酒には人間の酒にしかない良さってモンがあるんだよ」

瓶を見比べながら力説。
わかる者にはわかる、というものなのか。

やがてワイン入りの瓶を一本手に取り

( ^Д^)「…よし、これにしよう!」

その時、入口のドアの鍵が開く音がした。
それはつまり、誰かが来たということであり―――

(#゚;;-゚)「…! 誰か来る」
(;^Д^)「やべっ…隠れろ!」

両者、自らの身体を各々の箱へ引っ込める。



16: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:32 hJuavnb7O

それとほぼ同時に人が入ってきた。

( <●><●>)「……」

大きな目をした店員らしき男は倉庫内を見渡し

( <●><●>)「…その箱が怪しいのはわかってます」

何と勘の鋭いことだろうか、二つ並んだ箱に真っ直ぐ近付いていく。

( <●><●>)「これは猫か何かが隠れているに決まってます」

逃がさないぞ、といった様子で一つの方の蓋を思いっきり開ける。
だが内部には猫などおらず、吸い込まれそうになるようなな暗闇が広がっていた。

( <●><●>)「…?」



17: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:39 hJuavnb7O

不思議に思ったその時。

「…開けたの…だあれ…?」
( <●><●>)「!?」

男が慌てて辺りを見回すが、誰もいない。
それは箱の中からのものだった。

(#゚;;-゚)「…こんばんわぁ…」

相手に恐怖心を植え付けるような薄い声と共に、そっと箱内の闇からでぃが顔を出した。
そして、でぃと店員の顔がはち合わせる。
一瞬の沈黙の後

(; <●><●>)「ギャー!?」

目の前にある箱の中から傷だらけの、得体の知れぬ何かが突如現れたのだから堪らない。

(; <●><●>)「ゾンビー!!」

…と叫び声をあげた後、男は気絶した。

(#゚;;-゚)「失礼な人…
     …そりゃ全身傷だらけだけど、別に腐ってないし」



18: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 18:53 hJuavnb7O

やがて叫び声に気付いたタカラが顔を出す。

( ^Д^)「おう…サンキューな」
(#゚;;-゚)「…タカラが早くしないからこんなことに…」
( ^Д^)「わ、悪かったよ。まあ気にすんな…
     …やっぱお前の人間を驚かすセンスは天下一品ってレベルじゃねえな」
(#゚;;-゚)「…一旦その上半身を引き裂いてあげようか…?」
(;^Д^)「すいません許してくださいハイ」

言いながら、そばにあったコルク抜きで栓を開け、そのまま喇叭飲み。
少し飲んだところで止め、でぃの方に目を向ける。

( ^Д^)「うめぇwwwww百年前にあいつと飲んだのが懐かしいな…
     お前も飲むか?」
(#゚;;-゚)「やだ…それ喇叭飲みしたやつだし…」
( ^Д^)「おいおい、俺とお前の仲じゃないか?」

…この一言で場の空気が凍り付いたことは言うまでもない。

( ^Д^)「あーもうわかったよ、俺がいっつも飲んでる場所に連れてってやるから。すっごくいい眺めだぞ!
     …それで機嫌なおしてくれるか?」
(#゚;;-゚)「…うん」

でぃはやはり呆れたように、しかし笑顔で返し、タカラは一安心。


( ^Д^)「じゃ、早速行こうか」
(#゚;;-゚)「…おk、案内お願い」
( ^Д^)「おうよ!」

タカラとでぃは自らの腕の爪で空を裂き、そこに現れた切れ目に飛び込んでいく。

後に残るは、気絶した男だけであった。



19: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 19:02 hJuavnb7O

それから少し前――


先程までタカラ達がいたバーの近辺。
そこには十階や二十階というレベルではないビルが建っている。

そんな、五十階はありそうな超高層ビルの屋上。
青い某人型ロボットでも佇んでいそうな雰囲気だが、今ここに現れたのはごく普通の男。

\(^o^)/「今日の仕事オワタ」

彼はこのビルで働いているの社員。
といっても、屋上から身を投げようとしている訳ではない。

\(^o^)/「いい眺めだ」

一日の仕事を終え、屋上からの壮大な眺めを満喫しに来たのだ。
風は心地よく吹き、都会のネオンは明るく綺麗で、しかも辺りに人は誰もいない。
まさに自分だけの空間。

この独占したような感じこそが、彼なりに仕事の後の楽しみだった。

\(^o^)/「俺の快感ハジマタ…そしてこの世の全ては俺のモノ」

…少し変な方向へ向かっているようだが。



20: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 19:51 hJuavnb7O

だがその時、ふと違和感を感じる。
自分以外にも誰かがいるような、そんな感覚に襲われたのだ。

\(^o^)/「…?」

それはすぐに明らかとなった。
先程まで誰もいなかったはずである屋上の端に、何者かがいるのだ。
この高さをものともせずといった様子で、何かを探すかのように辺りを見下ろしている。

\(^o^)/「(くっそ…誰だよ)」

自分だけの空間に水を差され、不満を抱きつつも男はとりあえず声をかけてみる。

\(^o^)/「…そこのお前、何してる?」
(*゚∀゚)「アヒャ?」

相手は振り返る。
見たところ、二十代前半の若く美しい女性。
夜の闇に身を溶け込ませるような黒いマントを纏い、その下には紺色のスーツ。
足には黒い靴を履いており、どう見てもここの社員ではない。
さらに怪しいことに、彼女は右手にワイングラスのようなモノを持ち
それには何やら赤い液体が入っているではないか。



21: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 19:56 hJuavnb7O

(*゚∀゚)「ねぇ、これ飲んでみない?」

グラスを差し出してきた。
その妙に馴れ馴れしい態度に戸惑いながらも、男は恐る恐るグラスを手に取って匂いを嗅ぐ。

\(^o^)/「…臭いな。何だこれは」
(*゚∀゚)「アンタの身体の中にもあるモノです」
\(;^o^)/「おい……それって」

思わず足が竦む。
人間の体内にあるモノで、且つ赤い液体というと最早アレしか―――

(*゚∀゚)「んー、アンタの口には合わないみたいだね…魔物の血は!」



22: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:06 hJuavnb7O

何なんだこいつは、と男は思った。

いきなり生臭い液体を見せてきて、しかもそれを何かの血だとか楽しげに言い放つなど、とても人間が成すことではない。

そして当の本人は今、その赤い液体を美味しそうに少しずつ飲んでいる!

\(;^o^)/「お、お前一体何者だ!?」
(*゚∀゚)「アヒャヒャ、知りたけりゃ教えてあげるよ!」

彼女はやはり嬉々とした様子で語り始めた。

(*゚∀゚)「私は年をとらないの…アヒャヒャ。
     誰よりも残忍で、けど誰よりもチャーミングで…そしていずれは誰よりも強く―――」

一歩前に踏み出し、そのまま宣言。

(*゚∀゚)「…私の名は『つー』。
     プライド高き魔界のアイドルファイターなのだよ!」



23: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:08 hJuavnb7O

\(;^o^)/「……」

あまりのインパクトの強さに何も言えない男であったが、やがて我に返る。

\(^o^)/「…そうやって演技力を試したいのなら他でやってくれ。
       俺は今疲れて――」

きっと悪い夢でもみているんだ、そうに違いない。
だがそう思いたかった男の言葉も空しく

(*゚∀゚)「誰に向かって口を利いている!
     数十、数百万もの相手を切り刻んできた百戦錬磨の死神だぞ私は!」

全く会話が成立しない。

\(#^o^)/「訳のわからないことを言うな!
       警察に通報するぞ! 年齢は幾つだ?」
(*゚∀゚)「私は確か…三百歳くらいかな?」
\(#^o^)/「ふざけてるんじゃない!」



24: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:13 hJuavnb7O

楽しみを邪魔されたことも男に拍車をかける。
彼が次にとった行動は

\(#^o^)/「つ…次に変なこと言ってみろ、撃つぞ」

彼は護身用の拳銃を取り出し、銃口をつーへと向けた。
先程までのやりとりの末、自分の身も危険と判断したのだ。

(*゚∀゚)「アヒャ! 私を殺るっての?」
\(^o^)/「嫌なら大人しく立ち去れ…」

ここまで脅せば流石に引くだろう。
そう確信していたのだが―――

(*゚∀゚)「うん、いつでもどうぞ♪」
\(#^o^)/「!」

彼女は男に手招きしている。

こいつは気が狂っている。やばい。放っておくと自分が殺される。
瞬時にそう判断した男は、即座に発砲。
だが

(*゚∀゚)「はい、残念賞ー」
\(;^o^)/「な、何!?」

銃弾が命中していない。
確かにつーに狙いを定めて撃ったはずが、彼女は傷一つ負っていない。

\(^o^)/「ッ!」

さらに発砲するが、銃弾はつーをすり抜けるような形で空しく宙を駆けていくだけだ。



25: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:19 hJuavnb7O

\(;^o^)/「お前、さては本当に――」

先程まで怒り狂っていた男だが、今では半ば逃げ腰である。
対し、男を逃げ腰にした張本人であるつーは

(*゚∀゚)「言ったじゃん、私は死神だって。
     だからそんな子供騙しじゃ私はやられないし、その気になればアンタの身体から魂引っこ抜いてあの世に持ってくことだって――」

そこまで言ったとき、端の方から別の声が聞こえてくる。

( ^Д^)「…ここだ。この夜景を眺めながら飲むワインは最高だぞ」
(#゚;;-゚)「…綺麗」

先程までバーの地下倉庫にいたタカラとでぃだった。

このビルの屋上は、タカラがバーから失敬したワインを味わっている空間でもあったのだ。



26: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:25 hJuavnb7O

(*゚∀゚)「あ…あいつらだ。探す手間省けたよ!」
\(;^o^)/「な、何なんだよお前等!?」

ますます奇妙な連中が出てきた。
これ以上ここにいては、文字通り人生が終わってしまうかもしれない。
男はつーがタカラ達の方を向いている隙に、韋駄天走りで逃げていった。

(*゚∀゚)「あの人間根性ないな…ってそれどころじゃないか」

つーは仲良くワインを飲んでいるタカラ達を見据えつつ

(*゚∀゚)「やっと見つけたぞバカップル」
( ^Д^)「あ? 誰だお前…って、つーじゃねえか!」
(#゚;;-゚)「…しかもバカップル…か」



27: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:31 hJuavnb7O

つーは遥か昔からタカラと悪友関係にある。
本人は自分を死神と称しているが、彼女の詳しいことについては本人を除いて誰一人として知らず、謎に包まれた部分も多い。
最も、魔界の住人の大抵は他の住人から見て何かしら謎な点があるため、それはそれで普通ではあるのだが。

ともあれ、見た目や性格のこともあって魔界でも一際目立つ存在である。

( ^Д^)「で、何でお前がここにいるんだよ?」
(*゚∀゚)「ちょっとアンタに用があってね、探そうと思ってこっちに来たんだよ」
( ^Д^)「何だよその用ってのは」

対し、つーは顔をしかめて要求をする。

(*゚∀゚)「その前にその瓶を捨てろ。臭くて近寄れない」
( ^Д^)「しゃーねえ…でぃ、ちょっとこれ持っててくれ」
(#゚;;-゚)「…あいよ」



28: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:33 hJuavnb7O

タカラは飲み欠けのワインの瓶をでぃに手渡し、それでも距離をとったままつーに声をかける。

( ^Д^)「こっちからも言わせてもらう、お前もそのグラスの中身を捨てろ」
(*゚∀゚)「…やだよ。でぃ、後で飲むからこれも持っててよ」
(#゚;;-゚)「…両手塞がった」

タカラは酒、つーは不気味なことに血が好物なのだが
逆にタカラは血、つーは酒が苦手。
両者ともその匂いを嗅ぐだけで参ってしまうため、喧嘩になることもしばしばである。

( ^Д^)「…さて、用とやらを聞かせてもらおうか」
(*゚∀゚)「…まあ実を言うと私じゃないんだけどね」

その表情は明るい。
何か良い知らせなのだろうか。



29: ◆wAHFcbB0FI :07/29(日) 20:37 hJuavnb7O

( ^Д^)「何勿体ぶってやがる、早くしろ」
(*゚∀゚)「じゃあ簡単に言うよ。
     魔王さんがすぐに戻って来いってさ!」
( ^Д^)「魔王さん、が?」
(#゚;;-゚)「…?」

魔王とは名の通り、強大な魔の力を持つ王であり、魔界の支配者でもある。

その魔王からの唐突な帰還命令。
タカラだけでなく、そばにいるでぃも話に耳を傾ける。

( ^Д^)「何かあったのか?」
(#゚;;-゚)「……」

タカラの問いかけに対し、つーは嬉しくて仕方ないといった様子で言った。

(*゚∀゚)「始まるんだよ…アンタの知らない『あの』大戦がね!」



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